3月の思い出
3月・・・、それは、おひな祭り。
女の子2人姉妹で育った私には、小さい頃は、特別な日だった。
自営業で文具屋を営んでいた両親は、日曜日しか休みはなく、
毎日忙しい日々を過ごしていた。
でも、この日ばかりは、いつもと違っている。
必ず・・・と言っていいほど、私に聞いてくれる。
「今夜は何にしよう?」って・・・。
私の答えも、必ず決まっている。
「まき寿司作って!!」
おひな祭りは、『ちらし寿司』を作る家庭が多い中、我が家は違ってた。
なぜか、『まき寿司』・・・
学校から、ウキウキして帰って来ると、食卓机(まだテーブルではなかった)の上に、
ところ狭しと並んでる、『まき寿司』の材料。
傍らでは、早くからせっせと働いている母。
商売と妻と母・・・二足のワラジならぬ三足のワラジを履いて、いつもがんばっている。
そんな母に、『まき寿司』はかなりの重荷だったろうと思う。
でも、小さかった私には、そこまで思いやる気持ちがなかった。
大きくなってからも、この注文はかわる事はなかったが・・・。
今にして思えば、ずいぶんムリな事を言ったに違いないのに、母は嫌な顔をしなかった。
海苔を広げる母。
その上にすし飯を置き、具を並べる私。
形を整えて、上手に巻く母。
・・・いつも、順番は決まってた。
「私も母親になったら、こうやって娘といっしょに作ろう」。
当然のように思っていたけれど・・・。
でも、我が家には女の子はいない。
毎年のおひな祭りには、自分の為に・・・と、
1年の行事の節目・・・を兼ねて『ちらし寿司』を作る。
そして、毎年5月の子供の日には、母から教わった『まき寿司』を作る。
子供の頃の私がしたように、息子は『まき寿司』の具を、ごっつい手で器用に並べる。
同じように、同じように・・・。
子供の時を思い出す、お袋の味。
私はおひな祭りの『まき寿司』。
今年は、母も呼んでいっしょにいただこう、あの時の味を・・・・・