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2003年1月の見聞録



1月2日

 竹沢尚一郎『表象の植民地帝国』(世界思想社、2001年)を読む。18世紀末から20世紀前半までのフランスにおける植民地との関連から来る他者の認識の変遷を、19世紀半ばまでを扱う前半部分ではフランス全体の、それ以降はデュルケムやモースを中心的に取り上げつつ見ていく。
 内容に関しては、特に何も言うことはない。ただ、「ポスト=コロニアリズム」の流れに沿った学問的試みを行った著作と言えるのだろうが、そういう一種の流行りにのる場合には現在の自分の(思想的ではなく)社会的な位置が描かれていないと、結局のところ「ポストモダン的」な言語ゲームになってしまうのでは?


1月6日

 岩明均『ヘウレーカ』(ジェッツC、白泉社)を読む。第2次ポエニ戦争時のシラクサ攻略線を舞台とした中編。前作『雪の峠・剣の舞』に続いて歴史物なのだが、今回はあんまり面白くない。登場人物が何だかあまりに現代の日本人すぎる気がする。前作は戦国と江戸の日本だからあまり気にならなかったのだけれど、今回はちょっと気になる。

 魚戸おさむ・東周斎雅楽『イリヤッド』(ビッグC、小学館)1巻を読む。行方が分からなくなったシュリーマンの手記には、アトランティスについての情報が書かれており、彼はアトランティスを知ったために謎の暗殺者集団に殺されたという。密かにそれを入手した欧米の富豪たちは、その手記に基づくアトランティス発見を、日本で小道具屋を営む入矢修造に託す。しかし、それにかかわった入矢も命をねらわれ始める…。どうもあんまり面白くない。まず、実際の考古学的な知識を取り入れたマンガを描こうとしているのに、中心的な話題がアトランティスというのにちょっと引くし、その存在を隠そうとする暗殺者集団という設定が何とも古くさい。編集部的には『MASTERキートン』の後釜を狙っていると思うのだが、今のところはまだダメかな。


1月14日

 東浩紀『動物化するポストモダン』(講談社現代新書、2001年)を読む。オタク文化の進展にポストモダン的状況の深化を見出して、「大きな物語の喪失」と「小さな非物語から断片を紡ぎだして構成を行うデータベース的消費」という2つの特徴を挙げる。
 オタク文化史として、よくまとまっているとは思うのだが、気になった点を2つ。「ポストモダン系文化の構造には私たちの時代(ポストモダン)の本質が極めてよく現れている」(12頁)という文章が冒頭にあり、オタク系文化の特徴からポストモダンの概念を論じるのかと思って読み始めたのだが、読後の印象はむしろ逆でポストモダンの概念をオタク系文化にあてはめた印象を受けた。これは議論の建て方が逆さまな気がする。
 2つ目の気になったことはこれと絡むのだが、結局は学者の飯の種としての議論のように見えてしまった。オタク系文化に属するポストモダン研究者である(はず)なのに、客観的な立場に立とうとして、距離を置こうとするのは、それこそポストモダンのもっとも悪いところなのでは?


1月18日

 春日武彦『ロマンティックな狂気は存在するか』(新潮OH!文庫、2000年、原著は1993年)を読む。精神科医である著者が、精神異常に関連するトピックを語っている。真にユニークな狂人は滅多にないと指摘し、患者一人一人の狂気の現れに相違はあっても、「それはせいぜいパターンに括られてしまう程度の「ばらつき」でしか」ないという言葉(20頁)は、「狂気」を「個性」に入れ替えても通じるであろう。理解不能な出来後の真相を、天才ははるか遠くからつかみ取るが、狂人は手近なものを大切そうに「真実」として扱うという言葉も同じ。
 ところで、この人の本は初めて読んだのだが、著者自身も文庫版あとがきで書いているように、この本には気負いが感じられるというか、妙に気合いが入っている。たとえば、精神病院の「実状を踏まえずに、精神病院は患者を幽閉し廃人とさせる装置であるなどと指弾するのは笑止千万である」という文章(166頁)。おそらく当時は精神科医に対する誤解について思うところがあったのだろうな。
 ところで、版元である新潮社に一言。表紙の著者名のところにキャプションで「俺たちの精神科医」と書いてあるけど、こういうのはどうもオッサン臭くてかっこわるいから辞めた方がいいのでは。


1月26日

 三浦健太郎『ベルセルク』(ジェッツC、白泉社)24巻を読む。妖精郷へ向かうガッツたちは、その途中で霊樹の森の魔女フローラと出会い世界の理の一部を知ることとなる。そして呪印の力を弱める護符を施してもらう交換条件として、フローラの弟子・シールケを手伝いトロール退治をすることになる…。よくよく考えたら、ファンタジーコミックであるこのマンガで物語で魔物や異形の存在はたくさん出てきたけど、魔法がでてくるのは初めてじゃないかな。


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