三度目のカペラゴーデン、二度目のサマーセミナー

1994年、41歳で初めて短期と言えども、海外での木工セミナーを経験した記録、「北欧木工漫遊記」を書いてから、早いもので11年。その間、転職・退職、名古屋での教室開設、引越等、大きな変化がありましたが、その間もずっとカペラゴーデンは、私の深層に何か響くものがあって、心の故郷みたいに思ってきました。98年には教室を開設する前に、ぜひ家内にも見てもらいたいと再訪していますが、参加者とビジターの違いは大きく、いつかもう一度、受講者として参加してみたいと思っていました。そんな中、昨年末にカペラのHPを見たら、2005年のサマーセミナーに経験者向け椅子製作コースがあり、よく知っている本科のキャレと、日本語が堪能なペーターが講師を勤めることを知り、絶好のチャンスと思ったのです。

 校長先生をはじめ知っているスタッフは多いのですが、日本からの参加希望が多いことが予想されますので、個人的ルートでお願いはせず、一般の方と同様に1月頃HPから申し込みました。そして5月にOKの返事が来て参加できることになりました。後から知ったのですが、教室の生徒さんで今年訓練校を卒業したYさんも、初級木工コースに続けて、同じ椅子コースを受講することになっていました。また娘も最初のコースで「ペインティングクラス」に参加しています。

 今回は日記形式にせず、期間やテーマにそって書いてみたいと思います。興奮の感激オジサンであった11年前と比べ、私自身も木工を教える立場になり、またカペラゴーデン自体も、時流に沿って変わっています。このため冷静に、時には批判的なことも書くかと思いますが、すばらしい自然と整った食住環境で木工に専念できる、貴重な学校であることに変わりはありませんでした。


出発までの準備

道具必携ではないが、共通道具の状態はよくないので、下記の道具を持参しました。

小鉋、反り台鉋、南京鉋、小際鉋、ノミ3丁(9,6,3mm)、替刃0.2mm胴突き鋸、玄翁225g、ケヒキ、シラガキ、スコヤ、15cm鋼尺、椿油壺

これらを、桐で作った道具箱に納め、リュックサックの中に衣類を回りにクッションとして配置して梱包し、飛行機では荷物を預けています。

 20日間も家を空けることになると、注文メールなどが毎日届く昨今、海外でのメールチェックが欠かせません。また自宅からの緊急連絡用に携帯電話も必要です。そこで、いつも持ち歩いている1kgのノートパソコン+大容量電池にモデムセーバー、無線LANカード、ケーブル、モジュラーケーブル、ヘッドセット、赤外線通信アダプタ、NOKIA6100携帯電話、等など、海外モバイル用品はほぼそろえました。世界で普及しているGSMトライバンドの携帯電話はマレイシアからの通販で購入したのですが、最近は日本のNOKIAが日本国内でも、V社のチップを入れれば使えるGSM携帯電話を販売しているようです。

 気になる経費ですが、受講料と宿泊費・食費で約17万円、ルフトハンザのコペンハーゲンまでの往復航空券が諸費用込で約17万円少々、コペンハーゲンからの列車の運賃往復で1万円強、前後一泊が二万円ほど、計38万円程度かかっています。私にとってはかなり気合のいる金額です。南周りの航空券やユースホステルを使えば、7〜8万円節約できるでしょう。


エーランド島まで

カペラゴーデンは、スウェーデンのエーランド島にあります。エーランド島は、スカンジナビア半島の南方、バルト海に面した要所、カルマルと長い橋で繋がっています。そして最近になって、デンマークとスウェーデンが橋で結ばれ、コペンハーゲン空港から直通列車が、スウェーデン各地へと走っています。このためでしょうか、現在、日本からストックホルムへの直行便はなく、SASが成田からコペンハーゲンへ飛んでいます。余談ですが、ストックホルムへは、フィンエアーでヘルシンキ経由で入るのが一番早いようです。

 航空券の値段が高い時期ですが、待ち時間の長い南周りは避けたく、セントレアからルフトハンザ航空利用、フランクフルト乗り継ぎでコペンハーゲンに入りました。コペンハーゲンの町は二度目ですが、夏の観光客の超多いシーズンで、ひたすら疲れたという感じ。ホテルが高いコペンハーゲンですが、インターネットで調べ、最も安くて駅に近いNeboというホテルを行き帰りとも予約しました。ここはミッション系のホテルで、バックパッカー向けの一番安い部屋は朝食付で360DKR、約6800円。コペンハーゲン中央駅から30mと荷物が多い私には助かります。ただ写真のように、安い部屋は極めてベッドが小さく、体格の良い方ははみ出すかもしれません。私が寝るには充分以上であり、格安ホテルでありながら、朝食は綺麗な食堂でグッド。流石に北欧やなと思ってしまいました。トイレ・シャワー共用が気にならず、体の小さな人ならおすすめ。ロビーにパソコンが一台無料で使えるように置いてありますが、日本語が読めないので、部屋の電話を使ってのダイアルアップでメールチェック。電話の雑音が多く、ダイアルアップがなかなか繋がらない。ようやく、速度が28kの遅いアクセスポイントを選んで、安定して繋ぐことができたのでした。


中央駅から30mのホテルNEBO(三つ目の看板)と、一番安い部屋の細いベッド

 翌日は、夕方のカルマル行き列車に乗るまで、工芸博物館と有名インテリアショップ、デザインセンター等の見学。工芸博物館は一度は見る価値があると思いましたが、デザインセンターは、40DKRも払わされて、ほどんど見るものなし。良い企画展でもない限り、見るべき所ではなさそう。朝一番、中央駅でTeliaのショップを発見。日本で言えばNTTみたいなもの。そこでGSM携帯用のプリペイドSIMカードをゲット。なんと100DKRで約一時間の通話付で着信無料。電話の開通方法が、デンマーク語でわからず苦労するが、書いてあるところに電話しただけでOKでした。試しに自宅に電話をかけたらつながり、また自宅からの電話も無事受信。たった1800円で、デンマークで自分の携帯電話番号が持てるなんて・・・と感激。日本の携帯電話の敷居の高さはなんなんやと思う。


中央駅の古い建物と、工芸館で見た日本の醤油屋さんの前掛け。

 中央駅はちょっと治安が悪い感じ。カペラに参加したある日本人女性は電話中に財布を取られたらしい。危険というほどではないが用心が必要。5時発のカルマル行きに乗るので、マクドでチーズバーガーを買い込み列車に乗る。夏の行楽の大移動という感じで、人が多い。途中までは自由席で、そこからは指定席に変わるらしい。それを知らないで座っていたら、あとから来た家族連れに席を明け渡すハメに。それで状況を理解し私の指定席に移動したら、そこには別の女性が座っていて、今度は立ち退いてもらった。「やっと安心・・・」と思ったら、ある駅で長いこと停車し、なんやら車内放送が・・・。言葉が全然わからないので、周りの人に聞くと、「列車が動かなくなったので、この駅で降り、バス輸送に切り替える」というのだ。オイオイ、満員で、荷物の多い小さい子供連れも居るのに・・・、なってこっちゃ。日本なら駅員に怒る人が多数でるだろうが、こちらの人は皆さん寛容でした。夏にはこういうことがよくあるらしい。


機嫌悪そうにバスを待つ乗客達と、故障した列車。

すったもんだでバスに乗り込むが、夜9時カルマル到着予定が2時間以上遅れる見通しである。迎えに来てくれる日本人スタッフのHさんに携帯から電話をした。デンマークで買ったSIMカードだが、ちゃんとスウェーデンでも使えた。携帯電話を準備していて、ほんまに良かった。夜11時ちょうどカルマル駅に着き、娘とYさん、そしてHさんの旦那さんが出迎えてくれる。この日はHさん宅で泊めてもらった。
 なお、日曜に対岸のカルマルの町まで遊びに行き、Vodafoneのお店でスウェーデン用プリペイドSIMを買いました。これも100SKr、日本円で約1500円。国内一時間程度の通話料を含み着信無料。これは、セキュリティー確保の関係でしょうか、電源ON時に添付書類にある4桁のPINコードを入力後、通話可能になりました。日本からVodafoneの海外用を持ち出した場合、あるいはGSM携帯をレンタルした場合は、着信でも一分180円程度かかるので、現地でプリペイドSIMを入手できれば、大変安く通話ができるわけです。


サマーセミナーAの余韻

 私が参加するのはサマーセミナーB。今年はABCの三期間があって、Aは木工・陶芸・テキスタイル、Bは経験者向けで椅子・陶芸、Cは椅子張り・木工ロクロ・水彩絵・テキスタイルである。AとBが二週間、Cは一週間のコースである。

 娘は毎日エーランド島のすばらしい風景のところに行って風景を書くコースで、Yさんは木工基礎コース。その作品展が土曜日にあると思って、土曜の朝に来たのに、実際は金曜の午後に展示会・講評会が終わったらしい。土曜は最後のブランチを食べて、帰る人やもう一泊する人などのお別れの日であった。


木工基礎コースの方の作品が少しだけ残っていました。

 今年の木工基礎コースは日本人が四人だったそうですが、テキスタイルはなんと11人中8人が日本人女性、そのうえアメリカ人のキャンセルがあったために、スウェーデン人2人と日本人8人のクラスだったとか。カペラに行くまでは、「どこかの日本の学校との関係があるのでは?」と思っていましたが、すべて個人として応募してきた人だそうです。それにしても日本人が8人とは、よほどスウェーデン人の応募が少なかったのではないかと想像します。日本からの多くの参加者は、リヴィングデザイン誌の記事を見たのがきっかけだったそうです。しかし、英語が通じるとは言え、講義の多くはスウェーデン語でおこなれわること、また日本と違って自分の意見を表明せねばならない機会が多いことなどから、中には精神的に不安定になった方もいたと聞きます。


Aコース最終日の参加者。サイナラの日本的光景

 Aコースの参加者は、好天に恵まれ、すばらしい夏のエーランドを満喫して帰られたようです。コースの後半、日本人が「寿司パーティー」をプレゼントし、最終ディナーではお返しに、スウェーデンの名物料理「ザリガニパーティー」があったそうです。俺も食べたかったなあ。


カペラゴーデンの施設・生活

木工の工房とその二階にテキスタイルの教室、そして新しくできた陶芸の校舎があります。しかし、より大きな面積を持ち、カペラゴーデンを特徴づけているのは、農園ではないでしょうか。陶芸の校舎とともに、農園事業の拡大を目指しているように見えました。観光客用売店も大きくなり、ここではクレジットカードも使えるようになっていました。


左:新しい陶芸棟、右:販売用苗の栽培

 木工の工房は、以前とほとんど変わっていませんでした。下の二台の木工機械が新しく導入された以外に、多少古くなったかなということと、機械がかなり傷んでいたのが気になりました。それと生木加工用の道具や削り馬が壁にかかっていたのが、印象的でした。ベンの好みかな?


左:MARTIN社の自動鉋、これはよかった。 右:Felderの万能機、取扱が荒いのが気になりました。

食堂、宿舎、農園、ほとんど変わりはないようですが、工房前の菩提樹の木や、クルミの木がとても大きくなっているのに驚きました。11年という歳月は短くはありません。


左:生木加工用の各種斧と組立式削り馬、右:古い手道具コレクション

 朝は7時30分から朝食、8時30分から朝のミーティング、12時から昼食、4時30分夕食、夜8時頃夜食が提供されます。その間の午前10時半頃と午後3時頃に、木工コースではコーヒータイムをします。要するに、寝て、起きて、食べて、その間に木工という感じ。「また食べるのん?」という気になることもあるほど食事回数が多く、また美味しい。こういう環境で家具作りをすることに慣れてしまったら、厳しい現場では働けないのではという危惧も感じるなあ。


左:野菜の多い食事、おいしい。右:私の宿舎

 この食事と、ゆったりした宿舎、これがカペラゴーデンの、ある意味中心ではないか。間違っているかもしれませんが、そういう生活自体を経験してもらうことが大切と、マルムステンは考えたと思います。ちがうかな?


朝の会で講師の話を聞く、言葉が皆目わからず苦痛。 右:黒板にフレーベル、シュタイナーなど教育者の名前が見える。

 後半は生徒が担当したりしますが、前半は先生の講義や外部講師の話を朝の会で聞くことが多い。ただ、今回ほど言葉の壁を感じたことはなかった。スウェーデン語が全くわからないので何を話しているのかさえわからない。それは大変苦痛。短期といえども、少しくらい相手国の言語を勉強して行くべきだと痛切に感じた次第。スウェーデン人の参加者が英語で訳してくれるのだけど、それがまたわからない。反省。

 農園がよりパワーを増していたような感じ。一応農学部出身なもんで、ちょっと興味があるのです。理想的な農園を作ろうとしている実験的な農場なので、有機農法で無農薬栽培は当然、窒素固定をする植物から始めて、作物を一年毎に移動させたり、アヒルを果樹園で放し飼いにしていたり、そういうのが楽しいと思いましたね。カールマルムステンは家具デザイナーとして若くして名声を得たけれど、それに満足せず、年をとってからカペラを作ったのは、農園・生活・工芸のバランスした理想郷を作りたかったのでは。


左:新しくできたバラ園、右:この花・・・アマニ油の原料となる亜麻


同校のシンボルマークにもなっているバードフィーダーとお花畑


椅子コース

やっと椅子の話に入ります。セミナー参加前に「どういう椅子が作りたいのか、図か写真を送れ」というメールが来ていました。私は「典型的なマルムステンの椅子について、その精神を学びたい」と答え、私のAmstackの写真を送って「シンプルで気に入っているが、どうも味気ない気がする」とコメントしたと思います。

 最初、二人の先生から、私もよく教室で言っていること・・・、「私達は作り方を教えたり、見せたりすることはできるが、”あなたの椅子”を作ることはできない」といわれました。その後、作りたい椅子について各自発表するのですが、日本人は四人とも、要するに「マルムステンの椅子が作りたい」と言ったのですが、「本科で四ヶ月かけて作ることを二週間で作るわけにはいかないし、このセミナーの題は”Chair Life”であり、各人が作りたい椅子、それを最も大切にしたい」という返事が返ってきました。それは正解であると同時に、期間が二年〜三年で授業料も高額な本科と、たった二週間のサマーコースが同等の内容であってはいけないという配慮もあると思います。
 椅子の考え方として、「椅子は完全な平面の上に置かれるわけではなく、実際には床の高低差やカーペットの段差などがあって、その上に思い体重がかかるわけですから、絶えず変形しながら使うことになる。そういう変形に対応できるような耐久性を持つためにはフレキシブルな構造が必要がある」ということを強調していたのが新鮮でした。

 さて、簡単なスケッチで構想をしぼったら、別室に移り、原寸大のスケッチで煮詰めていきます。正確な原寸図ではなく、原寸大の図面で線を引く、その過程で、「この部材をどのようなラインまで削ろうか?」というような思考が自然と生まれ、また他の人のアイデアも容易に参照でき、とても意味があると思います。結局、構想半日、原寸スケッチを一日半、トータルで約二日間を図面にあてていました。


大きなロール紙を切り取り、原寸スケッチを描く。曲線は細い木材を曲げて書いたりした。

 製作に入ってからは、経験者とそうでない人の差が出る。曲線の部材が多いとは言え、最初は直線的な部材をとって、そこからスタートするわけですが、慣れない人は、最初から図面どおりに成型してしまって、後で後悔することになる。一方、経験者は、工程の困難さが予想されるので、どうしても自分の持てる力量の中での製作になってしまう。どちらが、良いとは言えない。


左:接合についての講義 右:久々にホゾの手加工。0.2mmの組子用胴つきを持参。

 キャレが生徒を集め、ジョイントについて講義をする。もう何年も同じスタイルでやっているのだろう、壁にかかっている見本を取り出し、その説明をする。内容はほぼ日本の木工と同様。実際のホゾの加工は、「胴つきを鋸で切る、あるいは当て木をしてノミで仕上げるなどして加工し、ホゾの縦はバンドソウで切る。ホゾが少し厚い時は削らずに、金工用万力で圧縮してホゾ穴にあわせろ」という指示でした。この方法は、ボンドの水分を吸ってホゾが膨張し、強度が増しますが、無神経にこの方法を行うと、ホゾを壊してしまったり、正確な加工の意味を理解できずに終わる可能性もあるので、注意が必要です(誤差が0.5mm以下くらいの正確さで加工できてこそ、生きる方法ですので、無理はしないようにしてください)。ウチの教室でも胴つきは手で切り、ホゾの縦はバンドソウで切るようにすることが多いので、加工方法としてはよく似ている。


Yさんの座面 

 基本的に、本人が考えたものであれば、作りたい椅子を拒否しません。しかし、技術的・時間的な制限があるので、強度や耐久性よりも、加工が容易で早く形になる工法を選んでいたように思います。上左の楕円にちかい曲線の座は、6枚斜めにカットした板の接合部分を上下から5mmほど欠き取り、そこに別の板を接着して、整形する方法でした。下の写真の脚カーブ部分も、本番では多角形につないだ10mm程度の積層を整形して作るようにしていました。薄板によるラミネーションや蒸曲げは、型の製作に手間と時間がかかることや実際には接着不良や戻りなどがあって、短い期間に目的の形を作るのは難しいからだと思います。「削り出し」という方法は、材用の無駄が多く、手間と時間がかかりますが、プロトタイプを作る場合には、確実で安全な方法ではないでしょうか。


左:これはモックアップ 右:クランプで固めて様子をみる。

 実寸のスケッチでもよくわからないような複雑な椅子は、モックアップを作るように指示していました。椅子製作の経験がある人はいきなり実際の木を加工しても大丈夫だと思いますが、初めて椅子を作る人ならは、モックアップを作ることで本番製作の自信が生まれると思います。角度のついた複雑なホゾは、とにかく、テーブルソウで鋸刃を倒したりして、角度切断をし、クランプで固めて、様子をみます。OKなら、そこにダボ3本を入れて「接合完了」という場合もありました。今回作るのは、あくまでプロトタイプなのです。


ダボの位置決めは、最も簡単なセンターポイントを使う方法。 右:木陰で休憩

 椅子の製作が始まると、もう皆さん、作るのに一生懸命で、あまりレポートすることはありません。そんな中、近くの教会の隣の展示場では、本科の学生の作品展示が有料で行われていたのを休館日に見に行きました。夕方の息抜きというわけです。これらの作品をここで紹介することはできませんが、卒業製作のキャビネットは、どれも大変レベルが高いもので、それらはほとんど全て、芯材から自分で作る突き板を張ったものでした。日本では無垢が好まれるようですが、こちらでは手間をかけて収縮変形しない芯材を作り、それに高価な突き板を張った家具が、より高級とされているようです。


左:近所の風見鶏、右:教会の隣の展示場

 私は、持って帰りやすいように、「折りたたみのできる椅子」を考えていました。また日本の形をどこかに入れたいと思い、それぞれの部材を刀の形にしてみました。したがって、名前はKATANAです。


左:だいたい完成したKATANA, 右:Yさんの子供用ベンチ

 どこでもそうですが、作るのが早い人、ゆっくりな人がいます。ゆっくりな人が最後にはいい作品を作ることもありますし、どちらが良いということはありません。しかし、教える方としては、早い人がヒマになってしまうことの対策に何か代案を考えます。今回は、基礎コースの最初にあるスプーン作りを余った時間にするように言われました。スプーン作りには、木の乾燥過程や、木目を読むこと、そして何より手と道具で美しい曲線を作り出していく、様々な要素が入っているのです。


左:スプーンやお玉の見本 右:陶芸クラスも最終段階

 二週間とはいえ、二日間は図面、そして第ニ週の木曜には実質上作業を終えなければなりませんから、実際の製作日数は土日を入れて8日ほどということになります。最後の金曜朝の会では、各自の椅子を持って、また変装してファッションショウをして、楽しみました。


ドイツで修行中の彼、深夜まで作業をし、ヤギの皮をはって、ほぼ完成

座面に思い入れのあるスツールと、船大工さんが作った椅子(右)

 金曜の午後、陶芸クラスの作品なども見ながらノンビリすごり、2時ごろからの講評会では、各自が自分の椅子について意図したことや出来上がった椅子について述べ、二人の先生は一つ一つの椅子について、時にはなかり厳しい意見を言っていたように思います。夕方食堂で、認定証授与があり、最後の夕食をいただいて、椅子作りコースが終了しました。


エケトルプ

 コースが終わってから、丸一日フリーな日があり、ペーターの車を借りることができたので、日本人四人でエーランド島南部にある遺跡「エケトルプ」を見に行きました。エケトルプは、円形の石の壁に囲われた、畜舎もある集落の遺跡です。夏の間、特別行事として、昔と同じようなテントで暮らしながら、様々な当時の民衆の技術を再現していました。弓作り、染色、足踏みロクロ、鍛冶屋、・・・、皆さん、ボランティアで、「ここで二週間過ごすのが私達のサマーバケーションだ」と言っていました。やや、日本のクラフトフェアに似た雰囲気があって、私は気に入りました。


左:エケトルプ、右:声をかけたら1時間以上見るハメになってしまった真鍮鋳物作りの人


その他

Skype
 新しいインターネットの電話システム「Skype」は、大活躍でした。Skypeという無料ソフトを入れたパソコンとイヤホンマイクがあってインターネットに接続できれば、Skypeユーザー間は無料、固定電話へも格安に発信できるのです。ダイアルアップでは少々辛いと思いますが、LAN経由のインターネット接続ができれば、自分の電話を持っているようなものです。日本ではSkypeへの着信はできないようですが、有料で着信できるサービスも試験的に始まっているそうです。今回は、自宅固定電話へ有料のSkypeOutで電話して、「Skypeするぞ」と声をかけて、無料Skypeに移行するパターン。ただし、何時間でも無料なので、大切な旅先の時間を長電話で消費しないように注意する必要があります。いやはや便利なものが登場したものです。電話会社にとっては大変な脅威だと思います。ホテルを選ぶ際、少し値段が高くても、インターネットにLAN接続できるホテルの方が、国際電話も国際電話も無料に近くなるので、トータルで安くなると思います。

クレジットカード
 日本で外貨への両替はせず、海外でも使えるというUFJキャッシュカードとクレジットカードを二種類持って行きました。コペンハーゲン空港とカルマル駅近くのATMでVISAカードによるキャッシングで両替できましたが、UFJキャッシュカードは使えませんでした。カナダでは使えたのですが、「海外でも使えるというキャッシュカード」だけでは不安です。小額であればキャッシングの利息もそれほど高くはないので、クレジットカードによるATMでの現地通貨引き出しが一番便利ではないでしょうか。
 今回郵貯連携VISAカードはエーランド島の銀行では使えませんでした。また以前、アメリカでICチップ入りのカードが使えなかったこともあり、できれば3種類ぐらい違う種類のクレジットカードを持っておく方が無難だと思います。クレジットカードがほとんどのお店で通用する欧米なら、10万円以上のお金を持参する必要がない限り、トラベラーズチェックは不要ではないかと思います。

インターネット接続
 LANがダメな場合を想定してダイアルアップができるようにモデムセーバーやモジュラーケーブルを準備し、それも無理ならGSM携帯と赤外線でつないでモバイル通信をと準備していました。残念ながら赤外線の設定でトラブルがあり、これは実現しませんでした。ダイアルアップ接続の場合は、NIFTYのローミングサービスが一番確実なように思います。LAN接続が一般化した今でも、海外からの接続はホテル等の固定電話を使ったダイアルアップ接続が最も確実な方法のようです。


左:Kさんの自転車!、右:人がいなくなった宿舎の前


サマーセミナーを終えて

 11年前の初めてのセミナーでは、毎日「こんなに幸せな時間はない」と感じていました。今回は「いい環境のところで木工ができる恵まれた学校だな」と感じてはいましたが、今一歩、中に入り込めていなかったように思います。この理由は、私の立場が変わったこともあるでしょうが、それだけではないように思うのです。以前のサマーセミナーに比べ、次のような点が変更になっています。

 まだ、他にもありそうですが、要するに、期間が短縮され、各自のコースだけを効率よくすすめる方向に変化したと言えます。11年前は絵の基礎を学んだり、他のコースの人たちとの交流が自然とできるよう、とてもうまくプログラムされていました。そういうことが、カールマルムステンの最も大切にした部分ではないかと思うのです。木工基礎コースのベン先生、コースの中で「三週間あったら、○○できるのだけどなあ・・・」と何度も言っていたそうです。一方受講料や宿泊費はかなり高くなっています。想像の域を出ませんが、政府の補助が受けられる時代ではなくなり、財政上自立して学校を運営せざるをえない環境に変化していることが原因ではないかと思っています。余談ですが、ストックホルムのマルムステン校はリンショッピン大学に、スティーナビー工芸学校もヨーテボリのホーデコー大学に統合されました。そんな中、カペラゴーデンは今もカペラゴーデン財団によって運営されているのです。

 今年の参加者を見ると、「日本人が多かった」「スウェーデンの若者の参加者が少なかった」「スウェーデンのシニア世代の参加が多かった」という特徴があります。なぜ日本人が多かったのか、それは日本で知名度があがったために応募が多かったことによりますが、それだけではテキスタイルクラスで11人中8人も日本人を入れたのか説明がつきません。おそらく、スウェーデン人の応募が少なかったのだと思います。参加費がスウェーデンの若者にとっては高すぎたのたかもしれないし、昔ほどの人気がないのかもしれない。

 カペラゴーデンの周りの環境も、外見は同じように見えてかなり変化していたように思います。昔は、少々オーバーですが、「秘境」であったのが、今はお金持ちのサマーハウスが軒を連ねる高級リゾート地になっているように思えたのです。平日でもかなりの数の観光客が学校の見学に来ますし、隣のペンションは大繁盛でした。また以前は納屋ぐらいの小屋であった農園の売店が、クレジットカードも使える立派なお店になっていたのです。農園を基盤とした理想的な生活の場として、観光対象になることも、運営上意図されているもとの思われました。

 とは言え、やはりカペラゴーデンでの生活は、美味しい食事、快適な宿舎、夜まで自由に使える工房、と日本では考えられないようなすばらしい環境であることに変わりはありません。でも、何か、大切な精神の一部が変化し、そのことが私がイマイチ入り込めなかった原因のひとつではないか思います。11年前はウイレ君という愉快な仲間と二人部屋で、毎晩スウェーデンの若者達とよく話しをしたものですが、今回は優雅なひとり部屋であったことも何か寂しいような感覚を助長したかもしれません。

 カールマルムステンは1972年に亡くなっています。にもかかわらず約50年前にできた学校が、その精神を保ちながら、ほぼ同じスタイルで運営されているのはスゴイことだと思います。ただ、あまりに、周りを取り巻く環境が変化し、どうしても学校の運営スタイルを変化させずにはおられない時期に来ているのではないか。そして、ここは工芸学校ではありますが、それよりも前に、生活主体の理想を追求し精神的側面を大切にした、教育施設であると思います。おそらくは、ドイツのシュタイナー教育の流れを汲み、生徒の自主性を最大限重んじる教育を大切にしているのです。しかし、その自主性はキリスト教の教えによって備わったある程度の規範がベースがあってこそ上手くいくものかもしれません。そういう基盤のない日本人が、外から見える自由な校風を誤解しないか、お節介な心配もしてしまいます。

 余談ですが、スウェーデンでは小学校から「スロイド教科」とよばれる木工や金工などかなり専門的な工芸の教科があるそうです。スロイド教科は日本の技術家庭のモデルになったということですが、日本では技術家庭の時間はどんどん削られ、またコンピューターを教える時間が多くなって、教育現場で実際に手作業で物を作るという経験はたいへん少なくなっています。一方、スウェーデンの若者は日本よりもかなり高度な工芸的下地を持ってサマーセミナーに参加してくるようです。


最後に

 三度目のカペラゴーデンを経験し、「精神的に卒業できた」と感じています。私の週末木工教室、レベルは違いますが、教え方やムードは、よく似ていると自分は感じました。もちろん、要求される技術レベルは、プロを目指す若者が多いカペラと、週末の楽しみのための木工教室とでは、当然違います。しかしながら、各自のオリジナリティーを生かした製作や参加者相互のコミュニケーションを大切にする等、共通点は沢山ありました。エーランド島のすばらしい環境は、真似をしようとしてもそれは無理というもの。名古屋は蒸し暑い夏ではあっても、一年を通して見ればこちらの方が過ごしやすいかも。そして何より欧米の人が憧れる、日本のすばらしい木工技術や道具が目の前にあるのですから。

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