地球温暖化の健康影響研究


平成21年7月27日〜31日 ウランバートルにて温暖化研究能力開発第二回目
 冬に訪問して以来,モンゴルの研究者の方々が実際のデータを用いた解析を行い,その結果を発表するシンポジウムが開かれました.そこにはモンゴルの厚労省副大臣のお見えになり,この分野に対する関心の高さが伺われました.
 その後,現地視察もかねて,郊外にあるフスタイ国立公園を訪れる機会をいただきました.生まれたばかりの野生馬の赤ん坊を観察したり,遊牧民の生活現場を訪れて,生活の実態を見せていただいたりと,興味深い視察になりました.印象深かったことは,遊牧民の方の住居にも,太陽電池パネルと衛星放送のアンテナが設置されていたことです.世界は確実に低炭素社会に向かって進んでいるようです.

平成21年6月22日〜23日 筑波大学にて気候変動の健康影響に関するシンポジウムを開催
 世界的に著名なDr. Kris Ebi(実は,この後に気候変動に関する政府間パネルの第5次報告書第二作業部会のTask Supporting Unitのheadに選出されました.)をはじめ,英国,ニュージーランド,マレーシア,中国,韓国の研究者に参加していただいた.おりしも,南半球ではH1N1インフルエンザが猛威をふるい始めており,参加していただく予定だったオーストラリアとシンガポールの研究者が対応でお忙しく,参加できなくなったことは残念でした.また,WHOのプロジェクトに関連して,WHO西太平洋地区のDr. Peraltaとモンゴルの研究者にも参加をしていただき,最先端の研究に触れていただくとともに,7月に行われる後半のプロジェクトに関する打ち合わせもしました.

平成21年5月22日〜25日 ジュネーブにて全球の気候変化による疾病負荷推定に関する会議
 WHOの主導で,2002年に行われた気候変化による全球の疾病負荷推定のアップデートを行うための作業が始まり,そのための会議がジュネーブで行われました.2002年には,熱波など熱ストレスによる死亡の影響は取り入れられていませんでした.今回も,まだまだ不確実な部分が多く,問題も多い,ということを述べたので,今回も見送りかと思っていましたが,我々の将来推計方法である程度推定が可能であろうとのことで,取り入れる方向になりました.身の引き締まる思いです.


平成21年5月11日〜13日 上海フォーラムにて招待講演

 上海にあるFudan Universityで上海フォーラムが行われ,そこで講演をしてきました.同じ気候変化の健康影響を研究している,ニュージーランドのDr. Woodwardも参加されており,彼は自動車での移動から自転車の移動に変えることによって,健康も改善するし温室効果ガスの使用を減らすこともできるというco-benefitについて話されました.
 Fudan Universityは,もともと経済など,文系の大学としては中国有数のレベルといわれていたそうで,最近は,上海医科大学を合併するなど,総合大学としても大きく躍進しようとしているようでした.
 それにしても,数年ぶりに訪れた上海は,また一段と洗練されていることに驚かされました..


平成21年4月15日〜17日 韓国ソウル国立大学にて招待講演
  共同研究を行っている金先生から,ソウル国立大学のSchool of Public Health創立50周年記念式典が行われるので,ついては温暖化の健康影響について講演をしてほしいとの依頼をいただきました.
 これまで研究してきた内容をお話しし,住んでいる気候によって熱ストレスに対するが異なるということなどに興味を持っていただくことができたと思います.


平成21年3月10日〜19日 コペンハーゲンにて地球温暖化と健康に関する国際会議

 オーストラリアのDr. McMichaelから連絡があり,今年末に行われるCOP15(参照http://www.ambtokyo.um.dk/ja/menu/COP15/WhatIsCOP15/)に向けて,健康の領域からも多くの影響評価の発表が必要なので,おまえも発表しろということで,コペンハーゲンに行ってきました.
 ここでは今まで環境省の研究費(S-4)で行ってきた研究の成果を発表したのですが,それ以外に,世界保健機関(WHO)が再度全球における気候変動の疾病負荷推定を行うことになったので,その第1回打ち合わせも行われました.私の研究は熱波などの熱ストレスの影響ですから,その点について協力しろということのようです.
 帰国便が夕方だったので,最終日は午前中にチボリ公園のそばから有名な人魚姫の像まで歩いてきました.ここで冷たい風に当たったのが悪かったのか,帰国便の席のそばにインフルエンザの人がいたのか,帰ってから数日寝込んでしまいました.


平成21年2月14日〜20日 ウランバートルにて温暖化研究能力開発
 WHOの主導で、先進国以外での温暖化の健康影響研究を支援することになり、今回はモンゴル、サモア、カンボジアを対象にプロジェクトが動くことになりました。サモア、カンボジアはニュージーランドのDr. Woodwardを中心としたグループとオーストラリアのDr. McMichaelを中心としたグループが担当し、モンゴルを韓国のDr. Hongを中心としたグループが担当することになりました。私は疫学の基礎的な講義と疫学研究についてのアドバイスをするということで参加しています。
 日本からは毎日便があるわけではないので、今日、14日に一人だけウランバートルに来ました。こちらの厚生省の方が出迎えに来てくださっていて、ホテルまで車で送って下さいました。
 15日、韓国からDrs. Hong and Ceongが来られ、夕方に食事を兼ねて少し打合せをしました。
 16日、現地のWHOメンバー、厚生省、公衆衛生研究所などの方々と打合せをしました。死亡データ、感染症流行データなど、きちんと取られており、気象データも購入の必要はあるものの、整備されているとのことで、ポテンシャルとしては高い状態にあると考えられました。ただ、大気汚染のデータはそれほどそろっていないし、最近よく研究されているPM10, PM2.5はやっと最近計測が始まったそうです。大気汚染レベルは、温暖化とともに上昇すると考えられているため、また気温と死亡の関連を評価する時に制御する交絡因子となるために情報収集の必要があります。
 17日、今日から講義が始まります。



平成20年10月6日〜8日 MadridにてWHOの会議
 温暖化関連の書籍をWHOが出版するにあたり,内容について専門的な見地からの査読意見を述べる会議に招待されました.
 実は,会議が始まるのは6日午前9:00ですが,台湾での講演に出席すると,相当なリスクを覚悟しないと間に合わないことが判明し,遅刻することを黙認してもらいました.マドリードに午前9:15到着の便で向かいました.到着がやや遅れて,9:30に着陸.機内アナウンスではなんと現地の気温は4度とのこと.昨日までいた台湾は30度近かったはずなので,大きな違いです.あわてて厚手の上着を出したり,外には出たものの,入国審査をしていないことに気づいて引き返して空港の係に聞いてみたりしました.考えてみれば,パリ経由で着たので,EU域内は日本で言えば国内線にあたるわけで,入国手続きはないようです.域内の到着ロビーと言うことで,タクシーに乗るのに両替してくれる銀行も遠くまで行かなくてはならず,更に遅くなってしまいました.
 しかし,会場の厚生消費者問題省(Ministry of Health and Consumer Affairs)は空港からほど近く,30分もしないで到着したので,最初のキーノートスピーカーで,以前筑波大学でも講演していただいたDr. McMichaelの講演が終了する前に到着し,WHO, 公衆衛生・環境保健部長Dr. Neira,スペイン厚生消費者問題省大臣Dr.Escomsの開会宣言も聞くことができました.このときのみ,地元のメディアが一斉に写真を撮ったりビデオを回したりしていました.
 コーヒーブレークで,旧知の人たち,Dr. Kovats (London School of Hygiene and Tropical Medicine)やDr. McGregor (University of Auckland, New Zealand),Dr. Hong (Seoul National University)らに会って少し話をした後,全体会合,作業部会別の会議を行いました.
 いつもWHOの会議で思うのですが,喋りたい人が多く,議論が拡散してしまいます.今回も,原稿についての改訂をどうするかを話すはずだと考えていたのに,そもそも論がでたり,ちょっとその議論はあまりにも素人的ではないか,という議論も出たりして,それでも専門家が丁寧に答えて進めていきます.最終的に,議長と書記がまとめるのですが,この書記作業はWHOの職員の能力が高いことを示してくれます.作業部会の報告を,簡潔なリストにまとめて,全体会合で発表していました.
 私も高い運賃を払ってもらって参加しているので,本来は議論に参加すべきですが,上記のような状況ではなかなか発言の機会がありませんでした.一応,事前に意見を2回に分けて送ってありますし,こちらでも気づいた点のメモを渡したので,まあ責任は果たしていると思います.
 二日目には,Dr. Ebi(やはりIPCC第4次報告書のlead author)とも話をすることができ,Springerから発行する地球温暖化への適応に関する本の打ち合わせをしました.私の原稿が最終的に残るかどうかは不明ですが,Dr. Ebiは日本の状況も含めたいと考えてくださっています.
 余談ですが,昼食は厚生消費者問題省の地下食堂でとりました.日本では考えられませんが,ワインが置いてありました.



平成20年10月4日 台湾で招待講演
 共同研究をしている台湾の研究者から,温暖化の影響に関する会合に招待されました.
 キーノートスピーカーとして,IPCCのlead authors,Dr. Pim Martensと私の二人が講演しました.私の講演では,世界レベルでの話に続き,日本での研究,台湾との最新の研究成果を発表し,そこから浮かび上がった将来予測の問題点について話しました.Dr. Martensは,いくつかの例を挙げながら,sustainable(持続可能)という点から話をされました.



平成20年10月2日 外務省のASEMセミナーで講演
 WHOの小川先生を通じて依頼され,ASEM(アジア欧州会合)による温暖化関連のセミナーで,健康関連の活動について講演してきました.
 久しぶりに東京大学の沖先生ともお会いでき,少し話をしました.彼は水の専門家で,IPCC第2作業部会にlead authors/convening lead authorsとして参加した日本人5人の一人(茨城大三村先生,環境研究所原沢先生,高橋先生,沖先生と私)で作業部会の度に夕食で楽しく議論したのを懐かしく思い出しました.



平成20年9月17日〜19日 マレーシアで招待公演
 The Asia Pacific Health Ministers' Conference on Climate Change and Healthがクアラルンプールで開かれました.私も招待され,Climate Change Impact on Human Mortality in Asiaというタイトルで公演を行いました.
 キリバスの政府代表から,「地球温暖化の影響でこれこれしかじかのことが明らかになった,これから更にこういうことを研究しなければならない,ということはわかりますが,島嶼諸国が非常に危機的な状況が明らかになっているのに,いつそのための対策を実際に起こすのですか?」というコメントが出されました.温暖化が起こっていること,その主要な原因が人為起源の温暖化ガスであることを明らかにしたことは重要ですが,同時に緊急に対応を取らなくてはいけないことは既にアクションを起こさなくてはならない,ということを教えられました.この会議には日本の大使館からも参加されていましたので,日本もそれなりの貢献をすることを考えて下さると思います.
 丁度よい機会だったので,上記10月2日の外務省での講演について,WHO WPRO(世界保健機関西太平洋地域事務局)の小川先生との打ち合わせもおこない,WHOが進めているAsia-Pacificの共同研究体制について紹介し,その一貫として,環境省のプロジェクトの拡大が進んだことを示すことにしました.



平成20年6月21日 Dr.Tony McMichael講演@筑波大学

 下にも書きましたが,国際環境疫学会の現会長,Dr. McMichaelに地球温暖化の健康影響研究の現状について講演をしていただきました.副学長のお考えで,つくば市ならば英語での講演でOKとのことで,英語での発表でしたが,慣れていらっしゃるので,日本人にもわかるよう,ゆっくりと,またあまり難しい単語を使わないようにお話し下さいました.何人かの大学院生にも,わかりやすかったと好評でした.
 この講演に先立ち,環境研究所の肱岡・高橋両主任研究員を交えて研究に関する話し合いを持ちました.日本の現状を理解していただくことができ,非常に有意義でした.

平成20年6月16日〜19日 WHO WPRO (Western Pacific Resion Office)にて
 Climate Change and Health in the Western Pacific

 温暖化の影響に限らず、途上国での環境問題の影響は、インフラが脆弱であることで被害が大きくなります。
 この会議は、WHO主導で、西太平洋地域の国々の保健インフラ(の一部)を強化しようとするもので、temporary advisorとして参加を要請されたものです。
 ここで、温暖化の健康影響研究の第一人者、Dr. McMichaelにもお会いできるので、こちらとしてもいろいろと学べるのではないかと期待しています。
 この後、金曜日、20日には彼に筑波大学で講演をしていただき、来週からは洞爺湖サミットに向けた日本学術会議の温暖化などの地球環境問題に関する専門家会議および一般向けのシンポジウムに出席するというあわただしい日程です。
 これが終われば一段落で、大学の推薦入試はあるものの、夏休みで、たまっている仕事をこなし、充電をする期間にはいります。何とかnatural cubic splineを用いた死亡リスクの影響予測を完成させたいと思っています。

平成19年10月 IPCCがノーベル賞を受賞しました

 本年度のノーベル平和賞をIPCCとアメリカ元副大統領,ゴア氏が受賞しました.EUは地球温暖化問題の解決に非常に熱心で,アメリカの態度に危機感を持っていたことも一つの理由かも知れません.
 IPCCの議長は報告書執筆者の我々にも書簡を送って下さり,一人一人が受賞者だと述べておられます.
 とはいえ,IPCCに携わっている者として,このことに浮かれている場合ではなく,一層の努力と精進によって世界が直面している問題の解決に今まで以上の貢献をしなくてはなりません.

 



平成18年1月16日〜20日 IPCC Working Group II meeting
             @Merida, Mexico

 昨夏完成の第一次原稿を元に,今回は専門家による査読を受け,それに対する対応を検討している.
 我々,第10章,アジアには,ワード文書で91ページ,実に900弱のコメントをいただいた.もちろん,複数の方からのコメントなので重複はあるが,やはりすさまじい量には違いない.これらすべてに回答して,第二次原稿を4月21日までに提出しなければならない.
 幸い,今回は,すべてのメンバーが出席しているので,とにかくこの期間中に何をやるかを決定することが必要だし,可能だと思われる.それからまた執筆に忙しい日々が続きそうである.

 会議は毎日9:00(あるいは8:30)から17:30まで,食事とコーヒーブレークを挟んで続けられ,場合によってはその後に個別のミーティングを開くので,そうとうタフである.しかも,ネイティブは早口で喋るし,そうでない人は訳のわからないことを喋るし(人のことを言えた義理でもないが・・),考えを整理するのは日本人のみのミーティングよりも相当大変である.

平成17年7月18日〜20日 IPCC Asia Chapter meeting
             @国立環境研究所

 IPCC(Intergovernmental Panel for Climate Change=気候変動に関する政府間パネル)の報告書を執筆する著者は,現在までにウィーン(オーストリア),ケアンズ(オーストラリア)で2回の会合を開き,0次原稿の改訂についての話し合いをしてきた.
 8月15日までに1次原稿を提出しなければならないのだが,アジアは広く,話し合いがもう少し必要と言うことで,わが国でアジアの章のみ著者が集まって会合を開くことになった.
 Coordinating Lead Authorsは,フィジー (元々はインド)のDr. Lal, フィリピンのDr. Cruz, 中国のDr. Wu, そして日本の原沢先生.この4人が原稿をまとめる.それ以外のLead Authorとしては,イランのDr. Jafari, ロシアのDr. Anokhin, ベトナムのDr. Ninh, 中国のDr. Li, そして私の5人.モンゴルのDr. Batimaは参加できなかった.
 この会合で,今までほとんど手つかずだったcase studiesや,key constraints,などについて,ある程度原稿を仕上げ,報告に用いる文献を完璧に集めることになる.

IPCCとは? (財)地球・人間環境フォーラム


厚生労働省多目的コホート研究

平成18年1月17日
 現在,時期別の解析が可能なように人年を計算するプログラムを開発中(予定といった方が正しい).しばらく大学の行事などで運営会議にも出席できていないので,何とか次回,来月の下旬までには研究計画書を書き上げ,それなりに貢献したい.

平成17年??月??日
 班長協力者として,このコホートの対象者に関する,環境要因の関与について研究している.この研究班では,査読者付きの学術雑誌に掲載されて初めて(査読者なしの雑誌しか掲載できないような内容の研究はしない!!)内容をオープンにするので,それまでは何がわかったか秘密.

その他

平成18年4月4日
 少し前だが,以前関わっていた送電線からの電磁場と小児白血病の関連に関する論文がInternational Journal of Cancerに掲載された(現在は電子版).
 研究遂行時にも会議には出席していたが,解析担当として,主に仕事をしたのは研究終了後.送電線から強い電磁場を浴びている小児の数が少なく,論文の解析では苦労したが,その分,追加の解析など,疫学関係者には興味深い内容になったと思われる.国立がんセンターの山本精一郎先生との共同作業であったが,苦しくも楽しい体験であった.