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2017年12月
・バンドソウブレード選び
・イケアのオイル

◆ バンドソウブレード選び ◆

地味な話ですが、教室で使用してきたバンドソウブレードについて書きます。楽しむための木工教室であり、安全重視の観点から下記のようにバンドソウを多用しています。ですので、作業性や効率を重視するプロの場合には当てはまらないかもしれません。

ウチでは生徒さんが安全にコントロールできない可能性を考慮し、テーブルソウでの縦挽きを禁止しています。このためバンドソウを縦方向の切断に多用します。幅10cm以上の板の挽き割りは日立のCB75Fで私が行いますので、リップフェンスを使った厚さ10cm以下の材の直線切断が主な加工となります。バンドソウ本体は古い米国製デルタ14インチです。

・ブレード幅、TPI(山/インチ)
入手の容易さや今までの経験から、1/2インチ幅、3TPIのブレードしか使っていません。日本製の刃ですと13mm幅ということになります。過去には6mm幅、9mm幅も使ったことがあるのですが、6mm幅は教室の目的には不適で、9mmは良く切れて使いやすいですが、破断し易かったという印象です。

・材質
超硬チップのついたLenox製ブレードはすばらしい切れ味で「これで決まり」という感じですが、2万円ほどしますので、大事に私専用にとってあります。というのは、切れ味は長持ちするのですが、教室では無理な使い方になることもあり、ほとんど新品の状態でブレードが切れてしまったことがあるからです。硬くて刃を傷めやすい南洋材などはこれでないと切断できません。以前購入した時は、静岡の冷凍マグロ切断用のバンドソーブレード販売会社から購入したのですが、今も入手可能かどうかわかりません。

カーボンスチールブレードは長い間使ってきました。Lenoxや日本のフナソウ製ブレードですが、最近ブレードの振動が多くなって、切断面の荒れが目立つようになりました。刃の振動(バイブレーション)は解決が難しいです。卒業生の方でオフさんからバンドソウを買われた方にお分けしたフナソウ製ブレードはとても良かったそうなので、刃の問題ではなく、ウチの古いバンドソウの方に問題があるかもしれません。

カーボンブレードは一本2000円少々で入手できますので、気軽に使うことができます。ただ、溶接の仕方でしょうか、振動の出やすい刃に当たることがあり、当たりはずれが大きいように思います。私は走行が安定したカーボンブレードをグラインダーで研磨しながら、長く使ってきました。

最近は前々から買ってあって使っていなかったWoodSlicerを使っています。FWW誌などの評価でもいつも上位にある挽き割り専用の刃です。これが良く切れる。問題点としては、アサリが少なめなので曲線が苦手なことですが、これは仕方ないですね。カーボンとマンガンの入ったスチール製で、通常のカーボンスチールより二倍長持ちすると説明されています。値段は通常のカーボンスチール製の2倍くらいしますが、それ以上に価値があるように思います。直線切断メインならこれが一番良さそうです。

以上、ご参考で。他にも評判のいい刃はあるようですので、おすすめがありましたら、教えてください。

◆ イケアのオイル ◆

工房から車で30分ほどの所にイケアができました。ようやく落ち着いてきたようなので、先日行ってきました。多数のお客に疲れながら、グルっと回って、私が買ったのは、99円LED電球、980円のLEDフレキシブルクリップスタンド、そしてイケアの木部用メンテナンスオイル750ml缶、約1200円です。LED電球は早速工房の蛍光灯電球と交換し、重宝に使っています。LEDスタンドはベッドでの読書用に使いました。

そしてオイルですが、買う前は「普通の亜麻仁油に乾燥剤を入れたものだろう」くらいに思っていたのですが、開けてビックリです。

なんと白色でした。そして水性エマルジョンタイプです。原料表示には水、リンシードオイル、メチルセルロース、無鉛乾燥剤、植物性乳化剤と書かれていました。

北欧では白色顔料を混ぜたオイルフィニッシュがよく使われます。亜麻仁油の黄変を和らげる目的で、白色顔料を混入するわけです。しかしイケアのオイルは、乾燥剤の入った亜麻仁油を乳化剤で水に分散させ、その水にメチルセルロースを入れてあり、塗布後水が蒸発し、オイルが乾燥する過程でメチルセルロースも定着するという考え方だと思います。

実際に木片に塗ってみましたが、塗りやすく、匂いも少なく、他の白色顔料入りオイルのようなベッタリした白色ではなく透明に近い白色で、大変使い良く、美しいと感じました。いわゆる北欧テイストの仕上がりです。この塗料750mlが1200円ほどで買えるのですから、これには参りました。メチルセルロースは製紙で使われたり、時には食品にも使われたりするようですから、安全性もほとんど問題はないようです。ただし、乾燥剤が入っていますので、食器などには使えません。

長年亜麻仁油や桐油の通販をしている私ですが、 北欧風の白木の家具を仕上げるなら、イケアのオイルを選びます(汗)。説明書を読まなくても、乾燥は24時間、一缶で10〜12平米塗れ、水で刷毛が洗えるとわかります。いやはや、イケア恐ろしい。

 


2017年11月
・第17回木工教室作品展速報

◆ 第17回木工教室作品展速報 ◆

二週連続の台風22号に見舞われましたが、無事作品展を終えることができました。足元の悪い中見に来て下さった皆様、作品展開催に協力していただいた関係者の皆さま、本当にありがとうございました。また来年も開催する予定ですので、どうぞよろしくお願いします。

まだ片付けも終わっていませんが、とりあえず会場のスナップ写真を掲載しました。今回は台風で来ることができなかった方も多かったようですので、写真を多めにしました。なお、各作品は来年1月度のHPで公開予定です。

 

2017年10月
・第17回木工教室作品展
・タブテイルその2

今年も下記のとおり木工教室作品展を開催します。純粋に自分のために作った作品には売物とは違う味わいや楽しさがあります。お近くに来られる機会がありましたらぜひ見に来てください。

第17回木工教室作品展

10月27日(金)13時〜17時30分
10月28日(土)10時〜17時30分
10月29日(日)10時〜17時
名古屋市守山区平池東、宮本家具工房にて

◆ ダブテイルその2 ◆

誰でも50歳頃からいわゆる老眼になってきますので、ケヒキなどの細い線が見えにくくなってきます。タブテイルの加工でもやはり視力は大切ですので、さまざまな工夫が必要になります。例えば、ヘッドランプを使う、白い修正テープを貼ってその上からケヒキを入れる、ケヒキの線に横から光を当てる、等々。「見えません」と諦めるのではなく、見えるように工夫することが大切です。

さて、テイルの加工が終わったら、その位置をピンを作る相手の材に正確に写します。この方法にもいろいろなやり方があります。欧米の木工書では、小さなナイフ、日本ではシラガキに相当する刃物や、千枚通しのように尖った硬い鉄の針などで写し取るようですが、薄いノミがあれば、それを使うのが便利で正確なように思います。ただし、テイルが正しく加工されていないと、例えば切断面が膨れていたりするとピンが小さくなってしまいます。

相手の板を作業台に垂直に固定します。反りがあれば、写真のように角材を添えたりして真っ平にします。そこに加工が終わったテイルをピッタリ置いて固定します。これくらいピンが細いと、写す刃物の刃先の位置を目で確認するのは困難なので、自分の腕を信じ、指の感触をたよりに、細いノミの裏をテイルの内側に正確に添わせて玄翁で軽く叩き、位置を写していきます。両手を使いますので、写している時の写真がありません。

木口にノミ先による凹みが入ります。見にくい場合、横から光を当てれば見やすくなります。この線をたよりに正確に板の外側にスコヤを使って描くのですが、0.3mmのシャープペンシルなら、この凹みに芯が入るので、シラガキのように位置を正確にとることができます。シラガキやニードルを使ってもよいですが、外側の見える場所なので、傷が入らない分鉛筆の方がよいと思います。このあたりのコツは文章や写真では表現しにくいので、試行錯誤してみてください。

この時の状態を模式図で書いてみました。もしもこの凹みに鋸を入れて切るなら、両側から鋸の切れ幅の2倍もピンは細くなってしまいます。ですから、この線を絶対に残すように鋸を入れる必要があります。海外の木工書でも、ここの鋸入れについては「線の書き取り側に入れる」や「決して線を消さないように」くらいの表現です。

確実に線の外側を切り込む方法を考えてみます。例えば模式図の上にあるような形のジグを作れば、ノミ跡に尖った部分を差し込み、このジグに添わせるように鋸を入れれば、ピッタリ加工できるはずです。ですが今回は簡便に80度のジグとノミを使って次のようにして鋸を入れました。この場合は片刃であるノミの形状が問題となりますが、それを補正するようにジグを使って切り込んでいます。要は残すピン側に当て木を置いて、それに沿って切り込みということです。

その後、私は内側から欠き取っています。図のように慎重に縦と斜めからノミを入れます。裏返した時に折れやすくならないように端3mmほどは残して斜めに欠き取っていきます。内側の欠き取り部は上が狭くなっていることもあり、木口からノミを入れない方がいいです。

斜めに掘るのが苦手な方は、下写真のように垂直の鋸を入れ、真っ直ぐに欠き取って後、斜めに仕上げる方法もあります。線が紛らわしくなるので、私は斜めのままで掘る方が好みです。

内側から半分くらいまで掘りますが、最低3mmくらい掘れていれば、裏返して表から掘っても問題ありません。というのは、こちらの方が効率よく掘り進めることができるからです。写真のように木口からノミを入れて、上に跳ね上げるようにしてドンドン掘ります。

ピンができたら、根本のゴミやふくらみなどを削り取り、仕上げます。そして実際に相手の板に当てて調整をします。タブテイルは、木の種類にもよりますが、半分程度挿入でき、その後も無理なく入っていきそうであれば、仮組をせずに本組します。ただし、慣れない内は、8割程度まで入れてみた方がよいと思います。仮組で最後まで入れるのは端が欠けたりするのでさけますが、練習では完全に入れてみて密着度をみます。

接着剤を入れての本組は、時間との競争です。写真はありませんが、「組む!」と決めたら、自分の腕を信じて、テキパキと接着剤を塗布し、無理がかからないように注意しながら、叩いたり、クランプをかけたりして、組んでいきます。今回、ピンの長さが板の厚みよりほんのわずかだけ出るようにケヒキを入れましたので、当て物なしで最後まで入れることができました。段差が少しある場合、やわらかい木や革などを挟んでクランプをしたりします。段差が大きい場合は、ピン形状に応じた当て木を作って準備します。

まあ私の腕だとこんなものかと思います。タモくらいの硬さの木ですと、少し強引に組み上げることもあります。その場合、両端のハーフピンのところが割れやすいのでクランプをかけるなど注意します。

写真では見えませんが両端の留めをしっかりつけたいために残し気味にしたことが原因で留め部分が少しつっぱってしまい、一番端のピンが少し浮いてしまいました。ここは薄板を入れてスキマを埋めています。

テイルを先に作ってみて、ピンファーストとテイルファーストどちらが良いかというと、やはりどちらでもいいように思います。欧州ではピンファーストが主流とのことですが、その理由はピンが細いからではないかと思います。細くて狭いテール、そこに刃物を入れて写し取るのはずれてないか心配になります。一方、テイルファーストでは使い慣れたノミの裏で相手にマークできる点はメリットです。また抽斗側板など複数枚をまとめてカットするのにも有利です。

というわけで、私の場合、手加工の味を生かした細いピンのタブテイルはピンファースト、ある程度ピンに太さがあって多数の板を同じように加工する場合などではテイルファーストという選択になりそうです。この場合、傾斜可能な丸鋸盤機械が使えるなら、テイルをまとめて切り込み加工、そしてそれを相手に写す方法がよいのではないかと思っています。

非常に細かい、狭い話題でしたが、お役に立てば幸いです。

追記:
友人木工家の”みしょう”さんが、私のタブテイルの記事を見て練習されたことをブログにアップされています。私より上手です(^^;。

天秤差しの練習

 

2017年9月
・ダブテイル
・充電式ペンインパクドライバ

◆ タブテイル ◆

今月と来月、タブテイルの加工について書いてみます。”ダブテイル”は日本語では「アリ組」とか「天秤差し」などと呼ばれる組手のことです。言葉の定義や使い方にあまりコダワリはないのですが、欧米のやり方を手本にしてますので、ここではタブテイルと海外の木工で使われる言葉を使いました。

欧米では手加工によるダブテイルは確かな技術を持った職人さんが作った証として評価されます。日本ではそれを包んで隠す奥ゆかしい指物技法もよく使われますが、海外の木工では職人さんの誇りを表しているようです。たしかに機械では加工できない細身のタブテイルは美しく、私は好きです。またアラレ組などに比べ、確実に直角が決まるところはいいですね。先月は教室が夏休みでもあり、久々板組の箱物に挑戦してみました。作品展までにできるかどうかわかりませんが、ゆっくり楽しみながらその加工を紹介してみたいと思います。仕事としての木工ではこんな悠長なことはやってられません。”趣味の木工こそダブテイル向き”と言えます。今回の内容はかなり高度で経験のない方には理解しにくいかもしれません。

タブテイルの作り方は、差す方を先に作る「ピンファースト」、差される方を先に作る「テイルファースト」、2つの方法があり、どちらにも長短があって、あくまで個人の好みです。私はずっとピンファーストでやってきましたので、今回はわざと慣れないテイルファーストで加工してみました。

まずは、作る組手の原寸図をCAD(LibreCAD)で書きました。もちろん手書きでもかまいません。対称なので半分だけです。欧米のタブテイルでは両端はハーフピンと言って、外側が斜めになっていないピンを配置します。今回は端の13mmは留めにしますので、そこのところがハーフピンになっています。各ピンのセンターラインを正確に幅をそろえた板の両側からストッパーをつけた定規やケガキゲージを使って鉛筆でマークしていきました。今回は浮きやすい端近くは間隔を狭く、安定している中央部に行くほど広いめにタブテイルを配置しました。タブテイルの斜めの角度は1:8とか言われますが、私は80度です。急になればなるほど端が欠けやすくなります。

参考までに別の方法も紹介しておきます。タブテイルのセンターラインの延長上に、例えば板の厚みだけ離れた線を引き、その交点を頂点として三角形を描けば、短辺:長辺=1:2のタブテイルが描けることになります。平行な線の位置を変えることで、細いものから太いものまで、タブテイルを墨付けすることができます(図面はありませんが、想像してみてください)。

最初にタブテイルの高さ=板の厚みをケヒキに設定し、双方の板の木口からケヒキを表裏に入れます。次に原寸図を元に入れたセンターラインを中心にして台形の形を入れていきます。外側の見える面だけです。私は写真のような80度の二等辺三角形の窓をあけた手製のガイド付き定規を使っています。ガイドの木片を動かせば台形の細さが調整できます。この形をどうするかは悩むところです。ほとんど三角形に近いものから、広い台形までありますが、短辺と長辺の比が1:3が美しいという意見もあります。あくまで好みですが、細くなるほどノミが入らず、鋸を正確に入れることができる技量が求められます。なお、多少寸法や角度にバラツキがあっても、手加工の味として好まれるようです。

次にこのラインからスコヤを使って正確に木口に墨を入れます。段違いにならないよう十分注意します。墨の入った板を下のように作業台に立てて固定、その時私は片側のタブテイルのラインが垂直になるように固定しています。ノコを入れる時に、斜めよりも垂直に切る方が慣れているからです。タブテイルの反対側を切る時は、反対に傾け、同様に垂直に切るようにしています。見えない裏側は組んでしまえば見えませんから、裏側を気にする必要はありません。

線のX側(欠き取る側)に線に接してノコを入れます。私は木口の向こう側から手前まで1mmくらい切り込み、次にノコの手前側だけをゆっくり下げていきます。要は木口と板面外側の墨を見ながらいかに正確に切り込むかがポイントです。私はホゾ挽きノコを使っていますが、細かい(7寸目)両刃鋸の縦刃でも大丈夫です。とにかく墨線に接してノコを入れることが大切。余裕を持って切り込み、後にノミで調整するという考えはダメです。また切りすぎてケヒキの線を超えないように注意します。右利きなら墨線の右側は鋸を入れやすいですが、左側は難しいので、好みによっては板を水平に固定し、いつも墨線の右側を切るようにするのもいいアイデアです。

注意深くケヒキ線まで鋸が入っていることを確認・修正した後、水平に固定し、ノミで欠き取る作業に入ります。大切なことは、ケヒキの線を守ること、欠き取る部分の中央部が凸になるのではなく、やや凹にすることです。そのためには、最初の1〜2mmは慎重に掘り進むことです。初めに掘る面は木口に近い先端部分の3mmくらいを残すのがセオリーですが、このような細いタブテイルでは、木口から細いノミを入れ、跳ね上げるように欠き取ると能率は良くなります。私はこの工程で、2分(6mm)と5厘(1.5mm)のノミを使っています。

板を裏返し、同様に掘っていきます。タブテイルは端が欠けやすいので、今回使っているタモは気をつかいました。チェリーなどの散孔材の方が端は欠けにくい印象です。

気をつけていることなどを詳しく書いてきましたので少々疲れました。続きは来月に書かせていただきます。

◆ 充電式ペンインパクドライバ ◆

8月上旬に休憩室のエアコンを新しくしました。その付け替え工事に来られた職人さんがマキタの充電式ペンインパクトドライバーを便利そうに使われていたので使用感をお聞きしたところ、「こういう工事ではこれが一番ですわ」とのこと。教室では同社の14.4Vドリルドライバを主に使っており、生徒さんが使うには重くて力がありすぎるなと思っていましたので、早速一セット買ってみました。ネットで安いところを探し15000円弱で購入、充電器とリチウムイオン電池二個付です。

カッコいいアルミケースに入っており、ちょっと得した気分になります。さっそく使ってみましたが、これがナカナカいい。ピストルタイプでありながら本体左右のスイッチを回す動作がどうかな?と心配していましたが、全く違和感なし。とにかく軽い。7.2Vだから力はないだろうなと思っていましたら、インパクトが働きだすと結構力強く、家具作りだとこのくらいで充分と思いました。ネットの評判を見ると電気関係のプロの方の多くはこれを使っておられるようで、その理由がわかりました。

ちなみに同じタイプのドリルドライバも六角軸のドリルしか使えないので、インパクトの方が使い良いように思います。小さく可愛いい外観でありながら、力持ちで頼りになる実力派でした。電池が他の工具と共用でないために購入をためらっていましたが、7.2Vの充電工具も利用価値ありと感じた次第です。

 

 


2017年8月
・バンドソウ定盤防錆カバー作成
・KDSのクランプ二種

◆ バンドソウ定盤防錆カバー作成 ◆

鋳鉄製定盤はしっかりしていていいのですが錆がでやすいのが難点です。錆は塩分で生じやすく、多数の生徒さんが使われるため、夏場汗のシーズンは特に発生しやすいです。朝油をひいても無力で、なんとかしたいとずっと思っていました。そこでベークライト板でカバーをする方法を試してみました。

できれば強い布ベークを使いたいところですが、高価ですので3mm厚紙ベーク板を使いました。写真のように鉄の定盤にスッポリ被せるように加工しています。苦労したのは、リップフェンスを今までどおり使えるようにすることで、ワッシャーを二枚使ったりして少し上に持ち上げています。真っ直ぐな木片を瞬間接着剤で固定した後、短い真鍮木ネジで固定しました。メンテナンスやブレード交換の際には簡単に取り外せます。

まだ自分だけしか使っていませんので、生徒さん達が様々に使った場合、どのような不都合がでるかはわかりません。錆対策になることは間違いないのではと思っています。

◆ KDSのクランプ二種 ◆

クランプは沢山ほしい道具です。教室ではベッセイのクランプを主に使っていますが、本当は入手しやく補修もしやすい日本の会社が販売したクランプを使いたいところです。数年前からでしょうか、作業工具やメジャーなどの大手メーカーKDSからメタルクランプやパイプクランプのシリーズが発売されています。教室ですのでこれら入手しやすいクランプも使ってみなければと思い、二種類買ってみました。

まずは板ハギなどによく使うパイプクランプです。写真のように両方のヘッド部分を動かすことができますので、中央部に持ってくることができ、凸凹のある工房の壁にうまく収納することができました。

まだ本格的に使っていませんが、材木をこれで挟んでみたところ、若干滑りが見られました。斜めになった鉄の板の摩擦で固定する方法で、力を入れ過ぎた場合、破損を防ぐためある限度以上になれば滑ることを許容しているかもしれません。ただしSomaxのTバークランプやベッセイのL型クランプで滑ったことはないので、ちょっと不安が残りました。

次はメタルワークベンチです。これはネジで締め付けるのではなく、カムを利用して、強力に締めるタイプです。ですから、ストロークが短く、「ボンドを塗ったホゾを3センチくらい押し込む」というような作業には向きません。ですが、作業をするために部材を固定する時などには大変重宝しそうです。

同胞の説明書には「プロ用」と書かれていました。私は常々「プロ用」とか「本職用」と書いてあるのは、そうでないから書いていると思っています。軽いアルミ合金で大変使いやすいですが、これもやはりちょっと耐久性や強度に不安が感じられました。とはいえ教室のように酷使しない個人での使用には全く問題ないと思います。

KDSのような大手がこのように多様なクランプを発売してくれたことに大きな意味を感じます。ぜひ改良を続けながら、販売を継続してもらいたいです。

 

 

2017年7月
・接着剤の塗り方

◆ 接着剤の塗り方 ◆

先月は教室で接着剤の塗り方について話をしました。このような細かいことは人それぞれにやり方が違いますし、木工書などでの記述は大変少ないと思います。一例として私の方法を紹介しますが、これが正解というわけではありませんので参考程度にしていただき、自分にあった方法を状況に応じて考えてほしいと思います。

今日の木工で接着剤の果たす役割はとても大きく、適正かつ迅速に塗布することがより大切になっています。現在広く使われている水性木工用接着剤は、塗布開始から圧着完了までに許される時間が10分程度であり、その時間内に塗布、組立、圧着の作業を確実に行う必要があります。そのためには次のような点に注意し、塗布方法等を考えます。なお接着時間が長くとれる硬化時間の長いエポキシ系接着剤や湿気硬化型接着剤も入手可能ですが、水でふき取ることができる水性接着剤の利便性は大きく、教室では使用していません。ですが、接着作業時間が長くなる場合、このような接着剤の使用を検討することも必要かもしれません。

・塗布時間をできるだけ短くする(乾燥や固化を防ぐ)
・接合部全体に接着剤が行き渡るようにする(欠弼を防ぐ)
・接着剤のはみ出しをできるだけ少なくする(仕上を良くする)

多くの場合、私は下記のような方針で行っています。私が参考にしているTageFrid氏の塗り方から発展させています。

・接着剤の表面積を少なくし、材挿入により接合部全体に広がるようにする
・ホゾ先は約30度で面取、ホゾとホゾ穴壁の間に接着剤が入るようにする。
・ホゾに溝をつけることも接着力を高めるために行うことがある。
・ホゾ穴内側上部に多め、逆にホゾ先端周囲には少なめに塗布。
・短いホゾの場合、ホゾ穴だけにつけることもある。
・胴付には塗布せず、可能ならホゾ穴入口の面取を施し、はみ出しを防ぐ。
・上記方法には細いノズル付容器が適しているが、臨機応変に考える。

下図は単純な四方胴付ホゾの場合の塗り方です。
ホゾ穴の内側上部にわりと沢山ボンドを”塗る”というより、”置く”感じです。でも多すぎると穴の底に逃げ場が少ない場合などホゾが入りきらないこともあるので、適量が大切。はみ出しを防ぐ意味でのホゾ穴入り口の面取は、手間がかかるので、やらないことが多いです。ホゾ先周囲は少ない目。これが多いとはみ出しが多くなって、ふき取りに苦労します。なお、ホゾは手で入るくらいがよく、叩かないと入らないようだと逆に接着強度がでないことがあります。

複雑な組手の場合も、この塗り方の考え方を適用します。

例えば、下図のようなアラレ組の場合、どのように組むかを決め、ホゾの場合と同様に、接着剤が挿入によって塗り広がるように塗布し、全体に塗るよりも時間短縮をねらいます。図の場合、左の板がホゾ穴側、右の板がホゾで、刺すように組み合わせることが前提です。また内側への接着剤のはみ出しは拭き取りにくいので、可能なら内側にはみ出しにくい塗り方を考えます。細かい所に塗布する場合は、場所に応じた木片を用意するなどの工夫も必要になってくるでしょう。

はみ出した接着剤を完全にふき取ることは困難です。水を含ませて刷毛でゴシゴシやられる方もおられますし、硬化後削り取る、あるいは少し固化してから掻き落とすなどの方法をとられる方もおられます。あまりに沢山はみ出していますと、クランプをかける段階で広げることにもなりますので、組んだ段階でつまむように接着剤をふき取っておき、それからクランプをかける場合が多いです。接着剤のふき取りは、仕上がりに影響しますので重要な課題です。私も正解と言える方法をまだ見つけていません。いい方法があったら教えてください。

 

2017年6月
・フェザーボードについて

◆ フェザーボードについて ◆

ウチの教室では基礎コース修了者は昇降盤でホゾの加工などを行うことができますが、ご承知のように、この便利な機械は重大な事故を起こすことが多い危険な機械でもあります。特に溝突きや段欠きなどの加工は簡単そうに見えて、キックバックなどにより、事故が発生しやすいのです。このような作業を安全に行うための補助具として、櫛型の押さえジグ”フェザーボード”がよく用いられます。

フェザーボードは正しく使えば大変有効なものですが、丸鋸盤の性質や危険性をよく理解して使わないと、逆に危険性を増す場合もあります。よく理解していない場合は、むしろ使わない方がよいくらいです。どういう時に危険かをここで書いても理解されないようにも思いますが、それを承知でいくつか書いてみます。

  • フェザーボードは丸鋸刃の横から材を押さえることになるため、定規が正しくつけられていない時など、材料が浮いたり、刃との摩擦が大きくなる場合がある。例えば、溝突きなどの作業で材がコゲる場合は危険な状態と言えます。
  • 強く押さえ過ぎて、材を軽く遅れない場合、より力が必要になり、思わぬ事故につながる恐れがある。
  • 丸鋸盤での縦挽きは教室では禁止ですが、この作業を行う場合フェザーボードは刃の手前にしか設置してはいけません。切断された材を真横から鋸刃に押し付けることになり極めて危険。

上に書きましたように、安全に作業を行うためのフェザーボードは、よく理解して使わないと逆に危険性を助長することになるのですが、正しく理解していれば、より安全に作業を行うためには大変便利な道具です。そのフェザーボードを使いやすいように作り直しましたので、紹介します。

使わないマグネットベースが二個ありましたので、それがピッタリ入る穴を15mm厚のべニア板に開け写真のように木ネジでフェザーボードを固定したものです。フェザーボードが破損した場合の交換やサイズの違うものに取り替えることができるようにネジ止めとしました。

櫛の部分は長さ約2センチで、バンドソウのフェンスを約4mmずつ移動しながら、切れ込みを入れました。一枚の厚みは1.5mm〜2mmくらいです。多少バラつきがあっても問題ありません。

細く短い材に溝を突いているところです。フェザーボードを軽く当ててマグネットをONにすれば、大変シッカリ固定ができます。以前は二つのFクランプで固定していたのですが、それより確実に固定できますし、位置調整が簡単です。

何度も同じことを書きますが、フェザーボードは正しく使わないとかえって危険です。安易に真似されないようお願いします。

 

2017年5月
・木工家ウィーク2017
・小根ホゾについて

◆ 木工家ウィーク2017 ◆

第10回となる木工家ウィークが6月2日〜4日、名古屋各所で開催されます。詳しくは下記リンクを見てください。

木工家ウィーク

(私は文化のみち「撞木館」で行われる椅子展にスタッキングアームチェアを出品予定です。)

◆ 小根ホゾについて ◆

教室での先月前半のミニセミナーは、教室で質問の多い”小根ホゾ”でした。「普通の四方胴付ではいけませんか?」などと頻繁に質問されるので、ある程度経験のある人には「理由は自分で考えてみてー」と言ったりしていますが、この機会に小根ホゾについてまとめてみます。

木は繊維方向に割れやすく、特に材の端は弱いので、材の端に近い部分にホゾ穴を作る場合は2cmくらい内側にする。そうするとホゾの外側胴付が広くなり、材の反りを止められないし経年変化で胴付が切れる恐れもある。これを防ぐのが小根ホゾの役割。手加工ではホゾ穴の部材を少し長く作っておき接着後切断することも割れやすい部材には有効な方法。

1、戸や框組でよく使うパターン。

鏡板を入れる溝などは丸鋸盤等で端まで通しで掘る方が安全で効率が良く、外側に生じる凹部を上手く小根ホゾで埋める。この場合には小根の先に逃げを作らない精密な加工が求められる。
・溝を掘る場合、溝の深さプラス1〜2mm
・溝がない場合は、2mm〜10mm
・小根が長すぎるとホゾの強度が落ちることがある
・小根が邪魔して胴付がつかないことがないよう。

2、ホゾ穴の深さを充分に生かしたい場合に使う。

ホゾ穴の斜め部分はノミで、小根ホゾは胴付鋸で簡単に加工できる。脚物の幕板上部など見えない場所に使われることが多い。小根ホゾの先には逃げを作って胴付を圧着させるように留意する。ホゾ全てに当てはまるが、特に端のホゾは幅を効かせすぎないこと。手で入るくらいの密着度がよい。

3、外側に小根を見せない形。

北欧の有名な椅子で幕板の幅の広いホゾの両端に手加工でごく小さい小根をつけているのを見たことがある。ノミで簡単に加工でき応用範囲は広い。このような小さな加工や気くばりが、作品や製品の質を高める。小根ホゾの長さは短くてよい(1〜3mm)。

以上のようなパターンがあるととらえないで、木が繊維に沿って割れやすく、また痩せたり反ったりする性質を理解し、それに対処する方法として考え出されたと理解することが大切。そうすれば、杓子定規に小根をつけるのではなく、部材や設計に応じて必要ない場合やホゾの形状を変えるなど、臨機応変の対応ができる。

 

2017年4月
・塗装の選択
・久々の時計作り

◆ 塗装の選択 ◆

 先月に引き続き、教室で行っています15分セミナーの内容を紹介します。3月後半は生徒さんからのリクエストがあった「塗装の選択」についてです。この種の総論はあまり面白くありませんが、作品の質感を高めるという点でとても大切です。
 教室では木の質感を生かした塗装が多く、植物性乾性油やワトコオイルなどによるオイルフィニッシュ、色を濃くしたくない場合は薄い水性ウレタンニスをよく使います。またシェラックとワックスなどの塗装も小物を中心に行います。着色したい場合は着色オイルを使うことが多いですが、しっかりした塗膜を得たい時は着色水性ウレタンニスも使っています。

塗装・仕上の選択

1、木そのものの自然な感じにしたい

・無塗装
汚れやすい、一番自然で美しい?、経年変化、素地調整が大切

・ソープフィニッシュ
石鹸液を浸透させ、研磨する方法。欧州の石鹸は油分が多い。無塗装に近い仕上がり。

・ワックス
耐久性耐水性に乏しく塗布に手間がかかる、蜜蝋、木蝋、イボタ蝋、自家製ブレンドワックス等

・オイルフィニッシュ
黄変(亜麻仁油が強い)、色が濃くなる、乾燥が遅い、素人でも簡単
植物性乾性油:亜麻仁油、桐油、荏胡麻油、煮亜麻仁油
メーカー製オイル:ワトコオイル、オスモ、リボス、アウロ、プラネットカラー等

・シェラック
水・熱に弱い、天然素材で安全、美しい。溶剤はアルコール

・低濃度ウレタンニス
水性エマルジョンタイプが主流。拭きウレタン(油性)

・液体ガラス塗料
使用経験がありませんが、最近注目を集めている新塗料。スプーンにも使えるらしい。高価。

2、塗膜が厚くツヤのある透明塗装

・ウレタンニス
プロは二液性を用いる。一液の油変性ポリウレタンはオイルベースで上記植物性乾性油に混合できる。

3、着色したい
逆目やボンドのはみ出し等でコントラストが付くため、細心の注意が必要。

・アンモニア蒸気による染色(タンニンと反応)

・オイルステイン
色押さえとウレタンニス等の上塗りが必要

・着色ウレタンニス
 水性が主流でホームセンター等でも入手しやすい。そのままでは塗膜が厚めになるので、水で薄めて塗るのがよい。

・着色オイル
ワトコ、オスモ、リボス、アウロ、プラネットカラーなど。簡単でムラになりにくいが色は薄め。いきなり塗るのは避け”試し塗り”をすること。

・アクリル塗料
鮮やかな発色、少量でよければトールペイント用が便利

4、耐水性・耐候性を重視する場合
天然素材塗料は耐久性が乏しく、屋外では日光による劣化が激しいため顔料入り塗料が優位。外壁では防腐剤入りがよいが毒性が問題視される。(キシラデコール等)

5、口に入れるスプーンなど

・木固めエース
乾燥後は無毒とされているが、塗布時の溶剤の匂いがきついため、私は苦手。

・クルミ油
耐久性は乏しいが、簡単で使い良いオイルフィニッシュ。クルミの実を布で包んでつぶし、それをこすりつけてもよい。

・亜麻仁油
欧米ではよく使われるが黄変がある。ドブづけや加熱でより深く浸透させることができる。

・ウレタンニス
FDAでは食器に使ってよいとされている

6、その他

・うるし
カブレが恐い、修得が難しい(拭き漆は比較的容易)

・カシュー
合成ウルシ。これでもカブレル人がいる

・柿渋
日本古来の塗料、安全で簡単だが独特の匂い

・焼杉
バーナーで焼き、ワイヤブラシ等で擦る

・うづくり
木目の柔らかい部分を凹ませ、木目を立たせる。

◆ 久々の時計作り ◆

親戚の新築祝いに時計を作ることになりました。売り物ではありませんので、手作り感を大切に作ってみました。

わけがわかりませんが、紙にイメージを書きました。恥ずかしい絵ですが、12時はお天道様、3時はコーヒータイム、6時は帰宅、9時は活動開始で”足”のつもりです。それを色の違う木で切り抜き、象嵌しました。

外枠はチェリー、文字盤は神代ニレです。留めの接合には溝を入れて小さなサネを入れるようにしました。トリマと簡単なジグで加工し、ノミで整え、小さな四角木片を入れて接着します。外からは見えませんが気をつかっています(^^)。

バンドクランプで圧着し本体完成。この後、ムーブメントを取付け、針を黒檀の薄板で作って完成。久しぶりの気楽な木工で楽しめました。好みはあると思いますが世界でただ一つの時計です。喜んでもらえるかな?

 

2017年3月
・組手の加工

◆ 組手の加工 ◆

 教室では毎回15分程度、木工作業をする上で大切な知識やコツなどをA4一枚にまとめ、短いレクチャーをしています。書物を引用することも多く、ホームページで全て公開することはできませんが、先月前半の内容は全て自分で書いた図を使っていますので、ここで紹介してみます。加工方法にはいろんな方法や考え方があり、「これが正解」というものはありません。あくまで私のやり方であることを承知の上で、うまくいかない場合など、参考にしてみてください。

 基礎コースでは、鉋とノミの研ぎが終わったら、三枚組の加工を練習します。三枚組(図は五枚組)の組手加工は、手道具による精密な木材加工の基礎がつまっていると思っています。この加工を十分に練習することで精密な手加工のやり方がわかってくると思います。

1、胴付墨

・木口が完全に垂直になっていることを前提にケヒキを使う。

・木口が垂直ではない場合は、材の基準面を使いスコヤで墨回しをする。

・鉛筆で線を入れると線の幅で誤差が生じ、正確な加工ができない。

・教室ではシラガキが初心者には使いにくいために木口からケヒキを使っている。

・図は1mm程度組手の頭を飛び出させる場合を示すがこれは好みによる。最初は板の厚みで胴付墨を入れるとよい。

・最初は薄くケヒキをかけ、分割線を入れた後、欠き取り部にはっきりケヒキ等を入れる(ケヒキ二つ必要)。

2、分割線

・材表面に物差しを斜めにするなどして等分割点を入れ、それにケヒキ刃の先端を合わせ、基準面からケヒキを使って引く。材の幅が広い場合など完全に材の幅が揃えてあれば両側から使う場合もある。

・本来ケヒキ刃は片刃であるため理屈上不具合がでるが、実際は加工精度の方が問題となるためこの段階では無視してもよい。

3、加工

・下図のように分割線に沿って×側に鋸(ホゾ挽、もしくは両刃鋸で横から縦)を入れる。上面と手前の墨を見て、ケヒキに接して鋸を入れること。「余裕を持って切り込み、後でノミで修正する」という考えはよくない。右図のように、材を裏返して同様に斜めに切り込む。最後に残った根本の部分に鋸をすすめる。

 

・ノミは墨線より硬い材では1mm外側を切断し、仕上のノミを入れる。切断面がやや凹むくらいがよい。ノミ本体の垂直ではなく、ノミの裏の垂直が大切

・崩れやすい材はケヒキ線を直接狙う方が良い場合が多い。切り込み初めは少しずつノミを入れる。いずれの場合も、垂直のノミを強く叩きすぎないようにすること

・両サイドの胴付きはノミではなく、胴付鋸をシラガキ(ケヒキ)の切れ込みに、押して滑らせるようにして入れ、慎重に切り込む。この際は垂直になった木片を当て木として併用してもよい。切れ幅が0.3mm以下の胴付き鋸であれば、図のようにケヒキによる切れ込みに入るようにできている。

 

いかがでしたか?。これを見て加工ができるようになるとは思いませんが、刃物や鋸を使う際、その理屈が少しでも理解できてもらえるとうれしいです。また何度も同じことを言いますが、これらはあくまで私のやり方です。どのような方法であっても、結果OKならならそれでいいと思います。

 

2017年2月
・糸鋸盤について

◆ 糸鋸盤について ◆

昨年秋に購入したExcalibur社製糸ノコ盤 EX-21Bについて、使用感など書いてみたいと思います。この機種はオフさんで現在在庫処分中になっていまして、発売元はアメリカの会社で台湾製です。後継機は中国製ですでに並行して販売されています。

台がないのでアルミ洗車台に大きな木片を組み合わせ、写真のようにセットしています。台の高さは約85センチ、作業台の高さと同じにしてあります。立っても高めのスツールに腰掛けても使いやすい高さです。

傾斜切断について

この糸鋸盤の売りはなんと言ってもテーブルではなく、駆動系全体が傾斜することでしょう。ロックネジをゆるめ、ハンドルを回せば簡単に傾斜させることができます。左右45度まで目盛りがついているのですが、実は片側はそこまで倒すことができません。

上の写真の方向では、ほとんど45度まで傾けることができるようですが・・・、

反対方向だと、糸鋸刃を止めるネジが作業台裏の当たってしまい、30度くらいが限界です。なおノブのないイモネジに変更すれば両側同じように傾斜可能と思われます。

一般的な話になりますが、糸鋸盤での傾斜切断では、少しの傾斜なら刃が傾斜している方が使いやすいと思います.。しかし、30度以上など大きく傾斜している場合、私は刃が垂直の方が、糸鋸刃の適正位置を把握しやすいと感じました。どんなに張りの強い糸鋸盤であっても、横から材を押せば刃は湾曲します。それが刃が斜めになっていると、刃に横から力がかかって湾曲しながら切断していることが見えにくいのです。

上の写真は旭工機の一番安いタイプの糸鋸盤です。刃の後ろに小さなガイドローラーが設置できるようになっていて、ここに当てながら切断することで、正しい糸鋸刃の位置での切断が初心者でも行いやすいです。

切断能力について

切断能力についても正直期待しすぎていました。以前書いたようにリンク式では刃が前後に0.5ミリ程度振動します。私はこの振動がどうも気になります。またある生徒さんは旭工機の方がパワフルだと言います。もしも予算が10万円以上あるなら、旭工機などの強力タイプも検討されるとよいと思います。余談ですが、ウチの近くには、旭工機、それと同じような糸鋸盤を作っているユタカ、両方の会社があります。元は同じ会社の方だったということですが、それぞれのHPには「全く関係ありません」と書かれていまして、ユーザーとしてはあまりいい感じがしません。ユーザーとしては、性能もコスパも良くて、アフターサービスの良いのが一番です。

堅木の厚い材料の切断は、ウチの機械はどちらもあまり得意ではありません。このような厚い材料にはスクローラなどの大型糸鋸盤が優れていることは間違いないでしょう。

その他

・集塵機構は日本製よりよくできています。作業台の下が少し掘り込まれ、薄いアクリル板が貼られていて、その間から木くずを吸い取るようになっています。

・振動はスプリング式日本製の方が多いです。しかし、もし日本製で変速機構があれば、同等ではという気がします。というのはEX-21Bでも最高速にするとかなり振動を感じるからです。

・糸鋸刃の長さは日本製が150ミリ、外国製は130ミリですが、切れ刃の長さはほぼ同じです。ネット等では海外製の糸鋸刃が良いように書かれているのをよく目にしますが、厚い木を切る場合は150ミリの日本製の方が有利ですし、切れ味も同等か優れていると感じられたものもあります。たとえば旭工機の”24山中目”は極端な薄板には向きませんが、多目的に使える刃だと思います。

まとめ

10万円以下の糸鋸盤では、やはり堅木3cm以上を切断するのはかなり無理があります。過去には上記マキタで5cmほどの楢の木を切ったことがありますが、今回購入した機種ではまず無理という印象でした。この機種は、象嵌など軽い傾斜で2cmくらいまでの板を切るのに適していると思います。堅木をバンバン切りたいのであれば、日本製のスプリングが強力なタイプを選ぶべきだと思います。以上、あくまで私見ですので、自己責任で購入してください。

 

2017年1月
・第十六回木工教室作品展作品紹介
・腰痛についての”まとめ”

◆ 第十六回木工教室作品展作品紹介 ◆

あいかわらずローテクスタイルで続けているホームページですが、今年もよろしくお願いします。

さて、毎年恒例になりましたが、昨年度開催しました「第十六回木工教室作品展」の全作品を下記に公開しました。(作品画像の流用・転用等はご遠慮ください。)

第十六回木工教室作品展作品紹介

◆ 腰痛についての”まとめ” ◆

このホームページは木工に関する話題を中心に書いていますが、今月は昨年9月にかなりヒドイ腰痛や歩行困難になった経験をもとに、その対策などをまとめてみたいと思います。木工を仕事にする人達の多くは、腰痛で悩まされたことが一度や二度はあるのではないでしょうか?そして加齢による避けて通れないこのような体調の変化に対する心構えも大切だと思います。なお、私は21歳の時に椎間板ヘルニアの手術を受けていまして、腰痛で悩まされた経験は多い方だと思います。

腰痛発症〜2日間程度(急性期)
 急性期ではなんらかの炎症が起こっている場合がほとんど。この時に無理に体を動かさず、できれば安静にすること。炎症を温めたりマッサージするのはよくない。消炎鎮痛効果のある湿布薬を患部に貼り、さらに痛みが強い場合は痛み止め錠剤を使うと少しは楽になる。整形外科等で処方されるモーラスなどの湿布薬はよく効く。薬局で買うよりも安く入手できるし、医師の診断を受ける安心感も得られるので、痛みがひどい場合は整形外科を受診する。

発症後数日後〜一ヶ月程度
 私の場合、今回は痛みが収まってから左脚に力が入らない状態になりました。医師の診断では脊柱管狭窄だということでした。もちろんその影響はあると思いますが、その後の経過から肉離れ等なんらかの炎症が原因で坐骨神経に障害が発生したのではないかと思っています。整形外科のドクターにとって腰痛や脊柱管狭窄は日常茶飯事で、多くの場合ひとりひとりをじっくり診てくれるわけではありません。急性期をすぎたら、自分にあった対処方法を探すことが大切になってくるように思います。

 実家の兄や母親も腰痛で苦しんだことがあり、ふたりとも「鍼が一番効いたかな?」と言います。幸いウチの生徒さんのご主人が鍼灸整骨院をされていたので、そこに行きました。15分くらい電気治療の後、鍼を打ってもらいましたその時はあまり変化がないように思うのですが、翌日になると少し楽になっているような気がしました。施術される方が言っておられますが、「鍼は全く合わない人もいます」ということで、個人差が大きいそうです。私は二三回通ううちに痛みはかなり軽減してきました。ただし、左足に力が入らない”マヒ”の症状はすぐにはよくなりません。

一ヶ月後〜二ヶ月後
 痛みはほとんどなくなりましたが、左足の軽いマヒは残っています。こういう症状によいとアドバイスをいただき、水中歩行をすることにしました。車で20分ぐらいのところに春日井市営の温水プールがあり一回500円です。そこへ行くと、プールを歩いている年配の方の多いこと。このトレーニングは、コケる心配もないし、元来水泳が嫌いではないこともあって、とても良いと感じました。効果の有無はわかりませんが、症状を悪化させる心配はないでしょうから、一度は試してみる価値があります。

 また水平な地面の歩行だけでは、マヒを治すための運動にはなりにくいように感じます。マヒしている筋肉を治すためには、そこの神経を刺激して筋肉が動くようにしてやる必要があります。それでこの頃は一週間に一度くらい、軽いハイキングや山登りをしています。様々な地形に足を置くので、いろんな筋肉を自然と動かす効果が期待できるように思います。こんな感じで、左足も以前の7割くらい力が入るようになってきました。たぶん、このままいくと、ほとんど前の状態に戻すこができるのではないかと感じています。

反省点
 実は今回の腰痛の直前、疲れがたまった腰の筋肉をほぐすため近所のスーパー銭湯でかなり長時間”電気風呂”に入っています。これが軽い炎症をより悪くしたのではないかと考えています。発症時や発症直後は絶対に無理な運動はすべきではないところを、電気刺激で筋肉を動かしたために悪化したのでしょう。疲れをとるのに電気風呂は良いと思いますが、痛みを伴うような場合は、その利用は慎重になった方がよろしいようです。

腰痛で困られた時、何かの参考になれば幸いです。


2016年12月
・木の仕事展IN東海2016終了

◆ 木の仕事展IN東海2016終了 ◆

昨年に引き続き、名古屋市東区にある東桜会館での合同展示会へ参加してきました。今回の会場では中央に座編みや木挽体験などの広いワークショップスペースがあり、その両側に参加者のブースが並んでいる形で、会場入口奥では端材格安販売もありました。家具や木の製品を見ながら、木を扱っている仕事の見学や体験ができる展示会でした。

日頃木工を教えている私にとっては、展示会は仲間との交流の場であり、また見ていただく機会の少ない私の作品に触れてもらえる機会でもあります。今回9月のひどい腰痛もあって新作はなく、今まで作りためた作品の中から、テーマを「省スペース家具」に決め、選んで持ってきたものです。展示スペースは2.5mX2.5mですので、それほど広くはありませんが、その中に折りたたみテーブル2つとスタッキングチェア3組6脚、そして壁側に組み立て式棚が収まっています。

写真手前二脚の椅子にはよく座っておられましたが、奥の二種類のスタッキングチェアに興味を示された方は少なかったです。重なっているのがわからなかったか、はたまた興味がなかったのでしょうか。普段の教室でも重なっているのを知らないでそのまま座っている生徒さんがいたりします。重ねられる椅子は量産品には少ないので、わかりにくいのかもしれません。でもこれだけの椅子やテーブルを普通のワゴン車で楽々運べたのは、折りたたみやスタッキングのおかげです。木工趣味の方はテーブルの構造や折りたたみの仕組みに興味があり、下を覗き込んでいる方が多かったです。

教室を始めるまで、夫婦で10年くらい丹波や舞鶴のクラフトフェアに出ていました。ヨメさんも木っ端を利用してトールペイントをしていましたので、こんな小物も置いてみました。一度神戸で展示会をした時に実家の母が「何か気軽に買える物を並べておいた方が親切やで」とアドバイスされたことがあり、私には珍しく、1000円くらいで買える小物を展示したというわけです。「作品を買えるのは珍しい」と買ってくれた生徒さんの他、初めて来られた女性の方にもブローチやスプーンを買っていただき、率直にうれしかったです。クラフトフェアの時もそうでしたが、買われるお客さんは、気に入ったら迷わずパッと買われます。あれこれ世間話をするお客さんが買うかというとそうでもないところが面白いですね。

釣り銭が必要ないよう、バターナイフもスプーンも千円にしました。もちろんスプーンの方が手間がかかるのですが、予想外にバターナイフとスプーンは同数売れました(^^)。たぶん、細身でアイスホッケーのスティックみたいなのが可愛らしかったのではないでしょうか。実はこのバターナイフ、NYのB&Bにお土産でもって行った時気に入られ、何本かまとめて送ったことがあります。

木のアタッシュケースを開けて、スプーンを無造作に並べています。これはクラフトフェアで結構目立ち、人が寄ってくるキッカケになっていました。制作後時間が経っていることもあり、2000円と3000円の二種類の値段にしました。結果二本だけ売れました。これくらいの不定形なスプーンになると制作時間をそのままコストに計算したら絶対売れません。このような手間のかかった作品の価値を認めてもらえるかどうか、大変難しいところです。

一方、椅子は一脚6万円〜8万円、テーブルは10万円以上ですから、売れるとは思っていません。これでも高いと思われるでしょうが、貴重な材料を使い手間と時間をかけ、頭をひねって作っているので、本当はもっと高い値段になります。ですが、そこをなんとかして、もっと手の届く値段にするか、あるいはイメージ戦略を駆使し、ある意味で教祖になって、「これは本当にすばらしいものである」と思い込ませるなどしなければ売れません(笑)。私は教祖になれませんので、売れる値段とにらめっこしながら品質や独自性の保持する工夫しかないと思っています。どちらにせよ、小規模な木工房がそれで生べていけるかは???です。

来年は会場の都合で、12月1日、2日、3日に開催が決まりました。私は教室日程の調整が難しい時期ですので参加できるかどうかわかりませんが、よかったらまた来年もお越しください。

ことしもあと一ヶ月を切りました。月一回しか更新しないこのホームページですが、時々見に来ていただければ幸いです。来年もよろしくお願いします。



2016年11月
・第16回木工教室作品展短報
・Carter bandsaw guide

◆ 第16回木工教室作品展短報 ◆

 展示会が終わったばかりですが、会場のスナップを少し掲載しました。作品数は約110点でかなり見ごたえがあったと思います。今年は土曜日の来場者が例年より少なかったですが、それはお友達や親戚の方を沢山連れて見にこられる生徒さんが少なかったからだと思います。一方、新聞やインターネットを見て来られたお客様は例年の倍以上でした。このホームページはここ数年はあまりアクセスが多くなかったのですが、最近また見られる方が多くなっています。木工や手作りに関心をもたれる方が増えているのかもしれません。

来年一月には、今回の出品作品を公開する予定です。

初日は雨でしたが、土曜日曜はとてもいい天気。階段の菊は、花卉市場にお勤めの生徒さんが”江戸菊”の普及活動をされていて持ってこられたものです。

小物中心のギャラリー展示室東側。展示作品数やボリュームはちょうどいいくらいでした。

ギャラリー南側です。右のショウケースはお孫さんのトミカ用ディスプレイ棚で、子供さんに人気でした。

中央テーブルでの展示。手掘りの茶碗やお皿はやっぱり味がありますね。

工房展示室の東側です。作品が集まってみると、意外に椅子が多かったです。

工房西側を二階から見たところです。写真には写っていませんが、奥でスーパースワンがいい音出してます。

完成までいかなかった作品も展示しています。接着前の組手を興味深く見ている方がおられました。

最終日の5時から展示をかたずけ打ち上げパーティー突入です。ほとんどの方はノンアルコール飲料なんですが、同じ趣味の仲間だからでしょうか、結構盛り上がりました。また来年に向けて頑張ります。

◆ Carter bandsaw guide ◆

木工機械の極めて狭い話です。

以前から教室で使用頻度が高いデルタ14インチバンドソウのブレード振動を改善したいと思っていました。それで雑誌等でよく見かける”Carter bandsaw guide”というのを買ってみました。

取り付けは簡単でした。そして走行は安定しました。特に刃の後方を支えるベアリングが正規部品と違い、ベアリングの正面で受けることになり、これはよかったと思います。ですが、一度試してみて、これはウチに向かないと思いました。というのは、教室なので刃を頻繁に交換することがあり、その際交換後の調整が非常にシビアなのです。二万円ほどの投資でしたが、涙を飲んで元に戻しました。

というわけで、新品同様のこのガイドが余ってしまいました。デルタ14インチバンドソウ、丸シャフトタイプをお持ちの方で、これを使いたい方がおられましたら、格安でお譲りしますので、ご連絡ください。現在販売されていない古い機械なので、使っておられる方は少ないかもしれませんが・・・。

 

2016年10月
・スピーカー工作

◆ スピーカー工作 ◆

夏の終わりに偶然入った喫茶店でスピーカーの名機「タンノイオートグラフ」の音を聞いてから、スピーカー工作を再開してみようという気になりまして、まずはいつか作ってみようと思っていた長岡鉄男氏の代表作とされるスーパースワンを作りました。このスピーカーの製作記事はネット上に多数あり、私自身もそれらを参考にさせていただきました。今月は木工教室をやっている者としての観点からそのレポートを書いてみようと思います。

長岡鉄男(1926-2000)氏について
 高校生の頃ですから今から47年くらい前になりますが、スピーカー作りが好きな友人からこの名前を聞きました。雑誌FMfanなどに合板を使って作った飾り気のないシンプルなスピーカーや大きなバックロードホーンスピーカーの製作記事を書いておられました。写真は私が持っている長岡氏の本です。中央のオーディオ日曜大工は昭和50年発行で工作に重きを置いて書かれたものです。お金のない高校生にとっては、いかにお金をかけずに良い音を聞けるかが大切であり、長岡鉄男氏のスピーカー製作記事は大変参考になりました。当時の美術の先生が直径10cmのFE103というスピーカーを使ったスパイラルホーンを作っていて、それを聞かせてもらった友人が「チッコイのに、ドーンと低音が響いてすごかった」と言っていた記憶があります。この本の中で長岡氏はホーン型スピーカーの原理を大きなウチワと小さなウチワを使って説明しています。「大きなウチワはゆっくり動かしても風が来るけど、小さなウチワは速く動かさないと風が来ない。ウチワの面積が小さいので空気が横に逃げてしますから」というような説明です。”ホーン”は小さなスピーカーでも低い音を出すことができるよう、小さなスピーカーでも空気が横に逃げないようにして低音を増強させる装置なわけです。ホーンを作るには材料・技術・手間等がかかり、大手メーカーのスピーカーでは高級なものをのぞき、まず採用されません。ですから、長岡氏のスピーカーの中でもホーン型、特に低音増強効果のあるバックロードホーン型スピーカーは個人で作る意味が大きいと思われます。

スーパースワンについて
 白鳥とは名ばかりで、ヨメさんは「潜望鏡みたい」、また作られたある方の奥様は「ブサイクなスピーカー」と言われているように珍しい形をしています。でもこの形が長岡氏の理想の形のひとつであるようです。中高音は定位が良いように点音源から発せられ、低音はバックロードホーンを通じて裏側に出て、床と壁をホーンの延長として利用、スピーカースタンドがなくても大人が椅子に座って聞きやすい高さ、等々。そして、複雑なホーンを段階的に空間を広げることにより、素人でも工作しやすいよう、接合部が斜めの部材がないように考えられています。

たしかに、この形、普通のご家庭ではあまり歓迎されないかも・・・。でも長岡鉄男信者のひとりとして一度は作ってみなければなりません(笑)。が、実際に作ってみて、かなり難しかったです。スピーカー工作が初めての人は、たとえ材料カットをプロに頼んだとしても、隙間なく組むのは無理だと思います。初めての方は、D-10バッキーなど、オーソドックスなバックロードホーンで製作の勘所を掴んでから挑戦されるのがよいと思います。

材料について
 まず設計図ですが、これは氏の古本を調達するなどしてください。ネット上で探せば見つかるかもしれませんが、著作権の問題がありますから、利用は慎重に。

 この頃、スピーカー自作用の材料をカットし販売しているところがいくつかあるようです。多くはMDFを使っています。理由はMDFの方が切断がしやすく、端の欠損なども起こりにくいからだと思います。長岡氏自身は、比較的入手しやすく、美しい、シナを両面に貼ったラワン合板をよく使ったいました。加工が楽なMDFは接着材含有量が多く、害の少ない接着剤を使っていたとしても、私はあまり使いたくありません。合板は当然ですがMDFより木の質感がありますし、木口の縞模様も嫌いではありません。
 高級なフィンランドバーチ合板は、より高級感を求める方にはよいかと思います。ただし定尺が1.2mX2.4mと大きいため取扱に難があります。それ以前の問題として、入手が困難です。というわけで、私は両面にシナを貼った、準両面シナ化粧合板を使っています。フィンランドバーチ合板は私には高価すぎますし、サブロクの木取り図がそのままでは使えないのも不利です。

正確なカット
 ここが一番アマチュアには難しいところです。ホームセンターでカットを頼んでも、求められる精度で切断してくれないでしょうから、前述のような専門業者を利用する方が確実ではあります。ここでは正確なカットをするためにいくつかポイントを述べておきます。ただ、ネットで調べていたら、手ノコとソウガイドを使って電動工具を使わずカットされている人を発見しました。やればできるんですね、脱帽です。一般的には電動マルノコを使うことになりますが、これから購入されるなら、造作丸鋸というアルミ合金ベースの正確切断ができる機種を選んでください。買ったままでは直角が狂っていることがありますから、使用前に完璧に直角に切れるよう調整します。

  • 設計図、木取り図をよく見て、どのカットが高い精度を要求されるか、読み解く。
    長岡氏自身、昔は自分でカットされていたようで、素人でも製作できるよう、同一サイズの板で音道を組み、両側の側板でサンドイッチにするような設計が多く見られます。このような板は長さはともかく、幅は指で触っても段差を感じないように、全く同じ幅でカットする必要があるのです。一方、側板や底板など、1ミリくらい長さが変わっても問題が生じにくい部材もあります。その見極めが大切です。

  • 正確な同寸カットは、目盛りや数値で追わないこと。
     下の写真はサブロクから幅が一定の長い板を切り出しているところですが、物差しの目盛りを読むのではなく、例えばステンレス尺にストッパー(ネジがゆるみやすいのでしっかり締める)を併用するなどして、読み取り誤差なく、同寸でカットできるようにストレートガイドを固定して切断しています。また材が切れ落ちる時に合板がメクレて破損することがありますので、落ちない工夫も大切です。あるいは床の上に合板と同じサイズの発泡スチロール板を置き、合板の厚みより少しだけ刃を出して、合板の上に乗りながらカットする方法もDIY雑誌等でとりあげられている方法です。

  • 材に余裕があれば二度切りも
    最も精度が要求されるような部材の場合、2〜3ミリ大きめに切り出し、あらためて正確なカットをする”二度切り”をすることがあります。

 私は経験がありませんが、ホームセンターなどでカットしてもらう場合、大きなパネルソウを使っているはずです。そこで、切断の難しい長手方向の切断だけを依頼し、細くなった材を自分でカットするのは経費が節約でき、賢い方法ではないかと思います。

バッフルの丸穴加工
今まで危なそうで使ったことがなかったのですが、今回はじめて自在錐を購入し、使ってみました。柔らかい不燃ボードなどの穴あけには手持ちの電動ドリルでも使えそうですが、15mmの合板を切り抜くにはやはりボール盤が必要でしょう。回転数を最低にし、材料をしっかり固定して、慎重に切れば、きれいな穴を開けることができました。オプションの延長棒を使ったとしても直径20cmまでで、それ以上の穴だと、ジグソウや糸鋸で切り抜くか、トリマをコンパスのように使う方法の方が安全だと思います。

両側の刃を約3ミリ離して刃の向きに注意して位置を決めます。二つのケヒキ刃を使いその間に3ミリの溝を掘る感覚ですね。万が一の際の危険度はとても高いので、教室で使用していただくことはないと思います。糸鋸で切り抜き、きれいな丸穴にならなくてもスピーカーで隠れますから問題ありません。

教室の機械がありますので、それほど苦労せずにカットすることができましたが、電動丸鋸だけでやり遂げるにはかなり慣れと技術が必要かと思います。

組み立て
 組み立て順は、長岡氏発案の数式のような記述「1+2+3+(4+5)」に基本従いますが、よく考えて自分に合った正確に組み立てができる方法にアレンジします。私の場合、外にネジや釘を見せたくなくて、そのような部材の接合には後述するビスケットジョイントやダボも使っています。クランプも十分な数があるので使っていますが、ない場合はネジをつかわざるを得ない場面は多いでしょう。ネジと接着剤の併用は強いですが、ネジを入れる時に微妙なズレを生じることが多く、これをさけるために、小さな釘や仮釘を使うなどの工夫が必要になります。

どんなに正確に組んだとしても、わすかな段差が生じることは避けることができません。このような時、鉋が使えると強力な助っ人となります。ネットでの製作例ではサンドペーパーやサンダー、ヤスリなどで修正している方が多いのですが、それらでは真っ直ぐに段差を修正することはまずできません。よく切れて台がまっすぐな鉋が使えれば、完璧に段差を修正することができます。

家具工房の方でビスケットジョイントを知らない人は少ないと思いますが、ビスケットはもともと合板用に開発されたものらしく、スピーカーを組む際には大変便利な方法です。通常のダボが位置決めが難しいのに比べ、ビスケットは厚み方向はシビアですが、長手方向には融通が効くため、このような接着には大変使いやすいのです。安い機種なら1万円少々からありますので、スピーカーを多数作られる方は購入を検討されてもよいのではないでしょうか。

外周にビスケットを使用し、内部はそのままで接着しました。天板と側板の接合部には一部段差が生じたりしていますが、内部の接合に隙間は皆無です。手鉋が使える強みですね。

この大きさでこれだけクランプが使えると大型のプレス機は必要ありません。プレスよりもある意味、痒い所に手が届く圧着ができるように思います。

実は古いサンスイのアンプ(AU-D607)を使う予定だったのですが、20年以上も放置していたせいか、右の音がでなくなっていました。それでちゃんとした試聴はまだできていません。ただ、左だけの音を聞いた限りでは、小さなスピーカーからは信じられない低音の豊かさでした。ちゃんとアンプが準備できたら、あらためて試聴の報告をする予定です。

追記
約30年ぶりにアンプとCDプレーヤーを購入し、試聴しました。今まで作ったスピーカーや所有しているメーカー製スピーカー(ダイヤトーンDS32B)より格段にいいです。ジャズのライブ録音など、目とつむればライブハウスに居る気になります。でも現状は設置しているのは畳の上、後ろは障子です。ちゃんと固い床と壁の部屋に置ければ、もっと低音が締った音がするはずです。

スーパースワンの評価は賛美する声と否定的な意見に分かれています。作ってみて思うのは、「内部の音道が隙間なく組み立てられたスーパースワンがどれだけあるだろうか?」ということです。私が作ったものは、外側には多少の段差があっても、内部には隙間は全くない自信があります。

とはいえ、音はあくまで好みの問題ですね。あまりお金をかけないでこれだけの音が聞ければ、私的には満足です。


2016年9月
・長い棒作り

◆ 長い棒作り ◆

先月シェーカー椅子作りの講習会に参加し、現状ウチではやれていない”長い棒作り”をなんとかしたいと思うようになりました。「挽物」とも言いますが、木工旋盤の分野は、日本では古くから木地師という専門職があり、今も電話帳では"挽物業"として分類される専門職となっています。まとまった数の丸棒を作る場合は挽物のプロに外注した方がよいですが、椅子一脚分くらいは自分でなんとかしてみたく、無理を承知で、現有の木工旋盤に木製延長ベッドを作って、削ってみました。何分テストですので、もしも真似される場合は、充分安全確保に留意し、あくまで自己責任でお願いします。

現有の木工旋盤はKC-14という延長ベッドが付かないタイプです。余談ですが、この後継機種であるKC-14DOは馬力がアップしたうえ延長ベッドも付くようになって販売されていたのですが、突然販売終了になってしまいました。実は付かない延長ベッドを無理やりここに据えて削ってみようと思っていたのです.。取り付けが不可能な場合はKC-14DO本体を購入するつもりでしたので、販売終了なら意味なしということで、延長ベッドも購入しないことにしました。

さて、写真でおわかりのように、しっかりした長いテーブルを作り、ヘッドストックを同じ高さに固定できる木製ベッドを作っただけです(^^)。こんなヤワな工夫ですから、剛性なんて全く期待できませんし、木材をしっかり固定できるかさえ疑問です。ですが1mほどの長さの細い材となると、材中央部の振動の方が問題で、回転さえできればさまざまな工夫で丸く削るのは問題ないのではと考えました。テストに使った材は手元にあった2.5cm角の杉材です。杉は柔らかくてロクロ作業には不向きです。なので、これがそこそこ削れたら、ロクロに適した広葉樹はなんとかなると思います。

立派な旋盤があったとしても、細い材で長さが1mともなると、中央部の振動でうまく削ることはできません。振れ止め用ジグを併用したり、手でささえながら削ったりするようですが、まずは小国木材加工研究所(現鯛工房さん)のウインザーチェア製作講習会で知ったトラッピングプレーンを試してみます。

金属製スポークシェーブのような刃がついた写真のような特殊な道具です。上のバーを持ち、下の細いレバーを引きながら、削る道具です。本来はラウンダーと呼ばれる角材を丸くする道具で丸棒にしてからこれを使ってテーパー状にするようで、やっぱりある程度丸棒になってからでないと、うまくいきませんでした。また1mともなると、チャックでつかむか専用ジグを作って片持ちでも不安がないようにしっかり固定する必要があります。今回は通常の方法でどの程度加工できるかを見たかったので、両側固定でスイッチを入れるのも少々恐かったです。以前長さ60cmほどの2cm角材をラウンドオーバービットでほぼ丸棒にしてからこれでテーパー状のスピンドルにしたことがあります。その時は木片に四角い穴をあけた固定具を使った片持ちでした。

次に鉋を試してみました。日本の木製鉋でOKですが、教室で荒削り用に使っている古いブロックプレーンを使いました。台が減りにくく、刃口の広さも調節できるので、この作業には金属製の洋鉋の方が適しているようです。

木の繊維方向と回転方向をよく考え、鉋を斜めに傾けて削っていきます。鉋は一回の切削量を制限する道具ですし、刃がよく研げていれば、材を吸い寄せる働きもあり、これは具合がよいです。ただ、それでも中央部は振動が出て、正確には芯が出ません。最初8角形にした材を固定するとき、可能な限り、センターが狂わないようにセットすることが一番大切です。刃が切れていれば軽く当てるだけで削れますので、切れない刃で無理に押さえつけるような使い方をすると危険ですのでご注意下さい。

でもやっぱり、本当の鉋削りの肌にしたい。それで最後はロクロの軸を少しずつ回転させながら、この鉋で仕上削りをしました。厳密には多角形になるのですが、それも美しいと想います。そういえばテレビで見たイチロウの野球バットを削る職人さん、最後は鉋を使われていました。

ちょっと強引で即席な工夫でしたが、ゆるやかなカーブの丸棒にすることはこの方法でなんとなるようです。端に近い部分は通常のバイトで正確な加工ができますので、シェーカー椅子の後脚ぐらいの部材はなんとか作ることができるように思います。

次回この作業をするなら、次の点にを考慮したいです。

  • できれば、他の方法(トリマ、テーブルソウ、バンドソウ、ラウンダーなど)でほぼ丸棒にしてから作業をするとよい。
    ネットで検索すれば、電動ドリルと電動木工具を使って、丸棒を作る方法が多数紹介されています。かなり危険と思われる方法もありますので、安全面については十分注意してください。
  • 芯を可能な限り、正確に固定する。
    木材を挟むチャックを利用したり、真ん中に穴の空いた丸い木片を併用するなどの工夫が有効かも
  • 何より、目の通った真っ直ぐな材を選ぶこと。
    1mほどの長さになると、目切れのない材を見つけるのは困難。実用上強度に問題のない目切れかどうか判断する必要がある。

予算や場所に余裕のある方は、こんな工夫に時間を費やさず、しっかりした木工旋盤を導入してください。私もそうしたいのですが、それほど使う予定もないので、とりあえずこれで様子をみます。


2016年8月

・材木見本
・キャンプ

◆ 材木見本 ◆

教室は7月後半と8月前半が夏休みです。この機会を利用して、長めの旅行に行ったり、普段はできない工房整備、作品作りなどしています。先日は昨年11月の展示会でご一緒した中井木工さんから購入させていただいた20種類の国内材小片を並べる額を作り、工房の壁に設置しました。

20種類とは、タモ、カキ、ジンダイケヤキ、アカガシ、サクラ、クロカキ、ケヤキ、スギ、カバ、シオジ、センダン、セン、ヒノキ、トチ、ジンダイニレ、イチイ、モミジ、ナラ、チャンチン、キハダ、です。

私自身初めて見る木もあり、こうして実際に手にとって見ることができると本当にありがたいです。中井さん、貴重な材料を譲って下さり、ありがとうございます。余談ですが、ホゾの機械加工など、神経の行き届いた精密な加工で流石だと思いました。

額ブチは教材で在庫しているアルダー材で、そこに段欠きをして9.5mm厚のOSB板を入れました。そのままだと見本の木の色がわかりにくいので、白い顔料入り塗料を塗っています。そこにホームセンターで買ってきたL型の真鍮製金具を入れたのですが、サイズが合わなくて一度L型を直線に伸ばし、好みの長さに万力に挟んで曲げなおしたり、ネジの頭が飛び出すので長さを切ったりと、結構手間がかかりました。でもこうしてできあがると、やっぱり作ってよかったです。

残念ながら、これだけ多様な材料を教室では用意できません。貴重な材料を技術の未熟な私達が使うのは望ましくないと考えています。木工教室ではある程度安定供給され、比較的値段の安い3〜4種類の広葉樹材を教材としては常備しています。将来、このような材を使ってみたい時、あるいはツマミなど小さな所にアクセントとして用いる時などに役立つのではないでしょうか。

◆ キャンプ ◆

4年連続で北海道キャンプ旅行をしてきました。何歳までこのようなことができるかと思うと、やれる時に好きなことをやっておくのも大切ではと思うこの頃です。北海道はその広大な自然、人の少なさ、キャンプ場の自由感など、とても気にいっています。ハードな自転車だけの旅もしてみたいと思うのですが、自動車+自転車+登山という、それぞれのイイとこ取りができる旅もよかったです。

自転車を持ち込む方法をいろいろ模索しました。結局フェリーが便利ということになり、20年ぶりくらいでしょうか、新日本海フェリーを利用しました。以前は船内二泊で早朝小樽着だったと思いますが、速度が速くなったのでしょうか、今は午前1時頃出航し、苫小牧東フェリー埠頭に同日の夜20時30分着、約18時間の船旅です(行きは2時間遅れました)。ですが夜遅く着くため、その時刻からキャンプ場へ行くのは無理があり、ヨメサンも一緒だったため一泊目はビジネスホテルにしました。ということは、以前のような船内二泊の方が旅行には便利かもしれません。いろんな意味で車中泊やキャンピングカーは好きにはなれません。やっぱりキャンプですね。

簡単に記録を書いておきます。宿泊場所を探すのに”北海道キャンピングガイド2016”という本は重宝しました。


フェリーからの夕日

一日目 曇り
苫小牧 → 洞爺湖。
自転車で左回り洞爺湖一周、洞爺湖キャンプ場、併設の温泉
約40kmのサイクリング。北海道を走っている実感。夕方雨の中
テントを張る。新調の前室が広いテントは雨でも調理ができて便利。

二日目 曇り後晴れ
洞爺湖 → 余市、フゴッペ洞窟、環状列石など見学、小樽市街散策、 京極スリーパークキャンプ場 同温泉
歴史・史跡好きのヨメサンの希望での行動。山中に戻り、羊蹄山の見える広いキャンプ場が気持ちよかった。


羊蹄山はデッカイ

三日目 晴れ一時曇り
京極 → 札幌、真駒内公園駐車、豊平川サイクリングロードで札幌往復、千歳市「防災の森」キャンプ場、千歳の温泉
自転車をフル活用ということで、豊平川サイクリングロードから札幌ススキ野へ行き蕎麦屋で昼飯。その後夜8時の飛行機で一足先に帰るヨメさんを新千歳空港で見送り、空港から20分ほどのキャンプ場で就寝。街に近いところでも快適キャンプができるのはさすが北海道と思う。千歳は花火大会だった。

四日目 雨、夕方曇
新千歳 →
    釧路湿原 釧路市街、細岡展望台、達古武オートキャンプ場
本日より一人旅。雨の中、はるばる着いた釧路湿原を見て市内の蕎麦屋で昼飯。東側の細岡展望台はよかった。達古武のキャンプ場もグッド。自転車で湖周辺を散策。釧路のあたりは湿原だらけで、旅にはよいが、住むには厳しい場所のよう。


達古武湖

五日目 終日雨か霧
達古武 → 厚岸、原生花園あやめヶ原、霧多布岬、同温泉、根室風連湖、納沙布岬、尾岱沼キャンプ場(バンガロー)
小雨の中撤収。雨と霧で何も見えないなか霧多布岬。ここのキャンプ場は無料で良さそう。昼から温泉で優雅に過ごす。小雨の中納沙布岬、日本一周のヒッチハイカーを乗せて根室へ。彼を下ろして尾岱沼キャンプ場。でも雨のため、今日は5人用バンガローに贅沢な一人寝。風蓮湖から尾岱沼までもほとんど湿原の中のような道。


あやめヶ原の放牧馬

六日目 雨後曇り
尾岱沼 → 釧路 → 虫類、ナウマン公園キャンプ場、同温泉
強雨の中、襟裳岬へ向かう。長い道のり。昼過ぎ、寄り道したナウマン公園の温泉に入ったら気に入ってしまい、午後3時だが、ここの無料キャンプ場で寝ることにする。温泉併設のレストランで夕食、虫類の町の灯を見ながらのホットウイスキーはうまかった。


廃線の忠類駅

七日目 曇り午後雨、夕方曇り
襟裳岬、アポイ岳登山、道駅むかわ、同温泉、苫小牧東フェリー埠頭から敦賀へ。
あまり天気が良くないが、襟裳岬見学。十分時間があるので、アポイ岳の登山をする。途中本降りになり、標高差700m以上、往復4時間半の結構ハードな登山。下山後、乗船時間まで”道の駅むかわ”の温泉で汗をながし、夕食をとる。
その後、また長いフェリーでの時間を過ごし、翌日夜名古屋の自宅帰着。


結構ハードだった雨のアポイ岳登山

名古屋から近い信州にもキャンプ場は沢山ありますが、北海道のキャンプ場は別格です。小さなテントを持ち込み、フリーサイト利用なら宿泊代は0円〜1000円程度。4年も連続で行ったのですが、さて、来年はどうしよう?。


2016年7月

・はじめての鉋刃研ぎ

◆ はじめての鉋刃研ぎ ◆

 先日家具作りの傍ら木工教室をしている友人が教室の見学に来ました。その際、「ここまで手道具でやっているんですね!」と驚いていました。丁度その時は手作業の多いタイミングだったと思いますが、「自分の教室はそうなんだ」と認識を新たにしました。教室を始めた頃は、生徒さんには無理だと思うと、自分が手を出したり機械で加工していました。今は、出来栄えは良くなくても、安全が確保できればできるだけ自分でやってもらうようにしています。そこがウチの教室の特徴だと思っています。

さて、今月は独学が難しいと思われる”研ぎ”について、多くの生徒さん達を見てきた経験から、アドバイス的なことを書いてみたいと思います。まず知ってほしいのは、方法や考え方はひとつではないということです。最近では様々な木工書が発売されていますし、ネットを見れば動画まで見つけることができるでしょう。初めての方には、それらが”絶対”に見えるかもしれませんが、「それは違うだろう」と思うこともありますし、あくまで”ある人のやり方”と理解すべきです。ただし、それらの根底には共通の目的があって、それを達成するための方法です。勘のいい人なら、多くの情報の中で、本当に役に立ちそうな自分に合った情報を見つけることができるでしょう。

1、鉋の購入

 教室に入られる方で道具をお持ちの方も、入られる前に実際に道具を見させていただいています。オークションで買った鉋、あるいは昔技術家庭の授業で使った鉋等々、それらを大切に使いたいという気持ちはわかりますが、他人の研ぎ癖がついた鉋を研ぐのは、新品の鉋を研ぐのさえ難しいのに、はるかに難しいのです。

しっかり研ぎを覚えたいのであれば、最初は新品のちゃんとした鉋を買うべきです。ちゃんとした鉋とは・・・

  • 鉋身(大きい刃)と裏金(小さい刃)の両方が、鋼と柔らかい地金を合わせて作られた日本の伝統的刃物であること
  • 裏の平面がある程度できていること
  • 刃の仕込みが、ややキツメに、きっちりされていること。
  • 刃口が0.5mm程度であること。
  • 大きさは、鉋身の幅が54mm程度、両手で使える豆平と呼ばれる鉋ぐらいが適当。小鉋では刃が小さすぎ、仕上鉋の研ぎの練習にならない。
  • いきなり高価な寸八、寸六等の仕上げ鉋の購入は無謀。ある程度研げるようになってから。

上のような鉋は一万円以上します。高いと思われるかもしれませんが、職人さんがちゃんと作った鉋の値段としては最低ラインだと思います。買うお店ですが、できれば大工さんや職人さんが通うような大工道具専門店がいいです。残念ながらホームセンターによい鉋が売られているのを私は見たことがありません。ネット通販も最近は良さそうなお店がありますが、ここで取り上げるのは控えます。よく同じことを言っていますが、”紹介”という行為は、する方もされる方もリスクがあります。

大工道具の産地では、私の知るところでは、兵庫県三木市と新潟県三条市が有名です。どちらにもネットで販売されるショップもあるようですから、良い道具店が身近で見つけられない方は、このような産地地元のネットショップを探してみるのもよいかもしれません。私の実家に近い三木には「道の駅三木」があり、金物展示館が併設されていて店頭で購入可能です。

2、砥石の購入

砥石も最近はさまざまな製品があり、選ぶのに苦労するほどです。ただ、初心者に「高価な天然砥石は全く必要がない」ということは確かです。その他、選ぶに際して一般的注意点を書いてみます。

  • 仕上砥と中砥が表裏についているコンビ砥石は、本格的研ぎには適さない。
  • 中砥は、柔らかめの方が最初は使いやすいと思う。1000番から1200番。
  • 仕上砥も柔らかめが研ぎやすい。名倉砥が付属する商品が便利。
  • 新品の鉋を研ぐなら、荒砥は要らない。

教室ではベスター1200番と嵐山(名倉付)を使いますが、セラミック砥石は沢山種類があり、ネットとかの評判をよく見て購入されたらいいでしょう。中砥で昔からの定番であるキング1000番もいいですが、減りが早いのと赤黒い色のため研ぎカスの色が見えにくい傾向にあります。

なお、裏出し用の金盤もほしいところですが、この作業は大変難しく、また裏をダレさせてしますリスクも大きいので、新しい鉋刃の裏がある程度できているなら、表だけ研ぐか、あるいはよく平面に整えた中砥で裏出しを短時間ですますのが無難なように思います。刃の裏の大切さがわかった時に、金盤やダイヤモンド砥石など、自分に適した裏出し用研磨砥石を買えばよいでしょう。

3、その他の道具

  • 玄翁(げんのう)は225gかそれより軽い目。重いのは、微調整がやりにくく、力のある人だと刃を傷めやすい。
  • 5mm以上の厚さのある30cm四方程度のガラス板。台の平面を見るのにこれが威力を発揮する。
  • 下端定規がほしいところだが、安価な30cmステンレス尺でも当面使用可能。
  • 研ぎ桶は、丈夫なプラスチックコンテナが使える。
  • 砥石の面直し用ダイヤモンド砥石。400番くらいの安いものでよい(平らなもの)。

4、日本の刃物の研ぎ

海外の木工用刃物は、一部軟鉄で鋼をサンドイッチにしたナイフはありますが、多くは鋼だけでできています。例えば洋鉋の刃は厚さ3ミリ程度で、一定した角度で保持し研ぎあげるのは難しいため、角度保持用のジグを使う方が多いようです(慣れれば手だけで研ぐことは可能)。また刃の裏全体が平面となっています。

これに比べ、日本伝統の刃物は1mmくらいの硬い鋼と6mm〜10mmくらいの柔らかい地金を合わせて作ってあります。形は手作りのため不定形で、裏は刃先が砥石によく当たるように中央部が凹ませてあります(裏スキ)。ですので、研ぐ角度を保持するためのジグには適していません。ですが、地金が厚いため、しのぎ面(研がれて斜めになっている面)の幅が9〜15mmくらいあり、このしのぎ面を角度保持に使うことができます。刃物自体にジグを備えているとも言えます。

研ぎを覚えたい方に新品の鉋を使っていただくようお願いするのは、しのぎ面が機械で削ってあり、ほぼ平面だからです。初心者の段階では、刃先角がどうのというようなことは気にせず、すでにあるしのぎ面を平面のでた砥石上面に密着させて研いでいく感覚を身に着けてほしいのです。力を入れる必要はありません。とにかく、しのぎ面を砥石の上に置いて、グラグラしない安定した持ち方を模索してください。そして、そしてそのまま砥石の上を滑らせるように動かすことに慣れてください。

力は軽く、どんなにゆっくりでもよいですから、しのぎ面が砥石についていることを指先で感じられるように動かしてください。人によっては往復せずに、手前から向こうへの一方通行でもよいし、逆に往復しないとうまくいかない人もいます。刃は砥石に対して直角にこだわらず、私は斜め45度くらいで研ぎます。どうしてもグラグラしてしまう人は横研ぎでもかまいません。とにかく、一番大切なのはしのぎ面を砥石上面に添わせて研ぐことにつきます。

一分間以上連続して研がないでください。刃が立っていたりすると、1分でも多大なダメージを受けてしまいます。ちゃんと刃先が砥石に当たっていれば1分で刃返りがでる場合もあります。とにかく絶えず刃先のどの部分が砥石にあたって研げているかをチェックし、力の入れ方、持ち方、横研ぎか斜め研ぎか、セルフチェックをします。

私は砥石の長さいっぱいにストロークしますが、人によっては半分もしくは3分の1くらいの短いストロークの方がうまくゆく場合もあります。また研ぐ時、腕だけを動かすのではなく、頭も含めた上体全体で前に進めるように研いだ方が、丸刃になりにくいと思います。「砥石ではなく、丸い地球の上を研ぐような気持で」というアドバイスをされる方もあります。

ちゃんと研げていれば、砥石の表面に真っ黒な汁(研ぎカス)がでます。もしも茶色がかった色があったりすると、地金だけを削っている可能性があります。このような時、しのぎ面全体がギラギラ光っていることでしょう。ちゃんと研げていれば、刃先の細い鋼は光り、地金は灰色に曇ったままです。

なんとか、しのぎ面を密着させながら研ぐことができるようになればいいのですが・・・。それができたら、おそらくそのままだと刃自体の重さによって、柔らかい地金だけが研げて、段々刃先角が狭くなっていきます。上図Gの重心が関係しているわけです。ですから、次の段階ではGの重力を手で支えてやる必要があります。私の場合は左手親指がその役割をしています。この時注意したいのは、刃の重さを受けとめるだけで、刃を立たせてはいけないということです。

同時に硬い鋼がよく砥石に当たるようにAのところを右手と左手の人差し指と中指で上から加圧します。この時も一日研いでも疲れないくらいの軽い力です。

このようにして、なんとか刃先まで真っ直ぐに、要するに丸刃にならないように研げるようになることが大切です。できないからと、ここで諦めないようにしてください。冶具で研ぐことを否定はしませんが、手間や刃先角の再現性を考えると、手だけで研げることがとても大切になってきます。腕のある職人さんが冶具で研いでいるのを見たことがありません。

実際の鉋がけでは、初心者の方が想像するよりはるかに早い段階で研ぎなおします。その方が結果として仕事が速くなりますし、刃先があまり鈍くなっていない状態で研ぐので、一分とは言いませんが二〜三分で研ぎあげることができるのです。

全ての人がうまく研げるようになるとは思いませんが、うまくいかない方や丸刃で悩んでおられる方は、頭を白紙にもどし、トライしてみてください。


2016年6月

・木の箱物・・・重さに注意
・木工家ウィークNAGOYA・2016、撞木館での椅子展

◆ 木の箱物・・・重さに注意 ◆

教室の応用コースに進まれた方が、テレビ台や食器棚などの比較的大きな箱物を作りたいという希望がよくあります。その気持はよくわかりますが、重さのことを考えずに作り始めると大変苦労することになりがち、十分注意が必要です。

食器棚などの設計を始める時、おそらく家具店に並んているような家具のイメージから出発されると思います。でも市販されている箱物家具のほとんどは、フラッシュ構造という中空構造の板を組み合わせて作られているため、見た目より軽くできています。中空構造は決して低級ということではなく、軽いうえに狂いも少なく、利点が大きいからこそ広く使われています。日本では無垢の木でできた家具の方が高級とされる傾向がありますが、欧州などでは軽い針葉樹の芯材の上に無垢の薄板と突板を直角に貼り合わせて作られた家具が最高級とされるようです。

 例として図のような、ホームセンター等でよく見かけるサイズ(幅42cm,奥行き29cm、高さ89cm)の三段ボックスを無垢の板で作る場合を考えてみましょう。なお無垢材では収縮や反りの関係で、奥行き30cm以内が望ましいです。それ以上の奥行きの場合、框組で作ることをおすすめします。框組ですと、鏡板を薄くすることで重さも軽減できます。

まず最初に各部材のサイズと数量から必要な材料の体積を算出します。表計算ソフトを使えば簡単に計算できます。このサイズで板の厚みを18mm、裏板は4mmの合板使用と仮定した場合で、次の表のように、合計体積は0.019573立米となります。実際にはこの1.5倍ほどの材料から削りだしていくことになります。

  厚さ 長さ 奥行き 数量 体積
棚板 0.018 0.42 0.29 4 0.00877
側板 0.018 0.89 0.29 2 0.009292
裏板 0.004 0.42 0.3 3 0.001512
        合計体積 0.019573

これをどのような木で作るかですが、楢や桜などの重厚な広葉樹を使って作った場合、比重を0.8とすると15kgくらいになります。市販の三段ボックスの多くは8〜9kgですので、同じ厚さで作ったとしてもかなり重くなります。針葉樹のような軽い木なら10kg程度に収まるかもしれません。

木材比重 重さ(Kg)
0.9 17.6
0.8 15.7
0.7 13.7
0.6 11.7
0.4 7.8

リビングに置く重厚なテレビボードだと、もっと大変な重さになります。何も考えずに作ると40kgくらいになってしまうことがあります。力の強い元気な人なら問題ないかもしれませんが、実用面からも軽い方が好まれるようになってきています。”すべて木”にこだわる必要はないと自分は思います。また電気製品を入れる棚などは、予想以上に発熱するため、無垢材の変形による不具合が出やすいです。水まわりも木製が一番よいとは思いません。

下の写真は、お恥ずかしいですが自宅の洗面所です。ハードメイプルの作り付けの洗面台の下には、ホームセンターで購入したプラスチック製の三段引き出しボックスを置き、着替えなどを入れています。プラスチックの質感と明るい木の色との取り合わせが気に入っています。壁のシェルフは裏板なし、タモ材で作ってあります。余談ですが、この洗面台は作ってから17年目で、最初は真っ白だったハードメイプルがこんな飴色に変化しました。塗装はオスモのウッドプロテクターです。

木工教室をしている自分が言うのもなんですが、「何が何でも木!」ではなく、適材適所、こだわりすぎずに木を使いたいですね。重厚な家具よりも、機能的な軽い家具が好みです。教室でも軽い感じを好まれる方が多くなっています。

◆ 木工家ウィークNAGOYA・2016、撞木館での椅子展 ◆
(終了しました。ご来場いただいた皆様、スタッフの方々、ありがとうございました。)

木工家という呼び名、どうも性に合いません。茶道家、華道家、柔道家・・・、”家”が付くと権威的な感じがし好きではないです。ですが当初実行委員をしていましたし地元名古屋での開催でもあり、椅子展に出展させていただきました。行かれた方は座っていただければ幸いです。

木工家ウィークNAGOYA・2016

木工家がつくる椅子展

趣味の木工とプロの木工、私が木工を始めた頃から、よく論議がありました。しかし最近は独立された木工家さんも多くなり、趣味の木工との間に以前より谷間が広くなっているように感じています。プロはそれで生活していかねばなりませんから、自分の手の内をあまり見せないものです。一方、趣味の人は純粋に木工を楽しむ立場ですから、両者の間に溝ができるのは宿命かもしれません。でもプロの木工家さん達も昔は素人だったわけで、趣味の方とも話ははずむことが多いのではないでしょうか。教室の生徒さんには、以下のような展示会を見る時のマナーを示しています。ちょっと気にかけていれば、作者の方と楽しい交流ができるかも。ご参考まで。

展示会見学のマナー

  • 触らず、座らず、動かさず。見るだけが基本。(上記椅子展は座れます。キズをつけないように)

  • 写真撮影は基本しない。じっくり見るべし。(上記椅子展では一部可)

  • 場合にもよるが、自分の仕事や名前を明らかにする方が望ましい。

  • 他のお客さんとの接客を邪魔しない。

  • 企業秘密?、木材の仕入先等の質問はさけるべき。


2016年5月

・ヒッター
・バンドソウの刃をグラインダーで研磨

◆ ヒッター ◆

 鉋刃にかぎらず、日本の刃物は「裏が命」です。裏が刃先の先端まで仕上げ砥石に当たり、いわゆる糸裏状態を維持することで、刃物本来の切れ味を発揮できることに異論はないと思います。このためには、刃の裏をごくわずかに湾曲させ、ベタ裏にならないようにする必要があります。それが「裏出し」作業で、金床と軽い玄能で地金を叩き、延ばすことで裏出します。しかし、この作業は熟練者でも鋼を割ってしまう恐れのある難しい作業です。これを安全に能率よく行うように工夫された機械が、ヒッターです。

写真には写っていませんが、刃を置く台の中心部が少し凸状に盛り上がっています。これによってハンマーの先端とその凸部の間で鉋刃を叩き、地金を延ばすことができます。黒いベークライトは位置決め用で位置を調整できます。刃は左右にスライドする固定具に蝶ネジで固定し、左右に動かしながらハンマーで叩きます。叩くのはもちろん手動ですが、手で叩くよりも好みの高さからハンマーを自然落下させると具合よいように思います。

今までは写真奥の鉄の塊の角を使い、玄能で叩いていました。私は玄能で叩くことに慣れているのですが、ヒッターの方が早く裏出しができるようです。

ヒッターは同じ場所を叩くので、かなり大きな溝ができてしまいます。このダメージがどのような影響を与えるかはわかりません。刃のダメージを少なくしたい場合は、コツコツ叩く従来の方法がよいようです。

何人かの生徒さんに使ってもらいましたが、誰でもが使いこなせるわけではないように感じました。やはりヒッターでも繊細は扱いをしないと刃を痛める可能性がありますし、何より「裏押し」の意味を理解し、確実にできる人でないと効果が生かせないように思います。

教室では以前より手加工を重視するようになってきています。例えば上のような作業はルーターやトリマで簡単にできますが、手鋸で深さを決めて両側を切り込み、ノミで底をさらい溝幅を調整する・・・。このような地味な手作業も大変意味があります。電気でギュイーンとやるのと全く違います。手で精密に加工するには刃物が切れないといけません。そのためには何よりまず刃の「裏」ですね。

◆ バンドソウの刃をグラインダーで研磨 ◆

最近、バンドソウの刃をアメリカから買ったのですが、残念ながらあまりよくありません。刃の振動(ブレ)がやや多いのです。安いカーボンスチール製の刃は、当たり外れがあるようです。それで何とかならないかなあとネットを探していたら、Youtubeでこんな動画を発見しました。

https://www.youtube.com/watch?v=rIo-JF8cn2U

グラインダーを使い、バンドソウ刃のすくい面ではなく、表側(逃げ面?)を手持ちでラフに研磨しているのです。そこで使わなくなった刃をダメ元で研磨してみました。

ビデオではグライダー砥石の側面を使っていましたので、最初は同じように側面でやってみました。このためには、刃をクルッと裏がさねばなりません。そしたら、これがよく切れたのです!!!。おそらく左右のバランスなど、刃の精度は少し落ちていると思うのですが、すばらしい切れ味になり、実に軽く切れるのです。それに気を良くし、他の刃も研磨してみました。今度は刃を裏返さず、グラインダー砥石の正面で研磨してみました。これでも十分よく切れるようになりました。

とにかく使わなくなった刃を一度グラインダーで研いでみてはいかがでしょうか。ウチの刃は105インチの長さで3TPIですので、約300の刃があります。刃一つを二秒で研磨できれば600秒、約10分で終わります。ゆっくりやっても20分程度の我慢です。なお、グラインダーの砥石破損による事故などに十分に注意し、自己責任でやってくださるようお願いします。

これまで自分で作った”すくい面”を研磨する機械で再研磨していましたが、グライダーを使うこのラフな方法が予想外によい結果です。精度がすばらしい超硬チップ刃のバンドソウ刃にはかないませんが、縦引き、挽き割り等の一般的な加工であれば、これで十分と思います。


2016年4月

・水平回転式研磨機で手押鉋盤の刃を研磨
・額縁用溝切ジグ

◆ 水平回転式研磨機で手押鉋盤の刃を研磨 ◆

ブログでも少し書きましたが、マキタの2万円ちょいで買った水平回転式研磨機(刃物研磨機 98201)で、300mmの手押鉋刃を研磨している様子を説明します。あくまで一例ですので、試される時はご自身の環境に応じた方法を模索し、大きなダメージを刃に与えないようにしてください。

取説をよく読んで、水を十分に砥石に含ませてください。水タンクから水の出てくる位置や水の量は重要です。周囲に水が飛び散らず、かつ砥石上面を濡れた状態に保てるようにします。固定した刃をスライドさせるレールの角度は、手持ちのデジタル角度計を使って、砥石上面を0度にリセットしたうえで、私の場合は50度に設定しています。

写真上は刃を固定する際、器具からの刃先の出方が一定になるようにするための自家製ジグです。ここに刃をのせて、固定プレートを軽くおさえながら、4本のネジを軽く回して、刃先が上のフエンスに当たるようにしっかり固定します。このジグの目的は、刃先がいつも一定量が固定金具から平行に出ているようにするためで、3枚の手押鉋刃を同じように研磨でき、また研磨機への当たり具合も一定にできます。

さて、いよいよ研磨です。刃先がかすかに砥石に当たるか当たらないかの位置にし(はじめは当たらないくらいがいい)、一度軽くスライドしてみて、様子をみます。このあたりのコツは説明しにくく、試行錯誤するしかないでしょう。最後のわずかな調整は角度調節ネジを使ってもよいかもしれません。

砥石の右半分を使って刃を研ぎます。取説にも書かれているように、砥石はほんのわずか水平よりも回転外側に傾いているようにすることで、刃が進行方向が逆の砥石の左半分に当たらないようにします。

私は研磨屋さんで研磨された角度よりごくわずか刃を立てて研いでいます、厳密には二段研ぎになるのですが、角度差はほとんどありません。砥石が当たって研磨され、光っている部分は刃先の0.5mmくらいです。本当に微妙な調節です。また研磨機自体の剛性があまり強くないので、力の入れ方で多少研磨具合が変わってきます。慣れてくれば逆にこれを利用し、力加減で研磨の程度を多少加減できるようになるかもしれません。

刃先まで研げてわずかな刃返りを感じたら、刃を外し、裏を研ぎます。1000番の回転砥石で研磨すれば、仕上砥石を使う必要はないようです。水を使いたくないので、仕上げ用の油砥石で刃返りを取るだけです。写真の砥石は、アーカンサスの高級品ですが、小さな仕上げ砥石でやさしく裏をなでるように研磨すればよいと思います。

こんな感じで、手押鉋盤の刃は研磨屋さんに出す前に一回研いでいます。400mmの自動鉋の刃を研磨するのはリスクがありそうで試していませんが、手押鉋の刃だけでも自分で研磨できれば、メリットは大きいです。教室の場合、自動鉋の刃は手押の倍くらいの期間研磨せずに使えるので、途中に一度自分で研ぐことで、研磨屋さんに出すタイミングを両方同じにできて重宝しています。

◆ 額縁用溝切ジグ ◆

教室では手加工を重視していますので、額縁の留め(45度)も留め定規を使い、最初は自分で削ってもらいます。また接合部も両側に穴を掘ってサネを入れたり、ホゾ組にしたりします。

しかし、てっとり早く額縁を作りたい場合は、イモで留めを接着し、その角に溝を作り、薄板(チギリ)を入れることもあります。チギリの溝加工も手ノコでできないわけではなく、それはそれで味わい深いものがありますが、簡単なのはテーブルソウによる加工でしょう。でも、やや危険を伴うので、生徒さんが勝手にテーブルソウでの溝加工をすることは禁止しています。それでなんとか安全に自分でチギリを入れる溝を加工してもらえないかと考え、ジグを作りました。

写真のようにベニア板角材をネジと接着剤で固定したものです。

使い方は写真を見ればすぐわかりますね。溝の位置を変えたい場合は、材料のしたに1mm、2mm、3mmのアクリル板を組み合わせて底上げするなどして対応しています。

チギリの厚みが4mmになること、またあまり大きなチギリは入れられないこと、溝の奥が円弧状になることなどの問題はありますが、安全に誰でも溝加工ができるので便利です。


2016年3月
・リョービのトリマ、TRE-60V

◆ リョービのトリマ、TRE-60V ◆

またトリマを買いました。これが8台目ですが、教室ではビットの交換が面倒なので、数種類のよく使うビットをそれぞれ専用のトリマに取り付けているためです。が、道具好きで買ってみたかったこともあります(^^)。

TRE-60Vは日本メーカー製では初めてだと思いますが、トリマで電子制御の変速機能付き、またDewalt社のトリマで評判がよい本体周囲に切った螺旋状の溝にはまるリングを回してビットの出を調整できる機構を持っているため、前から注目していました。ネットで安いところを探し、2万円ちょっとでした。

標準付属品は写真のとおりで、本体の他、レンチ、ストレートガイド、6mm径ストレートビット、それにテンプレートガイドが付属します。

テンプレートガイドは別オプションの場合が多いので助かります。また予想よりしっかりしたものでした。取付はポーターケーブル社のルーターと同様、ネジを切った大きなリングでベースを挟みこむタイプで、脱着しやすくてよいです。ただし届いたものは、若干ネジの動きが悪く、オイルスプレーをかけて、スムースに動くようにしました。とにかくテンプレートガイドが標準付属であることはポイントが高いです。

Dewalt社(以下D社)のトリマに比べ、本体が細身で握りやすいです。ただ、写真のようにD社の本体は銀色に輝くメタルですが、リョービは樹脂製です。このためでしょうか、リングを回してのビットの調整のスムースさはD社に軍配が上がります。しかしながら、従来のマキタや日立製トリマに比べれば、ビットの出を調整するのは格段に楽、かつ直角がでて精度が高いです。

コレットコーンの比較です。左からリョービ、ボッシュ、D社で、順にコレットの長さが長くなっています。マキタや日立も同じ形状ですが、日本のトリマのコレットコーンは短い円錐状で、緩めやすい反面、ちょっと頼りない感じがしますね。D社のコレットは、ヨーロッパでルーターとして使われているものと同じで、長くて精度が良さそうです。なお、持っているTREND社のT5ルーターのコレットコーンと全く同じ形状・サイズだったので、6mm軸も8mm軸もD社のトリマで使うことができています。

地味ながら、リョービ製が優れているのはスイッチです。オンにするには写真の凹んだ部分を上に持ち上げ、オフするには押し下げるだけ。誤ってスイッチをオンにしてしまう危険性が少なく、オンかオフかの状態もすぐにわかります。また逆さにしてビットを取り付ける時には絶対オフになりますね。コンセントを入れたらスイッチがオンに入っていて回り出し、ビックリしたという方もおられるでしょう。この安全面をよく考えられたスイッチは素晴らしいと思います。

さて、比較されることが多いと思われる、同じ機構のD社トリマとの比較です。

リョービの方が優れてところ

  • 細身で握りやすい。
  • 日本の電圧で正式に使用できる。
  • 丈夫なテンプレートガイドが標準で付属。
  • スイッチが安全面で優れている

逆にD社の方が優れているところ

  • ボディーが金属製で、ビットの出の調整がよりスムース。
  • 証明用LEDが2つ。(リョービは1つ)
  • コレットコーンがしっかりしており、軸径8mmのビットもコレットを交換すれば使用可能

安心な日本のメーカーの製品であり、8mm軸ビットが日本ではあまり普及していない現状では、D社よりも使い勝手はよいと言えます。購入したばかりで、耐久性についてはわかりませんが、マキタ、日立の製品よりは確実に進歩したトリマだ言ってよく、毎日何時間も使用するプロでなければ、トリマはこれで決まりという気がします。今後集塵アダプタと6.35mmコレットを購入する予定で、教室の古いトリマを段階的にこれに交換してゆく予定です。


 

2016年2月
・LibreCAD

◆ LibreCAD ◆

 昨年末に現有のwindowsパソコン全てをwindows10にバージョンアップしましたが、ダマシダマシ使ってきた2DCADのAutosketchがついにまともに動かなくなってしまいました。3DはSketchupで大丈夫なんですが、やはり手軽に図面を書くことができる2DCADも必要で、無料で使用できるCADを中心に探してきました。そしてようやくLibreCADが私の使い方に適していそうだという感触を得ました。今月はその簡単な紹介です。

 LibreCADは、Windowsだけでなく、MACやLinuxでも動作可能な無料で使用できるCADソフトです。無料で使用できますが、本格的に使うようになったら、開発元に少額の寄付をするのが望ましいでしょう。またLinuxでも使えるというのは、個人的にとてもいいと思います。

 「方眼紙に書くようにコンピューター画面上でも書きたい」というのが私の2DCADへの希望です。グラフ用紙の替わりにグリッドを表示してそこにスナップするように素早く書きたいわけです。LibreCADで簡単な椅子の図面を書いてみました。下図はその全体像ですが、ホームページで見やすくなるように小さく表示しています。実際にはフルスクリーンで使っています。

LibreCADで一番気に入ったのが、自動グリッドです。下図では1cm間隔で表示されていますが、これをズームアップしていくと・・・

次のように、さらに10分の1の間隔、すなわち1mm間隔のグリッドが自動的に表示されるのです。家具では1mm単位で図が書ければ十分だと思います。

CAD初心者の方にわかりにくいのが”レイヤ”ですが、透明なシートと考えるとわかりやすいです。私は次のようにレイヤを設定しています。0:補助線、外形線:線幅0.35mm、寸法、隠れ線:0.15mmのような感じです。そうすると、外形線レイヤを選んで図形を書くと少し太めの線で描かれます。また目のアイコンをクリックするとそのレイアの表示、非表示が切り替えられ、外形線だけを表示したりできるようになります。

 

図面を書くときは、とにかく原寸で書けばいいです。ですが、それでは寸法値などが小さく表示されてしまいます。LibreCADで椅子の設計図を縮尺1/5で印刷したい場合、次のように寸法の設定で縮尺を5に設定すると、設定した文字の大きさで印刷されます。

印刷する場合は、印刷プレヴューを表示し、図の青丸のところで、5分の1の意味である1:5を選ぶと、縮尺1/5で印刷できます。

 CADはとにかく慣れることが大切ですので、これと決めたCADで格闘しながら、まずは簡単な図形を書いてみることですね。日本でフリーで使えるCADではJWCADが有名ですが、独特のマウス操作が馴染めない方も多いのではないでしょうか。将来設計の仕事をされる方はAutoCADを練習する方がよいかもしれませんが、初めての方にはとっつきにくいと思います。一方、LibreCADは使っている方も多くはなく、使い方を解説したサイトも少ないようですが、直感的に操作がしやすいCADのように感じます。無料ですし、2DCADをお探しの方は一度試されてはいかがでしょうか。

LibreCAD日本語情報トップページ


2016年1月
・「第15回木工教室作品展」出品作品
・バンドソウブレードについて

◆ 「第15回木工教室作品展」出品作品 ◆

昨年10月末に開催しました「第15回木工教室作品展」の出品作品を下記のページで公開しました。
(無断転用、転載禁止)

「第15回木工教室作品展」出品作品

 

◆ バンドソウブレードについて ◆

欧米の木工現場ではバンドソウの使用頻度が日本より多く、少々大げさですがアメリカでは「家に一台」と言えるほど、一般家庭のガレージの奥にバンドソウが置いてあったりします。このため、バンドソウブレードメーカーも多く、製材用の巨大な帯鋸を除けば、日本より欧米の方がバンドソウ本体も刃も優れていると思われます。

昨年後半、バンドソウの切れ味がイマイチなので、パーツの交換を含め、いろいろ工夫してみましたが、本体の能力よりも、刃の性能の方が格段に影響が大きいことも実感しました。それで、今まで使ったバンドソウブレードについて、印象を書いてみます。

バンドソウの刃のサイズですが、多目的に使うには「1/2インチ、3TPI」が代表的です。私も長年このサイズの刃を使っています。日本のサイズで言えば、幅13mm、3山ということになります。曲線を切ることが多い場合は、少し細目の3/8インチ4TPI(幅10mm、4山)の方が、より使いやすいでしょう。刃のならびはレイカーセットと呼ばれる、タテ・ヨコ・真っ直ぐの刃の組合わせパターンが私の好みです。

ここからはグダグダと今までの経緯です。

かなり前の話でどこから聞いたのか忘れてしまいましたが、冷凍マグロの切断にLENOX社製の刃が使われていることを知りました。そこでネットで探し、5本ほど個人輸入してみました。それがなかなかよく切れたので、在庫がなくなった時にもう一度取り寄せたら、どうも溶接の具合があまりよくなくて、初回のような安定した切れ味ではなかったのです。それで他の木工関係通販会社から同じようなカーボンスチールのブレードを取り寄せて使っていましたが、Lenoxよりも切れ幅が広く、あまり気に入りませんでした。

別の個人輸入の機会に、切れ味が長持ちするということで、カーバイドチップ刃のブレードを買いました。これはすばらしく切れたのですが、2万円近くした刃が2か月ほど使っただけで切れたことがあり、常用するにはいたりませんでした。

その後、円安傾向になったこともあり、入手が安心な日本製で探したところ、おそらく唯一細目のバンドソウブレードを国内製造している「フナソウ社」の刃を使ってみることにしました。まずまずの切れ味でしたが、切れ幅がやや広く、ウチの機械では走行もやや不安定な刃もあったりして、また悩むことになったのです。試しに昔買っていたカーバイドチップ付ブレードを再度使ってみたところ、カンナをかけたほどの平滑な切断面と安定した走行で、極めて高い評価となりました。ただ、材料が厚くなると、負荷が大きくなるためか、切断が不安定になる傾向があります。

結局、教室などでの多目的な切断には最初使っていたLenox社のカーボンスチールブレード(フレックスバック)がよいようです。

写真上はLenox社のカーボンスチールブレード(1/2インチ3TPI、RakerSet)です。下はLenox社の評価の高いTRI-MASTER(超硬チップ刃)です。幅広板の挽割をしないのであれば、値段は高いですが長持ちしますし、後者がよいと思います。本当にすばらしい切れ味です。販売店もネットで探せばいくつも見つかると思います。一方、無理な使い方もある教室のような場合、刃先の切れ味は少し劣りますが、値段の安い前者のカーボンスチールブレードが適していますね。

使用経験はありませんが、アメリカの木工通販”Rockler”が扱っているOlson社やカナダの通販”LeeValleyTools”のVikingブランドの刃も評価が高いようです。でも、できれば日本製で良いのがあればいいですね。ご存じの方おられましたら、教えてください。

とにかく上記TRI-MASTER(超硬チップ刃)の性能は本当にすばらしいので、高価ですが、一本持っておいて損はしないと思います。


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