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2017年3月の見聞録



3月9日

 リチャード・ワイズマン(木村博江訳)『よく眠るための科学が教える10の秘密』(文藝春秋、2015年)を読む。書名通り、睡眠に関する科学的な研究の成果をまとめたもの。基本的なテーゼをまとめると、睡眠時間が長いほど良い、昼寝は効率を上げる、夢は心のセラピーなどである。一般的に言われていることを改めて科学的に裏付けていったような感じで、知的な興奮が得られるとは感じなかったが、それでも面白いデータや実用書として興味深い記述も散見された。メモ的に眺めてみたい。
 人間は睡眠に入るとまずは軽睡眠に入る。そこから25分ほど経つと深睡眠に入る。そこから30分ほど経つと軽睡眠に再び戻る。最初の段階で起こされると夢をはっきり覚えてはいないが、軽睡眠に再び戻ったときに起こされると夢をはっきりと覚えている(29〜31頁)。
 睡眠に関するグレゴリー・ベレンキーとそのチームは、4つのグループに分けて、それぞれの睡眠時間を9時間、7時間、5時間、3時間にしてもらって、数日の間に自分の疲れ度合い自己評価と機敏さを調べるテストを行った。9時間のグループは極めて機敏に反応したが、5時間と3時間のグループは疲労感が強く、注意力が散漫だった。7時間のグループは、9時間のグループと同じくらいの割合で頭が冴えていると回答したが、機敏さのテスト結果は低調だった。これは睡眠の量が少し減るだけで、有害な影響が出やすいことを実証した(63頁)。なお、1990年代後半に行われたジェーン・フェリーの5千人以上を対象とした調査では、中年以上の人は一晩の睡眠時間が6時間以下かもしくは8時間以上だと脳の力がおよそ7歳老化すると推定したそうである(67頁)。なお、これだけの睡眠時間をとるためにはそれだけ、生活に余裕がないといけないと思われる。睡眠も格差が影響するということなのだろうか。
 睡眠の質を高める方法は以下の5つである。第1に、眠るための環境を確保する。暗闇は重要で、目に光が入ると睡眠を助けるメラトニンの流出が減る。騒音がしても、ラジオで局があっていないときに流れるホワイトノイズを聞けば騒音はかき消される。寝室は睡眠とセックスだけの部屋にした方が良い(92〜95頁)。
 第2に、昼間の過ごし方に気を付ける。昼寝は20分ほどの1回だけで短いほうがよい。昼間に最低でも合計2時間半の中程度の有酸素運動か75分間の激しいエクササイズを毎週行う必要がある。頭を疲れさせる。いつもより15分早く起きる。なお、限定的睡眠法(リンクは外部サイト)という方法で睡眠時間を調整する方法もある(94〜96頁)。
 第3に寝る前の時間の使い方に気を付ける。眠る前に摂氏41度のお湯に30分ほど入ると睡眠の質が大幅に向上する。寝る前に側にメモ帳を用意し、自分がいま気になっていることを書き出し、その問題を解決するにはどこから始めればいいかを書き出す。寝る前には食べない方がいいが、炭水化物を豊富に含む食物を200カロリー以下だけ摂取すると、よく眠れる可能性が高まる。なお、ラベンダーの香りは眠気を誘う(98〜101頁)。
 第4に眠りに落ちる方法を身に付ける。逆転の発想として眠るまいと考えると、眠りにつけるようになる可能性が高い(103頁)。
 第5に夜中に目が覚めたときの対処法を身に付ける。起き上がって緩い運動をする。頭を使うという点でジグソーパズルや絵を描くことがよい。ただし、明るい照明やパソコンの画面の光を浴びるのは避けること。悩みを忘れて横になるだけでも体は休まる。つま先を10秒ほど緊張させた後にほっと緩める動作を繰り返すとリラクゼーションができる。これを両足、両腕、両手、胸、両肩、頭に行う(104〜105頁)。
 睡眠に関する質問とその回答結果について、以下にまとめる。
 睡眠時間に関して(10〜11頁)。
 1)夜の時間が空いていて、翌日もとくに予定がない場合、寝る時間は何時くらい?
   @21:00前 A21:00〜22:30 B22:30〜00:00 C00:00〜01:30 D01:30以降
 2)夜の時間が空いていて、翌日も特に予定がない場合、翌朝起きる時間は何時くらい?
   @06:30前 A06:30〜08:00 B08:00〜09:30 C09:30〜11:00 D11:00以降
 3)たいていの場合、朝の寝起きは?
   @とても良い A良い Bときによる C悪い Dとても悪い
 4)肉体労働を二時間することになり、一日の計画を自由に立てられるとしたら、その仕事を何時ごろに予定する?
   @08:00〜11:00 A11:00〜13:00 B13:00〜15:00 C15:00〜17:00 D17:00〜19:00
 すべての解答の番号を合計した数字が、4〜6ならば強度の朝型、7〜10ならば中程度の朝型、11〜13ならば朝型でも夜型でもない、14〜17ならば中程度の夜型、18〜20ならば強度の夜型となる。最も気分がよく仕事がはかどるのは、朝型の場合、昼時をピークに午前9時から午後4時までが頭が冴える。夜型の場合は、午後6時くらいをピークに午後1時から10時頃までが活動的になれる(41頁)。なお、このタイプは主に遺伝子で決まるらしい(40〜41頁)。
 睡眠の質について(47〜48頁)。
 1)思いどおりに眠れているかか? 自分が望んだときに眠ったり起きたりできるか?
   @まったくできない Aできない Bときによる Cできる D完全にできる
 2)日中眠くなることが多いか? たとえば運転中、会議中、人との会話中などに。
   @まったくない Aない Aときによる Cある Dいつもある
 3)夜中に目が覚めることがあるか?
  @まったくない Aない Bときによる Cある Dいつもある
 4)真夜中に目が醒めたとき、もう一度寝直すのに苦労するか?
  @まったくない Aない Bときによる Cある Dいつもある
 5)良い夢を見ることがあるか?
  @まったくない Aない Aときによる Cある Dいつもある
 6)自分の睡眠の質を評価せよ。
  @非常に悪い A悪い B良くも悪くもない C良い Dとても良い
 7)朝目覚めたときの気分は?
  @とても悪い A悪い A良くも悪くもない C良い Dとても良い
 合計点が17点以下であれば、睡眠の質はよくない。18〜26点であれば中程度である。27点以上ならば「睡眠の達人」であり、いつでも好きに熟睡でき、爽快な気分で目覚め、幸福感に溢れ、成功と健康を自分ののものとしている。なお、著者が3千人に調査したところ回答者の2割が睡眠の質が悪く、「睡眠の達人」は1割だった。
 ちなみに、私は睡眠時間に関して「どちらでもない」だったのだが、これはどういうタイプなのかについての記述はなかった気がする。


3月19日

 村井良介『戦国大名論 暴力と法と権力』(講談社選書メチエ、2015年)を読む。少し必要があって読んだのだが、専門外の読者には少し読みにくい。あえて簡単にまとめれば、戦国時代を暴力的で私的な支配が行われた中世の延長線上と見なすか、法的で公的な支配が行われた近世の萌芽と見なすかという二元論的な見方を批判していると言える。戦国末期において統一政権が私戦を禁じていきそれが近世へと受け継がれたが、近世社会の平和も法を維持するための暴力は存在しており、上記の二元論的な見方はできない、とする。
 後書きに書いているとおり、先行研究について研究者の名前を出して紹介しつつ説明していっているのだが、それよりも新たな視点に基づく戦国時代をもっと読みたいな、と少しもどかしく思ってしまった。これはこちらに知識がなさすぎるのも悪いのだが。それでも、終章で述べられている見解こそ、具体例に基づきつつじっくり紹介してほしかった気がする。ただしその結論も、個人的にはやや概念的すぎる気もしたのだが。


3月29日

 初野晴『空想オルガン』(角川文庫、2012年(原著は2010年))を読む(ハルチカシリーズの前作はココ)。女子高生のチカと男子高校生のハルタが吹奏楽部の顧問である草壁信二郎との三角関係で張り合いながら、吹奏楽の「甲子園」普門館を目指すというそれまでの大きなストーリーを基に、日常の謎を解いていく短編連作集。いままでは、それぞれの間に連続性はなかったけれど、今回は少しずつ上位の大会に進んでいくという点ではつながりが少しある。こんなにドラマチックなことが起こる高校生なんかいないよな、と思いつつ進んでいき、いつものように社会派めいたやや重い話があるなあと思っていたら、意外な結末になった。ただし、その人物があんな職業を兼ねていたというのは現実には難しい気もして、置きにいった伏線にも思えてしまったのだが。
 それとは関係なく一番印象に残ったのは親子関係の希薄さについて書かれた部分。「仮に年に二日の帰省、親の残りの人生を三十年とすれば、死ぬまでに六十日しか一緒に過ごせない計算になる。子供にとってはまだ三十年という長い歳月かもしれないが、親にとってみればたったの二ヶ月だ」(246〜247頁)。数字にすればわかりやすいが、それを上手く表現することも大切だな、と。


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