“Come to Paddington Fair”
by Drek Howe Smith

発行所:MURDER BY THE PRESS、印刷:1997年2月

長らくお待たせ致しました。オープン以来、放ったらかしのこのコーナーでした が、一つ「旬」の話題をお届け致しましょう。先日、国書刊行会の世界探偵小説 全集第2期の掉尾を飾って上梓されるやいなや、各所から密室マニア・カーマニア の絶賛の声が寄せられているデレック・スミスの「悪魔を呼び起こせ」。
神技と呼ぶに相応しい2つの密室トリックは、20世紀最末期、世界一密室殺人に 対して口うるさい日本のすれっからし達の琴線を揺さぶったものとして、次なる 千年紀も伝えられるところとなるでしょう。
さて、そのスミスには他に長篇が2作あって、そのうちの1作は探偵小説界の ペリー・ローダンとでも呼ぶべき「セクストン・ブレイク」物。残る1作が、 ここにご紹介するアルジー・ローレンスものの第2作“Come to Paddington Fair”であります。
内容は、衆人環視の劇場での射殺事件を扱った本格推理。誰の目にも明らかな 単純な事件と思われたものが、複雑にして不可解な状況を招くという作品です。
舞台上の空砲と舞台下からの発砲、果して主演女優を死に至らしめた銃弾はどこ から発射されたのか?鉄壁のアリバイに対して繰り返される仮説と論証、華麗 な論理のアクロバットを堪能できる傑作!だそうです。なにせ、私は未読です。 (詳しくは、国書刊行会「赤い右手」月報の久坂エッセイ、世界ミステリ作家 事典の森解説をご覧下さい)

では、なぜ、この本が「書痴の地獄」なのか?
そう、実はこの本は、英国人によって英語で書かれた作品であるにも関わらず

日本でしか出版されていない作品、それも同人誌

なのであります。
「珍しい同人誌」ならあるでしょう。だいたい同人誌なんてものは「珍しい」 と相場が決まっています。「未訳の長篇ミステリ」、これも星の数ほど存在します。
しかし!「日本でしか出ていない英語の長篇ミステリの同人誌」というのは 麻雀でいえば、大三元字一色が親の配牌で出来ているようなものです。
この世に百部未満しか存在せず、英米のマーケットにも先ず出現する事がない 「幻の作品」!
これを「地獄」と呼ばずして何を「地獄」と呼びましょう!


探すったって、どこを探すねん?!

そしてその<奇跡>を成し遂げた御仁こそ、かの森英俊氏その人であります。
かつて、欧米に先駆けてRVフーリックの「迷路の殺人」の上梓にこぎつけた 江戸川乱歩の偉業にも勝るとも劣らない「壮挙」と申し上げても過言ではあり ますまい。この時代にスミス氏と森氏の奇跡に立ち会えた事を心から感謝して おります。ありがたや、ありがたや。

だから持ってるだけじゃなくて読もうね、買った人たち。(<お前もじゃ!)

以上

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