瑣末の研究19

「読者が被害者」トリック類別集

大乱歩のひそみに習い、読者が被害者というパターンのトリック類別集を作成した。
被害者の皆様に供する次第である。合掌。

主に叙述上の仕掛けによるもの

─小説内小説
・作中人物の手記が当該作品であり、作品世界を現実の世界に同化させるもの。
・作中人物が小説を読んでおり、その小説の中の作中人物の手記が当該作品であり
作品世界をその小説の世界に同化させるもの。
・作中人物が小説を読んでおり、その小説の中の作中人物が小説を読んでおり(以下略)

主に作者の事情によるもの

―トリックが「とんでも」である
・実はただの嘘だった:「あれはただの作り話だったのです」
・実はただの偶然だった:「あれはだたの偶然だったのです」
・超常現象によるものだった:「あれは一体なんだったのでしょう。」

―絵解きを行わなわず謎を残すもの
・思わせぶりのメタで、頭の中を痒くするもの
(メタ構造で読者を混乱させる。「ふふふ、こんなこともわからんのかね」と
シルクハットをかぶった作中人物に言わせる場合もある)
・説明を省くもの
(前後の関係から類推する事ができてもそこまで説明しなくてもいいだろうと
説明をはしょる場合と、単に本当に忘れたとしか思えないものなどがある。)

─話として終わっていないもの
・天災が起きて事件の関係者全員が死んでしまう
・作者が死んでし (絶筆)

主に翻訳者の事情によるもの

─ただの誤訳:「コップに切符を切られた私は素敵なものを支払った」

─日本語になっていないもの:
「そのとき彼は集中的思弁による考慮が駆け抜けるのためには肝心の朝だった。」

―ただの超訳:
「勿論そうだわ。貴方の心が私を求めている。その声が聞こえたのよ!」
(原文:”Yes”)

主に出版社の事情によるもの(※)

─文庫オリジナルで出した作品をハードカバー化する
「文庫でしか読めなかった作品だったのですが、熱烈なファンから是非ハード
カバーで読みたい、という声が相次ぎ、出版に踏み切りました。文庫版を
既にお買い求めの方にも愉しんでいただけるように、加筆修正致しました」

─短編3つでハードカバーを出す
「丁度テーマを同じくする短編が3つ揃ってしまった。うち一編は既に別の短編集
に収録されているものだが、企画者の情熱に動かされ再録することとした。
テーマを合わせる事で、また新たな世界観を愉しんで頂けるものと信じている」

─雑誌一挙掲載した月に単行本として出版する
「読者の期待に応え、長編一挙掲載!!」「読者の期待に応え、同時単行本化!!」

─改題により異題同本を買わせる
「この作品は公団社刊「萌え萌え殺人事件」を改題したものです」

(※)この場合、いずれも作者を含む全員が共犯者である場合が多い。

以上

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