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2004年1月31日(土)

◆もう1年の12分の1が終わってしまった。安田ママさんの退職日である。ネットでの知り合いなので、むしろここは「これから、ネットに専念できますね」「旦那や実家に文句いわれずにすみますね」と慶ぶところなのではなかろうか、と小一時間。ただ、小松左京マガジンを常備したり、久保書店のSFシリーズをありったけ取寄せてみたり、マイナーなSF評論を平積みするような変に濃い棚が近所になくなるのは寂しいかもしれない。無事のご出産を祈念致しております。
◆よしださんの日記復活。3日サボった分、「エースをねらえ!」劇場がついているところが律義。

蝶「さあ、ひろみ。どこまでも私についてらっしゃい。紅天女の試演まで!」
宗「フォールト!」
千の敵役の顔を持つ女・松本莉

◆積録のエコエコアザラク第4話視聴。シリーズ悪役、元ミニスカポリス(来栖あつこ)扮する邪眼のキャンギャルが本格始動。魔女 対 邪眼の第1ラウンド。張ってきた伏線を漸く一つ消化。毎回これぐらい「対決」やってくれるといいんですけど。来栖あつこの役が地に被っていてとても怖い。
◆図書館へ行って本を借りてくる。膳所さんから「解説本」をご恵送頂く。
「アマンダの影」キャロル・オコンネル(東京創元社)
どうもありがとうございます。翻訳で、どれぐらい印象が変るものか、ちょっと読み比べてみます。


◆「ぼくらはみんな閉じている」小川勝己(新潮社)読了
横溝正史賞でデビューしながら、何故か新潮作家という印象の作者の初の短篇集。心の歪みと暴走を様々なシチュエーションで描いた「不快」の見本市のような作品集である。個人的には最早ミステリという範疇には含めたくないが、ジュリアン・シモンズあたりは「かっくん」「かっくん」と高く評価するのかもしれない。出てくるキャラクターの壊れっぷりを楽しむ話であり、「人の不幸は密の味」と開き直って読むのがお作法なのかなあ。
「点滴」暴君であった父の介護を行うオールド・ミスの怨念の心象風景。小説家志望のなれの果ての描写がノンリミット。しかし、最後にこの「筋」を書けたとすれば、それはそれで才能があったのかもしれない。一番ミステリしている一編。
「スマイル・フォー・ミー」兄貴のお下がりを心底愛したちんぴらの選択。男の純情は不器用の同義語。猥褻で哀切なラブ・ストーリー。落ちの付け方は割と普通。
「陽炎」暴君の夫に仕えてきた中年妻が、少年との不倫に走る時、嫉妬は紅蓮と燃え盛り、脂肪の襞で妄想は暴走する。ありふれた展開だが、オチにはびっくり。「ああ、そっちの話か」という感じ。主演女優はシャーロット・ランプリングで。
「ぼくらはみんな閉じている」青年が中年男に拉致され蹂躪され殺害されるまでの記録。想いのすれ違いに、もう笑うしかない。人間関係の真実を突いているが、これはあんまりだ。題名はオシャレ。
「視線の快楽」田舎作家が嵌まった不倫の盗視。若妻と少年の情事に占拠された脳内で崩壊の音がする。このラストは凄い。見たくない。
「好き好き大好き」職場のロリ・キャラに憧れたサラリーマンを襲うストーカー中年女の恐怖。心臓急停止もののショッカー。題名の意味するところを知った時、新たな戦慄が貴方を襲う。敢えて言おう。ケッ作である。
「胡鬼板心中」天才になり損ねた兄を追い続けた弟の物語。羽子板職人の技が妄念を昇天させる。横溝正史へのオマージュのような純和風奇譚。器用だが、ラストは作者の照れが出たのか、やや中途半端。雨月物語でいいじゃん。
「かっくん」単行本書下ろしの艶笑侵略もの。SFとしてみれば「何を今更」感が募る。
「乳房男」小柄な美人に惚れた男を待つ愛の陥穽。飼い慣らされて行く心と身体。究極のM男は、女神の胸に己が身を埋める。ヤプーのクールマーク。こういう趣味はないぞ、ないんだってば。


2004年1月30日(金)

◆というわけで、掲示板の方に文藝春秋の永嶋さんの書込みがございました。
ウッドハウスの刊行予定は、ネタでも洒落でもデマでもなくて、マジでホントです。

で、今更ですが、念のため、ウッドハウスの綴りは Woodhouse じゃなくて、

Wodehouse,Pelham Grenville

です。無理矢理の地口(「木屋満里菜」)が定着してしまうといけないので、一応書いておきますです。
◆財布に一万円札1枚と十円玉2枚の状態で定点観測。こういう場合、百均棚から1冊だけ拾いものをするには、一定の閾値を超える本でないと無理。結果、購入本0冊。
◆長文のメールへの長文レスでエネルギー消耗。人間が一日に書けるミステリネタには限りがあるに違いない。


◆「死のオブジェ」キャロル・オコンネル(創元推理文庫)読了
「天使の帰郷」読破に向けて三段跳びの第二ステップは、爛熟のNY美術界を舞台にしたシリーズ第3作。オコンネルのキャラクターたちは、突然自分の中にいる誰か(生者だったり、死者だったり)と直接話法で話をし始めるので、英語で読むと(「これは誰?わたしはどこ?」と)相当に頭が疲れるであろう事は予想に難くない。翻訳でも竹書房版の第2作までは、その部分での違和感が残っていたのだが、創元版の翻訳者・務台夏子は、そこを巧くクリアしていて非常に読みやすい。但し、訳題では直訳の竹書房版に軍配。「氷の天使」よりも「マロリーの神託」の方が明らかに洒落ている。第1作を「氷の天使」とやったものだから第4作を「石の天使」に出来なかったわけですな。この第3作の原題は「Killing Critics」。さしずめ竹書房なら「殺しに至る批評」とでも銘打ったところか?
被害者の名はディーン・スター。ビッグ・アップルに数多巣食うアーティストの一人だった。死体の傍らには「死」と記されたカードが、題名の如く添えられていた。人の死をパフォーマンス・アートにする殺人鬼の跳梁か?やがて市警本部には12年前、処も同じクーズマン画廊で起きた猟奇殺人事件との連続性を示唆する切り抜きが送りつけられる。12年前の「ピーター・アリエル&オーブリー」事件はその酸鼻を極める死体の処理法で、犯罪には慣れっこの筈のNYを震撼させた。バラバラにされ互い違いに組み上げられた若い男女の死体。それは、正に「死のオブジェ」であった。新進女性ダンサーとして頭角を表していたオーブリーの惨殺以来、その母で才能ある抽象画家だったサブラは人々の前から姿を消す。そして12年後、再演されたアーティスト殺しを追うマロリーたちの前にサブラの兄であり一流の美術評論家J・L・クインが立ちはだかる。養父マコーヴィッツすら迷宮入りにせざるを得なかった12年前の事件と現在の連続殺人に挑む碧眼の破壊天使マロリーとその「庇護者」たち。だが、彼等の捜査を喜ばないのはクインだけではなかった。マロリーたちの上司にして腐敗警官・刑事局長ブレクリーが執拗な妨害を仕掛けてきたのだ。屋上で酩酊するもう一人の美術評論家。芸術の名の元に死を弄ぶ画廊経営者。疵を癒した建築家。彼を追う人間脂肪細胞。己が見えない老マフィア。街に溶ける老婆。ミサは荘厳に、復讐は冷徹に、歪んだ伝言ゲームの果て、天使は裁きに間に合うか?
原題がすべてを表している骨太の犯罪読み物。「犯人こそが芸術家であり、探偵は批評家にすぎない。」という言説があるが、一方では「よき批評家こそが、芸術を見出せる」とも言う。このエピソードの中で名探偵マロリーが見出した真相は、芸術と呼ぶには余りにも救いようがない間違いの悲劇であった。そして、それは彼女自身の遠過去に重なり、NYとの臍帯を喪った天使は自らと向き合うために飛翔する。ここにあるのはクリスティーが晩年好んで描いた「過去の、そして家族の殺人」ではない。世紀末の糜爛と殺伐が齎す「理想」の死であり、ヴィクトリア朝の瓦斯燈に映えるが如き怨念のドラマである。例えば「なぜ、オーブリーの脳だけが相当量失われていたか?」という謎の解法一つに、凡百のパズラーが遠く及ばない戦慄の論理がある。オコンネルは、新しいものが新しさ故に腐臭を上げ、旧きものが旧さ故に永遠であるこの世界を、天使の眼で曝き、晒す。科学的捜査、心理的駆け引き、そして掟破りのブラフと暴力、利用できるもの全てを動員して断罪の瞬間に降臨するその姿を見よ。途方もなく重たく、途方もなく面白い小説だ。
と書評家風に書いてみる罠。


◆「姫百合たちの放課後」森奈津子(フォールドワイ)読了
私はとても罪深い人間です。
でも、清涼飲料水のような装いのお酒に惑わされた生娘は果して罪でしょうか?
アニメキャラのような少女が微笑むエロ漫画を手に取った乙女は罪なのでしょうか?
それは私達を欺くサタンの罠なのです。

ああ、でも、判っています。
そう、わたしは気がつくべきだったのです。
森奈津子お姉様が、SFや少女小説だけを書いているわけでないことに。
でも、この書を手に取った時、「これは『西城秀樹のおかげです』の続編のような爆笑SFパロディに違いない」と思った事もまた事実なのです。
決して信じては頂けないかもしれませんけれど。
ええ、これは確かに爆笑パロディーでした。
SF的な要素を持った作品もございます。
あうっ!
な、何をなさるのですか?
え?「SFを馬鹿にするな」?
そ、そうかもしれませんわね。
「2001年宇宙の足袋」ですものね。
「お面の告白」ですものね。
でも、私たちにとって「SF」は何もサイエンス・フィクションだけを意味するわけではございませんのよ。
「えす」といえば「シスター」
「えふ」といえば「フレンド」
どこまでも清らかな私たち姫百合の世界。
その期待を奈津子お姉様が、まさかこんな形で踏みにじられるなんて。
ああ、まるでこれは、Pornography ではありませんか?
そこでは、しとどに濡れた花弁が寛げられ、密やかに佇む真珠が擦り上げられ、更には、あああ、口にするものおぞましいことですけれども、き、菊の蕾までが散華させられるのでございます。
スケバン連合の刺客も、職場の意地悪な先輩OLも、為さぬ仲の美人姉妹も、自慰競技の花形も、保健室の未通女も、皆な、性の虜となって、悦楽の淵に落ちていくのでございます。
ああ、なんて、酷い。
なんて、素敵な…、
はっ、今、わたし、はしたない事を申しまして?
どうか、忘れて下さいまし。
お願いです。後生です。
まさか、それを書いてネットに流すなんて事、なさいませんよね?
ねっ?
ねっ?


2004年1月29日(木)

◆ダブリ本を売った。図書券で支払受けた。本屋で買い物。縮小再生産。
「平林初之輔探偵小説選1」横井司編(論創社:帯)
「姫百合たちの放課後」森奈津子(フィールドワイ:帯)
日下税、藤原税に続いて横井税も支払わねばならぬのぢゃあ。
森奈津子にお支払いするのはなんなんだろう?お手当て?奴隷会費?
女王様に収めるんだから正真正銘の「税」かもなあ。
◆昨日の日記の「内緒?」の話を、啓示板でカミングアウト。

「文藝春秋から遅くとも2005年秋までに、ウッドハウスの翻訳が3巻本で出る」

凄い世の中になったものです。ROMはまた一つ時代の先を行ってしまったわけで、
これはオースティン・フリーマン全集が原書房あたりから出る日も近いかもしれない。

修道士アセルスタン・シリーズが光文社文庫で出る日も近いかもしれない。

国書刊行会から大陸ミステリ叢書が出る日も近いかもしれない。

早川書房からフェニックス・プレス文庫が出る日も近いかもしれない。

ケムール人がゼットンを差し向ける日も近いかもしれない。
ああ、どうか僕にも命をもうひとつもってきてください。ぞふぃ、ぞふぃ、ぞふぃ。

◆帰宅したら、創元推理文庫ピンバッジの第2弾「吾が輩はシャノアール」が着いていた。
「♪胸に輝くマークはにゃおーん」と、猫じゃ、猫じゃを踊る((C)大矢博子女史)
で、「にゃおーん」マークで一番好きな話って何だろうと、小一時間。
「男の首」は一時期、時計マークだったのでパスすると、アイリッシュか、ブラウンってところか?
アイリッシュなら「黒いカーテン」、
ブラウンなら「シカゴブルース」、
とりあえず、一番古書価のつく「反逆者の財布」でないことだけは確かだよな。
◆読書スピードが遅いというわけではないが、翻訳物だと時速170文庫ページが限界。
というわけで本日の課題図書539文庫ページを読み終える事ができず。


2004年1月28日(水)

◆くうう、受けた、受けた。日記が受けると嬉しいなああ。
日下さん、よしださんから受ければ元はとったぞお。>なんの元だ?
なお、黒房下おーかわ師匠からめーるにて「『偽・顎十郎』は泡坂妻夫の方が適任ではないか」との物言いがつき、「『べらぼう村正』を増補する方向ではどうか?」との対案も出されましたが、審議の結果、偽・顎十郎が相応しかろうという事で、書き直しと致しました。
◆で、ネタにしたストランド書店のホームページを初めて覗いてみた。
不勉強で知らなかったのだが「8 miles of books」ってえのがキャッチフレーズらしい。
「8マイルの本・本・本・本・本・本・本」って感じっすか?
1マイル=1.61キロメートルとして約13qううう?

「8マイルは遠すぎる、ましてや雨の中となるとなおさらだ」
>本屋に雨降らせんな。
◆21日の日記絡みで驚愕のメールを頂戴する。これって内緒ですかあ?
◆定点観測。見事に坊主を引く。購入本0冊。
◆と思ったら、ネット注文した本が届いていた。
「鳥」デュ・モーリア(ポケミス・フォトカバー)
ポケミス・フォトカバー収集一歩前進。なんだか、「3歩進んで2歩下がる」状態が続いており、今度こそホントに90%を超えた筈である。とほほ。当てにならん記憶めえ!


◆「二つの影」キャロル・オコンネル(竹書房文庫)
「天使の帰郷」を読むために、まずは積読の第2作から。この類いの主人公に謎がある話は順序通り読まないと損する事があるので、正攻法で攻めてみる。で、そこはへそ曲りな私の事なので、竹書房文庫版で読んでみた。というか、その版でしか持っていないのだ。このシリーズ、新興の竹書房文庫から老舗の創元推理文庫が召し上げた格好になってしまったが、順調に訳出が進むのであれば、それはそれで良しといったところ。「三番館」や「サハラに舞う羽根」などとは異なり、サンリオSF文庫からの移籍組などと同じと取るべきなんでしょうね。しかし、余りにも時間を置かず改訳するのは、「近頃、翻訳ミステリ界を一匹の亡霊がさ迷っている。『勿体無いオバケ』という亡霊である。」共倒れせんでね、と祈ってしまうのであった。
時はクリスマス。処はニューヨーク。一人の女性リサーチャーが首を折られ、虫に食い荒らされた死体となって発見される。着衣から「マロリー死す」との第一報が街中を駆け抜けたが、氷の破壊天使は健在だった。マロリーが捜査を始めるや、被害者アマンダの消去された筈のファイルが甦り、そこに記された「小説」と顧客名簿から、とあるコンドミニアムが容疑者の城として浮かびあがる。身の危険を顧みず、先制攻撃を仕掛けるマロリー。妻に支配される経営者、政界進出を目論む人権派の判事、妻を事故で喪った盲目の文筆家。マロリーの魔法の指先は容疑者たちの心を一歩一歩と追いつめていく。一方、マロリーの友人で天才コンサルタントのチャールズのもとには「青髯と超能力少年」を巡る事件が持ち込まれていた。次々と自然死を遂げる母、そして発現するサイコキネシス。果して、超能力は本物なのか?並行する二つの事件は、やがて、過去から召喚された亡霊の影に誘われるように一つの幕切れへと収斂していく。
スーパー・コップ、キャシー・マロリー再び。「クール」という評言がこれ程に嵌まる女探偵も珍しい。浮浪児から警官の養父の庇護を受け、全身に「殺人と捜査」という日常を吸収した身長180pのクール・ビューティー。感情を殺し、ITを操り、養父たちを踊らせ、悪党を踏みにじる。今回は、養父との出会いを彩った凄絶な過去が明かされる。ミステリとしての仕掛けは単純だが、重層的なプロットと語りで読ませる。登場人物たちが、探偵も容疑者も関係者も、心の中に「影」を飼っているのには、息が詰まりそうになるが、腐敗した権力をルール無視で裁いていく主役の活躍を引き立てるためには、ここまでの書込みが必要なのかもしれない。この主人公は、すべての事件を「マロリー自身の事件」にしてしまうんだなあ。作者・探偵・訳者は女性だけど、読者は男性ですな。
あと、竹書房版はやたらと登場人物表が詳しくて助かった。どのミステリもこれぐらい詳しく書いてくれると、便利かもしれない。


2004年1月27日(火)

◆掲示板でよしださんからお褒めの言葉を頂いたり、藤原編集長から直リン張ってもらったりと「日記は受けてなんぼ」な人間としては嬉しい限りであります。
いやあ、人間として当然の事をしたまでです。
◆豚もおだてりゃ木に登る。今日もkashibaはネタに走る。
鮎川哲也や笹沢左保が亡くなっても思いつかなかったものが、都筑道夫だと、どんどんアホなアイデアが湧いてくるのは何故なんでしょうねえ。というわけで「架空書物」の<妄想企画>でございます。

<妄想企画>
都筑道夫追悼書き下ろしアンソロジー「都筑もどき」<目次>

前書きもどき
「『前書き』という題名の前書き」日下三蔵

なめくじ長屋とりものもどき
「長屋仇」大倉崇裕

未来警察殺人課 ネクスト・ジェネレーション
「チェ・ゲドバアの肖像」二階堂黎人

キリオンもどき
「なぜ初代編集長の死に追悼号を出さなかったのか?」山口雅也

退職刑事もどき
「動機の真相」有栖川有栖

近藤・土方もどき
「投獄保険」逢坂剛

物部太郎もどき
「ゴーストは誰?」貫井徳郎

片岡直次郎もどき
「第5問 カーマニアを密室から救い出す方法」芦辺拓

ショート・ショートもどき
「都筑亭事件」太田忠司
「牛の馘」井上雅彦
「お客様は魔女」江坂遊

ギャロンもどき
「ストランドに死す」木村二郎

紅子もどき
「したい盛りの死体」北森鴻

シルビア・ザ・ウェンチ・トリビュート
「身請けされるシルビア」舞城王太郎

ホテル・ディックもどき
「禁煙閻魔」大沢在昌

偽・顎十郎捕物帖
「はてなの日記」泡坂妻夫

雪崩連太郎もどき
「いやな蓑火」京極夏彦

伝奇もどき
「神州魔法狩り」山田正紀

ジュヴィナイルもどき
「十三日は金曜日のボク」乙一

ツヅキ評論
「七十五羽の梟を殺したのは誰?〜<大量の死と大量の名探偵>」法月綸太郎

後書きもどき(と見せかけてSFもどき)
「推理作家が終わるまで、或いは、続け!道を」田中啓文

後書きもどき
「都筑道夫ひとり追悼誌によせて」北村薫

ああ、自分で書いてて猛烈に読みたくなってきたぞおー!
偉い編集者の先生、どうかボクの願いをかなえてください。>S社の松本さんとか
◆「書庫」に寄って連れ合いが観てみたいといっていた野村芳太郎版「八つ墓村」を探す。が、石坂・金田一5部作やら「悪霊島」やら「悪魔が来たりて笛を吹く」はあっても「たたりじゃあ〜」が見つからない。ひょっとして私、これだけ録画してませんでしたかねえ。渥美清の金田一ってえのが許せなかったんだよなあ。仕方がないので市川崑版「八つ墓村」を持って帰る。こちらは自分でも積録中なんで、観てみなくっちゃね。
◆ついでにWOWOWマガジン2月号を回収。おおお、もう「8人の女たち」をやるんだあ。これは必録ですのう。
◆んでもって、ポケミス棚を確認したら、持っているつもりで実は持っていなかったカバー付きが何冊か判明。うひいい、まだまだ楽しめちゃうなあ。くそう。


◆「氷の女王が死んだ」コリン・ホルト・ソウヤー(東京創元社)
高級老人ホーム・海の上のカムデン・シリーズ第2作。老人探偵というのは「隅の老人」この方、何も珍しい事ではないが、被害者も探偵も関係者も皆な老人というミステリは少ない。個人的には「オールド・ディック」の向うを張って、80歳近くの老嬢になったウォーショスキーやキンジー・ミルホーンやシャロン・マーコンの住む老人ホームを舞台にした老人ミステリを希望したいところである。まあ、EQFCの斉藤代表なら「そうそう。老人ミステリの地平を拓いたのは『クイーン警部自身の事件』だよねえ。あの時代に、もう、老人問題に取り組んでいたんだから、やっぱりクイーンは素晴らしい」などといつもの調子でのたまいそうだが、それはそれ。このシリーズ、ディブディンの「消えゆく光」といったトリッキーな作品に比べれば、随分と普通のコージーミステリではあるが、そのコージーなところが固定読者を掴んでいる。というのも、今回読んだ本の奥付けをみてビックリ。なんと発売一ヶ月で二刷りが掛かってるじゃないの!EQFCの中村有希さん、おめでとうございます。なるほど第3作も訳出されるわけだ。
「海の上のカムデン」への新たな入居者、エイミー・キンゼスの傲慢さは入所初日から全開だった。支配人の「イボイノシイ」オラフもガキ扱い。モンスター看護婦のコニーとは冷たい火花を散らし、室内装飾家のジャックは奴隷扱い。更に、エイミーの嫌われ者指数は右肩上がり。ヘイゼルのブリッジの会をぶち壊し、掃除婦のロウラを泥棒呼ばわり、そして、誰かが堪忍袋の緒を切った。なんとエイミーは居室で撲殺死体となって発見される。さあ、カムデンの仕切り役、小柄なアンジェラと大柄なキャレドニアの出番だ。捜査担当のマーティネス警部補のお墨付きも得(たつもりになっ)て、関係者の聞き込みに走る二人。螺子の外れた双子姉妹が薄っぺらな壁の向うで聞いたのは何?詩人は高らかに駄作を唱え、徘徊アル中は詩吟する。そして、第二の殺人が起き、アンジェラは絶体絶命のピンチに立たされる。多すぎる容疑者、多すぎる動機、そしてたった一つの解決。果して氷の女王の正体とは?
喜寿間際のおばあちゃんたちの元気の良さに乾杯。ミステリとしては、小味ながら、高級老人ホームの雰囲気が実にしっかりとユーモラスに描きこまれており(食事風景やら館内放送やら、いかにも「あるある〜」)それだけでも読んでいて楽しくなる。また浪花節のツボも心得ており、第二の被害者がアンジェラに遺した「見積書」のくだりなんぞは、思わずもらい泣きである。欧米人の常識・シェークスピアもそこかしこに顔を出しては読者の知性を試し、これぞコージーミステリの王道。今後とも継続して訳出される事を祈る次第。「ミス・マープルのライヴァルたち」というか「ミス・マープルの同級生たち」って感じっすか?


2004年1月26日(月)

◆神保町タッチ&ゴー。
「地下室のメロディー」ジョン・トレニアン(ポケミス・フォトカバー)
「オー!」ジョゼ・ジョヴァンニ(ポケミス・フォトカバー)
カバー付きポケミス2歩前進。ネットで頼んで羊頭書房に取り置きしてもらった。前者は生まれて初めて見たカバーである。「アンタッチャブル」などと同じ風合いの装丁で、一瞬カバーがついてないように見えて焦る。ひょっとすると初版にカバーがついた最初のポケミスがこれなのかもしれない。
◆プチ残業。帰宅して乱歩Rを初めてリアルタイムで視聴。原作は「暗黒星」。主役級ゲストは仲間由紀恵。ううむ、なるほどこれは辛いな。犯人はまるっとお見通しだし、妙なアレンジを加えたばかりに、分裂症気味である。レギュラー陣は明智以外はいい感じ。藤井隆の三代目明智は、鶴太郎の金田一耕助を最初に見た時の違和感があって、「おちょくっとんか?」と感じてしまう。まあ、慣れの問題だとは思うのだが。


◆「捩れ屋敷の利鈍」森博嗣(講談社ノベルズ)読了
2シリーズ探偵の夢の共演を実現した「密室本」。
富豪が建てた巨大建造物。それは、「厚みのあるメビウスの輪」であった。10度ずつ傾いて続く部屋の折り返し地点には柱が通り、それを取り巻くように無垢の銀から打ち出されたリングと秘宝が固定されている。入った扉をロックしないと先の扉のロックが外れないというその構造の一室で、男の死体が発見される。死体の発見者は西之園萌絵。一方、「不可能な密室」と銘打たれた作業小屋の中では、富豪の死体が発見される。発見者は保呂草潤平。その入り口はコンクリートによって地球に固定されていた。完全密室の重奏、そして心理的にも物理的にも不可能な秘宝「エンジェル・マヌーバ」の消失。位相の狂った空間の中で条理が捩じれるとき、二つの知性が激突する。
森ミステリファンにとっては、まさにドリーム対決。ルパン対ホームズ、ゴジラ対ガメラのような作品である。いやまあ、会社は一緒なのでゲッターロボ対マジンガーZと呼ぶべきか。エピソードキャラが如何に「記号」であっても、このてんこ盛りの不可能トリックと二大レギュラーの激突という構成はその難を補って余りある。「密室本」ならではの中編サイズである事が、レギュラー側の冗長さを許さず、非常に引き締まった作品になっており吉である。逆転に次ぐ逆転。どちらのキャラのファンも楽しませる立たせようは、さすがキャラクターミステリの第一人者・森博嗣である。エピローグの思わせぶりは少々癇に障るが、作者の中でも5本の指に入る快作ではなかろうか?


◆「ウェンズ氏の切り札」SAステーマン(教養文庫ミステリボックス)読了
個人的には「将来高値のつくミステリボックス」の第一候補に挙げている作品。それは番町書房イフノベルズの最高値本がこの作者の「三人の中の一人」である事が一つの傍証。「戦前からの著名作家であるが他社が復刊するほどにはメジャーな作家ではない」「作品そのものはレトロ・サプライズ」「松村喜雄と鮎川哲也のダブル解説が、乱歩ファンと鮎哲ファンの心を擽る」とまあ、天地人揃ったところが、古本者のみならずミステリファンの必携度合いを高める。
表題作とEQに訳載された「ゼロ」の二中編を収録。いずれも新聞小説らしくカット描写が小気味よい快作である。
「ウェンズ氏の切り札」は、ドローという兄弟の物語。裏世界にその名を知られた弟フレドリックは、人身売買に賭博、麻薬密売と悪の百貨店のような悪党、それでいて官憲の追求を巧みにかわしつづけるラッキーボーイ。一方実直な兄マルタンはロウソクのセールスという地味な日常を送る常識人で、弟を改心させようと裏町の飲み屋を尋ね歩く。イカサマ賭博の縺れで自殺した小金持ちの死に疑惑が生じた時、元警部の私立探偵ウェンズ氏が立ち上がる。だが、神出鬼没のフレドリックは、次々と証人を葬り去っていく。奸智対慧眼の勝敗や如何に?果して二枚のジョーカーに対するウェンズ氏の切り札とは?
軽快なロマン・ポリシェ。英米の長編推理を読み慣れた人間には、最初取っ付きが悪いものの、一旦慣れればまさにページタナー。「引き」の連続技で鼻面を掴んで引き回された挙句、最後に背負い投げを食らう快感。探偵役の不遜ぶりにも好感が持て、幕切れにも拍手喝采である。
「ゼロ」敏腕新聞記者が評判の予言者から与えられた忠告は尽く的中していく。巨大な音声の中での奇矯な探検家との会見。そして惨忍な死。美しい娘サリーへの恋情とすれ違い。全てを解く鍵は「0」にあった。
終わってみれば超自然な因果物であるが、「0」の意味するところは、正しくミステリ・ファンのツボをついてくる。異形の「フェアプレイ」が味わえる異色編、といったところか?


2004年1月25日(日)

◆牧人さん、訂正どうもです。バーカーさん、ありがとうございます。
◆たっくん、暗号解読お疲れ様でした。
◆日記を書いたり、お持ち帰り残業したり、娘と遊んだり、本を買ったり。
「天使の帰郷」キャロル・オコンネル(創元推理文庫)
「アイオーン」高野史緒(早川書房:帯)
「鬼のすべて」鯨統一郎(文藝春秋:帯)
「魔剣天翔」森博嗣(講談社ノベルズ)
「捩じれ屋敷の利鈍」森博嗣(講談社ノベルズ)
「女王の百年密室」森博嗣(幻冬舎ノベルズ)
とりあえず、オコンネルのシリーズ第4作を買っておく。文庫で550頁ですかあ。
第2作、第3作も負けず劣らず分厚いんだよなあ。
◆土曜日にWOWOWで放映された「ジェシカおばさんの事件簿」の2003年制作の最新スペシャル版を視聴。エピソードタイトルは「遺言に隠された謎」。
アイルランドへ赴き、実業家エイモン・バーンの遺言執行に立ち会うジェシカ。妻マーガレットには家と財産、長女フィオナには事業、召使いハーリヒに2万5千ポンド、メイドのノーラに2千ポンド、庭師マイケルに奨学金、そしてジェシカにはローズ・コテジという瀟洒な別宅といった通常の遺贈のほかに、用意されていたのは6通の封筒。中には、全員が協力すると「財宝」の在処が分かるという「文章」が記されていた。ジェシカは、ケルト文化に造詣の深く物欲を嫌う次女ブリータとともに謎を解こうとするが、そこで第一の殺人が起きる。長くバーン家に使えてきた召使いハーリヒが納屋で何者かに殺害されたのだ。なぜかパニックに陥るメイド。一方、会社の弁護士チャールズは営業担当重役トム・マロイの不正を仄めかす。老詩人の歌う「消えた子供」、白いバンに襲われるジェシカとブリータ。果して、遺言に隠されたケルトの謎が指し示すものとは?そして醜い殺人者の正体とは?
残念ながらオリジナルではなくてLyn Hamiltonという作家の'The Celtic Riddle'という考古学ミステリが原作。アマゾンでの評判は真っ二つ。映像では暗号の解法を急ぎすぎ、殺人犯の設定も古風に過ぎるため、私としても星は精々二つどまりだなあ。


2004年1月24日(土)

◆牧人さん、ウッドハウス感想へのご高評感謝。
あの叢書って16巻だったんですね。一つ賢くなりました。
◆ようっぴさん、ブンガク畑の推理小説リスト、ありがとうございました>私信
◆楽志さんのタイプミス

「あんまり感想がひどいので、加湿器を買う」

シュールだよなあ。

◆撒餌。こんなところで合ってますかね?>たっくん

223,260,355,366,601,736,775,780,792,855,896,897,898,900,910,919,926,927,933,934,936,938,939,944,
946,952,953,956,957,960,961,965,972,976,979,980,981,984,985,996,1005,1012,1016,1017,1030,1032,
1038,1040,1061,1070,(1073),1086,(1100),1136,1142,(1160),(1161),1215,1347,1431

◆♪お買い物、お買い物。ちゅうか、早川書房に毎月のお家賃を収めている感覚っす。
「男の争い」Aブルトン(ポケミス/帯)
「探偵家族/冬の事件簿」MZリューイン(ポケミス/帯)
「ミステリマガジン 2004年3月号」(早川書房)
創刊50周年記念で月刊2冊ずつ出してきたポケミスも51周年に入ってペースダウンか?ミステリ文庫やNV文庫で出ているものもポケミスで出せば、最盛期のように月刊5冊ペースで突き進めるんだろうけど、こちらがたまったものではない。版権料いらずの名画座+古典発掘と一部のレギュラー作家というのが定着しているが、何はともあれ2000番、或いは実質2000冊の2100番まで頑張って欲しい叢書である。守備範囲外のノワールだろうが、ハードボイルドだろうが、死ぬまでついていくけんね。
◆「死は招く」と「ボストン、沈黙の街」ぐらいしかベスト10に食い込めなかった早川に対して東京創元社と藤原編集室の高笑いが聞こえてきそうな今日この頃、ミステリマガジンは例年通り「2003年度翻訳ミステリ回顧&年鑑」。「頁数1.5倍で値段が倍」というのも例年通り。
都筑道夫追悼は別途増刊を組むぐらいの事をして欲しかったかも。いや、今からでも遅くないぞお。倉庫の隅から没翻訳やら没エッセイが出てきませんかね?
「私のベスト3」、川出コメントを読んで(一般読者ながら)オコンネルは読まにゃああかんと思った。まずは第2作から読まんとなあ。郷原コメントは普段にもましてホラー。「街角のあなた」の頃からの大言壮語技益々冴えわたり、マーガレット・アトウッドもロブ・ライアンも読んでいない不勉強な自分の幸運をしみじみと噛み締める。


◆「沈黙者」折原一(文藝春秋)読了
「失踪者」での少年犯罪のモチーフを引き摺りながら「一家惨殺事件」をテーマにした2001年末のオリハラ・ミステリ。「失踪者」のルポライター五十嵐友也が、ご当地埼玉県久喜市に再登場。
引退した校長一家6人のうち、老夫婦・若夫婦の4人が惨殺され、引きこもりの長男が失踪するという大事件が勃発する。偶然、事件の第一発見者となった新聞配達の苦学生・立花洋輔は、生き残った長女・田沼ありさとともに事件の闇を覗く。果して消えた長男が犯人なのか?この重大事件と並行して、物語には池袋で起きた万引き・傷害事件の顛末が挿入される。ただ只管、自分の名前を明かそうとしない加害者の青年は、やがてその沈黙ゆえに法律という条理のもたらす不条理の世界へと引き込まれてゆく。そして不運な洋輔が今一つの大事件に遭遇する時、殺意の螺子は過去に向ってほぐれ始めるのであった。
週刊文春の2001年ベスト10の4位に入ったらしい(帯に麗々しくそうあった)。この年は「模倣犯」「ミステリオペラ」の年であり、即ち、文春ベスト10に「新本陣殺人事件」が組織票でランクインしたあの年である。
現実の未解決事件の本歌取りだが、これはこれで折原一らしさを堪能できる一編。見るからにバリンジャー風の構成なので、今更「驚天動地!」というわけにはいかないものの、「よく辻褄を合わせました。」と及第点は与えられる。ただ「一家惨殺」のメカニズムが今一つで、前作でみせた少年Aの必然性ほどには、現実の事件を作品に昇華できなかった感があり、「ただのセンセーショナリズムではないか?」という批判は受けなければならないであろう。特にネタ元の事件が3年経った今も未だに解決を見ていない現状に照らすと、よけいにそう感じてしまう。まあ「金属バット殺人」あたりまで溯って抗弁する事は可能かもしれないけど。


2004年1月23日(金)

◆大阪日帰り出張。大阪駅前第二ビル地下2Fの古本市で一冊。
「白夜は明くる」久米正雄(大日本雄弁会講談社:函痛み)
文庫本と写真集中心の雑本市の中で飄然と浮きあがっていた昭和7年刊行の函入り古書。まずまずの美本で、値段もシャレで買える範囲(イマドキのポケミスより安い)だったので、拾ってみる。題名に添えられた「評判小説」ってえのがなかなかにそそるではないか?挿し絵も満載。鎌倉を舞台にした煙突掃除夫の恋物語のようである。帰宅してからネットで調べてみると、さすが昭和初期の流行作家の作だけあって無声映画化もされたらしいが、何故か映画の題名は「白夜は明るく」と表記されていたりする。すんげえ謎。これで元はとったな。
◆専門書店で2冊。
d「秘密諜報員ジョン・ドレイク」Rテルフェア(ポケミス・フォトカバー)
「遠い女」小島直記(東都書房:裸本)
ポケミス・フォトカバー収集一歩前進。まさしく蝸牛の歩みである。私の調べが正しければこれでやっと9割に到達した筈である。まあ言ってみれば「収集の入り口にやっと辿り着いたようなもの」か。700番台が鬼門ですな。ぐもももも。
小島直記の本は「後書き」によれば、著者の推理小説第1作として連載し始めたものの雑誌の休刊で尻切れトンボになってしまっていた作品とのこと。なんと作者は渡辺啓助の教え子だったらしい。知らなんだ。いやまあ、知ったところで何がどうなるものでもないのだが。


◆「新世紀犯罪博覧会」新世紀「謎」倶楽部(カッパノベルズ)読了
リゾート法と並んで、地方財政を破綻間際の困窮に追込んだ愚策の雄が「地方博」である。ポートピアという偉大なる先達の猿真似企画が濫立し、結果その多くが地方経済と自治体の財政を傷つけることとなった。広告代理店の雛形に若干のアレンジを加えた薄っぺらな企画、こじつけと帳尻合わせのフィージビリティー、関連企業への出展強要、その挙句の施設のトラブル、目標を大幅に割り込む観客数、その失敗への道筋までが雛形通りであり、それはまさにこの国のかたち、鄙の形なのであった。この競作集は、その地方殺しの過程を新本格の文体で描いた社会派推理である、というのは大嘘である。
ここに描かれた7つの物語は、時間を超えて届けられる手紙が織り成す悲喜劇の記録である。「異形シリーズ」の新本格ミステリ版といってしまうと身も蓋もないが、ホラーやファンタジーよりも、より縛りの厳しい知的ゲームと言ってよいのではなかろうか?
「二十一世紀の花嫁」(歌野晶午)幸せな結婚生活を営む妻に届いた「昔の男」からの大胆な葉書。やがて毒のメールが舞い込み、葬った筈の忌まわしい記憶が暗鬼を加速する。シリーズ開幕編。失敗に終わった地方博の企画者とその女友達を主人公にした技巧的な暗渠の複合。偶然の審判はただ残酷。
「もっとも重い罪は」(篠田真由美)人生が見えたイラストレーターに別離れた妻の訃報が届く。同時に届けられた「勝利宣言」が意味するものとは?喪ったものへの悼みは兇器となって、陰謀の主を陥れる。心を弄ぶ者に亡びあれ。支配と服従の構図に作者らしさが見えるショッカー。再読すると興趣倍増。
「くちびるNetwork21」(谺健二)双子の姉妹を手玉に取った男が迫られる死の清算。裂かれた顔面が物語る真実とは?破格の倒叙推理は、主旋律を隠し、愛の重さを読む者に問う。これは歪んだ恋に殉じた岡田有希子への鎮魂小説。
「人間空気」(二階堂黎人)女王様への信奉は、あらゆる不可能を可能とする。空気となった男の手記は男喰いの悪女を告発する。鉄壁のアリバイに支えられた陰謀者の切り札とは?非常に良く出来た乱歩へのオマージュ。これで名探偵が二階堂蘭子であれば、申し分のないところだったのだが。心理トリック、物理トリックともバランスの良い佳作。
「滲んだ手紙」(柄刀一)娘宛の手紙は、殺人を告発しつつ、再会を望む。矛盾した想いの主を求めて娘の探索は、過去へと向う。作者にしてはおとなしめの抒情編で、やや一人よがり。
「疑惑の天秤」(小森健太朗)偶然遭遇した兄夫婦の喧嘩に潜む「小説」の罠。つたない不倫の告発は、夫婦のいずれを射抜くのか?手垢のついた動機と結末を運びだけで見せた作品。作者の正体は高沢のりこではなかろうか?
「プロローグ&エピローグ」(歌野晶午)郵便局の放火犯のやむにやまれぬ動機に涙する悲喜劇、そして不可能犯罪の予兆。プレイング・コーディネータのユーモアセンスに拍手。


2004年1月22日(木)

◆神保町タッチ&ゴー。収穫0。帰社してプチ残業。購入本0冊。

◆「家守」歌野晶午(カッパノベルズ)読了
「衣食住」のうち最もミステリの要素として欠かせないのが「住」である。「衣」に纏わる「変装」というジャンルは、電灯の発達により黄金期本格推理に最期の光芒を残し消えていく。「食」は「グルメ探偵」や「美食ミステリ」という異形の存在に支えられて、或いは「毒殺」という古典的な殺人手段の範囲で僅かに命脈を保っている。それに対して「住」は様々な殺人物語の「場」として、推理小説の誕生以来、今なお、重要な要素としてミステリを支配する。登場人物が何を着ようと、食べようと、それは副次的な要素である。が、そこが何処か、というのは由々しき問題であり、「館」「邸」「亭」「家」を題名に冠したミステリは今尚、多数出版されているのである。昨年度「葉桜」一作で、各種ベスト10を総なめにした作者の最新短篇集は、「家」を題材にした連作。ここでいう「家」は「House」であり「Home」であり「Roots」である。
ピグマリオンの神話が神隠しの記憶を呼覚まし、語り手自らの因縁が回天する「人形師の家で」
完全殺人の崩壊と「家」の封印からの解放の重奏を奇抜な殺人トリックが彩る「家守」
惚け老人の相手という好条件のアルバイトが奇矯な死を招く論理の空中楼閣「埴生の宿」
好色文学者兄弟が遭遇した田舎医者の事件カルテ。鄙という「家」が不思議を描く「鄙」
都会に越してきた夫婦者が晒される好奇の眼の正体とは?安すぎる物件の罠が巡る「転居先不明」
いずれもミステリとしての企みに満ちながら、抒情と郷愁、因習と因果、皮肉と諧謔といった小説のツボを押えた好短篇揃い。新本格という「家」は、ゲームに嵌まっていたり、引きこもって理屈ばかり振り回している大卒の兄貴どもじゃなくて、一時、家から飛び出ていたけど、実はしっかりものの末弟が支えているのである。


2004年1月21日(水)

◆「十二人の手紙」は、大矢博子女史から探究依頼を受けたのが切っ掛けで推理小説だと知ったような次第です。>松本さん@啓示板
余り(ちゅうか、殆ど)リファレンスやら解説本を読まないので、なかなか世界が広がりません。他にもブンガク畑の人の推理小説ってどんなのがあるんでしょうねえ。
◆一気読みありがとうございます&娘へのお祝辞感謝>よしださん
自分としては、毎日日記部分は書いているのでご無沙汰しているような気がしないところが不思議ですのう。
毎日更新する
→当り前になって反応がなくなる
→反応がないのが当り前になる
→自分さえ書いていれば更新しているような気になる
というメカニズムでしょうか?
◆職場のプチマニアと駅まで帰り道が一緒になり、山田正紀談義。余り突っ走ると相手がついてこれなくなるので、相手の力量を推し量りながら話を進める。うーん、これはこれで楽しいのだが、たまにはノーリミットで書物談義したいものである。
◆♪お買い物、お買い物
「新世紀犯罪博覧会」新世紀「謎」倶楽部編(カッパノベルズ)
「家守」歌野晶午(カッパノベルズ)
ジャーロ掲載の短篇を集めたもの。ここへきて「ああ、ジャーロって光文社のメフィストたったのね」と思い知る。光文社のEQだと思っていたのにい。
漫画も一冊
「クロノアイズ・グランサー(1)」長谷川裕一(講談社)
長谷川祐一版「永遠の終わり」=「クロノアイズ」の続編。既に伝説の名作と言われる「コミケ破壊司令」が収録されており、おたく必読。
◆エコエコアザラク第3話視聴。登場人物ばかり増えていくシリーズものの展開にイライラ。ご贔屓の朝加真由美が、コールガールクラブ「赤い部屋」の元締として登場、低予算キャスティングの中で一際存在感を見せていた。が、「エピソード部分の割合が少なすぎ、ミサのキャラが引き立たない」「思わせぶりで独りよがりで暗い絵づくり」「科白がキモい」などなど、まるで自主制作映画をみてるみたいだぞ〜。


◆「マリナー氏紹介」PGウッドハウス(筑摩書房)読了
「21世紀初頭の我が国における翻訳ミステリ出版史を紐解く際に、避けて通ることができないのは藤原編集室の存在である。10期155巻を数えた国書刊行会の世界探偵小説全集もさることながら、その裏筋を伴走するように異色作を発掘しつづけた晶文社ミステリ5期60巻の変遷にこそ、ジャンルの垣根を越えた功績が見てとれる。叢書の初期こそ国書の全集を補完する形でアントニイ・バークリーの推理小説を出していたものが、カーシュ、ニーリイ、スタージョン、AHZカーなど異色作家短篇集の第4期を目指すかのような展開を見せる一方で、バークリーの初期ユーモア小説、或いはパーシバル・ワイルドの長編訳出からユーモア小説方面へとその守備範囲を広げていく。やがて『私の隠し玉』として、かのバークリーも敬愛してやまなかった英国の国民的ユーモア作家ウッドハウスが登場するにはさしたる時間はかからなかった。その第1巻『ジーヴスの事件簿』が2008年の第一回変格ミステリ大賞翻訳部門1位に輝いた事は、日本のミステリ読者が漸く英国の域に近づいた証しとなった。21世紀初頭において我が国の読者がウッドハウスの膨大な著作の8割方を労せずして日本語で読めたのは、この叢書の成功に追う所が大であった。たとえそれが自動翻訳機の普及発達によって翻訳出版という形態そのものが絶滅するまでの短い期間であったとしても。」文化考古学者 木屋 満里菜
以下、ミニコメ。
「ウィリアムの話」サン・フランシスコで起きたのは果たして地震か、火事か、恋愛か?
「厳格主義者の肖像」こごとおおごとおままごと、戸棚の中で修復される過去
「名探偵マリナー」俺の笑いはすばやい。暗鬼が運ぶラッキー。
「ある写真屋のロマンス」売れっ子写真家の『崇徳院』
「スープの中のストリキニーネ」読みかけの推理小説が世界を回す。気弱な推理マニアの恋に乾杯。
「忍冬が宿」ブラックマスクな男の背後にハーレクインのシルエットが忍び寄る。ああ、健気と可憐の亡霊が愛の栄光を称えるのです。
「ささやかな人生」薬が縁の恋愛が卑劣な妨害に逢った時、男は幽閉の館に挑む。この世に直せないものなどないのだよ。