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2003年8月の見聞録



8月2日

 津田雅美『彼氏彼女の事情』(花とゆめC、白泉社)15巻を読む(13巻はココ)。封印していた過去を思い出した有馬と、その演技の下に隠されていたむき出しの精神をついに見つけてしまった雪野。後半部分で二人はついに衝突するのだが、思っていたよりも割とあっさり目に、有馬の闇が昇華していった感じ。起承転結でいうと、「承」の部分がすごく長かったのに「転」は簡単に終わったなあ、という気がする。まあ、波乱そのものよりも、それに至る過程とそれを克服する家庭を描きたがっているような感じだからこれでいいのかもしれない。
 ちなみに、この巻の最後の話と思い切りシンクロする曲が、CREEDの3rdアルバム「WEATHERED」(Amazonへ)に入っている“Don't Stop Dancing”。音楽もそうなのだが、歌詞までこの話のために書き下ろされたかのようである。この巻を読んだ人は、ぜひ一聴をお勧めする。


8月10日

 山内進『北の十字軍』(講談社選書メチエ、1997年)を読む。異教徒を根絶すべく行われた北ヨーロッパでの十字軍を取り上げる。北欧がキリスト教化したゆえに、十字軍としての行動は衰退した、ということを歴史的事実に即して述べているが、あとがきで割愛せざるを得なかった書いている「戦争や異教徒を巡る教会法やローマ法、国際法の理論的軋轢」についての考察の方が読みたかった、という気もする。


8月15日

 田中英道『美術にみるヨーロッパ精神』(弓立社、1993年)を読む。美術や芸術家について、その具体的な作品から精神を読み解いていく評論集。芸術や絵画について知識がなくても、論理立てた謎解きが好きならば楽しめると思う。『ギャラリーフェイク』が好きならば、エンタテインメント性は当然のことながら弱いとしても、学問的なスノビズムをくすぐられることは間違いない(…けなしているのではないので、念のため)。
 個人的に面白かったのは、同時代の芸術家をギリシアの知識人に投影させたラファエロの「アテナイの学堂」が、「美術家」が人間の思想の中心に経っていることを宣言しているが、それはラファエロの思想の空洞化を暗示しているとしたラファエロ論。それと、画家たちの自画像から、ある程度理想化された自画像を描くルネサンス期の「巨匠」芸術家から、いかにブルジョア愛好家に崇拝されようとも「巨匠」としての意識を持ち得ないがゆえに理想化も出来なくなった18世紀以後の芸術家への変遷を見る「自画像と「本当の顔」」が面白かった。あとは『モナ・リザ』のモデルが候妃イザベラ・デステであるという判断から、『モナ・リザ』のモデルは一介の市民の妻であるがゆえにレオナルド・ダ・ヴィンチの反骨精神を表している、とする見解を封じた文章もいい。


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