瑣末の研究11(決してお仕事中に読まないで下さい)

さらば、EQ

といっても、何を今更のエラリー・クイーン追悼ではない。
本年7月号をもって終刊した光文社の雑誌「EQ」の事である。
通巻130号、享年21歳8ヶ月
思えば、20年以上この本を買ってきた訳で、巻数自体はさほど驚くような
ものではないが、隔月刊ゆえに付き合った期間は随分長い。雑誌と人間とでは
どちらが長生きかとなると、やはり殆ど人間に軍配があがる。生き物に喩えれば、
一号雑誌の類いがクワガタかカブトムシ、
SF宝石あたりでハムスター、
幻影城やヒッチコック・マガジンはカナリア、
ミステリマガジンが象、
EQはさしずめ青春をともにした大型の西洋犬といったところか。
私事だが、文章でお金をもらったのはEQが最初である。といっても御大層な
ものではない。EQFCに入っている関係で一度だけ、EQFCのコーナーに
雑文を載せてもらったにすぎない。ついでにカットも載せてもらったので、

「一生に一度でいいから森英俊氏と同じ商業誌に文章を載せる」

というささやかな望みと

「一生に一度でいいからいしいひさいち氏と同じ商業誌に絵を載せる」

というこれもささやかな望みは、あらら、という間もなく叶ってしまった。
原稿料はEQFCに一部ピンはねされたので、定かではないのだが、おそらく
8千円くらいではなかろうか。
また、アンケートに答えて何かもらう、というのもEQが最初、読者欄に載る
というのもEQが最初である。思うに、恐ろしく読者アンケートの回答が少な
かったのであろう。つまり、読者も少なかったのであろう。

その結果、EQでは悲喜劇が生まれた。

もともと、別冊小説宝石・カッパまがじんの系譜につながる中間誌である。
世の中の流れと決別し超然と我が道をいくミステリマガジンとは異なる。
なまじ、営業がこれまでの実績をもっている。
つまり、広告も「中間誌」なのだ。
そして、部数が下がれば、広告の質もさがる。
十年一日の如く三和銀行や丸善のおしゃれな宣伝を載せているHMMとは
一味も二味も違った、
世俗の垢にまみれた大人の世界がそこにはある。

ローレンス・ブロックの粋な都会派クライム・ストーリーに感動しながら、
あるいは、ドロシー・セイヤーズの発掘作のツイストに拍手を送りながら、
あるいは、ホックやアシモフのシリーズものに安定した快感を覚えながら、
次の頁に目をやった貴方は、このような広告にぶつかる。

女房ウハウハ。
これが大王源の実力だ。
毎日、毎日、仕事と接待で休みはひたすら寝て過ごす。これが一流化粧品
メーカーの営業部長関谷義道さん(53歳)の定番だった。休日くらいは
愛する妻と盛り上がりたい。
「いやあ、<スッポン大王源>は聞きしにまさるパワーだねえ。たっぷり
女房サービスしてやったら“あなた、とっても素敵!”と大喜びだよ。」
のろける本人の表情もゆるみっぱなしだ。

その横にはスッポンを手に満面の笑みをこちらに送る卵頭のオヤジの写真
“現代人を助けるのはコレ”とスッポン研究に執念を燃やし続ける
宝仙堂・沢田賢三郎社長。
らしい

あるいは、

脅威のマムシパワー
これはすごい!!

飲んでわかる


「今日も出社一番乗り」「今日の接待まかせとけ!」
「休日出勤いつでもOK」「仕事バリバリ成績アップ」
「夜のお勤め皆勤賞 女房にっこり」
「徹夜マージャンどんとこい」

ううう、ああ、なんて類型的な70年代サラリーマン像。
しかし、これで萎えてはいけない!
そんな貴方に柱でこう来る。

医学博士 安見正志著
インポは治る!


「折角の知的興奮や男の抒情がぶち壊し」
などと青臭いことは言うまい。
雑誌だって、商売だ。よくやったEQ編集部。えらいぞ光文社営業部。
札束で頬を叩くようにしてEQMMの特約を早川書房から奪っていった恩讐も
すでに記憶の彼方。商売ではアメリカ人の方が一枚上手だったのだろう。
ありがとうEQ、私たちはこの雑誌を忘れない。

今、万感の思いを込めて雑誌(ホン)が逝く
今、万感の思いを込めて裁断機が唸る
さらば、EQ
さらば、関谷義道さん(53歳)
さらば、夜のお勤め皆勤賞

(BGM「銀河鉄道999」ゴダイゴ)

以上

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