+++ 英国南部木工紀行 +++

(どの機種でも見れるように単純な配置にしています。)

 国内旅行だと、ついつい家や仕事のことが気になるが、フィックスチケットで一度海外へ出れば、よほどのことがない限り、旅の間は日常から離れられる。要するに非日常的な時間が持てる、そのことが好きなのだと思う。ただ、歳をとるにつれ、全く知らない土地へ一人で行くのが億劫になっている。今までも現地に住む日本人の方と様々な方法でコンタクトをし、旅行を楽しむことが多かった。ロンドンには一度行ってみたかったし、ウチの元生徒さんだったロンドン駐在の橋本氏が現地におられる今がチャンスとこの旅行を決めたのだ。

 名古屋からロンドンまで、乗り継ぎが便利で、何度か使っているフィンエアーの35日前チケットを選んだ。8万円ほどだが、石油ナントカ他が4万円もかかるため、総額は12万円ほど。深夜乗り継ぎでよければ、ドバイ経由でもっと安く行けるようだ。宿は、インターネットで探した。UK−hotel−Bookingという見慣れないサイトを発見し、そこからB&B的ホテルを予約。ロンドンはとてもホテルが高い。その中でも一番安いArranHouseHotelというのにした。繁華街に近く、治安もよい、それでいて一泊朝食つきで40ポンド、一万円弱。現地8泊となるので、これでもかなり高額になるが、ロンドンでは破格に安いと思う。また、泊まった印象はとてもよかった。道路側の部屋だと車の音が少々やかましいことと、エレベーターがないので荷物を部屋に入れるのにちょっと疲れるのが難点だが、豪華さを求めない私にはぴったりな宿だった。

3月27日
自宅出発午前7時、小幡ICから東名阪、高針JCTを経て名古屋高速。南行きの渋滞で予想より時間がかかったが、8時30分頃セントレア着。10時20分、無事飛んだ。9時間飛んで、ヘルシンキでの乗り継ぎも問題なく、ヒースローへと再飛行。これからが長く、ロンドンまで3時間。入管で訪問する学校の書類を出せと言われ困った。簡単に「ロンドン観光」というべきだった。出口で橋本氏と再会。初めての土地では初日ホテルへ入るまでが不安なものだが、今回は橋本氏の案内で、問題なくチューブでホテルへ。地下鉄はおもちゃのように狭く、事故が起こったら危ない感じ。歩いてトッテンナムコートまで行き、インド料理で晩飯。疲れているので早い目に寝た。

3月28日
ホテルの朝食が美味しい。お客はほとんど現地の人ばかり。9時半にホテルで橋本氏と会い、歩いて道具屋へ。


結構な老舗で、電動工具はもちろん、Cliftonなどの有名手鉋が置いてあった。

次は、スウェーデンのP氏おすすめの、個人的なSir John Soane's Museum博物館へ。一風小さな、変わった博物館であった。ロンドン塔近くの道具屋を見た後、パブで初めて、フィッシュアンドチップスを食す。うまい。全部平らげるが、これがあとで失敗とわかる。


パブのフィッシュ&チップス、日本人の味覚に合う。

Turnhamugreen駅まで行き、10分ほど歩いて、マーチン氏の工房へ。明るく親しみやすいスタッフ、工房、氏の人柄、そして、類稀な規模の仕事の数々。すばらしい実績をお持ちの方だった。何より、温厚で親しみやすい人柄に感激。


イタリア製の機械の説明をするマーチン氏


安全に面取り盤が使えるジグ

その後中古家具の集まるショップを見学し、晩飯へと向かう。が、食欲なく、気分が悪い。韓国料理の冷麺をかろうじて食べ、橋本氏と別れる。シャワーを浴び、9時ごろに寝た。

3月29日
夜は二回ほど起きたが、9時間は寝たと思う。まだ100%ではないが、なんとかなるだろう。今日も9時半に橋本氏がホテルに来てくれる。地下鉄で、リバプール駅まで、そこからバスでGeffrye Museum家具博物館へ。美しい建物。規模はコペンハーゲンの工芸博物館と似ている。年代別の家具の展示が見やすい。






小学校の遠足でしょうか?

メリンボーン駅へ行き、そこのパブで昼食だが、サンドイッチもほとんど喉を通らない。やはりまだ本調子ではないようだ。鉄道の切符を買い、ハイウエンカムへ。迷いつつも、カレッジへ到着。ヒュー先生は背の高い好人物。3年制で全部で70名ほどいるとのこと。熱気がすごい。機械室も、たいへんな充実ぶり。Wadkin社製木工機械がずらっと並んでいる。ヒュー先生やマーチン氏の作品がjoyceの本に載っているとは知らなかった。


家具修復コース


一年目の共通課題となる椅子


木工機械の数は半端じゃなかった。


NCルーターが、3台以上あった。


型を使っての曲木や成型合板を多用している


加熱プレス


大型の真空プレス。3台以上あったと思う。


70名の作業場

その後、大きな講義室で生徒30名ほどを前に、写真を見せて話をすることになった。英語をもう少し話せるようにならないと苦しいし、恥ずかしいと痛切に思った。鉋をお土産に見せて、ちょっとだけ挽回。


学校の喫茶室?


日本人女子留学生の彼女達に英語を助けてもらった。ありがとう。

地下鉄の駅に戻り、チャーリングクロス駅で橋本さんと別れた。明日は夕方まで一人で行動し、午後6時にサウスケンジントン駅上で集合だ。なんとなく気分がすぐれず、ホテルで一時間半ほど寝た。その後、日本から持っていったカップヌードルの美味しかったこと。

3月30日
朝から冷たい雨の一日。荷物をホテルにあずけ、ディパックと書類カバンを持って、まずはV&Aへ。そこでクロークに荷物を預け、館内を見るが、展示品の数は膨大だが、あまりに寄せ集めで、今ひとつ馴染めなかった。


タブテールの引出。機械加工と手加工の比較陳列



昼は、気分を変えて、雨の中、中華街へ行く。安い店を発見し、2.8ポンドでワンタン麺を食べる。後でわかったが、ここはロンドンで一番「貧乏学生の強い味方」として知れ渡っている店だった。肉が少々気持ちわるいが、まずまずの味。何より汁物がありがたい。その後歩いてみるが、偶然雨宿りに入ったところがナショナルギャラリー。無数の宗教絵はしんどいが、地下のゴッホのひまわりや、セザンヌには感動した。


マーチンさんの椅子


ナショナルギャラリー前の有名な広場

夕方、V&Aに戻り、5時半まで見てサウスケンジントン駅で橋本さんと合流。電車とバスでウインブルドンのご自宅へ。閑静な高級住宅地で、3階のシャワー・トイレ付の部屋に泊めていただいた。

3月31日
7時に起き、朝食をいただき、8時出発。地図を見ながら、進む。一箇所間違えたが、なんとか二時ごろにハートランドに着いた。「最果ての村」という感じ。デビッドの家を訪ねて、B&Bに落ち着く。そして、デビッド宅へ。大きな犬二匹と奥さん、本人とお茶を飲む。


上のプレートには両親のお名前や没年月等が記され、その下のベンチでお茶を楽しむ。

工房見学では日英の鉋のことを中心に話がはずむ。少したって、近くの陶芸家のお宅へ。日本に行ったことがあるという、ご主人やご家族と、庭でお茶を飲み、歓談。再度工房へ戻り、コンピュータルーム兼書斎で、当方の作品展などの写真を見せる。7時ごろに別れて、歩いて5分ほどのレストラン兼、パブで食事。ベジタリアン用のマッシュルームストロガノフが大正解であった。ロングドライブに二人とも疲れた。


キングの砥石をこれだけ持っているのに驚く


古い倉庫のような建物を工房に改造している


奥様のシャッターで記念撮影

4月1日
朝食は、イングリッシュブレックファストをお願いしていたら、グレープフルーツ半分、でっかいソーセージ二本、こってりしたベーコン、スクランブルエッグ他と、とんでもない量だった。イギリスに来てから、絶対に食べすぎ、それでどうもお腹の調子がよくない。橋本氏と海岸の風景を見て、帰路につく。途中、世界遺産になっているというストーンヘンジを見たが、簡単に言うと芝生の牧場に大きな石が円形に立っているだけであった。「名所というのはそんな物」というのは、日本と同じと思った。


風の強い、東尋坊と言う感じ

帰路は道を迷うこともなく、午後2時ごろにはウィンブルドン近くの駅についた。ここで橋本氏と別れ、ホテルへ戻る。流石に二回目となると受付の女性も非常にフレンドリー。静かな裏庭側の部屋で一安心。このホテル、道路沿いの部屋は夜車の音が喧しいのが、唯一の難点かと思う。

時間があるので、歩いてマイフェアレディーで有名になった「コベントガーデン」を見に行く。流石にここはムードがあって私好みだった。その後、チャイナタウンへ行って、先週、ワンタンスープヌードルがまあまあ美味しかった店で、米粉ヌードルの焼きそばを注文したが、でてきたのは「大皿に山盛り」、あまりの量の多さに全部は食べ切れなかった。


4月2日

今日と明日、一人で観光である。まずは歩いて大英博物館へ行く。



アフリカのコーナーにあった、廃棄武器を使った作品。

それからテートモダン


この滑り台に乗りたかったが・・・、歳を考えてやめました^^)。

それから、超有名デパートハロッズ。地下のオイスターバーで昼飯。生牡蠣6個とビールとチップで20ポンド。一番高い昼飯だった。今日はおとなしく、ホテルで日本から持っていった食料で夕食。その後ホテル近くのパブでビールを飲んだ。

4月3日
午前は、リバプール駅近くのマーケット、工事中であまりパッとしなかった。
その後、ノッティングヒル駅近くのアンティークマーケットというか住宅街のショップを見る。


いろんな金物類、陶器のツマミ等々


買って帰ろうとおもったけど、最低でもひとつ1000円ほど。高いので何も買わなかった。

ロンドン最終日の午後は、有名観光地を巡って、今回の旅が終わりました。

4月4日
7時にホテルを出て、地下鉄でヒースロー空港へ。地下鉄はホンマに小さい。

出国には何のトラブルもなく、時差ボケの重たい頭で、翌日セントレアに着いたのでした。

旅を終えて

 今までアメリカの木工や北欧、特にスウェーデンは4度も行っているので、「イギリスの木工はどんなだろうか?」と興味があった。行ってみて、やはりイギリスは洋家具の老舗という感じがした。イギリス国内にはもう家具製造現場はあまり活発ではないだろうと思っていたが、ロンドン郊外の大学での熱気のこもった家具コースを見て多いに刺激を受けた。オリジナリティーを大切にする姿勢がひしひしと感じられたのだ。私が見せた教室展の写真を見て、マーチンさんは洋家具の影響を受けた家具が多いのに驚いたようである。日本で木工をする人間としては、ちょっと反省。漆とか和とか言わなくても、やはり独自の「日本」を感じる家具や作品を作っていきたいものだ。

 最後に、旅の計画から現地での案内、そして長距離運転など、何かとお世話になった橋本さんに、この場をかりましてお礼申し上げます。