Haydn:交響曲第1番ニ長調 Brahms:交響曲第1番ハ短調op.68/ハンガリー舞曲第5番ト短調 G.ヴァルガ/フィルハーモニア・フンガリカ 90.5.11L Franz Liszt Academy, Budapest Stereo |
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フィルハーモニア・フンガリカ自主制作盤(4CD)(番号なし) 40 Years PHILHARMONIA HUNGARICA with their honorary president Lord Yehudi Menuhin
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![]() フィルハーモニア・フンガリカはハンガリー動乱の時西側に亡命した演奏家によって組織されたオーケストラで、1960年からドイツのマール(Marl)を拠点として活動しており2000年に丁度40周年を迎えました(オーケストラ自身の設立はこの少し前)。ハンガリー出身の名指揮者A.ドラティとともに録音したHaydnの交響曲全集(数だけでも気の遠くなるような仕事。Haydnはドラティのライフワークとは言えレコード会社もよく全曲録音させてくれたものですね。オラトリオとオペラは違うオーケストラとの録音ですが。)や祖国ハンガリーのBartók、Kodályが代表でしょう。でもこれらのレコーディング以外あまりお目にかかる機会のないオーケストラです。この自主制作盤は、ハンガリー作曲家とハンガリーに縁の深い曲が取り上げられていて、この辺は得意の曲でもあるのでしょうが記念盤には相応しい選曲だと思います。 G.ヴァルガ(Gilbert Varga)は高名なハンガリーのヴァイオリニストのティボール・ヴァルガの子として生まれ、はじめ父からヴァイオリンを習ったそうですが途中から指揮者に転じ、C.チェリビダッケの下でも勉強したそうです。室内オーケストラの指揮からはじめ現在はスペインのヴァスク地方のオーケストラOrquesta Sinfonica de Euskadi(ヴァスクso.)の音楽監督、更にティボール・ヴァルガ・フェスティヴァル監督として活躍中。フィルハーモニア・フンガリカでは1985年から1990年の間指揮を執り、その最後の年の90年、Y.メニューインとのハンガリー・ツァーが評判をとることとなり、活躍の場が広がったということです。この盤に収められている演奏がまさにその記念的演奏のひとつであって、明記されていませんが、3枚目に収録されているMartinをあわせて丁度1日分のコンサートになると思われます。恐らく曲順はHaydn−Martin−Brahms−アンコールではなかったでしょうか。 記念盤にこうして1日分を全て収めたということはオーケストラにとっても特別意味深いコンサートだったのでしょう。これはこのオーケストラ設立30年目にして初めてのハンガリー・ツァーであったようです。 このセットには通常記念盤に付けられるオーケストラの歴史を解説したリーフレットがついておらず、この録音についても The histrical recording of the concert took place in the Franz Liszt Academy in Budapest on May 11, 1990 とあるだけです。その点では少し不親切にも思えるのですが、この盤に収められている演奏自体、オーケストラの歴史を俯瞰するようなものではなく、言ってみれば区切りの年にあわせて自らの演奏のいくつかを記録に留め、或いは支援者に対しての記念程度のささやかな意図だったかも知れません(番号も付いていないことですし)。 Haydnはこのオーケストラの得意な曲。プログラム構成上ではありますが、1番というところがなかなか気が利いています。20年程前のドラティの演奏に比べると、スタジオとライヴの違いもあって一概には言えないんですけれど、やはりドラティのメリハリが利いた切れの良いリズムと集中力のあるまとめ方には及ばないものの才気のあるなかなかの力演で、音楽の作りは似たところがあるようです。若干オーケストラの響きが厚め、ドラティの録音では通奏低音にチェンバロを使っていますから、そうした印象の違いもありますが。それにしても交響曲の父Haydnの記念すべき第1曲、3楽章構成の小振りの曲ですが、実に良い曲です。 Barhmsの1番もライヴの熱気が伝わってくる良い演奏です。特に技術的にも凄いわけでもなくスケールの大きい演奏でもないんですが素晴らしく気迫のこもった演奏です。今では構成も普通のオーケストラ並に国際的になったようですが、このオーケストラにとっては祖国でもあるハンガリーでの演奏だからでしょうか、特別な感慨があったのでしょうね。全体にメリハリのある強い共感を感じさせる演奏で、独特の弦は、指揮者の気質でもありオーケストラの気質でもあるような思い入れたっぷりの表情を見せてくれます。テンポは適度に収縮し、それが初めから設計されたような不自然さはなく、本当に内側から湧いてくる自然な感情に素直に反応して奏でられるメロディとリズムなんですね。ヴァルガがヴァイオリン出身のこともあるのでしょう、弦のバランス(特に内声部の充実)やフレージングにそれが出ています。けれど良く言われる歪なバランスの爆演系ではありません。 3楽章から終楽章では興に乗った勢いがとりわけ素晴らしく、終楽章再現部の中程のクライマックスに入る手前267小節(時間表示で11:04あたり)でヴァルガの唸り声が入ります。 この演奏、状況が状況で、ヴァルガの指揮もオーケストラも常にこれほどの演奏が出来るというわけではないでしょうが、ライヴという一回性の記録としても貴重な録音だと思います。 演奏後の拍手は盛大で、アンコールを求める手拍子の中、ハンガリー舞曲5番がものすごく大きな、堰を切ったような力強い音で始まります。ここに感極まるというのでしょうか。私なんぞは何の関係もないのにこんなところで感動してしまって思わずジーンときてしまいました。 このアンコールが終わっても延々と拍手が続き、しかもこの盤にはかなり長い時間音として収録しています。録音する方もフェードアウトする機会を失ったような・・・この盤を編集する際もこの部分はなるべく長く入れておきたかったんだろうな、という気がします。フェードアウトの音量の絞り方も鳴りやまない拍手を名残惜しそうに非常にゆっくりとしています。 尚、このセットの中ではこの2枚目だけがCD−R仕様。はじめに製品化したとき故障があったそうで、再プレスではなくCD−Rとして取り替えられたとのこと。そのまま引っ込められなくて本当に良かった。 |