ブナの葉化石からわかるこ


ブナ1 
 ブナは現在では、本州・四国・九州の丘陵・山地に見られます。神戸では、六甲山の頂上付近に生えています。しかし、神戸の化石はちょっと様子がちがいます。葉っぱには葉脈といって、真中に一本、中心となる葉脈が走っています。その左右にいくつものの葉脈が並んでいるのがわかると思います(拡大)。その先をよくみてください。普通、葉には「ギザギザ」があります(鋸歯という)。ひいらぎなどでは、とがった葉を思い浮かべると思います。同じように、神戸のブナも葉脈がとがった部分に走っています。
 それでは、不思議ではないと思われるかもしれません。しかし、現在のブナの葉をよく見ると、へこんだ部分(波状の鋸歯)に葉脈が入りこんでいるのです。正確には、へこんだ部分の手前で上に向かっています。昔のブナと現在のブナではこのような違いがあります。葉、一枚で過去を知ろうという訳ですから、じっくり観察することが大切です。

◆葉でわかる樹木/馬場多久男著/2001/信濃毎日新聞社

◆原寸イラストによる落葉図鑑/吉山寛著/1992/文一総合出版

神戸層群産ブナ化石/神戸市須磨区学園都市産(現在は産地は消滅)/約3400万年前(拡大

ブナ2
 ブナと一緒にでてくる化石にはどんなものがあるでしょうか?。現生のブナではカエデ、ササなどと生きています。温帯林の代表種といえるでしょう。
 化石ではサバルヤシ、フウ、マツ、クリ、メタセコイア、エンゲルハルジアなどたくさんの植物といっしょに見つかります。また、暖かいところに生育している植物も多く含まれています。このような森は現在の中国などに見られ、多くの植物と混交しています。
 問題となるのは、その時代です。これまでの研究では、新第三紀(約1500万年前)だったのですが、最近、次々と時代についての新しい報告がされています。
 植物の化石からは、エンゲルハルジア、サバルヤシ、裂片葉となるコナラ属、マックリントキア属などを含んでいることから、古第三紀漸新世(約3400万年前)ということがわかってきました。また、植物だけでなく、動物のサイの化石、貝化石などから、下の地層は始新世という考えもでてきています。つまり北海道の炭田や九州の炭田ができた時代と同じ時期ということになってきました。そうなると、神戸層群の化石はとても重要になってきます。

◆ブナ林の自然史/1992/千葉県立中央博物館

◆ブナ林の自然史/原 正利編/1996/平凡社

◆神戸層群の化石を掘る/松尾裕司著/1987/神戸の自然16/神戸市立教育研究所(絶版)

ブナ3
 なぜ神戸の植物の化石が重要なのでしょうか? それは植物の化石がとても保存状態が良いということです。白い石に写った化石はとてもきれいで、葉の葉脈の細かな部分まで残っています。。炭化した植物が残っていることもあります。しかも多種、多様な植物が産出します。つまり、良い化石ほど過去の様子を知る手がかりが多いのです。植物の進化や日本の森林の変遷をたどるうえで、重要な化石群といえるでしょう。

 また、植物の化石だけでなく、海の貝、淡水貝、昆虫の化石、サイの化石など動物の化石も含まれています。とくにサイの化石がこれほど多く見つかったことはないそうです。現在、人と自然の博物館(兵庫県三田市)で研究中です。そして、これらの化石を含んだ石などから年代がわかることです。この時代の年代がわかるのは、世界的にも珍しいそうです。時代が正確になってくると、他のわからなかった時代のものも参考(比較)になりますし、昔の様子を神戸だけでなく、広い地域で見れるようになってきます。

 日本の同じ年代の始新世の地層では、北海道や北九州の炭田などがあります。しかし現在では、石炭は完全に石油にとってかわられ、廃坑になってきているのが現状です。植物化石は石炭を掘るために、生活に役立つものとしてを調べてこられたのです。
 漸新世は、これまで考えられていた地層が始新世であったりして、見直しが行なわれてきています。代表的なところは神戸を始め、北海道北見市、山口県下片倉などです。古第三紀の地層が少ない中で、豊富な化石を含む神戸の化石はとても大切といえるでしょう。これまでは、地層にしても化石にしても調べる人が少なく、学校の先生や一部の人しか注目してませんでした。サイ化石の発見で、神戸の化石もようやく日の目を浴びそうです。
 
◆セミナーガイド2001(共生博物学) 人と自然の博物館・・・催しの案内書です
◆日本のフロラ史/植村和彦/1995/朝日百科 植物の世界87号