木工機械の安全使用

 ひと昔前、家具工場では「指の一本ぐらいなくてあたりまえ」というような雰囲気があったと聞いたことがあります。今はそんなにヒドイ工場はないとは思いますが、木工機械による指の切断や材料が飛んでの内臓破裂など、痛ましい事故の話を時々耳にします。安全についての考え方が進んでいるという欧州でも事故は稀なことではないらしいのです。
 私の教室でも基礎コースの中頃から移動テーブル付丸鋸盤を使用しますし、応用コースではほとんど全ての大型木工機械を使うことになります。仕事ではない楽しみのための木工であり、絶対に大きな事故は避けたいと思っています。幸い今まで5年半、木工機械による大きな事故を起こさずに来ました。私の教室での機械の使い方が良いとは全く思っておりませんが、趣味で木工をやっておられる方、あるいは仕事として木工をしておられる方達の安全に、少しでも参考になればとレポートしてみました。まだまだ不充分ですが、これから折に触れ、このコーナーを充実させていきたいと思っています。
 中には「この方法は危険だ」というものがあるかもしれません。安全については最大限の努力をしたいので、率直なご意見やアドバイスをお聞かせいただければ幸いです。

 安全については機械を使用する人、またその工房の責任において試してください。機械には必ず固有のクセがあります。安易に他の真似をされることは、逆に危険度を増すことにつながる場合もあります。充分に安全を確認してから、試してください。

丸鋸盤での縦びき、溝つき、段欠き

 木工の現場ではこれらの作業は日常の作業ですが、丸鋸盤での事故の多くは縦びきで等で発生しています。手が丸鋸と同じ直線上を移動するこれらの加工では、材がフェンスとの間の摩擦やちょっとした動きで突然後ろに飛ばされることがあり、この時に材に添えている手が刃に触れて切断、あるいは飛んだ材による内臓損傷が起こると考えられます。効率を重視しない私の教室では、原則としてこれらの作業は禁止しています。その代わりに、縦引きはバンドソウで行い、その後自動鉋で幅を決める、もしくは手押し鉋か手鉋で、整える方法をとります。また溝つき加工は基本的には私が実施、安全に行えそうであれば生徒さんにやってもらうこともあります。段欠きは、欠き取る方向など、理解が難しく、月二回の教室では、不安が残りますので、これも私が作業をしています。

 私が行うにせよ、生徒さんにやってもらうにしろ、手だけでこのような作業を行うことは非常に危険です。ですが、いちいちフェザーボードを取り付けたりしていては、手間がかかるだけではなく、返って危険な場面もあります。このため、できるだけシンプルなジグや道具を使うように心がけています。それは押し棒、あるいはプッシュスティックとよばれるものです。


昇降盤でもルーターテーブルでも厚さや形を変えた押棒を何種類か、手が届くところに置いている。
材の上と横から、二つの押棒(押板)を同時に使うこともある。

 丸鋸盤のフェンスは材との摩擦を防ぐ意味でほんのわずか(50cmで0.5mmほど)先に向かって広げてセッティングしてあります。また、日本製の丸鋸盤では鋸刃といっしょに高さが変化できるような割り刃が備わっていないため、材を送る最後の方でコントロールが難しいのです。溝つき加工の失敗の多くは、送材後半のコントロールの甘さによるものです。それに対処して、フェンスに材を押さえつけるようなジグを使うことは、鋸刃との摩擦などの関係を充分に理解していないと、返って危険なこともあると考えています。

 また、材が後ろに飛んだ時に事故がおきないように、後ろに衝立を立てるなど、配置を考えます。もちろん、材が飛んでくる位置に体を置かないことが大切ですが、だからと言って、真横から操作していては、力強く安定した送材ができませんから、鋸刃と同一直線状に体をおかない程度、わずかに横に逃げています。

 下の写真は、ホゾ取りの簡易カバーです。本来なら、ホゾ取り用丸鋸は通常は外しておかねばなりませんが、多数の人が使うので、いちいち取り外すことは無理があります。それで、簡単に近づけないような壁際にホゾ取りが来るように配置し、それでも危険なので、写真のようなカバーを取り付け、不意に鋸刃に触れるの確率を少なくするようにしています。


ホゾ取りの簡易カバー

手押し鉋・自動鉋

 手押し鉋の安全カバーも使いにくい物が多いようです。欧州で使用が義務付けられているという、上下左右に動く、パンタグラフのような、タイプが好ましいとは思いますが、写真のような刃口の幅が調節でき、また刃幅いっぱいの切削もできる、このようなカバーを自作して使っています。写真ではわかりませんが、左の使用方法では、ノブ以外にもう一本ボルトが埋め込んであり、左右には動かないようになっています。
 左は刃の奥側、右の刃幅いっぱいに使う場合は、手前側を使うようにして、刃が均一に減ることに留意しています。


手押し鉋の安全カバー、右は開放時

次の写真は押し板です。取っ手は握りやすいサンダーの取っ手をコピーして作り、全ての接合には木製ダボを使用しています。


手押し鉋用、送り板

自動鉋は、材が手前に飛んだ場合、最も大きな事故になる可能性があります。このため、運転中は、刃の手前は立ち入り禁止にしています。また、最初の高さ調節が難しいので、写真のように、刃と同じ高さの上下可能なボルトを差したゲージを両面テープで貼り付けています。このボルトがわずかに動くぐらいにセットして材を送ると、ほとんどうまくいきます。


自作、刃高ゲージ

横切りでの工夫

 比較的安全な横切りで恐いのは、切れ端が飛んで、目に当ることです。特に、留め(45度)切断では三角の木っ端が飛びそうで怖い。それで、一工程増えますが、まずバンドソウで、2〜3mm残してラフに切ってから、丸鋸で余分を粉にしながら正確に切断します。これで切れ端が恐くなくなり、安心して精度高い切断に集中できると思います。

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