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月のあかり・感想



今までの紳紳は 私から見ると 「いのち系」 の役が多かったなぁ…と思う。
出世命、女性殺人命(?!)、兄貴命、麻雀命… 
また それが凄くハマッていて、そんな紳紳に魅かれたのだけど。。。


今回の 「男」 は そうじゃない紳紳がとても新鮮だった。
すぐ隣りにもいるんじゃないか?…って思えるような スゴク普通に男性な紳紳…
映画の純粋な感想とはズレてると思うけど、バイクに乗ったり… スタンドに行ったり…
そんな姿を観ることが出来て なんだかとても嬉しかった。
今までの役の中でいちばん現実感があるように感じた。


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自分はいったい誰に感情移入するんだろう…? 観る前に思っていたこと…。


恐らく「女」の立場で観るんだろうな…と思っていた。でも全く違った。
あんなふうに強くて自信に満ちている「女」は残念ながら自分の中には居なかった。
むしろ「男」や「ガキ」の方に共感を持てたような気がする。




強い光のもとでは、影もまた濃くハッキリと投影されてしまう。
ふと「逃亡者は北へ逃げる…」という話を思い出した。

自分の影を見たくない…  隠れたい…
そんな深層心理が、知らず知らずのうちに人を北に向かわせるのかも知れない。
(そう考えると「男」は「現実」からは逃げて来ても「自分」とは向き合おうとしていたのか…?)




楽園の光の中では心が裸にされてしまう…。
自分が何者なのかが自然と見えて来るのかも知れない。

殺し屋も、月子でロウソクの光の中「別れの歌」を聴きながら
これまでの人生を振り返っているうちに、何かを見たのだと思う。
殺し屋は自首することによって身体は拘束され自由は失ってしまうけど、
これも彼が自ら選び取った 明日への第一歩なのであって、
最後まで人生見つけられなかった場合より、ずっと幸せな事なのかも知れない。


それぞれが うまく行かない「今」を抱えたまま、キッカケがつかめずに流されていたり、
苛立ったりしながら生きている人たちを、とても愛しいと感じた。


「生きる」ってキレイ事だけじゃない。
この人たちも必死に何かをつかもうとしてるんだ…。
…そう感じ、そこに人間の 弱くて でも正直な姿を見たのだと思う。


ラスト前…泡盛の甕が粉々に砕けた事がキッカケになって、
おっさんと男の心の中の「カラ」みたいなものが、一緒に壊れたのだと思う。

それはプライドであったかも知れないし、どこかで自分が可愛くて、
自己防衛のために自分のまわりに作り上げていた要塞だったかも知れない。



    俺は月子の思い出だけに浸って生きていたい…!
     誰にも分からなくていい。絶対、誰にもジャマさせるもんか…!



     好きだったら ずっとずっと一緒にいるのが当然でしょ?!
     …自信を持ってそう言い切れるアイツの強さが重過ぎる…。
     そんなのタダの理想だ。俺はまだ自由で居たい!縛られるなんてゴメンだ…!




他人に優しくする余裕を持てなかった二人が、
ひと回り大きく、優しい存在になれた瞬間ではないかと思った。




自分をの顔をじっと見上げる「女」とは、あえて見つめ合わずに
号泣する「おっさん」を無言で見つめる「男」がとても印象的だった。

身じろぎもせず、ただただ おっさんを見守る彼の何とも言えない表情。
そして、やがて何かに気づいたかのように、悟るように、
フッ…と閉じられた瞳が忘れられない。



「男」が瞳を閉じた瞬間、自分の中をやさしい風が吹き抜けていったように感じた。



おっさんの泣き声も、バカの泣き声も、音としては聴こえないけど、
実際に聴こえる以上に強く胸に響いてくる あのシーンが素晴らしいと思う。
泣いている二人に、加藤さんの歌う「花」が重なる所で涙が止まらなくなった。
人間の弱さを、あるがままの姿を 愛おしく包み込んでくれているようだった。



「何しに来たんだよ! …帰れよ!」
自分を愛して追いかけて来た「女」を冷たく突き放していた「男」。


中身が弱い者ほど鋭いトゲでガードして、自分に触れるモノを傷つける。
自分にも覚えがある。10代の半ば…世の中 斜めから見ていた頃、
トゲのある言葉を吐いたり、不機嫌な態度でいることが美徳だと思ってた。
その言葉を受け止める相手の気持ちなど、考える余裕もないくらい未熟だった。
正しい事、真っ直ぐな事なんて、照れ臭くて 眩しすぎて 目をそらしていた。


でも いつしか気付いた。(大きなキッカケがあったワケではないけど)
「やさしさ」こそが本当の「強さ」なのだと…。
揺るぎない自分を持っていなければ、他人にやさしくなんてできない。


今は、やさしい人を見ると「ああ、この人は強いんだな…。」 …って思う。 
どんなに疲れていても 忙しい時でも(きっと)自分の感情をグッと抑え、
いつも変わらずやさしい態度でファンに接してくれる紳紳もまた、
本当の意味ですごく強い人なんだ… スゴイな…って いつも思う。


弱い自分を守るため、身の回りにトゲをいっぱい張りめぐらしていた、
まるでハリネズミ君だった「男」が、おっさんを通して自分を客観的に見つめ、
自分の弱さに気付き「変わりたい…」と思い始める。

もしかしたら、いっぱい傷ついてボロボロになってしまうかも知れないけど、
勇気を出してトゲトゲの鎧を脱ごう… そう思い始める。



…そんな前向きなラストシーンに、胸の中がとても温かくなった。



  「見終わった後、やさしい気持ちになれる映画だと思う。」


…そうか!紳紳の言いたかったのは、この事なんじゃないかな?…と思った。



やさしいことは本当の強さ…。
自分の奥深くにあるそんな想い… それが形としてそこにあった。

だから、あんなにも心から泣けたんだと思う。
もっともっと強くなりたい。もう誰も傷つけないで済むくらい。…そう思った。
楽園の光の中で私もまた自分の影を見つめ直せたのかも知れない。

「月のあかり」
もしその時にはよく分からなくても、後を引くように心に残る。
そんな素敵な映画だと思います。



              2002年・夏の日