【ライダーズハイ】                   事務長

それは9台のバイクが林道を走り終わり、道の分岐点近くで小休止をしている時だった。
それぞれに、今走ってきた林道のことやバイクのこと、ライディングのことなどを話していたのだが、
「あはは・・・あはは・・・あはは・・・」一人の若い男が唐突に笑い出した。
誰が冗談を言った訳でもなく、誰に向かってでもない笑いだった。
表情は弛緩し、目は中空を泳いでいる。
すべてのストレスから解放され、至福の時間を楽しんでいる表情だ。
多分彼の脳内にはベータエンドルフィンが大量に分泌されているに違いない。
若い男、新人の
○津さんがライダーズハイを経験した瞬間だった・・・。

・・・今年初めてのツーリングは晴天に恵まれ、参加者も9名となかなかでした。
ロイホに集まったのは
トヨキさん、○池弟さん、○津さん、ペンギンさん、らいちうさん、そして
トヨキさんは話題のWR250Fで、○池弟さんはリムとスポークを交換し、またらいちうさんは去年しまったモトクロパンツが見つからずやや遅れての集合でした。
予定通り集合時間の30分後にロイホを出発。
らいちうさんのセローとトヨキさんのエンデューロタイヤに合わせて、高速を100プラスマイナスαキロで巡航しました。
方向音痴については俺にかなう奴はいないと普段から自負している私が先頭を走っていたのですが、案の定、高速の出口を逆走したり国道を反対方向に走ったりして、予定時間の30分くらい前に岩見沢の「例の」スタンドに着きました。
待っていたのは新人の
なるさん。
いかにも「私、善人でーす」といった笑顔が素敵です。
その後、集合時間前に到着していた我々のことが信じられないといった表情の
セローYさん、エンデューロタイヤを履いて「100キロ以上では走れない」となぜか嬉しそうなK島さんが次々に集合。
いつものことながら
セローYさんの偵察活動は精緻を極め、ルートごとに色分けされた業務用五万分の一地図を広げての軍議となりました。
北から南下を目論む北○○の上陸部隊および発情期を迎えているヒグマとの遭遇を警戒しつつ、今回はいつもとルートを変えて○ケ森から進入し遠回りして側面から○渡に突入し、間髪入れず○の沢を制圧、その後戦況を見つつ○唄方面へ侵攻すべし、という
セローYさんの作戦は説得力に満ち、もとより主体性の強くない長老会からも異論は出ませんでした。

初めて入った○ケ森からのルートは草深くアップダウンもあって、脳裏にはピューケナイ沢死の彷徨の記憶が蘇ります。
しかし入ってしまった以上抜けるしかない、我が部隊に後退は許されていないのだと、先頭を行く
セローYさんのハイペースが語っていました。
幸い恐れていたような藪こぎや崩落や川渡りもなかったけれど、くねくねとしたタイトコーナーと見通しの悪さと、無事に済まないのではないかという疑心暗鬼ですっかり体が固くなった頃、○渡に到着しました。
この林道に入ってすぐの頃、登りの左コーナーを越えたところに地面が削られた溝があり、
○津さんが転倒しましたが、あんなの転倒のうちに入りません。
これから先もっともっといろんなアクシデントやトラブルを経験し、更には宴会での耳を疑うような会話を経験することになるでしょう。
そうしてだんだん林道に馴染み、自分をさらけ出す楽しさに馴染み、危ないおじさん達や妖しいお姉さん達に馴染み、いつしかこの世界から抜けられなくなって行くのですよ。

○渡からはいよいよいつもの林道です。
○の沢の登りはヌタってもおらずバンバンでもなく、埃も立たないというベストコンディション。
下りの路面も縦溝がなくなっており、ところどころコーナー付近に濡れたところや水たまりはあったものの、○沢まで全体に走りやすい路面が続きました。
先頭グループでは
K島さんとWR250FのセローYさんとの間にバトルが展開された、かどうか見ていないのでわかりませんが、「タイヤ効くわー」と喜ぶK島さんと、言葉少なに悔しがるセローYさんでした。
○池弟さんの後ろを走ったのですが、○池弟さんのペースは時間とともに上がり始め、最後はついていけなくなりました。
もともとライディングはスムーズな人なのですが、しばらく大人しかったような気がします。
今回はリムとスポークを交換しての参加でしたので、気分が乗っていたのかな。
の後ろにはペンギンさんと○津さんが走っていましたが、○池弟さんに置いて行かれた後考え事などしながら走っていたら、すぐ後ろに二人が迫っており、あわててペースを上げましたが走りはバラバラになってしまいました。
二人は止まるたびにライディングについて質疑応答しているようでした。
なるさんはマイペース、と思っていたのですが、BBSには必死だったとの書き込みをしています。
そうかなあ、余裕ありそうな雰囲気でニコニコしてませんでしたか。
○沢のレストランで自分のオーダーが忘れられていた時に、余裕がなくなっていたのは間違いありませんが。
らいちうさんは体の力を抜くことができなかったのか、徐々に疲れてきていたようです。
でも本人が感じていたほど悪いペースではなく、
トヨキさんいわく「ライディングがスムーズだ」ということでした。
トヨキさんは最後尾を務めてくれました。
初乗りのWR250Fなので今回は大暴れするのかと思っていましたが、自重しているのか
らいちうさんのサポートに徹したのか、よくわかりません。
いずれにせよ、鬼に金棒状態のこの人がこのまま大人しくしているはずはなく、「一機撃墜、二機撃墜」の走りが蘇る日が遠くないと思われます。
そうはならなくても、タイヤの跡が直角に残るあの伝説のコーナリングはもう一度見たいものです。

○沢のレストランで昼食の後、戦況我に有利との判断により○沢から○唄に抜けるというルートに入りました。
ここがまた良かった!
路面は、ところどころだけれど昔の○の沢のようなレンガ色の土で、アンツーカーのような感じ。
まず滅多にスリップなんかしなさそうです。
昔11月近くでも林道を走っていた頃、○の沢のアンツーカー路面に枯れ葉が敷き詰められた様子はとてもきれいで、前を行くバイクが高く舞い上げた枯れ葉が太陽にきらきらと光ったりすると、まるで映画のようだったことを思い出しました。
この林道では全体のペースがゆったり目に変わり、私としてもお気楽ライディングで気持ち良く走れました。
でも後で聞いたところ、
らいちうさんがフロントを溝に落として前方転回したとのこと。
幸い背負っていたリュックがダメージから救ってくれたそうです。
無事で何よりでした。

走り終わると、
○津さんが「下りの後のコーナーはどうやって曲がるんですか?」と訊いてきました。
うーん、教えてやらない。
じゃなくて、
が思いだしたのは、昔ビートたけしがたけし軍団と一緒にやっていた日曜日のテレビでした。
お色気ねえちゃんというキャラクターでレギュラーだった飯島直子が、何か難しいクイズを出されて一言こう言ったのです。
「えー?、ワタシに訊かれてもー」
・・・教えるようなテクニックなどなーんもない
でした。
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