第2話 入れない開会式

 正義とゲンブの仲間探しは遅々として進展しなかった。そして、ついに開会式当日の朝を迎えた。
「どうなってるんだ。高い金を出して買ったのみ正規品じゃないって。もう一度調べなおせ。」
国立競技場の入場ゲートで係員と観客がもめていた。どうやらシステムトラブルで入場券の照合ができないらしい。
「ただ今、調査中です。しばらくお待ちください。」
係員はひたすら頭を下げ続けている。
科学技術の進歩により、入場券は体内に内臓されたチップにダウンロードされる時代となっていた。それが読めないことには入場券の確認ができないのだ。

 そのころ競技場の中では、一人の少女と白髪のおばさんがいるだけだった。そして、少女はひたすら歌わされていた。
「だめだめ、そんなこころのこもってない声で観客を満足させられると思ってるの?やりなおしよ。」

「仲間のにおいを感じる」
ゲンブが正義に語りかける。
「ゲンブ合体」
正義はコクリンに変身した。彼の持つ開剣(かいけん)は閉ざされたものを開く力を持っていた。
 開剣をゲートに一振りするとゲートは開き、コクリンだけが競技場の中に吸い込まれた。

五倫獣『ビャッコ』
強い愛情により、相手の独占欲をかきたてる。

「何者だ!私は娘と二人きりでいたいのだ。邪魔なやつは容赦しないぞ。」
おばさんは、白髪を振り乱すと白い大きな生物へとなった。
「きゃー!」
少女はその姿を見て気絶した。
「やつはビャッコ。やつは良き母であったはず。たくさんの子供たちに囲まれ大勢ですごすことが好きなやつだったのに。」
五倫の書と合体した五倫獣は性格がまったく逆になってしまうのだった。
「開剣でやつを戻すことはできないか?」
正義の問いに
「いまのやつにはわたしの言葉はとどかない。なんとか冷静になってくれさえすれば。」
ゲンブの残念そうな言葉が返った。

 コクリンとビャッコの激しい戦いが始まる。ビャッコ長く鋭いつめをコクリンに向かって振り下ろしてくる。コクリンはゲンブの力である硬い甲羅で跳ね返す。そんな中、静かに澄み渡った歌声が聞こえてきた。
「お母さん、もとに戻って。」
少女はそうつぶやくと、また美しい歌声を響かせた。それは、深くやさしくいとおしい人に語りかけるような歌だった。
ビャッコの動きが止まり、目から一粒の涙がこぼれた。
「五倫の書、第二章。相手への思いやりの心で語れ。」
コクリンがつぶやいた。
「正義、今だ。」
ゲンブの合図とともに、
「開剣!」
正義の一振りがビャコに打ち下ろされた。

 入場システムが復旧し、次々を人々が中に入ってきた。選手たちの入場が済み、さきほどの少女の澄んだ声が会場に響き渡った。ついにパパリンピック・ママリンピックが始まった。

 会場の奥の一室にビャッコと少女、ゲンブと正義がいた。
「死んだ娘も唄が好きだった。ごめんなさいね。」
ビャッコは少女の腕時計に封印され、彼女は『乳嬢妍』(にゅうじょうけん)の使い手『セイリン』となる。

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