瑣末の研究21
「未刊の帝王」

荒地書房の年間推理小説BESTというシリーズがある。
これは全部で4冊出ており、その内訳は60年、62年、63年、64年。
あと45年から59年の中からベストオブベストを選んだ巻があるが、年刊という目で見ると、つまり1961年版が出版されていないのである。
これは「このミステリがすごい!」の1990年版が出ていない事よりも性質(タチ)が悪い。
なにせ、昔の事である。出ていた事の証明は実物をもってすればよいが、出ていなかった事の証明は本当に難しいのだ。
これをいにしえの例、一方の「このミス」を最近の例とすれば、その中間に属するのが創元推理文庫のシャーロックホームズのライヴァルたち第2期の「ラッフルズの事件簿」である。
これが、いつまでたっても出版されない。その後、同じ体裁で「思考機械の事件簿3」等が出ても「ラッフルズ」は幻のままである。さすが怪盗、とか言ってる場合ではない。
SFで有名なのは、講談社文庫のヒューゴウィナーズの第三巻。全八巻のうちのこの号だけが未刊であり、並べてみると見苦しい事おびただしい。
和物でいえば、講談社、桃源社の書き下ろし企画にこの類がある。


しかし、あまたある「未刊」の中でも<帝王>の名に相応しいものといえば、そう!あの「早川ポケットミステリ遠刊予告」である。
ポケミスの「被害者を探せ」等の巻末に収録されたこのリストこそ、まさに夢の図書館、そして同時に悪夢の殿堂でもある。このリストに収録された作品数は全部で、350作品!勿論そのうちの多くは出版されているのだが、それでも「名のみ知られた」作品や「こんなもの聞いた事もないわい」てな作品が目白押し、そんじょそこらの欠番が束になってかかっていってもかなわない。この物量!この質!!これは意欲と挫折の壮大にして華麗なるアンサンブル、夢と悪夢の交錯する異空間への道標なのである。また、出版された作品についてもこのリストの題名が直訳風の仮題であるため、一体どの作品がそれに該当するのか、という袋小路的マニアの愉しみ方も出来るのである。このリストは過去ROMなどにも収録されたこともあり古手のマニアの間では比較的有名なものである。しかし、ネット上でこれを掲示した例は聞かない。我が友好親善サイト「BAR黒白」を除けば、ここほどこれを載せるに相応しいサイトはあるまい。というわけでやってしまおう!これが「未刊の帝王」幻の早川ポケットミステリ遠刊リストである。存分にお楽しみいただきたい。


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