Bartók:ピアノ協奏曲第3番Sz.119 G.シャーンドル(pf) M.ギーレン/VSO. 58-59 Stereo |
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Vox CDX2 5506 ![]() |
![]() ![]() このピアノ協奏曲第3番は、Bartók最晩年の白鳥の歌とも言うべき曲で、最後の17小節を作曲者自身は完成することが出来ず、友人のT.シェルイによって今の形となりました。初演は、1946年1月26日、シャーンドルのピアノ、E.オーマンディのマジャール人コンビでフィラデルフィアで行われました。この録音は、初演者であるこのピアニストの10数年後の録音です。指揮は現代物のスペシャリスト、ギーレン。 私にはシャーンドルのピアノというのはあまり華やかな印象もないし、テクニック的にもすごいという人ではないと思いますが、この演奏は予想以上に華やかな印象を受けます。ギーレンの伴奏は、例によって余計な思い入れを一切排除した乾いた演奏。 この演奏の特徴は、ピアノの動きがオーケストラの束縛を受けないで自由に動き回っているように感じられる点でしょう。本来この曲はそう響くように書かれているのではないでしょうか。例えば第2楽章 Adagio religioso。 この楽章は静かな雰囲気の弦楽にリードされるようにして音符の少ないピアノが登場し、このあと詩的な非常に美しいやりとりが続く。途中、鳥の声に似たフレーズを挟んで、程なく曲想は戻り最後に大きな起伏があってから静かに終わります。ここでの冒頭の両者のやりとりは、確かに交互に演奏されていて、呼応しているように見えるのですが、ピアノはどうも自分の世界だけで歌っているように聞こえます。こうしたピアノの動きは、テンポの速い両端楽章においても同様で、しばしば自由に飛び出したり歌い始めたりして、オーケストラから行きつ離れつします。 こうした面白みは、この演奏で特に際だっているように思えます。シャーンドルの遊んでいるようなピアノの動きとギーレンのドライな伴奏との対照は、聞いていて大変面白い。マジャール人コンビ、アンダ-フリッチャイ盤の、深い淵に立っているような叙情性と緊張感が均衡した演奏に比べると、どの点をとっても格下の演奏でしょうが、この一点だけでも聞く価値はあると思います。 ![]() |
+pf.con.1,2/ラプソディ/スケルツォ/2pf,perc.S |
Haydn:バリトン三重奏曲集(第64番ニ長調/第87番イ短調/第110番ハ長調/第88番イ長調/第63番ニ長調/第82番ハ長調/第107番ニ長調) エステルハージィ・バリトン・トリオ (R.Gerardy(baryton) R.Chase(va) J.Williams(vc)) 1979.8&9 Abbey Road Studio, London Stereo |
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EMI CDM 7 69836 2 ![]() |
![]() バリトンという楽器は、このCDのジャケットにも写真が載っていますが、ヴィオラ・ダ・ガンバ系の多弦楽器で独特の典雅な響きをもっています。本によると、17世紀末に考案されたバス・ガンバの変種ということ。ガット弦を6〜7本持ち(ジャケットの写真では6本)、金属の共鳴弦を持っています(写真の楽器からは正確に数えられませんが20本弱)。初期にはヴィオラ・ダ・ガンバと同じ調弦であったが、18世紀後半にい−ニ−ヘ−イ−ニ・−ヘ・が標準になったといいます。後期にはギターのようなフレットもなくなったらしいのですが、写真の楽器はフレットを持っているようです。 ![]() 祝賀のために作曲された中には変則的に組曲的なものもあるらしいのですが、ここに収められている7曲は全て3楽章形式。うち4曲まではAdagioで始まり、Allegro、Menuetと続く。他の3曲はAllegro-Menuet-Presto(64番)、Moderato-Menuet-Presto(110番)、Andantino-Menuet-Presto(107番)となっており、これらは共通して2楽章にMenuet、終楽章に速い曲をもつ。この楽章構成は規則性をもっているようで、例えばピアノ・トリオあたりの構成とはちょっと違うようですが、実のところ不勉強でよくわかりません。 どの曲もシンプルでありながら、Haydnの古典的な美しさと構成感をもった曲ばかり。作曲時期からいっても作曲経緯からいっても後期の古典的充実感を感じさせるものではありませんが、演奏する側の楽しさを考慮した慎ましやかな音楽。87番はこの曲集唯一の短調曲で、一貫して落ち着いた憂愁感が漂う佳曲。 夜静かに流しておくと、不思議に落ち着く音楽。重厚長大な音楽の後には是非。 |
Beethoven:七重奏曲変ホ長調op.20(弦楽五重奏曲版/C.F.Eberse版)/弦楽五重奏曲変ホ長調op.4 プロ・アルテ・アンティクア・プラハ 95.7.25-28 St.Micharl Church, Prague Stereo |
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Bona Nova PCCL-00405 ![]() |
![]() この演奏団体は現在、キャニオンから独立したEXTONに一部メンバーを入れ替えて録音を続けています。団体名はエンシェント・コンソート・プラハとなっていますが、基本的には同じ団体。そこでベートーヴェンの5,8,7番に続く3番の五重奏版と、再度5,8番を録音しています。全曲揃うのだろうか。9番あたりはちょっと難しい気はしますが。 ![]() この曲は初演当初からかなり人気があったようで、当然、ここで演奏されている弦楽五重奏版は初めての録音ですが、他にも自身の編曲(?)でトリオ版op.38もあります(pf,vn,vc版はボザール・トリオ、cl,vn,vc版はJ.デンムラー他のNaxos盤で聞ける)。当時は流行りの曲があると、作曲者が知らないところで勝手にOOバージョンみたいな版が出版されてしまうので、これに対抗するためにBeethoven自身が曲の編成を変えて出版したものもあります。レコードやCDといった便利なものもないし、著作権なんていう意識もないから、聞きたい人が多ければそれに適応した供給で商売が成り立つ、といった具合ですね。ちょうど現在の違法CDみたいなものかも知れません。 一方、編曲版の方は、ヴァイオリン2、ヴィオラ2、チェロという、Mozartの弦楽五重奏曲と同じタイプの編成です。恐らく、木管楽器のパートを弦楽器に移してあるのでしょうが、楽譜を見ているわけではないので詳しいことはわかりません。クラリネットやホルンの音がなくなっているので、音色的な華やかさは後退していますが、曲の華やかさと愉悦感のおかげで思ったほど渋い演奏にはなっていません。ライナーにもあるとおり、古楽器を使用したことによることにもよるようです。この団体による交響曲の引き締まった厳しい演奏とは随分違うようですが、これは曲の違いによるところの方が大きいのでしょう。 ![]() この曲は、オリジナルの曲ではなく、管楽八重奏曲op.103からの編曲であす。編曲は1795年、1796年にウィーン・アルタリア社から出版されました。一方、原曲である管楽八重奏曲は死後の1830年、同じアルタリア社から出版されました(ただし、初版では作品番号なし)。ということは、Beethovenの生前には、一般の人にとってこの弦楽五重奏版が唯一の版、つまりオリジナルであったということになります。弦楽五重奏の編曲ものとしては他にピアノ・トリオ第3番op.1-3を編曲したop.104がありますが、驚いたことに、この編曲は他人の編曲を校訂して出版したものらしい。オリジナルのまとまった弦楽五重奏曲というのは、ハ長調のop.29しかありません。 ところで、このop.4の弦楽五重奏というのは、元の管楽八重奏曲を忠実に弦楽器に移したものではありません。曲そのものにも手を加えているようです。最も違うのは第3楽章で、テンポを八重奏曲のアレグロからピウ・アレグレットに変え、新しく第2トリオを付け加えています。原曲の方が少しとぼけた雰囲気であるのに対し、若干テンポを落とした弦楽盤は後のBeethovenを思わせるシリアスな口調に変わっています。 それにしても弦だけの世界になると俄然Beethovenらしく聞こえるのは、同質の楽器による音の統一で、より緊張感が感じられるせいでしょう。屈託のない曲調が、弦5本になったことで随分雰囲気が変わるものです。 |