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2003年11月10日(月)

◆大阪出張。会議終了後、キタの古本屋をチェック。1冊だけ安物買い。
「忘却の船に流れは光」田中啓文(早川書房)900円
Jコレクションは結構真面目に読んでおります。まじめにかってます。「かって」は「借りて」の関西弁です。>これこれ
◆実家傍のブックオフで、これまた安物買い。
「ソーダ水の殺人者」新井千裕(光文社)100円
「SFマガジン1992年2月号」100円
「SFマガジン1997年9月号」100円
新井千裕の殺し屋ファンタジーは、一度は読了の上、大矢ひろこ女史にお譲りした作品だが、まあ手元においておいてもよいか、という内容だったので、再び百均ゲット。
前回、このお店に来て以来、しぶとく売れ残っていたSFMの山から2冊。
「SFM 92年月号」はG.R.R.マーティン「夜明けとともに霧は沈み」狙い。
「SFM 97年9月号」はR.シェクリイ「恐竜に関する調査報告集」狙い。
短編ひとつに百円出しているというのは、まるでe-NOVELSですのう。
「e」is for economical.>おいおい
このあたりの作家が好きなんだよなあ、と思ってネットを徘徊していたら、「あの人は今」なんだそうな。
ふーーーん。モロにツボな作家ばっかりではないかいな。どうもわたくしめのSFの感性は80年代で完全に止まっておるようでございます。
◆実家でパソコン講習。夕飯をよばれて爆睡。


◆「ネジ式ザゼツキー」島田荘司(講談社ノベルス)読了
最新作。怪しげな季刊島田荘司から御手洗潔が二年続けて帰還。ノベルズ直の出版とは豪気な大盤振る舞い。まずはハードカバー稼いでノベルズで出して最後に文庫で三度美味しいというマーケティング戦略を取らなかったのは何故なのであろうか?うーむ。金持ち喧嘩せず、なのであろうか?
中身は「眩暈」系の話だけど、「童話」から作者の過去を解析していく過程が実にスリリング。更に、そこから現実の事件に収斂させていく手際も鮮やか。最初「なんじゃ、こりゃ?」な題名を「なるほど、この題名しかないな」と思わせるために書かれた話かもしれない。物語がノンフィクションで追いかけている例のテーマと交錯するのは、島田ワールドの統一場理論のためであろうか?横書きは始め戸惑うものの、乗ってくるとこちらの方が読み飛ばしが効くような気がしてきた。島田荘司健在なり、を証明した一編。


◆「吉敷竹史の肖像」島田荘司(光文社カッパノベルズ)読了
「季刊吉敷竹史」ですかあ?と思わずのけぞる造りのバラエティーブック。頭には、長い中編サイズというか短い長編サイズの「光る鶴」という「秋好事件」を題材にした作品がドンとあって、更に吉敷前史とでも呼ぶべき学生時代の犯罪もオマケでついており、それだけで1冊にしてもよかったとは思うのだが、そこに人権派の弁護士との対談やら、カバーアート集やら、紀行写真やら、美人画やら、カラーページもふんだんに加えて遊び心満載の「よくわかる吉敷竹史」本に仕上げている。
「光る鶴」は、元犯罪者の遺志を受けて、30年前に起きた冤罪事件の真相を、吉敷が明らかにする過程を描いた快作。僅か1日という期限の中で、時の彼方に埋葬されてしまった犯罪の痕跡を掘り起こし、再審に持ち込めるまでの物的証拠まで掴んでしまうという、言わば出来過ぎた話。しかし、暗闇に光る鶴のイメージは、まさに死刑囚の人生を象徴するかのようであり、なんとも泣ける。これはいい。「吉敷はレベルがあがった。吉敷は『浪花節』を覚えた」といったところか。
バラエティー部分では、紀行写真が最高。なるほど、すべてのトラベルミステリーにはこういうページがあるべきかも、と唸った。これがあの名作の舞台かと思うと、自分の頭が如何に文字から映像を組み立てる能力に欠けているかを実感させられる。幾つかの吉敷ものを再読したくなる好企画といってよかろう。


2003年11月9日(日)

◆Rさんのところの30000HIT企画でアンソロジーを編もうという企画が出されていた。しかし先月、この日記で「名探偵登場(7)・(8)」を編む!というのをやってしまったところなので、参加する気力を失っているうちに、締切が過ぎてしまった。ところが、猿の知恵は後から湧いてくるもので、ふと思い付いてしまった。思い付いてしまうとやってしまいたくなるのが人情で、やってしまえるところがネットのお手軽なところである。これが同人誌だと、こうはいきませんわな。まあ半年遅れですか。てなわけで、思い付いたのがこれ。
「単行本化されていないSFミステリのアンソロジーというのはどうだろうか?」
こんな感じ。

題名「SFXミステリ」
「エス・エフ・エックス・ミステリ」と読まずに、「エスエフ かけ ミステリ、ミステリ受け」と読んでね)

"The Woman in Del Rey Crater" Larry Niven
ギル・ハミルトンものの短篇 なんとネット上で無料で読めたりする
"The Sixteen Keys" Randall Garrett
"The Spell of War" Randall Garrett
ダーシー卿シリーズの未訳作2編
"The Musgrave Version" George Alec Effinger
アンソロジー「軌道上のホームズ」より、マスグレイブ家の儀典書の新釈?
"The Adventure of the Pearly Gate" Mike Resnick
同じくアンソロジー「軌道上のホームズ」より編者の作品を
"The Hand You're Dealt" Robert J. Sawyer「配られたカード」
ソウヤーのSFミステリ短篇。今のところSFMで訳されたきり。
"Lost in a Space Warp" Isaac Asimov「スペース・ワープ」
未収録の「黒後家蜘蛛の会」の一編

"The Frankenstein Factory" Edward D Hoch
「コンピューター検察局 対 フランケンシュタイン」
御存知ホック唯一の未訳長編

うーん、殆どSAKATAMさんのところで間に合ってしまうラインナップだねえ。もう少し頑張らねば。

◆投票に行き、図書館に寄って、新刊書店でお買い物。
「ネジ式ザゼツキー」島田荘司(講談社ノベルス:帯)1150円
茗荷丸さんからカミ代で届いた図書券で評判の新刊を1冊。島田荘司の新刊を書店で買う。うーん、清く正しい日本の推理小説愛好家である。図書館で限度枠一杯の新刊書を借りた事は内緒だ。
◆TRICK3の第2エピソード<スリット美香子>前後編を視聴。妖しい自称テレポーターを高橋ひとみが怪演。中国服フェチ集まれ。プロットと物理トリックは「成る程」なのだが、最後やや駆け足になったのが残念。ワイド劇場以外で山村紅葉を始めて見たような気がする。ずしーん、ずしーん。


2003年11月8日(土)

◆まともに休日出勤。夕方まで働いた後、神保町チェック。先週の古本市の余勢をかってそれなりに棚に動きがあって楽しい。@ワンダーでは、ちょいめずのロマンブックス版「仮面と衣裳」が3桁で転がっていたがスルー。ポケミスの棚から、抱えきれないほどクリスティーばかり抜いていた綺麗なお姉さんがいて、気合に飲まれる。ううむ、「クリスティー文庫100冊刊行!」に浮かれる世の中に決然と背を向けて、ポケミスのクリスティーにこだわられるとはタダ者ではございません。
続いて立ち寄った富士鷹屋で散財。
「港のマリー」Gシムノン(集英社)2000円
「消しゴム」アラン・ロブ・グリエ(河出書房新社:帯)2000円
おお、まっとうな古書価格でのお買い物。シムノン選集はどれを持っていないのか判ってないんだなあ。まあ、一歩前進ということにしておいてくれ。「消しゴム」は、昭和34年の刊行。帯背に「長編推理小説」と書いてなければ手にもとらなかったであろう。「新しい手法による新しい推理小説」とあるのだが、どんなもんだろう?とりあえず、「見た事も聞いた事もなかった事」に敬意を表して買ってみる。ネットで検索すると、さすが富士鷹屋だけあって、お買い得値段であった模様。今日の店番はいつもの若い店主ではなくて、上品な白髪のご婦人。「今日は暑かったですねえ」と声をかけられてビビってしまった。
羊頭書房も覗くが、これといって食指は動かず。ついでなので、東京に出て古書センターもチェックすると、ポケミスの濃いところが立派な古書価格で並んでいた。「道化者の死」に5000円。うーん、持ってなかったら買っちゃうなあ。きっと。
◆夜は奥さんの実家で、私の誕生祝方々、天婦羅パーティー。感謝感激。鯨飲馬食。睡魔到来。帰宅爆睡。


◆「ヨットクラブ」Dイーリィー(晶文社)読了


2003年11月7日(金)

◆健康診断は不健康診断に終わる。
◆残業、宴会、再び残業。帰りの電車は酔っ払いばっかり。あ、俺もか。購入本0冊。


◆「虹果て村の秘密」有栖川有栖(講談社)読了
ミステリーランド第2回配本。作者の第12長編(祥伝社400円文庫は中編だよね?)。講談社が誇る新本格作家たちにジュヴィナイル・ミステリを書かせるという「企画」の勝利。この問答無用の価格設定が凄い。子供の頃から「ハードカバーは2000円して当り前。ハードカバー3冊でゲーム1本なんだ。コミック5冊分の楽しさが詰まっているだろ?ねっ、ねっ!!」てな具合に相場感覚を植え付けようとでも云うのだろうか?それとも、端から子供は相手にせず、作家萌えな「大きなお友達」からごっそり頂きますよ、というマーケティング戦略なのだろうか?実際、どれぐらいの比率で子供の読者がついているのか知りたいところである。
梗概は、新刊だし、皆読んでる話なのでパス。
で、感想であるが、さすがに各所で評判の通りのロジックの勝利。伏線も巧みで、特に第二の殺人へのレールの敷き方と、解法にパズラーの神髄が見える。主人公の少年・少女は健全にこしゃまくれており、大人たちの思惑も、子供の背丈から見たそれになっている。だが、この作品で唸ったのは、実は作者の後書きである。幾分脚色は入っているのであろうが、これほどミステリに対する幼くも熱い想いを表したエッセイを他に知らない。作者は、全く子供を舐めてはおらず、従ってこのジュビナイル作品にも全力投入だ。これは、作家アリスが学生アリスを通り越し、少年アリスに届けた「夏休みの宿題」なのだ。
ただ、この物語がジュビナイルとはいえ堂々たる本格推理小説であるが故に、同じ夏休みテーマでも、この本と芝田勝茂の「ふるさとは、夏」のどちらを子供に読ませたいかというと、無慈悲な殺人がない分、躊躇なく「ふるさとは、夏」の方を選ぶというのも、親としての思いだったりする。複雑っすね。


2003年11月6日(木)

◆山のようにメールマガジンの登録済み通知が届く。いずれもミステリ系のメルマガらしいのだが、勝手に登録されたのが気色悪くて全て速攻で退会する。ネットにメールアドレスを晒しているので、ゴミのようなDMには慣れっこだが、ある程度カテゴリーを絞った上での大量送付というのは初めて。「ミステリに興味がある」人のメル・アド集なるものが流布しているのだろうか?うーむ。
◆「会社行きたくない」病でうだうだと普段より20分遅れで家を出たら、雨の影響でダイヤが乱れ、電車が半端でない込み具合。会社に行くだけでエナジードレインを食らう。ヒットポイントが下がり、へなへな状態の一日。明朝、健康診断につき21時までに夕飯を食べ終えねばならず、残業後、ダッシュで帰宅。誕生日につき、奥さんから図書券と花束を貰う。くわっぱと夕飯を済ませ、さくっとまるっと寝る。TRICKは週末の楽しみだ。購入本0冊。


◆「死人狩り」笹沢左保(徳間書店平和新書)読了
平和新書は徳間ノベルズの前身で、正統マニア的には渡辺啓介の「二十世紀の怪異」と樹下太郎の「二度死ぬ」を押えておけばよろしいという叢書なのだろうが、高校生の頃、高木彬光の「人形はなぜ殺される」をこの版で(勿論、古本で)読んだもので、なんとなく思い入れがある。さて、このゾンビーハンターでも、菊地秀行でもない、集団殺人テーマの長編ミステリ。国会図書館で調べると、この題名では、この版が初出らしい。「この題名で」というのは、笹沢左保が改題魔であるため、うっかり初出と書こうものなら、「いや、その本は、昭和38年に『愛よ、謀殺の断崖へ飛べ』(←ここ適当)という題名で出てますよ」なんてな突っ込みを受けかねないからである。まあ、でも、カバーのおり返しに「満を持して発表する長編である」とあるのを信じて、初出といっておこう。
西伊豆の中ほど、安良里と宇人須の間の道を行く臨時定期バスが、崖から落ち乗客乗員27名全員が死亡するという事故が起きた。運転手が射殺されていた事から事故は一転、乗客乗員の誰かを狙った殺人事件へと様相を変える。静岡県警捜査一課の刑事・浦上は、妻と二人の子供の死体を前に犯人逮捕を誓う。親子ほども年の離れた不倫男女、百万円を腹に巻いた青年、婚約者がありながら妖艶な美女と手を組んだまま死んだ若者、毒を抱えたビジネスマン、27人の犠牲者の死の背景を追う浦上と相棒の伊集院。美女たちの誘惑の裏に潜む思惑、死者たちの人間模様に悲劇の波紋は揺れ、死の脅迫は刑事たちに迫る。死人狩りの果て、狩人は何を見たか?
まあ、よくもこれだけ訳ありの人々が一台のバスに乗り合わせたものだと感心する。人の数だけドラマはある、とは云うが、ここまで死と隣り合わせのドラマが続くと、些か辛い。リーダビリティーの高さは、さすが笹沢左保だが、「憎悪の化石」になりきれなかった凡庸なサスペンスといった印象。妻子を奪われた刑事が、その事件を直接捜査するという段階で、既にファンタジーである。真犯人の行動に至っては「不自然」以外の何物でもない。


2003年11月5日(水)

◆大阪日帰り出張。9時に来いといわれたので、朝の4時起き。まあ、4時に起きるのはいつものことだが、日記は書けませんわな。というわけで、遅れ馳せながら掲示板で福島正実アンソロジーについて御教授いただいた石川さんに感謝。旺文社文庫のアンソロジーと同じとは知りませんでした。がちょーん。
◆帰路の東京駅地下で定点観測。安物買い。
「明日に別れの接吻を」笹沢左保(東都書房)100円
「死人狩り」笹沢左保(平和新書)100円
「玉虫色の殺意」大谷洋太郎(双葉ノベルス)100円
「レオナルドのユダ」服部まゆみ(角川書店:帯・登場人物栞)1300円
「ヨットクラブ」Dイーリイ(晶文社:帯)1600円
「虹果て村の秘密」有栖川有栖(講談社:函)1200円
均一棚に笹沢左保の推理小説がわんさと並んでいたので、出版社で2冊ばかり拾う。短篇集の中には、文庫化されてないものもあるのかもしれないが、今一つ熱くなれないんだよなあ。大谷洋太郎は「不可能犯罪−密室と”瞬間移動”に挑戦する」という煽りに載せられて拾う。後の3冊は新古本。服部まゆみの新作が「レオナルドのクマ」に見えてしょうがない。装丁が素晴らしくお洒落。内容もさぞやお洒落なのであろう。巻末の参考文献の数がミステリ離れしている。イーリイの帯の煽り文句「異色作家短篇集」は「やってくれました」って感じ。藤原編集長直々の解説もノリノリで吉。有栖川有栖のジュヴィナイルは各所で評判がよいので発作買い。よいこは本屋で買いましょう。さすが年末が近づくと思わず食指の動く新刊が出てきますのう。
◆WOWOWでやっていた「まぼろし」をリアルタイムで視聴。永年連れ添った夫に失踪された妻、その現実から目を逸らし続ける彼女に、夫のまぼろしが付き纏う。友人たちの困惑、恋人の焦燥、大人の時間が流れ、喪失の浜辺に翳は佇む、てな話。絵に描いたような小劇場向け映画。シャーロット・ランプリング様は老けても綺麗だねえ。


◆「天球の調べ」エリザベス・レドファーン(新潮社)読了
天文学、暗号、王党派の叛乱、連続娼婦殺し、惑星探し、歪んだ亡命者姉弟、薄幸の異父兄弟、物言わぬアドニス、汚れた聖職者。1795年、魔都倫敦は燃えていた。陰鬱にして淫靡なる策謀と欲望と滅亡の歴史絵巻。爽快感0。詳細後日。


2003年11月4日(火)

◆はーい、おじさんはここですよー>とくに意味はない。
思い起こせば、20代の頃が最もミステリから遠ざかっていた時期で、アニメと漫画に血道を上げていた。同人活動も小遣い稼ぎも、すべて漫画。社会人になってからも、わざわざ新幹線で大阪から広島まで通って漫画を描いていた。くりいむれもんも6巻目あたりまでは真面目に定価で買っていた。コミケが人生の祭りだった。今、考えれば、あの頃、もっと真面目にミステリを追っかけていれば、マイナーな30年代C級作家の本ももう少し買えていてかもしれない。まあ、今更、買い損ねた本の数を数えていても仕方がない。当時は当時なりに青春していたのである。ミステリ心が再燃したのは、同人誌バージョンの森事典との出会いがすべて。中学1年生の時の「Xの悲劇」との出会いがファーストインパクトだとすれば、森事典との出会いはセカンド・インパクトであった。残酷な店主の値付け、眺めれば目玉飛び出す、綻びた薄いPurseで、家計簿を裏切るなら、古書相場で有り金はたく、中年よ神話になあれ、で、ネットデビュー。補完されて今に至る。正直なところネットを始める前は、1年に読む本の数は精々百冊ぐらいまで落ち込んでいた。アホのように本を読むようになったのは、ネットへのけじめ以外の何ものでもない。で、かつては「老後の楽しみに」と(いういいわけで)積読してあった本を片っ端から読んでいるわけである。1年365冊読むうちに思ったのは、「老後などない」ということ。とにかく今読んでおかなければ、次から次へと本は出てしまうのである。年金制度は破綻して、死ぬまで働かなきゃいかんのである。働きながら読んで読んで読み続けるしかないのである。仮に70歳まで生きるとしても、あと25年。一日一冊読んだとしても、たった9千冊強の本しか読めないのだ。まあ、ネット切って読んで逝けば、一日2冊ぐらいは可能かもしれないが、ドライビング・フォースを失う気もするし、悩ましいですのう。とりあえず、ネットについては「さらば提督」のラストシーンのコロンボの心境。

「まだまだ。まだ、止められませんよ。もうちょっとだけやらせてもらうよ。もうちょい。」

よござんすか?
◆残業。締切から二週間遅れで研修の課題提出。日記やら、感想やらは、ひいいこら言いながらでも書く気になるが、仕事でもない、趣味でもない文書というのは、どうしてこうものらないのであろうか。そもそも、守備範囲外の本を読むというにが苦手、というか、時間の無駄と感じてしまうということですか?


◆「目を擦る女」小林泰三(ハヤカワ文庫JA)読了
文庫オリジナルが嬉しい。異能作家の最新短篇集。作者の一風多彩ぶりを窺い知るには最適の280頁。冬樹蛉の解説がこれまたイイんだ。
「目を擦る女」表題作。<この世はすべて「蜃」が見ている夢>系の作品。作者のこれまでの作品の中でも繰り返し用いられるモチーフである。祥伝社400円文庫でやりたい事は全部やったような気もするのだが、しぶとくこのネタで来たかという一編。カバーアートの強烈さに免じて及第点をあげておきます。
「超限探偵Σ」再読。かつて通産省が「ソフト開発者が将来払底する」という見込みで、ソフト開発者養成プログラムを開発するというメタな国家プロジェクトに取り組んだ事がある。そのダメ・メタ・プロジェクトの名を「シグマ」という。かつて小原乃梨子が美形悪役の声をアテるというロボットアニメがあった。その水金地火木土天海冥な番組の名を「ゴッドシグマ」という。両方とも、このカミのオルメス、芦辺拓のZを思わせる超限探偵とは何の関係もない。まあ、そんな話である。
「脳喰い」宇宙の深淵から来たりて、ゾンビの如く人間の脳を喰らっていく未知との遭遇を描いたファースト&ワースト&ラストコンタクトもの。さながらランプータンかライチのような脳喰いのシーンが鮮烈。ネタ自体はありきたりだが、なんとなく読まされてしまった。
「空からの風が止む時」この作品集のベスト。風の吹く異形の空間で、生き延びようとする命の営みを抒情豊かに描いたハードSF。「海を見た人」に収録されるべき傑作。こういう話がさらりと書けるから、この人は侮れない。
「刻印」キワモノのゲーム・シミュレーション小説、「か」と思わせておいて、実は、もしも人間と等身大の蚊が地球に現われたら、というIFもの、「か」と思わせておいて、実は、柳美里の「命」もはだしの純愛小説、「か」と思わせておいて、実は、ツイストの効いた法螺吹きホラー、「か」と思わせておいて、、、
「未公開実験」マッドサイエンティストとタイム・マシンもの。ある意味、50年代SFの王道である。理屈が合っているのだか狂っているのだか判定不能な中盤の饒舌は、文科系頭には辛い。オチは「これしかない」ので、過程が大事な話だとは思うのだが、ごめん、ついていけなかった。
「予め決定されている明日」「みみず天使」系の話だが、日常の中での不協和音の醸し方が絶妙で、ぞっとしながら笑いを堪えられなくなるというアンビバレンツな作品。短篇ホラーはかくありたいですのう。


2003年11月3日(月)

◆午前中、完全なる二日酔。アルコールの残る頭で、ぼんやりと本日の1冊をもたもたと読み終える。昼食の買い出しがてら図書館に行き、研修用ビジネス書を5冊借りてくる。午後は只管借りてきたビジネス書を読み、8時頃読み終える。まあ「文化の日」に相応しい活字漬けの一日というべきか。購入本0冊。

◆「それでも警官は微笑う」日明恩(講談社)読了
第25回メフィスト賞受賞作。何が謎って、作者の名前。これで「たちもりめぐみ」と読むのだそうな。ミステリ界における難読名のチャンピオンではなかろうか。カバー折り返しの著者紹介をみて、更に驚いたのは日本女子大出の女性であった事。メフィスト賞って他に女性いましたっけ?薬屋探偵の人はそうだっけかね?内容は、様々な警察小説や刑事ドラマのお約束を踏まえた上で、軽やかにタップを踏んでみせた感のあるエンタテイメント。
その硬骨漢ぶりから「キチク」という有り難くない異名を取る池袋署の刑事・武本は、シャブ中の男色家ミチオの人質傷害事件の引き金を引いてしまう。その事件に偶然巻き込まれたように見えた麻薬取締官・宮田も、またミチオを追っていた。武本は、ディスカウントな密造拳銃のルートを解明すべく、宮田は恋人一家を崩壊させた覚醒剤事件の真相を暴くため。警察と麻取の確執を越えて響き合う猟犬の魂。武本の相棒にして年下の上司・潮崎の饒舌と雑学が、武本のコミュニケーション不全を補い、一本の白い糸が「死のビジネスマン」のもとへと彼等を導く。爆発する模型、誓いの黒豆、男色の断罪、冷酷なる辞令、組織とは?男とは?刑事とは?それでも、警官は人を裁くことは出来ず、それでも警官は微笑う。
いわゆるモジュラー型の警察小説ではなく、複数の事件が最初から一本の線に収束していくタイプの話。キャラのたたせ方は充分に及第点、読後感も極めて爽やか。捜査側の人物造型がやや甘口で、犯人にも犯人なりの事情を書き込んでしまった事で、ノワールな語り口を期待すると失望する。しかし、お坊ちゃま警部補の弾けぶりには、「大人の感傷」を嘲いとばす力を感じる。まあ「翔んでる新宿小判鮫にほえろ!あぶない捜査線<炎アライグマ>編」とでも申しますか。


2003年11月2日(日)

AMさんがドハティーの「A Tornament of Murders」を大絶賛、少し前には茗荷さんが芝田勝茂の「ふるさとは、夏」を大絶賛。いずれも、拙サイトの感想を切っ掛けに手にとって頂いたようで、嬉しくなる。自分の絶賛評が、新たな絶賛評を生んで、輪が広がっていく、これは本フェチ・サイト運営者にとって、「至福」以外の何物でもない。やっててよかった。うっかり「レア」などと書いたばかりに古書価格を釣り上げてしまったのとは、訳が違うのである。
◆朝から昨日の日記書き。昼からはお出かけ。EQFCのMoriwakiさんのお宅に押し掛け、昼酒三昧。K女史とS女史も参戦して夜の20時過ぎまで、盛り上がる。いやあ飲んだ飲んだ。とにかく最初から最後まで酒を飲みつづけていたので昨日以上に記憶が曖昧。かろうじて記憶に引っ掛かっている事を箇条書きにしておく。
・玄関にはMoriwakiさんが「家を建てたら、絶対やりたいと思っていた」という「御自由にお持ちください」棚があって、訪れる者を釘付けにする。「こんにちは」という声が聞こえてから、姿を見せるまでにタイムラグが生じるのであった。それにしても、貸本流れといいながら「死の序曲」の初版を出すかな、普通。
・Moriwaki家では、蔵書の氾濫を防ぐために、スライド書棚1本分を越えると実家の書庫送りとするルールにつき、手元には厳選されたものしか残らない。我が家の本宅がフロー(「すぐ読む積もり」と「読んだところ」)のみの雑然たる状況に比べ、密度の濃い事。原書もハンショーが沢山ならんでいて驚く。
・「半身」評を巡り、kashibaはオカルトが入ると甘くなる、という指摘を受ける。むむむ、そうかも〜。ちなみにMoriwaki氏は、「もう何が何だか判らんよう」という話に弱い、んだそうな。ピンチョンとか、ピンチョンとか、ピンチョンとか。
・S女史は、清楚な外見に似合わぬ古本者なのだが、今回「あのO穂舎で値引き交渉をして3千円も引かせた」という武勇伝を聞いて更に尊敬してしてしまう。しかもそうしてまで手に入れた本を、惜しげもなくお土産にしてしまう。謎。
・「トム・ブラウンの死体」を巡る東京泰文社の想い出話。あの頃は他に買わなければならない本があったんだ。カーとか、カーとか、カーとか。
・誤の悲劇はエイプリル・ロビンの夢を見るか?白樺荘は木の如く歩くか?
・「どうしても一人だけ偏愛している作家を選べと言われれば」との問に、kashibaは「星新一」と答え、Moriwaki氏は「筒井康隆」と答える。ごめんね、エラリー・クイーン。
・「第八の日に」「ローマ劇場で」「ジューナが」「沢山の古本を」「説教した」GET!
・主のMoriwakiさんが沈没したのちに、あんな事や、あんな事や、あんな事まであった事はヒ・ミ・ツだ。
・岸崎さん、あれこれご馳走さまでございました。スペイン岬風オムレツおいいしゅうございました。シャム・ソーセージおいしゅうございました。ローマ帽子風グラタンおいしゅうございました。日本おむすびおいしゅうございました。読者よすべての手がかりは与えられました>特に意味はない。
◆あ、そうそう、まずはMoriwaki邸近辺の古本屋をご案内いただいたのであった。折角なので一冊だけ名刺代わりに購入。
「SFエロチックあらかると」福島正実編(秋田書店)1000円
秋田書店の福島正実アンソロジーの3冊目。一体何冊あるんだろう?


◆「麦の海に沈む果実」恩田陸(講談社)読了
メフィストに連載されたビブリオ絡みの学園ミステリ。いまや異才としてあらゆるジャンルをパクリまくっている作者だが、さすがにかつてのホームグラウンドたる「学園もの」となると貫禄が違う。久々に「らしさ」を堪能させてもらった。
これは私が古い革のトランクを取り戻すまでの物語。その全寮制学園は、湿原の果てにあった。かつては修道院だったその佇まいは、楽園のようであり、檻のようであり、墓場のようでもあった。そこに待つ言い伝え。「三月以外にやってくる転入生は学園を破滅に導くだろう」。時は二月末日。私の名は理瀬。貌を壊された天使。美しい校長の歓待。外れ者集団のファミリー。押し掛け同室者。天に隠された書。消えた二人の学生を巡り、憶測は乱れ、茶会の夜に霊は降りる。ミステリ劇の闇に立ち尽くすのは何者?ヨハンと踊るワルツ。嫉妬のロンド。三月は深き紅の淵、十月は麦の海に溺れる私たち。
なんとも、ファンタジックな学園ミステリ。かつて少女漫画でしか描きえなかった世界がここにはある。いかにも萩尾望都が書きそうな、というと語弊があるかもしれないが、その情景やキャラクターに、萩尾節を感じてしまうのは私だけではあるまい。適度にインモラルで、適度に女の子してて、天使の外見と悪魔の知性をもった男の子がいて、謎があって、オカルトがあって、ツイストがあって、衝撃の大団円がある。そして、本読みの心をくすぐるメタ書物の存在。これは作者は書いていて相当楽しかったんじゃないかなあ。うん。全然フェアじゃないけど、趣味のツボを押されてしまった。堂々たる佳作。


2003年11月1日(土)

◆ぶーーーーん。

◆前夜の深酒が祟ったのか、目覚まし時計に起される。うう、眠い、眠いぞお。
しぶしぶ、しこしこと日記を書いているうちに、MKさんからの荷が届く。
"The Wailing Rock Murders"Cliford Orr(Farrar & Reinhart:US 1st)
"Death of a Fellow Traveller"Delano Ames(Hodder &Stoughton:DW:UK1st)
"Landscape with Corpse"Delano Ames(Hodder &Stoughton:UK 1st)
"Corpse Diplomatique"Delano Ames(Hodder &Stoughton:DW)
"The Six Queer Things"C.St.John.Sprigg(The Crime Club inc.)
"Murder in Trinidad"John W. Vandercook(The Crime Club inc.)
"The Stranger Fig"John Stephen Strange(The Crime Club inc.:US 1st)
"Stone Dead"Patrick Laing(Phoenix:DW:US 1st)
"The Deadly Dowager"Edwin Greenwood(Doubleday Doran:DW)
"The Trail of Fear"Anthony Armstorng(The White House:DW)
ダストラッパー付きが5冊。これがまたいずれも泣かせる美麗ぶりだったりする。
これだけ買って16100円也。超買い得と申し上げてよろしかろう。
おや?まだ何か袋に入っているぞ、なんだろう??
取り出すと、おお!!!、こ、これは!!!!
既に売り切れたと伝えられる「ある中毒者の告白」のオールカラー版ではないか!!??
やはりタキオンビームでメールを転送したのが奏効したのだろうか。それとも「こんなこともあろうかと」真田技師長が密かに開発して取り分けておいてくれたのだろうか?通し番号をみると「6」の文字。
ありがとうございますありがとうございます。お蔭様で過去を改変する事ができました。ありがとうカーティス・ニュートン、フューチャーメンの皆さん。皆さんは英雄です。でも、まさか、これは夢ではないだろうなあ、、、、

◆ぶーーーーーん

◆はっと、気がつくと時計は11時50分を指していた。
いかんいかん、今日は小林文庫湘南分科会のイベントがあったのだ。
おお慌てで、千葉発12時12分の久里浜行きに乗り込み、一路鎌倉へ。課題図書は持ってでたのだが、日頃の寝不足のツケで、寝ては夢、醒めてはうつつの繰り返し、、、

◆ぶーーーーーん

◆はっと、気がつくと、電車は北鎌倉の駅を出たところ。やばっ、寝過ごした!
と一瞬焦ったが、北鎌倉が鎌倉の手前であった事を思い出し、胸をなで下ろす。なんか、前回も同じような事をやらかしたような。極めてデジャヴな昼下がり。
鎌倉駅東口に終結したメンバーは数ヶ月前の鮎川哲也一周忌と同じ面子。発起人の鎌倉の御前、須川ROM編集長、小林文庫オーナー、黒白さん、石井女王様、岩堀のおとっつあん、そして私の7名。
黒白さんが先乗りして古本屋をチェック済みだった事が判明。うーん、君は前回もそれをやっていなかったか?
109で惣菜と酒を買い込み、人込みでごったがえす道を目的地に向けてゴウ!
今日は御前の発案で、幻の作品の読書会をやるというのだ。
むふふふふ、楽しみだなあ。遂にあの作品が読めるのかあ。
本に囲まれた一室で、おもむろに、御前が一人に一束ずつコピーを渡してくれる。
やった、やったあ、まるで夢のようだ。
早速、酒は一滴も飲まないまま、かわるがわる交代で朗読を始める。
へえーっ、探偵は三番館のあの私立探偵だったのかあ。
系図なしには理解できない複雑な一族。
獄門島に向う金田一耕助。
演じるのは上川隆也。
バイオレットフィズを舐めながら逆さ吊りになる和尚。
喜寿を祝う人々。
天井に向って嘉衛門に呼びかける片岡千恵蔵。
そして、舞台は一転、信州の野尻湖畔の邸宅へ。
今まさに息を引き取らんとする鮎川哲也翁。
「俳優が変れば必ずビデオに録画するように」。
汗かきの弁護士が稲垣吾郎扮する金田一耕助の前で毒殺されてしまう。
吹き消される3本の蝋燭。
ヨキ・コト・キク。
蔵書に群がる蒼いけものたち。
湖面からにょっきりと突き出た毛脛。
高峰三枝子の前に竜王氏が現われ仮面を毟り取る。
「俺が白樺静馬だあああ!」
尾張が遠ございます。

◆「終点ですよ」

◆はっと、目が覚めると電車は千葉に着いていた。時刻は夜の21時半。
あれれ?なんで俺ここで寝くたれてるわけ?
何か無性に楽しかった事だけは覚えているんだけど。
確か、御前に「マフィアへの挑戦1」の帯付きを貸し出した筈。これは、年内にも御前が発行を目論んでいる創元推理文庫目録&書影の御参考。
会員番号4番・須川さんからは、「ある中毒者の告白」のオールカラー版を見せて貰ったっけ。
会員番号5番・8千万円の男・黒白さんが買った本は日本出版共同の「セレナーデ」のような気が。
岩堀さんの探偵実話収集が後12冊のところまで来ているときいてたまげた、たまげた。
小林文庫オーナーは、また女子中学生も入れて黒猫荘の入居者と温泉宴会を企画しているとか。
女王様は「すっかり新刊本のグレイト・ファンになっちゃったわよ、おほほほ」と快気炎を上げていた。
カバンを見ると、何冊か本が増えている。
「唱歌のふるさと 花」鮎川哲也(音楽之友社)
「唱歌のふるさと 旅愁」鮎川哲也(音楽之友社)
「唱歌のふるさと うみ」鮎川哲也(音楽之友社)
さぎりーきーゆるーみーなとえのー
……あれは「白樺荘事件」だったのだろうか?
うう、眠い、眠いぞう。

◆ぶーーーーーーーん。


◆「探偵の冬 あるいは シャーロック・ホームズの絶望」岩崎正吾(東京創元社)読了
横溝正史とエラリー・クイーンの本歌取りをものにしてきた作者が前作から10年の時をおいて世に問うた生真面目なパロディ・シリーズの3作目。今回は、凡そ古今東西のミステリ作家が、手を替え品を買え替え料理してきたホームズ譚に挑戦。作者の新味は、現代の横浜に、19世紀末の倫敦の街を甦らせ、そこに自らをホームズだと思い込んだ狂える若き富豪を配置したというところ。ワトソン役には、その弟。そして美しい人妻をメイド服に封じ込め、禁断のホームズ譚は幕を開ける。
見事なまでの禿の退職公務員を雇った団体の正体と早朝の儀式の謎に迫る「光頭倶楽部」
山上公園の闇にさ迷う人魂の怪異を少年探偵とともに追う「バスかビル家の犬」
悪の天才・森谷亭の犯罪の鍵を握る人物が病室でショック死を遂げる。死に際の言葉に秘められた奸計を暴く「まだらのひもの…」
いずれも聖典を踏まえ、それぞれにシリーズ犯人を配しながら、連作にまとめあげたお手並みは「さすが」といえる。また、最終話「シャーロック・ホームズの復活」に至る騙りとツイストも連作もののお約束を律義に守り抜いている。ただ、これまでに数多あるホームズのパスティーシュやパロディーの傑作に比べると些かパンチ不足の感は免れない。地口が日本語な分、泥臭さが抜けず、舞台が日本である分、書き割り感が募り、狂えるホームズにも、場末の哀愁が立ち込めているのだ。形においてホームズを真似た三文芝居であり、心においてホームズを写す事を放棄した作品。こんなホームズもワトソンも見たくない。