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2003年12月10日(水)

◆「ミステリーズ」の猫マーク・ピンバッジプレゼントに滑り込みで応募。毎回毎回、なんでギリギリになってしまうのだろうか?にゃおーーん。
◆神保町タッチ&ゴー。
d「俳優強盗と嘘つき娘」Rスターク(ポケミス:貸本流れ・蔵印・シール)100円
d「木曜日ラビは外出した」Hケメルマン(ポケミス:貸本流れ・蔵印・シール)100円
d「ちゃっかり女」ボワロー&ナルスジャック(ポケミス:貸本流れ・蔵印・シール)100円
d「ながい眠り」Hウォー(ポケミス:貸本流れ・蔵印・シール)100円
d「すりかわった女」ボワロー&ナルスジャック(ポケミス:貸本流れ・蔵印・シール)100円
d「グリュン家の犯罪」ジャクマール&セネカル(ポケミス:貸本流れ・蔵印・シール)100円
d「完全犯罪売ります」Hモンテイエ(ポケミス:貸本流れ・蔵印・シール)100円
d「英雄の誇り」Pディキンスン(ポケミス:貸本流れ・蔵印・シール)100円
図書館放出のポケミスがずらっと御奉仕棚に並んでいたので、めぼしいところを引っこ抜く。読めりゃいい人向きダブリ。ディキンスンは当り前のように新刊書店に売れ残っていた頃を知っているので、さしたる感興もないのだが、結構「探している人は探している」本になっちゃいましたねえ。
◆なんの気なしに、「rebus」で電子辞書を叩くと、「判じ絵・判じ物」という訳が出てきた。へえ〜っ、そんな意味のある一般名詞とは知らなんだ。恥かしっ!
♪特別じゃない、どこにもいるわ、わたし、判事A


◆「ボストン、沈黙の街」Wランディ(ハヤカワミステリ文庫)読了
各ランキングで上位入賞の話題作。ボストン行きのバスに乗り遅れないように読んでみた。法曹関係者が描いた重厚長大サスペンス・ビルトゥングスロマン、ツイスト付き。なるほど、これは受けるわ。一般ピープルからミステリマニアまで頂いてしまおうというマーケティングの権化。
最愛の母アンをアルツハイマー症で失った若き警察署長ベン。母の介護のために歴史学者の道を諦め、無骨な父の後を継いで、田舎町ヴァーセイルズの治安を預かる彼が、ボストンの検事補ダンツィガー殺しに遭遇した時、遡行する運命の歯車は静かに、だが、確かに回り始めた。1977年、警邏中だった警官が強盗犯になぶり殺しに遇う。1987年、麻薬取引の元締めを急襲した警官の一人が射殺される。封印された過去の事件の蓋を開けようとしたダンツィガーを抹殺したのは誰?引退した敏腕刑事ケリーの導きを得て、大都市の暗黒に真実を追う青年署長。黒幕と噂されるギャングのボス、ハロルド。市長選を狙う野心家の黒人検事ロウリー。ケリーの娘で地方検事補のキャロライン。そして叩き上げの刑事ギトゥンズとカース。様々な人々との出会いの中で、ベンは己と向き合う事を余儀なくされていく。ギャングの流儀、刑事の掟、検事の迷い、人の業。この街に住む者は、すべて真実を語るとは限らない。出会いは縁、血は恩、沈黙は金。
丁寧に騙り尽される大河刑事ドラマ。「警察署長」と「トレーニング・デイ」と各種リーガルサスペンスの良い所をパッチワークした装いの中に、一本筋を通した筆力には脱帽。ステロタイプな人物造形と、既視感溢れる展開にも関わらず、奇妙な違和感と緊張感が最後まで持続してるなあ、と思っていたら、なるほど、そう来たか。なんという力技。170キロのフォークボール。アメリカ人、おそるべし。


2003年12月9日(火)

◆新刊買い。
「重力ピエロ」伊坂幸太郎(新潮社:帯・署名・落款)1500円
このミスでのランクインを見て、どうせ買うなら署名本と東京堂に寄ってみたところ、まだ、売れ残っていた。らっきい。
◆定点観測。
「前日島」Uエーコ(文藝春秋:帯)100円
「玻璃ノ薔薇」五代ゆう(角川ホラー文庫)100円
「バイオハザード」牧野修(角川ホラー文庫)100円
「QED 百人一首の呪」高田崇史(講談社ノベルズ)100円
「『瑠璃城』殺人事件」北山猛邦(講談社ノベルズ)100円
「語り手の事情」酒見賢一(文藝春秋:帯)100円
d「KAPPA」柴田哲孝(CBSソニー出版)100円
「虎の遺産」典厩五郎(祥伝社:帯)100円
「ストライク・ゾーン」Jバウトン&Eアジノフ(文藝春秋:帯)100円
d「鍵孔のない扉」鮎川哲也(光文社カッパノベルズ:初版)100円
「金時計の秘密」JDマクドナルド(扶桑社文庫:帯)350円
「変化獅子」横溝正史(出版芸術社:帯)1000円
「菊水兵団」横溝正史(出版芸術社:帯)1000円
「不知火奉行」横溝正史(出版芸術社:帯)1000円
「シンデレラとギャング」Wアイリッシュ(白亜書房:カバ・帯)500円
「雨の匂い」樋口有介(中央公論新社:帯)650円
マイ・ファースト鮎哲長編の初版をゲット。イタミ本だけどほのぼのと嬉しい。後はあれこれと安物買い。「ストライク・ゾーン」は長編野球ユーモア小説らしい。とりあえず、日曜日に紛失した図書券分ぐらいを浮かそうと必死である。因みに下から6冊で6000円近く浮かした勘定になる。古本の暗黒面である。頭の中でダースベーダー・マーチが鳴り響いている。


◆「最後の記憶」綾辻行人(角川書店)読了
昨年、7年ぶりに上梓された綾辻行人の新作長編。但し、本格推理ではなくてホラー。なんといっても帯の煽りが凄い。

「日本中が渇望していた、記念碑的傑作の完成」
名手・綾辻行人が奇蹟的な美しさで紡ぎ出す、「あなたのための」恐怖の物語

これは幾らなんでも消費者の優良誤認を招く誇大表示であろう。
東スポじゃないんだから、何が「日本中」?何が「渇望」?
正確を期すならこんなところではなかろうか。

「一握りの古参新本格ファンがダメモトで待っていた、墓碑的新作の完成」
往年の名手・綾辻行人が奇蹟的な遅筆で捻り出した、己との闘いを描いた締切が怖い物語

なんだか、今の作者を見ていると、既に引退した「大家」(館の<おおや>、じゃなくて<たいか>ね)の雰囲気。まだ40半ばなんだから、こんな初々しい理に落ちるホラーを書いている場合じゃなくて、円熟の本格推理を書いて欲しいものである。とりあえず、この本の編集者には、「よくぞ、あの綾辻に、曲りなりにも長編を書かせてくれた」と最大級の敬意を表しておきます。(帯は誇大表示だけど。)
記憶を喪っていく母の姿に己の未来を観つつ、過去を幻視する主人公に作者の懊悩が重なる。キチキチとどこかで鳴っている音は、作者の胃が悲鳴を上げている音なのかもしれない。牧野修や倉阪鬼一郎や坂東真砂子やぼっけい岩井志麻子が精力的に本物のホラージャパネスクを生産している現在、理に落ちたホラーの居場所はないと思うのは私だけか?この作品が、ファンからみた綾辻行人の「最後の記憶」にならない事を祈るのみ。


2003年12月8日(月)

◆就業後、歓送会。ああ、また万札が飛んでいく。おまけに他人様のコートを間違えて着て帰るというすっとこどっこいぶりに心底へたれる。購入本0冊。

◆「袋綴じ事件」石崎幸二(講談社ノベルズ)読了
中編なのでショート感想。
「密室本」企画参加作品、というか「密室本」企画賛歌作品。これほどまでに出版社の企画に媚びた小説があったであろうか?
お馴染みの作者と同姓同名のサラリーマンが、御薗ミリア&相川ユリの櫻藍女子学院高校ミス研所属のイマドキの女子高校生コンビとともに、孤島の研究所に赴き、お約束の「嵐の山荘」状態の中で、密室暴行傷害事件に巻き込まれるという展開。
密室トリックや、犯人の隠し方、過剰感漂う犯人ラッシュなど、本格の勘所は心得ており、それなりに楽しめる。密室本の中でも、真っ向から密室に挑戦した方の作品といえるのではなかろうか?
ただ、犯人の特定に「袋綴じ」というネタを絡めたメタ趣向は空振り。加えて、袋綴じ本・企画者への「よいしょ」ぶりが、褒め殺しの域に達しておらず、なんとも茶坊主的な浮き具合が辛い。まあ、祭の縁日に行って、食い物がまずいとぼやくようなもんなので、このくらいにしておきます。同じアホなら、踊らにゃ損、損。


2003年12月7日(日)

◆朝からWOWOWで「スターウォーズ・エピソード2」を視聴。金のかけ方が違います。違いすぎます。うーん、やはり大画面で見るべき映画だったかも〜。ヨーダ様が噂に違わず強い強い!!
◆洗い物担当、昼飯担当、再び洗い物担当を経て図書館に本を返却。返す刀で新刊本を何冊か借りてくる。ついでに新刊書店を覗いて、ふとポケットを探ると、図書券を紛失している事に気がつく。慌てて家に帰って家捜しするが見当たらず、茫然自失。うぬぬぬぬ、折角、年末年始ぐらいは新刊書を買おうと思っていたのに〜。しくしくしく。大事にとっておかず、さっさと使ってしまえばよかった、というか、新刊本を買わなかった「バチ」ですか。はい。どうぞ拾われた方は、とっとと新刊書を買って、日本の文化振興に寄与されますように。購入本0冊っ!!
◆「RPG」の後半をなんとか死力を振り絞って見終わる。おお、なかなか綺麗にツイストを決めているではないか。満足まんぞく。しかし映像化作品というのは配役即ネタバレだもんなあ。映画だと、どうしてこんな主役級がチョイ役なんだという贅沢もできるけど、テレビではそうもいかんか。


◆「闇に問いかける男」THクック(文春文庫)読了
なぜ、クックが本格ミステリベスト10にランクイン?これが、このミスであれば、理解できなくもない。が、「本格ミステリ」といえば、ほらあれだ、奇矯な当主が建てた館に、怪しげな面々が集い、三重の鍵と閂の下りた完全密室の中で、インディオの毒を盛られ、見えない弾丸を撃ち込まれ、首と右手の小指を切り取られた死体を前に、容疑者たちが鉄壁のアリバイを競い遇い(「私はその時、南極で皆既日食を観測していた。これが証拠写真だ」「わたしは軌道エレベータでスペースコロニーに向う途中だった、ゲドバア」など)、見えない人が跳梁し、グラス氏は疾走し、灰色の脳細胞を誇る名探偵が皆を集めて「おお、アルコンのトーラよ。わしには最初から犯人がわかっちょったんじゃよ、がはははは。」と哄笑する、みたいな話である。
だが、クックのこの話たるや、主人公はそれぞれに深い悩みを抱いた警察官、ある者はドロップアウトし廃人となった息子の姿に慟哭し、ある者は何者かに愛娘を惨殺されたトラウマに慄き、ある者は満たされぬ欲望にたるんだ脂身を焦す。少女殺しの有力容疑者をあと11時間で釈放しなければならなくなった時、刑事たちは証言に潜む真実の欠片を求め夜の街を駆ける。放浪画家が描く絵は何を騙るのか?問いかけは闇に消え、棄民の園で、殺意は腐臭を放つ。
モジュラー型捜査小説に「暁の死線」の味付けを施し、最後に一発ネタの「本格」趣向を盛り込んだページタナー。確かに、何の予備知識もなしに読んでいれば、「これは凄い<隠れ本格>だ!!」と言いふらしたくなったかもしれない。主人公たちの抱いた業の深さに目を奪われているうちに、全く別の方向から回答が降ってくるタイプのミステリ。「巧みなキャラ作り、語りの緩急、驚愕の真相+伏線付き」となれば本来、脱帽するしかないのだが、なにやらホームランバッターにスクイズを決められたような不快感が残るわたくしなのであった


2003年12月6日(土)

◆カラリオ年賀をダウンロードして、年賀状を試作。15枚印刷するのに、メカのトラブルで4枚のオシャカが出てしまう。Windows95をバージョンアップした98で最新式のプリンターを動かそうというのがイカンのだろうなあ。うみゅう。
◆定点観測。安物買い。
「ボストン、沈黙の街」W・ランディ(ハヤカワミステリ文庫)500円
「陽気なギャングが地球を回す」伊坂幸太郎(ノンノベルズ)400円
「聖母の日(上・下)」Pウィルソン(扶桑社文庫)各100円
「ダブルダウン勘繰郎」西尾維新(講談社ノベルズ)100円
「袋綴じ事件」石崎幸二(講談社ノベルズ)100円
「ミステリーガイド鎌倉」角川書店編(角川ノベルズ)100円
「殺るときは殺る」ヤーコフ・アルユーニ(パロル舎)100円
d「アラン−真夜中の少年」Jハンセン(二見書房:帯)100円
ランディと伊坂幸太郎、今年の話題の新刊を半額ゲット。後は昨年の密室本などを適当に100円均一で拾う。「ミステリガイド鎌倉」はその気になって探すと意外と難易度の高い本らしい。というか、最近カドカワノベルズ自体を古本屋でも余り見掛けなくなったよね。パロル舎の本はドイツ製ハードボイルドらしい。ふうーん、こんな本あったんだ。ジョゼフ・ハンセンのボーイズ小説は、ダブリ買い。珍品といえば珍品。あと20年ぐらい経てば、ハードボイルドマニアが気合を入れて探す羽目になる本かもしれない。
◆新刊書店でお約束のこの1冊。
「2004年版このミステリがすごい」(宝島社)690円
国内1位は、あの作品の「ダブル受賞」と風の噂に漏れ聞いていたが、海外1位には心底驚いた。へえ〜。酷評していたMoriwakiさんまでが、票を入れたりするから、こんな事になってしまったのかにゃ?このミスが出た段階でその時の海外1位作品を、読んでいたなんて、前代未聞かも。中村有希女史が思わぬボーナスを得たという感じですか?
◆夜は、積録してあった宮部みゆき原作のテレビドラマ「R.P.G」を見始めるが、中盤で力尽きて寝てしまう。それにしてもゴマキって実は結構タッパあるんだねえ。


◆「眠りと死は兄弟」Pディキンスン(ポケミス)読了
ピブル警視シリーズ第4作。といっても、正確にはこの巻ではピブルは「元」警視となって登場する。古くはメグレ警部、最近ではダイヤモンド警視あたりが現役中も引退後も探偵役を務めるが、ピブル警視もそのパターン。特に、この作品のピブルは退職後間もない事もあって、どこか元ワークホリッカー只今病葉系オヤジの悲哀を抱えており、終始精彩を欠く。さすがに最後の最後で「どっこい生きてる」ところは見せつけはするが、そこに至る過程は、読者にとってまさに睡魔との闘い以外の何物でもない。
その特殊施設、マクネイアを訪れたピブル元警視は、もの憂げな子供たちの出迎えを受ける。子供たちは、生まれながらにしてキャシプニーと呼ばれる眠り病に侵されており、一日に20時間の睡眠時間を取り、十歳になっても三歳児程度の知能しか持たない。妻メアリーから、施設の資金難について相談に乗るよう頼まれてきたピブルであったが、責任者のディクソン・ジョーンズ夫人からは、資金難が解消されている事を告げられる。だが、子供たちの「超能力」を巡る組織の力学に巻き込まれたピブルは、施設のパトロンである富豪アタナシウス・タナトスの命を受けた研究者シルヴァーと行動をともにする事となる。傲岸な医師、貴族の血を引く女助手、無愛想な使用人、そして脂ぎった環境運動家、満月顔の子供らと変人たちの園に巣食う悪意の正体を探るピブル。やがて火のないところに煙が上がる時、悪意は殺意へとその姿を変え、眠りの兄弟がやってくる。その名は死。
いかにもディキンスンなひねくれた表現がそこかしこに張り巡らされた、難渋を極める異形の推理小説。物語が半ばを過ぎても、一体何が解くべき謎なのかが全く見えてこないのには参った。読者は、只管、時間が止まったような医療施設の中をピブルとともにさ迷う事を余儀なくされる。犯罪らしい犯罪が起きるのは残り数十頁となってから。子供たちを襲う眠気を読者に追体験させるという大胆な実験小説だとすれば「大成功している」と申し上げたい。この眠気を更に洗練させるとサンリオSF文庫最凶の効き目「生きる屍」になるのであろう。ディキンスン完全読破を目論む活字の冒険野郎にのみオススメする問題作。それ以外の人は避けて通った方が良い。ABC評価でいえば、ZZZですか。


2003年12月5日(金)

◆今年一番の二日酔。朝からアタマと腹で「会社いきたくない象」が5頭ばかり並んでタップダンスを踊っている。どすどすどすどすどす。
◆会社に這っていく。ボーナス貰う。どすどすどすどす。象が1頭減ったかな。
◆夜は再び宴会。ぱおーーーーん。一滴も酒を飲まずに過ごす。購入本0冊。


◆「判決」中堂利夫・高橋玄洋(テレビ朝日)読了
テレビ創生期の名作「裁判」ドラマのリメイクのノベライズ。主役の酒井田牧人役は高橋英樹が務めた。が、当時は時代劇のヒーローという刷り込みが激しかったので、凄まじい違和感を感じ、数話しか見ていない。今思えば、もう少しちゃんと観ておけばよかった。「判決」は、同じく高橋英樹主演で、事務所開業編の第3シリーズが撮られているが、このノベライズは、第2シリーズのもの。カバーには高橋玄洋の名しかなく、中を開けてみて初めて「ノベライズ:中堂利夫」の名が現われる。高橋玄洋の方が通りが良いという事なのかな?こういったシリーズの常として、推理趣味よりは人間ドラマに力点が置かれているので、ペリーメイスンあたりの切れを期待すると肩透しに遇う。
「刑事八〇一号法廷」歪んだ嫉妬が聖職を告発した時、偽りの死の構図は裁きの園を欺く。ありふれたプロットではあるが、見せ方に一工夫凝らしたところが救い。卑しい告発者に下る「審判」が鮮やか。
「完全犯罪」放火の疑いを掛けられた被告。検察側が絶体絶命の窮地に陥った時、叩き上げの刑事が碁仇から受けたアドバイスとは?日常品を用いたアリバイトリックと、助言者の謎が光る話。1クールの間には、なるほどこういう回があってもいいかも。
「夫婦という関係」被告人は一家無理心中の生き残り。娘を死なせ、妻を重態の床へ追いやった夫の矜持に酒井田が挑む。善人は生き延びる事ができるのか?零細企業の悲哀と夫婦の慈しみを活写した浪花節。並行して語られる身勝手な有閑マダムのエピソードとの対比が泣かせる。
「うつろな風」都会に出てきた娘が、誘惑に身を委ねた時、復讐の炎が燃え上がる。酒井田の上司を襲う疑惑と錯誤。「家」の論理に阻まれた「愛」の在処を問う深刻な一編。展開は悪くないが、テーマが古すぎ、果して視聴者の共感を得られたものかどうか疑問。

仲谷昇主演の「判決」のノベライズの感想文は2000年4月30日にあるので、興味を持たれた方はそちらもどうぞ。


2003年12月4日(木)

◆全国(に3人ぐらいはいるであろう)修道士アセルスタン・ファンの皆様っ!!!
朗報です!!この12月1日のポール・ドハティーの新作「The House of Shadows」は、なんと4年ぶりのアセルスタン・シリーズ第10作であることが判明致しましたああああああ!!(だむ!だむ!)
第9作で終りかと半分諦めていただけに、すんげええ、嬉しいいいいいいいいいいいっ!!
早速、アマゾンで申し込んじゃったもんね!!
これで大事に大事にとっておいた第9作を読む決意がつきました。なんとか今月中に読みます。宣言。
◆夜は歓迎会&忘年会の幹事。二次会まで行って壊れる。


◆「クライマーズハイ」横山秀夫(文藝春秋)読了
この18年間、カラオケ屋に行って「六甲颪」を歌うたびに、バース・掛布・岡田のバックスクリーン3連発やら、真弓の先頭打者ホームランやら、吉田監督の胴上げシーンを拝みて続けてきた。今年、阪神がリーグ優勝を決めた事で、来年からは今岡の先頭打者ホームランやら、赤星の盗塁やら、金本のサヨナラホームランやら、井川の快投やら、星野監督の胴上げを拝む事となるのであろう。だが、かつてのV戦士よ、決して妬む事なかれ。男の嫉妬はみっともない。さよう、栄光は塗り替えられるためにあり、山は乗り越えられるためにあるのである。
この別冊文藝春秋に連載された長編小説は、18年前に起きたもうひとつの「大事件」に焦点をあて、作者の分身ともいえる地方新聞記者の魂を抉りだした「大人の男の読み物」である。その事件とは乗客乗員520名の命を奪った航空機事故史上最大の悲劇「JAL123便墜落」。その事故取材の全権を委ねられた主人公の中堅記者悠木和雅が遭遇する、辣腕記者の焦燥、新人記者の崩壊、元エース記者の嫉妬、営業局との軋轢、小さなコップの中の派閥抗争、そして衝立岩への登坂を誓った友人の過労「死」。地方新聞の役割を己に問いかけながら、駆け抜けた人生で最も熱い夏。そして今、悠木は倒れた友人の息子とともに、約束の山に登る。頂きに待つ答えを探し求めて。
巧い。目頭が熱くなること数度。怒りに震えること数度。まさに、作者の描き挙げた虚構に翻弄される数時間。主人公は、過去の「栄光」にしがみつくしかない上役と衝突し、血気に逸る部下を抑え、自らの過去の闇を写す営業局員と闘いながら、新聞業界の裏と表を語り尽す。また「父と息子」という隠れテーマがこの作品の読後感を爽やかなものにしている。心の温度が上がる、そして澄み切った山の風に触れる、素晴らしいエンタテイメント。
返す返すも残念なのは「この小説が全く推理小説ではない事」、その一点のみである。


2003年12月3日(水)

◆神保町タッチ&ゴー。なにもございません。仕方がないのでサイン本でも買う。
「クライマーズハイ」横山秀夫(文藝春秋:帯・書名・印)1571円
どうせ買うならこの作品と決めて東京堂書店に乗り込むと、既に売り切れではないかっ!!(「影踏み」はあったけどね)がーーーん、とショックを受けて「サイン本も一期一会じゃあのう!」とホゾを噛むが、そこからが古本者の習い性。ないとなると「欲ッシー、ホッシー」が募るである。で、ダメモトで三省堂を覗くと隅の方にこっそり積んであったこの作品に「サイン本」の腰巻きが!!やたっ!!残り2冊のうちの1冊をゲットだぜ。
うーん、これが大都会ってもんだよなあ。しみじみ。
◆あとは安物買い。
「最後の記憶」綾辻行人(角川書店:帯)100円
d「推定殺人」Gスコット(社会思想社ミステリボックス:帯)50円
◆原書房の2003本格ミステリベスト10を立ち読み。国内は5作、海外は8作を読了していた。古本者としてはこんなところか?まあ、海外ベストで異様なまでの占拠率を誇る藤原編集部の作品群は、ある意味全て「いにしえの作品」だしねえ。その意味で海外の1位は(個人的にはそれほどの作品とも思えないのだが)、今を反映しているという点で、当然の帰結なのかもしれん。


◆「シンデレラの罠」Cジャプリゾ(創元推理文庫)読了
三日続けて「こんなものも読んでなかったのか」読書。ある意味、創元推理文庫の猫マークを代表する作品。この作品と「わらの女」「死刑台のエレベータ」あたりが映画化もされた猫マーク・フランスミステリ御三家ではなかろうか?我が輩はシャノアール。ミステリーズの猫マークピンバッジ申し込み締切まであと一週間>私的メモ。
私は読もうと思ってこの作品を中学生の頃に新刊で買いました。
私は読む積もりだったのに30年以上も積読にしました。
私は読む前にカバーが映画スチールをあしらったものであった事に感謝しました。
私は読み始めて、主人公の記憶が喪われている事に驚きました。
私は読み続けるうちに、二組の陰謀者たちの錯綜に眩惑されました。
私は読み終わる寸前に題名の意味を知りました。
私は読み終わって、感心しました。
私はこの作品の購入者であり、積読者であり、読者であり、評価者でもあります。
いったい私は何者なのでしょう?
>いいかげんにしなさい。
個人的に思い描いてきた「フランスミステリ」のイメージにピタリと当てはまる作品。登場人物を絞り、動機を絞り、頁数を絞り、それでいながらシチュエーションと語りの妙で、欧米本格推理に伍する逆転の興奮を演出してみせる。残り香に拍手喝采。東野圭吾に感心する前に読んどけ、読んどけ。


2003年12月2日(火)

◆サイトを閉じようと決意する。
◆翻意する。


◆「スイートホーム殺人事件」クレイグ・ライス(ハヤカワミステリ文庫)読了
「こんなものも読んでいなかったのか」読書。なぜかノンシリーズのこの作品が最後まで手付かずだった。というか、一応、ジャスタス夫妻&JJマローン世界と地続きらしい(作中、ジェイクが話題にされる)が、なにせ翻訳がかの長谷川修二、「ママ」を「母者人」と訳すという年代モノ。今なお版を重ねている現役本であり、その大時代がかった訳文が、ノーマン・ロックウェルの描いた古き良きアメリカ家庭の日常生活にオーバーラップして吉とする見方もあろうが、最近の活きのいい女性訳で楽しんでみたいという思いが全くないといえば嘘になる。原作が出版されたのが、1945年というから、日本では「一億火の玉だ!」といった崖っプチの総動員体制が敷かれていた時代に、海の向うではなんともコージーな子供を主人公とするミステリが書かれていたわけで、その彼我の差にはつくづく溜め息が漏れてしまう。
ミステリ作家の母を持つカーステアズ家の三人の子供たち、健全型の長姉、活発な次姉、悪戯好きでしまり屋の弟。ある日、彼等の隣家で殺人事件が起きる。被害者はサンフォード夫人。目撃者となった3人は、証言をごまかし、有力容疑者の何人かを警察の嫌疑の外におき、自分たちの手で犯人を挙げようと奔走する。だって、女流ミステリ作家が、実際の殺人事件で手柄を立てれば、著書もバカ売れ、我が家の家計も潤うに違いない。消えた銃弾、縺れる脅迫、実体化する架空の人物、静かな住宅地に潜む殺意の顛末とママと担当刑事の恋の道行きは如何に?
まずは登場人物表とその紹介文を眺めるだけで、ホンワカした雰囲気が漂ってくること請け合い。そして、開巻即、警察や容疑者を向こうに回して、無邪気な企みを次々と仕掛けてくる子供たちの活躍にホノボノ。そして、一見、理不尽に振る舞いながら、その実、最も鮮やかな大人ぶりをみせるママに乾杯。ライスが実生活で子供たちをどう扱っていたかは、「作家の嘘」の向う側だが、確かに推理作家らしい愛は垣間見えるような気がする。なるほど、これは傑作の名に値する。ジル・チャーチルの主婦探偵の原点はこのあたりなのかあ、再認識した次第。


2003年12月1日(月)

◆師走。しわすとリーバスは似てませんかそうですか。掲示板で膳所さんから、リバースじゃなくてリーバスでっせと、ご指摘をうける。おお、一旦間違えて覚えると、何度見ていても同じ間違いをしてしまう。ご指摘感謝。ちなみに、「英語の綴りはどんなんじゃろ?」と調べてみると「REBUS」。
なるほど、間違っても「リバース」にはなりませんわな。
◆これまで全く手を出していない食玩だけど「世界の殺人現場シリーズ」とか出たら絶対買ってしまうであります。
「一柳家」
「黒死館」
「十角館」
「水晶のピラミッド」
「グリーン家」
「メイヒュー邸(神の灯火)」
「月光」轢断人形付き
「スタイルズ荘」
「プレーグコート」
シークレット1「スタイルズ荘・カーテン版」
シークレット2「暗黒館(建築中)」
◆早川と創元が競うようにして、クリスティーで「もう一儲け」と踏ん張っておられる。昨今の出版事情をなぞれば、こんなのもありか?

月刊アガサ・クリスティー・ドール・コレクション
豪華パンフレットに殺人犯人形付き
第一回配本「オリエント急行殺人事件」
人形貧乏で即廃刊

これならどうだ。

週刊アガサ・クリスティー・ファクト・ファイル
毎週1作ずつ、クリスティー作品の梗概と全世界での書影を紹介
各巻に内外からの豪華解説を加え、ひらいたかこのイラストで送る
第一回配本「スタイルズ荘の怪事件」+ポアロファイル1
初回特別付録、各出版社からの断り状(復刻)

うーん、これはありそうだ。
でもあたしゃ、週刊カー・センサーとかの方がいいぞ。
(結局これがいいたかったらしい)
◆雨だったので購入本0冊


◆「ハムレット復讐せよ」マイケル・イネス(国書刊行会)
「こんなものも読んでなかったのか」シリーズ。昨年の「恥かし未読ベスト10」で次点に泣いた作品。いや別に泣かなくてもいいのだが。何が泣けるかと申せば、ポケミス版に大枚叩いた己が泣けるのであって、何もこの作品が泣ける訳ではない。泣ける「わけ」なのか、泣ける「やく」なのか、なかなかに奥が深い。今年は「天正マクベス」以降、シェイクスピアがマイブームになってしまったので、積年の積読本を手にとってみた次第。
スカムナム館の主・ホートン公爵エドワード・クリスピンは、戦火の予感漂う世間とは別の時間を生きていた。肖像画家の娘であった公爵夫人アンの稚気によって館内部に16世紀の劇空間を再現し、そこでハムレットの素人演劇を催す。主演には、当代きっての実力派男優メルヴィル・クレイを招いて総勢30名で送るエルシノア城の復讐劇は、貴族に政府高官に学者、医者に記者に作家に画家、コピーライター、そしてスパイがキャストを務める。本番の一週間前から、様々な形で届けられる「脅迫引用文」。そして、通しの試演の最中、ポローニアス役の大法官オルダン卿イアン・スチュアートがハムレットに殺された後に、何者かに射殺されてしまったのだ!オルダン卿は、重要な国家機密を記した公文書を所持していたことから、時の総理大臣は、直々の命でスコットランドで最も有能な捜査官を現場に派遣する。その名はジョン・アプルビイ。だが、館に潜む殺人鬼の魔手は留まる所を知らなかった。劇中劇の殺人。カワカマスとスズキの友好委員会。引かれる警句。棄てられたフィルム。発掘される因縁。果して、復讐するハムレットの正体とは?
全編これ遊び心溢れる演劇ものの本格推理。エスピオナージュの色彩も漂い、時代を写しながら、圧倒的に分厚い教養と多彩なキャラクターで楽しい読み物に仕上げた作者の力量にはただただ嘆息する。余りにも多い登場人物を、消去法で絞り込んでいく推理の道筋は確かで、推理作家が明かす見事な「真相」と、名探偵が捌くこれまた二枚腰の結末の対比が鮮やか。そこら中に張り巡らされた赤鰊の山が、無理なく嵌まり込み、読後感も爽やかである。ただ、中盤の展開が、ややあっさり目でもう少し書き込みがあってもよいように感じた。重厚ではあっても長大ではない節度とみるべきか?いずれにしても、歴史的名作の名に恥じない作品。イギリス本格推理ファン必読。