建物と文化と健康

古来より日本は滅びの美学と云うことが云われてきました。 
だんだん古くなる物に良さや価値を見いだしたり、郷愁を感じたりと、日本人のわびさびの文化を築いてきましたが、いつの頃からか西洋の明るくて快適な建物の影響を受け、日本建築と西洋建築が融合した新しい形の建物が建てられるようになり、今では日本古来の洋式をとどめてる建物は、神社や寺な どの一部の建物でしか見ることが出来ません。 このように西洋の建物は日本建築に大きな影響を与えました。 一つの例として、元々日本にはなかったペンキという材料が 輸入され、建物の造りが大きく変化しました。ペンキは建物のあらゆる部分に利用され、建物とペンキは切っても切れない関係となりました。 西洋の映画やディズニーのアニメなどで、壁や塀のペンキを塗り替えるシーンなどをよく見ますが、日本映画でペンキを塗り替えてるシーン等というのは余り見たことがありません。西洋はペンキは塗り替えるという習慣がありますが、日本では余りそのような習慣がありません。 残念なことに、ペンキという材料は輸入されましたが、その文化が輸入されませんでした。いえ、輸入されたのかも知れませんが、その習慣は日本に根付くことがなかったのです。ペンキという材料だけが日本の建物に影響を与える事になってしまいました。 

このような建物の進化や日本人の習慣に応じて、安価で高耐久の新建材がどんどん開発され、建物の中で自然ものは次第に少なくなり、人工的なな材料が多く利用されるようになってきました。そして今、「室内環境汚染」という問題が新たに浮上してきました。 新築の家屋の室内に揮発する、ホルムアルデヒド、トルエン、キシレン、防腐剤、防かび剤、防蟻剤などによる「シックハウス症候群」「環境ホルモンおよび化学物質過敏症」などです。 これらの問題は深刻です。人体に悪影響があるような建物は快適な建物とはけして言えません。しかし、人体に悪いからと新建材を一切使わないとなると、現建材のほとんどが使えなくなってしまいます。 壁などを本物の木板で仕上げれば、自然の材料を用いた健康的な建物になるかも知れませんが、建築費は格段に高くなってしまいますし、多くの樹木が建材用に伐採され、森林破壊などの環境問題も新たに浮上してきます。いえいえ、けして森林破壊を防ぐために人間が我慢をしなさいと云うのではありません。当然改善されるべき問題です。しかし、今すぐに改善できないと云う問題を抱えていることも確かです。 

昨今の住宅の売り出しのうたい文句に「高気密・高断熱住宅」と言うのがあります。つまり、すきま風はおろか、台風時の水の侵入や湿気の侵入や外部の暑さ寒さも遮断してしまうという建物です。 冬は外の寒さを完全にシャットアウトして、室内は暖房により半袖でも快適に暮らせるという理想的な建物のように思えます。しかし、「高気密・高断熱住宅」というのは大きな落とし穴があることも知っておかなければなりません。気密性の高い部屋でストーブを1日中焚き続ければ、室内の空気は汚染され、また新建材から揮発された有害化学物質が部屋中に充満してしまいます。いくら、有害な建材を排除して、健康的な自然の材料を使っても、締め切ってストーブを焚き続ければ、健康にいいはずがありません。建物が高気密で有ればあるほど、たまには窓を開け放って換気をすることが必要です。 すきま風が入る部屋で、たいした暖房器具もなく、寒ければ1枚重ね着をして寒さをしのいだ、そのような昔の生活が全て時代遅れとは言えない面もあるのではないでしょうか? 

このように、建物と文化と健康は密接な関係なのです。