usagi

それはY崎氏の一言から始まった。

その日は終始泣き出しそうな空の元、寒い寒いツーリングだった。
翌日の新聞で、ツーリングをしたあの界隈で霜が降りたと書いてあったくらいの寒さの中、一通り林道も終わりY崎氏が「この後ホテルまで、寒いですけどオンで行けば2時間くらい。オフだったら1時間くらいで、すごいコースですけど暖かいです。どちらのコースで行きますか?」と聞かれたのですがその一言が私のツーリング人生で一番最悪の日になるとは・・・。
確かに背丈より高くて道も見えないほどの笹ヤブとか半壊林道、ヌタヌタの林道とかいろいろありましたが、その最後の最後にあんな川があるとは・・。
疲労もかなり蓄積され、体力も消耗して、さらに寒さが追い打ちをかけているところに出現したあの川を見たとき私は頭の中が真っ白になりました。
メンバーをそっと見てみると全員一言も言葉を発することなくただ呆然と川を見つめていました。
多分私と同じ状態だったのではなかったでしょうか。

その日がもっと暖かく、川の水も温く、水流も緩やかで且つ少なければこの川の幅もそんなに気にせず渡れると思います。
どう歩き回って様子をみてもそんな期待を裏切るような川でした。

人は必ず苦手なものがあると思いますが私は”生きた鳥”と”水”が怖いのです。
理屈ではありません。
でもこのまま引き返しても体力に自信がないし、ましてやY崎氏に聞いても「引き返してもホテルに着くのが夜12時頃、川を渡れば30分」と言われればどうやっても川こぎをせざるを得なかったのですが決心がつきません。

そうこうしているとY崎氏が突然バイクを始動させて、「僕、行きます」とバイクに乗って川を渡り始めました。
そのときのY崎氏の顔はいつもの柔和な顔から、今まで見たことのない一番厳しい顔をしていました。
旭川勢のお二人はすでに川に膝上まで浸かり待機していましたが、私は自分が水が怖いので他の人まで水が怖いと思いこんでしまい、このままではY崎氏が危ないぞと私の身体が勝手に反応して一緒に川に入ってしまいました。
無事Y崎氏が渡りきったとき本当に安堵しました。
私はと言えば川から上がるとブーツの中で足が水の冷たさで痛くなっていました。
さらに水流に恐怖を覚えました。
情けない奴と言われてもなんと言っても私は”水”怖いのですから。

しかし旭川勢には頭が下がります。
どうしてあそこまで献身的なんだろう。
いくらサポート役を仰せつかったにせよ、もし逆の立場だったらあそこまでできる自信がありません。
敬服します。
他の10台を渡すときもずっと水に浸かって引っ張ってくれたのですから。

その後バイクでホテルに向かっている間、早く到着することだけ考えていました。
着いてからたくらんけ氏に「今までのツーリングの中で今日のはどのくらい?」と尋ねたら「過去最低」と行ってました。

今思えば確かに私にとっては辛いことでしたが、ただ人によっての感覚が違いますから、(あくまで私にとって辛いことであっても)このくらいは過去何度か経験済みの人にとってそれほどでもないようで、現にY崎氏も以外とケロッとしていました。
私だったら毎回こんなツーリングだったらオフロードツーリングから足洗いますけど・・。

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