宇宙
瑣末の研究2
誰もよまない


ミステリ界に伝説があった。

「誰も読まない小説がある。それも創元推理文庫に」

信じられるだろうか? 間違えて頂いては困る。「読めない」のではない。
「読まない」のである。
「読めない」本ならなんぼでもある。「反逆者の財布」「水平線の男」
「ギデオン警視の危ない橋」「フレンチ警視最初の事件」等など、こういった
本は先ず本屋にない、古本屋にもない、勿論図書館にもない、そして持ってい
る人間も「読むなんて、とんでもない」と思っている。こういう本はありがた
くて「とても読めない」のである。しかも、伝え聞くところによれば、「読ん
でも面白くない」のだそうである。そりゃそうだ、面白ければ、もっと売れて
絶版になどなる筈がない! いや勿論「幽霊の2/3」や「俳優パズル」のよ
うな例外はある。こういった名作が絶版になっているのは、単なる「東京創元
社の不見識」に過ぎない。
だいたい、東京創元社という会社は、!
…いかんいかん、話を戻そう。「誰も読まない」話である。

結論を言う。その本とは、ジョン・ビンガム作「第三の皮膚」

目録の梗概は以下の通り。
「気の弱い19歳の青年レスは悪友にそそのかされて強盗を働き、まんまと
失敗してしまった。しかしその時、悪友の方は殺人を犯し、レスも共犯になる。
その事実を知ったレスの気丈な母親は、なんとしても息子を警察の手から守ろ
うと決意する。人間心理の内奥を分析して迫真の効果をあげる異色のクライム
ストーリー。翻訳権所有」
整理番号396、時計マークの本である。
翻訳は、巨匠中村能三。
翻訳の責任ではなさそでうある。「水平線の男」は翻訳に泣いた話であるが、
「第三の皮膚」に限って言えばそれはない。
では、なぜ「読まれない」のか?
梗概でご理解いただけると思うが、これは時計マークの犯罪小説である。
ここなのだ。仮にポケミスであれば、この類の話はエヴェン・ハンターを初
めとして結構収録されている。
しかし、しかしである。これは創元推理文庫だ。
創元推理文庫と言えば、クラシックの宝庫である。
オールド・マニアならご
理解いただけようが、
中学生のお小遣いでは、ポケミスは高いのである。
畢竟、
海外ミステリに入る場合、父親がポケミス収集家でもない限り、
まずは創元推
理文庫から入る。
そしてその際の常として、帽子男マークから制覇しようとす
る。
猫マークや、拳銃マークはまず後回し。
時計マークは、ガードナーを除い
て更に後回しとなる。
そして、帽子男マークを制覇する頃には、ポケミスの存在を知り、そちらで
しか読めないカーや、クイーンや、クリスティーに進むのである。
ポケミスであらかたビッグネームを読み尽くした頃には、メグレや87分署
などとっつきやすい方へと嗜好が伸びていく。そしてあわれ「第三の皮膚」は
顧みられる事なく、積読の山へ棄てられるのだ。QED。
その積み重ねが、常に本屋に残っていた「第三の皮膚」を絶版へと追い込ん だ。
「売れない本には死を」バイバイ、ビンガム、である。

そして「第三の皮膚」も立派な「読めない本」の仲間入りを果たした。
さあ、これで「反逆者の財布」と同じ立場だ。どうぞ、皆さん探して下さい。
そして入手された方は、どうぞお読みになって感想をお聞かせ下さい。
って、持ってるんだから、読めよ!(<自分)



(これが、好評絶版中の「第三の皮膚」)

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