1999年「猟奇の鉄人」購読ベスト10



ぱんぱかぱーん\(^0^)/

では、公約通り、昨年、kashibaが1日1冊以上読んできた作品の中での
ベスト10をご紹介致します。あくまでも極私的観点での順位付けであり、
古今東西新旧問わずのはちゃめちゃ読書ですので、
「まあ、こんな風に受け取る奴もいるか」程度の座興でございます。
ただ面白さだけはkashibaが責任もって保証します。
機会があれば、是非お試し下さい。損はさせませんぜ。
尚、感想は、そっくりそのままの日記の引き写しであります。


第10位
「真珠郎」横溝正史(角川文庫)

美しい。ミステリとして非常にサービス精神旺盛な作品。しかも視覚的

な演出も申し分ない。地下洞窟の首無し死体、足を水上に突き出した
惨殺死体、蛍火に映し出される濡れた美しき殺人者、鉄格子の間で繰り
広げられる日本間の凶行。正に場面が色付きで脳裏に浮かぶ。そして、
悪意の結晶である怪物的犯人像。呪われた血が美貌の下の歪んだ快楽を
呼覚ます。運命の糸に翻弄される記述者、椎名耕作が最後に挙げた叫びに
正史の美学が迸る。由利先生が思わせぶりに殆どネタバレすれすれのヒント
をくれるので、大抵の読者に犯人の見当はつくだろう。実は、これこそ
「かなりの無理を力ずくで通した作者の企み」ではなかろうか?
即ち、読者の推測を当てさせ、そのカタルシスで、物理的な犯行可能性
から目をそらす作戦ではないかと感じたのである。記述も実は結構アン
フェアだったりする。
しかし、しかしである、正直、開巻忽ゾクリとくる手応えのある作品で
あった。なんという「語り」の力。ストーリーテラー横溝正史のサイキ
が発光植物の如く読者を幽玄の迷宮に誘い込む。狂人と犯罪者の間に狂い
咲いた妖花:真珠郎。そのネーミングで既に、読者は作者の術中に落ちる。
これまで読んだ戦前の作品の中では一番面白く読めた。傑作。
併載の「孔雀屏風」も候文の書簡が、話に文格を与え、驚愕の仕掛けを
巧みに隠しおおしている。真珠郎が横綱相撲ならば、こちらはするりと
した日舞の世界であるが、まんまとやられました。最後は時局ものに
落ち着くのだが、この作品の場合は作中に消化しており鼻につくという程 ではない。


第9位
「田舎の事件」倉阪鬼一郎(幻冬舎)

恐怖作家の隠し玉。総ての<田舎>なるものをとことんコケにした、笑殺御

免の短編集。「ちらーの会」でサインして頂いた最新刊。巷の評判は非常に
よい。帯では有栖川が誉めちぎっている。これは期待せずにはいられない。
知的暴走が狂気に呑み込まれる「村の奇想派」、<東京12チャンネルを呼
べ!!>「無上庵崩壊」、腑に落ちるカタストロフ連鎖「恐怖の二重弁当」、
村の大いなる助走、踏み切り失敗「郷土作家」、残酷なるツイスト<ただひ
とつ、旗影高し>「銀杏散る」、永遠の郷土の誇りの物語「亀旗山無敵」、
全てのトリックを超越する脳の中の密室「頭のなかの鐘」カーン、田舎のエ
ントロピー極大「涙の太陽」、体験談ですか?「赤魔」、面白うて、やがて
悲しき不完全犯罪「源天狗退散」、この作品集の中では意外にまともな話
「神洲天誅会」、書痴の天国・ネットの地獄、綺麗な花には穴がある「文麗
堂盛衰記」、本の最後にこんにちは、作者も読者もこんにちは「梅の小枝が」
うふふふふふふふふ。
面白い!文字の本で、身も世もなく笑い転げる快感はそう味わえるものでは
ない。例えば、中期筒井康隆、あるいは初期かんべむさし、そういった天才
たちのそれもごく一部の時期の奇蹟。この作品集は充分にその高みに達して
いる。少なくとも「頭のなかの鐘」は、本年度の協会のアンソロジーに採用
されなければならない。後は「源天狗退散」がツボに入った。松山三恵ちゃん
も可愛いぞ!文庫落ちしたら万人にお勧めできる作品集。
冒頭、総ての<田舎>なるもの、と申し上げました。あれは「日本」の事で
あります。はい。
]

第8位
「星虫」岩本隆雄(新潮文庫)
入手困難


某DASACONのオークションで異常な高値を呼んでいる作者の処女作。
第1回日本ファンタジー・ノベル大賞最終候補作というから、かの「後宮小説」
と賞を争ったことになる。なるほど、少し相手が悪かった。
ある山中から宇宙船が発見される。しかし、調査隊がその宇宙船に入り込もうと
した時、その船は人間たちを排出し、猛スピードで外宇宙へと消え去る。
そして、3年後のある夜、空から降ってきた30億個の光る物体は、人類の6割
の額の張り付く。その「星虫」は、宿主の五感を高める以外に何の害もなさない
生物だった。少なくとも最初は。宇宙飛行士を夢見る女子高生、友美は、研ぎ澄
まされた感覚で「地球の声」を聞く。彼女を夢へと駆り立てた恩人との「再会」
は、一つの恋の始まりであり、人類をある方向へ駆り立てる大冒険への導火線と なる。
素晴らしい。ジュビナイルSFの一つの理想型である。こちらが気恥ずかしく
なるほどの「宇宙への憧れ」といい、漫画的なキャラクター配置といい、安心
して<読める>展開といい、どこを切っても初々しさがぽろぽろと零れ落ちて
きそうな作品。こんな面白いジュビナイルSFは、小学生時代に読んだ「大宇宙
の少年」(RAはインライン)以来かも。とにかく元気をくれる作品である。
これまで、知り合いが入院した時などに差し入れる小説は山田正紀の「火神を盗め」
と決めていたのだが、この話も是非そこに加えたくなる。
問題は2つあって、一つは、生理的に虫がだめな人には耐えられないかもしれ
ない、ということ。実に克明に額に取り付いた星虫の成長が描かれるのだ。
そして、もう一つの問題は、勿論「本がない!」事である。さあ、探せ!


第7位
「プリズム」貫井徳郎(実業之日本社)

と、書き出そうとすると、これが難しい。いや、非常にリーダビリティーの高い

本格スピリッツ溢れる作品である事は確かなのだが、ここまで構成に工夫を凝ら
したミステリを読者の楽しみを奪わずに紹介するのが、至難の技なのだ。その意
味でこの小説は「評論家殺し」である。展開を大事にしようと思えば思うほど、
何も語れなくなる。事件は実に「平凡」である。小学校の女性教諭が、睡眠薬入
りのチョコレートを食べ昏睡したところを時計で頭を打たれて死んだ。窓ガラス
が割られてそこから侵入した形跡がある。以上。しかし、そこから「本格の奇跡」
は始まるのだ。しかも、論理の一本道を辿っていくと、最後には「いつも心に
クエスションマークを、司会の古館伊知郎でございます」に行き着く。4章から
なる各章の語り手を代え、1章毎にツイストを利かせながら論理的な結論を導い
ていく。よくぞ、こういう連載を可能としたものだ。作者並びに編集者の心意気
に感心する。その意味ではこの作品は「(出版形態も含めた)実験小説」である。
そして、推理小説の妙味を何に求めるのかによって、かなり評価が分かれる問題
作でもある。神の如き名探偵の快刀乱麻を断つ推理によって最後に全ての謎が解
かれる予定調和の世界こそが推理小説の精髄であると考えておられるのであれば、
この作品は「反本格」であろう。それも、「異教」ではなくて「異端」である。
それは、方法論が限りなく「本格」であるが故である。アントニー・バークリー
は、黄金期に数々の名作を生みながら徹頭徹尾アウトサイダー的感性を保ち続け
ていた希有の天才である。しかしその彼でさえも「誓い」故に異端を異端として
透徹するためには倒叙的手法を用いねばならなかった。幸運にも現在に生きる作
者には、その頚木はない。その意味でこれは「世紀末なればこそ咲きえた異端の
本格推理小説」である。願わくば、マイナー出版社の営業力の限界を超えて幅
広く読まれん事を。なにしろこれは「参加型推理小説」なのだから。
締めくくりに、御礼の意味も込めて私なりの煽りを一発。
「世紀末、<異端>は『館』から解き放たれた。3行記事的事件から推理のアク
ロバット・ゲームは始まる。推論の構築と破壊のロンドは新・本格への鎮魂曲か。
君は論理の地平に、知のウロボロスを見る。黄金期へのオマージュを込めた本格
推理の傑作、ここに登場!」
楽しませて頂きました。どーもです。

第6位
「幽霊が多すぎる」Pギャリコ(創元推理文庫)

なんとポール・ギャリコのオカルトミステリ! これぞ創元推理の隠し玉!

ROM106でアンケートを取った際にも、「メリーの手型」については
「知られざるオカルトミステリ!」という声が挙がったのだが、まだ他にも
あったとは!!( ところで、我孫子解説では、この「メリーの手型」も
アレクサンダー・ヒーローもののオカルトミステリであることが触れられて
いないのは大いなる手落ち。ギャリコ・ファンの名が泣きますぜ、先生。)
英国の斜陽貴族の館で相次いで起こる幽霊騒ぎ。部屋を掻き回すポルター
ガイスト、夜な夜なしのび歩く尼僧の霊、誰もいない筈の部屋で奏でられる
ハープ。館をカントリークラブに開放して日銭を稼ぐ主らにとって、幽霊屋
敷の悪名は、なんとしても避けたい所。当主とその妻子、当主以上に当主ら
しい当主の妹、厄介ものの甥、長年の隣人たち、当主の息子が心を寄せる
美貌の米国人女性、そして一癖も二癖もある9人の逗留客、複雑な人間関係
のもとで繰り広げられる、数々の幽霊事件。その謎を解くために召喚された
オカルト探偵こそ、我らが<ヒーロー>。そしてその相棒を務める伯爵令嬢。
実に多彩な登場人物たちが小説巧者ギャリコの指揮にのって、華麗な神秘と
論理の物語を奏でる。
これぞ、黄金時代の香気漂う推理小説!こういう作品が読みたかった!
惜しげもなく投入されるトリック、夫々に思惑を抱えた血肉を持ったキャラ
クター達、軽妙洒脱な語り口。ああ、まだこんな作品があったのだ! カーの
ケレン味はない。でも、どこかで懐かしいこの雰囲気。そうか、あれだよ!
スラデックの「黒い霊気」!大発見:サッカレイ・フィンは<ヒーロー>の
末裔である! 久々に「読み終わるのが惜しくなる」傑作でした。お薦め。

第5位
「フレンチ警部とチェインの謎」FWクロフツ(創元推理文庫)

フレンチ警部ものの第2作だそうである。またしても私の蔵書は初版だった。

うーん、28年ものの積読? ああ芳醇なヤケ具合がなんとも。
熱血英国青年マクスウェル・チェインを襲う奇妙な事件。最初は、ホテルで
言葉巧みに近づいてきた紳士に一服盛られ、続いて自宅が強盗にあった。
果して悪党どもの狙いは何なのか?海上への誘拐を切っ掛けに事件は動き始
め、チェインの逆襲が始まる。幾度となく死線をさまよった彼は、真相に迫 るが、、、
最後は海洋ものの要素も加わった正統派英国冒険小説。思い込みというのは、
恐ろしいもので長年「チェイン氏」というのは禿のおじさんだと信じていた。
この勘違いの元はポケミスのクロフツの写真だと思う。ところが実際は、小
説の心得もある20代後半の向こう見ずな田舎青年ではないか。ここでまず
びっくり。しかも開巻から、事件また事件、活劇また活劇、謎また謎の乱れ
撃ち。事件の中心となる暗号が読者の前に示されるのは、終盤になってから
なので、暗号解読の楽しみは少ないが、これほど元気のいいお話だったとは。
フレンチ警部が、紙切れに残された数文字から犯人の足取りを突き止めたり、
ちょっとした手品的トリックが盛り込まれていたりして足の推理作家にして
理科系推理作家クロフツの面目躍如たる部分もあるが、なんといっても本作
の真骨頂は英国人に脈々と流れる冒険の血である。これはクロフツの「宝島」
である。展開が御都合主義であるとか、人物造形がステロタイプであるとか、
野暮は言いっこなし!
本格至上主義の青臭い中坊時代に読まなくてよかった、と思える快作です。
って、積読の言訳じゃないからね。

第4位
「パコを憶えているか」Cエクスブライヤ(ポケミス)
入手困難

900番台ポケミスで「さむけ」「流れる星」と並んで好評の作品。
「さて、いかほどのものか?」とちょっとワクワクしながら取り掛かった。
アングロ・サクソンでないので名前に親しむのに一苦労(メグレよか
ましだけど)。しかし、その苦労は報われます。
一読、これは傑作!一見、暗黒街ものなのだけど、とてもとても一筋縄では
いかない。嬉しい驚き。本格推理をやるのに、館も孤島も密室もオカルトも
衒学趣味もいらん!本格とは心だ!って感じ。
厳密には、かなりアンフェアすれすれのような気もするが、犯人は最初から
目の前に晒されているし、人称の切替えも見事だし、やはり傑作ですね。
殺しすぎだし、そうあっさり殺されるものか、という疑問を呈するのは
易しいが、その程度の疵をふっとばす本格魂が、この作品には宿っている。
これを絶版にしている早川はアホです。

第3位
「MOUSE」牧野修(早川JA文庫)

これは文句無しの傑作。日本人にこれほどのジャンキー小説をかけるの

が正直不思議。クスリヤッてんじゃないの?と思わせる程のイマジネー
ションと活字の奔流が快感。背骨に冴え冴えとした狂気を忍ばせた言語
感覚と、古典的とも言える堂々たるストーリー展開。この類の話が最も
苦手な私のぎりぎりの許容限度(いや、この話で広がったかもしれない。)
うーむ、「こやつ、ただのネズミではない」(笑)。
こういう話を書く人間が実は純正関西オヤジで、串揚げにどっぺり
とんかつソースかけてホッピーで一杯やってたりするに違いねー。
などと、妄想はぶれーどらんなー方面へ。

第2位
「おもいでエマノン」梶尾真治(徳間文庫)
入手困難


続編の「さすらいエマノン」が入手できたので、いよいよ数ある梶真の中
でも評判のよい噂の<エマノン>を読む。
一読、これは「ツボ」に来た!
30億年分の生命の記憶を持つ少女エマノン、新たな「時の旅人」伝説が
ここに!!甘いビルトゥングス・ロマン、夫婦愛もの、純活劇、変身譚、
超人神話等などアレンジを代えながら胸の奥に響く生命賛歌のモチーフ。
60年代後半に闊歩していたフーテン娘の出立ちで、時を駆け抜ける記憶、
それは、ガイアの命の記憶そのもの。本作は、梶真版「火の鳥」であり、
まさに大林宣彦解説に言う「甘くて、痛い」小説である。
No Name を逆から綴った Emanon というネーミングのセンスの良さ!
人生を一瞬のフレームに切り取ってみせる技の確かさ!
そして深く根を下ろした千年樹の如きSFマインド!
仮に梶真が本作のみしか書かなくても日本SF史上に名を残したであろう
傑作。表紙の高野文子の絵もよい。大林宣彦の後書きが、これまた良い!
この文庫は買い!絶版にしている徳間書店は出版社の名に値しない「営利 企業」。

改めまして、パンパカパーン\(^0^)/
99年の第1位!!!!
これです!!

第1位!!
「鬼女の都」菅浩江(祥伝社)

プロデビューを間近に控えた売れっ子女流同人誌作家が自殺を遂げる。京を
舞台にした王朝絵巻を得意とし、自らも京女の極致を演出していた彼女。
その死の謎を追う3人のファンを鬼の棲む都の化身である「ミヤコ」が襲う。
観光都市の愛想の下に潜む都の矜持が、川を逆流させ、餓鬼を召喚する。
千年の都の呪いを払うのは、小袖の赤か、三味の音か?
法月綸太郎:推薦文、京極夏彦:装丁、著者渾身の本格推理初舞台!!
やっと入手できた3年前の菅浩江小説。マイナー出版社の本は足が速くて
いけません。入手して初めて推理小説だという事に気がついた。うひゃー。
それも不可能趣味が盛り込まれた本格推理なので更に驚く。自分の得意な
京都と能と同人誌界を題材にとった著者の筆致は軽く、端役に至るまで見事
に命が吹き込まれている。名探偵役もキャラが立っており、凡百の新・新本
格作家との格の違いをみせつける。
解決は、まずこれしかないだろうというものであったが、実に読ませる!
これほど心からわくわくした小説は、久しぶり。京極の塗仏以来かな?
全体を能の序破急に見立てた構成といい、京都に関する知識といい、借り物
でない同人像といい、恐れ入りました。これは傑作です。もっと話題になっ
てしかるべき話です。是非文庫化されて、広く読まれるべき作品です。
あかん、もう、菅浩江の虜やわ。
(まだ版元には在庫在りとの由ですので、是非皆様お取り寄せ下さい!!)

おしまい

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