Bruckner:オルガン曲集
(Präludium Es-Dur AVBW2 / Präludium Es-Dur AVBW3 / 2 Stücke in d-moll AVBW16 / Vorspiel und Fuge c-moll AVBW18 / Fugue d-moll AVBW54 / Präludium C-Dur AVBW113)
Sechter:オルガン曲集
Zwei Choralvorspiele op.90-15,16 / Pastoral-Fuge D-Dur / 6 Varationen oder contrapunktische Sätze über Joseph Haydns Thema "Gott erhalte" / Introduktion und Fuge c-moll dem Andenken des zu früh verblichenen Franz Schubert geweiht op.43

F.ハーゼルベック(org)
72.1 Brucknerorgel der Piaristenkirche Wien Stereo
CORONA
FSM 33 107
(SM 30 059)
(独LP)









参考


Erwin Horn(org)
Novalis
150 071-2
Brucknerの交響曲はオルガン的な響きを持っていると言われます。しかしオルガニストとして過ごした割にオルガン作品は少なく、また聞かれる機会も少ないようです。
 フランツ・ハーゼルベック(Franz Haselböck)のオルガンによるこのLPには片面分に6曲が収められています。Novalisのホルン盤と比べてみると曲名と曲数の表記の仕方が若干違うものの、Brucknerのオルガン曲はこれで全部のようです(因みにホルン盤は交響曲の楽章をオルガンで奏したものを加えてCD1枚分としている)。上記の曲名はジャケットの表記をそのまま写してありますけれど、ちょっと気になるのは、作品に付記されているAVBWという記号で、一般に使用されているWAB(Werkverzeichnis Anton Bruckner)とは違うものです。私にはこの整理番号は不勉強でわかりません。ただ、WABがBachのBWVのように作品の編成で分けられているのに対し、AVBWはMozartのKvのように作曲順に並んでいるらしいことは想像できます。曲名と調性から対応させてみると次のようになります。

曲     名 AVBW WAB 作曲年
前奏曲変ホ長調 2 127 1837頃
4つの前奏曲変ホ長調 3 128 1837頃
前奏曲ニ短調 16 130 1846/52
後奏曲ニ短調 126 1852
前奏曲とフーガ ハ短調 18 131 1847
フーガ ニ短調 54 125 1861
前奏曲ハ長調(ペルク前奏曲) 113 129 1884

 全部で5つの変ホ長調の前奏曲はBrucknerがザンクト・フローリアン聖歌隊に入った13歳頃の作品であり、ニ短調の前奏曲、後奏曲、ハ短調の前奏曲とフーガの3曲はザンクト・フローリアンのオルガニストをやっていた頃の作品です。まだ交響曲はおろか、後の主要な曲を書く前であることを考えると、ここからBruckner的世界を汲み取ることは難しいことです。全体に速いパッセージもなく、装飾的な華やかさもなく、素朴と言えば素朴なのでしょうけれど変化に乏しいのは否めません。
 ニ短調フーガ。これもまだ交響曲に手を染めていない1861年の曲。ちょうどSechterの元での勉強が終わった頃の作品で、その成果を示したものと言われています。ゆっくりとした下降旋律が幾重にも重なり荘厳な雰囲気を醸しています。
 最後はベルク前奏曲と呼ばれる唯一交響曲創作時期に書かれた曲。第7交響曲が完成した後の1884年に書かれたもので、この年バイロイトで知り合ったペルクのオルガニスト、ヨーゼフ・ディールンホーファーに捧げられたためこの名があるといいます。冒頭のテーマはWagnerの「ワルキューレ」の中の感動的な終幕、ヴォータンの告別の場面に繰り返される「眠りモティーフ」に似ていることで、その関わりを言われていますけれど、ここでの音楽はWagnerの陶酔的な高まりとは違い、潮が引いた後のような物憂い(敬虔なと言うべきか?)雰囲気に包まれています。不思議な響きですね。

 演奏しているハーゼルベックはホルンに比べて少し早めのテンポをとり、すっきりと弾いている印象です。ただ、楽器の違いが大きいので響きはかなり違います。オルガンのことはよくわからないのでライナーからそのまま引きますと、ハーゼルベック盤は Brucknerorgel der Piaristenkirche Wien、ホルン盤はKlais-Orgel in der Frauenkirche Nürnberg。

 Brucknerのオルガン曲というのはこの2つの盤を聴く限り、そう面白いというのではないように思います。少なくともBrucknerでしか聞けない世界を求めようとすれば、いささか当てがはずれます。恐らくBrucknerはオルガンそのものに彼の世界を託そうとは思っていませんでした。ひとかどのオルガニストでありながら、積極的にこの分野での作品を残さなかったことがその証左となるでしょう。
 私は交響曲作家としてのBrucknerを無闇に神格化するのには抵抗がありますけれど、彼の中にあった「交響」する響きはやはりオーケストラの響きの中ではじめて具現化されるものだったと思います。オルガンは交響曲を作るために彼が使う楽器であったのでしょう。ピアノを使うのとは違い、はじめから重層的な響きとして作曲されたことが、神秘的で超俗的な世界を形成する独特の音楽を作り出したようです。

このハーゼルベック盤が意図して裏面をSechterの曲に当てているのは有り難いことです。Brucknerは1885年から6年間にわたってこのウィーンの音楽理論家、教育者、オルガニストのジーモン・ゼヒター Simon Sechter(1788-1867)から指導を受けていました。非常に厳格な指導であったらしく、この間作曲することが禁じられていたそうですが、後のBrucknerの基礎が出来上がった重要な時期でした。Brucknerは後に、このSechterの後継としてウィーン音楽院の教授に迎えられることとなります。

 曲は2つのコラール前奏曲、パストラル・フーガ、ハイドンの主題による6つの変奏あるいは対位法楽章、そしてSchubertの死に寄せた序奏とフーガ。
 オルガン曲としてはBrucknerよりむしろこのSechterの作品の方が面白く聞けるのではないでしょうか。中でもHaydnの有名な旋律「皇帝賛歌」(弦楽四重奏77番の2楽章のテーマ、旧オーストリア国歌、現ドイツ国歌)を使った変奏曲は、理論家として大きな力を持っていたこの作曲家の才を示しているように思います。lタイトルが示すとおり、オルガンの機能を生かしてポリフォニックななヴァリエーションを展開しているのが興味を引く点でしょうか。堅実でありながら明るく変化に富んだ曲です。
 そして次の序奏とフーガ。Schubertは死の2週間前にSechterの講義を受けたことがあるそうですが、どういう経緯で作曲されたものでしょうか。荘厳なフーガが印象的。

 オルガニストのフランツ・ハーゼルベック Franz Haselböckは、同じくオルガニストとしてまた指揮者として活躍しているマルティン・ハーゼルベック Martin Haselböckとは違う人です。1939年生まれ、読めないドイツ語を眺めると、音楽学者である父に教えを受けたと書かれているようです(書かれている・・・ような気がする・・・?)。解説書によると1970年ドブリンガー社から出た「ブルックナー・オルガン全曲集」の編者はオルガニストでもあるハンス・ハーゼルベック Hans Haselböck。ハーゼルベック一族?。

2002.12-2

Bruckner:交響曲ヘ短調/序曲ト短調

E.シャピラ/LSO.
71.12.16-17 Abbey Road Studios, London Stereo
EMI
BRC-8029(国LP)

この曲の録音はかつて非常に少なかったですね。今ではいくつかの全集の中の1曲として(しかも廉価で)聞くことができますけれど、LP時代は曲の存在を知っていても音として聞くことが難しいものでした。私が初めて聞いたのはロジェストヴェンスキーのMelodiya盤LPでした。ロシア的な演奏がBrucknerに相応しいかという点にいくらか不安があったのも確かですが、何しろ他に聞く術がなかった・・・。
 エリアクム・シャピラ Elyakum Shapirra の録音がこの曲の初録音であったのを知ったのはその後で、CDの時代になっても再発されないので口惜しく思っていたところ、たまたま入った古本屋で偶然見つけました。ジャケットにあまりお金をかけていないのは、特典盤として付けられていた非売品だからでしょう。物珍しさはあっても単独ではあまり売れなかったのでしょうか。

 BrucknerはSechterに対位法等を学んだ後、1861年暮れから63年までオットー・キツラーの下で様々な楽曲形式や管弦楽法を学ぶことになります。その最後の仕上げがここに収められた序曲ト短調とヘ短調交響曲です。交響曲の方は後年「習作」として番外に置かれたものの(00番と呼ばれることがあるが)、規模的には堂々としたものです。
 構成は古典的、定型的で後年のBrucknerにみられる重層的で個性的なな響きは希薄でしょうか。全体に交響曲としてのまとまりは今ひとつ、楽想のつながりはやや弱く、そのためにやや冗長な印象を受けます。
 第1楽章では序奏なしでフッと入ってくるヴァイオリンとそれに呼応するトゥッティのテーマが印象的、木管で歌われる第2主題(?)の旋律は少々野暮ったい気はするけれどMendelssohnのような若々しさと軽やかさを持っています。又、フィナーレの第1主題とコーダはSchumannを思わせます。
 完成度はともかくとして、健全なロマン派交響曲の典型と言えるかもしれません。その中で、第1楽章コーダとスケルツォはまさにBruckner的なのは面白いですね。ロマン派の器にBruckner的要素を散りばめたという感じです。

 指揮のシャピラはこの録音以外ではほとんど知られていない人ですね。ライナーの簡単な紹介によると、イスラエル生まれ(1926)で当地の指揮者コンクールに優勝、審査員のバーンスタインに認められ、ニューヨークpo.で副指揮者を務めたとのこと。60年代はアメリカ、ヨーロッパで活躍。Brucknerの全交響曲をしばしば演奏していたようで、当時録音がなかったこの2曲が彼のレコード・デビューとなったようです。(でもその後の録音はあるのだろうか・・・)

 演奏は若々しくしなやかで、それでいてしっかりと造形された好演だと思います。あまり主観的な思い入れを施すことなく、ストレートに音化することによって音楽の見通しは非常に良くなっています。演奏の傾向はインバルに近いでしょう。テンポは若干速め、オーケストラのバランスはむしろシャピラ盤の方が良く聞こえます。恐らく演奏経験のないオーケストラも申し分ありません。
 なお、この録音は1971年、ノヴァーク校訂による総譜の出版される前のものです。

I II III IV Total
E.シャピラ/LSO.(71) 15:47 14:13 5:40 10:37 46:17
E.インバル/フランクフルトRso.(92) 17:25 13:10 5:27 10:11 46:13
S.スクロヴァチェフスキ/ザールブリュッケンRso.(2001) 10:37 12:23 5:05 8:00 36:12
* 第1楽章、終楽章には提示部の繰り返しがあるが、スクロヴァチェフスキ盤はこれを行っていない。

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