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 平成16年12月1日号より

watn特集タイトル
< 穴守稲荷神社と横山煎餅本舗 >
品川駅から海沿いに湘南方面へ走る京急(京浜急行)。その京急蒲田から羽田へ向かう京急羽田線。現在は羽田空港まで乗り入れしていますが、私が大田区に住んでいた20年前には寸前の「京急穴守稲荷駅」が終点。羽田空港まで行くときはそこからバスに乗り換えて行きました。
画面2 その「京急穴森稲荷駅」を降り環状八号線に向かい1分ほど歩くと「穴守稲荷神社」があります。この穴守稲荷神社はその略記によると「文化元年(西暦1904年)のころ鈴木新田(現在の空港内)開墾の際、沿岸の堤防が侵食され壊れた。ある時期堤防の腹部に大穴が開きここから海水が入ってきてしまう寸前。その時村人が決壊を防ぐ為に稲荷大神(いなりおおかみ)を祭った。そのご加護があって決壊を免れた。そもそも稲荷大神は衣食住を守る大神であった。」つまりこの地域の守り神を祭った神社なのです。しかし昭和28年8月の終戦でアメリカ軍が羽田空港を拡張すると言う要請でその地域全部になんと48時間以内に強制撤去を命令され現在の羽田5-2に移転したのです。
画面3 その穴守稲荷神社の参道で煎餅を販売したのが横山煎餅本舗の始まりでした。初代のおかみさんがお団子を平たくして焼き、煎餅を作ったとのことです。その時期、江戸時代末期。参道沿いに300坪の敷地に店と住まいがありましたがその強制撤去で持ち出せたのは最小限の道具だけでした。そして穴守稲荷神社の東側に現在のお店を構えたのでした。大変な時期も乗り越えたその味を引継いでいる5代目横山宜幸(よこやまよしゆき)さんを訪ねました。
実は先代の教えで宣伝はしない。取材もおことわりという事でしたが、月刊:WATNの読者の声もあり「チョコの箱クイズ」の送料スポンサーになっていただいている関係で電話番号はお知らせしないという事で今回取材させていただきました。
< 素材が味の命、煎餅の元を作る >

画面4 私たちがよく手にする草加煎餅などは厚さが5mm程度あってパリッとしてますが、横山煎餅のそれはバキバキという表現。厚さも2mm程度。実はお米が違うということでした。ふっくら煎餅はもち米を使用しているそうです。そしてその工程で塩を入れて味を整えています。横山せんべいは「うるち米」。そして工程で塩など一切入れないうるち米の味が命だということです。作り方に何か取材できない秘密があるのだろうと思っていましたが[うるち米を粉にする]→[こねる]→[ふかす]→[つく]→[こねる]→[型に取る]→[乾燥]と「普通だよ。」と江戸っ子のご主人。しかし四季に応じてその具合を調整する職人芸は言うまでもありません。

画面5 仕事の道具はその店の宝。取材に応じていただいても「写真はご勘弁」が多いのですが、ご主人いわく「普通の物だからいいよ」と快くご承諾してくれました。
上の写真の桶は直径やく50cm。ここにうるち米の粉を入れお湯を入れて合わせていくのです。ちょうどそば作りのそれのようにこねていくわけです。そして左の写真のふかし器。中華屋さんで見るような、昔肉まんを店頭で販売しているのと同じような。その後、餅つきのようにそれをついていきます。そして再度こねてから型をとり乾燥します。煎餅の元ができるまで丸二日間かかると聞いてあの味を納得しました。


画面4
できあがったお煎餅の元。なにも添加物が入っていないうるち米の色です。そしてこの形は「宝珠」を型取った物なのです。「宝珠」とは穴守稲荷神社の中にもあるめでたい物。ひとつひとつ御利益のありそうなお煎餅ですね。





< 煎餅を焼く、そして醤油を塗る >

画面1 乾燥してできあがったお煎餅の元を焼くのですが、ここに横山煎餅本舗のこだわりがありました。炭です。炭の火力の勢いが煎餅の味に大きくかかわるらしいのです。ご主人がこだわっている炭は紀州の馬目半丸という名の備長炭。密度が高くその火力が強い。これがあのバリバリを作る秘訣でしょうか。段ボールに入っているそれは長さがやく20〜30cmもあり持ってみるとずっしり重かったです。それを金づちで割り10cm程度にして使用します。
画面2 幅約60cm奥行き約40cmの四角い火鉢に火を入れます。そしてこだわりの備長炭を乗せて準備です。炭の加減ですのでなるべく均等にするのですがこれもまた大変な作業ですね。
四隅に置かれた備長炭は乗せる網をちょっと高くしてその火力を調整しているようです。このとき撮影している私にもこの距離でその熱さが伝わってきました。冬はいいですが夏にはとっても辛いお仕事だと思いました。

画面3 さあ、網を乗せていよいよ焼きます。左手にあるお煎餅の元を手際よく横に5枚、縦に4枚、計20枚を乗せます。そして焼き加減を見て(実際には職人さんの感覚で)裏返します。このとき驚いたのは手袋はしていますが道具は使いません。熱くはないのですか?との愚問に「熱いですよ」と奥さん。1枚1枚裏返すわけですから大変な作業です。当然、網の場所によって火力も違うので位置を変えたりその速さには二度びっくりしました。
画面2 焼き上がったお煎餅に味付けです。これも1枚1枚ご主人が手に持って10cm程のサイズのハケで醤油を塗っていきます。表裏をササッと、その速さも驚きでした。この塗りの作業は一見簡単そうに見えるのですが、ムラがあると味が濃かったり薄かったりしてしまいます。焼きの作業の時にも焦げや割れたりしたお煎餅は跳ねていきますが、この塗りの時にご主人が最終的にお店に出せない物は跳ねます。(と言ってもちょっと角が焦げている程度なのに。。。商品に対するこだわりを感じました。)
画面3 さあ完成です。「これどうぞ」とうれしいご主人の言葉で頂いた出来立てのお煎餅。お〜〜、熱々です。そしてまだ醤油も乾いていない。いままで体験したことがない事です。遠慮なく頂きました。パリン。一口。おいしい〜。そして出来立ては違うなあと感動していると「これも食べて」ともう1枚。「ちょっと今のと違うでしょ」とご主人。パリッ。お!確かに味が微妙ですが違います。ご主人いわく「1枚1枚焼いて塗りだから1枚1枚味が違う。こういうのって楽しみがあっていいでしょ。工場で作られるお菓子は味が一定でおもしろくない。」たしかに頂く時の楽しみってうれしいですね。
目の前で1枚1枚焼き販売する横山煎餅本舗は残念ながら地方発送はしていません。1日にできる量も限られていますので売り切れも。。と言うより予約順にお渡ししているのでこの日も開店時から売り切れ。取材中にも初老の男性が横須賀から買いにきましたが残念でした。
今回の無理な取材のお願いに笑顔でご協力いただいたご主人をはじめ奥様、お店の職人さんには心より感謝いたします。そして帰りに出来立てのお土産もいただきました。本当にありがとうございました。

横山せんべい本舗
東京都大田区羽田4丁目22番10号
営業時間は10:30〜19:00(土日祭休み)


 
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渡辺よしお (watnjp@yahoo.co.jp)