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2016年4月の見聞録



4月2日

 櫻田大造『大学入試担当教員のぶっちゃけ話』(中公新書ラクレ、2013年)を読む。日本の大学入試は、先進国のなかでは特殊なようである。入試の種類と数の多さ、それに各大学・学部独自の筆記試験の存在は、たとえばアメリカの入試にはない。アメリカでは、そもそも入試業務は教員ではなく職員の管轄事項である。筆記型個別試験は日本とフィンランドが例外的であり、主流は高校の課程修了を見極める共通テストの利用だそうである。そういった日本の入試に関する、AO、自己推薦、センター入試、問題作成、試験監督、採点・合格発表、予備校との絡み学歴ロンダなどのテーマについて述べていく。
 とりあえず印象に残ったものをメモ的に。大学・短大入学者数を志願者数で割った入学実現率は70年代に70%前後まで上昇する。80年代後半はやや下落して90年には62.7%になったが、そこから上昇を続け2012年には92.4%となっている(26頁、なお「大学受験・進学60年始プロフィール」(『大学受験・進学60年史 ブログ版』)をもとに著者が作成)。
 2013年度には、全私学受験者数である約295万2000人の約半分にあたる146万5621人の受験生が、上位24大学の大学受験に集中している(32頁)。
 主要私学の歩留まり率を日博すると、関西の私学は26〜40%に留まり、関東よりもやや低めである。これには、関西での国公立重視の風潮も反映しているのかもしれない(131〜132頁)。
 予備校の入試問題予測は、大学教員が何に関心を持ってどういう研究をしているか、あるいは現在の研究テーマなどを、発表論文・学会動向・授業内容などをもとに行われているようである(167頁)。
 バラク・オバマの最終学齢期はハーバード大のロースクールの法務博士であり、卒業大学はアイビーリーグの名門コロンビア大であるが、もともと入学したのはカリフォルニア州にあるオクシデンタル・カレッジというリベラルアーツ系の小規模私学であり、そこから編入した(197〜198頁)。
 さて、本書の中で個人的に一番興味深かったのは、就活関係者や企業関係者の間では、本書の出版現在であっても就活生を学歴によるフィルターでふるいをかけているのが実態である(218〜221頁)という部分だった。ただし、AOや推薦入試の名ばかり有名大生は避けたいようでもある(221〜222頁)。さらに、大学で学ばなかった人は企業でも使えないとの考えも広がりつつあり、GPAによる就職選抜も注目を集めているようである。
 著者は在学中の学生が勉強する傾向を歓迎しているようだが、おそらく大学教員はそうであってほしいと望んでいると思う。ただし、他者から評価される形で、それを行い得ている教員はそれほどいないような気がする。それが窺い知れるのは、ビブリオバトルについて触れた箇所(259頁)。ビブリオバトルとは、おすすめ本をメンバー同士でプレゼンして、参加者の投票でチャンプを決めるというものである(谷口忠大『ビブリオバトル 本を知り人を知る書評ゲーム』を参照)。そして著者は「そもそも文系の学者自身が、ほぼすべて読書量で勝負していると言っても過言ではない」(同頁)と言っており、これは事実であろう。そして「その一端である読書の大切さをホンの少しでも学生に教えずして、どうやって文系の大学教育が成立するのか! 個人的には疑問に思う」(同頁)と書いている。そう書くのであれば、せめて自分自身の取り組みとその効果を、研究同様に客観的な評価として見える形で何か示すべきではないだろうか。本書はそうした書物ではないのだし、実際には著者は何かそうした取り組みをやっているのかもしれない。けれども、自分でも揚げ足取りのようにも感じるとはいえ、教育に対してはそうした他力本願のように見えるところが少し気になってしまった。


4月12日

 小野不由美『残穢』(新潮社、2012年)を読む。ホラー小説を執筆することもある小説家である「私」は、とあるルポライターから自分のマンションから、畳を擦る音やいるはずのない赤ん坊の泣き声、何かが床下を這い廻る気配がする、という。その怪異現象にはかつて自殺者がいたなどの過去があるのかを探るうちに、戦前に至までのその土地の歴史にまで至っていく…。
 正直に言って、個人的には真相そのものは何か特別に面白みがあるように思えなかった。ただし、自分たちの住む家にも過去がある、というのは考えもしなかったことだった。そうしたミクロな歴史は他者にとってほとんどの場合には意味がないのだが、ミクロの集積が社会史になるのかな、と思った。怪談においては些細な言い回しが作るイメージの膨らみが重要だ、という点は文学だけではなく歴史叙述においても重要なのかもしれない。


4月22日

 新井立夫・石渡嶺司『教員採用のカラクリ 「高人気」職のドタバタ受験事情』(中公新書ラクレ、2013年)を読む。教員採用の現在の状況についてまとめたもの。メモ的に事項を挙げてみる。
 2010年度版の「学校教員基本調査」(文部科学省)では小中高の正規教員の採用前の状況は、新卒を抑えて非常勤講師等が1位になっている(22頁)。
 教員養成系の大学のデメリットとして、民間企業への志望に転校した際に、就活が一般学生より難しくなることが挙げられる(38〜39頁)。なお、就職活動をしつつ教員免許は取っておきたいという学生に対しては、余程酷い学生でなければ配慮するという企業の人事の声を紹介している(77〜78頁)。
 教員採用試験の1次試験は例年7月2週〜4週に集中している。これについてまことしやかにささやかれているのは、試験会場となる学校の清掃を、夏休み前に児童や生徒による通常の清掃活動ですませられるため、という理由である(60頁)。
 面接にて「降りてきた階段は何段でしたか」という質問に「分かりません」と答えるか知ったかぶって答えるかだと落ちる可能性が高い。仮に教員として赴任して親からのクレームは来たときに、「分からない」と答えれば、無責任と罵られ火に油を注ぐことになる。知ったかぶって答えるような人間は、「私が何とかします」と答えて、後々問題になる可能性が高い。したがって、仮に正確な段数を把握していたとしても「しっかり覚えていないので、一度確認に行ってもよろしいでしょうか」と答えるべきである。教員として現場で対応するときも、「後日答えさせて下さい」と答えるべきだし、生徒の質問に対して答えに自信がもてなければ「次の授業までに調べてくる」と言うべきである(137〜139頁)。
 採用試験では、生徒に対する対応を寸劇形式で試される。その際に児童・生徒同士の喧嘩の場面もあるが、その際の対応は実際の場面でも有効である。まずは何をおいても喧嘩をやめさせねばならない。そして当事者を別々の場所に連れていき、本人の言い分をよく聞く。そして、一人で対応しようとせずに他の教員などと相談することが必要である(157〜162頁)。
 教員採用試験の隠れたアイテムとして教員用指導書がある。授業の際の指導法が丁寧に解説されているが、学校教員のみが指定書店経由で購入するシステムになっており、しかも2〜3万円と高価である。ただし、大学では付属図書館や研究室の資料として所蔵されている場合が多い(178〜179頁)。
 ちなみに、少し気になったのは、教員採用において得をする科目に関して。得をする科目は人数不足の傾向がある数学と理科であり、数学と理科の教員免許が取れる理工系学部は実験や実習が多く、教職科目を履修しづらいためであるとしている。逆にそんなのは採用者数の少ない情報、栄養教諭である(46〜47頁)。これについて、具体的なデータを今すぐ提示はできないのだが、採用者数が少ないという例外的な事情を除けば、免許取得者数の多い社会系の科目が一番倍率が高い気がする。


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