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2017年7月の見聞録



7月7日

 木村靖二『第一次世界大戦』(筑摩書房(ちくま新書)、2014年)を読む。題名通り、第一次世界大戦について、近年の研究動向も含みつつ通時的に紹介していく。全体的な傾向として見られることはいくつかある。まず、戦争は社会を巻き込まずに軍だけで行うべき、という伝統的な戦争観に基づく短期戦を各国は想定しており、長期戦を行うつもりはなかった、という点である。続いて、両陣営は戦後の領土割譲を約束して諸国を自陣営に引き込もうとしたが、これは列強体制の枠内で起きた点である。ただし、戦中には、戦争は軍人に任せておけないという考え方が強くなる。これは列強外交の終焉を示している。戦後には、国際連盟を中心とした体制へと移行し、構成単位が帝国から国民国家へと移行した。戦中に総力戦を経験した結果でもあった。
 実質的な19世紀の終わりと見なされている第一次世界大戦について、分かりやすくコンパクトにまとめつつ、通史では取りこぼされがちな情報も盛り込まれているので、タイトルを見て興味を覚えれば、読んで損はない本になっていると言えるだろう。
 以下メモ的に。第一次世界大戦の研究は、開戦直後からすでに存在していた。ただし、自国の平和維持努力を強調して、相手側の好戦的な姿勢を糾弾する外交資料として編纂されていた。これに基づいて、大戦終結後すぐに、大戦の原因や責任を明らかにする研究が着手された(22〜24頁)。
 現在の研究では帝国主義的強豪を大戦の直接的原因と見ることに否定的である。たとえば、イギリスとドイツは通商関係では相互に重要な顧客だった。そもそも1890年代後半から1913年ごろまでは好況期でもあった(41頁)。
 開戦時には、それを支持する市民が街頭に繰り出すなど、愛国的高揚を示す光景が見られたとされる。しかし、現在の研究の結果、これらはイギリスやフランスではあまり見られず、ドイツ、オーストリア、ロシアなどの首都に集中していたこと、参加者も市民層の青年が中心であったと明らかになっている。農民や都市の労働者などは、生活の困難からそうした高揚とはほど遠かった(55〜56頁)。
 大戦中の兵員死傷者の7割近くが砲撃によるものであった。独仏戦争時のドイツ側の戦死者のうち砲撃によるものは8%だったという数値と比較すれば、いかに砲撃の技術が上昇したのかが分かる(70頁)。
 戦費を賄うにあたって、イギリスでは増税が行われたが、中・高所得者の税率を引き上げ、さらに高額所得者には特別税も課した。これによって、イギリスは大戦中に資産の平準化が進んだ唯一の国となった(85頁)。
 戦闘機の搭乗員の死傷者の比率は高かった。1918年には、フランス軍のパイロットの71%が失われれた(104頁)。
 全体戦という概念を初めに打ち出したのはドイツのルーデンドルフであった。ただし、原語を直訳すれば「全体戦争」である。戦争の目的を、総体としての敵国と敵国民の撃滅にした点が新しかった。なお、それゆえに軍人と一般人の区別が無意味となり、敵国の全面的破壊が目指されることになる(144〜146頁)。
 徴兵率の高かったフランスは、アルジェリア、チュニジアのムスリム、セネガル、ベトナムなどから多くの兵員や労働力を動員した。なおドイツは、西部戦線への西アフリカ出身の黒人兵など被白人兵の配置を、ヨーロッパ文明を汚すものとしてフランスに抗議している(152〜153頁)。
 アメリカが参戦を決定したのは、ドイツがメキシコに対して、かつてのメキシコ領であるテキサスやアリゾナの変換を条件に同盟を組もうとしていたことが発覚したためであった。なお、ドイツからメキシコへの電報には、メキシコに日本への仲介を依頼する内容も含まれていた(173〜174頁)。
 戦後の休戦協定において、東アフリカで勇戦したドイツのゲリラ部隊に対して敬意を表する条項が存在している。ただし、現地での食糧略奪などによって、現地は大きな被害を被った。わざわざ私戦に近いこの戦いを記載したのは、戦後におけるドイツ植民地の配分が念頭にあったためである。非ヨーロッパ世界では、諸列強は協力して白人支配を守るという帝国主義政策が続いていた証でもある(202〜203頁)。


7月17日

 大山旬『できれば服にお金と時間を使いたくないひとのための一生使える服選びの法則』(ダイヤモンド社、2015年)を読む。タイトル通り、いかにして適切なファッションをシンプルに選ぶための指南をしている。服選びが苦手なタイプは3割が無頓着型、7割が独自センス型である。ただし大人の服選びは、ベーシックであること、自然であること、清潔感があること、シンプルであることであり、単色であって無駄の装飾のないものを選ぶべきである。さらに、ぴったりした服の方がシルエットが良くなるので、いつも選んでいるよりも小さめのサイズを買うべきだとする。パンツも靴を履いた状態でほんの少したわみができるようにする方がよい。色に関しては、白を中心にしつつ、ジャケットやアウターやニットにはネイビーやグレー、コットンパンツやコートにはベージュ、シャツにはブルー、靴・ベルトなどの革製品には黒や茶色を選ぶとよい。そのなかに、シャツやニットにはパープル・ターコイズ・オレンジ・淡いピンクなどのアクセントを2割ほど入れるとよい。ベルトは3センチ前後のメッシュベルトがよい。購入にあたっては、シンプルなものでよいので、ユニクロやGAP、スーツカンパニーを利用しつつ、UNITED ARROWSのようなセレクトショップを使うようにするとよい。店員に自分の必要なものを尋ねてアドバイスを求めて、試着をするべきである。なお、似合うかどうかは3分待ってから判断する方がよい。
 簡単にまとめたのだが、シンプルにフィットするのを選ぶ方が良いということだろう。私は無頓着派であり、服を買いに行くのが嫌いな人間なのだが、これを参考にさっと買うことができそうだ。ちなみに、本書には服を着た男性モデルがしばしば登場していて、これが著者だと思っていたのだが、一番最後の写真を見たらまったく別人だった。本書で一番驚いたのは実はこれだった。


7月27日

 児玉光雄『上達の技術 一直線にうまくなるための極意』(ソフトバンククリエイティブ(サイエンス・アイ新書)、 2011年)を読む。題名通り、上達するための適切な努力の仕方を紹介していく。正直、最初の方を読んでいるときには一流になるための極意が多いように感じて、普通のレベルでの練習法がないように感じたのだが、3分の1ほど読み進めた後から、期待していたようなものが多く出てきた。すべての人間が一流になれるわけでもないし、何らかの分野で成長し続けられるわけではない。それでも、常に新たな分野での成長や成熟の達成感を得ることは人生にとって必要であろう。そのための技が色々と語られており、技術書として読んで損はない仕上がりにあっていると思う。なお、これらのテクニックは教育の現場でも活用できそうに感じた。以下メモ的に挙げていく。
 練習法には、何らかの課題を個別の過程に分けて学ぶ分習法と、それらすべてを統合して学ぶ全習法がある。初心者の方には分習法がよく、技能水準が高いほど全習法が効果的である。加えて、集中練習の時には分習法が、分散練習の時には全習法が効果的である(50〜51頁)。
 上級者を目指してオリジナリティを発揮する際には、無駄なものを排除する方が良い。スランプのときには、何も考えないで闇雲に不要なものを付け足してしまうことが多い(72〜73頁)。
 初心者は練習をするとすぐに伸びていくが、そのうちにしばらく伸び悩む時期がやってくる。しかしここで練習をやめずに、練習を続けると、再び伸び始めて中級者へとレベルアップできる(80〜81頁)。人は能力の向上に喜びを感じる。したがって、能力が身についていく実感を得られれば、仕事にのめり込める(142頁)。なお、そのための目標設定は結果ではなく自分の記録を求める行動目標の方が良い。前者は、他者との比較で納得できずに、モチベーションが下がる場合もあるためである(144〜145頁)。その際の目標設定は、プラス10パーセントにすると最も記録が伸びやすく、達成確率が6割くらいにするとよい(148〜150頁)。なお、アイディアを生み出すには制約がある方が斬新なものが生まれやすい。したがって、条件を絞る方が良い(202頁)。
 腕時計を使った1分間集中トレーニング法がある。腕時計の秒針を30秒間注視した後に、目を閉じて30秒間を心で数える。そこで目を開いて実際の時間との誤差を1秒以内に抑えるように訓練すると集中レベルを高められる(86頁)。
 1日1時間はフリーな時間を確保して何かに没頭して、心をリラックスさせるとよい。その時間を確保しようとして仕事に集中することで、ストレス耐性と集中力も身に付けられる(102〜104頁)。なお、好きなことに没頭できる1時間がなければ、10分でいいので単純作業に没頭して集中してみるとよい。たとえば皿洗いの10分間を無の境地に達して瞑想の時間に充てるという方法がある(106頁)。
 何か覚えたいときには、記憶したい項目を10分後・6時間後・24時間後の3回リハーサルすることにより、ほぼ完全に長期記憶として定着させることができる(116頁)。さらに、人間の記憶は起きていると様々な情報が入ってきて不完全な記憶は次々と消え去られていくらしいので、眠る前に記憶した上で、さらに起床後にすぐおさらいをするとよい(120頁)。なお、人間の記憶は直近の20秒間はとても不安定なので、逆に言えば20秒かけて1つのことを記憶すれば、その記憶は短期記憶から長期記憶に移行して安定する。したがって、家を出る前のチェックも20秒かけて確認する習慣をつければ、外出前に行ったことは外出後にもまず忘れない。同じように、人の名前と顔を覚える際にも、名刺交換をしたあとに相手の名前を入れながら会話をするようにして、名刺顔を3秒ごとに口語に見て7回繰り返しながら記憶するとよい。しばらくしてから記憶した事柄が頭の中に残っているのかを再チェックすればよい(122〜124頁)。
 創造力を高めるためのトレーニングとして、レオナルド・ダ・ヴィンチが行っていた鏡面文字を書く練習がある。両手で通常の文字、続いて右手で通常の文字、左手で鏡面文字、続いて右手で鏡面文字、左手で通常文字、最後に両手で鏡面文字を書く練習を毎日10分間すればよい(174頁)。


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