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2004年2月29日(日)

◆原書が届く。
「Death on the Barrier Reef」Elithabeth Antill(英初版:カバー)
「Murder as an Ornament」Marjorie Boniface(米初版:カバー)
「Murder Most Ingenious」Kip Chase(英初版)
「Where There's a Will」 Kip Chase(英初版:カバー)
「Death Took a Greek Cod」 Norman Forrest(英初版)
「Lobster Pick Murder」 M.V.Heberden(米初版:カバー)
「Death before Dinner」 E.C.R.Lorac(ホワイトサークル)
「Ghost Wanted」 Finlay McDearmid(米初版:カバー)
「Death Box」 B.G.Quin
「Murder Rehersal」 B.G.Quin(英初版)
「Crazy Murder Show」 Sutherland Scott(米初版)
入手先は見る人が見ればお判りいただけましょう。毎度ありがとうございます。
「Murder Most Ingenious」はエイディの密室本で紹介された作品。
QuinはMK氏の絶賛本。ロラックが進んだのも嬉しい。この2、3ヶ月に一度の原書買いがいまや唯一の「本買い」と呼べるレベルの買い物かも。
◆午前中は只管日記を書き、午後18日ぶりに浮上。
小出しにしたいのは山々なのですが、本の雑誌の関係で毎日少しずつ更新時間を削り取られこんな事になりました。>須川さん
んじゃ、改めて佐賀潜本よろしくです。その「役に立たなさ感」が益々収集欲をそそります。>よしださん
◆書影用の本を確保に「遠隔書庫」へ。ついでに、30冊ほど読了本・ダブリ本を持ち込み。しかしながら本宅の本は全く減った気がしない。閾値ってのはどれぐらいなんだろうね、全く。
◆ううう、今日の1冊を読みきれなかった。リープ!いや?


2004年2月28日(土)

◆朝早起きして、昨日読み終われなかった課題本を読み進む。ぜいぜい。
◆エコエコアザラク第7話・8話視聴。7話は佐伯版第2話の焼き直し。活弁仕立ての演出がユニーク。ここまでのお話を整理する意味ではよかった。後年の話題にはなるだろう。8話は、都市伝説・黒井ミサの本質に迫るお話。これも実相寺監督作品を思わせる絵作りで、製作者側のやりたい放題ぶりが伝わってくる。邪眼のキャンギャルは売れっ子ニュースレポータへと成り上がり、シリーズに横たわる邪悪の歯車が回り始めた事を告げる。ああ、早く先が見たい。8話でペンタグラムの中に胡座に座るミサの絵柄がイイっ!
◆娘を公園に連れて行き砂場遊び。ついでにブックオフでお買い物。
「幻のハリウッド」Dアンブローズ(創元推理文庫)
d「13の判決」ディテクションクラブ編(講談社文庫)
d「不潔革命」村田基(シンコーミュージック)
スタージョンやカーシュの再発掘が「異色作家短篇集第4期」だとすれば、「幻のハリウッド」は「ソノラマ文庫海外シリーズ補完計画」かな?昨年話題を呼んだクロスオーバーな映画テーマのトライライトゾーンを古本ゲットだぜ。「13の判決」は講談社黒背文庫で是非押えておかなければならない短篇集の一つ。中身よりも、なぜか「英国推理作家協会編」と誤記されている事で有名。


◆「赫い月照」谺健二(講談社)読了
とにかく分厚い。二段組の単行本で600頁弱ある。しかも、表題と同じ作中作、超越推理小説『赫い月照』の電波な文体が読者の脳味噌をとろけさせ、リーダビリティーを奪う。加えてテーマが重い。あの日本国中を震撼させ、そのあおりで佐伯日菜子版「エコエコアザラク」を放映中止に追いこんだ「酒鬼薔薇聖斗事件」がモチーフとして用いられている。そして、なんと作者は、これまで探偵役に用いてきた女振り子占い師・雪御所圭子にその「十字架」を背負わせたのである。こんな話。
1985年、その石の黒獅子像は女子高生の首を喰った。首を刎ねたのは辻悠二という少年。腐臭の漂う家を脱け出し廃屋となった洋館の外で悠二のおこなった消失の儀式。それを目撃した妹・圭子。兄の逮捕と狂騒、母の自殺と諦観、そして「謎」は圭子に憑く。
2000年。大震災以来離人症に悩まされ失職した男・摩山隆介は、3年前に起きた「酒鬼薔薇事件」にインスパイアされ、推理小説の執筆を思い立つ。隙間風が流れる同棲相手との溝を埋めるべく、そして心理カウンセラー御久羅百合子の薦めもあって、綴り始めたその作品の題名は『赫い月照』。そこは、奇矯な世界。血飛沫零という主人公が、果てしない殺戮を行い、消失と再生と混沌の中で徘徊する物語。その世界が徐々に現実界へと滲み出す時、百年の時を越えたストーンサークルの呪いが震災の街を戦慄させる。繰り返される密室。死を囲むホラービデオ。挿入される兄妹の会話。流転する生首。逆かさ言葉の暗喩、裏返しの真実。模倣と同一性の罠に落ちた操りの果て、因縁を照らす、赫い月。
これは、分厚い。いや、ページ数もそうなのだが、それ以上に物語として分厚い。ここには様々な形の現代の病理が描かれている。誰もが傷つき、壊れたマリオネットのように捩れ、弾む。そして倦む事なく仕込まれる「不可能犯罪」。神戸という街を襲った「大震災」と「酒鬼薔薇」という平成の二大惨禍を斯くも重厚長大な心理的・物理的不可能犯罪サーガに仕立て上げた作者の豪腕にはただもう脱帽。畏敬の念すら感じる。この物語としてのマグニチュードは凄い。島田荘司が拓いた社会派新本格の大地に屹立するサイコパスの迷宮、作者がデビュー作から追い続けてきた破壊と再生の物語はここに魂の十字架を打った。そして神戸、さらば神戸。


◆「幻のハリウッド」Dアンブローズ(創元推理文庫)読了


2004年2月27日(金)

◆Y頭書房の楠田匡介はあっさり売り切れ。まあ、あの値段だと当りっこないわね。競争率を知りたいものである。
◆プチ残業。購入本0冊。「無法地帯」の怪獣プレゼントには駆け込みで応募。


2004年2月26日(木)

◆デフォルト買い1冊。
「ハヤカワミステリマガジン 2004年4月号」(早川書房)
今回はホームズ特集に加えてフーリック、芦辺拓、山田正紀というワタクシ好みのラインナップ。ホームズ特集ではセイヤーズのラジオドラマが大発掘!もので、なかなか最近のHMMは侮れない。古典好きのツボを心得ているというべきか。とはいえ、3月号で二階堂黎人のベスト3を丸々落っことしたというのは、久々の大ポカ。まあ「ミスプリマガジン」ぶりも健在であるのは(当事者はそれどころではないだろうが)オールドファンとっては頼もしいところだったりする。まだエッセイしか拾い読みしていないが、新保教授やら茶木販売員の「愚痴」には近親憎悪を感じてしまった。芸風が同じだと読んでいて辛いんだよなあ。


◆「鉄路の恐怖」鷲尾三郎(同光社)読了
たまには「チョイめず」を読んでみる。後期通俗作品を読むたびに失望の連続であった鷲尾三郎だが、比較的初期の長編ならどんなものかと貧架の並びから引っ張り出してきた。題名から、時刻表ミステリを期待したが、どっこい、踏み切り近くでの連続轢断死体事件という「下山事件」にインスパイアされたネタであった。こんな話。
東亜キネマを見舞う死神の翳が最初によぎぎったのは、11月中旬の日曜日の事であった。人出で賑わう銀座を闊歩する4人の男女、当代一級の売れっ子監督・南条英男、彼の秘蔵っ子の新人女優・青砥マリ、南条の別れた妻である宝塚出身の看板女優・鳴海千鳥、そして助監督の猪田。二枚目俳優・尾形光哉との恋愛遊戯の結果、妊娠してしまった事をひたかくしにするマリ、南条への想いを断ち切れない千鳥、そしてマリへの恋慕を南条に叱責された猪田、そんな一行の前に男が空から落ちてくる。男はシベリアの捕虜収容所での同胞虐待を指弾された一人だった。自らも同じ境遇であった南条は自殺者の気弱をなじり、心のバランスを保とうとするが、そんな彼の許に、死者からの招待状が届けられる。更に、青砥マリの自殺によって、世間は南条に対し「弟子を弄び死に追いやった冷血漢」という誤解の眼差しを向ける。更にマリの穴を埋めるべく旭映の看板女優・山科薫を引き抜いたことで、逆に自らが育てた尾形を抜き返され、組織紛争の焦点にたたされた南条。そして惨劇は撮影所に程近い鉄路で起きた。無惨な轢断死体となって横たわる映画監督。果して彼を死に導いたのは、戦時中の怨念?愛憎の縺れ?組織の理論?真相を追う曾我部刑事を嘲笑うかのように、再演される死の罠。澱みの底から告発するのは誰なのか?
馬鹿トリック一閃!深刻に綴られた人間模様を吹き飛ばすそのオバカっぷりに思わず好意を抱いてしまった。舞台は時代の花形である映画界。虚飾の果てで明かされる情味溢れる動機やら、捕虜収容所での虐待といった当時ならではの社会性やら、惨劇を繋ぐ遺言状の手品的移動やら、人間心理の機微をついたアリバイ偽装やら、そんなこんなをすべて無効化してしまう凄さである。とにかく、「なぜそうまでして面倒な事を!?」という説明がない。単に犯人が(というか作者が)その悪魔的なトリックで人を殺したかったから、としかいいようがないのである。恐るべきは鷲尾三郎。なるほど、これは絶版だわ。


2004年2月25日(水)

◆帰宅したら同人誌があれこれと到着していた。
「別冊シャレード74号 天城一特集9」(甲影会)
「別冊シャレード76号 天城一特集10」(甲影会)
「別冊シャレード80号 山沢晴雄特集7」(甲影会)
買いそびれていた天城一特集の2冊と新刊の山沢晴雄。天城9は評論&ショートショート、天城10は作品論・目録。まさに天城一全集の最終巻といった趣。何故か風見さんの実作「店外消失」が収録されている。何か深淵な意味があるのかと思ったら、単なるページ稼ぎのようだ。謎。ここはどうせなら、書下ろしオマージュを書いてください。お願いします。題名も決まってます。

「急行《あまぎ》」

山沢晴雄本は、砧順之介シリーズとしては最後だが、別冊シャレードではまだまだ山沢特集を予定しているらしい。これも最後は「作品論・目録」かな?なんとなく損した気になるかもしれないが、本来の別冊シャレードというのは「作品論・目録(+インタビュー)」なのであって、これまでの「天城特集」「山沢特集」が極めて特殊なのである。天城号と山沢号しか買ってない人は勘違いしないように。

◆もうひとつはSRマンスリーの最新号。のっけの挨拶がすごいぞ。

あけましておめでとうございます

つまり今年の1月号。で、投票リスト号なので、記事は少ない。少ないが元東京創元社の編集者だった松浦正人による「都筑道夫の生活と推理」はよく出来た追悼論文。SRの面目を保った。新作リストを見て国内500冊弱・翻訳300冊強のうち読了は、国内36・海外31。へえ〜、珍しく海外結構読んでるじゃん。投票締切は3月5日。月田さんみたく読むたびにSR式点数つけている人は投票も楽だろうなあ。それにしても、一応、それなりに目配りしているつもりでも、知らない作家の多い事多い事。翻訳は最初から諦めているのだが、国内で、これだけの作家がいるのか?と改めて驚かされる。鮎川ゆうほ?、新井洋二郎?、荒木源?ただもう「誰やねん?」状態である。このリストの全ての作品を読んだ人間はいないと断言していいのではなかろうか?西村京太郎だけで12冊あるんだもんなあ。


◆「試験に出るパズル」高田崇史(講談社ノベルズ)読了
「QED」シリーズが追いついてしまったので、作者のもう一つの短編シリーズに手をだしてみた。通称「八丁堀」、といっても同心ではなくて浪人のボクが、巨漢の悪友・饗庭慎之介と巻き込まれる<事件>の数々。その謎を、キューさばきも鮮やかに解決していくのは、理系アタマでジャニーズ系の従弟・千葉千波。パズル愛ずる高校生、ここにいずる。
「9番ボールをコーナーへ」シリーズ開幕編。衆人環視の中で、麻薬の取引場所は如何に伝えられたか?不可能犯罪の謎を「名探偵」が解いた時、二重底の真相は隠される。とりあえず、普通の語り手・浮世離れした探偵・筋肉番付な警察関係者という人物配置は必勝パターンとして、物語の方は迷走気味、黒後家蜘蛛クラブとみせかけて、シュロック・ホームズだったりする。文系からみると探偵の魅力では、やはり遠く「タタル・サーガ」には及ばない。
「My Fair Rainy Day」オバタリアンで賑わうレストランで起きた黒真珠消失事件。バイキング料理は見ていた。メイントリックはクリスティーのバリエーションだが、動機が優しいので許す。
「クリスマスは特別な日」都内で連続する爆破事件。事件の日付に隠された数字のレトリックと狂ったロジックに挑む名探偵。数字遊びには思わず膝を叩かされたが、自分で否定しちゃってるところがなんとも。
「誰かがカレーを焦がした」さあ、洒落た夏の休日、仲間が集えば食べ物はカレーだ!煮込みと寝かしの狭間で、何が起き、何が起きなかったのか?優しさ溢れる解決まで、絵に描いたような「日常の謎」だが、叙述トリックが御見事。文化系向き。
「夏休み、または避暑地の怪」西瓜盗人を追って辿り着いた「狸」の寺。嘘と真実が縺れる論理ゲームの果てに現われた本当の真実とは。理科系の森博嗣が絶賛したという、「うそつき村」パズルの極致。文化系としては早く終わらないかなあ、という想いだけであった。


2004年2月24日(火)

◆朝起きて仕掛品の「あとがき」を仕上げて送稿。どんどん感想は溜まる一方である。
◆出先からの帰り、神保町をぶらつく。
「死体置場へのお誘い」山村正夫編(カイガイ出版)
「瞬きよりも速く」Rブラットベリ(早川書房:帯)
d「戦艦金剛」蒼社廉三(徳間書店)
d「人形とキャレラ」Eマクベイン(ポケミス・カバー)
山村正夫編のミステリー入門シリーズは、ようやくこれでリーチ。たった5巻本の割りには集まらないものである。まあ、余り熱心に集めていないせいでもあるのだが。ブラットベリは、昨今の<新「異色作家短篇集」>に走る前に、とりあえず、買うべきものを買っておけ、ということで今更ながらの購入。もう5年前の本なんですのう。後の2冊は、均一棚から。「人形とキャレラ」のフォトカバー付きは高値で先日拾ったところなのだが、今日遭遇した方が背文字の赤が綺麗だったのでムカっときて、拾う。「戦艦金剛」は戦記モノに混じってこっそり並んでいた。まずは「血風」と申し上げてよかろう。こういう本が、さりげなく均一棚にあるところが神保町の良さだよね。うん。
◆就寝前に、埋め草用の原稿を送稿。これで、原稿はすべて送った勘定になる。やれやれ。


◆「天使はモップを持って」近藤史恵(実業之日本社JOYノベルズ)読了
名探偵列伝に新たなヒロイン登場。へそピーのスーパーお掃除ギャル キリコこと嶺山桐子登場。といってもクライム・スイーパーという意味ではない。正真正銘の「掃除のおねえちゃん」である。オフィスビル一棟丸々をたった一人で磨き上げる傍ら、吸い込み仕事率610wのおせっかいパワーで詰まった人間関係、くすんだ心、歪んだ思いをびしびしと正すパワーに新米社員のボクはくらくら。軽快な「日常の謎」系のパズラーは、どこまでも業務(プロ)仕様だ。このシリーズで凄いのは、作者がまだ推理作家だけでは食えない時代に「掃除のおねえちゃん」をやっていたという事実。おおおお、やるではないか、近藤史恵!探偵は作家のイマジネーションでいかようにもなるが、「掃除のおばちゃんが推理作家だった」という設定(というか「事実」なのだが)には心躍るものがある。週刊小説に連載された諸作には、心の隅に埃を溜めた男女が綾なす「謎」が舞い、天使は7回モップを篩う。而して書き下ろしの英雄譚で四角い世間は丸くまとまる。以下ミニコメ。
「オペレータールームの怪」新人のボクを襲う資料紛失の罠。果たして「いじめ」の動機とは?シリーズ開幕編。過不足なく主役二人と常連キャラを紹介する手際のいい仕事。犯人の見当はつくがコロンボばりの心理対決が見もの。
「ピクルスが見ていた」自分で意思をもつかのように居場所を替えるカエルのピクルス。保険のおばさんが転落死を遂げた時、真相を教えてとピクルスは星に願いをかける。これぞ「日常の謎」。納得性の高い動機と陰謀。手掛かりが少なすぎるような気もするが、悪くない。
「心のしまい場所」なぜかマルチに走る総合職。キリコの捨て身技は彼女を救えるのか?本筋のストーリーよりも冒頭の詐欺紛い行為が凄すぎる。
「ダイエット狂想曲」時ならぬダイエットブームに湧く職場。それが歪みを増幅していることに気づいたのはキリコだけだった。さすがにこれは瞬時にしてネタが読めてしまった。ダイエットを巡る情報は斯くも素人にも浸透しているのである。
「ロッカールームのひよこ」キリコが消えた。そしてロッカールームで起きる謎の盗難事件。セクハラ親父が「ボクの家においで」と誘う時、柔らかな罠の口は開く。この作品集で最も怖い話である。このオチは読めなかった。脱帽。
「桃色のパンダ」ピンクのパンダが裂いたのは誰?ピンクのパンダを作ったのは誰?ピンクのパンダの謎を解いたのは誰?不倫は貴方のそばにある。シンプルなつくりの男女のドラマ。最後のツイストが効いている。
「シンデレラ」トイレを水浸しにして回る悪意の正体とは?灰かぶりの夢は王子様の悪夢。シンデレラの真実を愛する者に栄えあれ。歪んだ論理がチェスタトンを思わせる逸品。なかなか感動的である。
「史上最悪のヒーロー」母を失ったボクが結婚した相手は完璧だった。スーパー・スイーパーの姿が会社から消え、ヒーローは一人で落ち込んでいく。だが、ある日、他社でトイレを借りた時に懐かしい鼻歌が聞こえてきた。キリコ、カムバック!よろしいのではないでしょうか。


2004年2月23日(月)

◆プチ残業。購入本0冊。帰宅すると同人誌が1冊到着。
「Queendom 70号」(EQFC)
ああ、そういえば昨日がEQFCの例会だったっけね。お早い御着きで。創立24年目に突入。今号も140頁の大作。
今回の目玉は、クイーンの事件実録小説集「事件の中の女」からの5編の翻訳と、高木彬光が「七匹の黒猫の冒険」を換骨奪胎したジュビナイル「黒い化け猫」の再録。合評会「エラリアーナはかく語りき」にはなんと北村薫がゲスト出演して凄いことになっている。アンケートはここから3号続けて「靴に住む老婆」特集。読み物としては「『日本扇の謎』の謎」が「へえ〜」ボタン連打。幻の国名シリーズの真相を探る大胆な当て推量合戦が楽しい。真面目な評論よりもこういうどうでもいい先人の揚げ足取りや豆知識の類いの方に入れ込んでしまうのは「性格」としかいいようがないですのう。


◆「利腕」ディック・フランシス(早川書房)読了
競馬シリーズ第18作。元チャンピオン・ジョッキーの隻腕探偵シッド・ハレーを再登場させて、CWAとMWAを浚った輝いた中期の傑作。これまで、さながら将軍家の早飛脚の如く、駅毎に「名馬」たちを乗り換えてきた作者が、同じ馬を用いた切っ掛けは、テレビでのシリーズ化による(らしい)。そのシリーズでは、シッド・ハレーをフィーチャして「興奮」などの「別の馬」の事件を解決させたのである。日本でも、数本がNHKで放映されたが「なんや。全然違和感ないやん」と思ったものである。主人公を交替させるメリットは、異なった立場から競馬を立体的に語る事が出来たり、一つの人間関係に縛られず永遠の「成長物語」を描く事ができるところ。しかしながら、フランシスのキャラクターたちは1作で退場させるには余りにも惜しい、そう感じていたのが自分だけでない事は、この作品に対する全世界読者からの熱いエールが証明した。こんな話。
競馬界で既に伝説と化した私立探偵シッド・ハレーの元に3つの事件が持ち込まれた。
一つ、ジョージ・キャスパーが経営する厩舎が期待を込めて送り出す駿馬たちが立て続けにレースを落すばかりか、それ以降も駄馬への道を辿るという謎。
一つ、ジョッキークラブがお墨付きを出したシンジケートで勝ち馬操作が行われているという疑惑。その疑惑は、クラブ本体での不正行為へと発展する。
一つ、シッドの別れた妻ジェニイが慈善を騙った巧妙な取り込み詐欺の主犯格に祭り上げられるという事件。
柔道教師のチコを片腕に使い、隻腕探偵の調査が開始されるや、競馬界の黒い霧の中から、暴力の専門家が差し向けられた。潰された誇り、失われた愛、侵された循環、さあ、利腕を上げ、復活せよ、シッド・ハレー!
第17作での不調ぶりはなんだったのか?と頭を捻らせるほどに、ディック・フランシスの堂々たる復調を告げる探偵物語。馬潰しのトリック、不正疑惑の意外なる黒幕、元義父の信頼に応えるマン・サーチャー物語、そして、誇りの喪失と再生、まあ、よくぞこれだけのプロットを1作に盛り込んだものである。別れた妻との衝突ぶりや、残された腕を潰される恐怖に一度は調査から敗走する姿は、タフでテンダーなハードボイルド探偵とは一味違う人間味を感じさせ、なればこそ、そこからの復活ぶりが実に実に頼もしいのである。作者を甦らせ、探偵を甦らせ、読者の中に眠る「男」を甦らせる。ダブル・クラウンもむべなるかな。これぞ巨匠の仕事である。絶賛。


2004年2月22日(日)

◆半日二日酔い。昼からトイザラスを見て回る。「買え!」というメッセージに溢れた店内に、体温が上がる。子供の頃にこんな玩具屋がなくてよかった、と胸をなでおろす。フィギュアコーナーに、和服の姐さんフィギュアがあって「なんじゃこりゃ?」と思ったら「極道の妻たち 岩下志麻」だった。
「進化の袋小路」という言葉をしみじみと思い出す。


◆「白い兎が逃げる」有栖川有栖(光文社カッパノベルズ)読了
前略 Moriwaki様
御無沙汰しております。
先日読み終わった本について、どうしてもモヤモヤが晴れず、この思いを共有できそうな人が他に思い浮かばなかったものですから、筆を取った次第です。その本とは、有栖川有栖の最新作「白い兎が逃げる」であります。実は、この本を読了しての印象は「本格推理ってこんなにも面白くなかったかなあ?」というものでした。ところが、世の中の書評やSRの短評をみますと、どうもこの作品集は、相当に評判がよい。ここで悩んでしまったのであります。なるほど、収録された4編はどれもそれなりに努力や工夫のあとが見てとれます。
真正面から双子ネタを宣言したアリバイもの「不在の証明」、
カルトと粛清を題材にした異形の毒殺フーダニット「地下室の処刑」、
ダイイングメッセージを捨石に用いた変則倒叙推理「比類のない神々しいような瞬間」、
ストーカーという現代的な題材を関空特急と新幹線を駆使した兎づくしの時刻表殺人劇に昇華した表題作「白い兎が逃げる」
本格ミステリのコードを如何に現代の風俗の中で活かし、どうバリエーションで見せるか、その作者の悲壮なまでの真摯さに、思わず同情のため息が漏れてしまいます。それぞれに、例えば「殺意の双曲線」「三幕の悲劇」「Xの悲劇」「砂の城」といった、古典本格を如何に<ヌーベル・本格>にアレンジするか、一生懸命ネタ帳を繰りながら、あれとこれを組み合わせて、なんとか一本できないか、と頭を抱えているシェフの姿が脳裏に浮かんでしかたがないのであります。また、探偵の方も、ここにきて、益々、透明人間化が進行しており、萌え系読者は一体どこに感応するのか、謎は深まるばかりです。
なるほど、これは立派な新本格推理集であり、作者は逃げてません。相撲で言えば技能賞も敢闘賞も進呈できるレベルかもしれません。しかしながら、この作品集を読んで、本格推理にほれ込み、自分も本格推理作家を目指す人間はいないような気がするのです。なんと申しますか、読み物としての「華」がないというか。この作者の新作よりも、クイーンを再読していた方が実りも発見もあるように思えてならないのです。まあ、大クイーンと並べるのは論外としても、例えば同じ世代の新本格作家である芦辺拓・法月綸太郎あたりの作品と比べてもぐんと評価は下がるのです。
そこで、ふと思い付いたのは、芦辺・法月はいわば「古典落語」をアレンジしているのに対し(枝雀の芸ですか)、有栖川有栖は「新作落語」をやっているのではなかろうか?(つまり三枝のような)ということです。そう考えれば、これはもうこちらの好き嫌いの問題であって「俺は新作落語はどうも、もうひとつ」といっておればいいのかなと勝手に納得してしまいました。いや勿論、古典落語と新作落語の差がなんであるのかを解析いたしませんと本当の解決にはならないのですが、方向性としては間違っていないかどうかを御相談しようと思いました次第です。新作落語の屈託の無さ、時代の試しに遭っていない淡さが駄目な自分は単なる懐古主義の罠や、「古典は古典であるが故に尊い」という思考停止のトートロジーに陥っているだけなのかもしれませんが。でも、まあ、とりあえず、書いたらすっきりしました。妄言お許し下さい。
草々。


2004年2月21日(土)

◆午後から帰京。新幹線の友にマンガ1冊。
「ブラックジャックによろしく 第8巻」(講談社:帯)
がん治療編最終章。泣きました。正月のテレビ特番が如何にできそこないであったかよく理解できました。この作者は、外野から日本の医療を変えるかもしれませんな。
◆帰宅すると、森さんから本が到着。
「Mursder in All」William Deandoria(Crippen&Landru)
ロスト・クラシックシリーズ第10冊目。4編のマシュー・コブもの他、未発表作1編を含むデアンドリア短編集成。未亡人であるジェーン・ハッダムの序文が、これまた、がん闘病記で泣かせます。シンクロニシティーだよなあ。収録作の半数以上が邦訳されているものの、日本での長編紹介が停まって久しく、本国でもその多くの著作が絶版化している中、「クラシック」の一人として紹介された事はやはり寿いでおくべきであろう。
◆夜は連れ合いの実家で天婦羅パーティー。連夜の宴会である。ういっ。


◆「無法地帯」大倉崇裕(双葉社)読了
これは思わず、私の知り合いの大人買いをしている大人たちに勧めたくなるケッ作である。解決ズバットである。私はこの作家のファンになった。こんな話。

テーマ

♪ぎ〜りぎりまで頑張って
♪ぎ〜りぎりまで踏ん張って
♪どうにも こうにも
♪どうにもならない そんな時
♪古食玩が欲しい「ホラ、大人がーいやー!!」

主役1

♪あのね久太郎はね(大葉の久太郎はね)
♪頭にメドンの事しかないんだよ(ないんだよ)
♪きゅっ、きゅ、きゅっきゅぅ久太郎はね(久太郎はね)
♪オタクなんだ、オタクなんだ、オタクなんだけれど
♪侠客なんだ、仁義がすきさ
♪いつもオモチャを集めているんだよ(はあ、こりゃこりゃ)
♪だけど格好いいつもりなんだってさあ

主役2

♪遠く輝く<日本の山>に
♪僕等の願いが届く時
♪ビッグ・サイト 遥かに臨み
♪始発とともにやって来る
♪今だ!前進!レアもの狙い〜
♪ただ買え、ただ買え、うたがわはじめ〜
♪夢中のはじめー

主役3

♪警察なんか気にしないわ
♪仁侠だって、だって、だって御友達
♪怪獣着ぐるみ大好き
♪小道具・制服大好き
♪私は、わたしは、わたしは多々見
♪レアを自慢されると、ちょっぴり悔しい
♪そんな時こう言うの、獲物を見つめて
♪笑って、浚って、パクって、多々見
♪法律なんてさよなら、タンタン多々見

とまあ、ヤクザ・探偵・泥棒が三つ巴で、幻のプラモデル「大海獣ザリガニラー」を追う痛快オタクハードボイルド。21世紀、「聖杯伝説」は斯くも超進化し、「マルタの鷹」は斯くも超合金化した。とにかく、このオタクたち、滅法腕が立つ。マニアであったがゆえにそれぞれの道を踏み外した侠客と探偵。そして追う者が追われ、狩る者が狩られるルール無用のバトルロイヤル。暴力の狭間で垣間見せる「怪獣極道」同士の優しさがいい!掟破りの門外漢に示す無条件の非情が笑える!そして「あるある」な極悪ショップのヤラレっぷりに喝采を送らないマニアはいないであろう。更に、全編を貫く快傑スバットへのオマージュ。ちっちっち、お前のオタク度は日本で二番目だ。落語への憧れを本格のコードに託し、コロンボへの想いをパスティーシュに込め、「まとも」を装ってきた作者がついにその本性を外道照身霊波光線ものとに曝け出して世に問うたケッ作である。誰がなんといおうと私はこの作品を支持する。ヤルッツェ・ブラッキン!オーラ・ドンザウサー!ハイル、オオクラ〜ッ!

だから、読者プレゼントの「ザリガニラー」は私に下さい。(ぼそっ)