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2015年12月

・木の仕事展IN東海2015
・デルタバンドソウのプーリー交換

◆ 木の仕事展IN東海2015 ◆

 ご来場いただいた皆さま、そしてスタッフの皆さま、ありがとうございました。二年ぶりの合同展示会でしたが、参加してよかったと思います。写真のように約10年間作りためた「思い出の箱」シリーズは、自分で言うのもなんですが、見て触って楽しめる展示だったと思います。折りたたみ軽量ダイニングテーブルやアームチェアも好評でした。非売品が多く、会場に来られたお客様にはご迷惑をおかけしたかもしれませんが、”売るためではない作品”というのも、また意味があるのではと身勝手に考えております。また機会がありましたら、ぜひお出かけください。

 そして何より、出展者仲間からよい刺激を沢山もらいました。木工教室で一人親方でいると、どうしても現状維持的になりますが、今回技術や作風だけではなく、生き方も勉強させてもらうことがありました。できることなら、自分も他の人の参考になっていることを願うばかりです。

◆ デルタバンドソウのプーリー交換 ◆

2か月ほど前、30年近く使っている米国製デルタ14インチバンドソウのプーリーの固定キーが外れるという故障が発生しました。以前から気になってはいたのですが、バンドソウを動かす駆動系のプーリーが1mmくらい振れていまして、こんな状態では精度よい切断はできっこないと改善方法を模索していました。純正部品は入手困難ですし、交換するなら精度の良い日本製のプーリーだと思っていました。でも、部品が合わないことも予想され、交換は慎重になっていました。

今回の故障で重い腰を上げ、日本製プーリーを探すことにしました。次は調べた情報です。

従動側プーリー:外形158mm、軸径19mm、溝はA型?、平行キー(サイズ4.7X4.7)、重さ約800g

駆動側プーリー:外形71mm、軸径15.9mm、平行キー(サイズ4.7X4.7)

ベルト:実測外周長は1395mm。A55型でよさそう。ただ、負荷軽減のためだろうか、厚みが8mmでガタガタしたタイプ。


元のアルミ合金製プーリー

プーリーなどで定評のある「鍋屋バイテック」のホームページでいろいろ見、さらにわからないところは電話で質問し、下記方針でいくことにしました。

  • 重さが軽い方がよいので、今回はJISではなくインチ基準の標準プーリーが適している
  • サイズは同じものがなければ、小さいものより若干大きい方がよい(カバーに接触しない程度)
  • ベルトは今後の交換のことを考え”A55”で決まり
  • 固定キーは旧JISタイプの平行キーでよさそう

具体的に選定するまではいろいろ迷いがあったのですが、結局下記のプーリーに決定し、穴加工、キー加工、止め捻子加工をオプションで追加しました。

  • 駆動側:3-A-1*16-BKS-HQ-P
  • 従動側:6 1/2-A-1*19-BKS-HQ-P

記号がわかりにくいですが、*より前が品番で、後が加工オプションを表しています。例えば16-BKS-HQ-Pで、BKSは軸穴径16mmで穴とキー溝と止め捻子1個の加工で、HQは平行キーの旧JISタイプ、Pはネジ付きの意味です。

正直注文する時は冷や汗ものでした。ただ合計金額が5500円ほどでしたので、最悪の場合は諦める覚悟でした。そして届いたのが次の写真です。


届いたプーリー

肝心の取付が心配されたのですが、このサイズでよかったようです。上下とも無理なく、いい感じで入ってくれました。やはり日本製はしっかりした感じで、前より重いです(従動側800g→1300g)が、問題なく動きました。以前との差は、スイッチオフ時の回転停止までの時間がやや長くなったくらいでしょうか。


装着後の様子

ベルトの振動も少なく、部品の調達が国内製で可能になった安心感は大きいです。現在入手可能なバンドソウにも応用可能かどうかはわかりませんが、何かの参考になれば幸いです。


2015年11月

・第15回作品展終了
・木の仕事展IN東海

◆ 第15回木工教室作品展終了 ◆

 今年は天気に恵まれ、三日間全く雨に降られずに作品展を終えることができました。ご来場いただきました皆様、ご協力いただいたスタッフの皆さま、本当にありがとうございました。

 この一年新しく入られた方が多く、最初の課題である筆箱やスツールが各々10点以上並びました。このためでしょうか、工房での大物の展示は少し点数が少なかったかもしれません。各作品の紹介は、来年1月のページでさせていただく予定です。

◆ 木の仕事展IN東海 ◆

 久々に木の仕事の会の合同展示会に参加します。今まで作った「思い出の箱」シリーズをメインに、新作の折りたたみダイニングテーブルや椅子を見ていただく予定です。アットホームなゆる〜い展示会ですので、皆さま、気軽にお越しください。

木の仕事展IN東海 2015

11月27日(金)〜11月29日(日) 10時〜18時(最終日17時)
東桜会館 名古屋市東区東桜2-6-30
052-973-2223

 

 


2015年10月

・第15回木工教室作品展
・紅花油

◆ 第15回木工教室作品展 ◆

今年も木工教室作品展の季節がやってきました。一年間楽しみながら作った(時には苦労も・・・)作品が約100点並びます。近くに来られる機会がありましたら、ぜひ見に来てください。

会期:10月30日(金)午後1時〜11月1日(日)午後5時
時間:30日(金)PM1−6、31日(土)AM10−PM6、1日(日)AM10−PM5
場所:宮本家具工房 JR大曽根駅よりゆとりーとライン乗車、西小学校前徒歩5分

 街中のギャラリーで行われる木工作品展示会は、見てもらうことに意味があるとしても、最終的には販売目的です。どうしても、売れる作品がならぶことになります。これに比べ、ウチの展示会は、見てもらうことが目的なので、安心して見ることができます。実用的な家具であっても、作っていく中でデザインを工夫したり、無心に掘ったり、削ったり、そういうところが見どころではないでしょうか。写真を撮るより、じっくり実物を見、作者や会場のスタッフと話をして、楽しいひと時をお過ごしください。

◆ 紅花油 ◆

 かなり前、全く知らないアメリカの方から短いメールがあり、「サフラワーオイルによる仕上がいいよ」言われたことがあります。基本的なオイル仕上としては亜麻仁油が用いられることが多いのですが、黄変が欠点とされてきました。たしかに白木に亜麻仁油を塗ってしばらく経つと、なんとなく黄色い色になっていることがよくあります。これに比べ、サフラワーオイルは、乾燥後の硬さは亜麻仁油の劣るものの、黄変が比較的少なく、またサラダ油としても使われるため、匂いもよいようです。それで前々から一度使ってみたいと思っていました。なおサンフラワーオイル(ひまわり油)と混同しやすいですが、別の油です。

 問い合わせてみると、桐油程度の値段でサフラワーオイルが買えるようなので、気軽に一斗缶を買ってみました。届いた缶にはJASマークの入ったラベルが貼ってあり、賞味期限が一年ある完全な食用油でした。ただし、缶の蓋がいわゆるパッチン蓋ではなく、ハンダ付けでしょうか、完全に密閉されたものでした。ですので、気軽に開けるわけにはいきません。食用だからの処置でしょう。

 木製の食器やスプーンに何を塗ったらよいかという質問をよく受けます。木固めエースやウレタンニスも食器に塗布可能なようですが、子供が木をかじったりして、塗膜の成分が体に入ることも予想されますので、個人的には使いたくないです。漆は使われてきた歴史が長く、素晴らしいと思いますが、私はカブレるので避けたいのです。そうなると、塗膜が弱くてすぐ無塗装同様になってしまいますが、やはり食用可能な油を染み込ませる方法が安心できますね。今まではくるみ油をスプーンに塗っていましたが、高価なため大きな作品には使いにくいのです。ひょっとしたら、食用紅花油がこのような目的にちょうどいいのではないかと期待しています。

というわけで、まだ使っていませんが、とりあえず、4リットル缶と1リットル缶に小分けし、一部は自宅で食用に使い(^^)、残りは教室でスプーンや食器などの塗装用に使ってみます。使用感が良ければ、定常的な仕入価格も調査のうえ、通販で扱うかもしれません。その時はまた案内します。


2015年9月

・充電式マルチツール
・草刈機の変遷
・FineWoodWorking Online 要注意

◆ 充電式マルチツール ◆

家具作りの仲間や大工さん達の多くがそうだと思うのですが、リチウムイオン電池を使用する充電式電動工具が発売されてから、その便利さに慣れてしまっています。特に先行したマキタの14.4ボルトシリーズは木工関係者の多くが所有していることと思います。もちろん、他社の製品も同様に素晴らしいと思いますが、同じ充電電池を使い回せる充電工具をシリーズとして発売したマキタに先見の明があったと言わざるをえません。ウチでもインパクトドライバーに始まり、ドリル、丸鋸、ジグソー、ビスケットジョインター、アングルドリル、そして草刈機まで、見事にマキタの戦略にハマってます(^^;)。

さて、後述の充電草刈機用のナイロンコードカッターを購入する際、送料を無料にするため、前々からあってもいいかなと思っていた充電式マルチツールの本体のみを購入しました。家具作りで使う機会は少ないと思うのですが、ウチの教室の床が12mm構造用合板の二枚張りで、15年以上たって、合板内部に空間のある部分の陥没がところどころに見られるようになり、これを補修するのに便利ではないかと思ったからです。本体だけだと2万円ほどなので、つい気軽に買ってしまいます。

購入した本体についてくる刃物は写真のものだけで、他にサンドペーパーが少しだけついていました。この金鋸刃のような刃がわずかに左右に振動して切断していくわけです。骨折した時のギブスを切るのも同じ原理で、やわらい皮膚にあたっても大きな傷にはなりません。電動工具としては安全な部類に入ります。

上のような補修用の窓を二層の合板の上だけにあけることしました。刃に深さを決めるテープを巻いて垂直に押すと、ゆっくりではありますが、不思議に切れて刃が入っていきます。今回はフリーハンドで行ったのですが、ガイドになる木片等を固定し、それに沿わせて切断すれば、かなり精度よく加工できそうです。何より約1mm幅の長さ3cmほどのスリットが簡単に加工できるのは、大変便利と思いました。

そこに、補修用の板をハメこみ、接着剤をつけて重石をおいて圧着、オイルを塗って補修完了です。こういう用途には予想以上に便利な道具でした。家具でも小さい窓を開けるような作業で使える場面があるかもしれません。

蛇足ですが、以下はこれから充電式工具を購入される方に参考になればと書いたものです。ご参考まで。

  • 18ボルトシリーズも充実してきていますが、本職の方でも、「14.4ボルトで充分」とおっしゃる方が多いです。
  • 電池は一個約1万円と安くありません。屋内での使用が多い方はコード式でよい場合が多いでしょう。
  • 電池は最低2個必要です。まずは充電器と電池2個が付属したモデルを購入するとよいでしょう。
  • 将来はわかりませんが、現時点で最も普及している電池は”BL1430”です。この電池が使えるタイプが無難です。
  • 純正でない安い電池が出回っているようですが、トラブル等で結局高くつく場合が多いと聞いています。

◆ 草刈機の変遷 ◆

今年の夏は短かったですが、暑かったですね。事実7月下旬から8月上旬の気温は平年を大きく上回っていたそうです。暑い間木工教室は休みでしたが、例年のことながら、草刈りは大変でした。工房駐車場や土手にススキに似た成長の早い雑草が生えてきて、刈ってもすぐに生えてくるのです。

3年ほど前まではエンジン草刈機と、ナイロンコードのついた電気草刈機でやっていましたが、二年ほど前、工房のと同じ充電電池が使えるナイロンコード専用草刈機(写真下)を購入し、涼しい夕方に短時間の草刈を頻繁にするようになりました。20〜30分しか電池がもたないのですが、毎日それくらの草刈で終わるのが疲労が少なくてよいのです。それで昨年、同じ電池が使える写真上の草刈機を購入しました。ブラシレスモーターが売りの「草刈正雄」さんのCMでご存じの方も多いでしょう。

エンジン式に比べ、力は当然弱いですが、軽くて便利です。何より静かなのでご近所に迷惑がかかりません。プロでなければ、これで充分な気がします。欲を言うと、回転部分の方が少し重たいので、エンジン式のようにバランスがとれればありがたいです。これに軽い金属刃をつけて雑草を刈るのは快適ですが、縁石などに近い所や細くて短い雑草はナイロンコードの方が適しているため、ナイロンコード草刈機を併用しています。

でも、上のヤツにもナイロンコードを付けてみた方が便利ではないかと思い、マキタ純正の軽量ナイロンコードカッターを購入しました。これ、いいです。バンバン刈れて、大幅に能率がアップしました。しかし小石もバンバン飛んできますので、自分はもちろん、近くに人がいる場合は、充分注意が必要です。草が短い時は絶対これですね。草が大きくなったら、金属刃でないと無理ですけど。

 マキタの充電工具シリーズ戦略に見事にハマっているわけですが、おそらくプロではない方の草刈は、充電式になっていくのではないでしょうか。特に電池が共用できる木工関係の方は、充電式草刈機、おすすめです。

◆ FineWoodWorking Online 要注意 ◆

先日8月のクレジットカードの請求をチェックしていましたら、TauntonPressから1800円の請求があるのを発見しました。雑誌の定期購読はしていますが、最近同社から本など買ったことがありません。理由と考えていたら、二年くらい前にFineWoodWorking OnlineのFreeトライアルに登録したことを思い出しました。登録すればホームページからいろんな技術的ビデオなどを自由に見ることができるサービスです。

でも最初何本か見ただけで、後は全く見ていませんでした。クレジットカード番号を打ち込んだ覚えもありません。ただ、定期購読者ということで優遇されるので購読者情報は送ったと思います。すると無料期間が終わったら、自動的に定期購読の際使ったクレジットカードに毎年15ドルくらいが課金されていたようです。

 早速、同社に問い合わせメールを送ったのですが、今のところ返事がありません。今年の請求は諦めたとしても、とにかくOnlineメンバーをやめる手続きをしなければなりません。これが結構難しかった。どこで解約できるのかわかりにくかったです。画面の記録をとってないので正確ではありませんが、解約方法はだいたい下記のとおりです。メンバーになっている方でこの頃ビデオを見ていない方、一度チェックされることをおすすめします。

(オンラインメンバー解約方法、概略) 
「FineWoodWorking のホームページ右上にあるOnline Membership をクリック、メールアドレスとパスワードを入力してログイン。その後、account statusからedit statusを選び、一番上の項目の右にあるcancelをクリックするとオンラインメンバーが解約できるようです。」

前触れもなくクレジットカードに毎年課金され続けますので、要注意です。アメリカは日本より自己責任の国なので、英語のウェブページをよく見て、自力で解約するしかないようです。ご参考まで。


2015年8月

・捻組(水組)

◆ 捻組(水組) ◆

暑いので7月後半と8月前半は木工教室を夏休みにしています。私も時間的、精神的に余裕があり、先日の教室で生徒さん達に見せた捻組を少し複雑なパターンで再度やってみました。捻組について、できあがったものの写真はネット上に沢山ありますが、その加工方法についての説明はあまりないように思います。本来こういう複雑な組手は、それを加工する人が自身で工夫し、独自の方法を確立しているものですので、あくまで素人に毛の生えたような者の製作例だと思ってください。

正しくはどう呼ぶのかよくわかりませんが、工作社の仕口の本では「捻組接」とされていますので、捻組と書かせていただきました。捻組で検索すると交互に組んだ格子がよく出てきますが、これとは全く違う組手です。名前は難しいですね。捻組の定義はよくわかりませんが、おそらく、真っ直ぐな組手を斜めにした組手の総称であり、その組み合わせパターンがいろいろあるのでしょう。写真は先月教室で見てもらったものですが、中央の組手は真っ直ぐでその両側が斜めになっているものです。この斜めを反対にするとコーナーから見ると「水」の字に見えることから、水組とも呼ばれるのではないでしょうか。

捻組は、内側の角から斜めに滑らせるようにしか組むことができません。だから、四角い箱物だと四枚の板を一度に組む必要があります。作った本人も写真を見ていると「ややこしい!」と思ってしまいます。でも、通常の三枚組と基本は同じで、単に組手が斜めになっているだけです。

少し幅の広い、チェリーの端材を使って組手見本を作ってみます。今回は両端と中央が真っ直ぐで、その間に斜めの捻組が対称に二つ入るパターンです。真っ直ぐの組手を入れることにより、位置決めがよりしやすくなるのではないでしょうか。なお、斜めの角度は寝かせすぎると端が欠けやすくなりますから、75度〜80度がよいです。自在定規を使いますが、自家製の斜め定規を作っておくと便利です。

中央部だけ墨を入れた時のが下の写真です。要するに、外側コーナーの頂点だけを斜めにずらした形ですね。写真で見やすいようにケヒキやシラガキの切れ込みを鉛筆でなぞっています。慣れないうちは、斜めの線はシラガキよりも細い鉛筆の方がよいかもしれません。そして三枚組などと同様に残す部分に○、欠きとる部分に×を入れます。余談ですが、ウチの生徒さんの中には欠きとる部分に○を入れる方がおられ、とても紛らわしいです。ぜひ全世界共通で「残す部分に○」で統一をお願いします(^^)。なお、板厚を正確にケヒキでとり、木口から板に回しています。捻組では組手の長さは正確に板厚に等しくないといけません。また、私は斜めの墨は木口と表側だけで裏側は入れません。というか必要ないです。

いよいよ切り込みです。ホゾ挽鋸を使っていますが、目が小さ目(7寸目)の両刃鋸の縦を使ってもできます。私のやり方は、板を垂直に固定し、木口の向こう側から手前に墨線の×側を1mmくらい切り込みます。

次に手前の墨に沿って、板の手前だけを斜めに切っていきます。この時、急に鋸を斜めにしないで、向こう側は板に入ったままの状態で少しずつ、手前を斜めに切り込んでいくのです。このように切れば、見えない向こう側は切っていないので、ズレて切ったりしないわけです。手前がほぼ目的の深さまで切れたら、それで切断面が決まりますから、その面にそって軽く水平に切り込んで終わり。向こう側を見たりすると鋸道が狂い、失敗する要因となります。

斜めのところは、そのままだと切りにくいので、板を少し斜めに固定し、鋸が垂直になるようにすると切り込みやすいです。このあたり、職人さんによってさまざまな工夫があることと思います。

全部切り込んだのが下の写真です。ここで予想外なことがでてきました。斜めにすると反対側の組手の幅が非常に小さいところがでてきたのです(V字型の底)。この幅が手持ちのノミより小さいと加工が難しくなります。この点要注意です。

次にノミで板の両側から×のところを落としていきます。最も注意したいのは、板厚のケヒキの線を死守するということです。いきなりノミを強く入れると、ノミの厚みに押されてケヒキよりも内側にノミが入ってくるのです。だから、少しずつ、垂直のノミと斜めのノミを交互に入れていきます。言葉では表現できない注意点がいっぱいあるのですが、それは自分で体感して見つける他ないように思います。

1〜2mm切り込んだら、もう大丈夫なので、やや強い目ノミを入れ欠きとっていきます。切断面内部がケヒキの線より高くならないように、充分注意してください。このポイントも自分でそれに気づかない限り、その意味はわかりにくいです。

片側の組手を加工しました。タブテールなら、これを型にして相手の墨を入れるわけですが、捻組ではそれができません。どうしても、両方に墨を入れ、そのとおり加工するしかありません。だから、最初の墨入れが肝心です。

両方の加工が終わりました。並べてみると、ややキツイところはありますが、まずまずです。あとは薄いノミを使いながら、慎重に調整します。

調整は時間がかかりますが、8割入ったところで、止めました。最後まで入れると端が欠けそうなので、あとは、自分の目でチェックし本組に備えます。

写真や文章ではわかりにくいと思いますが、通常の組手が作れる方なら捻組はそれほど難しいというわけではありません。考えているより、やってみる方が簡単です。暑い夏、冷房のきいた部屋で、挑戦してみてはいかがでしょうか?


2015年7月

・天板と仕上削り
・名古屋城本丸御殿

◆ 天板と仕上削り ◆

今軽いダイニングテーブルを作っています。テーブルは何といっても天板が命、無垢の板の質感が魅力です。それで今月は天板の作成、仕上げについて書いてみました。いろんな考え方や方法があります。あくまで一つの考え方として参考にしてください。

私は一枚板のテーブルが好みではありませんし、立派な幅広い板を使える状況でもありません。ですので、通常は幅10cm〜20cmくらいの板をハギ合わせて天板を作ります。仮に幅30cmの広い板があったとしても、大抵は反りが出ていますので、まず中央で半分に切断し、15cm幅の板として製材してからハギ合わせます。基本、木裏を上に使いますが、木の特性を充分理解したうえで、臨機応変です。反りを考えると木裏が上ですが、木の芯に近い部分は割れやささくれが多くなりますから、そのような場合は木表が上もありです。

接着方法は”イモハギ”と呼ばれる、平面どうしの接着です。ただし、それだと板がずれたり、わずかな長手方向の湾曲を修正しにくいので、大抵はビスケットジョイントを併用します。ビスケットの使用目的は目違いを小さくためです。教室で使う場合の効率も考慮し、ビスケットは#10のサイズ(中サイズ)に統一しています。使用材や目的によっては#20を使うこともあります。意匠的な意味で雇ザネを使う場合もありますが、基本はイモハギだと考えていますので、ハギ面の面積減少が少ないビスケットの方が強度面では有利ではないかとの考えです。

使う接着剤は、木工ボンド、タイトボンド3、ピーアイボンドの三つの中から選択しています。ちゃんとハギ合わせれば木工ボンドでも不具合がでることはほとんどありません。耐水性があって使いやすいタイトボンド3ですが、摂氏10度以下の気温で接着不良が起こりやすいことには充分注意が必要です。また、二液タイプで面倒ですがピーアイボンドの接着力を一番信頼していまして、水回りや力のかかる場所、強度が何より優先される場合に使います。エポキシ系、ウレタン系は、水でふき取れないことや長期保存に難があることから使っていませんが、作業時間が長く取れるのは魅力です。

ハギ面の加工は、よく調整した手押鉋盤を使いますが、厚さ1cm程度、長さ1m未満であれば、手鉋と木端削り台で加工できます。どちらの場合も、木の端に近いところが落ちやすい(削ってしまうこと)ので、充分注意をします。そして下図のように、手押鉋では垂直フェンスに当てる面を変えて、木端削り台では下にする面を変えて、削られた面が垂直でなくても、ハギ合わせた天板が平面になるようにします。あまり考えずに材料を順に削っていくと、こうになるんですが、考えすぎると間違います(笑)。

木工書では図のように中スキにすると書かれていますが、完璧な平面でクランプが数個あれば、その必要はないと思います。手加工の場合や、状況によっては長台鉋等で中スキに作ることはあります。とにかく、端から数センチのところが削れてスキマになりやすいので、そうならないように充分注意します。材料に余裕があるなら、ハギ合わせて後、端から数センチは切断するのが望ましいです。

要はハギ合わせの際、いかに完全な平面に近づけるかということです。プロが精度のよい機械を探し求めるのも、ハギ合わせた天板を仕上げるに要する時間を短くするためです。圧着するのにクランプを用いますが、この作業も繊細な注意が必要です。両側から等しくボンドがはみ出してくるように加圧できているかとか、目違いがないか等々。あればFクランプや木のクサビをつかって可能なかぎり段差をなくします。木工ボンドなど、水性接着剤を使う時は、塗り始めてから圧着完了までの時間に特別な注意が必要で、10分以内が目標です。また6枚の板ハギなら二回に分けるなどの工夫も必要になります。

接着後は布などで包み反りがでないようにして、しばらく寝かせます。ハギ面が水分を吸って膨れているので、すぐに削ると後日ハギ面周辺が凹んでしまうからです。

いよいよ、天板を仕上げます。私は裏側は仕上ません。裏側にかける労力を表に集中します。板ハギがうまくできていたら、横ズリは必要ありません。段差があったり、板に反りが出たりした場合は、木目に垂直方向に鉋をかける”横ズリ”を先に行います。

仕上削りの目的は、自動鉋などのナイフマークを取るためです。木工関係の書物によりますと、「ナイフマークの深さは、よく調整された自動鉋で理論値が0.02mm程度であり、熟練の職人さんによる仕上鉋の削り厚は平均0.03mm程度のため、簡単にナイフマークを取ることができる」とあります。実際にはそれがなかなか難しいのですが・・・。先日教室で削り厚を測定し、0.03mmを(写真は0.035mm)実際に見てもらいました。ふわっとした向こうが透けて見えるくらいが0.03mmです。最初から立派な鉋屑が出てくるのは刃の出し過ぎで、0.03m程度の削りでは一回目は高いところだけに刃があたり、粉のような鉋屑がでて、二回目以降このような薄い鉋屑がでます。

逆目など、削りが困難な板の場合には、写真のキャビネットスクレーパーを使うことがあります。今回も最初キャビネットスクレーパーで仕上ようとしたのですが、これがシンドイ。それで、いつも使う鉋(52mm幅、1万円ほどの鉋)を使ったら、数倍楽に削れます。ちゃんと研げていて、台が調整された鉋があれば、仕事が速くて本当に楽です。力もそれほど必要なく、鼻歌混じりで1時間ほどで全体のナイフマークが取れました。

数をこなしておられるプロの方とやり方は違うかもしれませんが、「鉋が一番仕事が速い」と言う方は多いのではないでしょうか。ベルトサンダーやオービタルサンダーでナイフマークを取ることはできると思いますが、なかなか大変な作業だし、面白くないです。巨大なベルトサンダーがある工場は別にして、小さな工房や趣味の木工なら、やっぱり鉋が要ですね。

◆ 名古屋城本丸御殿 ◆

 先日米国西海岸にお住みの木工関係の友人の奥様(日本人)と娘さんが、ウチに寄ってくれました。名古屋は初めてということで、工房を見ていただいた後、ひつまぶしの昼食をとり、名古屋城を見学してきました。こういうことでもないと、名古屋城へ行くことはないし、前々から一部公開された本丸御殿を見たいと思っていましたのでよい機会です。本丸御殿内はフラッシュ撮影はできませんが、写真撮影可です。

天守閣の手前西側に材料加工場があり、そこがガラスごしに見学コースになっています。御殿で使われる柱などの部材の加工現場を見ることができます。また研ぎ場もありましたが、残念ながら誰も研いでいませんでした。

コンクリートの天守閣も内部にいろいろ工夫された展示があり、結構楽しめました。そして本丸御殿です。玄関周辺、全体の3分の一程度しか公開されていませんが、見事な襖絵や総檜の建物など見ごたえがありました。天守閣と本丸御殿合わせて500円の料金は安いと思います。

絵もすごいですが、これだけの無節で目のつんだ檜の値段はいったいどれくらいするんだろうと考えてしまいます。建材で流通している檜とは全く違う樹種ですね。これだけの大変な経費をかけることに疑問も感じますが、おそらく将来「あの時に作ってよかった」と思えるのでしょう。とにかく、近くでこういう建築が見られることはとても意味深いと感じました。名古屋へ来られる機会がありましたら、一度見ておいて損はないと思います。

 

2015年6月

・木工家ウィーク
・手加工で溝を掘る

◆ 木工家ウィーク ◆

今年も6月上旬に名古屋市内各所で開催されます。詳しくはリンク先を見てください。

木工家ウィークホームページ

 メイン行事である「木の家具40人展」は集客力が確実にアップし、実績のでる展示会になっています。このため、今年は応募開始から1週間ほどで締切になったらしいです。とはいえ販売だけではなく、作品を通じて作者と親しく話ができる貴重な機会でもあります。

 展示品を見て勉強させてもらうには、それなりの配慮が必要です。教室の生徒さん達にはこのような展示会を見るときの注意点について、下記のような話をしました。そのうえで、気軽に作者の皆さん達との交流を楽しんでください。

展示会を見る時の注意

・商売の邪魔をしない。(接客の邪魔にならないように)

・基本は見るだけ。触る・座るは許可を得てから。(汗や手の油など、意外と汚れる)

・腰回りのキーホルダなど注意。(商品に傷がつくのは避けたい)

・撮影はしない。(撮影禁止の場合はもちろん、そうでなくても一声かけてから)

・状況に応じ、名前や職業を伝える。(安心して話がしやすいことが多い。)

・気に入った品があれば、買うのも勉強。("見るだけ"と見方が変わる。)

 

◆ 手加工で溝を掘る ◆

教室の基礎コースの最初の課題”筆箱”はほとんどの工程を手加工で進めるのですが、溝加工はうまくいかないことが多く、通常はトリマーを使って加工しています。ところが、この頃「溝加工も手でやりたい!」という方が多くなり、「上手くいかないかもしれないけど・・・」と前置きして実施してもらったら、これが結構面白い。また先日、ベテランのある生徒さんに長い段欠き加工をFestoolの丸鋸と定規でやってもらったら、「面白ないです」と言われてしまいました(^^;)。無意識に「手加工はまず無理」と思い込んでしまっている私自身が、そうではないことを勉強させられました。そんなわけで、溝の手加工をやってみました。

まず溝の幅をケヒキで強く切り込みます。今回は材の下端から3.5mmと7mmのところにケヒキを入れます。これで溝幅は3.5mmとなります。溝幅は手持ちのノミの幅+0.5mmくらいが掘りやすいです。理想的には、二枚ケヒキなどを使って溝の外側は垂直に切り込みたいところですが、見える場所でもないですし、ふつうの一枚刃ケヒキでかまいません。最初に溝両端1cmくらいをノミで掘り、その後写真のように3mmのノミで溝を掘っていきます。

今回の溝は深さ3mm程度なので、ケヒキで両側を切り込みながら、溝を掘ることができます。もっと深い溝の場合は定規となる真っ直ぐな木片を固定して、畦引き鋸で溝の両側を目的の深さまで切り込み、次にノミで溝を掘っていきます。写真ではケヒキが木目に流されたラインが見えますね、これは失敗。こんな風にならないよう、ケヒキはいきなり強くひくのではなく、最初は軽くひき、ある程度道ができてから強く切れ目を入れていくとよいでしょう。

両端まで通った溝の場合は、機械作理鉋が使えます。古道具屋さんで買った機械作理鉋ですが、使い慣れると結構便利な道具です。

溝加工から話がはずれますが、写真は手加工での三枚組です。手鋸がうまく使えるようになると仕事が速いです。最初はうまくいきませんが、鋸の柄尻を軽く握り、鋸道がぶれないように練習すれば、手鋸は電動鋸よりよほど便利で安全、そして頼りになる道具になります。残す部分の墨線に接して落とす側に鋸を入れます。教室では7寸目の比較的小ぶりな両刃鋸の縦を使っています。横切の刃で切ると、木目に流されてしまいますので、ここは必ず縦目で切り込みます。

写真は底板を寸法どおりにカットしているところです。墨線の0.5mmほど外側を上記両刃鋸の縦で切っています。この後、木端台にのせて鉋で墨線まで削ります。

「丸鋸盤やルーターを使えば、簡単にきれいに加工できますよ」という声が聞こえてきそうです。しかし、よく切れる刃物で墨線どおり加工することによって、木の性質を実感できたり、寸法や直角に対する感覚が研ぎ澄まされていきます。ルーターでギューンと加工してしまえば、簡単ですが、そういうことを体感する大切なチャンスを逃していることになります。どうか気長に挑戦してみてください。機械を使える方も、手道具で加工ができる技術とセンスがあれば、機械加工のレベルも確実にアップすると思います。

 

2015年5月

・”天気の枝”と”革砥”
・ネガのデジタル化

◆ 天気の枝と革砥 ◆

 ブログでも書きましたが、木工教室を始めるきっかけとなったスウェーデン、エーランド島にあるカペラゴーデンの工芸学校の先生がリタイヤされ、奥様と二人で日本各地の教え子を訪ねる旅行をされています。過去二回生徒さん達を連れて見学に来られたことはあるのですが、今回は全くプライベートな旅行で、ウチの和室に二泊してもらいました。その際、木工関係で2つお土産をいただきました。これらがちょっと珍しいものでしたので、紹介したいと思います。

 

写真ではわかりにくいですが、写真中央に壁から出ている細い木の枝です。クリスマスツリーの木の細い枝を皮をむいただけのものと思われます。この細い枝が天気によって、おそらくは湿度によって枝が曲がって動き、天気を表すのだそうです。最初の写真は横方向に斜めに伸びていますが、次の写真ではグーンと上に反り上がっています。このところ天候がよく、朝はそこそこの湿度でも昼間になると、どんどん湿度が下がってこのように変化するのでしょう。本当かどうかわかりませんが、「100年以上動き続ける」と言ってました。ネットでこの天気の枝について調べてみたのですが、記述がみつかりません。北欧で昔から利用されたものではなでしょうか。

 もうひとつは革砥、刃物の刃先の仕上げ研ぎに使う革です。私が小さかった頃の話ですが、散髪屋さんへ行くと、店のおじさんが髭を剃るカミソリを革の幅広ベルトのようなもので研いでいたのをよく覚えています。この革砥は現在でもつかわれていて、砥石でよく研ぎあげたカミソリなどの刃物は、革砥で数回研ぐだけで、10回ほどは鋭敏な切れ味を回復するそうです。もちろん、刃がうまく研げていなければ、これを使ってもどうにもなりません。「刃を動かして革砥から離れる時、絶対に刃を立ててはいけない。丸刃になってしまう」とのご注意。鉋の刃の研ぎでも同じです。刃を向こう側へおして、砥石から離す時などに、丸刃にしてしまうことが多いんですよね。

 ナイフを研いでみましたが、指が刃に吸い付くような、キトンキトンになります。革だけでも使えるようですが、「研磨力が足らないと感じたら、歯磨粉を少しつけるとよい」とのこと。青棒は一部成分の毒性が心配されるようですが、歯磨粉なら安心ですね。

◆ ネガのデジタル化 ◆

 前々から気になっていた、家族の写真(アルバム)のデジタル化をしました。最初はアルバムをスキャンしようかなどと非現実的なことを考えていたのですが、「ネガがあるはず・・・」と思って探していたら、納屋の片隅に、紙の箱に入った大量のネガが見つかりました。関係のないフィルムなどを除いても、合計148本もありました。

 ネガをデジタル画像にするには、少量ならフィルムスキャナを買って自分でやればいいでしょう。しかし、これだけの数になると現実的には外注する方がいいので、そういうサービスを探してみました。すべて調べたわけではありませんが、カメラのキタムラやナニワといった大手もこのようなサービスをしていますし、フィルムメーカーのフジもネットで受け付けるサービスをやっていました。どれを選ぶとよいかは、トータル枚数や写真の解像度、色調補正などオプションなどによって変わります。今回は148本もあり、また解像度はできれば高い方が使いまわしがきくだろうとの判断、また自動色調補正が無料で入る、フジのサービスを使ってみました。

申し込んだ2日後、ネガを送る箱が届きます。順番は指定できないのですが、フィルムとアルバムを照合し、できるだけ日付順にフィルムを並べ、通し番号を書いて、自然と時系列に写真が収録されるように準備しました。フィルムとアルバムの照合は、主にヨメさんがしましたが、結構大変でした。ネガを番号順に重ねて返送し、約二週間後、フィルムとDVD二枚が代引きで戻ってきました。最初の計算どおり、5万円以上の支払いです(涙)。早速DVDのデータをパソコンに保存、DVDの複製も作りました。

 写真は、フィルム毎にひとつのフォルダに入っていて、全部の写真のインデックスファイルがPDFファイルとして作成されています。結婚直後の写真から入っていて、ついつい昔の写真に見入ってしまいます。これからピンボケの写真や不要な写真を削除し、DVD一枚にまとめて、保存版を作る予定です。

今回の反省点を書いておきます。二度とやることはないと思いますが、これからやられる方には参考になるかもしれません。

  • 古いの写真の質はそれほどよくないので、画素数は少なめでもよいかも。
    スナップとして見るのではあれば、1200dpiで充分かな。大きく引き伸ばす可能性があるなら話は別。

  • フィルム一本単位の値段設定。36枚でも24枚でも同じ金額。
    ネガを入れるシートがあれば36枚に組みなおすと安くできる。労力と時系列が狂うことが嫌で今回はしなかった。

  • DVDの複写は、パソコンが不慣れな人には難しい。
    オプションで必要枚数コピーをしてもらう方がよいかも。

お金はかかりましたが、やって良かったと思います。これだけの枚数、自分ではまずできなかったでしょう。家族の記録を子供達に分けて残したいと考えておられる方には、便利なサービスだと思います。

余談です。古いネガには、家族の写真はもちろんですが、時には全く記憶にない写真が出てきます。次の写真は一番古いネガに入っていたもので、社会人になって間もない頃にOBとして剣岳の雪渓で滑落停止訓練に参加した時の写真・・・でしょうか?。こんな時もあったんですね。


2015年4月

・二度目の研磨機
・格安スマホ

◆ 二度目の研磨機 ◆

 以前(2009年4月)マキタの研磨機9804を購入したものの、うまく機械用刃物の研磨ができず、結局返品した経緯がありました。が、それにこりず、また研磨機を買いました。目的は、サブで使っているスポークシェーブの150mm手押鉋盤の刃の研磨です。この手押鉋は荒削り用でもあり、それほど精度が要求されないため、刃は手で研いでいました。ですが、もっと効率よく研げないかなと考えていたら、キングの砥石が回転する簡易研磨機で機械刃物研磨用ジグが付属した研磨機を使ってみてはと思ったのです。

 このタイプの研磨機は国内で数種類発売されていますが、マキタの98201という研磨機を買われた人の評価などをネットで見ますと、「予想よりしっかりしていた」という書き込みがあり、また実売価格二万円ちょっという値段もハードルが低く、購入に至りました。写真のように、低速で回転する赤い砥石(キング製?)の上に、鋳物をフライス加工?されたレールと、刃物固定金具がセットになったものです。

ところが購入後、これで研ごうとしたら、刃物の幅が細すぎて固定金具が先に砥石に当たってしまうことが判明。これで諦めるわけにはいきません。とりあえず、刃物押さえの板を刃先の方へ少しずらせ、刃を少し出るように押さえる穴を横に明け直し、なんとか刃物を研げる位置に保持できるようになりました。写真下の左側は元の穴で直径7mm、右が私が明けた穴で直径6.5mmです。穴は3つありますので、ケガキ針を使い、ドリルのガイドとなるセンターポンチを慎重に打ちました。またボルトは6mmなので、固定板が大きくずれて所定の位置をはずれないように直径6.5mmにしています。さらに刃物固定金具の下の角をヤスリで少し面取りし、砥石からより離れるようにしました。

 さて、肝心の刃物固定ジグと刃物をスライドさせるレールとの精度ですが、これは予想よりしっかりしています。刃先角度調整ネジと高さを調整するネジ、どちらも遊びが少なく、しっかり感がありました。百分の一ミリの精度は無理かもしれませんが、実用上充分な感触です。マキタの9○○○のような数字が並んだ製品は長年販売されている機械で、木工作業にほどよい精度の機械が多いように思います。

刃物がセットできたら、砥石に充分水を浸透させ、慎重に刃物の位置と角度を調整し、左右に動かして研ぎます。馴染みのあるキングの砥石がゆっくり回っているだけなので、手で研ぐ感覚に近いです。また乾式とちがい、金属粉がまわりに飛び散ることがないのも気に入りました。

 写真のようにまずまずの精度で研磨できました。この後は、手で仕上砥をかけ、裏も研いで終わりです。一度セットしてしまえば、手で研ぐのに比べ格段に速く、値段を考えれば、よい買い物だったと思います。慣れてきたら、300mmの刃の研磨も試してみたいと思います。ただし、ある程度刃物の研ぎができないと、使いこなすのは難しいかもしれません。

◆ 格安スマホ ◆

 ”SIMフリー”という言葉、意味はわからないくても聞いたことがある人は多いでしょう。またイオンなどの店頭で”格安スマホ”が販売されているのを見られた方も多いのではないでしょうか。木工とスマホ、別に関係はありませんが、この方面のことは前々からいろいろやっていますので、スマホオタクの戯言を書きます。興味のある方には、参考になるかも?です。

 細々ですが長年通信販売をしていまして、注文の大半はメールで入ります。週末に木工教室をしている関係で週中ほどの平日は出かけることも多く、その間入った注文メールに速やかに返事をする必要があります。ですので、どこにいてもメールを見ることができることはとても大切なこと。そのために、今のようにインターネットが普及する前から出先でメールチェックをする習慣がありました。

 携帯電話でインターネットに接続できるようになる前は、電話回線を使い、モデムという機器を通して、プロバイダに電話をかけ、インターネットに接続し、メールチェックをしていました。海外でもそれができるように、写真下の回線チェッカーなども持っていったものです。左の電卓みないなのはHP200LXという伝説の小型手のひらパソコンで、わずか2MBのメモリーを駆使して日本語化し、これでメールチェックをしていたこともあります。その後WindowsCEというモバイル専用OSが登場し、右のHPJornadaを携帯していました。こんな機器で公衆電話に電線をつないで何かしているので、危ないオッサンと見られたこともありました(^^)。

 そんな昔話はどうでもいいんですが、その頃はモバイル通信というのは、ごく一部のマニアだけのものだったんです。ところがアップルがiphoneを発売して、スマートフォン、いわゆるスマホが爆発的に普及し始めます。Googleがそれに対抗してAndroidというOSを世に出し、さらに普及したわけです。

 ところが、大きな問題がありました。”お金”です。iphoneを使うと最低月6000円くらいかかります。いくらモバイル好きの私でもそんな金額を毎月払うわけにはいきません。そのうえ、iphoneを使い続けるには、大手携帯会社(当初はソフトバンク、後にドコモとAUが参入)と契約を続けるしかありませんでした。それは個人の契約内容の入ったSIMという小さなICカードは、その会社の携帯やスマホでしか使えない”ロック”がかかっていたからです。それをSIMロックというのですが、その制限をなくした携帯・スマホをSIMフリー(末端)といいます。

 SIMフリー末端にはメリットがあります。携帯やスマホはそのままで、本体内部にあるSIMカードを差し替えるだけで、他の携帯電話会社の回線が使えるようになるのです(通信方式や周波数によってできない場合もある)。また海外へ行った際も現地でプリペイドSIMカードを購入できれば、安価にネット接続が可能になります。
 二三年前から、そのようなニーズに対応して、大手携帯電話会社の電波を借り受け、それを安価に提供する通信事業者が出て来たのです。そのような会社をMVNO、「仮想移動体通信事業者」と言います。多くはNTTドコモの回線を利用していますが、最近AUの回線を使う業者も登場しています。これらMVNOを使うと月1000円程度で外出時にインターネット接続でき、最近ではプラス700円ほどで音声通話もできるようになりました。電話番号をそのまま移行できるところも多くなり、ホントに安くネットと通話ができる時代になっています。さらに政府がSIMフリー化を義務化しましたので、今年5月以降発売されるスマホや携帯の多くはSIMフリーになると思われます。

 ですが、パソコンのインターネット接続設定もしたことがない人が、簡単にスマホを設定して使えるようになるとは思えません。家族や友人に詳しい人がいればいいのですが、親しい人に教えてもらうのも嫌な人もいることでしょう。そういう場合は、最初に二年間は、店舗があって初期設定やトラブル時に教えてくれる大手携帯電話会社と契約するのがいいと思います。またスマホ本体価格を分割支払いできるため、購入時期をうまく選べば二年間で格安スマホと同じような経費で利用できる可能性もあります。大雑把に言って、次のような感じです。

  • スマホ初心者でパソコンが苦手な方
    大手携帯会社へ。現時点ではドコモがおすすめ。理由は将来格安SIMに乗り換える際の選択枝が多いから。
     
  • 現在スマホを利用されている方が格安SIMに乗り換える場合
    ビッグカメラなど大手家電量販店での購入がおすすめ。故障時のサポートが受けられる安心感がある。また、大都市では店頭で初期設定サポートが受けられる場合も。
     
  • パソコンの設定ができる方で格安SIMに移行
    ネットで情報収集し、格安SIMを選択。データ通信量や料金の他、「音声通話」、「複数SIM対応」、「SMS対応SIM」など要チェック。

 恥ずかしいながら、下の写真は私が所有しているスマホです。いくら格安とはいえ、これだけ買うなら、大手でiphoneを契約する方が得だったかもしれませんね。完全に趣味の領域、スマホオタクですわ。今メインで使っているのはfreetelのpriori2というSIMカード二枚させるスマホで、約一万円で購入しました。3Gですが待ち受け可能時間が長く、使いやすいです。通話専用の携帯電話として使うにも便利です。高速データ通信LTEに対応したNexus5もあるのですが、最近ヨメさん用に買ったZenphone5の方が出来がよく、2万8千円程しますが、チープさもなくおすすめです。

セキュリティーについて 
 スマホを使っていて感じるのは裏で何が働いているのかわからない気持ち悪さです。googleやアップルがどの程度個人情報を収集しているのかわかりませんが、個人のネットワークサービス登録情報や位置情報、連絡先情報などは簡単に集められるでしょう。もっとも、自宅のパソコンでネットを見ても、誰がどのサイトを見ているかは、その気になれば簡単に調べられますから、同じようなものかもしれません。ですが、そういうプライバシー情報が漏れているという意識は絶えず持っていた方がよいです。私は位置情報はGPSだけにし、裏で動くアプリは可能な限りオフにしています。詳しい方は”rootを取る”ことでスマホの管理者となり、より詳しく内部のアプリを制御できるようになるのですが、これをやるとメーカーの保証も受けられなくなりますので、普通はそこまでやる必要はないです。

バージョンアップに要注意
 あと一つ、アドバイスがあります。バージョンアップに要注意です。Androidでもiphoneでも年に何回かバージョンアップがあります。これって結構トラブルがあったり、電池消耗が激しくなったりするんです。最近Nexus5をAndroid5にバージョンアップしたら、一日も電池が持たなくなってしまい、苦労してバージョンを4に戻しました。問題なく動いているなら、バージョンアップのお知らせを無視し、評価が定まってから行うのがよいです。考えてみると、ハードにあったソフトで出荷されたわけですから、バージョンアップで不具合が出るのは当然のことかもしれません。

 

2015年3月

・椅子の修理
・自家製ワックス

◆ 椅子の修理 ◆

 珍しく、椅子の修理が二件続きました。ひとつは自分で1999年に自分用に作って数日前まで食卓で使っていた椅子、もうひとつは工房を開設して間もなくオーダーをいただき納品したミニアームスタッキングチェアです。

自分の椅子は、二三年前からホゾがゆるんでいましたが、別段支障がないのでそのまま使ってきました。ですが、とうとう座面のペーパーコードが切れ始めたため、覚悟して分解し再接着しました。来週はペーパーコードかテープを編み直す予定です。

古いペーパーコードを取り除く時、できれば再利用できるように解きたいのですが・・・、実際には汚れていて再利用できない場合が多く、このようにニッパーで切断し、可燃ごみに出しています。張替を仕事にされている方はどうされているんでしょうか?

この椅子を作った時は普通の木工ボンドで接着していましたが、分解したホゾを見て感じたことは、”欠糊”です。楢材のホゾ組は、今でもかなり精度高く加工されているのを確認しましたが、あまりにキッチリできていて、ボンドが肝心のホゾ側面とホゾ穴の壁の間にほとんど残ってなくて、ホゾ先に付いている状態でした。今なら、ホゾの木殺しや縦方向に溝を作るなどして、ボンドが充分に行きわたる工夫をしたと思いますが、この椅子ではピッタリしたホゾを作ることだけを重視していたようです。現在は手で入る程度のホゾ組にしています。また細い部材で椅子を組む場合は、ホゾ穴をホゾの長さプラス1mm程度にし、ホゾが押し込んだボンドが逃げ場を失い、ホゾの溝を通って逆流、結果としてホゾとホゾ穴との間に行き渡るよう心掛けています。ピーアイボンドなど充填性にある接着剤を併用すれば、かなり強度アップするでしょうから、これでまた15年以上は使えると思います。

座は編み直すつもりですが、実は最近編んだ座より板座の方が好きになっています。編んだ座は必ず緩み、10年ほどしたら編み直すことになること、また板座に座布団を置いたスタイルの方が、やぼったく感じられはしますが、自分には使い勝手がよいのです。下の椅子は1996年頃の作で、KAKI工房に憧れていた頃紅松で作ったものです。今はこの椅子で食事をしているのですが、座り心地が大変気に入り、これからはこの椅子を愛用しようと思っています。20年ほどの年月を経て、オイルを塗っただけの紅松がこのようないい色になっているのにあらためて感激しています。

上記の椅子と時を同じくして、13年ほど前に新築されたお宅におさめたミニアーム付きスタッキングチェアが修理にやってきました。納品した時小さかった子供さんが今は高校生。体重70kgのラグビー部員になられたそうで、彼が引きずるようにドンと座ったところ、前脚が折れてしまったということでした。スタッキングチェアは重ねることができるよう、どうしても華奢な構造になっています。ですので、13年も愛用していただき、大変光栄です。

現物を見ると、ホゾはほとんど緩んでおらず、前脚が目切れのやや多い木取をしていたのが原因で、そこから破損したようです。この時は通常の木工ボンドで接着しましたので、もっとホゾが緩んでいるのではないかと想像していただけに、良い意味で裏切られました。ですが、ホゾが緩んでいないと分解が大変です。クランプなどで少しホゾを緩めては水を染み込ませ、半日ほどかけてホゾを抜きました。一部ホゾ組を貫通するようにダボ接合も用いているのですが、これも全く緩んでおらず、ダボもちゃんと使えば強度が充分あることを確認しました。

修理していて思ったことは、もしこれがピーアイボンドやエポキシ樹脂接着剤を使って組み立てられていたら、「無事分解できたか?」ということです。おそらく部材が割れるなどしたはずです。このことを考えると、水で緩ませることができる木工ボンドの方が、後々の修理のためには良いのではないか・・・。古くから使われている膠もお湯などで緩めることができる天然接着剤ですが、将来の修理のことも考えて接着剤を選ぶことも大切ではないかと感じた次第です。

◆ 自家製ワックス ◆

最新のFurniture&CabinetMaking誌に、自家製ワックスについての記事がありました。溶剤にテレピンだけではなくWhite spirits(ペイントうすめ液と同等)を併用している点が違っていましたが、作り方や考え方はほとんど同じでした。なぜWhite spiritsを使うのか、理由はよくわかりませんが、テレピン油だけで問題ないと思います。私の通販では天然蝋もガムテレピンも扱っていますし、自分だけのオリジナルワックスを作ることはさほど難しくありませんので、少し紹介したいと思います。

必要は器材は下記のようなものです。

電熱器、湯煎をするための、大きな鍋と小さな鍋、それに溶けたブレンドワックスを入れるガラス瓶です。溶剤を扱いますので、必ず炎のない電熱器で加熱し、沸騰したお湯で間接的に温める”湯煎”をする必要があります。なお記事では突沸を防ぐために金属のナットを水の中に入れていました。

蜜蝋など柔らかめのワックスを小さくして鍋に入れ湯煎で溶かしていきます。60度くらいで溶け始めるので簡単です。融点の高いカルナバなどはその後加えて溶かします。完全に溶けたら、電熱器のスイッチを切り、周りの火の気に充分注意してテレピンを入れ撹拌します。その後、ガラス瓶などに分けてできあがりです。

ワックスのブレンドの基本はおおよそ次のとおりです。

柔らかいワックスは、     蝋:溶剤=1:2
中程度の硬さのワックス   蝋:溶剤=1:1.5
硬いワックス          蝋:溶剤=1:1

例えば、シンプルな蜜蝋ワックスは、

蜜蝋           100グラム
ガムテレピン      150グラム

上記を基本に、あとは柔らかいワックス(蜜蝋、木蝋など)と硬いワックス(カルナバ、イボタなど)の比を好みによって変えます。教室でよく使うワックスは下記のブレンド比で作っています。

蜜蝋(漂白)     80グラム
イボタ蝋      10グラム
ガムテレピン   160グラム
計          250グラム

 意外にこのようなブレンドワックスは市販されていません。簡単ですので、機会があれば試してください。イボタの代わりにカルナバを使ったり、シェラックの混入も面白そうです。

注意:引火のおそれがありますので、ガスコンロなどで直接温めることは絶対にしないでください。


2015年2月

・トリマを選ぶ
・安全衛生保護用品

◆ トリマを選ぶ ◆

 木で家具などを作り始めた方が、しばらくして欲しくなるのが電動工具。中でも、木工関係の本やネットでよく登場し、さまざまな加工に使え、値段も大きさも手頃なトリマに目がいくのは当然です。私も最初に買った電動工具は日立M6というトリマでした。ところが、このトリマという機械、買っただけではうまく使えないし、厄介で結構危ない機械なんです。音が大きく、一分間に約3万回転もする、使い方を間違えれば、指など簡単に粉砕してしまいます。今月はトリマの選び方についてアドバイスを書いてみました。何かの参考になれば幸いです。

 現在、国内規格のトリマで入手できるのは、マキタ、ヒタチ、リョービ、ボッシュ、ビルテックスかと思います。私はリョービのトリマを使ったことがないのですが、知人の大工さんはリョービ製を愛用されています。理由はラック&ピニオンでビットの出し入れや調整がしやすいからだそうです。記事ではリョービのトリマは登場しませんが、評判はよいようですから、これから購入される方は候補に入れておかれるとよいと思います。

 写真左端はマキタ3701で、長年愛用されているプロの方も多い機種です。スイッチを入れるとガクンと衝撃があっていきなり高速回転をしますので、材料が近くにあると触れて怖い目にあったこともあります。ロングセラーの代表格ですが、これと言った欠点もないかわり、特に優れている点もないように思います。

二番目は比較的新しいマキタの3707FCです。細身で握りやすく、LEDランプ付き、電子制御のソフトスタート機能、ゴムローラーによる簡易微調整機構が備わっています。カタログ上からは3701に全面的にとって代わりそうですが、3701の代替品としては少し物足りない感があります。また回転音が右のM6などと比べややガサツな感じがしますが、これは電子制御の影響かもしれません。

三番目は私が最初に買ったヒタチM6です。30年近く使っています。現在販売されているM6と同じかどうかはわかりませんが、透明ベースの動きやスムースな回転、テンプレートガイドの精度など、マキタ3701より優れていたと思います。長年使ったせいでベアリングが摩耗しているので、今は少しガタがありますが、3701と比べると私はM6の方が好きです。

右端はスペインのVirutex社製で、ネットで検索すれば入手先が見つかるでしょう。ちょっと大きくて重たいですが、日本のトリマにはない機能を持っています。スピードコントロール、ソフトスタート、負荷に応じて回転数維持の3つの電子制御機能です。重要なことですが、輸入品でありながらちゃんとPSEマークを取得していて、日本で使うことが認められています。値段も3万円代とそれほど高くはありません。

 

機構が変わっていまして、本体とトリミング用のベアリングガイドが直接つながっており、ベースが移動するようになっています。たとえばビットとの間隔を約1mmにセットしますと、この間隔はベースを動かして刃の出を変化させても変わりません。これは大変便利です。ベースもラック&ピニオンで微調整できるうえ、ダイキャスト製で信頼感があります。電源コードが5mあり、実際に使ってみると他の機種より使いやすく感じます。重たいようですが、女性の生徒さんに使ってもらったら、逆に安定感があるようでした。なお、6.35mmと8mmのコレットも使用可能です。

 以上は国内で正式に使えるトリマですが、ここからはPSEマークのない製品です。PSEマークは何かと物議があった認定制度ですが、電気についての正しい知識がない人でも電気のことでは心配なく安全に使えることを意味しています。欧米から個人輸入した電動工具の場合、場合によっては不具合や発火などの危険があります。アメリカ製の場合は電圧110V〜120V、周波数60ヘルツですので、日本の60ヘルツ地域ではまず問題なく使えるのですが、関東など50ヘルツの地域では、内部抵抗が減少し2割ほど電流が多く流れることがあり、発熱など危険な場合があります。以下の個人輸入した電動工具を使う場合は、電気のことをよく理解した上で、自己責任でお願いします。特に50ヘルツ地域にお住まいの方は避けた方が無難です。またヨーロッパの電動工具は220V〜240Vのものが多く、日本ではまず使えないと考えてください。

左はボッシュのトリマです。全く同じ大きさのボディーで電子制御のないタイプが日本で発売されています。ですので、6mmのコレットやテンプレートガイドなど、国内でオプションの入手が容易です。やはり国内で使う場合、6mm軸のビットが使えるかどうかは重要です。

 

このボッシュのトリマはスピードコントロールなど電子制御が完備していて、かつ力もあり、使いやすいです。ベースが少し緩みやすい傾向にありますが、これを防ぐには慣れが必要で、ベースを回転させ、ベースに組込まれたネジと本体のメネジがかみ合うようにすると、微調整ができ、ベースがしっかり固定されるようになります。この機構、アイデアは抜群ですが、実際の動きがいまいちスムースではありません。またベースが透明ではないうえ、LED照明が備わっていないので、細かい細工をする時には、別にライトが必要になります。

右の黄色いのは最近買ったアメリカDewalt社のトリマです。ボッシュのトリマの欠点をなくしたような製品で、LEDランプ付でアメリカ製ルーターに見られるような一回転で1/2インチ、12.7mmベースが動くように本体に螺旋が切ってあります。実際使ってみて、刃の出を調整するのは最も楽で、固定も簡単でした。これで目盛がミリなら、ほぼ”理想”でしょう。本格的に使っていませんが、問題は、6mmなど国内で入手可能なビットを使うためのコレットの入手です。私はイギリスTREND社のT5ルータ用コレットが使えましたが、マキタ の8mm ルータ RP0910用コレット・ナットが使えるようです。でも別途コレットを購入すると結構高いものになりますね。努力すれば(笑)、6mm、6.35mm、8mm軸のビットが使用可能です。 

 

上左の写真はボッシュのトリマ用コレット・ナットです。右はDewalt用互換コレットです。Dewalt用の方が、かなりコレットが長く、より確実に精度よく掴めそうです。おそらく、Dewalt社は今はないヨーロッパの名門ルーターメーカー”ELU”の規格を継承しているのではないでしょうか。

 さて、一台選ぶとしたら、どれでしょうか?難しいですね。木工教室なので、ビットを付け替える手間を省く意味で多数のトリマを所有していますが、アマチュアならせいぜい2台、またルーターをお持ちかどうかにもよりますね。日本製トリマの最大の不満はスピードコントロールができないことです。だったら、写真下のようなスピードコントローラー(国内品もある)を併用してもいいのですが、これが使えるのは電子制御のないタイプだけですし、外付コントローラーでは具合良い速度コントロールはできません。またLED照明は、今ならぜひほしい。そうなるとよけいに選ぶのが難しい。

 ただ、トリマの本来の使用目的は、文字通り”トリミング”で、細いビットで溝を入れたり、面取をしたりすることです。であれば、回転数は高い方が綺麗に切削できることも多く、比較的回転数が遅い、3707FCのようなソフトスタートと定速維持機能を持ったトリマでよいように思います。一方、多目的に使いたい場合で、かつ英語でしか書かれていない取説も苦にせず、購入から故障や修理に関しても自分で責任をとるということなら、Dewalt社のトリマはよい選択かと思います。また穴馬的存在ですが、Virutexのトリマは大変魅力的です。電子制御完備、LEDはありませんが、切削中の刃先は見やすく、照明の必要性を感じません。何よりシッカリ感が大です。10mm程度の段欠きなら、不安なく加工できます。

 最近ボッシュのトリマの使い方を見直しました。しっかり微調整ネジに噛み合わせるように使うと、なかなか便利なんです。いろいろ書きましたが、道具選びよりも、目の前の道具を使いこなすことの方が大切なことは間違いありません。今さらながら、それを痛感しています。

◆ 安全衛生保護用品 ◆

 ノミや鉋などの手道具と比べ、トリマのような小さな電動工具でも危険性は格段に大きくなります。慎重に作業をすることはもちろんですが、予測できな事態にそなえ、あるいは健康を害しないために、下記のような安全保護用品の着用を検討してください。

目の保護:
高速で回転する刃物は接触による損傷だけではなく、材料の一部が飛んだりして、特に目に入ると大変危険です。おすすめは、顔全体を覆うフェースマスクです。老眼鏡をつけていても問題なく使えますし、顔全体を保護してくれて安心感があります。

耳の保護:
長時間木工機械の騒音を聞き続けていると、難聴になりやすいとされています。欧州では木工機械運転中はイヤーマフの装着をうるさく言われます。

呼吸器の保護:
木工機械やサンディングによる粉じんは呼吸器官に蓄積され、呼吸器疾患の原因となります。花粉症用マスクでもかまいませんので、粉じんが発生する作業では着用が望まれます。



 2015年1月

・2014年度木工教室作品展
・冬季タイトボンド3使用は要注意&ピーアイボンドは強力
・糸のこ盤

◆ 2014年度木工教室作品展 ◆

昨年10月末に行いました第14回木工教室作品展の作品を下記ページで公開しました。
(無断転用、転載禁止)

第14回木工教室作品展

(昨年度の私的作品は再構成中の作品ページに掲載予定です。)

◆ 冬季タイトボンド3使用は要注意&ピーアイボンドは強力 ◆

 木工関係者の方がしばしばタイトボンド3の低温下での失敗について書かれていますが、私の教室でも先日、初めて接着不良を経験しました。一液性で耐水性があり、接着強度もすぐれるタイトボンド3は大変便利ですが、かなり失敗例が報告されていることもあり、タイトボンド3を冬使うには不安が残ります。

 教室は暖房をしていますので、その時の室内温度は16度〜18度くらいあったと思います。低温に弱いことは知っていましたが、ピザをのせるトレイということで、FDAで食品を扱う木製品に使うことが認可されているタイトボンド3を使ってもらいました。午後4時すぎに接着、ちょっと早いですが5時にクランプを外して、製作した生徒さんが車(トラック)の助手席に置いて帰宅されました。この日は寒くて、車内では5度以下だったかもしれません。
 次回の教室でハシバメの胴付部分に隙間が生じているのを発見し、簡単には外れないと思いながらと木槌で叩いたら、簡単に外れてしまいました。ボンドの使用注意には8.3度以上と書かれていますが、これは完全硬化するまでこの温度を下回ってはいけないのだいうことですね。でも、接着後の温度を長時間10度以上(安全をみて)に維持するのは難しいように思います。

 一方、通販で扱っているピーアイボンドも使用可能温度は10度〜35度となっているのですが、私自身は今まで接着不良の経験はありません。名古屋ですので冬場でも室内が零下になることはありませんが、2度くらいになることはよくあります。冬の寒い時にピーアイボンドで接着作業を行った回数は多くありませんが、タイトボンド3ほど低温に弱かったことはありませんでした。

以下、余談です。
上記接着不良が起こった時、再接着はピーアイボンドでやってもらいました。その時、混合したボンドが余ったので、遊び半分で細い材料の木口どうしを作業台の上で接着しておいたのです。5時以降は暖房を切りますので、夜間は室温は3度以下になっていたと思います。二日後それに力を加えてみると、かなり強いので、簡単な実験をしてみました。

  材料はタモの幅30mm 厚さ8mm、長さ30センチほどの材料で、△が接着部分です。写真のバッテリーの重さは1つ489g、木片は136gですので、合計1116gの重さに耐え、もう一つ木片をのせた時、接着部分から折れました。いい加減な実験ですが、薄い板ですので、テコの原理が働き、部分的には強い力がかかっていると思います。さらに接着力が極めて弱いとされる木口どうしの接着であり、この結果に驚きました。椅子のホゾなど、強い接着力が求められる所にはピーアイボンドは適していると言えます。また塗装に不具合がでないなら、胴突面にもボンドを塗布することで、よりホゾの強度を高めることになりそうです。

 広く使われている酢ビ系の木工ボンドは、耐水性は乏しいものの、どのように接着しても、また加圧中に少し動いても、ある程度接着力があります。水気のないところで、かつ強い力がかからない場合には、通常の木工ボンドで実用上充分なことが多いです。特に冬場はタイトボンド3を使うよりも賢明と言えるかもしれません。

◆ 糸のこ盤 ◆

 なぜか本格的な木工では糸のこ盤は影が薄いようです。ウチでも出番は多くないため、中古でいただいた写真の糸のこ盤がひとつあるだけです。

旭工機の普及機です。堅木の厚い材を切るには能力不足で、スクローラなどの高級機やカム式の機械の購入を検討していたのですが、この機械の性能を充分に引き出していないのではないかと思い始めました。というのは中古のため使用説明書もなく、刃の張方など全く自己流でやっていたからです。製造会社を調べていて驚いたのは、旭工機さんは工房からほど近い高蔵寺ニュータウンの中にあったことです。電話してみたところ、展示品はスクローラ―しか置いていないそうでしたが、自分で運搬すれば直接購入もできるとのことでした。でも、このような古い機械の扱いを質問するのもご迷惑かと思い、まずはネットで調べてみました。糸鋸について書かれたサイトは多数ありますが、この機種の扱いについて書かれたHPは少ないようでした。が、やっとメンテナンスや改造についても詳しく書かれたホームページを見つけました。ただ、このサイトのどこにも著者への連絡方法が書いてなくて、承諾を得ていません。作者の方をご存じの方おられましたら、教えてください。

糸鋸盤、糸ノコ盤、糸のこ盤

(リンクを貼らせていただきましたが、不都合がありましたらご連絡ください。)

糸のこ盤の機構や鋸刃のことなど大変充実した内容で、今回は”調整”のところが大変参考になりました。どうも私の糸鋸の張りは弱かったようです。また中抜きの際、面倒だったので、はずしていた鋸刃案内ローラーも、元通り付けてみました。150mmの糸鋸刃、下は底に当たるように差し込み、上はばねを外部円筒のギリギリまで押し下げ、強く貼るようにしてみました。すると、厚い木も前よりよく切れるようになりました。今使っている鋸刃は旭工機の”山中目24山”です。欧州製の糸のこ刃が優れていると言われる方が多いようですが、まずは注油や整備もしたこの機械を継続して使ってみます。機械を新しくする前に、まず現有の機械の性能を充分引き出してやることが大切ですね。あらためてそう思いました。反省。



2014年12月

・ルーツをたどる---龍野、姫路、加古川

◆ ルーツをたどる---龍野、姫路、加古川 ◆

 前々から一度行きたかった播州方面へ出かけてきました。父方の祖母が播州龍野出身で、4歳?頃に祖母の実家の農家に行った記憶があるのですが、それ以来行ったことがないので、もう一度実際に祖母が生まれ育った土地を見てみたかったのです。せっかくそこまで行くので、神戸製鋼高砂工場に勤めていた親父から時々聞いていた、高砂や姫路周辺の名所なども見てみることにしました。

 祖母は明治生まれで、自分の生き方とか好みとか、とてもはっきりした人でした。私自身、考え方や嗜好など、祖母からかなり影響を受けていると思います。料理も好きで、「濃口はキッコーマン、薄口はヒガシマル、酢はマルカン、ソースはイカリ、蒲鉾は別寅」等々、そんなことまで頭に刷り込まれています。でも名古屋の近くのスーパーではヒガシマルの薄口醤油は売ってないんです。龍野(たつの市)は、醤油はもとより、素麺(揖保の糸)も全国的に知られており、また皮革産業も全国シェアトップクラスらしいです。

 朝7時に名古屋を出て、龍野ICには11時前到着。JR本竜野駅前の駐車場に車を置き、自転車で揖保川の西側の古い街並みが残る地区へ。実はその前に自動車でこの地区に入ったのですが、細い道が複雑に入り組んでいて迷ってしまい、駅前駐車場へ行ったのでした。まずは山のふもとの観光案内所にある”さくら路”、名物「桜ごはん」がついた素麺で腹ごしらえし、お城跡や山の上の古い神社、歴史博物館などを見て、おばあちゃんがおすすめだった”うすくち龍野醤油資料館”へ行きました。

 昔ながらの醤油の製造工程が展示されており、醤油樽も会社で作られていたようです。当時は電動工具もなく、ひたすら人力で作ったのでしょう。下の写真は壁に展示されていた道具の一部です。左は樽に穴を開ける道具、右は樽本体を作るための湾曲した部材を加工するための道具でしょうか。西洋でウィンザーチェアを作るのに用いられる道具に大変似ているのが興味深いです。

その後、近くの”エデンの東”という喫茶店でひと休後、駅へ戻って自動車で祖母の実家があった(おそらく今もあるだろう)本竜野駅南の農村地帯へ。広い道が田んぼの中にできてはいるけれど、なんとなく子供の時に見た風景に似ている。祖母はこんな田んぼの中の田舎生活を嫌ったのでしょうか、神戸の町へ出て商店で働き、何かの縁で熊本から神戸に出てきていた祖父と結ばれ、3人の子供を産みます。が、若くして祖父は体調を崩し、実家の熊本へ戻ったまま肺病で亡くなります。その後女でひとつで3人の子供を立派に育てあげた。その長男が私の親父というわけです。

夕方少し時間があったので、たつの市南部、海に面した室津の町へ行くことにしました。今は小さな港町ですが、北前舟が日本海から下関、瀬戸内海を通り、日本中に物資を運んでいた時代には、室津は大変栄えた港だったそうです。私が小学生の頃、親父のポンコツ車に乗って祖母と室津の梅林を見にいこうとしたことがありました。途中で私が車に酔ってしまい、行くのを諦めたのですが、その時「ああ室津の梅林は幻やった」とぼやいていた祖母の記憶があり、ちょっとその梅林を見ておきたかったのです。ところが室津民俗館でお聞きしたところ、もう梅林はなくなっていました。

日が暮れて姫路のホテルへ入り、下調べしていたお店へ。このあたりの名物というとなんと言ってもアナゴ。駅前「御幸通」にある「一張羅」という居酒屋で、手頃な値段でアナゴの刺身を頂く。なかなか美味かった。また祖母が時々言っていた”ひね鶏”というのを思い出し、それも注文。ひね鶏というのは若鶏の反対、年老いた鶏のことで、めちゃ硬い。けどこれがまた歯ごたえ十分で味わい深かった。最後のしめは親父に教えてもらい行ったことがある駅前商店街にある小さな老舗ラーメン屋「新生軒」。昔は輪ゴムのような硬い麺だった記憶があるのですが、今は柔らかい細麺。それでも超うす味のラーメンはとてもおいしかった。

 明朝、姫路はモーニングサービスが名古屋以上に充実しているとかで、まずはそれを目指して出発。TVでも紹介されたらしいカフェドムッシュ。名物アーモンドトーストのモーニングサービスは、なるほど名古屋より上でした。

 それから書写山へ。小学校か中学校の遠足で一度来たことがある西の比叡山と呼ばれる古刹。天気が良いので、ロープウェイ乗り場前の駐車場へ車を止め、登山道へ。この登山道は地元の人が掃除をしてくれているらしく、とても綺麗。一時間ほど登るとロープウェイ山上駅、そこからも1キロくらい登ります。紅葉に映える摩尼殿や奥の大講堂、食堂など、予想をはるかに超える見ごたえ。写真は摩尼殿と建物の造作の一部。

摩尼殿前の茶屋で関西風うす味のうどんを食べ、元来た道を下山。その後、兵庫県立歴史博物館へ。姫路城がまだ工事中で登れないので、それは次の機会というわけで、今回は歴史のお勉強。ところがあまり興味のない企画展が開催中で、常設展示は地下一階しか見ることができません。下の写真は菱垣廻船の模型。北前舟に興味があり、この模型は大変参考になりました。大阪に現物大で復元された菱垣廻船を展示した博物館があったそうですが、採算がとれずに閉館したとか。日本には復元された北前舟が3艘あるそうなので、ぜひ一度現物を見てみたい。

 白く輝く姫路城を見ながら、高砂方面へ。親父が何かの折に、工場にほど近い「石の宝殿」に行って感激した話を聞いたことがあって、一度見たかった「生石神社」です。ご神体が水に浮かぶ巨岩で、日本三大奇石とされているそうです。

 初冬は夕暮れが早いので、そろそろ家路に向かわねばなりませんが、あと一か所、有名な「鶴林寺」です。播磨の法隆寺とも呼ばれるこのお寺、たしかに法隆寺に似た落ち着いた雰囲気がありました。

 ある程度の年齢になると、「自分はどうして今ここに生きているのか?」ということを考えない人はいないのではないでしょうか。龍野の町や揖保川の流れ、また親父が驚いた巨岩の神社などを訪ねることができて、神戸生まれの私ではありますが、そのルーツの半分以上は播州地方にあるのではないかと思うようになりました。

 スウェーデン語で、家族関係を表す興味深い表現があります。父方の祖父がfarfar(ファルファル)、祖母がfarmor(ファルモル)、母方の祖父はmorfar(モルファル)、祖母がmormor(モルモル)というそうです。人それぞれにさまざまな事情があると思いますが、ひとりの人間には父方、母方の祖父母、計4人の近い先祖がいることになります。全部の足跡を訪ねることは難しいと思いますが、すでに父方の祖父の実家がある熊本県荒尾市は訪ねていますので、残る母方の祖父母の足跡も何時か訪ねてみたいです。


2014年11月

・木工教室作品展

◆ 木工教室作品展 ◆

毎秋開催している木工教室作品展が終わりました。年に一度の貴重で楽しい作品展だけに、期間中ヨメさんと私はパワー全開です。昨夜の打上パーティーが終わると行事はすべて終了し、今日は片付けをしながら、ホームページを書いています。個々の作品は来年1月度のHPで紹介しますので、今は会場全体の様子を紹介します。

工房併設ギャラリーでの小物中心の展示場南側の様子です。毎年ほぼ同数の作品があつまりますので、だいたい同じ配置になっています。今年は小物がやや多かった印象です。意外でしたが、基礎コース最初の課題である「筆箱」が7つも並んでいたので、一年間で7名も新しい仲間を迎えたことになります。教室だけでなく、自宅でできる作業で、最終仕上げをされている方も多く、バーニングペンを使って模様を入れたり、自宅でより丁寧に塗装をしたりと、見栄えをよくするための工夫や努力が垣間見えました。

ギャラリー北側の様子です。額縁を作られた方の多くは、中に珍しい絵や写真などを入れておられます。冗談半分で「本体より他で勝負やね」と言ったりしていますが、楽しむ趣味の木工ならではの光景もしれません。また、手加工にこだわった作品も多く見られました。機械加工はどうしても無機質な感じになりがちなのですが、手加工ではある種の「ゆらぎ」が良い効果をもたらしているのでしょうか、独特の温かい表情を見せていました。効率アップでコストを下げる必要がある商品にはできないことで、手加工は”楽しむ木工”の王道だと感じます。不思議な小皿を掘られた生徒さんに「これだけ掘るのは大変やったやろ?」と言うと、「小さな木辺ひとつで何日も楽しめました」との返事。長年木工教室をやっている私にはない発想でした。

工房東側からの写真です。今年は並べてみると、テーブルや机などの脚物が予想より多かった。不思議と”箱もの”が多い年、、”脚もの”が多い年があります。素性のよい板は扱いやすいですが、机の天板など、プロなら絶対使わないような所を使っている作品が何点かあり、それらは仕上がってみると意外に良くて、素直な木の作品が物足りなく見えることもありました。このあたりは木工の醍醐味のひとつかもしれません。自分はオリジナリティーを大切にしてほしいと同時に、自分の力で作ってほしいという思いがあります。でも木工教室という場は、根底に「生徒さんに楽しんでもらう」目的があります。ですので、程度の差はあれ私がどこかフォローをしている、それを自覚していただくことも大切だと考えています。

西側から見た様子です。カトラリーって言うんでしょうか、台所や食卓で使う小物はこちらで展示をしました。繊細なお箸から野性味たっぷりのカップまでありました。大きな物は時間がかかる作品も多く、ギリギリで完成したものや、未完成で3年越しの作品もあり、作った本人はもちろん、仲間の方達にも興味深いものがあったと思います。いつも同じことを言ってますが、かかった時間は不思議と作品に表れるんですね。ネット上でさまざまな木工家さんが、さまざまな形でプロとアマの区別について言及しています。私は技術面でここまでがアマとか、ここ以上がプロなどという境界線はなくて、売れる商品を作り続けることができる人がプロなんだと思います。そういう意味で、私は木工教室を運営するプロであって、プロの木工家ではないですね。

以前、ご近所のある木工家さんがブログで「展示会に参加した時、できるだけ他の出展者さんの作品を見ないようにしている」と書かれていたことがあり、感心してしまいました。後日その方とお会いした時このことについてお聞きすると、「自分が温めて来たアイデアを、もし他の人が形にしているのを見たら、そこに流されますよね・・・」というような話をされました。プロにかぎらず、アマチュアであっても、自分のアイデアを大切にすると同時に、他人のアイデアも尊重し、安易に真似することは避けるべきです。「これいただき!」は信用をなくします。反対にオリジナリティーのある作品は、たとえ未熟な所があっても、魅力を感じます。もちろん、木工を学ぶための過程で、名作椅子などを模倣をすることは必要な場合があります。その場合は、そのことを明示したうえで、単品製作に限られます。

今年は総数110点ほどの展示でした。打上パーティーの時に、初期の作品展の様子をスライドでお見せしたのですが、最初はギャラリーさえ埋まらない、作品点数でした。来年はどんな作品ができあがってくるのでしょうか?楽しみです。


2014年10月

・第14回木工教室作品展
・危ない!、木工機械の間違った使い方

◆ 第14回木工教室作品展 ◆

第14回木工教室作品展

10月31日(金)〜11月2日(日)
31日:13時〜18時
1日:10時〜18時
2日:10時〜17時
宮本家具工房、ギャラリーにて
名古屋市守山区平池東801

 今年も木工教室作品展の季節がやってきました。教室を始めて15年目、作品展は14回目となります。「よくやってこれたなあ」というのが率直な気持ちです。教室にはいろんな生徒さんがいます。鋸を持つのが初めての方から、家具職人だった人や現職の大工さんまでおられ、皆さんに楽しんでもらえるようにするのは、自分で言うのもなんですが、結構大変です。当然技量の差は大きいのですが、できあがった作品には、意外にも優劣が感じられない。もちろん加工の上手さや技巧に差はありますが、未熟な作品であっても、アイデアや気持ちがこもっていて、「これはいいなあ」と思うことがよくあります。「売るための木工ではないからこそ、お金には替えられない価値を持った作品を作ることができる!」、そんなことを強く感じています。

◆ 危ない!木工機械の間違った使い方 ◆

 ウチは楽しむための木工教室です。効率が重視される仕事場ではないので、たとえ手間と時間がかかっても、より安全な加工方法を選ぶようにしています。特に木工機械での事故は悲惨ですから、教える立場としてより慎重になります。

 とは言え、危険な作業を教えることは大変難しい。危ないキックバックを実演するわけにもいかず、絶えず注意を喚起するしかないのが実状です。以下の写真はよくある危ない機械の使い方の例です。木工機械の使用経験の長い人なら、すぐにわかるようなことですが、意外と慣れていない人、逆に慣れっこになっている人が知らない場合もあるのです。これらがなぜ危ないのか、その理由を考えてみてください。教えられたことはすぐに忘れますが、自分で経験したことは忘れません。経験できなくても、「なぜ?」を聞くのではなく、自分で考えることが大切で、それができた時は身につきます。徒弟制度の中、「教わるより盗め!」と言われる理由ですね。

 なお、熟練技能をお持ちのプロの方は、危険を充分承知の上で、それをコントロールしながら一般に危ないとされる作業をこなしていることがままあります。そのようなやり方を安易に真似することは大変危険です。

危ない例1:長さが同じ小さな部材を切り出そうとしています。

危ない例2:丸棒を切断

危ない例3:湾曲した材を切断(写真は大げさですが・・・)

危ない例4:段欠き加工の模式図。これは恐ろしい。

参考:段欠き加工は、この方向でも怖い。

 (参考)
 木工機械の安全な使い方について解説された資料は多くありませんが、木材加工用機械作業主任者技能講習会テキストが参考になるかもしれません。

「木材加工用機械作業の安全」
林業・木材製造業労働災害防止協会発行

プロ向け講習会用のテキストですが、希望者には販売をしてくれるようです。同協会のホームページで購入方法を参考にしてください。

木材製造業労働災害防止協会

 また下記のサイトは英国の労働安全関係機関のホームページで、英語ではありますが、丸鋸や帯鋸、面取盤などの安全使用についての詳しい記述がPDFフィルて提供されています。

Health and Safety Executive
HSE


2014年9月

・展示会情報、「手考会、成果展示」 
・裏押し

◆ 裏押し ◆

 木工教室基礎コースは鉋刃の裏押しからスタートしますが、実のところこれでよいのか迷いはあります。というのは裏押しという作業は初心者にとって最も習得が難しい作業のひとつだからです。自分で研ぎをやってみたものの、どうにもならず、「研ぎを習いたい」と思って入って来られた方には、それこそ目からウロコだと思うのですが、全くの木工初心者の方にとって、裏押し作業の重要性など全く理解できないと思います。でも、刃物の切れ味に満足できなくなった時、「こんな作業をしたことがあった!」と思い出してもらえればいいのではないかと思いながら、今も裏押しを最初の作業にしています。

 裏押しとは、刃の斜めに研いである方ではなく、平らになっている面の刃先に近い部分を完全な平面にする作業です。”完全な平面”という意味は、刃先まで完全に平面となっていることを意味します。刃先まで完全に平面にするには、わずかに”裏”が湾曲していないと、実際には刃先までまっすぐにすることはできない。このために、鉋やノミの刃の裏は、中央部を凹ませてあります。

 裏押し作業は、伝統的には金盤と呼ばれる硬鉄の板の上に、「金剛砂」という研磨剤を少量おき、刃の裏をすり合わせることによってなされます。砥石が発達した現在、金盤の代わりに細かいダイヤモンド砥石や2000番のセラミック砥石を使われる方もおられます。ただし、職業訓練校の先生など指導をされる立場の方の多くは、古典的な金盤を使う方法をすすめておられます。私自身、状況によっては裏押し用のダイヤモンド砥石や、中砥を裏押しに使うこともありますが、「基本は金盤」と考えています。金盤による裏押し作業は、”裏の平面度を鏡のような面を作ることで検証できる”、あるいは”研磨剤を刃先が当たる部分だけに置き、中央部分の減りをある程度避けることができる”、などのメリットがあります。その反面かなり力や労力が必要で、かつ熟練を要しますし、研磨によって金盤自体も変形することも否定できません。それでも、刃先まで金盤に当たっていることを見極める手段を経験することの意味は大変大きいと考えています。

 実際の作業では、昔ながらの床に金盤を置いて膝まづいての姿勢は辛い人が多いので、最初だけ経験してもらい、後は楽な立位で作業をしてもらっています。研磨剤も金剛砂ではなく、工業用研磨剤WA2000番や商品名「キレマ砂」で販売されている研磨剤を使っています。また押し棒は、うまく使える場合は使ってもらい、そうでない場合は手だけでやってもらいます。作業台の汚れを防ぐために写真のような合板の台を作業台に乗せ、滑り止めマットをしいています(下写真)。

 この金盤だけで裏を完全に刃先まで出すのは困難で、実際には刃を表側から叩いて地金を延ばし、その結果として、刃先がごくわずかに裏側に曲げる「裏出し」と平行して行います。この作業は、とても注意深い玄翁の使い方が要求されるため、初心者の方には無理で、この作業は私が代わりに行っています。研ぎの重要性をよく理解されている方には、裏出しをやってもらうこともあります。私も一度刃を割ったことがありますが、裏出し作業はあくまで「自己責任」です。以前はレールの金床を使っていましたが、今はもっと重い10cm角くらいの鉄柱を切断したものを刃物店で求めて、それを使っています。裏出し作業について詳しい話はまたの機会にしますが、裏押し同様、文章や写真で伝わるものではないと思います。

 裏押し作業のコツというか、気をつけているのは、初心者に対しては「裏全体を金盤に置くけれど、刃先の方にのみ力が入るように。しかし、決して刃が浮いてはいけない」と教えます。でも大抵は刃先ではなく中間部が削れたり、金盤の上をうまく滑らなかったりします。その時は、金盤に乗せる部分を少なくしたりして、うまく滑る乗せ方を模索します。ある程度慣れた方なら、刃の裏全体を乗せる必要はないので、刃先から1〜2センチを平面にするようにしてはとアドバイスします。乗せる面積を少なくすると、グラグラしやすいため、刃先までまっすぐにならず、裏がダレやすいです。しかし、刃を最後まで使い切るには、刃先の方を裏出しして、根本の方の鋼を減らさないようにする必要があります。この辺のことは文章では伝わりにくいので、この意味がわかる方は、このページを読む必要がない熟練者の方かもしれませんね。

 いくつか例を見てみましょう。一番目の刃、裏出しをして刃先を少し裏側にまげてから裏押ししています。刃先から0.5mmくらいが切れ味よさそうに見えます。これくらい光っているところが細くなったものを糸裏といい、この状態が一番よく切れるのです。しかし、すぐに刃がなくなってしまう(裏切れ)ので、その時はまた裏出しをしなければなりません。左内側の曇ったように見える部分は、広くなった裏をミニグラインダーで削った部分です。ベタ裏になると具合がよくないので、小さなペン型グラインダーでこのように処理していますが、削りすぎると後々困るので、おすすめはしません。

 二番目の刃、これくらいの裏が一番使いやすいのではないでしょうか。刃先付近の裏の幅は1〜2mmくらいです。写真ではわかりにくいですが、刃先に近い部分にやや白い曇りが見えるところがあります(中央右側)。仕上砥に当たりにくい所があることになりますから、厳密に言うと、ちょっと切れ味がわるいかもしれません。普通の削りでは問題ないと思いますけど・・・。

 三番目は比較的新しい鉋です。刃先付近の光っている部分の幅が3mmくらいあって、裏出しをする必要は当分ありません。これはいい状態なんですが、場合によっては刃先までしっかり研ぐことがちょっと難しいことがあるかもしれません。

 裏押しとか裏出しの話は、本当に微妙な話で、ここまでこだわらなくても、木の家具は作れると思います。でも、刃先を見る目があるかないかは、作品の出来上がりに大きな差となってあらわれます。「プロだ」「アマチュアだ」と区別するのは好ではありませんが、もし差があるとしたら、刃先を見極められる力の有無は大きな要素であることは間違いないと思います。プロの木工家も昔はアマチュアだったわけですから、趣味の方も諦めずに、練習してみてください。


2014年8月
・何を作る?、それが難しい。
・足跡遠望記---舞子の海

◆ 何を作る?、それが難しい ◆

 夏の一番暑い時期、木工教室は夏休みにしています。時間があるので何か作ろうとしているのですが、なかなかプランがでてこないんです。アイデアがどんどん具体的に湧いてくる方もおられるかもしれませんが、何を作るかやそのデザイン・設計に悩む方は多いのではないでしょうか。自分への刺激や反省の意味も込め、家具や木のモノを作る時のアイデアの出し方について書いてみました。

---過去に受けたセミナーで教わったこと---

 現在は富山大学になっていますが、その前身の高岡短期大学で、15年ほど前に英国から講師を招いて木工作品を作る10日間ほどのセミナーがあり、それに参加したことがありました。課題は「孫の手」と「スツール」でした。

”孫の手”では、自然の中にある物、たとえば、木や葉っぱ、石ころなどから、そこにある細かい曲線とか形を取り入れることに重点がおかれました。最初に半日ほど近くの海岸に行き、好きな物を拾い集めてきました。セミナー会場に戻ってから、皆で集めたそれらのものを机の上にならべ、各自好みの材料から形のアイデアを引っ張り出していきます。このような自然の物にデザインの発想を求めることは、スウェーデンのカペラゴーデンでも重視されていたように思います。自然の中にある曲線やディテールを家具に生かそうとする方向性です。自然の物には二つと同じ形はないですし、人工物をコピーする場合などのオリジナリティーに関する問題もありません。

私はその時海に入って泳いだので、海中で採った海藻の形を取り入れることにしました。もう記憶がはっきりしませんが、柄は海藻の枝のように見える部分の先端の形を、”手”に相当する所は貝殻を参考にしたと思います。それらの形を取り入れながら朴の木を削って作ったのが、下の孫の手です。孫の手とは名ばかり、大きすぎますが、今まで見たことがない形であることは確かです。

後半の課題はスツールでした。この時は紙で考えずに、アイデアをとにかく簡単な模型にしてみることからスタートすることを促されました。「紙で考えると、一人ひとりの殻に閉じこもってしまう。模型を作ると、そこに人が寄ってきて議論が始まる」と講師の方は言っていました。これは大変重要なポイントかもしれません。海外のサマーセミナーでは、参加者全員がそれぞれ自分の作るモノについて発表し、それに対して皆が意見を言い合う時間があります。ウチの教室でもそうしたいのですが、集まる時間が遅かったり、それを負担に感じる方もおられるようで、毎回実施することはなかなか難しいです。

 作る模型はちゃんとしたものではなく、竹ひごや紐などを使って作る、ごく簡単なもので、椅子作りでよく言われる精密な1/5模型のようなものではありません。しかし、模型を作ることによって、出来上がりのイメージはもちろん、ある程度強度についても予想ができます。また作るものが決まっても、このセミナーでは図面を書くことは禁じられました。図面がないと、寸法を決めて作ることが難しいんです。でも、そういう普段と違うやり方を強制されることは、大変意味のあることだったなと思います。

私は細い材料を使ったシンプルなものをめざし、座は紐を編んで作ることにきめ、四角や五角の模型を竹ひごを使ってスツールの模型というかアイデアモデルを作りました。

 実は第二回暮しの中の木の椅子展で入選したスツールはこの時に作ったものをサイズを変えて作ったものです。講師の方が作られた極めて軽量なスツールに影響は受けていますが、今までの自分では作ることができなかったスツールになりました。紙の上で考えると、どうしても既存のスツールのイメージから脱却しにくいのかもしれません。

 10年ほど前にカペラゴーデンの椅子作りのサマーセミナーに参加した時は、10日ほどの期間のうち、2日間をプランを練り、設計をする時間にあてられました。10日のうちの2日はもったいないようですが、これも意味が大きかったと思います。その間、やはりみんなの前で自分の作る椅子について話をし、講師や他の生徒の意見をききます。製作に入っても、何度か作っていす椅子についてみんなで話をしますし、近くで作っている受講生と講師の会話が耳に入り、自然とそれがが刺激となっていたようです。

ただし、このセミナーでは、いきなり原寸の図面というかデッサンからスタートしました。正確な原寸図ではなく、現物サイズのスケッチという感じです。それを二日間かけて、不要な線を消したりしながら、製作可能な図面へと描きこんでいくのです。日本の模造紙と同じような大きさの紙を使っていました。これは10日間という時間的制限から、モデルを作ったり、詳細な検討をする時間がとれないから、原寸のスケッチで検討を始め、それを製作図面にしていく、能率的な方法をとったのではないでしょうか。

---さて今からどうするか---

知識ばかりの頭デッカチになっているだけでは、モノ作りはスタートしません。作るものの候補をあげ、その中からひとつ選んで設計を始めました。やっぱり、まずは好きな椅子です。コンピューターを使い、Sketchupで3次元のモデルを作ったりもしますが、それはある程度構想がまとまってからでないと進みません。

少し前から、教室で椅子を作る時には、方眼模造紙を12mm合板の上にテープで貼りつけ、そこに原寸図を書いてもらうようにしています(写真下)。私もこの方法で図面を書いていくことにしました。方眼模造紙は模造紙の上に5cm間隔とその半分2.5cmのマス目が薄く入っている紙で、T定規やドラフターがなくても、大きな図が書きやすいです。不思議と重さのあるステンレス定規が使いやすく、材料の墨入れも同じ定規を使うので、ちょうどいいかもしれません。

原寸図は大きさや部材の太さなど、確実に実感できますし、曲がったり斜めになった部材を作る時には大変重宝します。結局、ローテクが一番早いということかもしれませんね。ただ、モノマネにならない独創的な形を作るには、上に書いたようなアイデアをどのように生み出していくのか、それをいつも意識していることが大切なんでしょう。


◆ 足跡遠望記---舞子の海 ◆

話は、神戸元町に生まれてから幼稚園までそこで育ち、神戸市の第一期分譲住宅の抽選に当たって神戸市の西の端、「舞子」へと引っ越したところ。前回の5月では「肥溜」について書いた。これからは小学校から中学校くらいまで、時間の後先は無視しながら、舞子での新しい暮らしの記憶を記していきたい。

 現在、JR舞子駅は橋ができて淡路島への玄関口になっている。まるで西海岸のゴールデンゲートブリッジみたいなハイカラな風景になっているが、当時も海岸線に沿った松林に六角堂が立ち、明石海峡の海を隔てて淡路島が見える、風景の美しい小さな駅だった。ただし舞子駅のすぐ南側の海岸は防波堤に波消しの石積みがあるため、子供には危なくて泳ぐことはできず、500mほど西側の山陽電鉄西舞子駅との間に砂浜があって、夏はそこで泳いでいた。現在はこのあたりも大蔵海岸として開発され、超現在的な海岸線になっている。どっちがいいかはわからないが、昔の漁港に毛の生えたような砂浜の方が自分には良かったのは言うまでもない。

 その西舞子の海水浴場は、潮の流れが早く、また遠浅の反対、”近深”だった。波打ち際から5mほどで急に一段深くなり、10mも行くと背がたたない。潮に流されたり、また近そうに見える淡路島へ貸ボートで渡ろうとして、年に一人くらい亡くなっていたように思う。危険な海水浴場ではあったが、昔の日本の漁村そのままの風情があった。

 とにかく夏休みは毎日「海」だった。朝起きると、小学校で夏休みの課題のひとつになっていた近所の公園での6時30分のラジオ体操に参加し出席を証明するハンコをもらう。それから朝食を食べ、午前中は一応一時間くらい勉強したりする。それから、海パン(海水パンツ)をはき、シャツを一枚着ただけのゴムサンダル姿で、兄や友達と海へ行くのだ。兄は水中メガネにヤス、釣り具まで持って行った。小学校低学年の頃は、祖母がつきそいで来てくれたことが多かったと思う。

 午前中はちょっと冷たいから、釣りをしたり、日差しがある時は泳いだりする。釣りが苦手な私は割り箸に1mくらいのテグスと針をつけ、餌のゴカイを針に通した超簡単な釣り具を準備し、泳いで岸から20mくらいのところまで持っていく。その仕掛けを砂浜にあがって見ていると、割り箸がグッと下に沈むことがある。その時、仕掛けのところまで泳いでいって、重くなった仕掛けを持ってくると、小さなカレイが釣れたりするのだ。ヤスでタコをつかまえたこともよくあった。ある日、隣の兄ちゃんがしとめた大きなタコをヤスから外す時に頭に吸い付かれ、浜辺でタコと格闘していたことがあった。

昼ごはんは家に食べに帰ったり、時には釣れた魚を浜で焼いて食べたりした。午後はまた海へ出かけて夕方ちょっと寒くなるまで泳ぐ。夏休みの記憶はほとんど海しかなかったが、今思うとそれはとてもよかった。夏休み、家族で海や山へ旅行に行った記憶はほとんどない。「キャンプがしたい」という私、家の庭の木の枝に物干しざおをかけ、古い絨毯をかけて、一晩外で寝たことがある。もちろん蚊の襲撃で大変ではあったが、わざわざ遠くへ行かなくてもよい経験ができた。

その頃は日焼けして真っ黒、裸になると海パンのあとがくっきり白く、パンツをはいているようだった。それにしても「紫外線は危険」などと言わなかったなあ。そのせいで、年をとってから顔にシミがいっぱいできているのかも。しかし、先日行った米国西海岸で、サングラスはみんなつけているけど、日焼けを気にして日傘をさしたり、顔をカバーしている人はいなかった。欧米でも同じらしく、日本人がこれほど日焼けを気にするようになったのはなぜだろう?。

 

2014年7月
・サムマルーフ、家と工房の見学ツアー

◆ サムマルーフ、家と工房の見学ツアー ◆

 6月末から7月初めまで、私的な行事でロサンゼルスに行ってきました。現地5泊の短い旅行ですので、木工関係で見て回るような時間はあまりなかったのですが、現地のNao(娘)から「職場の木工やってる人から、サムマルーフの家と工房の見学ツアーのことを聞いたよ」と耳よりな話が入り、4名で申込みをしてくれたのです。結構人気があって、ツアーも満員の時が多いようです。また数年前にウチで受講されたロス市警のSさん宅から車で20分と近いので、彼も誘っていっしょに見てきました。

 サムマルーフ氏は2009年に93歳で亡くなるまで、流れるようなフォルムのロッキングチェアに代表される、彫刻とも呼べるような椅子や家具を作り続けた人です。アメリカでの人気は高く、木工好きで知られるカーター大統領やレーガン大統領も彼の椅子のファンですし、サムさんの息子さんはホワイトハウスで働いているらしく、まあ日本で言えば皇室御用達みたいに超有名な人ですが、非常にフレンドリーな人だったようで今でも慕う人が多いらしいです。

 日本で印刷された立派な彼の本には、WOODWORKERの文字があり、彼は自分を芸術家ではなく、家具デザイナーでも家具職人でもなく、ウッドワーカーと呼ばれるのを好んでいたということです。アメリカではビデオも発売されており、資料から彼の椅子作りを知ることは不可能ではありません。私はこの本を松本クラフトフェアで古本として買ったのですが、偶然にも彼のサイン入りでした。その内容からすると、1986年に来日、京都で岩波旅館(今は廃業)に宿泊した際、宿の主人にお礼として帰国後送ったものらしい。それがどのような経路で今はない「東光堂」に渡ったかは謎です。このサインが綺麗なんで調べてみたら、若い時にデザインの仕事をし、カリオグラフィーの腕がよくて看板などの仕事をしていたようです。

 サムマルーフハウスは、ロサンゼルスのダウンタウンから車で1時間ほどのところにありますが、公共交通機関がないので、タクシーかレンタカーを借りないといけません。私は幸いNaoの運転で行けましたが、国際運転免許を持って行っても、いきなりロスのフリーウエイを走るのはかなり危険だと思います。

Sam and Alfreda Maloof Foundation for Arts and Crafts

フリーウェイを降りて北へ坂道を上っていくと、住宅地が終わる辺りの右側にサムマルーフハウスがありました。もともとは別の所だったようですが、フリーウェイが延長されて予定地となり、取り壊されるのに反対し、そのままの形でここに移されたということです。広い庭に囲まれた家は、高い塔のあるちょっと不思議な建物でした。

 敷地の中に入ると、受付のあるショップがあって、その周りには休憩スペースがいくつかありました。どこも快適そうです。見学ツアーの他、ランチのコースもあるので、その時に使われるのかもしれません。

 見学は午後3時から約90分です。最初簡単な紹介ビデオを見て、ロッカーに鞄などを置いて家に入ります。家の中は撮影禁止なので、写真はありません。実際、家の中は広くないし、貴重なアート作品も多いので、10名ほどのツアーであることを考えると仕方ないかもしれません。

 最初に彼が作った居間と台所で、初期のテーブルや椅子を見ることができました。初めの頃はお金がなくて、あまりよい木が買えず、コルクを使ったテーブルをデザインしたということでした。それから二階へ行って、彼と奥さんが集めた世界各地の工芸品やアート作品を見ます。これらのコレクションがとてもよく、彼の作品と家の良さを引き立たせていました。ここで見せられないのが残念です。見学中、家具に触ることは許されますが、座ることは許されません。ですが、最後に椅子に座ることができる部屋がありました。ロッキングチェアに座った感想は・・・、流石のフィット感でした。

 工房は入ることができませんでしたので、外から写真を撮りました。窓の内側にたくさんのテンプレートが釣り下がっています。

中をのぞくと、椅子の座になる木のブロックがあったりします。下右の手押鉋は現役ではなく、古くなったのをわざと外に置いて、オブジェにしているようです。

材木置場は入ることができました。ブラックウォールナットとメイプルが多かったように思いますが、特に良材を使っているわけではなく、むしろシラタや節のある、日本ではあまり良くないとされる材をうまく使っていると感じました。

そしてショールーム。下のテーブルは初期のコルク張りと、後期でしょうか、無垢の天板のテーブルです。これらは良材ばかり使ってはいません。

そしてご存じのロッキングチェアですが、後ろのはシラタのある材をうまく使っています。魚だけではなく、オブジェもいくつかありました。

 庭もユニークです。いろんなアート作品がいっぱい庭に散りばめられていました。

 実を言うと、ここを見学するまでサムマルーフ氏の家具はあまり好きではありませんでした。私は手をかけすぎないシンプルな家具が好きだからです。でも彼の生活した家や庭、そしてたくさんのアート作品、日本の浮世絵や武者絵まで飾ってあるのを見て、印象がかなり変わりました。何と言えばいいかわかりませんが、「本質を知っている人」だったのではないでしょうか。幸せな時間を持てることの大切さや、手でしか作ることができない自然な形、そういった本質的なことをよく理解していた人にように思います。彼の本を入手できなくても、下記のページには90歳になった彼を特集した本の主要部分を見ることができます(英語)。家の中の様子や製作中の写真もあり、大変興味深いです。

下記リンクページの英文中の”Maloof Beyond 90 -An American Woodworker”をクリックすると開くSASSE BOOKSのページでサムマルーフの写真をクリックすると58ページのPDFファイルを見ることができます。

Maloof at 90


2014年6月

・Roubo Bookstand
・関西人の名古屋界隈事情---王滝渓谷(豊田市)

◆ Roubo Bookstand ◆

 ブログで紹介しましたRoubo Bookstandの製作について、少し詳しく書いてみます。この作品は、古くから一枚の板からヒンジを作り出し、X型の本立てになるトリック的面白さで欧米では有名らしく、検索すれば多くの画像や作り方のビデオまで発見できるでしょう。

材料について
 ヒンジ部分の強度が心配されるため、木目方向にそって割れやす材や反りの出やすい材は不向きです。チェリーやブラックウォールナットでの作例が多いようです。幅が広くなると縦に二枚に割った後の反りで不具合が生じやすいため、最初は幅10cm〜15cmくらいが作りやすいと思います。厚さは厚いほど強度はでますが、穴が深くなり、また糸ノコによる切断が難しくなるため、2cm〜3cmぐらいが適当でしょう。

準備
 材料の断面を長方形にします。木工の基礎の習得、あるいは上達をめざし、手鉋でやりたいところです。長さ方向の切断は後で仕上げることから、手鋸による切りっぱなしでもかまいません。

墨付け
 マーキングナイフやシラガキで行いたいところですが、細い鉛筆でも大丈夫です。

RB図面

・ヒンジを作る部分の側面に上図のように板の厚みを対角線として正方形を留め定規を使って描き、中央の頂点と前後の頂点からスコヤを正確に使って板の周囲に墨を入れます。
・板幅を奇数割りします。幅10cm〜15cmなら、5分割でちょうどよいと思います。
・板の表と裏に、互い違いに、残す部分と落とす部分のマークを入れます。私の場合、残すところに○です。

製作

両側の切込にノミを垂直に入れて軽く叩き、中央の線から斜めに少しずつ取ります。
これを繰りかえし、ほぼ目的の穴の形状にします。
 

ジグを使わないでも加工はできますが、今回は仕上に45度(留)のジグを併用しています。
雑誌の記事では、直角二等辺三角形の型紙でチェックしていました。

写真はありませんが、各穴の隅に1mmほどの小さな穴をあけ、細い糸鋸刃で縦に切断します。

その後、板を半分に割ります、ここでは両刃鋸を使いました。バンドソウも使用可能ですが、
手鋸はロスが少なく、板の反りに応じて切断を微妙にコントロールできます。

切断が進むと、鋸を圧迫しないような固定方法に変更する必要があります。
場合によっては薄いクサビを入れるとよいかもしれません。

両側から鋸が入っても、浅かったり、糸鋸による切断が足らなかったり
するので、少し開けては慎重に手直しをします。

切断の足らないところが少し欠けましたが、X型になりました。

 この後は、切断面を小さな鉋やスクレーパーで削ります。そして、板の端を好みに応じて、アーチ状にするなど装飾を加えて完成です。

このRoubo Bookstand、30cmほどの小さな板があれば作ることができますし、ノミをちゃんと垂直に入れること、正確に45度に削ること、また鋸の正しい方など、手道具を使いこなすための重要なポイントがいくつも含まれています。アマチュアの方はもちろん、プロの方もお時間のある時に一度作ってみられてはいかがでしょうか。

参考:Furniture&Cabinetmaking No.218 P.59

◆ 関西人の名古屋界隈事情---王滝渓谷(豊田市) ◆

 先日アメリカ人の生徒さんから「オウタキゴージ、行ったことありますか?」と聞かれた。よく出歩く私だが知らなかったし、他の生徒さんも意外と知らなかった。「短いハイキングコースだけれど、渓谷に沿って新緑が美しく、巨岩があったりして、素晴らしいですよ」と彼からおすすめされた。

 そこで、早速行ってみた。場所は豊田市の中心部から東に30分くらい。紅葉で有名な足助へ向かう道の途中にある。以前松平郷に来たことがあるが、その近くだ。実は奥の大駐車場へ行こうとしてかなり迷ったのだが、渓谷を楽しむなら、足助街道沿いのな駐車場が一番良いと知り、結局もとに戻る。

 奥まで往復しても距離にして4〜5km。運動靴でも大丈夫だったが、岩が多いので軽登山靴の方が快適そう。短時間で行けるので、リフレッシュに良い所。豊田市というと、”世界のトヨタ”がまず頭に浮かぶが、意外と美しい里山が多い。

 新緑の美しい渓谷に沿った道を歩く。少し汗ばむくらいでこの時期はまだまだ快適。大きな岩がゴロゴロしているのを見ながら、園地と呼ばれる平坦な場所をいくつか通過し、赤い立派な橋がかかる上部の平坦地へ到着。ここにはバーベキュー場があるが、車で直接来られないので、ほとんど利用されていないようだ。その奥の渓谷には巨岩が倒れ掛かったような岩のトンネルがある。沖縄のセーファーウタキみたいと、冗談をいいつつ通って、この日はそこで引き返した。

王滝渓谷:豊田市観光協会

 

 



2014年5月

・板ハギに使うクランプ
・日立のテーブルソウ、その後
・足跡遠望記---肥溜め

◆ 板ハギに使うクランプ ◆

  板ハギは特に神経を使う作業であり、かつ頻繁に行う作業です。その中でクランプの果たす役割はとても大きく、その選択と使い方には深い理解が必要です。ウチは木工教室でもあり、手軽に使え、あて木をしなくても加圧しやすいベッセイの木工用クランプ(K-BODY旧型)を使って板ハギをすることが多いのです。しかし、「パラレルクランプ」とPRされるこのクランプ、実際に加圧する時には正確に平行に加圧できるのではなく、確実な板ハギを目指す場合には、繊細な注意が必要です。
 クランプはネジで加圧しますので、ネジの中心が力が作用する点です。平行に見える加圧部分も、実際にはネジの部分が最も力が強く、ネジから離れたバーの 近い部分は少し弱い加圧になると思われます。また下図上の例のように、板をバーから離し、ネジと一直線になるようにして加圧しますと、 強固なバーでも二番目の図のように曲がり、ハギ面は上が開くことになります。これを防ぐため両面から同じようにクランプをかけてバランスをとる、あるいはパイプを二本使ったハギ専用クランプが理想的ですが、使うのに慣れや材を横から差し入れる必要があるなど使いにくい面もあります。
 教室ではベッセイクランプを寝かせて使い、バーに板を添わせて板を置く方法をとっています。この場合にも繊細な注意が要ります。

clamp

3番目のように板をセットして加圧した場合、ネジ部が強く押され、材上部により力がかかるため、板は下方向に膨れようとするのですが、バーがあるためそれほど曲がりません。また前例のように、強く加圧することでバーは上に膨れようとするので、板と押し合いすることになり、バランスがとれるのではないかと考えています。そして軽く加圧した段階で、上(反対側)からも同様にクランプをかけ、まっすぐにハギ合わせていきます。ハギ面を均一に加圧できているかどうかは、ボンドのはみ出し方を見ることで、大雑把に知ることができます。もちろんハギ面が完璧な平面で両方の板が直線とな るように加工できているかが大切ですが、そうであっても、ボンドが片側からしかはみ出てこない場合は、力が偏っている可能性があります。なお、材を均一に加圧するため、半円形のアテ木を使う方法もあります。

  このようなベッセイクランプの使い方は、アゴの部分が金属でできている場合は大丈夫ですが、軽量が売りのユニクランプだと、無理があります。というのは、ブログでも書きましたが、軽量のユニクランプの加圧面は、Fクランプに丈夫なプラスチックカバーをかけているのと同等(写真)で、バーに近い根本部分に材料をはさみ、強く加圧すると、プラスチックが破損することがあるからです。

写真は旧タイプですが、現行のユニクランプも同様の構造、ネジ頭の加圧部分以外はリブの入った硬質プラスチック製で、経年変化等により、かなりの確率でプラスチックが破損しています。ですので、この軽量クランプではバーに近いところだけに材をはさんで強く加圧することは避けるべきです。

注文製作で大きなテーブルの天板を作る場合は、重いTバークランプ(Somax)を使っています。PONYのパイプクランプを使ったこともあるのですが、Tバーの方がよ り 強力に締付ができます。またパイプクランプはスタンドを作るなど工夫しないとやや不安定なこと、またクランプが滑ることも何度か経験しています。しかし、 パイプクランプはネジの中心がパイプから2cmほど離れているだけで、ベッセイの6.5cmに比べ(Tバーは2.5cm)極めて低いのです。したがって、厚さ4cmまでの板のハギ合わせにはフトコロが一番短いPONYクランプが適していると言えるかもしれません。

  とはいえ、ベッセイクランプは、手軽に使えるうえ、板ハギした材を垂直に立てやすいので、場所をとらないメリットもあります。それほど大きな板でなけれ ば、ベッセイのK-bodyクランプは板ハギ用として、充分以上に使えるクランプです。またユニクランプについては、プラスチックで弱い部分を知ったうえ で、軽量のメリットを生かす使い方には便利だと感じています。

◆ 日立のテーブルソウ、その後 ◆

まだ本格的に使っていませんが、使いやすいスライドテーブルを安く作るアイデアがうかばないため、とりあえず写真のようなテーブルソウ用横切ジグを 作ってみました。こういうことをしている間に、不満な点が出てきます。マイターガイド用の溝の精度がよくないのです。これはある意味致命傷かもしれません。このジグも軽く動くようにするとガタが大きくなってしまいます。精度のよいスライドテーブルのありがたさ、大切さを再認識させられます。でも、そんな優秀なスライドテーブルの付いたテーブルソウを作ろうとすると、値段がドーンと高くなるのでしょう。

これで板を切ってみました。刃は兼房のAN15ですから、申し分ないはずです。結果、かなりソーマークがでました。いつも使っている横切盤だと、切断面はきれいで丸鋸刃の跡はほとんど見えません。一度精度よい機械の性能を知ってしまうと、それ以下の性能では満足できないようです。原因はこのジグの精度ではなく、 モーター直結による振動やフランジの精度によるものではないかと思います。一度調光器の回路を利用して、回転数を下げて様子を見てみようと考えています。でも改造に費用がかかると、もともと高い機械を買った方がよいわけですから、なかなかむつかしいですね。

 話は変わりますが、最近p-toolsさんから鋳物テーブルで誘導モーターのテーブルソウが同程度の値段で発売されているようです。重さも50kg程度ですし、精度がよければアマチュア木工にはかなり理想に近いと思われます。どなたか、ご使用のなられている方おられましたら、ぜひ使い勝手や精度について教えてください。


◆ 足跡遠望記---肥溜め ◆

 小学校へ入る時期に合わせ、神戸元町の下町から、神戸市の西の端にある神戸市の第一期分譲住宅へと我家は引っ越した。その頃はまだ里山の暮しが残っていて、農家のおばあさんが背中に小枝をいっぱいしばりつけて歩いていたり、夏になると舞子駅から家までの道でホタルが飛んでいたこともしばしば。現在は集合住宅が立ち並ぶ駅への道は一面畑でその中を通りながら、仕事から親父は帰ってきていた。今思えば、なんともよい風景だった。

 そんな畑の中に、ところどころ肥溜めがあった。”こえだめ”とか”のつぼ”とか呼んでいたように思う。地中に埋めた大きな土管やコンクリート製プールに、人糞がためてあって、それはやはり臭かった。ここで人糞を発酵させると発酵熱で温度が70度くらいにもなり、寄生虫は死滅、安全な堆肥に変化するという。今は水洗トイレで人のウンコの匂いをかぐこともないが、江戸時代には糞尿も売買されたというくらい貴重な有機肥料やったと聞く。最近オーガニックという言葉がよく使われるが、要するに有機栽培された植物を使っているというPR文句。そんな回りくどい言葉より、肥溜めの方が、より有機農法の本質を表していると思う。 「ぼくの友達の○○は、遊んでいて”のつぼ”に落ちて糞マミレになった」と地元の友人は言っていた。危ないし、臭い代物やったけど、目に見える形で、有機物の循環や食物連鎖について自然と勉強できたのではないだろうか。




 先日の木工教室で私が「デパートの化粧品売場の匂いでアレルギーが出る」と言ったら、賛同される方が多かったのに驚いた。「強烈で刺激的な香水の匂いより、オナラの匂いの方が好き」というのは冗談半分やけど、肥溜めの匂いは牛舎の匂いとかと同じで、何か懐かしく、やさしい感じを受けるのは私だけだろうか。

 


2014年4月

・ホームページのリニューアル
・日立C10FEテーブルソウ
(名古屋事情と足跡遠望記は不定期に書かせていただきます)

◆ ホームページのリニューアル ◆

  10年以上ずっと使ってきたホームページの様式を変えました。「変わらない」方がよいと考えていたのですが、長年の間に、第三者にはわかりにくいホーム ページになっていたように思います。それで初めて見られる方にも興味を持っていただき、「もっと読んでみたい」と思っていただけるようにしました。プロが撮った写真の出来栄えが一味違ったこともきっかけです。

 前の表紙に慣れた方にはご不便をおかけするかもしれませんが、毎月の記事はこのページ「月刊記事」で今までどおり見ることができますので、どうかこれからもよろしく お願いします。またブログ、きまま日記もよろしくお願いします。

◆ 日立C10FEテーブルソウ ◆

プロ用木工機械は重量や値段の関係であきらめている方は多いのではないでしょうか。木工教室ですので、入手しやすい軽量の機械を試すことも大切と考え、今回 の購入に踏み切りました。趣味の木工なら、”重さ30kg未満、10万円以下で精度よいテーブルソウ”がほしいところですが、そんな機械はまずなくて、国 内では日立とマキタの軽量のテーブルソウが入手できるだけです。名古屋で工房を作る前はマキタ2703を駆使していましたが、工夫次第では結構使える印象がありました。重量がマキタより重く約25kgであることやマイターガイド用の溝が写真では深そうなことから日立C10FEを選んだのですが、事前情報が乏しく、正直なところ、「えーい人柱や」という感じで購入しました。まだ本格的に使っていませんが、まずはファーストインプレッションです。


  ヤマト宅急便でデッカイ段ボール箱に入って届きました。一人でなんとか持てる重さで、これは○です。意外にも、両サイドのテーブルは取付済で、充分フラットでした。専用スタンドも購入したのですが、これを使ってもテーブル高は72cmと低すぎで、キャスター付の板に乗せ85cmにしました(仮)。スタンド は自作する方がよいと思います。

 刃口板はテーブル面よりやや沈んでおり、これは作り変える必要があります。全般的にこの値段にしてはよくできていて、工夫次第ではかなり使えるという感 じです。
 予想どおりマイターガイドと溝の隙間は大きく、このままでは使えません。溝の上部に3か所のデッパリがあり、ガイドが上に抜けることを防いでいます。これは良い面と具合が悪い面がありそうです。 安全には寄与していると思い ます。

 リップフェンスは、「こんなものかなあ」という感じ。締付ねじのハンドルを大きくするなど、工夫次第でよくなりそうです。

 肝心の音ですが、やはり始動時のドカーンという音が・・・。回転してしまえばこの種のモーターにしては静かです。ソフトスタートの回路を組込みたいです が、無理かな?
 うれしい発見。海外用でしょうか、丸鋸刃 のすぐ後ろに割刃(スプリッ ター)が固定できそうな場所がありました。試しにその穴にM6のねじを入れてみるとバッチリ。付属の割刃と安全カバーは本体後部から取り付ける方式で家具作りでは使えないと思いました。
 もう一つうれしい発見。集塵機構が良さそうです。刃の下半分はカバーされ、後方ダクトで効率よく集塵ができる構造。これは◎。

刃口板の落とし込みは約7mmの深さがあり、自作は可能でしょう。○です。
 どうせ使わない付属の割刃を切断し、三日 月型スプリッターを作ってみ ました。まだ実際に切断していないのですが、充分実用になりそうです。

 値段(実質購入金額約5万円)にしては、よくできていて工夫しがいのある機械です。マイターガイド、ソフトスタートが改良できれば、良いのですが、どうなるかな。

 これからいろいろ楽しめそうです。また報告します。


2014年3月

・ひさしぶりの材木購入
・WindowsXPサポート終了後はどうすれば・・・
・関西人の名古屋界隈事情---3.11を前に

◆ ひさしぶりの材木購入 ◆

 久しぶりにまとまった量の材木を買いました。内訳はアルダー材 4/4インチを 約1.5立米、35mmのタモ材0.6立米、そして数年前に丸太を製材し、木工仲間3人で分けたことを忘れていた神代ニレです。

 前回までアルダーは3mのものを買って工房入口通路に積んでいたのですが、あまり格好良くありませんし、路駐したトラックから運び込むことになるため、今回から納屋の屋根だけのところ、幅 2.6mの場所に合わせ、8フィート2.4mのアルダーにしました。写真左奥がアルダーで、手前が神代ニレで、これは仮置き の状態です。次の写真は工房西側の庇下のタモ材置場です。ニレを除き人工乾燥材なので桟木は入れないですみますが、雨があたると困るので、屋根と風のとおる壁のあるところに保管しています。横殴りの雨だとあたるので、もう少し防雨の工夫をしなけれ ばなりません。

納屋の材木工房西側の材木

 アルダーは日本名「ハンノキ」。成長が速く、伐採と植 林が計画的になされていて持続的入手がしやすいとされています。アメリカでは”Poor man's cherry(貧乏人のチェリー)”と悪く呼ばれることもあるようですが、桜よりずっと軽くて温かく、また違った味わいがあります。針葉樹並の柔らかさで はありますが、私は好きな木です。意外と入手しにくい木で、その理由は日本ではアメリカのある会社の事実上独占状態で、3立 米以上あるようなバンドル(木を束ねた工場向け販売単位)でしか入手できないからだと思います。以前は遠方の米国広葉樹会社 まで二トントラックで買い出しに行っていましたが、今回は他にほしい人があるとのことで、名古屋の材木屋さんと半分分けし、 1.5立米ほどで購入できました。

 アメリカ材も値段の変動はありま すが、今回タモの価格高騰にはびっくりしました。2002年と2003年にロシアのウラジオストックに行った時、「大きな船にタモの丸太を満載して日本へ 行き、帰りは空っぽの船に日本の中古車を満載して帰ってくる」と通訳の人に聞きました。実際現地で走っている車の95%くら いは日本車だったという印象がありました。そのくらいタモは大量に日本に入って来ていたのだと思います。その時、日本の廃業 した製材工場の機械をロシア側が購入し製材所を作っていると ころを見ましたが、ロシアでの製材して販売する、これを「現地挽」というのですが、付加価値を高める方向に行ったのではないでしょうか。今「ナラ・タモ」 は高い材木の代名詞みたいになっています。木工教室なので、環孔材の教材を一種類は持っておきたいので、比較的買いやすい値 段の短いタモ材を買ったわけで す。それでも高いので、これがなくなったらホワイトアッシュなどに切り替えざるを得ないかもしれません。

 神代ニレは数年前に名古屋飛島村の製材所での「製材勉強会」で 見 ていたら欲しくなって、手をあげた3人で買ったものです。3人ともそのことをすっかり忘れていましたが、材木屋さんの方もあ まり記憶になかったようです。材木屋さんの商売はそんなのんびりしたところがあるんですね。アルダーを運んでもらう時ふと思 いだし、この機会に持ってきて もらいました。製材した直後の美しい色からは想像できないほど、ホコリをかぶって、きたなくなっていますが、削れば美しい緑がかった灰色が見えてくるはず です。これは教材用ではなく、私個人用です。教材は継続して供給できる材でないとダメだと思いますから、神代のような珍しい 材は適しません。

  余談ですが、私は不特定多数の方が見ることができるホームページやブログで、 購入している材木屋さん等の具体的情報を掲載することは避けています。小売がメインの材木屋さんならいいかもしれませんが、天然素材である材木に関して は、材木屋さんと購入者はある程度”持ちつ持たれつ”の信頼関係があるように思いますし、一枚の板を購入するのに在庫をひっ くり返されてはかなわないという材木屋さんの気持ちもよくわかるからです。だから、木工趣味の人であれプロであれ、気軽に 「材木屋さんを教えてください」を聞くことは、その辺の事情を理解していない人だと思われることになるかもしれません。今な らネットで丹念に調べれば、人に頼らなくても材木屋さんの情報は手に入りやすくなっていますから、まずは自分で調べて電話を かけてみるとよいと思います。
 趣味の方で、東海地方にお住みの方なら、岡崎にある材木屋さんが経営しているハウズという ホームセンターの木材売場は買いやすいでしょう。小売がメインのお店ですので、気軽に変えると思いますし、もともとが大きな 製材所さんなので、大きな材や大量に材料が欲しくなった時には相談にものってくれるでしょう。

  今月教室で材木のことについて話をするため、昔集めた端材を見ていたら、結構 沢山持っていることに少々驚きました。おそらくすべて国内産広葉樹だと思います。写真ではわかりにくいと思いますが、セン、シラカバ(山で伐採されていた のを拾ってきた)、ニレ、杢の入ったトチ、サトウカエデ、神代ニレ、マカバ、ナラ、カバ、センダン、ヤマサクラ、クルミ、ミ ズメ・・・などです。関西にいた時、摂津の鳥飼銘木センターのある銘木店で、端材処分ということで、安く売ってもらったもの が多いです。趣味の木工なら端材も生かせますが、仕事として の木工なら、やはり継続的に入手できることが必要で、あまり役に立ちません。

 機械でワーッと切って、パンパンと貼り付けるような作り方を貴 重 な木材にしてほしくありません。手間をかけることが木材を大切にすることにつながると思いますが、そんなことをしていては仕 事にならない。”木工”の将来を考える時、 新しいやり方、考え方のが必要な時が来ているように思います。

端材棚

◆ WindowsXPサポート終了後はどうすれば・・・ ◆

 木工の話でなくてすみません。正直なところ私はパソコンオタクぎみで、いろいろいじりまわすのが嫌いではありません。そして強制されるのが嫌いです。だから、WindowsXPサポート終了でパソコンの買替を迫る報 道を素直に受け入れられません。本当にXPを使い続けたら危ないのだろうか?専門家ではありませんので、以下はあくまで自己責任、参考程度に読んでほしいです。

WindowsXP のサ ポートが終了 する4月9日以降について

XP を継続して使う場合

XPから乗り換える 場合

 パソコンの買い替えをすすめる気はありませんが、5年以上使っ て いるパソコンならこの際新しくすることもよいと思います。ただし、もし買うなら、少々高くてもできるだけ性能の良いパソコンで、OSはWindows8か8.1がいいと思いま す。理由はWindows7のサポートが2020年までなのに対し、Windows8は2023年まで使えることができるので、少しでも長く使うことができるからです。
 自分はマイクロソフト社の都合でパソコンの購入をコントロールされるのは嫌で、かと言ってMACのブラックボックスのよう なPCもどうもシックリきません。一方今年に入ってから試しているLinux mintは、MSDOS時代のような、パソコンを自分に合ったように改造してゆくような楽しさがあり、現在多くの日常作業を Linuxへ移行しています。今月のホームページもGIMPという画像ソフトで写真を加工し、Kompozerというホームページ作成ソフトで書きました。操作に慣れは必要ですが、 WindowsでできることはほとんどLinuxでできます。オフィスに相当するソフトも最初から入っていて、それらすべて無料で使うことができるのは本当にありがたいです。

◆ 関西人の名古屋界隈事情---3.11を前に ◆

  肩のこらない話をと思ってはいるが、3.11を前に、どうしても書かずにおれない。現政権の懲りない姿勢、特に原発推進への積極姿勢に驚くばかり。写真は 2月26日 の中日新聞朝刊「話題の発掘、ニュースの追跡」という社説のようなページ。中日新聞は、継続して原発推進姿勢に疑問をなげかけている。毎週日曜には福島原発の各原子炉の現状が図入りでレポートされている。他の記事についてはさておき、原発問題に関しての中日新聞の姿勢は評価 できる。

newspaper20140226

 実は社会人になってから8年間、放射性医薬品の会社で営業をしていた。販売していたのは大きな病院向けの体内に入れる放射性診断薬で、骨へのガン転移や脳の血流を調べたりする放射性物質をくっつけた検査薬である。一 般の方でも”骨シンチグラフィー”とか”PET”とか、聞いたことがある方はおられると思う。体に負担をかけずに検査できる ので、広く普及している。扱っている核種の半減期は短いもので2時間程度、最も多く使われているテクネシウムという核種で6 時間、長いものでも100時間以内がほとんどだった。だから、数日経てば限りなくゼロに近づくので、放射線被曝は少なくてすむし、環境への影響も少ないとされている。
 これに比べ原子炉で発生する廃棄物や分解生成物の半減期は全く比較にならないほど極めて長い。猛毒のプルトニウムにいたっ ては2万年以上とほぼ永久になくならないのだ。人間は科学の発達で何でもできるように思いがちだが、この半減期を短くするこ とは、最近「半減期を数万年から数百年の単位に短 くできる技術が開発された」というような報告はあるが・・・、事実上不可能。要するに永久に危険な廃棄物をどこかに保管しなければならない。仮に技術が進 んで原発の安全管理が完ぺきであったとしても、廃棄物の問題は絶対になくならない。誰が考えても、そんな危険なことを推進す るのは、ばかげている。少なくとも原発を減らしてゆく方向は示すべきだ。政治家は「黒を白」と言えるような人でないと務まら ない側面はあると思うが、これはひどすぎる。次回の選挙時、原発対応に焦点をあてて候補者を選びたい。


2014年2月

・手押鉋盤の刃を自分で研磨する
・プロになることを夢みる?
・足跡遠望記---神戸元町から引越?!

◆ 手押鉋盤の刃を自分で研磨する ◆

 教室の機械室には2つの手押鉋盤があります。一つは完全にプロ向け、300mmの手押ですが、もう一つはアマチュア向 け商品で、100kg未満の中国製150mmの手押鉋、7万円くらいで買ったと記憶しています。後者は精度はイマイチですが、刃物が痛みやすい木端の荒削 りによく利用しています。はぎ合わせなど精度が要求される場合は、この後大きな手押鉋で仕上げ削りをすると、都合がよいのです。このような使い方ですの で、小型手押鉋盤の刃は、自分で研いでいます。今月はその方法を紹介します。ただし、250mm以上の鉋刃や精度が要求される場合には信頼できる研磨屋さ んへ出すことをおすすめします。

 まず、刃の重さを測定します。キッチンスケールでよいですが、できれば0.5g以上の精度 がほしいところです。写真の ものは0.5gまでしか表示されませんので、0.5g程度の誤差があるはずです。今回3本の刃の重さは46.0g、46.5g、47.0gでした。木工機械安全講習では「重さのバラつきは1g以内」と教わりましたので、今回は47gの刃は他のものより少し大めに研磨することにします。

 その研ぐ方法ですが、この程度の長さであれば、手で直接持ち、今の刃角を維持するように研 ぐことは可能です。しかし、 なかなか上手くいかない方が多いでしょう。それと時間がかかるので、一年くらい前から、下のようなジグを作って中研ぎしています。この鉋盤での私の好みの 刃角は45度なので、テーブルソウの刃を45度に傾け、まっすぐな木片の両側に刃の巾より3mmくらい浅く切目を入れ、その間の木を落とし、別の木で刃を 押さえるようにネジで固定する構造です。

 おわかりのとおり、残念ながら一度に二枚の刃しか研ぐことができません。どう考えても、三枚の刃を同時に研ぐのは不可 能で、これは仕方がありません。ですので、1、まず二枚を研ぎ、2、多く研げた方を外し残りの刃をセットして研磨、3、二回研いだ刃を最初に外した刃につ けかえて研磨、という3回ステップで研いでいきます。

 私は最初はツボマンの比較的安価なダイヤモンド砥石で刃返りがでるまで研ぎ、刃こぼれなどをなくしてから、シャプトン 1000番で中研ぎを終えます。仕上げ研ぎは、ジグから外して裏側も刃先に力がかかるように押し付けながら1200番〜2000番の砥石で少し磨き、その 後は人工仕上砥石で表裏を整え、終わりとします。写真でわかるのように、この安いハイス刃は裏側の仕上げが悪く、研いでやらないといい切れ味にはならない からです。3枚とも仕上研ぎまで終わったら、CRC-56など、油で拭き、新聞紙や油紙に包んで保管します。

 うまく研ぐためには、いくつかポイントがあります。まずジグを刃にセットする時、二枚の刃 先が完全に平行になるように セットすることです。下の写真は研ぎ終わった刃なので、机に置いていますが、しっかり平面がでた厚いガラス板などに置いてから刃を仮固定し、ネジをしめるようにします。うまく砥石にあたっているかどうか不安な場合は、しのぎ面全体をマジックで黒く塗りつぶしてから、軽く研ぎ、マジックの取れ具合で判断する ことができます。

 こんな簡単な木製ジグでは手の暖かさや砥石の水分によって、木が変形し、研ぎ角がわずかに 変化することがあります。で きれば金属でこのようなジグを作ればいいのですが、どうせ手で研磨するのですから、この程度で充分だとも言えます。私のところでは荒研ぎ用というにはもっ たいないくらい、通常使うには充分の精度で研磨できています。何かの参考になれば幸いです。

◆ プロになることを夢みる? ◆

 最近のFineWoodWorking誌(No.235)に”Dreaming of Going Pro?"と題する記事が載っていました。著者のJonathan Binzen氏が前置きのあと、5つのレシピというか成功例を写真入りで紹介しているのですが、残念ながら英語に弱く詳しく読むことはできませんが、前置きの出だしが面白かったのです。あくまで私的なアレンジ訳ということで、それを書いてみます。

「一度、よく調整された鉋で二三回すばらしい削りを体験したり、スキマの 全くないアリ組をカットできたり、また友人や家族に賞賛される丈夫なキャビネットや台を作った経験をすると、次のような思いが心の中に生じてくるのはおそらく避けがたいだろう---自分はこれをやって生きていけないだろうか?---」。

 その後彼は「その答えはおそらくNoであり、少なくとも今までの生活のようにはいかな い。」と書いています。木工のプ ロも、幼少期から木工の世界で生きるべくして育った方は別として、多くはアマチュアからの転進だと考えて差し支えないと思います。私の場合、まさしくこの 記事のとおりでした。初めて木組みを習った時、「精密な加工はこうしてやるんや!」と驚き、目からウロコの連続でした。そして作った抽斗箱が、初心者にし ては本当にうまくでき、売れるレベルだったのです。細かい加工に没頭していると時間を忘れている自分に気づき、「俺は木工が合っている」と思ったものでし た。そしていろんな方に「木工を仕事にしたい」と相談したのですが、「ぜひやってみなさい」と言う人は皆無で、何人かの人には「やめとき!」とはっきり言 われましたし、作品の写真を見てやんわりと「これからだね(今の作品はダメや)」とも。

 好きなことと、それで生きることは全く次元の異なる話で、「木工が好きだから仕事にする」 というのは短絡すぎます。で もどうしても諦められない人は、たとえ失敗してもやってみるしかない。「ネットを見れば、立派に独立を果たしている木工家が沢山いるではないですか?」と の反論も聞こえてきそうです。それはそうで、ここ10年ほどの間に、若手木工家が沢山登場しています。ただ、多くの方は、良いことしかネットには書いてい ませんし、たとえば経済的な支えの有無等について、それを表に出すことはしません。「できない理由を探すのはやめよう」という啓蒙本もよくありますが、やはりどうやって食べていくか、そこのところはしっかり数字で計画をたてておくべきです。記事の前置きの最後は”Best of Luck"ですが、このような場合どう訳したらよいでしょう。直訳は「幸運を祈る」でしょうが、「まあ最高の運が回ってくるといいね」ぐらいでしょうか。

 さて数年前から関わって来た名古屋での合同展示会が今年も6月初旬に開かれます。身内の事 情で参加できなかった一回を 除き、毎回出展していましたが、若手木工家も沢山参加されるようですし、木工教室がメインで注文製作をほとんどしていない現状も考え、今年は参加しないこ とにしました。出展者にはもとアマチュアで今はプロの木工家が大勢おられますから、いい話とともに苦労話を聞くことができるかもしれませんね。もちろん、 商売の邪魔にならないよう留意してしてください。

木 の家具40人展2014

 話は変わりますが、私は「木工家」という呼名がどうも好きになれません。柔道家、書道家、 茶道家、投資家、芸術家、木 工家・・・、ドエライ先生の感じがして、自分は言い言葉が見つかりませんが、「木工屋」でよいような気がします。

◆ 足跡遠望記---神戸元町から引越?! ◆

 明治生まれのおばあちゃんには、よくいろんな所へ連れて行ってもらった。モダン寺へのお参 り、以前書いた燈籠茶屋、千 刈水源地での花見等々。そうそう、その千刈水源地の花見では、子供達は少々退屈なので、年上の誰かが連れてきていたお兄ちゃんに「水源地見に行こうか」と 誘われ、花見の宴を離れて、子供二人で水辺に行ったのだ。行っている時間は20分か30分くらいだったと思うが、帰ってくると、大騒ぎになっていた。おば あちゃんは孫がいなくなったと慌てふためき、酒に酔った他の花見客もいっぱいいるので、連れ去られたのではないかと心配したらしい。当の本人は、ケロッと していたが、「どこ行ってたんや」と大変な騒動であった。

 さてある日、おばあちゃんはぼくを連れて、生田区役所か公会堂だったか、記憶がはっきりし ないが、講堂みたいなところ へ行った。大勢の人が座っていて、舞台の上には何人か、司会者のような人がいて、机があって、そのうえにガラガラ回すと玉が出る抽選機が置いてあった。講 堂に入って少し経ったころ、「13番」とか言われたように思うが、はっきりとした記憶はない。ただ、突然おばあちゃんが血相を変えて、「えらいことになっ た。舞台に呼ばれでもしたら大変や。良平、もう帰ろ。」とそそくさと会場を出て、急いで家に帰ったのである。小さな子供には何が起こったかまったく理解で きなかったが、後日の話で、神戸市の第一期分譲住宅の抽選会で、ものすごい競争率のなか、ある区画に申し込んでいた父母の番号13番(だったと思う)が当 たったのである。

 当時は戦後の高度成長期にまさに入ろうとする時期であり、親父が勤めていた神戸製鋼所の灘 浜工場がずっと西の高砂に移 るため、親父は勤務地に近いところに家を探していたのである。明石市の小さな二個一の住宅を見に行ったことも記憶にあるが、おそらくは新聞などで神戸市が 舞子の山を削って作った住宅地の第一期分譲の記事を見て応募していたのだろう。第一期というのは、大変めぐまれていて、応募した区画は100坪近い土地 に、今でいう3DKの平屋の家が建つ。ものすごい幸運なのだが、火災で二度も自力で建て直した今の元町の家に、そして元町という場所に祖母はとても愛着を 持っており、引越しはしたくなかったという。

 おそらく、父母と祖母の間で真剣な家庭会議があっただろう。一時祖母は「私だけ元町に残 る」と言っていたらしい。小さ かったので、紆余曲折はよくわからないが、結局、元町の家は隣の蕎麦屋に売り、神戸市の西の端、舞子へと引越をすることになったのである。このくじに当 たったことで、下町の小さな家の5人家族は、郊外の高台にある庭付一戸建住宅の住人となることになった。


2014年1月

・2013年度木工教室作品展
・足跡遠望記---お正月

◆ 2013年度木工教室作品展 ◆

昨年10月末の開催しました第13回木工教室作品展の出品作品全品を下記に公開しまし た。(写真の無断転用はご遠慮 ください)

作 品展2013

数は少ないですが、昨年私が作りました作品の写真も掲載しました。

2013 年の作品

◆ 足跡遠望記---お正月 ◆

 神戸元町での幼少期、クリスマスからお正月にかけてのイベントの連続は、それはそれは楽し いものだった。現在のように オモチャがあふれ、テレビゲームし放題と違い、特にお正月は特別だった。いつもは仕事の服作りで遊んでくれない母親が、正月の3日間は作業台(裁縫台)を ふっくりかえしてお休みモードになり、相手をしてくれるのが本当に楽しかった。

 龍野の農家出身の祖母は、普段は大変倹約家だったが、お正月や法事などの行事には気合が入っていた。3歳くらいまで は”賃つき屋”という餅をついてくれる職人さんを呼んで、家の前の道路で派手にもちをついた。できたての餅にアンコをつけたり、大根おろしで食べたりし て、さぞ美味しかったと思うが、残念ながらあまり味の記憶がない。ある年”賃つき屋”の一人が道端でおしっこをして、そのまま餅を触ったことで、それ以降は頼まなくなり、代わりに元町通りの”力餅”というおはぎやうどんのお店に餅を頼んでいた。

 その頃、三ヶ日どころか、店によっては5日くらいまで完全に閉まっていた。だから、”おせ ち”は飾りではなく保存食 だった。祖母の作るお正月料理の量は半端ではなく、ひとつひとつが大鉢に山盛りになっていた。高野とうふを甘く煮たものが一番足が速く、三日くらいになる と糸をひきだし、あわてて食べていたような記憶がある。ごまめはあまりに沢山あって人気がなく、15日くらいまで残っていた。尾頭付きの鯛の塩焼きは、元 旦は食べずに見るだけで”にらみ鯛”と呼ばれ、2日目から食べていた。3日には、とろろ汁を作って、それをご飯にかけて食べるのがウチの習慣だった。

 お餅も大量で、丸めた”丸もち”と板状につくった”のし餅”があり、おそらくはカビが生え にくい”のし餅”を後に食べ たのではないだろうか。15日には硬くなってヒビやカビがはえたお鏡餅を包丁で切ったり削ったりして雑煮にして食べた。子供にしてみれば、毎回部屋の隅に 置いてある正月料理を食卓に持ってきて食べるだけなので、3日めくらいから飽きて「他に食べるものないのん?」と聞いて、よく怒られた。

 スーパーの食品売り場で働いていた30年くらい前、店は2日まで休みで、3日目の勤務では お正月手当てが出た。ところが今では大晦日も深夜まで営業し、さらに元旦からほとんどのスーパーが開いている。便利ではあるが、日本の風習を壊していくことにつながっている。和食が 世界無形遺産になるかもしれない昨今、庶民の家庭で、お正月くらいは贅沢していろんな料理を作っていたことをもう一度振り返ってみるのは意味のあることだ と思う。


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