-序章-
有史以来、人間とネズミの闘いは長きに渡って繰り返されて とある大学院の作物研究室に所属するRunaは、ここ数日 憂鬱であった。彼女は研究のためにイネを栽培しており、つい 一週間前に種籾を播いて苗を育て始めたところだった。しかも 苗の生育は順調であり、何も心配する事などないように感じら れた。そう、彼女が自分の運命を知る、「あの日」までは。 何の前触れもなく、突如として現われた敵。それは忌むべき 「ネズミ一族」であった。ある穏やかな夜、彼らはまるで煙のよう に温室に染み込んできたかと思うと、猛然とひ弱な獲物たちに 躍りかかり殺戮の宴をほしいままにした。コンテナに播種され、 やっと小さな葉身を伸ばし始めたイネの乳苗達。彼らは己の身 を守る事もかなわず、ましてや武器をとって反撃に出る事も出 来ず、ただ侵略者になされるがままになるしかなかった。 おぞましい一夜が明け、日の光が穏やかに差し込む温室。 そこにRunaは一人、ただ呆然とたたずんでいた。その足下には 彼女が丹精込めて育てていたイネの子供達が、無数に折り重 なって倒れていた。その数は数百を数え、むごい事に、全員 はかったように籾を食い散らかされていた。 出芽して身が柔らかくなった籾(玄米)を、ネズミ一族は好んで 餌にする。しかし、未だ自力で光合成が出来ない稚苗にとって、 唯一の栄養源である籾を失う事は死を意味する。床に散る苗。 彼らが生きながらえることは、もはや不可能であった。 |
-決 意- 「哀れなるかな、我が子達よ。・・・許せ・・・。」 Runaは呟き、静かに首肯した。彼女とて、ネズミ一族の襲撃 を全く予想していなかったわけではなかった。予測したうえで、 一応の防壁を築いてはいたのだ。それが今回は全く役にたた ず、尊い生命が無下に散ってしまった。 「奴らとて、無能者の集団ではない。事あるに備え、万全の 機略をねっていたという事か・・・」 敵の破壊力に関心しながらも、彼女は自らを恥じるしかなか った。ネズミ一族など、毎年同じ策によって撃退しうる、たわい ない連中だとタカをくくっていたのである。その結果はどうか。 策は易々と突破され、将来大きな実りをもたらしたであろう数多 の幼子達が、彼らの手にかかって果てたのである。 無数の屍を葬り、生き残った幼苗達を安全地帯に避難させた Runaは、深いため息を一つついた。そして、やおらきっ、と紺碧 の空を見上げると、憎いほど強烈な光線を放つ太陽を見据え、 ネズミ一族への復讐戦を固くその胸に誓ったのである。 「さて奴らを捕らえるとして、一体どのような策を用いるべきか。」 熱意だけでは結果は出ない。効率的に奴らを捕獲するため には、より具体的で、しかも成功の確率が高い手を考える必要 があった。 また、攻め入る事ばかりを考えてもいられない。一度略奪の 美酒を味わったものは、その味を忘れる事は出来ない。いずれ 近い内に再び姿を現し、これまで以上の残虐の限りを尽くさん と欲するだろう。 まずは、自らの陣営に対して手を尽くすべきだ。 Runaは、はやる心を抑え陣営の防御力強化に意を用いた。 討って出るのは、その算段がたった後にすべきだ。彼女は自ら にそう言い聞かせ、仕事に励んだ。 |
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