雨宮監督より      STORY-1      基礎知識


鉄甲機ミカヅキ 「二夜」 ストーリー A





海我が座っている。蔦が絡まる廃墟にもたれ、その視線はぼんやりと虚空をさまよっている。
護送車から放り出された後、ここを目指して歩いて来たのだろうか…?

ふいに立ち上がって廃墟から離れてゆくが、ふと何かに呼ばれたように振り返る。
そこには廃墟の入り口が暗い口を開けている。ドアは朽ち果て原型を留めていない。
だが海我はまたもドアの幻影をそこに見てしまう。

記憶の中で赤いビー玉が転がる‥それを指で弾いている少年と少女…
楽しそうな笑い声。
苦しむ海我…。
少年の日の海我と少女に一体何があったというのか

その頃、空には巨大なドアが突如として出現する。
海我の想念の中にあった、あの
「開かない扉」がイドム化したのだった。
巨大ドアからはドアノブのようなサブイドム”ドアノイドα”が無数に飛び出して人々を襲った。
(αは更に人間型の”ドアノイドβ”にも変形した。)



隊員の和泉沙織がモニターに映し出された巨大ドアの映像をじっと見つめている。
不思議に思う仲間に「あのドア、どこかで見たことがあるような気がして…。」
そして思いつめたように統括官に訊く。

「人には色々な想いがあるはずですよね? 
   だとしたら…一体どんな想いがイドムを生み出すんでしょうか?」

「これは私の推測だけど…その人の持っている一番強烈な想いなんじゃないかしら?
       耐え難い悲しみとか… 忘れられない憎しみとか。」

 統括官の答を聞いて、瞳を曇らせる沙織‥。

「忘れられない憎しみ…。」



沙織の運転する車に乗って、身の周りの物を取りに、一時帰宅する風雄少年。
久しぶりに会ったガールフレンド・ナナが交換日記を渡そうとするが、
風雄は 「困るよ、渡されても。 忙しいんだ、とても…。」
と突き放すような言い方をしてしまい、ナナは怒って帰ってしまう。
受け取ってもらえなかった交換日記を、風雄の目の前で破り棄てて…

それを見た沙織が噛みしめるように言う。
「大事にしないと… 後悔するわよ、友達は…。」

空に現れたドアイドムを見たことによって、沙織の中にあった
忘れたくても忘れられない思い出が蘇っていたのだった。
「ちょっと寄りたい所があるの」 と言ってその思い出の場所へと向かう沙織。


沙織と風雄がやって来たのは教会の跡地だった。
沙織の心の奥にあった記憶が、少しずつ呼び起こされてゆく。

少女時代の沙織が、教会の中で一人の少年とビー玉で遊んでいる。
「ねぇ、ここ、私たちだけの秘密の場所にしよう!」
まるで物置きのような二人の隠れ家。

女性の像が抱えている壺を見て少女が言う。

「い〜い? 私がここに来て、海我君がいなかったら‥
     私が来たっていう合図に、ここに赤いビー玉を入れて置くわ!」

「うん。」 少年が嬉しそうにビー玉を取り出して頷く。
この少年こそ幼い日の海我だった。

ドアから出てきた二人は指切りをした。
「絶対誰にも言っちゃ駄目よ。嘘ついたら針千本だから!」


だが少女(幼い日の沙織)は裏切ってしまう。
ある日、海我が教会に行くと、そこには沙織の他に大勢の少年たちが遊んでいた。
「知ってるか?誰かコイツ〜!」

驚く海我。 「さおりちゃん?」 

乱暴そうな男の子が沙織に訊く。
「オマエ、知ってんのかよー?」 沙織は…首を振った。

「出てけ!出てけ!」 の大合唱の中、海我は閉め出されてしまう。
助けを求めるように視線を向けたが、沙織はうつむいていた。
ドアを叩いて叫ぶ海我。

「開けてよー! ねえ、開けてってばー!  お願い、開けて!」

思い出した沙織は辛い気持ちに襲われた。



…と、突然、朽ちかけた扉が大きな音を立てて崩れ落ちた。
その向こうには、海我少年が! 沙織は息を呑んだ。

だが少年だと思ったのも束の間、こちらを睨みつけて一人の男が立っていた。
海我だった。ボロボロの囚人服を纏い、汗と埃にまみれ…
しかし目だけはギラギラと光っている。


沙織と海我の再会だった。


イドム出現!」緊急コールを告げる通信機を奪って踏み潰し 風雄を突き飛ばす海我。 
 
「おまえたち、ココで何してる!?」 驚きつつも、淡々と答える沙織。

「小さい頃、よくこんな場所で遊んだわ。 ここは、私の思い出の場所があった所に…似ているの。」
 
沙織は男が海我だと確信しているようだ。

「ねえ、あなたにはない? 忘れたくても忘れられない思い出って。」

怒ったように沙織を睨みつける海我。 「そんなものは、何も無い!」

「嘘!そんな筈ない。誰にだってある筈よ! 捨てられなかった思い出が。」

「昔、一人の女の子がいたわ。」
それを聞いて胸を押さえる海我。心の痛みに耐えるように

「その子には、とても仲のいい友達がいたの。その子と友達は二人だけの秘密の場所を持っていた。」

「だがきっと、ソイツは友達を見捨てた。 あぁっ? …そんなもんだ。
  人を信じれば必ず裏切られる。俺はずっと、そんなことばかり見続けてきた!」

「違う!確かにその子は裏切ったかも知れない。でも決して平気だったワケじゃない!」

「なんだと‥!?」

「友達がいなくなってからも、その子は毎日ここを訪れた。謝りたい一心で。 
そして、毎日、赤いビー玉を入れ続けたの…。」

  海我の他、沙織しか知るはずもない、その話。 「オマエ…!」 
目の前の女性が沙織だと、海我が気付いたその瞬間、一同は狙撃される。
トルパの従者・月影だった。 逃げる3人。
…と、月影の銃が壺を打ち抜いた。

ザーッ!と音を立ててこぼれ落ちる無数の赤いビー玉。 それは、沙織の辛い思い出そのものだった。 
3人とも思わずその光景に目を見張った。
月影が沙織に狙いを定めた。
 思わず沙織の背中に駆け寄り、かばう海我。
「う゜わ゜ぁっっ!」 月影の銃が海我を射抜いた。


赤いビー玉の中に横たわる海我。 ビー玉=沙織の思いに包まれて、彼は何を思ったのだろうか‥。
人を信じることに疲れ、復讐の鬼になってしまった彼の
凍った心は解かされたのだろうか?
「しっかりして!」沙織は叫ぶが、海我にはもう答えることが出来ない。
ただ最後の力を振り絞って、手に触れたビー玉を沙織に手渡そうとする。 無言で受け取る沙織。
(この瞬間に、仲良しだった頃の2人に戻って、心を通わせ合えたと信じたいです!)
沙織が受け取るのを見届けて、海我は息絶えた。 



ミカヅキの活躍によって、月影もドアイドムも消滅した。

夕焼けの中、冷たくなって横たわる海我の傍らに座って泣く沙織。
せっかく再会できたのに‥。

でも海我は幸せだったのではないかと思う。この十数年間、ずっと苦しみ続けてきた。
そのわだかまりが解け、魂はきっと、解放されたに違いない。
その証拠に、彼の死に顔はとても安らかだった。

風雄はナナの家を訪ねる。海我と沙織を見て大切なものに気付いたのだろう。
インターホン越しに話し掛ける風雄。
「ナナちゃん、風雄だけど… この間はごめん。どうしても…謝りたくて。」
「……。」 ナナは答えない。

ドアの前でうつむく風雄。 もう許してもらえないのか…

…と、目の前のドアが開いた!


‥‥間に合った‥‥!!!


あやうく風雄も
「開かない扉」を持つところだったけれど。


今、心から沙織の言葉に共感する。  


   
 「大事にしないと… 後悔するわよ、友達は。」






あの護送車の中で、扉の幻を見てしまう場面。   
心の中に渦巻くものがカタチになってしまう程の叫び…。
 
 それが本当に見事に表現されているなぁ…と思いました。

 
 回想シーンの 「開けてってばー! 開けてよー!」も衝撃的でした。

  「血を吐くような叫び」とでも言ったらいいのか。。  

 そして、月影に撃たれてしまう海我。
 
 倒れて咳込んでいる時、
赤いビー玉 に手が当たって、
ザーッ!と散らばるのが、絵的にとても綺麗だなと思ったのですが

  あれも紳紳のこだわりだったのでしょうか?いつか訊いてみたいです。


 雨宮監督より