瑣末の研究9

効き目なる幻想


さて、全集や叢書で「この1冊さえ押さえれば、完集したも同じ」という本がある。
これを通称「効き目」とか「臍(へそ)」とか呼ぶ。英語では、Very Scarce かな。
新版横溝正史全集の「探偵小説昔話」とか、パシフィカ名探偵読本「アルセーヌ・ルパン」
とか、そんなところである。
叢書全体が効き目の固まりというようなソノラマ海外シリーズ、サンリオSF文庫、
創元クライム・クラブ、立風SF&ファンタジーのようなシリーズもあるが、その中でも
優劣を付けられない事はない。
作家別の最入手困難作なども通常「効き目」と言う事があるが、語源からは外れた用法
だろう。やはり同一叢書内で用いるのが正しい使い方ではないかと思う。
なにを最強の効き目と感じるかは、その個人の巡り合わせもあって、一概には言えない。
ある人は年に1度は100円均一棚で「女郎ぐも」を手にいれることもあろう。
ブックオフで、毎月、河出メグレの揃いを5000円で買う人もいるかもしれない。
いたら、その人は一生のツキをそこで浪費しているのだ、
なんて可哀相な人なのだ、とにっこり笑って

石をぶつけてやろう。
閑話休題、通常の古書価格などを参考にすれば、だいたい以下のようなものがいわゆる
効き目にあたる。

創元推理文庫:「反逆者の財布」「幽霊の2/3」
六興キャンドルミステリ:「ライノクス殺人事件」「暗い階段」
ポケミス:「トム・ブラウンの死体」
角川文庫・横溝正史:「シナリオ悪霊島」「横溝正史読本」(赤背表紙)
サンリオSF文庫:「生きる屍」「アプターの宝石」「熱い太陽、深海魚」
創元クライムクラブ:「殺人交叉点」
講談社江戸川乱歩文庫全集:「第65巻:年譜」
早川SF文庫:「柔らかな月」

こんなところが特徴である。
1)売れ筋ではないが著名作家の作
2)年譜、目録、別巻、どうでも良い本
3)叢書で後の方で出た本

そもそも完集を志す人が買うために、なかなか単品では市場に出てこない。
全集の中で唯一の新作・新編だったりすると、その巻だけを買う人がいて、
後から
完集を志した人が入手しずらい。

こういう本を人の本棚で見つけたら、「お、さすがですねえ」と話を振ってみるといい。
持ち主は、それはもう、目をキラキラさせながら、その本を手に入れるに当って
どれだけ時間的に、労力的に、金銭的に苦労したかを得々と語ることであろう。
親や妻子の誕生日は覚えていなくても、その本を入手した日付、場所、などは克明に
覚えているものである。

たった一つだけ、聞いてはいけない質問はこれ

「で、面白かったですか?」

特徴の追加。
4)実はあんまり面白くない

以上

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