東北の山旅2009(加筆中)

 名古屋の8月は暑いので木工教室は8月夏休み、日ごろできない旅をする絶好のチャンス。年とともに、日本の良さをもっと知っておきたい気もしてきて、今年は東北の山旅をすることにしました。大学時代に登った朝日や飯豊の山々の印象がとてもよくて、当時「いつか再訪したい」と思っていたことや、名古屋の展示会でお知り合いになったオーツーの大江さんが山や自然に詳しいということが、東北へ向かうきっかけでした。木工の話題は少ないですが、楽しんでいただければ思います。


8月16日(日)、晴
自宅---中央道---長野道---北陸道---新潟---酒田

 個人的な事情があって、予定を一週間早めた。大江さんの工房を訪問させてもらう日が18日なので、明日17日(月)に鳥海山を登るべく、日曜の朝、名古屋を出て、一人で酒田までドライブである。

 最近買ったミニゴリラ、ひじょうに快適。いつものように朝飯をPAの蕎麦でと神坂PAに入ったら、観光客メインに作り変えられていて、やめた。それで小黒川PAで蕎麦にありついた。長野から先は初めての道路。お盆の渋滞も関越JC付近ではあったが、大きな遅れはなく、予定どおり中条ICに付いた。そこからは一般道。カーナビ便りで行くと、「笹川流れ」という日本海沿いの海を見ながらの道路となった。今年は冷夏で海水浴客が少ないらしく、渋滞は少なかったが、盛夏の時は、7号線を通る方がいいように思う。このあたりがカーナビ任せの恐いところかなと思う。

 500キロ以上走って、酒田市郊外のガソリンスタンドで給油し、鳥海山の登山口に一番近い国民宿舎「鳥海山荘」へと向かう。道の駅で温泉に入り、どこかで晩飯を食べ、登山口付近で車中泊もできる体勢ではあるが、長丁場の山旅のため、ゆっくり寝ることを重視し、できるだけ宿に泊まる方針である。鳥海山荘は少し古いが、夕食も美味しいし、ゆったりできるいい宿でした。


鳥海山荘から見た、神社と鳥海山の山並

8月17日(月)、快晴
鉾立登山口---御浜---七五三掛---外輪山---鳥海山---谷道---御浜---鉾立---酒田市内ホテル

登山ルートは多数あるが、一番人が多いのは鉾立からの象潟ルート。大江さんのおすすめは大平からの吹浦ルートだったが、少しでも高度が高い場所、そして疲れて下山してきても急なくだりが少ない鉾立に変更した。しかし、あとで後悔する。鳥海山は標高2230mほどなので、1000m以上の高低差がある。登り5時間、下り3時間、計8時間の予想だけど、どうなることやら。

4時半起床で5時出発。鉾立で水を補給しそこなう。まあいいか、500mlのお茶と水300ほどあれば・・・。これが後で災いする。


鳥海山は、海から直接山となる、珍しい。写真では見にくいが日本海である。登山口からすでに森林限界を超えていて、一番おいしい登山が最初から始まる感じ。東北の山が人気の原因だろう。


御浜まではこのように石が敷き詰められた良い道だが、これが下りでは逆に辛い。


御浜の小屋から南側に池が見える。火口湖のひとつかな?雲海に顔を出しているのは月山


外輪山への道


外輪山から見た鳥海山新山(左)、中腹に頂上小屋


チョウカイアザミというらしい


谷にはまだ雪渓が残っている


新山は約200年前の噴火でできたとか。大きな岩を積み木のように積み重ねた山。こんな危ない場所を旅行社のツアーで20人ほどのパーティーが登っている。北アルプスの有名なコースでは、そういうパーティーがいっぱいだとか。いい季節に有名な山は要注意だ。


胎内くぐりのような岩のトンネルを抜けて左にまわって、狭い頂上。人が多いので、長居は無用。


谷道からの外輪山


途中で雪渓を渡る

 11時30分に下山しかけたのだが、予想よりも水の消費が激しく、御浜付近でついに空。このような地形の山なら、水場がもっとあってよいと思うのだが、若い火山のせいだろうか、雨水はすぐにしみ込んでしまい、山麓の湧水となって出てくるらしく、山の上部には水がほとんど出ないらしい。雪渓で濁った水を非常用に汲んだのだが、ゴミが多くて飲む気がしなかった。8年以上使っているナイロンの登山靴は、足の保護能力が弱くなっているのか、指先が痛い。おまけに登りは楽だった石畳の道が、弱った足をより酷使する。ヘトヘトになって、16時ごろ、登山口に戻った。500mlのポカリを二本飲んだ。

 すぐに酒田駅前のアルファーワンホテルへ向かう。夏休みでバス付シングル4500円、とても快適なよいホテルだ。ホテルのコインランドリーで、汗まみれの服を、全部洗う。登山後のビジネスホテル泊は、予想以上の快適さ。おすすめ。

 酒田駅前は人影少なく、「おくりびと」のロケ地であるという看板だけが目立っていた。

8月18日(火)
大江さんの工房---酒田のラーメン屋---酒田市内の大江さんの納品先訪問---さかたや旅館

ゆっくり寝て、どこかの喫茶店でモーニングをと思っていたが、ここは名古屋ではなかった。朝からやっている店がほとんどない。仕方なくコンビニのサンドイッチとコーヒーで朝食を済ませ、9時頃酒田から30分ほどの大江さんの工房着。

 工房内部の様子は私が説明するより、大江さんのHPを見ていただく方がよほどわかりやすい。とてもきれいに整頓されていて、かつ材木の在庫の豊富さにも驚かされた。また、木工関連ではないけど、鳥海山の自然やそこでの活動についての記述もとてもすばらしい。

 お昼は、私の希望もあって、酒田のラーメンだ。事前調査で、酒田はラーメンが美味しいらしい。鳥海山系の水は軟水で、麺を作るのに適しているとか。大江さんが家具を納めている人気のラーメン屋さんの麺も、今まで経験のないものだった。何と言ったらよいか、小麦粉が多くて不純物が少なく、麺の角がはっきりしている感じかな。普通のラーメンでも充分な量があり、ラーメンライスなどは不要。オーソドックスな飽きのこない、美味しいラーメンだった。

 昼食後、大江さんの家具を親子で使い続けているというお宅へ。単に家具屋と顧客と言う関係を超え、親戚のような信頼関係が感じられ、話がはずんだ。作り手も使い手も、等しい立場で幸せそうに見えた。その後、大江さんが建物から何から全てを手がけたお店へ行くが、あいにくお休みで内部は見ることができなかった。

 その後、土門拳記念館へ行く。すばらしい建物。その中に、「筑豊の子供たち」で衝撃を受けた、土門さんの写真が多数展示されている。中でも、古寺巡礼の写真は、印刷物にはない迫力で、すごかった。多くの収蔵品から、テーマに合わせて写真が展示されるようなので、別の機会にぜひ訪ねてみたい。

 夕方、一人一足早く、海沿いの老舗旅館「さかたや」へ行く。厳しい海風に長年吹かれた風格のある建物で、海を見ながら温泉につかり、6時半ごろから大江さんと二人で晩飯を楽しんだ。二人ともあまり飲めない方で、二人でビール一本とつつましい。

8月19日(水)
さかたや旅館---大江さんの工房---湧水ハイキング---工房---朝日鉱泉

今日は大江さんが案内してくれる鳥海山麓の湧水ハイキングである。大江さんは、ライフワークとして、鳥海山の湧水調査をしてるのだ。だから、今日行く場所は、地元の人しか知らないような場所である。

これは自然の川ではなく、湧水から田んぼまで水をひくために作った人工の川なのだそうだ。湧水は年間を通じて温度は変わらないが、雨水は季節によって温度が変わる。ここの水は本当に冷たい。その中にしか育たない藻が茂っている。

地元のハイキングコースにもなっている陰の滝。水の色が美しい。山の中の滝は、オアシスだ。

これはもっと大きな滝、その名も大滝。


名前はわかりやすい、「ちぢれ笹」


この湧水をお土産に

 いろいろと勉強させていただいた湧水ハイキングを終え、明日は朝日連峰へ行くために、登山口となる山小屋へ入ることにする。最初古寺鉱泉が適当と電話をしたら、「今日は臨時休業させていただいております」とのことで、急遽、朝日鉱泉に変更。大学時代に降りたのは朝日鉱泉なので、こちらに泊まるのが一番良いのかもしれない。

 カーナビたよりに朝日鉱泉を目指すが、本当に山奥で、道があっているか不安になる。途中で一度朝日鉱泉に電話を入れて間違っていないことを確認。細い林道を延々と走って、6時前に朝日鉱泉にたどりついた。主人が「明日は登られるの?」と聞くので、「一日では無理かなと思うので、この辺を散歩でもしようかと・・・」と答えると、「もったいない。せっかくだから、登って来たら。中ツルコースからだと日帰りできるよ」とのこと。主人の一言で、明日大朝日往復に決定。

朝日鉱泉は立派な建物で、食堂にはアンティークなウィンザーチェアとテーブルが並んでいた。私が見た30年ほど前は別の場所にあったとか。夕食は岩魚のマリネをメインに山菜の数々と、なかなか美味しい夕食だった。温泉に入って8時には就寝。明日は5時発とする。

8月20日(木) 晴れ
朝日鉱泉---大朝日岳---朝日鉱泉---山形市内ホテル

宿からは大朝日岳が見えるが、遥かかなた。「あそこまで行けるかな?」と不安になる。宿の標高約500m、大朝日1832m、水平距離8km、標高差1300m以上である。

小屋から少し下って、沢をつり橋で渡る。

 ここから奥の出会いまでは沢沿いの道。しかし道の崩落があったりして、ロープが張られていたりして、気を使う場所も多い。出会いの手前でしっかり水を汲むが、軽量化のため500ml一本にしたのが、またあとで災いする。


ブナの林が美しい


こんな巨木も

そこからは手も使うような急登の連続又連続。バテないようにゆっくり登りすぎた感あり。自分としては12時を限度に引き返すつもりである。もう諦めかけた頃9合目につき、やっぱり山頂をめざす。ヘトヘトになってついた山頂、南には大学生の時、金目川から苦労して上った祝瓶山が見え、北には小朝日や竜門岳などの稜線が連なっていた。

 登頂できて安心し、植物の写真などを撮りながらゆっくり下る。と言っても、私は花の名前をよく知らない。


トリカブト


マツムシソウの一種?、スカビオサ?

後で花の写真を見て気づいた。私は紫色が好きらしい(^^)。

下りで結構なスピードで登ってくるシニア女性に合う。足取りもしっかりして強いなあ。私はというと、鳥海山で痛めた足が痛い。脚力が落ちている上に靴がダメなのだ。下山したら、絶対に登山靴を新調しようと決心する。8合目付近で水がなくなる。500mlではやっぱりダメだね。最低でも1リットルは必要。まあ、天気はいいし、水場の位置もわかっているから、そこまでの辛抱。やっと出会いを過ぎて、水場について、シコタマ水を飲む。

 その先で、シニア女性に追い抜かれる。ちょっと恥ずかしい。足をひきずりつつ、ようやく宿に辿りついたら、夕方の5時だった。平均タイムは10〜11時間ということだから、私は2時間ほど遅いことになる。天気が良くて助かった。

 それから、すぐに車に乗って、山形の七日町ワシントンホテルへ。ここは夏休み特別価格で一泊3000円なのだ。酒田のホテルより狭かったけど、この値段なら文句は言えません。なんとなくギョウザが食べたくなり、近くの中華料理店でギョウザとビールで一人乾杯。

8月21日(金)
山形ホテル---山寺---蕎麦屋---道の駅飯豊---中条---(高速)---帰宅(22日1時30分)

今日は気楽に観光の日。禅宗の有名寺、山寺へ行く。

話は変わるが、鳥海山の山道で、岩にペンキで「世界○○が平和でありますように」という某宗教団体の標語が書かれているのを見た。自然の山の岩にまでそんな事を書かないでほしい。それこそ罰があたりまっせ。

話が元に戻るが、雄大な山の自然を堪能した後は、人工的権威づけを感じてしまい、山寺にはあまり感動しなかったのだ。門前町の駐車場の呼び込みの多さにも閉口した。寺か街で大きな有料駐車場を用意した方が印象が良いのではないかな。


参道にいた大きなガマカエル。傘で押しても動かない。

山寺の後は、山形は蕎麦が有名ということで、庄司屋という有名店に行く。ここは更科がいいらしい。旅の最後ということで、藪と更科の相盛りに天ぷらのセットを頼んだ。ここの蕎麦も、酒田のラーメンに似て、蕎麦粉が多いというか、角がピンと立った、しっかりした蕎麦だった。

あとは、ゆっくり帰るのみ。日付が変わって土曜日に帰着すれば高速代1000円ですむからだ。途中、道の駅飯豊に立ち寄って、写真のようなお土産を買った。ラフランス、立派なシイタケ、ミョウガ、デッカイキノコは「トビタケ」。あとは庄司屋の乾麺と鳥海山、朝日の湧水がお土産だ。


トビタケ。地元のおじさんが「美味しいよ」というので買ったけど、残念ながら、キノコというより「木そのもの」という感じ。一年に3日ほどしか採れない貴重なキノコらしい。

 その後、高速に乗る前の道の駅で温泉にゆったりつかり、眠気と戦いつつ、日付が変わった深夜1時30分、名古屋に帰り着いた。

旅を終えて

 海外旅行は二ヶ月前ぐらいから予約し、多くは予定を変更できない。だから、何があっても行くことになる。国内旅行は、思い立ったら出発できるかわりに、急な用事やプライベートな事情で、予定が変更になったり、中止になりやすい。今回の旅行、かなり強行軍の山旅だったが、老犬の介護をしながら留守番をしているカミさんのことを考えると、精一杯の日程だった。でも三泊目ぐらいから家や仕事のことが気にならなくなり、放浪しているという気になった。日常生活から一時離れるには、数日の旅が必要なように思う。

 大江さんに案内していただいた鳥海山湧水ハイキングは、とても印象深いものだった。山登りというと、山頂にしか目がいかないことが多いが、点ではなく、線あるいは面としてその山を楽しむことが望ましい。鳥海山は、日本にはめずらしい、海からそそり立つ山で、現役の火山でもある。雨水は、噴火によって詰まれた岩の積み木の間を通り抜け、地表の堆積層に達し、そこから周囲に湧水という恵みをもたらす。山頂は荒々しく乾燥していて、裾野は自然の恩恵が豊かである。大江さんのように、この地域に根ざし、自然環境を調べ楽しむライフスタイルを持っておられることにとても良い刺激をうけた。

 車で走っていると、東北は、名古屋などと比べ、人口の少なさが実感された。通勤時間帯の一般道でも、車は多くない。それなのに田んぼを貫くように、将来高速道路になるであろう、土盛りが長く続く。高速道路が必要な地域ではないのではないか。庄内平野は大きい。広がる平面の向こうに、日本海からの風でできた砂丘が連なる。ちょっと日本ばなれした風景。開放感があって好きだ。

 学生の時に登った朝日連峰、アプローチの道は整備されてはいたが、深山の雰囲気は変わっていなかった。とにかく山また山の、その奥という感じ。一日の間に会った登山者は4人だけ。どの道も、楽というわけではなく、崩落によって絶えずルートが変わっている。多分、旅行社が募集するツアーに朝日連峰はこれからもまず登場しないだろう。そういう静かな山旅ができる山域は、今となっては貴重。主人の著書も多い「朝日鉱泉ナチュラリストの家」はそんな山奥にあって、とても快適な宿だった。やっぱり宿泊するのは、麓の方が快適だろう。山の上での宿泊は、やむをえない場合の選択と考えるのが、本来の姿だと思う。昔はお金がなかったので、麓の小屋に泊まったりはしなかったが、体力が落ちた自分には、前日に登山口付近の宿で英気を充分養い、明日早朝から登山するというスケジュールが良いようだ。

 木で家具と作る仕事と山登り、とても深い関係だと思う。何と言っても素材が育っている姿を見るし、それをとりまく環境や循環を肌で感じる。手軽な運動としてサイクリングは楽しい。しかし、どこか、靴下の上から水虫を掻いているような、変なたとえだが、そんな感じがある。山登りは、体全体で感じる”何か”が得られる。これからも、このような山旅を楽しんでいきたいと思った。


余談
今回車中泊はしなかったが、宿がとれない場合などに備え、準備をしていった。ウチの車「トラヴィック」は便利ないい車だけど、フルフラットにならないし、シートを前にやっても150cmしかとれない。それでシートを前に倒し、低いところには引き出し付きの箱を二つ作ってベッドにすることにした。帰りの高速で、強烈な睡魔に襲われ、PAで一度寝てみたが、まずまず。でも宿の布団で寝るのが、この年になると、やっぱりいいなあ。使わない時は、工房で集塵機のホースなどを入れる収納箱として使うつもり。


シートを通常位置にしたときは、このように配置できる。