<<前日まで>>
ミーハーアウトドア雑誌「GarrRV」(ガルヴィ)のウインターミーティングなるイベ ントに参加しようと思ったのは1997年も押し迫った12月27日だった。一度やってみ たかった雪中キャンプである。冬のキャンプは経験があるが、いかんせん人がいな くてとても寂しかった経験がある。それが雪中キャンプともなるとまず一人もいな いだろう。しかも場所は新潟県。豪雪地帯である。「雪だるまをいくつ作ってもい いよ」などと紹介された記事に「いいなぁ」と反応してしまった。少なくともひと りぼっちではあるまい。初めての私でも経験者がまわりにいれば心強い。開催日は1 月の24,25日。正月早々に申し込みを完了し、さあてどんな装備にしたもんだか、 思案の日々が続く。ログハウスづくりのため12月の渋川市小野上村で一度痛い目 に遭っているので防寒対策には万全を期したい。といって用意したものは雪用スコ ップとカミさんの長靴と湯たんぽくらいだった。ただし持ってはいたが寝袋と七輪 を更に余分に姉夫婦から借用した。
<<行きの道中>>
いよいよ当日、キャンプ場のチェックインは12時から。目がさめて時計を見ると6: 18。うーん。首都高速を1時間で抜けて関越に9時に乗れれば12時には新潟に着 くかな。まだボケボケの頭でぼんやり考えながらのそのそ身支度する。この時に米 、パンを持っていくことをまでぼんやりしてて、新潟のコンビニで入手することに なる。いざ出発!首都高でちょこっと渋滞。高島平→谷和原の交差点を経て関越へ 。関越は順調。赤城を過ぎると雪がちらほら。週間天気予報では新潟は大雪。で今 朝の新聞でも大雪。で…トンネルを抜けると、わあお、大雪。いやさぁ、吹雪だ。 横殴りの大雪。気温はー2度。4駆+オールシーズンタイヤでは太刀打ちできず、PA でチェーンを巻く。湯沢、六日町を過ぎると対向車はおろか前にも後ろにも車がい ない。もしかしたらいるのかもしれないが、吹雪で見えない。視界がきかない。最 悪だ。小出ICを降り、神湯温泉へ向かう。開催場所はPICA神湯温泉キャンプ 場である。アクシオンスキー場がすぐ近くにあるらしい。スキーにはよく行く私で も余り聞かないスキー場だ。なにせ奥只見スキー場より奥なのだ。奥只見スキー場 というのは11月からGWまで営業しているスキー場なのだがトップシーズンはあ まりに雪が多くて閉鎖しているという程のところなのだ。
<<キャンプ場は?>>
その神湯温泉を探して、探して、探して…あれ?…迷子になった。この猛吹雪で歩 いている人もいやしない。仕方なく近くの民家に道を尋ねるが、道しるべとなるも のが全て雪に覆い隠されて、何がなんだかさっぱりわからない。話しによるとかな り近いらしい。なにせ晴れていればスキー場はもう見える距離なのだそうだ。まっ しろに煙る白い壁を指さして「あっちの方向だねぇ」といわれても「はあ」としか 言えない。雪かきしているジモPに道を訪ね、やっとこさっとこスキー場が見えて きた。うわ、スキー場には人がたくさんいやがる。この猛吹雪のなか、おまえたち は馬鹿じゃないのか?!(キャンプする奴に言われたかねーや)と仮想会話を楽し みながら、PICA神湯温泉に到着した。時刻は1時を回っていた。
<<設営開始。(イベント1)>>
「こんなコンディションですけど皆さん来られてます?」受付で聞くと「鈴木さん で4組目です」との答え。ちなみに総申込数を聞くと11組だそうだ。40組募集 のところで11組しか申し込みがないっ!開催2週間前の発売号にまだ募集広告が 載っているわけだ。アウトドアブームとは言え、冬、それも雪中キャンプ、しかも この状況では全国誌とはいえ、人は来ないねぇ。いいかえれば全国よりすぐりの「 物好き」が来てることになる。うーむ。サイトの見取り図とカンジキを貸してもら い、サイトを見て回る。と言っても一面雪の原。各サイトらしき箇所には駐車スペ ース(車1台)分の除雪がしてあるだけだ。まずは車でサイト拡張アタックを試み る。(ウオーン、ドカーンッ)はっはっはっ。全然進まないや。さあて、どおすっ かぁ。全身GOREで固め、一歩踏み出すと膝まで潜る。カンジキなしでは歩くことも できない。吹雪は時折激しくなる。まずはセオリー通りテントスペースを踏み固め る。わっせ、わっせ、わっせ、わっせ。3メータ四方を踏み固めた。テントを広げ ようとしてカンジキをはずす、と(ずぼっ)「おわっ」靴ではまだかなり潜ってし まう。またカンジキを履く。広げたテントにみるみる雪が積もっていく。雪を払い 払い、テントを立てる。ペグをクロスして縛り雪に埋め、テントフライからの張り 綱を引く。タープ(食堂フライ)はいつもはヘキサウイングを立てているのだが、 今回はエスクードからカーサイドタープを張a驕Bというとかっこいいがスキーキャ リアに物干し竿をくくりつけそこにオレンジ色のブルーシート(オレンジシートと いうのかな?)を結んで2m四方程の屋根を作った。3時に「宝探し」をやりまー すとアナウンスがあったが、それどころではない。猛吹雪の中、お昼ご飯も食べて いないのだ。にも関わらず、わっせわっせと働いて全く寒さを感じなかった。
<<晩御飯>>
寝床と屋根ができ、風よけも張って一息つけるようになったのは4時を回っていた 。七輪を焚こう。あ…しまった。最近タバコ吸ってなかったもんだからライターを 忘れたっ!うわぁ、不覚。俺としたことが何と情けない忘れ物をしたんだ。自動点 火のストーブとランタンがあるので、全く問題はないんだが、七輪焚くのに回り道 をしなければならない状況に腹が立つ。こういうところで、いらん体力使うんだよ なぁ。にゃろう。七輪を焚くと、ほとんど寒くはなかった。喚起に気を付けないと …といってもこれだけガラ空きなら気にすることもないか。さすがにおなかがすい た。やっぱり寒いところでは鍋に限る。献立はおでん。手間を省きに省き今回はあ っためるだけだ。ご飯もしかり。ストーブもランタンもプレヒートが面倒なのでガ スボンベの方を使う。ほどなくしてコポコポ煮立つ音がする。ふたを開けるとモウ モウと湯気があがり続け、いつまで経っても鍋の中身が見えやしない。まるで闇な べだ。この感触はチクワだな,とか、あ今、卵にかすったみたいだ、でな具合であ る。ご飯はレンジで2分だが、茹でるとなると12分もかかり、挙げ句にまだ冷たい部 分があったりした。ちょっとでも水面より顔をだしているとそこは氷点下の世界だ から仕方がないか。あえなくご飯は雑炊となる。
<<ナイトプログラム。(イベント2)>>
受付でもらった案内には、6時から「夜のお散歩」と書かれていた。まず中止だろう 。風は少しおさまったが降りしきる雪の量は相変わらずのドカ雪で、これでは遭難 である。せっかく来たのだから何かしらのイベントには顔をだそうと思い、集合場 所に行ってみる。管理棟には2家族が先に来ていたて、あとからもう1家族やってき た。4家族12人、小人数のためすっかり顔は覚えてしまった。この極限状態で集 った仲間という妙な連帯感みたいなものがあった。イベントは屋内でのネイチャー ゲームとなった。ようは、動物や自然をテーマにしたゲームである。コウモリ役と 餌になるガ役を決めての鬼ごっことか、きつねの歩く真似をしたりとかいったもの だった。真ん中でゴウゴウとキャンプファイヤを起こし、踊り狂う宗教団体のよう なものの方が景気はいいだろうが、みんな引くだろうなぁ。
<<近くの温泉>>
さてさて寒い時には温泉に限る!ここ神湯温泉に入り放題というのも今回のウリで あった。しかし何と営業時間があって20:30で終了、翌10:00から再開だと?!うー む、「凍えたら温泉につかればいいや作戦」は、あえなく崩れ去る。まあいいや。 とにかくあったまろう。お風呂セットを抱えた「八甲田山並み重装備夫婦」は神湯 温泉に向かって行軍を開始した。歩くこと2分、温泉センターに到着。ここには宿 泊施設もレストランもあって、パジャマで走り回るガキんにょやアンマ椅子で恍惚 の表情のスウェット姿のおっさんやらたくさん居たのだった。ま、普通の人はこう いうところに泊まるわな。こういうところならば人がたくさん居るわけだな。一人 、当たり前のことに感慨にふけりながら重装備を解く。とく、とく…私はいったい 何枚着ていたのでしょう。風呂はジャグジーが工事中ではあったが、広くてきれい だった。サウナも露天風呂もあって快適そのものだった。が、ワイルドな状況にあ った者にとっては、いささか物足りない気がする。あまりに整然として無機的な感 じがした。健康ランドにいるような錯覚さえ覚えた。湯船に浸かっているとナイト プログラムの講師に出会った。雪のキャンプは初めてだ、というと、この吹雪のキ ャンプを経験してしまえば恐いものはないと言われた。大雪、強風、雷(!)警報が 出ていたが、注意報に変わったそうだ。でも露天風呂から眺める空からはいつやむ とも知れない大粒の雪が降り続いている。さあて気合い入れてテントで寝るかぁ。 風呂から出たところでくつろいでいると「ナイトプロ」でご一緒した家族の奥さん が、どちらからですか?と話しかけてきた。千葉からと答える。そう言えば隣のサ イトも習志野ナンバだったな、と思いきやこの奥さんは地元長岡だという。地元の 人がなぜわざわざ…?と考えたが、地元の人にすればむしろ関東の人がなぜわざわ ざ…?となるか。この家族にとっては雪遊びの延長に雪中キャンプがあるらしい。 AC電源サイトでテントにはホットカーペット、ストーブまであるという。旦那も 話し好きで、寝る前にぜひストーブにあたりに来てくださいと誘われた。その上徒 歩2分の距離を車で送ってくれた。
<<夜>>
サイトに戻ると現実が待っていた。まず雪下ろし。風呂に入っていた1時間で テントにもタープにも10cmくらい積もっている。朝までタープは持たなさ そうだ。といって対策案はなし。思案にくれながら黙々と雪下ろし。夜だが雪 明かりのせいか不思議と暗くない。風呂上りと作業のせいで全然寒くもない。 車の温度計はー3度。カミさんがテントに寝袋2×3個と毛布、マットを敷き 詰め終え、湯たんぽ用の湯が沸く間、ホットウィスキーで乾杯した。ここでちょっ とこだわりを1つ。ウィスキーにはホットに適したものとそうでないものがあ る。もちろん好みの問題なのだが、ここで「男のロマン」的こだわりをみせる と、香りのきついものは適さない。EarlyTimesやCivasReagal、WildTurckyな どはちょっとむせる。私はもっぱらBallantainsである。17年がBESTだがお湯 割りならば12年もののほうがいいか。マグカップは2重ステン。ディテールに こだわるなら蓋付きがいい。実はこれで結構冷めにくくなるのだ。おっと時計 をみると11時前である。もう先ほどのご家族への訪問はやめておくか。(翌日 聞いたところ1時過ぎまで他の家族と盛り上がっていたらしい…元気だねぇ) <<朝>>
一晩中、雪は降り続いていたようだ。天井につるしたProTrek(腕時計)をみるとAM7
:10。気温は2.5度。ProTrekは15分おきにに12時間の気温を記録できる。AM1:00で0.5
度。テント内は氷点下にはならなかったようだ。寝袋の中は3枚重ねと湯たんぽのお
かげで汗をかくほどだった。天井を叩く。(バンバンッ)すると(ザザザザーッ)
っと雪が滑り落ちていき、その部分だけ天窓が開いたように明るくなった。タープ
は重く垂れ下がってはいたが崩壊はしていなかった。ガサゴソと重装備を整え表に
でると、青空が見えた。やっほーっ!南の方角に昨日は見えなかったスキー場が見
える。すぐ近くだった。かんじきを履きテントを掘り出す。まさに掘り出すといっ
た感じだ。エスクードは一回りも二回りも大きくなってPAJEROのようだ。立てたワ
イパーが3分の1ほどしか見えない。下回りにはつららがびっしり。エンジンかかる
のかな?
<<朝御飯>> 例のメンドクサイ工程を経て七輪を焚き、お湯を沸かす。今朝は何にしよう?と考 えていると新聞?が配られた。なになに今日の天気は…雪、所により雷?誤植じゃ ないよなカミナリって。午前の降雪確立60%、午後50%、18時以降30%。おお、いい ねぇ。本日のスケジュール?なぬ?9時から餅つき大会だと?何が降ってもやります ぅ?だと?そうか餅かぁ。というわけで鈴木家の朝食は軽め(?)にカップヌードル と味噌汁に食パンとなった。ここで、持っていったチューブのバターは手軽でなか なか便利だった。さむーい冬の朝は、やっぱり味噌汁だねぇっ!あーうまいっ!う ぁーうまいっ!ちょっとドロンズ入ってます。
<<餅つき大会だと?>>(イベント3)
のんびり朝食をとっていたら、あっという間に9時になってしまった。外はすっかり 吹雪になってしまった。さっきの天気予報は何だったのか。それでも管理棟前には 人が集まってきていた。おぉ、本当に餅つきやってるよ。まあ端で見ていて餅がつ きあがったらちょっくら頂くとするかと思っていたのだが、いかんせん人数がいな いのでたちまち杵つきの順番が回ってきた。男手は重宝がられてしまう。まるで過 疎の村のお正月ってな感じだ。おぉ…ただでさえ餅つきなんぞ十数年ぶりだという のに、吹雪の中、しかも雨合羽を着てなんて初めてだあい。一人がこねて、二人で つく。つく二人の呼吸が大切なんだな。足元が凍っているので踏ん張りがきかない ?大丈夫。オリジナルの靴用チェーン作ってきたもんね。バッチリだぜい!そうこ うしているうちに餅ができあがった。しかし結構ついたけど、この人数じゃ食べき れないぞ?カップヌードル食わなくてもよかったかな?
<<クロスカントリースキー>>(イベント4)
9時から餅つきで、なんと10時からクロスカントリースキー(以下XC)と新聞 には書いてあった。これって結構ハードなスケジュールでないかい?でもXCスキ ーといっても初心者ばかりだし、キャンプ場内を歩いてみるという程度らしかった 。インストラクタも夕べの講師だ。そういえば餅つきの“返し”をしていたのもこ の人だった。何者なんだろう。PICAのスタッフなのかな?で、本来は、山や森に入 って動物たちの足跡を追いかけるアニマルトラッキングを予定していたのだそうだ が、足跡どころか車の轍ですら30分足らずで完全に隠れてしまう状況じゃあ何も見 つけられないだろう。ホワイトアウトで遭難するのがオチだ。でもここで「なあん だ、つまんない」などといってはいけない。どこもかしこも新雪だらけで、歩くだ けだってむちゃくちゃ楽しいのだ。XCは雪遊びなのだから。ちょっとここでうん ちくを。普通のゲレンデを滑るものをアルペンスキーといい、それとは別にXCス キーというのがある。XCスキーと一言で言っても何種類かあって、道具もそれぞ れ違っている。平らな雪原を自由に歩き回るXCスキー。ちょっとアップダウンの あるフィールドをスポーツ感覚で動き回るバックカントリースキー(BC:裏山) 。山を登って誰もいない斜面を豪快に滑るテレマークスキー(TM)。何も持たず に行くのがテブラデスキー。ゴ、ゴホン、失礼。で、歩くのが主な目的なものは板 が軽くエッジもないが、鱗みたいなギザギザがある。かかとは全く固定されていな い。ストックも30cmくらい長い。山を登って滑るのが目的なものは、板にはエ ッジがあり、ソールは滑らか。登坂は逆方向には滑らないシール(アザラシの皮) を張り付ける。かかとはロックできるようになっていて、ストックは登りと滑りで 使うので伸縮する。一式そろえても普通のスキーの半分くらいの価格設定になって いる。しかしビンディングとブーツが各メーカによって独自の機構を開発している ので、ロッシのブーツにサロモンの金具は装着できなかったりする。おっとっと脱 線しすぎた。今回はXCなのでかかとが浮いた軽いスキーだ。なんとレンタルなの だが板もブーツも新品である。ピカピカである。まずは歩く練習。いやあ軽い軽い 。いつものスキー、ブーツとは比べものにならない。スキップもできそうだ。ただ 板の幅が狭く、かかとが浮いているのでどうしても安定性に欠ける。思わずよろけ そうになる。インストラクタに続いてキャンプ場内の通路を歩く。ズリズリ歩く。 どうもシュパーシュパーと進めないなぁ。少し行ったところで、除雪されていない 深い新雪へ行ってみましょうと言う。除雪されたところと1mくらい段差があり、 その壁を登るのに一苦労する。おりゃおりゃという感じで進む。ゆうに膝まで潜っ ているがちゃんと歩ける。おお。すごいすごい。雪の上を靴よりもカンジキよりも 早く歩けるのは魅力だ。1時間くらいして自由解散となった。道具はいつ返してく れてもいいとのこと。しばらくズリズリ歩いていると何となくサマになってきた。 片膝をつくような体制で足を滑らせる。シュパーシュパー。いい気になっていると コケそうになる。それでも何となくスピードアップしてきた。いいね、いいねぇ。 たぶん斜面はまだかなりオタオタするかもしれないが、平地ならばバッチリだろう 。結構な運動量なのか全然寒くないし。こりゃもう少しやってみても楽しいかも知 れない。スノーボードよりはきっと痛くないんだろうな。さらに30分くらいその辺 を歩き回っておしまいにした。この間中にも大雪は降りしきり続けていたけど、流 石に子供たちは、アップダウンのあるほうにも行ってお昼頃まで遊んでいた。
つづく。
さて次回は後編。吹雪の撤収!抽選会が開催!鈴木家、豪華賞品ゲットなるか?!
乞うご期待っ!