WWMおじさんの木工講座

 数年前にパソコン通信ネット、PCVANの”家具とインテリアSIG”に「WWMおじさんの木工講座」と題し、100回にわたって木工素人であった私がまがりなりにも自分で気に入った家具を作れるようになり、たまは注文も受けるようになるまでの経験をもとに、自分流木工講座を連載しました。(原文は今もそのライブラリーでダウンロードすることができます。)それをもとに新しく書き直したのが、この講座です。内容は某雑誌にでてくるような“簡単木工”ではなく、プロのウッドワーカーのレベルに近いです。
 ここでは私が持っている木工に関する情報を、できるだけオープンにしていますが、個人の好みの問題で他の方に御迷惑をおかけするような、例えば「工具店の良い悪い」などの情報はさけています。第一回は木工基礎入門です。道具選びから、その研ぎと仕立てなどのお話です。
電子メールでの御質問や御意見にはできるだけお答えしようと思いますが、本業他の都合で返事を書けない場合も多々あります。どうか御了承下さい。 また楽しいはずの木工作業は危険を伴うことがあります。特に電動工具は危険で、指をなくしている知人は一人や二人ではありません。安全確保は各個人の責任です。 なお、短時間で読み込めるように画像はできるだけ少なくしています。
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木工基礎入門

 まず、木工を始めるにあたり必要な工具、書籍などを紹介します。私は最初、職業訓練校を出て注文家具製作家として独立された方に木工技術を習いましたので、技術的なベースは日本の指し物技術です。その後欧州やアメリカの木工を知ることになるのですが、基本の考え方は同じではないかと思います。

1、木工具

必要な道具

手加工の基本を習得するには次の物が必要です。一度にそろえる必要はありません。研ぎを練習するためには、砥石(中砥、仕上げ砥)と鋼尺類、刃物は15mmの鑿、鉋は寸六の平鉋があれば、いいでしょう。砥げるようになってから、いい刃物をそろえて下さい。 鋸は一般的加工であれば、鋸は替え刃式で充分です。ゼットソウ、レザーソウなどが先発メーカーですが、いろんなメーカーがあります。
 道具をどこで買うかは、とても重要な問題です。道具屋のおやじさんが、貴重な情報源であることは多いのです。この意味でもホームセンターなどは避けた方がいいと思います。しかし、自分に合う道具屋さんはそう簡単には見つかりません。おすすめしたい方法は、地味ですが、近所の大工さんや木工家に思い切って聞いてみることです。地方都市でも必ず、評判の良い老舗の道具屋の1つや2つはあるものです。
東京には老舗の道具屋さんが多いようですが、菊川の井上刃物さんのご主人にはいろいろ教えていただきました。大阪では日本橋の五階百貨店のちかくに道具屋さんが集まっています。台新、柴商、カネイチなど。
 地方でいい金物屋さんが見つからない場合、新潟の平出商店さん(松本や丹波のフェアには出店される)が、カラーの道具カタログ(これは見るだけでも価値ある)を発行しており、刃物の評判も良く、通信販売で購入可能です。ここのおやじさんも味のあるいい方です。

  *参考:平出商店*

    〒959−12 新潟県燕市白山町1−1−52

表1、そろえたい道具(◎印はぜひそろえたい、○はいずれ必要になる)

道具名 サイズ 価格帯 備考
追い入れ鑿 3mm(一分) 3000円以上 鉋の溝調整などに使う
9mm(三分)  3000円以上 ほぞ穴堀でよく使うサイズ
15mm(五分) 3000円以上 ほぞ穴堀でよく使うサイズ
30mm(一寸) 4000円以上 何かと使う幅広のみ
6mm(二分) 3000円以上 あれば便利
平鉋 48mm(寸六) 8000円以上 鉋の仕立ての基本
54mm(寸八) 10000円以上 仕上げ鉋
両刃のこ 替え刃式 3000円程度 替え刃の両刃は縦がよく切れる。
導突きのこ 替え刃式 4000円程度 できれば、本物がほしが、替え刃式でもよい。
砥石 人造中砥 2000円程度 1000番〜1200番、700番も便利
仕上げ砥 4000円程度 6000番程度の人造仕上げ砥
金盤 裏押し用 2000円程度 鉋刃の裏押しはやはりコレ
金剛砂 裏押し用 300円ぐらい 同上
スコヤ 15cm 1000円程度 絶対必要
鋼尺 15cm 200円程度 よく使う
30cm 700円程度 鉋台の調整に便利
1m 2000円程度 大きな作品ではよく使う
ケビキ ネジ式 1500円程度 精密加工の墨つけで使う

道具の参考書

 伝統的な木工道具の使い方について書かれた良い本は、私が知る限りでは少ないようです。下記の3冊を参考図書としてあげておきます。価格は変っているかもしれません。

「図解、木工技術」 佐藤 庄五郎 著  共立出版

 職業訓練校等でも教科書的に使われているようです。内容がやや古いことは否めませんが、木工技術全般について解説したこの本は日本では、貴重な存在です。

「KAKIのウッドワーキング」 柿谷 誠 著 JICC出版

 富山の家具工房KAKIの技術や製作方法を公開した木工を目指す人のバイブル的な本。道具の仕立てや使い方についても、実用的なレベルで丁寧に解説されている。

「木工具・使用法」 秋岡 芳夫 監修 吉見 誠 述 創元社

 専門的な文が多くてややわかりにくいが、伝統的な道具の仕立てについて詳述されている。

 道具の仕立て、特に、研ぎや鉋の台直しについて本で会得するのはむつかしいので、ぜひ近くの大工さんや、木工家の人に教わって下さい。「研ぎの仕上がりや台直しがこれでいいのか」を見てもらうだけでもいいのです。最近、鉋も替え刃式を使う大工さんが増えていると聞きます。しかし、ノミまで替え刃になることは考えられません。必要最小限の研ぎはマスターしておくべきです。

 また神戸、元町にある「竹中大工道具博物館」には豊富なビデオライブラリーがあり、これらは刃物の研ぎ方や、裏出しなど、本ではわかりにくい技術を知るのに役に立つでしょう。

2、研ぎ

裏出し

日本の刃物は硬くてもろい刃がねと軟らかいがねばりのある地金の二層構造です。刃がねの方側を裏と呼び、地金の方側を表といいます。この裏を鏡のような完全な平面にすることを裏だしといいます。「日本の刃物は裏で切れる」と言われるほど、地味ですが大切な作業です。

砥石で行う簡便法もありますが、金盤と金剛砂を使う方法が一番です。最初はブツブツしていた金剛砂が小さな粒子になり、最後には微粒子になって、鏡のような平面に仕上がるのです。実はこの作業は研ぎの中でも一番辛いのです。次に以前の木工講座からそのまま引用します。


 私は、寒い12月頃、師匠の工房へ行き、床に濡れ雑巾をひき、木の台をつけた金盤をのせ、鉋の刃と20センチぐらいの木の棒をいっしょに握って、金剛砂を耳かき一杯分ぐらいのせゴリゴリをはじめましたが、削れるのですが、光ってこないのでした。

 この日、朝からはじめて夕方でもOKがでなかったのであります。やはり要領があります。後日感じたポイントは

  1. 刃先に最も力が加わるようにする。
  2. 刃がグラグラしない工夫を考える(持ち方、治具の工夫など)。
  3. 金剛砂はほんの耳かき程度でいい。
  4. いい刃物は裏がすぐにでる。
  5. 体が楽なように高さを加減する。
  6. 裏がだいたい平面になったら、息をとめて気合いをいれて空研ぎ。別に息を止めなくてもいいが、気合いがはいると自然とそうなる

 たしかに、いい刃物の裏押しをすると、黒い砥カスの間にビカーッと光る刃がねにほれぼれするものです。今は、玄関先でコンクリートブロックを1つ置いてその上に濡れ雑巾、金盤を置いてやっています。

(PS)


砥石の平面維持の方法

 砥ぐ前に砥石の話をしなければなりません。以前は中砥はキングの1000番、仕上げもキングのS1かG1を使っている人が多かったのですが、最近新しいタイプのセラミック砥石が多数発売されています。
 中砥については、好みの問題ですが、シャプトン、ベスターなどの最近のセラミック砥石が使いやすいと思います。キングに比べて砥面の荒れが少なく、研ぎが速い。なおシャプトンは水につけなくてもよいのですぐに使え便利。
 仕上げ砥ですが、現在のところ天然砥石には負けますが、最初はキングS1かG1などの人工仕上げ砥で練習し、ある程度研げるようになってから高い天然の仕上げ砥を購入すべきと思います。

 買ったばかりの砥石は問題ありませんが、砥いでいるうちにすぐに中央が凹んできます。これを修正するのは大切な作業になります。同じ砥石を3つも使う完璧な方法もありますが、私は以下の3つの方法を使いわけています。

  1. 平らなコンクリートブロック等を使う方法
    砥石が一丁ですみ、簡単で速いが精度はよくない。ノミや小鉋の研ぎはこれでも充分。できるだけ平面がしっかりしたコンクリーブロックなどを手に入れ、水につけた人工中砥を水平にこする。水に塗れた表面の色で凹んだ部分がわかるので、完全に平面にする。この方法は絶対に仕上げ砥に使ってはいけない。
  2. 砥石2つを互いにこすり合せる方法
    この方法が使えない人工中砥もあるが、キング等はよくこの方法が使われる。充分水につけた中砥2つを互いにこすり合せて平面にする方法。こするストロークを短くした方が、いい結果がでるようである。
  3. 厚いガラスと金剛砂を使う方法
    3つのなかではこの方法が一番確か。分厚いガラス板を用意し、ごく少量の金剛砂をまいて、その上で中砥を平面にする。最近のセラミック砥石はこの方法でないとだめなものが多い。

 実際には、これらの方法を使い分けたり、組み合わせたりします。ガラスと専用研磨紙を使う台直し兼用砥石平面維持専用具も発売されています。高価ですがダイヤモンド砥石を使うとこの作業は不要になります。しかしダイヤモンド砥石でも砥面は荒れるということです。仕上げ砥はできるだけ砥面を直さないように使います。

いよいよ砥ぐ

 充分に裏ができていれば、表に向かって刃返りがでいているはずで、指でそっと刃先を撫ぜてみればひっかかりを感じまう。この状態なら、表を少し砥いだだけで、切れるようになります。
 まず、研ぎ場を確保します。私は以下の3つの場所を適当に使います。

 さて、いよいよ砥ぎます。
刃先の形を変える場合や、かなり荒れている場合は荒砥やグラインダーで刃先を整える場合がありますが、そうでない場合は充分に水にひたしておいた(その必要がない砥石もあるが)中砥からスタートします。
 研ぎのコツは、刃と砥石の角度が一定になるように動かし丸刃にならないように砥ぐことにつきます。そのためには練習はもちろんいろいろ工夫が必要です。どうしても丸刃になる場合、市販されている治具を使う方法はありますが、これはできるだけ避けて自力で砥いで下さい。
 丸刃にならない工夫として、刃の持ち方が重要です。大きく分けると二つのスタイルに別れます。

  1. 右手でがばっと握って左手を添えるように砥ぐ
    握りやすく、砥ぎやすいつかみ方であるが、やや斜め研ぎになる。小鉋はこの持ち方でないと砥げない。
  2. 左右の手を同じ形で刃の上下をはさむようにつかむ形
     左右の人差し指、中指計4本が刃の上に平行にならぶつかみ方。やや熟練を要するが、斜めと研ぎをしない本格的な研ぎで、私は仕上げ鉋をこのつかみ方で砥ぎます。

 腕の動かし方
往復すると丸刃になりやすいので、最初は時間はかかるが、押すだけの一方向で砥いでみるといい。一般的には長いストロークが丸刃になりにくいが、砥石の中央部が凹むことが多いので、短いストロークで砥石の全面を使うようにすることもある。このあたりは、各自試行錯誤してみるより方法はない。
 刃先だけ砥げばいいと思うのは間違いで、次第に丸刃になって砥げなくなります。一度丸刃になってしまうと平らに砥ぐのはむつかしいので、極力最初の刃先の角度を維持するように砥ぎます。

 砥いでいくうちに砥石の表面に黒い縞模様がでてきます。砥げている証拠です。時々手を休めて刃を水で洗い、刃返りができていないか確かめます。刃返りができているのに砥ぎ続けると、刃を無駄に消耗することになります。ただし、刃返りは指でしっかり感じる程度まで砥いで下さい。

砥ぎあがりを見る

 うまく砥げたかどうか、ぜひ一度専門家に見てもらってください。自分ではつい妥協してしまいますから。
 自分で判断する方法は、刃先を太陽などの光に当ててみます。刃先に白い線が見えたら研ぎが充分ではありません。完璧に砥げていれば、刃先に光を反射する場所がないはずです。

 鉋刃に比べるとノミの研ぎは簡単でしょう。柄が長いので角度維持がしやすいはずです。

3、穴を掘る

 本格的な木工にホゾは欠かせません。まずホゾ穴の加工から始めます。角のみやルーターによる穴掘りもできるわけですが、ノミだけで穴を掘る経験を一度はしておくと何かと役に立つことと思いますし、正確なスミツケの勉強にもなります。

穴掘り練習

 上の図は穴掘りの練習の一例です。厚さ5センチ、幅10センチ強、長さ15センチ程度の正確に平行や直角のでた木片を用意します。掘る穴の短い辺は、スコヤを使って手前の基準面からの垂線を引くことによって、長い辺は同じ基準面からケビキで平行線をひくことによって墨をつけます。  穴の幅は、基本的には、ノミの幅に合わせます。たとえば、15mm幅(5分)のノミの刃をほんの少し木にあててノミ幅の小さな傷をつけます。これにケビキの先を合わせれば、ノミと同じ幅で墨が入れられる事になります。穴の深さは20mmと30mmぐらいで9つ練習すれば、かなりコツを覚えるでしょう。

 丈夫な作業台のできれば端の脚の上にこの木片を置き、穴を掘ります。この時使う玄翁はかなり重いもの(私は400g)を使います。墨を正確に打ったあと、穴掘りは大胆に行うべしです。

穴を掘る方法には2通りあります。

掘り方

 上の図で左のAは真ん中にノミを垂直に打ち込み、両側からV字型に掘り込む方法、Bは穴の両端より内側約1mm程のところにノミを打って真ん中から斜めに山型に掘る方法です。両方の方法を試して、自分に合う方法を選んでください。なお私はAの方法をよく使います。
 いずれの場合でも、穴幅はノミとぴったりですが、穴の長さは絶対に墨線の内側1mm弱のところまでしか掘ってはなりません。穴が深くなると、ノミが斜めに入らなくなりますので、垂直に何度もノミを入れて刻んで穴の底を平らにします。ほぼ穴が仕上がってから、最後に墨線ピッタリにノミを入れて穴を正確に仕上げます。

4、ホゾの加工

 

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