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2002年9月の見聞録



9月12日

 ようやく、あらかたことが片づいた。結局、8月は1回しか更新できなかった。これからも少し忙しい状況が続きそうなので、ぼちぼちと更新していくことになるかな。
 というわけで、玄田有史『仕事の中の曖昧な不安 揺れる若年の現在』(中央公論新社、2001年)を読む。現在の雇用不安は、中高年よりも、若年層においてこそ重大な問題になっているとの認識から、議論を進める。主要な主張は、大卒よりも高卒の就職者の方が、深刻な状況であることと、中高年が既得権を守ろうとしていることこそが若年層の就職の機会を奪っているというもの。特に後者に関しては、山田昌弘『パラサイト・シングルの時代』が述べるような若年層が親元を離れない状況は、中高年層が仕事を保持し続けるがゆえに若年層へ新たに回ってこないためであり、パラサイトシングルはフリーターの登場のような若年の雇用状況の変化の「原因」ではなく「結果」である、というのは恐らく正しいと思う。
 ただし、現状の認識に関しては色々とデータを示して緻密に進めようとするのに、若年層の困難な現状の解決策のひとつとして上げているのが、「頑張れ」と言わないこと、というのは論理的ではないのでは? データ主義で議論を進めていたのなら、展望もデータを使ったものの方が、たとえ味気ない本になったとしても、首尾一貫してると思うのだけれど。
 それと、やりがいのある仕事を見つけられなくなったことが、若年層の離職やフリーター化を促したと見なしているようだけど、こうした肯定的な見方は少しずれていると思う。恐らく若年層の生活水準が上がったことと、プライドが若干高くなったこととからくるのではなかろうか。基本的に衣食住に困らず、豊富な娯楽に囲まれた生活をしているために、それとは噛み合わないような仕事はしたくない、ということが根っこにあるような気がする。


9月15日

 篠原千絵『天は赤い河のほとり』(フラワーC、小学館)28巻を読む(25巻はココ)。完結。何だかあっさりした終わり方。まあ、これ以上続かせることにあんまり意味はないのかもしれないし、安定期にはいった帝国のストーリーを描かれても、この漫画的には面白くないのだろうけど。


9月18日

 ジェレミー=ブラック『地図の政治学』(青土社、2001年)を読む。主に近代以降の地図に関して、その作成に関して恣意的に選び取られた情報を読みとると共に、そこに込められた政治的な意図を確認していく。あまり面白くない。地図の作製に制作者の意図が込められているのは当たり前であり、その作製の前段階における情報操作の過程を探ろうという姿勢がなければ表層的な調査にすぎないのではなかろうか。


9月19日

 吉田秋生『YASHA』(フラワーC、小学館)12巻を読む(11巻はココ)。完結。何だかあっさりした終わり方(篠原千絵『天は赤い河のほとり』の時にも同じことを言ったな)。このマンガが『BANANA FISH』より落ちるのは、ラストが盛り上がりに欠けたせいであるのと、雨宮稟を除いた敵役がいまひとつ濃さが足りなかったからと思う。もちろんそんじょそこらのマンガよりも面白いんだけどね。


9月25日

 福本伸行『アカギ』(近代麻雀C、竹書房)13巻を読む(12巻はココ)。幾度もピンチを迎えながらも、4回線をしのぎきったアカギ。憔悴しきった鷲巣に対して、いままで抜き取られた血液1300CCをすべて破棄しての勝負の続行を訴えかける…。アカギを「死にたがりの狂人」と見なした鷲巣の考えを、鷲巣の本質を見て勝負したいというアカギの思惑が凌駕していくという展開になるのかな?


9月30日

 副島隆彦・山口宏『新版 法律学の正体』(洋泉社、2002年)を読む。法律学の全体像と分野ごとの状況を記しているのだが、全体的なテーマは日本の法律学が他の社会科学分野の諸学問とのリンクを図っていないために、価値判断部分を理論化・体系化できておらず、価値判断をするのではなく結論を正当化するだけに終わっていることへの批判といった感じか。おそく法律学者たちは、表面をなぞっただけの浅い書だとの批判を行うだろうが、少なくとも文章がこなれている分だけ、既存の法律学の教科書よりは分かりやすい。ちなみに、本文で批判した書籍を含めたブックガイドを付けてもらえれば、さらによかったのではなかろうか。
 ところで、この本は元々の版が1996年に出ているようだが、あとがきを読む限り、内容そのものは加筆は行われていないようである。本書で語れている状況は1996年から変わっていないという理由もあるのだろうけど、それほど売れると思えないような1996年の本をあえて新版として出す商業的な意味はどこにあるのかが少し気になる。


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