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2001年8月19日(日)

◆ネタもないので、政宗さんのところと同じく「サイト名称の由来」など。
サイト名称の由来:「猟奇の鉄人」という名称は、日本推理小説の祖とも言える江戸川乱歩の作品名「猟奇の果て」と「鉄人Q」から採った。それは、数ある乱歩作品の中でも、ミステリとSFの妙なるアンサンブル。即ち、ここで、推理小説とSFを中心とし、ジュビナイルも対象とした購読系のサイトであるという守備範囲を象徴させてみた。更に、残った言葉である「Q」と「果て」についてはBBSを「啓示果つる処」と名づけ、遍く質問(Q)に対する「果て」を目指す志を表した。ちなみに開設前に候補として挙がっていた名称を御紹介すれば、

「パノラマ島の鬼」

「盲獣M」

「恐怖豹」

「探偵小説四十面相」

「偉大なる幻戯」

「D坂の散歩者」

などである。

というのは大嘘で、単に「料理の鉄人」の低次元なパクリであることは、皆さんよく御存知の通りである。
◆奥さんは朝から姪っ子と遊びながら、母親とビーズ編み修行を続行。ううむ、私の方が他所の子のようじゃわい。仕方がないので、一軒だけ古本市場へ。
「銀河残侠伝」横田順彌(双葉社NV)280円
「横を向く墓標」黒木曜之助(産報NV)95円
「ホームズ君は恋探偵」北原なおみ(講談社X文庫)95円
「消えた卒業写真」北原なおみ(講談社X文庫)95円
「第4の学」ワラッテル・フォーサイエンス(三菱鉛筆)頂き
おお、産報NVに黒木曜之助のこんな作品って入ってたんでしたっけ?全く認識しておりませんでした。北原なおみは茗荷丸さん情報の尻馬乗り。全部で5冊でいいのかな?とすれば、あと3冊。三菱鉛筆のオマケ・ノートブックはようやく3冊目。まあ、これでミステリ・パロディの2つは押えたのことになるので憑き物は落ちました。落ちたんだってば(>誰も信じておらんぞ)。
◆夕刻に帰京。アクシデント一件。なんとメイン・ビデオの時計が10分も進んでおり、予約しておいた夕べのロズウェルと今朝のアギトの録画がぶち切れ。かれこれ20年近くビデオを愛用しているが、こういったトラブルは初めて。これまで「家の中で一番正しい時計がビデオの時計だ」と信じてきたのに、録画失敗もさることながら、そちらの方にショックを受ける。停電で時計が止まったという経験はあるのだが、10分も進むなんて、全く理由を思いつけない。一体なんなんだよう?
◆NHKの新シリーズ「日本人」を見ながら夕食。おお、縄文人の出自に迫る丁寧な造り。さすがはNHKである。次回も必見である。

◆「怪奇・夢の城ホテル」川辺敦(早川JA文庫)読了
ビデオテープという小道具は「ビデオ・ドローム」だの「リング」だの、飛びっきり怖いホラーの題材になる。テレビ局というのも、その「光」ゆえに生じる影も一際暗く、様々な怨霊や都市伝説が巣食いそうなオーラを孕む。新作の「エコエコアザラク」もその辺を効果的に見せていたが、テレビのクルー、それも「怪奇特番」のロケ隊一行となると、怖さよりも先に胡散臭さが「笑い」を誘うといった印象がある。正直なところ、この聞いた事もない新人の書き下ろし「怪奇長編」には、さしたる期待は抱いていなかった。ところが、この話、初々しい生真面目さがなんとも心地よいのである。「怖いか?怖くないか?」で云えば、正直なところ、余り怖くない。しかし思わず次回作を期待させる筋の良さが感じられるのである。こんな話。
中堅の台本作家・山井彰の元に持ち込まれたオカルト企画。かつて、やらせで業界から干された彼にとっては鬼門のネタだった。だが、強引なディレクター細井の口説きに逢い、渋々温めていた「お化け屋敷」ネタを持ち出す。幸い馴染みのスタッフとのロケハンも首尾よく進み、場を盛り上げる思わぬネタまでが発見された事から、番組への手応えは上々。しかし、そのロケハン以降、山井は「金縛り」に苦しむ事となる。だがそれは、次なる恐怖の企画への序章に過ぎなかった。そして、サイキックハンター逢魔時雄との出会いは、山井をより本格的な悪霊の巣窟へと誘う事となる。地下室の冷気、封印された焼死の部屋、霊媒師への諌め、姿なき羽ばたき、振り切れる磁気計、破裂する真空、怨霊は「夢の城」で、三つ指ついてロケ隊を待つ。
現場感覚溢れる、業界インサイダーストーリー。テレビ業界に巣食う奇矯なプロたちの生態が実に鮮やかに描かれている。勿論、ある程度のデフォルメはかかっているのだとは思うが、「あるあるある〜」といった雰囲気が非常に楽しい。ホラーとしてみた場合、主役の逢魔のキャラが怖さよりも可笑しさを醸すためやや乗り切れない事がある。緩急の付け方が独特で、一番の騒擾場面で殊更冷静な分析をおこなったりするのである、この主役は。まあ、テレビ番組の作り方から、最新「金縛り」の基礎知識まで色々な意味で勉強になる話。部分的ではあるが「成長小説」の要素もあって、もう1作、同じキャラクターで読んでみたい気にさせる。表紙絵のイメージとは全然違うものの、「丁寧な造りのゴーストストーリー」ものとして評価したい。


2001年8月18日(土)

◆一軒だけ実家の傍のブック・オフ・チェック。
「名探偵はスーパーアイドル」マスターズ(偕成社)100円
d「消えた死体」ボアロ&ナルスジャック(偕成社)100円
「マリファナ殺人事件」藤原審爾(実業之日本社)100円
「真夜中の狩人」藤原審爾(実業之日本社)100円
ううむ、新宿警察は他の版で持っているのは確かなのだが、実業之日本社で所持しているかどうかは不明。うーん、新宿警察も相当集まって参りました。相当ダブって参りました。
◆姪っ子と遊んだり、遊びに来た奥さんの弟君とうちの親父のオーディオ談義に付合ったり、長閑な一日。昼酒をして、ビーズ編みに熱中する母と奥さんの様子を見ているうちに爆睡。夜は全員でステーキハウスで鯨飲馬食。とうちゃん、かあちゃん、ご馳走様でした。ありがとうございますありがとうございます。

◆「さまよえる未亡人たち」Eフェラーズ(創元推理文庫)読了
もし、英米ミステリ作家<「木を見て森を見ず」の評価を受けてきた作家コンテスト>があれば、間違いなくイネスとトップ争いしそうなのがこのフェラーズ。古手のミステリ読者にとってはフェラーズといえば「間に合った殺人」「私は見たと蝿は言う」の人だったのだ。それが近年の精力的な紹介によってイメージ一変、これほどユーモラスでコージーな作風を誇る作家であったとは。己の不明をつくづく恥じる次第である。さて、本作は、初期のレギュラー探偵ものとは趣を異にした後期の作品。しかし、サスペンスにのみ重点をおいたわけではなく、実に真っ当なクローズド・サークルの犯人当てである。それはもう、このままジェシカおばさんの事件簿に使えそうなほど真っ当な犯人当てなのだ(褒めているつもり)。こんな話。
転職のためアフリカから帰英し、つかの間の休暇を思い出のスコットランドのマル島で過ごそうとした主人公ロビン。だが、彼の休暇は4人連れの<未亡人>たちによって台無しにされる。帰国途中では、売れっ子紀行文筆業の妻アマンダが謎の男と交わした怪しげな会話を耳にし、スコットランドで向う車中では、そのアマンダに事業家の妻ヘレンとキャロラインが加わり繰り広げる果てしないお喋りに辟易とし、更に、4人目のオールドミス、デアドリーが加わって、ロビンの内省の旅は、賑やかな中年女たちに蹂躪されることとなる。もっとも、彼の心が穏やかならざるのは、同宿となった可憐な女性シャーロットの存在も、一役かっていた。だが、4人の中の一人が毒死を遂げ、更にシャーロットがその死と無関係ではない事が判明した事で、ロビンの探偵熱は一気に燃え上がる。霧に包まれた離島で、愛と騙し、殺しとすれ違いのゲームは既に始まっていた。ツイストの果てに甦る仮説。60年代の華麗なる先祖帰りがここに。
まんまと、やられた。あまりにもあからさまに示された手掛りが、補助線となって全ての謎を解体する快感は、まさに良質の本格推理ならではのものである。手掛りとミス・ディレクションを巧みに散りばめ、軽妙な会話で綴り上げた職人芸。これが、スパイ小説全盛の60年代に、しかも巨匠の手によって書かれていたという事が嬉しい。訳文も読みやすく、サスペンスも、演繹的推理も充分。一気読み保証である。これからも、フェラーズの未訳作の紹介が進む事を心から祈念する。


2001年8月17日(金)

◆夕方から、奥さんとともに大阪へ。駅弁買って、ビール買って、ゴウ!もう「叙述トリック」を弄する必要もないので、堂々と書いてしまうもんね。と、いっても書く事が何もないんだけどね。土産も多い関係で、本を買って荷物増やすわけにもいかんし。購入本0冊。

◆「金閣寺に密室」鯨統一郎(祥伝社NONノベル)読了
小説や映画を下敷きにした推理小説というのはあるが、アニメを下敷きにした推理小説というのは余り思いつけない。いや、辻真先の諸作に代表されるアニメ業界インサイドストーリーというジャンルがあることは知っている。だが、実在のアニメのイメージに依拠して書かれた作品というのは珍しいのではなかろうか?というわけで、この作品、なぜか東映アニメ「一休さん」の世界なのである。正確には、数々の一休逸話と史実とともに、アニメの世界もとり込まれているといった方がよいかもしれないのだが、少なくともここに出てくる「新右衛門さん」が、野田圭一の声で喋っているような気になったのは私だけではあるまい。ぽくぽくぽく、ちーん。こんな話。
時に応永15年(1408年)、足利義満が院政を敷き、その権勢の絶頂を極めていた頃、京の街で奇妙な殺人事件が起きた。その被害者:山椒太夫の喉元は、虎の牙により切り裂かれていたのである。調べに携わった蜷川新右衛門は、名僧ありとの噂を聞き、教えを乞いに建仁寺を訪ね、そこで師を仰ぐべき人物と遭遇する。その人物こそ、とんちで名高い一休さん。僅か15歳の小坊主であった。一方、糜爛した権力側にも、一休さんの噂は聞こえていた。そして、その名声故に一休は謀殺の危機に晒される。だが、死の顎に捕らえられたのは、誰あろう、足利義満の方であった。とある嵐の夜、義満は金閣寺の最上階で縊死しているところを発見される。しかも、その部屋は中からつっかえ棒がかまされているという密室(ひそかむろ:笑)状態にあったのだ!しかし、権勢の絶頂期にあった義満に自殺の動機などありえない。逆に側近たちの妻子までもその放埓な性欲のはけ口とし、一方では帝位簒奪を目論見、血を分けた息子たちすら権勢の道具として用いていた義満に殺意を抱く者は溢れていた。水面に躍る金色の鯉、足跡なき砂の庭に落ちた猿、相次ぐ怪事件の謎に挑む一休たち。果たして室町幕府を震撼させる真相とは?今、歴史の闇に大文字は燃える。
有名人総出演且著名逸話多数之豪華歴史絵巻本格探偵小説。愚作「隕石誘拐」で、長編の能力に疑問を抱かせた鯨統一郎だが、名誉挽回をかけた長編第2作では、得意の嘘と史実の合わせ技で優勢勝ちに持ち込んだ。舞台もキャラも派手だが、その派手さに負けないだけの答えは出している。一休逸話もそれなりにストーリーに消化しており、虚実を巧みに織り上げていく技は出世作「邪馬台国はどこですか?」を彷彿とさせる。全くのオリジナルではしんどいが、茶々入れと理屈合わせには長けた人なのであろう。まあ、これだけ楽しませてくれれば及第点。歴史物にしては、異様なまでの読みやすさであった。


2001年8月16日(木)

◆久々に出社。まだ、殆ど人が居ない状態で、のんびりと1日を過ごす。ここである程度書きものをしておかないと来週から地獄を見る事になるので、あれこれと作りかけるが、どうもしっくりこない。まあ、エンジンの掛からないときはこんなもので。
◆掲示板でやよいさんから指摘された「らせん階段」の製作年だが、インターネットで検索すると、1945年と1946年が同じぐらいヒットするのだ。うーむ、謎だあ。ところで、ヒットしたものの一つに、例の書誌データ満載の「MISDUS」があって、そこに、昨日私が書いたようなホワイト豆知識はぜーんぶ書かれていた。ああ、この世には目新しい事など何もないのだよ。とほほ。やっぱり、原書をレビューでもしないことには、特長出せないって事なのでありましょうかね。
◆途中下車して最近某所で話題の新刊購入。
「NHK少年ドラマシリーズのすべて」増山久明編著(アスキー出版:帯)2500円
なるほど、気合の入った本である。一瞬高い!と思ったものの、これはある世代のある層にとっては、この倍出しても惜しくない本であろうと思い直した。この類のサブ・カルチャー本をこまめに追いかけているだけで、結構な散財になるのではなかろうか?それにしても、ちゃんと帯付きが平積みされてるなんて、やるではないか、A書店F店。

◆「闇から来た男」鷲尾三郎(同光社)読了
これも、彩古さんとの交換本、というか結婚祝いというか。今回の交換で鷲尾三郎収集もやっと半分といったところ。まだまだ先は長い。先は長いのだが、一時ほど熱くなれない。最近でこそ、幅が広がったとはいえ、私は根っこのところで本格推理小説マニアである。従って、その路線でスタートしながら通俗に走った人に対しては、どうしても「転び本格」という色眼鏡でしか見る事ができないのである。島田一男のように、坂口安吾(だっけ?)に痛罵されてから、自ら「事件記者」だの「鉄道公安官」だのといった通俗なる満蒙の大地を拓いた人は、それなりに評価もしよう。しかし、どうも鷲尾三郎には(ここまで読んだ限りでは)そこまでの思い入れも感じないんだなあ。なんとなく、流行ってるんだし、注文もあるんだがらいいんじゃないの、っていう雰囲気なのである。さて、この作品は、ずばり鷲尾版「赤い収穫」。こんな話。
僕の名は萩原隆一、という事にしておこう。この街には職探しにやってきた、という事にしておこう。ところが、電車で偶然に出会った二階堂という男からの紹介で訪れた極東金融商事社長の須藤が、初対面の僕の目の前で飛び降り自殺を遂げた、という事にしておこう。その街を陰で牛耳っていたのは、自殺した須藤と、もう二人、民政党総務を勤めている代議士の松永と旭建設社長の石渡だった。石渡から裏稼業を任されている剛田に、脅しをかけられた僕が、二階堂の名を口にすると、連中はたちまち竦みあがった。とりあえず、二階堂探しの依頼を受ける形で僕はその街に居場所を見つける。襲いかかる剥き出しの悪意、炸裂する暴力、誘惑する女体また女体。僕の行く先々で、知り合った人間たちは皆な死体となって転がる、僕が望むと望まざるに関わらず。そしてカタストロフに向かって、闇の掟は作動する。僕の本当の目的は、、、おっと、それは最期のお楽しみだ、という事にしておいてくれ。
さて、このような絵に描いたようなステロタイプな通俗ものをなんと評せば宜しいのか。このまま、シナリオにして映画化して一丁上がり!というオーラが隅々まで行き渡った才気の欠片も感じさせない作品である。人を殺しすぎ、動機が古すぎ、女性を玩具にしすぎ、ハメットをパクリすぎた日本通俗ハードボイルドの典型。まあ、こんな作品が「推理小説でござい」と通用したという時代もあるという証拠以外に使い途はない話。一人称が「僕」なのが、少し新鮮ではあった。
あと、この本にはもう1篇、弁護士を主人公にした短編「嵐の夜の女」がオマケでついている。主人公が神戸で偶然目撃した雨中の殺人捕物の背景を暴く、という話なのだが、長編並みの設定を詰め込んだために、絵解きの部分で探偵が伏線も何もなしに動機から何から全てを喋り捲るという、市川崑の金田一というか、銀河旋風ブライガーの第1話というか、まあ、そんな話であった。
いやあ、大枚はたかずにすんでよろしゅうございました。彩古さん、どうもありがとう。(それにしても、この本、国会図書館のリストにも挙がってこないんだけど、何かの改題作なんでしょうか?うう、「古書の臍」を「別宅」に置きっぱなしなので、どなたか、乞うご教授)


2001年8月15日(水)

◆うちの奥さんは、古本屋で売っていたわけではありません>大矢博子さんの旦那様
◆うちの奥さんは、奥さんであって私の娘さんではありません>ストラングル成田さん の奥さま他数名の方々
◆出社するか否か一瞬悩んで、あっさり休む。今日は、会社に行っても社員食堂があいてないのである。って、それが理由かい!?
◆何故か知らないうちに溜まってしまう読了本やダブリ本を「別宅」に持ち込む。とっとと帰るつもりが、原書の整理を始めてしまったために長居する羽目となる。あれこれと引っ張り出しては、チェックして、引っくり返しては並べたりしていると、へえ、こんな作家を買っていたんだ、とか、げげっ、こんな本がダブってるじゃん!とか、おお、この辺を持っていなかったのかあ、と改めて認識。例えば、クエンティンは「DEATH GOES TO SCHOOL」「THE FILE ON FENTON AND FARR」「 DEATH AND THE MAIDEN」「RETURN TO THE SCENE」なんてところを持っていない。ううむ、「DEATH GOES TO SCHOOL」は先日の森さんのカタログに載ってたんだよなあ。しまったなあ。なのに「DEATH FOR DEAR CLARA」なんてのはダブらせていたりするしなあ。ボナミイは「DEAD RECKONING」で上がり。パーマーの長編は「ACE OF JADES」「THE PUZZLE OF PEPPER TREE」「NIPPED IN THE BUD」「UNHAPPY HOOLIGAN」「ROOK TAKES KNIGT」と全然道は遠い。せめてウイザースものの2つは欲しいところだよなあ。ホールトンは「THE SAINT MAKER」「A PROBLEM OF ANGELS」「THE DEVIL TO PLAY」が欠け。こちらも蝸牛の歩み。アラン・グリーンはデンビー名義の「DEATH ON THE LIMITED」がない。なのに同じくデンビー名義の「DEATH CRUISES SOUTH」がダブり。ぐげげ。こうやってリストアップするとまた欲しくなっちゃうんだよなあ。追いかけるのはベロウ(あと7冊)、ロラック(あと20冊、うへえ)、ドハティー(あと、えーっと、一杯一杯)てなところにしておきたいんだけど。
◆持っている方では、ペーパーバックのラインハート「THE RED LAMP」やビガーズの「THE AGNOY COLUMN」のカバーアートに興奮したり、知らない間にクイーンの名義貸しペーパーバックが全28冊中15冊まで来ていたのに驚く。まあ、積極的に集めず「ついで買い」だけでも25年以上もやっているとそれなり集まるものなのね。以前、QUEEN'S PALACEのY.K.さんに「ダブりをお譲りしますよ」と御声掛け頂いたにもかかわらず、自分が何を持っているのか判らなかったもので、ご遠慮申し上げたのである。実は、先日の旅行でも、MYSTERIOUS BOOKSHOPに、適価で結構な数が並んでいたのであるが、やはりダブリが怖くて手を出せなかった。でも、今回のチェックで、何がないかが判ったので、これで恐れるものはなくなったぞ、って、いかん、いかん!リストアップすると「歯止め」がなくなってしまうではないかあ。
◆あと、一つ賢くなった事。これも集めるとはなしに買っていたETHEL LINA WHITEという英国女流作家のペーパーバックのプロフィールを眺めていたら、この人の「THE WHEEL SPINS」が映画「THE LADY VANISHES」の原作である、てなことが書かれていた。おお、これって、もしや「バルカン超特急」?実は、わたしが高校時代に友人のO君に連れられて生まれて初めて映画館でみたヒッチコック映画がイギリス時代の「バルカン超特急」と「第三逃亡者」の二本立てだったんだよねえ。「第三逃亡者」の方は先日ポケミスから出た「ロウソクのために1シリングを」が原作だったけど、「バルカン超特急」も英国女流作家の作だったのね。ふーん。なんだか、この頃のヒッチコックって、「夏樹静子」やら「山村美紗」やらをテレフューチャー化するテレビ・ディレクターのようなもんだったんでしょうかねえ(ちーがーうー)。ちなみに、ホワイトの映画化作品はもう一本あるらしくて46年の「らせん階段」ってのがそうらしい。ううむ、誰が見たって題名からだけだとラインハートが原作だと勘違いするよなあ。
以上、この日記では非常に稀な原書談義でした。どなたか、クエンティンをダブらせてます、って方がいらっしゃればご連絡を。
◆「別宅」で気になっていた事をもう一件確認。創元推理文庫のミッシェル・ルブラン「贋作」の旧整理番号が何番だったか。あ、やっぱり「モンタージュ写真」と同じ300番だったのね。ふむふむ。
◆一軒だけブックオフをチェック。さしたるものは何もない。安物買い。
「ハリー・ブライトの秘密」Jウォンボー(早川書房)100円
「鏡の中のブラッディ・マリー」Jヴォートラン(草思社)100円
「クリムゾン・リバー」J=Cグランジェ(創元推理文庫)100円
「サイエントロジー」ロン・ハーバート(サイエントロジー・パブリケーション)100円
不調である。ハーバートの「とんでも本」買ってるようじゃ駄目だよなあ。
◆夕刻、突然、奥さんと一緒に焼肉屋でおよばれ。たらふく頂いてしまいました。お義父さん、お義母さん、ありがとうございます。ごちそうさまでした。

◆「他言は無用」Rハル(創元推理文庫)読了
国書刊行会や新樹社の華麗なラインナップに比べるとやや地味ながらも、ここのところの創元推理文庫の頑張りは、かつて「探偵小説全集」と銘打ってクロフツの未訳作やらバークリーやらPマクを精力的に紹介していた十数年前を彷彿とさせる。セイヤーズの新訳・改訳を筆頭に、Rキングや、BCベイリー、Pギャリコ等などあっと驚く隠し玉の連続に、古典愛好家としては唸らされっぱなしである。この作品の出版も同じくビックリ。「何で今更、リチャード・ハル?」と思ったのは自分だけではあるまい。正直なところ、この書の森英俊解説を読むまで「伯母殺人事件」のストーリーすら忘れていた。なるほど云われてみれば、相当に技巧を凝らしたミステリであった。結局、何が邪魔をしているかといえば「時計マーク」なのである。創元推理文庫の旧整理マークで「時計」といえば、倒叙・法廷・その他を表す。そこで「倒叙」であるという刷り込みが行われてしまったのだ。その伝で行けば、この書もおそらく(整理マークが継続していれば)帽子男マークではなくて時計マークを押された事であろう。少なくとも最初は「犯人」の側から書かれている(ように見える)。だが、なかなかどうして、このイギリスの典型的なクラブを舞台にした瑣末で皮肉でもつれっ話の殺人物語は「倒叙」という一言で片付けられる程、生易しい話ではないのである。通常であれば、「こんな話」と梗概に入るところなのだが、何を書いても読者の楽しみを奪う事になりそうなので今回はパス。さしさわりのない範囲でいえば、英国のクラブ事情が克明に描かれている。テーマは毒殺である。ホームズを気取った素人名探偵が活躍する。笑える。ハルがセイヤーズに敬意を評している。読後感は爽やかである。てなところである。
訳文もこなれており、分量もほどよく、一気読み保証。ハルの「話転がし」の巧みさを堪能頂きたい。これは、「その他」の意味で「時計マーク」な作品なのである。


2001年8月14日(火)

◆盆休み二日目。朝からひたすら日記書き。8月11日から13日まで3日分の日記をアップしてから、7月15日から19日の5日分の感想文を作成。一ヶ月前の日記を更新するというのは、もはや単なる意地の世界である。さあ、やっと新婚旅行に行くまでが埋まったぞおお。果して年内に旅行記をアップできるのであろうか?
◆ううむ、朝から物凄いサイトに行き当たってしまった。ここ。テレビ番組のデータ集なのだが、唖然愕然。こんなものまで無料で判るのかと息を呑んだ。久々にインターネットの底力を見せ付けられた。
例えば、わたしが途中で紹介をほったらかしている「ジェシカおばさんの事件簿」は全部で264本あって、その後、3本テレフューチャーが作成されているとか、以前、ROMで邦題のみを整理した「バークにまかせろ」の完全サブタイトルと放映日データとかも一発で判る。本格ミステリファンなら、死ぬまでに一話でも見てみたいカーの不可能犯罪課シリーズを原作にした「Colonel March of ScotlandYard」の放映データまでバッチリ。オマケにボリス・カーロフ扮するマーチ大佐のスチールまであるではないかああ!ああ、こういうサイトがあれば、日本人如きがやる事は何もないよなあ。いやあ、参った参った。このサイトも15メガが近いことだし、テレビ欄は削除しちゃおうかなあ。

◆「細菌人間」筒井康隆(出版芸術社)読了
出ました(って、もう1年近く前だけど)、只今絶好調(だから1年前だって)日下三蔵の「いい仕事!」。星新一の「きまぐれスターダスト」に続いてお送り致しマスルは、老いて益々奇才縦横・筒井康隆の単行本未収録ジュヴィナイル拾遺集。まあ、殆どの人がそうだろうから白状してしまうが、こんなに作品がある事も知らなかった。え?こんな作品集が出ているのも知らなかったって?それは言わない約束でしょ。しくしく。とまれ、発刊僅か1ヶ月で増刷というのは、余程多くの人から待ち望まれていたって事なんでしょうなあ。なんで、そんな事が判るかと言えば、私の所持本が二刷であるからだ。エッヘン(>威張るな)。しかも、古本で買ったんだぞ。オッホン(>誰か殴れ)。長めの中短篇5編収録。以下ミニコメ。
「細菌人間」表題作に採られるだけの事がある大作。アイデア的には、前半はスタージョンの「それ」的庭からの侵略、後半はアシモフの「ミクロの決死圏」、てなことは今だからいえることで、日下解説によれば、本末転倒なお話らしい。とすれば、見事なイマジネーション。そしてホラー・センス。解説にもある小松崎挿し絵の怖い事、怖い事。このようなお化け屋敷的なホラーセンスを巨匠筒井が持っていた事が嬉しい。とはいえ、この話が少年サンデーに載っている頃というのは、楳図かずおの絶好調期で少年マガジンでは「ウルトラマン」の「バルタン星人」の回とか、少女フレンドでは「黒い猫面」とかいう、トイレに行けなくなるほど怖い怖いマンガが載っていたので、この筒井作品は全く記憶にございませんのです。はい。
「10万光年の追跡者」大風呂敷の割りには最後がこじんまりとしてしまった凡作。地球人の娘を攫う宇宙人といい、西部劇風の造りといい、見るべき処がない。
「四枚のジャック」メースンの換骨奪胎らしい。これは滅法面白い。願わくばもっと話しを膨らませて欲しいという欲がでてくる。
「W世界の少年」良くも悪くも典型的並行宇宙ものだが、二番目の世界の奇天烈ぶりが爆笑もの。これは宜しい。
「闇に告げる声」なんとも暗いトーンのエスパー少年もの。「七瀬ふたたび」にも通じる世界観がはたして当時の少年たちから支持されたのかどうかが気になるところ。


2001年8月13日(月)

◆おお、黒白さんのところが大ピンチである。いやあ、まだまだ、パソコンって家電じゃないよねえ。どうかめげずに、頑張ってくだされ。
◆いざ、盆休み。通常の古本屋は休んでそうなので、専ら年中無休のブックオフ狙いで2軒。「ガイヤ・ギア」だの友成純一だのもあったけど、不良在庫になるのが見えているのでパス。若干の安物買い。健全、健全。
「チャイナ・シンドローム」Bウォール(広済堂)100円
d「鹿の子昭和殺人事件」橋本明(新風舎:帯)100円
d「SFショート・ショート傑作集」福島正実編(秋元文庫)100円
「<あさぎり>秋田構造線」種村直樹(東京創元社:帯)100円
「怪奇・夢の城ホテル」河辺敦(早川JA文庫)100円
「世界の終わりの物語」Pハイスミス(扶桑社:帯)700円
「鹿の子昭和殺人事件」は100円で見つけたら拾うようにしている自費出版。10年後には、密室マニアの探究本になっている可能性大。ハイスミスの最後の作品集は、文庫化が怪しいので、とりあえず半額で妥協。こういうのを「古本のチキンゲーム」と呼ぶ。単行本を新刊で買う<単行本を半額で買う<文庫を新刊で買う<文庫を半額で買う<単行本を100円均一で買う<文庫を100円均一で買う、といった順序。文庫化されるか、されないかが、ゲームの大きなポイントである。帯の有無もなかなか微妙な要素。今回も帯がなければスルーだった。
◆奥さんがお仕事の間に、積録しておいた「ウルトラマンティガ・THE FINAL ODYSSEY」と「仮面ライダーアギト」4話分を一気に視聴。ティガ映画版は丁寧な造りだけれど、本編のラストの感動を越える事はできませんわな。折角のクトゥルーの壮大さをぶち壊しにして、聖闘士星矢的なアレンジに堕してしまった。ダイナ役者の総出演はお遊びとして吉。でも、山田マリアの女子高生姿はちょっとコスプレ・バーのノリですのう。アギトは4話分一気に見ても、ちっとも話が前に進まん!!無理矢理、本編とは関係ないエピソードを挿入してみたり、一旦戻った記憶を消してみたりして、謎を引っ張り過ぎ。ああ、いらいらするぞお!!映画版なんぞ作っている場合ではなーーい!(でも、ちょっとみてみたい)

◆「多重人格探偵サイコ 雨宮一彦の帰還」大塚英志(講談社NV)読了
この話には、一体幾つバージョン違いがあるのだろう?とうとう徳間書店のデュアルからも出てしまい、これで角川のマンガ、角川文庫の小説、講談社NVの小説、徳間の小説、WOWOWの実写と、5つの微妙に位相をずらした多重人格探偵の物語世界が存在する事となった。作者は意地になって、誰とも知れぬ語り手に、誰とも知れぬ時制から、誰とも知れぬ探偵と、誰とも知れぬ犯人の、永遠の探索と破壊を描かせる。同じ名を持つ主人公が、初出の段階で斯くも出版社を跨って活躍するというのは、金田一耕助レベルの国民的ヒーローならいざ知らず、通常は極めてレアな話。しかも、その世界の設定が、微妙にズレているのは、世界的にも類をみない試みなのではなかろうか?編集サイドから望んでいる話なのであろうか?誰か、この分裂症的な作者をプロファイルしてくれえ。さて、今回は、「なんちゃってキャリア」笹山徹が殆ど主役を務める「連帯赤軍」ネタの事件である。そして、雨宮一彦自身の事件でもある。こんな話。
連帯赤軍の女指揮官であった死刑囚・焔妖子が、処刑前夜、笹山に遺言を託す。彼女は、かつて笹山の家庭教師であり、初恋の人でもあったのだ。その遺言とは「ルーシー7の七人目を探してその左目に見た事のない痣があったらためらう事なくそいつを殺せ」。20年前、ルーシー7の命名の瞬間に居合わせた笹山の孤独な調査が始まる。時同じくして起きる、小林洋介の釈放、雨宮一彦の帰還、そして西園伸二の復活。彼ら<一人>を庇護の下に置く伊園磨知は、自らもある影の掌で踊る者である事にまだ気づいていなかった。バーコードを刻印された現代のルーシー7たちの花咲き乱れる酒池肉林の犯罪が、連帯赤軍の記憶と交錯する時、流転の人格は分裂し、逆転の果てに破滅の産声が幽かに響く。これもまた消費される物語。誰も信じるな。特に作者は。
題名も含め、設定は実写版の世界に近い。が、主題は「恐怖の誕生」に他ならない。現代風俗を巧みに散りばめて、大塚英志はカルトでキッチュな殺人譚を描く。自己撞着を操り、さながら「嘘つき族」の迷宮に読者を誘い込む手法はいつもながらのものであるが、今回は「それはまた別の話」を乱発し、普段にも増して読者に優しくない。これを続けていると、そのうちに「消費」されなくなっちゃいますよ、と言っておこう。さすがの笠井潔が、言葉を選びながら解説しているのが面白い。


2001年8月12日(日)

◆奥さんが子育て真っ最中の昔の友達と久しぶりに会うとかでお出かけ。kashibaは放牧状態。んじゃ、コミケの最終日でも冷やかすか、SRの例会でも久しぶりに覗くかと考えるが、とりあえず本宅に溜まった古本・読了本を「別宅」に持ち込み、そこからCDを本宅に持ち込むという作業に勤しむ。ぐああああ!お、重いいい!なにせ、先日、森さんから送ってもらった本やら、NYで買い込んだ洋書、最近読了した本を束にして持ち上げようとしたものだから、たまらない。関東地方は涼しい日が続いているのだが、それでも大汗かきながらバッグ2つ分の書籍を搬入。いわゆる「日下三蔵」スタイル。なぜ、そう呼ぶかというと、日下さんって、いつ逢っても、両手の袋に一杯の本下げて歩いてるんだよね〜。
◆NYで買ってきたドハティーの本を棚に詰め込む。棚一列とその上の空きスペースに横突っ込みで丁度納まる分量。全部で42作・41冊。ああ、まだ、あと10作以上あるんだよなあ。追いかけても追いかけても、その先を行く人である。
◆本宅に持って行くCDを選び始めるとこれが相当の分量になってしまい、遠出をあきらめる。うがあ、お、重いいい!結局、銀河通信のお二人の勤め先を冷やかして、家に帰る事にする。一冊だけ、ジャンル外を購入。頂いた「本の雑誌」の書評で見て、読んでみたくなった本。
「発掘捏造」毎日新聞旧石器遺跡取材班(毎日新聞社:帯)1400円
たまには、こういう本も買うのだ。本当に「たまに」だけど。んでもって、この本を探すのに結構手間取ってしまった。普段は、安田ママさん担当の文芸棚と文庫・新書棚しかチェックしないので、この類いの本がどこにあるのかが判らない。確か書評本コーナーってのがあったよなあ、とメイン・レジの横を見るが、新聞の書評中心で「本の雑誌」の書評本までは手に回らないらしい。ううむ、となると「マスコミ」とか「社会問題」のコーナーなのかあ?とあたりをつけるが、ここも外れ。いかにA書店F店が、町では大きなお店とはいえ「考古学」というコーナーは見当たらず。最終的に発見したのは「日本史」のコーナー。梅原全集なんかと同じコーナーに平積みされておりました。まあ、言われてみれば「日本史」だよなあ。で、普段は絶対にやらない「一番上に積んである本を無造作に買う」という荒業をやってしまう。通常であれば、底の方まで掘り出して帯・本体とも一番美しい本を選ぶのだが、こういう本は、新刊でありながら「読めりゃいい」モードなのである。ああ、なんだかパンピーなお客さんしちゃったぜ。ちなみに刷数を見ると既に二刷であった。ふむふむ、結構話題の本なのね。
あ、そうそう、メイン・レジにはちゃんと創元推理文庫の最新解説目録が「御自由にお取りください」と積んであった。さすがであります、ダイジマンどの。もう1冊もらっちゃおうかな、と悪心が動くが、今日はパンピーなのである。創元推理文庫解説目録をダブらせてどうする?

◆「発掘捏造」毎日新聞旧石器遺跡取材班(毎日新聞社)読了
で、こういう本はさっさと読むに限ると、帰宅の道すがら読みふける。さすが20世紀最後のスクープ。実に読ませる。新聞社が特落ちを恐れて記事の談合にはしったり、記者クラブ発の情報を垂れ流したり、官庁と企業のリークの提灯持ちをやっている昨今、まさに胸のすく思いのする「大スクープ」である。対象が経済界や官界や政界といったスキャンダルの手垢の付き捲った世界でないのが新鮮。世界の偉人伝で「シュリーマン」を読んだ者ならだれしも一度は考古学に憧れを持つのではなかろうか?加えて、学会に真っ向から挑戦し、掘るたびに古さの記録を塗り替えていく「神の手」と呼ばれる在野の巨人、という「標的」の設定がなんとも憎い。考古学を専攻されている人には申し訳ないが、私は「事件記者〜偽りの墳墓」「都内最終版〜五十万年の死角」「トップ屋事件簿〜幻の上高森」(さあ、この中で実在しない題名はどれ?)てなノリでこの書を楽しく読んでしまった。展開が実に劇的なのである。そもそも、この取材が北海道支社を中心にスタートしたというのが初耳。実は、そこで取材陣は一旦隠密取材に失敗するのである。この組み立てが「ホントかよ」なのだが、そこでの失敗を踏まえて、コード名「F」を追いかけて行く過程が、良質の捜査小説そこのけの描かれよう。読者は決定的瞬間の撮影に成功する取材陣の歓喜を共有する事となる。周到にイメージトレーニングを積み重ねた「対決」シーンの迫力も素晴らしい。畳み掛けるように迫る記者の質問の前に、「神の手」が崩れ落ちる瞬間。そして、「神の手」と支援者との、あまりにも切ないやり取り。事実の迫力にただただ唸るばかりである。
勿論、新聞らしく、なぜ、このような「事件」が起こったのか?学会の罪、自治体の罪、そしてマスコミ自身の罪を指摘して、バランスをとってはいるのだが、はっきり言ってその部分は退屈。素人たちの成果を盗み且つ無視する学会、「原人の里」などと町おこしに浮かれる自治体、そして記録更新を煽り立てるマスコミ、それらからは、どこかステロタイプな印象を受けてしまう。記者や「犯人」が実にビビッドに描かれている反動とでもいうか。いずれにしても、ちょっと新聞記者を見直したい人にお勧めの1冊。これぞ「事件記者」!


2001年8月11日(土)

◆4日分の日記をアップ。買った本ぐらいはその日のうちにメモする事ができても、感想文まではとても手が回らず、休みの朝にヒイコラ言う羽目となる。
◆夕方、奥さんと自転車屋と電気屋をはしごしていた途中で夕立に遭い、ヨドバシ・カメラに駆け込む。ビニール傘を買ったらなんと150円!うわあ、世の中デフレだねえ。これは一体何年前の値段だろう?そういえば、昔は「百円傘」って云ったもんなあ。茗荷丸さんのところで「自分が17歳だった頃」の話が盛り上がっているが、私が17の時というのは、第一次オイルショック直後で、物価が大幅に上がった時代であった。私の乏しい家計を直撃したのは、それまで180円から高いもので260円(「ギリシャ棺の謎」とか)ぐらいまでだった、文庫本がぐんぐん上がり出したこと。勿論、ポケミスが平気で500円を越えるようになったのもこの頃である。一番真剣に原書を読んでいたのもこの頃だし(何を読んでいたかというと「フォックス家の殺人」だったり「囁く影」だったりするのがお笑いで、要は絶版だったのさあ)、一番真剣にスタートレックを見ていたのもこの頃である(日本版の訳題と、原題の対照表なんかも作っていたのである。だって日本語の題名って凄いんだもん。「宇宙指令、首輪じめ!」とか「異次元空間に入ったカーク船長の危機」とか、結局、早川文庫の本シリーズ訳本の最終巻に対照表がついてしまって無価値になっちゃったが、それが出るまでは「労作」と云われたものである)。ちなみに一番勉強していたのもこの頃かもなあ。中高一貫の受験校だったので中学からの入学組は、中3・高1の頃が一番勉強しないのである。推理小説同好会を友人と作っていた私は、日夜、阪急線沿線の古本屋回りに余念がなかったのである。ああ、あの頃に今の「選球眼」をもっていれば。もっと、昭和30年代作家の本を拾えていたであろうに。三橋一夫だって、本屋で買えたのに。遠い目。
◆「本の雑誌」から掲載号を頂いたほかは、購入本0冊。今日は何にも書く事がないなあ、と思っていたのに、書き始めると結構な分量になってるじゃないの。少しは、よしださんの域に近づいてきたかな。

◆「製材所の秘密」FWクロフツ(創元推理文庫)読了
クロフツの作品の中では「スターヴェルの悲劇」などと並んで、古いマニアから一種の「思い入れ」をもって語られる作品。まずサンデータイムズのベスト・ミステリ99にクロフツ作品から唯一採られたミステリである事。そして、79年に創元推理文庫から完訳版が出るまでは、六興キャンドル・ミステリーなどでしか読めない作品であった事、勿論、後ろの要因がより大きい事は言うまでもない。お馴染みのフレンチ警部は未だ登場しない初期作であり、クロフツ自身手探り状態だった頃の1922年作品。で、こういう本の常として「実はあんまり面白くない」。こんな話。
ワイン商勤めのメリマンは出張先のフランスはランド地方で、つかの間のバイク旅行の最中、怪しい光景に出くわす。数分前までNo.4のプレートを付けていたトラックが、とある製材所を出てくる時にはNo.3のプレートを付けていたのだ。製材所の人々は、偽りの快活の下に何やら屈託を隠している雰囲気。製材所主任の娘マデリーンに一目ぼれしたメリマンは、持ち前の好奇心と騎士道的下心から、友人の快男児・関税局職員のヒラードとともに、密かに製材所の秘密を探り始める。奇手を用いて製材所の日常を監視する二人は、やがて彼等の「犯罪」の仕掛が、積み出される木材の中にあるとあたりをつける。そして、英国でも網を張ろうとするのだが、事態は既にアマチュアのレベルを超えていたのであった。突然の謀殺。そして出馬するスコットランドヤード。果して英仏を股に掛けた陰謀の正体とは?
要は冒険小説なのである。東京創元社は、帽子男マーク(「はてなおじさん」マークとも言う)ではなくて自信を持って帆船マークもしくは拳銃マークを付けるべきだった。当初、事件に関わる快男児二人は、実に由緒正しく「只の野次馬」である。「足の探偵」だの「巧妙なるアリバイトリック」を期待するとまんまと肩透かしに合う。仮説の構築と破綻というコンビネーションも今ひとつ。ラストでウィリス警部に訪れる天啓はなかなかのものだが、クリスティーが「七つの時計」や「ビッグ・フォー」で著したオッペンハイム的世界に比べれば、なんとも地味でせこい「国際」犯罪物語。まあ、これがクロフツのクロフツたる由縁なのであろう。後の「チェインの謎」や「紫色の鎌」の方が悪党の貫禄も充分で、推理作家クロフツの冒険ものとしても習作の域。熱烈なファン以外は後回しにしていいです。