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2003年10月31日(金)

◆ハロウィンだというのに大残業。昼間10分だけ、青空古本市開催中の神保町をチェックするが、人の背中を見ていたようなもんである。購入本0冊。しくしくしく。
◆お、ともさんが、生徒の感想文でダレン・ジャン最新刊のネタバレをされて悔しがっておられる。それはご災難。
ふと思い起すに、中学時代、私が競うようにして古典推理を読むようになったのは、もたもたしていると教室の黒板に「グリーン家の犯人は○○だ!」というような事を書かれてしまうからだった。あのネタバレ黒板事件がなければ自分がここまでミステリに嵌まる事もなかったかと思うと、ネタバレにも一分の理はあるのかもしれない。
他方、ネタバレの罪の最たるものは、サザランド・スコットの「現代推理小説の歩み」だったかを数ページ読んで、その余りのネタバレの嵐に呆れ、それ以来すっかり「ミステリ評論」嫌いになってしまった事。若い頃についた習慣というのは恐ろしいもので、今なお評論については避けて通っているのが実状。私の本棚に評論集が全くと言っていい程なくて、私のミステリに纏わる知識がいつまで経っても体系だってなかったり、マニアなら誰でも知っているような「常識」に欠けていたりするのは、この「評論嫌い」の影響である。いつか、ネタバレを全く恐れる事なく評論を読める日は来るであろうか?
◆思いつき:ハロウィンといえば「この人」「この本」「この音楽」
まず「人」。これはなんといっても、カボチャ大王。あのチャールズ・M・シュルツが創造した架空のキャラクターで、一言でいえば「ハロウィン版サンタクロース」。「ピーナッツ」の中で、ライナス・ヴァンペルトは毎年ハロウィンの夜になるとカボチャ畑に座り込んで、大王の到来を待ちつづける。ピーナッツに強烈な「宗教性」だか「哲学」だかを感じた最初が、この「カボチャ大王」であった。
私の知る限り、2003年現在、未だにカボチャ大王は現われていない。
「本」はクリスティーの「ハロウィン・パーティー」。丁度読み始めた頃のハヤカワミステリマガジンに連載されていた事もあって(1971年の事ですな)「クリスマスにクリスティーを」という出版社の煽りはどこへやら、私にとってはクリスティーといえばハロウィンなのである。バケツの中のリンゴなのである。んがんん。
そして「音楽」は「ロンドン橋落ちた」。ホラー映画「ハロウィン3」は、ジョン・カーペンターの「ハロウィン」或いはブギーマンの世界とは別次元の恐怖を描いた作品なのだが、その作中、シルバージャムロック社という玩具会社のCMがオープニングから展開部からクライマックスに至るまで繰り返し繰り返し流れる。その節回しが「ロンドン橋落ちた」なのである。
♪ハーッピ、ハッピ、ハロウィン、ハロウィン、ハロウィン
♪ハーッピ、ハッピ、ハロウィン、ハロウィン、ハロウィン
♪シルバージャムロック
というわけで毎年ハロウィンになると、私の頭の中では、ロンドン橋が落ちまくるのであった。
皆さんの、ハロウィンの人・本・音楽は何ですか?
◆「TRICK OR TREAT ?」
つうわけで積録してあった「TRICK」第3シーズンのEPISODE 1「言霊」編を視聴。瞬時にして山を消す大技から山田に黄色いカードを引かせる禁断の小技まで、いつもとかわらぬTRICKの世界に浸る。やっぱ山田奈緒子を演じる時の仲間はサイコーやね。


◆「鬼火列車」吉岡道夫(講談社)読了
第34回乱歩賞最終候補作。この回の受賞作は坂本光一の高校野球ミステリ「白色の残像」。折原一の「倒錯のロンド」が同じく最終候補作に残った回である。二足のわらじ作家であった坂本光一が沈黙を続けているのに対し、専業作家へと身を投じた折原一の頑張りが光る。一方、吉岡道夫の方も、青春小説に麻雀劇画の原作、果ては歴史シミュレーション小説まで、幅広い芸域を誇る文章芸人としてしぶとく生き残っているわけで、一体、乱歩賞というのは何のためにあるのか?という疑問も湧いてこようというものである。90年代初頭、2時間ドラマ風(当社推定)のミステリを矢継ぎ早に出した作者の処女長編ミステリは、いかにもバブルの絶頂期に構想された作品。
主人公は絵画売買で成功を収める30代の画廊経営者・刀根直之。サザービーズのオークションでドガを首尾よく16万ドルで落札した彼が帰国した時、一人の女優が既にその命を散らせていた。留守番電話に助けを求めるメッセージを遺したのは、刀根のかつての恋人・志摩奈津子だった。伴に新劇の舞台を踏みながら、別々の人生を選んだ二人。つい半年前まで人気の絶頂にあった奈津子がなぜ酒に逃避した挙句、毒死を遂げたのか?刀根は、奈津子の部屋に遺された赤一色のキャンバスに彼女の魂の悲鳴を聞く。奈津子の秘書・折原美砂子の証言から、巧妙な殺意の構図が浮かびあがった時、刀根は奈津子の過去を求め旅立つ。梅園座の紅蓮、朱に染まる記憶、鬼火に照らされた男女の因果を誰が裁けよう?
リッチを演出する小道具にいちいち解説がついてみたりするところが「なんとなくバブルだす」。美女が次々に現われては主人公を誘惑したり、重要証人が向う転がり込んできたり、余りの安易な展開に読んでいるこちらが赤面してしまう。そして最後に待ち構える意外すぎる犯人。金を持ち慣れない日本人が浮かれながら愁嘆場を描いた、なんとも薄っぺらな二時間ドラマの原作といった雰囲気。まあ、確かに量産は効きそうだけどね。


2003年10月30日(木)

◆別宅に寄る。SRマンスリーとEQFCのQUEENDOM69号、増刊12号が届いていた。SRには「4月で会費切れ」、EQFCの封筒にも「会費切れました」と書いてある。これは何かの暗号なのであろうか?そういえばROMにも似たような事が書いてあったなあ。ミステリ同人誌の符丁なのか?「会費」?うーん「会費」ねえ。ローマ字だとKAIHIだよなあ?回避かあ。>払えよ
◆SRマンスリーは乱歩賞合評+全国大会記+会員獲得たのんまっせ号。
乱歩賞合評はSRらしい辛口ぶり炸裂で、巷の噂の「プロレスものはカスだが、誘拐ものはまずまず」を鵜呑みにしていた私としては蒙を啓かれた思い。ありがたや。だが、その筆鋒が、短評の篠田正幸作品に対しては甘口になってしまうのは何故なのか?この調子では、相当に読者を選ぶ、アマチャなんとかも絶賛されることであろう。
SR会員獲得キャンペーン、まずは推理作家の皆さんに声を掛けてみられてはどうだろうか?
◆QUEENDOMは相変わらず分厚い。アメコミの発掘掲載から、ブラディマーダーの仇をパーラーで取るシモンズ評、「中途の家」特集の一環で掲載誌であったコスモポリタンのイラスト紹介、エジプト十字架の犯人対コロンボ警部なるパロディ、資料価値の高いものから内輪のお遊びまでクイーンを貪り尽す156頁。なお、次号の目玉には、なんと特別ゲスト<北村薫>を囲んでの例会記録が約束されている。凄いねえ。増刊の方も、読み応えあり。エラリイ命な女性陣によるコミック満載、100頁超。創作もいいのだが、永年の疑問であった「チャイナ橙」の密室トリックを図解してくれた岸崎作品が嬉しい。やっと、あのワケの判らんかった密室の謎が解けた。やんややんや。
◆カイヒ。カ化。ちからばけ。うーん。>払えよ
◆そういえば落穂舎からもカタログ到着。相変わらずの自信価格に溜め息。しかしなぜか「ライノクス殺人事件」に4000円しか付けていない。これは注文殺到と見た。
◆別宅で、ようやく「蒔く如く穫りとらん」を発掘(昨日読んだのは、図書館で借りた本なのである)。帯の中島河太郎評が非常に好意的。うんうん判る判る。それにしても「狼火の岬」はどこに行ってしまったんだろうか?(一昨日読んだのは図書館の本なのである)
とりあえず、また何冊か積読本の中からマイナーどころを持ち帰る。


◆「黒娘」牧野修(講談社ノベルズ)読了
悪趣味なスプラッタ小説。牧野修が「模倣犯」を書いたらこうなってしまった、どうしましょう?といった雰囲気の連作。しかし、間奏と第四楽章で、それまでデアボリカなパンクミュージックだったものが荘厳な宗教音楽に転じてしまうところが凄い。
まずは、各話の題名に、ポルノ映画史に残る大作(?)を頂いていたり、主人公の愛称が「鉄腕」していたり(ついでに申せば、主人公の真名は、かの女収容所シリーズで有名なあの巨乳女優だったりする)、「使徒」が出てきてこんにちはだったり、人類史の闇とともにあった二大秘密結社の本拠がさながらイスカンダルとガミラスのようにほんの御近所だったり、一体、どこが「チャーリーズ・エンジェル」やねんっ!と正しく突っ込んでおく必要があろう。
メフィストに連載された3本のエピソードは基本的に同じプロット。犠牲者となる女性が攫われ犯されようとすると、二人の美しき破壊神が現われて、性を己の欲望の中に矮小化し商品化する雄どもを血の嵐の中で薙ぎ払って逝く。シリーズ開幕編の第1話は、クール・ビューティーたちの美貌と無慈悲な殺し技のギャップで意表を突いた上で、姿なきストーカーの正体を暴く。続いて第2話、第3話でも、それなりに「意外な犯人」を演出してみせる。だが、冒頭に述べた通り、この連作の凄いのは、縦糸に這わされた二つの「性」の闘いの歴史。遺伝子から切り裂きジャック、印度神話まで、ありとあらゆる性に纏わるガジェットが壮大なハルマゲドンを彩る。なんだ、最初からこういう大風呂敷で描いてくれればいいのに、と思ったのは私だけではなかろう。勿体ないったらありゃしない。それにしても、もうひとりの「鉄腕」の本名は何だったのだろう?クリスティーナ・リンドバーグ・白川あたりだったのだろうか?続編「黒妻 暗黒のまつり女」第1話「カリギュラ」でまた会おう(大嘘)


2003年10月29日(水)

◆私が敬愛して止まぬ作家さん絡みで嬉しいメールを貰う。ネットをやってなきゃ、こういう縁もなかったかと思うと、日々の睡眠時間削り節も悪くない。
◆昨日の話である。うちのフロアのミステリ&SFファンの人から、カーの翻訳をようやく集め終わったとの報告を頂いた。上がり牌は「騎士の盃」。文庫版で3000円だったそうな。まあ、相場かな、と思う反面、「なんでわざわざ」とも思ってしまうのであった。実は、この人、英語とドイツ語が日本語並みに達者で、TNGだのDS9だのもドイツ語版でビデオが揃っているという豪の者なのである。カーだって、読むだけだったら、幾らでも原書で読めちゃうだろうに、何も翻訳本にそんなに突っ込まなくてもなあ、と思ってしまうのであった。
◆定点観測。
「マフィアへの挑戦1」Dペンドルトン(創元推理文庫:初版・帯)50円
「マフィアへの挑戦2」Dペンドルトン(創元推理文庫:初版・帯)50円
「マフィアへの挑戦3」Dペンドルトン(創元推理文庫:初版・帯)50円
「マフィアへの挑戦5」Dペンドルトン(創元推理文庫:初版・帯)50円
「マフィアへの挑戦6」Dペンドルトン(創元推理文庫:初版・帯)50円
「マフィアへの挑戦9」Dペンドルトン(創元推理文庫:初版・帯)50円
「マフィアへの挑戦11」Dペンドルトン(創元推理文庫:初版・帯)50円
「デストロイヤーの誕生」Rサピア&Wマーフィー(創元推理文庫:初版・帯)50円
「デストロイヤー 死のチェックメイト」Rサピア&Wマーフィー(創元推理文庫:初版・帯)50円
「デストロイヤー 劉将軍は消えた」Rサピア&Wマーフィー(創元推理文庫:初版・帯)50円
「デストロイヤー 国際麻薬組織」Rサピア&Wマーフィー(創元推理文庫:初版・帯)50円
「デストロイヤー トラック野郎」Rサピア&Wマーフィー(創元推理文庫:初版・帯)50円
「デストロイヤー ハイジャック=テロ軍団」Rサピア&Wマーフィー(創元推理文庫:初版・帯)50円
d「地下洞」Aガーヴ(ポケミス:函)105円
d「暗い燈台」Aガーヴ(ポケミス:函)115円
「呪禁局特別捜査官 ルーキー」牧野修(祥伝社ノベルス:帯)420円
「黒娘 アウトサイダー・フィーメール」牧野修(講談社ノベルス:帯)400円
「鉄道公安36号」近藤竜太郎編(芸文社新書)100円
あああああああ、とうとう創元推理文庫・禁断のペーパーバック3大シリーズのうちの二つに手を出してしまったあああ。とりあえず初版・帯縛りでいくぞ、っと。プリンス・マルコとは違って、創元推理文庫の「<通し番号>時代」の終焉を告げるシリーズなので、それなりに集め甲斐があるといえばある。>あるもんか
で、帯ネタ<トリビアの泉>三題。
1.「マフィアへの挑戦」は創元推理文庫500点刊行突破記念 出版だった。
2.「マフィアへの挑戦1」の帯には原作「THE EXCUTIONER」(既刊14冊)と書いてあるのに、「マフィアへの挑戦2」の帯には(既刊13冊)になっている。堂々たるチョンボ。
3.「デストロイヤー」シリーズは当初、全4巻の予定だった。
へえーっ。
でも、私的最大の驚きは「デストロイヤー」の合作者の一人Wマーフィーが、あの「ウォーレン・マーフィー」だったという事。あたしゃ、そんな事も知らんかったですよ。
本日のプチ血風は「鉄道公安36号」。こんな本、出ていた事も知らなかった。昭和40年にNET系列で毎週水曜日 20時台に放映されていた同題の鉄道公安官ミステリーのノベライズ本(NETとMBSがネットされているのがなんとも時代を思わせる)。おそらくは島田一男の「鉄道公安官」を真似た志の低いドラマであったに違いない。あの「芸文社」の出版というのが嬉しいではないか。カバーの返しの推薦文が当時の国鉄副総裁と前鉄道公安本部長というのもなかなか笑わせて下さるのだが、なんといっても凄いのはイラスト。「顔の部分だけ俳優の写真を貼って、あとはイラスト」という凄まじい造りのページもあったりして、大いにゲテもの心を刺激されるのである。これ1冊で3度笑えます。やんややんや。本の雑誌の連載が続いていれば「よっしゃ、これで1本頂き!!」というレベルの掘り出しものなのであった。


◆「蒔く如く穫りとらん」余志宏(講談社)読了
乱歩賞最終候補作シリーズ、第2弾。発表当時から、一部の本格マニアの間で話題になっていたアメリカを舞台にした文字通りの「本格推理小説」。なんというか「島田荘司になりそこねた男」という雰囲気むんむん。私はこういう推理小説が大好きです。ちなみにこの作品を破って乱歩賞に輝いたのは日下圭介の「蝶たちは今」。乱歩賞の中でも光る技巧的サスペンスの秀作。少し相手が悪かったかもしれない。
巨大スーパーチェーンを一代で築き上げた億万長者ザクリイ・スペンサーが豪邸の書斎で死体となって発見された。死因は心臓に打ち込まれた一発の弾丸。現場の窓も扉も内部から鍵がかけられた密室状態。部屋の鍵は、ザクリイとその若き後妻アイリスが持っていた。傾国の美女と噂されるアイリスのアリバイは偶々夫人と行動を伴にしていた二人の日本人画家、秋山と三枝によって証明される。死亡時刻と推定される9時から10時には、スペンサー家に出入りしていた数台の車、そして10時の銃声。スペンサーの隣人であった老地方検事サリンジャーの証言から浮かび上がる死の構図とは?二人の店長たちの出世競争が醜い罠を呼び、石の魚は毒を秘めて獲物を待つ。死を招く飛鳥時代の仏像、ベトナムで壊されたガラスの心、窓を守る猛犬、幻の白い光、不在証明を失う者に死神は訪れ、穫りとられる数多の命。仏陀の瞑想が与える慧智のメス・留学生にして名探偵・白水万里の「内的啓示」が指し示す奸智に長けた真犯人とは?
「更科ニッキよりもお得」。とにかくバタバタと人が死ぬ。大技、小技交えたアリバイトリックの乱舞にウットリ。最初は「見え見え」と侮って読みすすめていると、それはホンの赤鰊料理で、そのあとから屍肉料理が何皿もやってきて、挙句の果てには和風デザートで締めくくるという凄まじさ。もうお腹いっぱい。この過剰感には、いやはやなんとも、さすがアメリカ在住のコスモポリタンは違うと脱帽。出版当時、「クイーンのような」という評を見た覚えがあるが、なるほど、この容疑者だらけの筋運びはクイーンのテイストである。ただ惜しむらくは、視点のふらつき。日本人画家に対して作者の思い入れがあった分、読者の感情移入先がぶれてしまい、通して読むとどこか散漫な印象が残ってしまうのである。おそらく、そこが破綻なく技巧を尽した「蝶たちは今」に一歩及ばなかったところであろう。それはそれとして「虚無への供物」「占星術殺人事件」などと並ぶ乱歩賞落選作の中の傑作として泰西古典の好きな人に強く推賞しておきます。っていうか、今の時代にこそ復刊されてしかるべき作品だと信じる。


2003年10月28日(火)

◆明方にメールボックスをあけてみると、原稿依頼が1本入っている。乗りかかった船なので、日記をサボって速攻でやっつける。よしだまさしさんも27日付けの日記でおっしゃっているように、素人には素人ゆえの「頑張り」があるのである。
◆職場で、やたらと「残念でしたねえ」と声を掛けられる。リーグ優勝の際にタイガース印ゴーフルを配った余韻というか、トラキチであることが知れ渡ってしまっているようで。星野仙一になりかわり「御声援ありがとうございました」と礼を尽す一日。
◆定点観測。安物買い。
「それでも警官は微笑う」日明恩(講談社:帯)100円
「ツール&ストール」大蔵崇裕(双葉社:帯)100円
「吉敷竹史の肖像」島田荘司(光文社カッパノベルズ)100円
「ノービットの冒険」Pマーフィー(ハヤカワ文庫SF)100円
昨日とは打って変って、<あっしにはいい訳なんぞござんせん>な安物買いだよなあ。


◆「狼火の岬」久司十三(講談社)読了
第25回江戸川乱歩賞で最終候補作に残った異色時代ミステリー。高柳芳夫の「プラハからの道化たち」と争って破れたらしい。同じ最終候補作には中町信の「自動車教習所殺人事件」もあったとか。高柳芳夫は「禿鷹城の惨劇」「ラインの舞姫」という真っ向からの本格推理で落選を続けた挙句、エスピオナージュに方向転換しての受賞だったわけで、いわば「乱歩賞の傾向と対策」を世に知らしめた回である。作者は、昭和24年に織田作之助賞の受賞経験もあるらしく、いわば典型的な日曜作家。この作品でも、文章については、昨日今日の小説書きではないことを思わせる。
物語は天保元年九月に始まる。熊野灘の沖合いで「末広丸」という伊予の国の千石船が、座礁沈没。乗り組んでいた船方11名は行方知れず、ただ一人定吉という船頭のみが命からがら岩場に打ち上げられた。最初は、よくある遭難と思われたが、積み荷の一切が上がらなかった事から、天領たる波切港を預かる小心な鳥羽藩浦奉行は、信楽の代官所に事件を移管する。事件の担当を仰せつかった信楽代官所の元締格手附・村上右近が、詮議に乗り出すや、彼の留守宅に、末広丸の難破が仕組まれたものである事を匂わす報せが届く。一旦一件落着した事件を揺さぶるように、伊予に戻らぬ船頭、そして疑惑の米取引。大坂からの招きに応じた右近は、そこで時代の傑物・大塩平八郎とまみえ、更には、松山藩の屋台骨を揺るがす陰謀の影を見る。奸計対智謀。持てる表と裏の技量の限りを尽して巨悪に迫る元与力と手附。暗躍する闇の手代。神出鬼没の殺人者。騒擾の果てに現われる裁きの構図とは?
「名探偵・大塩平八郎登場の本格時代推理!」といってしまいたいところなのだが、妙に社会派・経済派で、爽快感のないまま物語はうやむやに収束してしまう。本格時代推理ではあっても本格推理ではない。主人公の性格も「小役人」の域を抜けきらず、強いパッションが感じられない。悪の側の見せ場がなく、裏世界でプロットを支える「隠密手代」にも花が感じられない。もの凄く面白くなるかもしれない要素と、確かな文章力をありながら、作品の印象が中途半端なものに終わっているのが実に残念。なるほど、これは「最終候補作」以上でも以下でもない。


2003年10月27日(月)

◆定点観測。好事家的プチ血風気分。
「カジノ殺人事件」ヴァン・ダイン(芸術社:函・帯・月報・愛読者カード・登場人物栞)500円
「名探偵オルメス」カミ(芸術社:函・帯・月報・愛読者カード)500円
「競馬殺人事件」ヴァン・ダイン(芸術社:函・帯・月報・愛読者カード・登場人物栞)500円
「ザ・スクープ」クリスティー、クロフツ他(中央公論社:帯破れ)300円
芸術社の推理選書に帯がついているとは全然知らなかった。心底ビックリ。これっていわゆる「完本」って奴ですか?最初はカミだけにしておこうと思ったのだが、余りの美本ぶりに、ヴァン・ダインまで買ってしまう。函もしっかりしており、ここまでの極美を手に取ったことは初めて。値付けが微妙な線なのだが、まあ「カミ1冊に1500円つけてもおかしくないかあ」と思って買い込む。先月神戸でスルーした「ザ・スクープ」にまたしても遭遇。そんな珍しい本じゃないってことだな、こりゃあ。クリスティーの推理小説の中では最も手に入らない作品だと思うんだけど(原書でも、翻訳でも)。
◆阪神の散り際を瞼に焼き付ける。広沢は良い思い出が出来たねえ。九州から義弟殿がぐでんぐでんになって「負けちゃいましたねえ」と電話をかけてくる。阪神が負けたぐらいでガタガタ言うんじゃない。いつものこっちゃ。いつものこっちゃけど、ここまで、ほんまにようやった。選手も監督もファンも、お疲れさん。ホークスファンの人、おめでとう。今年のホークスは憎らしいぐらい強かった。あとの興味は、「あぶさん」では、この日本シリーズにどう決着をつけるか、だな。


◆「古川」吉永達彦(角川書店)読了
第8回日本ホラー小説大賞短篇賞受賞作収録の中編集。ノスタルジックな「癒し系」ホラーやそやけど、マアいうてみたら、じゃりん子チエに方言指導させたちびまる子をホラーの世界に持ち込んだような作品でんな。そこにはホラ、足踏みミシンに金物バケツ、七輪に豚型蚊取り線香立てなんちゅう、昔はどこの家にもおました日用品が仰山でてきて、街には、坂本九や園まりの曲が流れとる。BGMなんちゅな洒落た言葉はないけれど、まだまだ長屋暮らしで貧乏やけど、戦争の悲惨な記憶に比べたらアンタ、暮らしぶりもようなって、映画も面白い。60年代ちゅうのは、そんな時代でした。
「古川」真理には、真司の言う事が判った。真司には、大人たちには見えない「モノ」が見えた。古川の辺の長屋に住む一家には、もう一人、マユミという娘がいた。古川は台風のたびに氾濫しては、財産や命を引き込んで逝く。川の向うにいる人たちは寂しさの余り、魔となり、扉を叩く。「あけてえな。あけてえな。」忘れてしまった情景、封印された記憶、表札の文字は「死」へと溶け落ち、想い出の中の人々は死に様のままに腐肉を晒す。流れの果てに、救いはあるか?思いの果てに、言葉はあるか?
「冥い沼」エビガニの肉はエビガニの餌になる。太一が遊ぶ沼に住む魔。いない筈の少女が残す微笑。湯煙に蠢く刺青。消えた母の面影は、静かに沼の淵を揺らし、白骨は冥界から甦る。小さな宇宙の下で、人は人を食い物にしてはいけない。
どちらの作品も、幼さ故に幽冥界と現世との境界線を跨いでしまう少年少女の物語。この世にある限り超えてはいけない一線が、水の魔力に溶け、試しの汀に救いが待つ。モノクロの画面とシンプルなメイキャップのみのホラー映画を見るかのような抒情作品。これはいけてます。しかし、これ以外に何か書けるんだろうか?


2003年10月26日(日)

◆ワールドシリーズで松井の三振を見てからWOWOWでやっていた「ユージュアル・サスペクツ」を今更ながら視聴。別宅に録画もある筈なのだが、積録のまま、本日に至っていた。視聴できてなにより。って、一体、何のために俺はビデオを録画しているのだろうか?しくしく。
中身は、噂に違わぬ一筋縄ではいかないワルたちの盗みと殺しと騙りのロンド。最後の大ツイストには、賛否両論あるだろうが、私はOK。ああ、面白かった。
◆ウォーキングかたがた東千葉のブックオフへ。安物買い。
「人形」佐藤ラギ(新潮社:帯)100円
「死にぞこないの青」乙一(幻冬舎文庫)100円
「トミーノッカーズ(上・下)」Sキング(文春文庫)各100円
またしても今年の本を100均ゲット。すんません。キングも、なかなか上下揃ってはないんだよね。
◆ついでに図書館に寄って、先日別宅で発掘できなかった本を借りてくる。なんだこれでいいんじゃん。って、一体、何のために俺は蔵書を抱えているのだろうか?しくしく。
◆夕方、奥さんがWOWOWで「パニックルーム」を見始めたので、日記を書きながらお付き合い。徹頭徹尾ハラハラドキドキの一編。薄着のジョディ・フォスターの「闘う母」ぶりが魅力的。でも、別れた夫はちょっと可哀相ですな。うん。
◆日本シリーズは、とうとう第7戦に縺れ込むのかあ。心情的には今日決めて欲しかったが、まこと「絵に描いたような展開」ではある。


◆「死にぞこないの青」乙一(幻冬舎文庫)読了
「虐め」をテーマにしたノヴェラ。とりあえず、感想も中編サイズで。
新任教師の焦りが、生け贄の山羊を選び、支配の構図を模倣する時、蒼ざめた少年の冷たい怒りが逆襲への引き金を引く。
少年の一人称ゆえの素朴にして押えた筆致で綴られた虐めの過程が、実に辛い。逃げ場のない主人公の哀しみと諦念が、読者の共感を醸成し、復讐の成就へと伴走させる。それだけに、結末の救いが嬉しい。死にぞこないの「青」の正体はお約束の域を出ないが、中学校の課題図書に指定したくなったのは、わたしだけではあるまい。


2003年10月25日(土)

◆ウォーキングかたがた本千葉のブックオフへ。ブックオフには何もなかったが途中立ち寄った2軒で1冊ずつお買い物。
「深追い」横山秀夫(実業之日本社:帯)500円
d「パコを覚えているか?」Sエクスブライヤ(ポケミス)300円
ポケミスを拾うのは久しぶり。らっきい。たまには普通の古本屋も覗かないとね。
横山秀夫は、半額以下ならルンルンゲットである。この作家は、図書館じゃ順番待ちなんだよなあ。
◆おお、そういえば今日は雑誌の発売日ではないか、と新刊書店もチェック。
「ミステリマガジン 2003年12月号」(早川書房)840円
「SFマガジン 2003年12月号」(早川書房)890円
「ジャーロ13号」(光文社)1500円
HMMは私立探偵特集につき、小説はパスしてエッセイを拾い読み、アマンダ・クロスの息子がリーガル・サスペンスを出している事を知る。ふうむ。あの母親に育てられた息子というだけで、興味が湧いてしまう。日本人インタビューは石持浅海。おお、こんな顔をしておられたのですか。きょとんとした瞳がオサカナ系かも。
◆SFMは11月号を買いそびれてしまったので、もう定期購読を止めようかと思ったのだが、表紙に菅浩江・秋山瑞人の名前があったのに背中を押されて購入。いそいそと菅作品を探したら、うっひゃあ、俳句ですかあ?一瞬、脱力してしまった。が、どうしてどうして、気を取り直して詠み込むと、なかなかよろしい。ひょっとすると、本にはならないかもしれないし、菅ファンを任じるものとしては「買い」ですな、これは。「Ψ」なんて文字を俳句に使うところが、SFである。怪奇俳句は倉阪鬼一郎やら、松本楽志やら、尖がった感性がごろごろとネット上で屍臭を漂わせているけど、SF俳句ってのは、目ウロコの世界。ちょっと猿真似してみる。

あおむきて 静かの海や 満地球

虫の声深し モノリス叩く闇

脳手術 春遠からじ ウロボロス

◆ジャーロはほぼ2ヶ月遅れで買ったため、書評が古いのなんの。Jハーヴェイの「真北」を拾い読み。こんなのミステリじゃないやい。笠井潔と乙一の対談は噛み合ってないところが笑える。森大兄のエッセイでは次々と見た事も聞いた事もない三橋一夫のミステリが紹介されており、貸本世界の奥深さを感じる。山口雅也のエッセイは、只管リンクとレビンソンが製作した「エラリー・クイーン」の第1話のストーリーを紹介。これで原稿料が稼げるってのが、いいやね。
◆M.K.氏より、そこいら中で噂の同人誌が届く。
「ある中毒患者の日記〜ミステリ中毒編」(私家版)頂き!
既に至るところで話題になっているが、実物をみると改めてその凄さに唸る。
森事典の同人誌バージョンが<地図>だとすれば、こちらは<漂流記>。
泰西ミステリという大海のメエルストロムの彼方に待つ「約束の地獄」を垣間見せてくれる。これぞ同人誌の王道。脱帽。
というわけで4年ぶりに「特報」なんぞを作ってみる。トップページからどうぞ。


◆「深追い」横山秀夫(実業之日本社)読了
職住一体の「三ツ鐘警察署」を舞台に、夫々に主人公を替えた連作警察小説。「仕返し」を除いて週刊小説に連載されたが、その1作が最も職住一体を活かした作品になっているのが皮肉。
「深追い」なぜその妻は事故死した夫のポケットベルに夕食のメニューを送り続けるのか?かつての想い人が、未亡人となって秋葉の前に現われた時、「深追い」の悪夢が甦る。表題作は、小さな不思議を軸に鮮やかなツイストを決めたクライムストーリー。主人公の心情が沁みるが、警察官としては失格かも。
「又聞き」若者の命と引き換えに生き長らえ、鑑識課員となった三枝。15年前に、彼を助けようとして溺れ死んだ小西の生家に泊る「儀式」の夏が今年もやってきた。だが、写真のプロとなった三枝は、見馴れた写真に疑惑を抱く。早すぎた現像が物語る、事故の真実とは?設定のユニークさと、謎の解き方に一工夫ある人情譚。本筋よりもふとした人間模様に作者のしたたかな語り部としての実力が見える。
「引き継ぎ」<泥棒刑事>という異名をとった盗犯一筋の父を追って警官となった尾花。見馴れた手口が再現された時、功名心は引退した泥棒に容疑の目を向けさせる。切り取られた三角形は何を騙るのか?題名がすべてを象徴する、名人芸の世界。最後の一言で、主人公も読者も救われる。旨いね。
「訳あり」老巡査の定年後の受入先に悩む滝沢。上司と衝突して三ツ鐘に飛ばされた彼に復帰のチャンスが与えられる。果して人事のプロは内部告発されたキャリアの不祥事を丸く収める事が出来るのか?警官の誇りを巡る困惑と思惑。誘惑の果てに振り向く男の決断は?この書の中では最上作。多重的に組み上げられたプロットが実に心地よい。読後感の爽やかさもナンバー1。
「締め出し」<強くなりたい>。ただその思いで警察官となった三田村。少年係の鬱屈が、単独捜査に三田村を駆り立て、惚け老人の呟きは、青春の誇りを掛けた推理へと彼を導く。締め出された男の意地は嬌声を裂く。完全なる成長小説。ダイイングメッセージものに通じる謎解きも小味ながら納得性高し。ドラマの幕開きを告げるラストが心憎い。
「仕返し」ホームレスの死が招く疑惑。家族サービス故に粗い仕事をしてしまった広報次長の苦悩は、因縁の刑事への疑惑へと広がっていく。閉じられた世界の論理が人々を狂わせた時、人生はやり直せるのか?最長作であり、いかにも作者らしい主役像が、ほろ苦い感動を呼ぶ。父として、組織人として、決断の重みに唸る。痛いなあ、この話。
「人ごと」<草花博士>と呼ばれる会計課長・西脇は、花屋の客の落とし物を届けに行く。そこにみた華模様、人間模様。高みに住む孤独な老人の思いは、どの花に託されたのか?こんな警察小説もあるのか、と唸る。ちょっと、翻訳してEQMMにでも持ち込みたくなる一編。泣けます。


2003年10月24日(金)

◆少しだけ残業。日本シリーズで盛り上がり。試合終了直後に、福岡在住の義弟殿より電話がかかってくる。周りがダイエーファンばかりなので、阪神の勝利を喜び合える相手がいないそうな。これがもう涙ちょちょ切れの盛り上がり。うんうん、判る判る。後はスポーツニュースのはしご。
◆一眠りして明方から、長谷川裕一の星雲賞受賞作「クロノアイズ」全6巻を一気読み。ビーメイダー+タイム・パトロールもの。恐竜百万年だったり、アトランティス最後の日だったり、魔界転生だったり、マップスだったりする、長谷川裕一節炸裂の「永遠の終わり」。これぞワイドスクリーンバロック。「なぜ、タイムパトロールが存在するのか?」という謎解きも吉。SF魂疼きまくり。眼鏡フェチも必読!
◆古SFM「不老不死特集」を拾い読み。ホールドストックの「夜の涯への旅」、ステイブルフォードの「そして彼は生まれるのにいそがしくなったので…」等なんとも地味な英国SFの渋さを堪能する。面白いかどうかとは別の世界がそこにはある>褒めてないな、こりゃ。


◆「乱れた関係」多岐川恭(桃源社)読了
官能サスペンス中心の拾遺集。のっけから毎度の科白を言っておくが、多岐川恭全冊読破を志している人以外は読まなくてよい。はっきりいって佐野洋やら笹沢左保の同じ趣向の短篇集のように、いつでも文庫で読める状態であれば、間違っても手に取らなかったであろう。時代の狭間に忘れ去られるべき風俗中間小説が、単に希少だからという理由のみで、定価以上の2倍、3倍の値がついてしまう。おそるべし絶版効果。
「窓の中の楽園」安普請のアパートから気兼ねなく睦み合える一戸建てへの脱出を目論む若夫婦が、破格の物件。そして窓に浮かぶ、芸術家の奔放な性。柔らかな罠に包まれた二人の運命とは?笠間しろうの挿し絵が似合いそうな、エロチック・サスペンス。何を今更。
「乱れた関係」内海家の財産を狙う、成さぬ仲の息子と娘、愛人と秘書が抱く歪んだ殺意、愛欲と物欲の坩堝に若々しい肉体を持った娘が投げ込まれた時、立ち込める淫臭の中で寝首を掻くのは誰?ネタとしてはカーター・ブラウンのなのに、どうしてこうドロドロとしてしまうのだろうか?日活ロマン・ポルノの原作になりそうな一編。
「夜の笑くぼ」盗まれた妻、盗み撮られた恥戯、売り捌かれた褥、欲を逆手にとったつもりの男と女が奈落へと落ちていく。その笑くぼは欲深と肉太ゆえに。なんとも貧乏臭く、侘びしい読み物。
「夏の罠」肉が誘う夏。海の宿に繰り広げられる、若妻と野獣たちの駆け引き。暴走の果てに見た男女の真実とは。些か御都合主義ながらも、フレンチ・サスペンスの趣がある一編。
「二匹の蟻」父が溺れる美女、娘がのめり込む男、二組の仕組まれた恋が死の罠を呼ぶ。絵に描いたような男女の絡みの果てに見える、しなやかな企み。作者らしさの出た作品だが、焼き直しの感は免れない。
「情婦」一人の女を巡る兄弟の葛藤。弟を追う兄の真意は何処にあるのか?愛?、それとも憎しみ?裁きの場に居合わせた人々の出した結論とは?プロットの破綻した出来損ない。この題名はクリスティーに失礼である。
「仮面の声」社長を爆殺した犯人をいぶり出すため仕組まれた「復活」のイベント。一周忌に集められた4人の容疑者を告発する死者のシナリオとは?いかにも作り物めいたプロットだが、ツイストは効いている。


2003年10月23日(木)

◆大阪日帰り出張の予定で切符も確保していた。ふと出がけに、社用メールボックスをチェックしたら、昨夜遅くに「日程延期のお願い」が届いているではないかいな。うっひゃああ。もうちっと早く連絡欲しいよなあ。大慌てで予約をキャンセル。折角、新幹線で寝不足解消できると思っていたのに>こらこら
◆一昨日の話。
神保町のY頭書房を冷やかしていたら、店長の顔馴染みらしき人が小さなお嬢ちゃん連れで
「よお」と入ってきた。
父「おじさんに、こんにちは、は?」
娘「こんにちは」
店「おじさんかあ。おじさんだよなあ(笑)」
父「こんな本のあるところは初めてだろ?」
店「臭いのする本ばっかりだけど(笑)。で、今日は?」
父「休みをとってね。」
店「ほー。お嬢さん、幾つになったの?」
父「二つだよな」
と、ここでポツリ。
父「今から洗脳しとかないとなあ〜」
うーーーーん。なんとなく判る。いや、わかりすぎるぐらい判る。
◆「初めてのアクム」と6日前の日記に書いた。
昨日、大矢博子女史のトップページのキャッチを見て、のけぞる。

「エルム街のアコム」

シンクロニティーだけど、こりゃあ女史のほうが全然面白い。
でも負けてばかりでも悔しいので、ここは一番、フレディにはジェイソンだっ!

「おのおのゾーン、おのおのレイク」

まだまけてますかそうですか。
◆定点観測で安物買い。
「鉤爪プレイバック」Eガルシア(ヴィレッジプレス)100円
「宇宙船レッドドワーフ号(1)」Gネイラー(河出書房新社)100円
「宇宙船レッドドワーフ号(2)」Gネイラー(河出書房新社)100円
「共犯マジック」北森鴻(徳間書店)100円
「古川」吉永達彦(角川書店:帯)100円
今年の新刊を100円均一落ちで3冊。北森本は図書館で借りて読んで、百均で買うという禁断の技。「古川」は第8回の日本ホラー小説大賞短篇賞受賞作他1編収録のハードカバー。ちょっとムードがよさげである。
◆夜は「トリック」そっちのけ(だってまだ第1話もみてないんだもん)で日本シリーズ観戦。夜の10時過ぎまで野球をやってんだもんなあ。こんなに長く野球が楽しめるなんて(だぶる・みーにんぐ)。神様、仏様、金本様。


◆「どこよりも冷たいところ」SJローザン(創元推理文庫)読了
アンソニー賞受賞のビル&リディア・シリーズ第4作。レンガ職人に扮して工事現場に潜入捜査するビルが暴く不正と殺人の顛末。リーダビリティーの高さは天下一品。リディアの生意気ぶりも快調。
わたし、ビル・スミスに大手探偵事務所を切盛りするチャックから持ち込まれた事件は、40階建てのビル建設現場での相次ぐ盗難事件と作業員の失踪事件。依頼主は中堅ゼネコンのクロムウェル建設の創業者。わたしがレンガ工として覆面捜査を始めるや、モルタル担当の作業員が「事故」に巻き込まれ重傷を負い、更には行方不明だったクレーン担当の若者の死体がコンクリートの下から発見される。そして、現場でノミ行為の胴元を勤めていた鼻つまみ者の班長が転落死を遂げた時、事件は凶悪の度合いを加速させ、謎は益々深まっていく。チャックすら信じられなくなった時、わたしはリディアに危険の香のする覆面捜査へと誘う。縺れる因縁。不況が呼ぶ不正。女神の見守る危機一髪。悪党が脚を洗い、素人が荒事に手を染める時、40階建ての虚飾の墓標に死が訪れる。それは乾いた都会のどこよりも冷たいところ。
ピアノが趣味の中年私立探偵ビルが、ガテン系の捜査に挑む。リディアの側から描かれると、茫洋とした印象のビルが、かくも繊細な神経の持ち主である事を知って驚く。事件が多い割りには、余り推理の妙味といったものはないが、作業員同士の心の触合いにホッとしたり、リディアの機転にワクワクしたりと、文庫にして450頁超の長さを感じさせない捜査小説に仕上がっている。泣かせどころを心得た作者の筆致は、工事現場の寒々とした雰囲気や、不安を交えながら、富の裏に潜む人間模様を活写する。しかし、こんな地味な話がアンソニー賞というのは、なんなんでしょうね?それが、この作品の一番の謎かもしれない。


2003年10月22日(水)

◆雨模様だったし、阪神も健闘していたので真っ直ぐ帰宅。それにしてもテレビ朝日の無神経なCMの入れ方には怒りを通り越して唖然。某芋焼酎も某サラ金も1億2千万阪神ファンを敵に回した事を知るがいい。購入本0冊。
◆というわけで、夜、ネットを切ってスポーツニュースのザッピングにかまけていたら掲示板に衝撃的な告知情報が。がああん。オールカラー版の在庫はまだあるのだろうか?しくしく。


◆「死んでも治らない」若竹七海(カッパノベルズ)読了
ジャーロに連載された、元刑事の文筆業・大道寺圭を主人公にした連作集。作者の底意地の悪さが光る作品。これまでどちらかといえば、作者が神の立場から登場人物に虐待を加えていたのが、ようやく若竹七海と拮抗しうるだけの根性の悪い主人公が登場。大馬鹿きわまりない犯罪者たちと渡り合っては勝利する。一読、作者が一皮剥けたという印象を受けた。これはなかなか宜しい。若竹作品に通底する味悪感が、主人公の毒で消されており、つまりは「痛快」なのである。また、本格趣味もそれなりに盛り込まれており、まずはバランスのとれた読み物に仕上がっている。やんややんや。
「死んでも治らない」シリーズ開幕編。密室で相棒を殺した容疑で追われる犯罪者が、大道寺圭を脅しての逃避行。泊まり客の少ない小洒落た宿で、ハードボイルド作家が密室の扉を壊す時、強盗と誘拐と復讐のサスペンスはクライマックスを迎える。倒叙の果てに死すものは誰?すべてのミステリの要素を盛り込んだ意欲作。ご都合主義だが、勢いで読まされてしまった。
「猿には向かない職業」馴染みの猿並みの犯罪者から家出した娘探しを頼みこまれた圭。猿が去った時、頭の悪い犯罪の真相が浮かび上がる。それは女にも向かない職業だったのか?意外な犯人。なるほど、ミステリのジャンルには「これ」もあったっけね。それにしても、作者の描くバカ娘像には同性の容赦なさがあって凄い。
「殺しても死なない」大道寺圭、殺人計画を添削する。「完全犯罪」を描いたと称する人物から、何度も届く出来の悪い「小説」。圭が実際の現場で見たもう一つの真実とは?真犯人との対決が見せる。ちょっと実写でみたくなった。それにしても面倒見のいい探偵だね。
「転落と崩壊」急逝したルポ作家の後を引き継がされる事になった圭が、鳴動続く山荘を訪れた時、横柄な招かれざる客たちは、「宝物」を求めて圭の平和を撹乱する。殺意が大地の怒りに呑み込まれた時、裁きの蹴りが崩壊を呼ぶ。カリカチュアライズされた極端な人物像が笑わせるが、実は結構古典的な造り。驚きはないが、「そこまでやる」感に免じて許容範囲。
「泥棒の逆恨み」圭に迫る美術品専門の女性二人組の泥棒マーメイドの罠。水攻めの恐怖と闘いながら圭の推理が青磁の壷の謎に迫る。動機探しの一編。最後の大逆転はやや唐突。なるほどマヌケな犯罪者ではある。
「大道寺圭最後の事件」書下ろし。正確には「大道寺刑事最後の事件」。各短篇の登場人物をあしらいながら、女性フリーライター殺しの真相に迫る。出版ギョーカイ残酷物語だが、真犯人の魍魎ぶりがなかなか戦慄。通して読むと最初の作品に戻る構成の妙が吉。


2003年10月21日(火)

◆神保町タッチ&ゴー。東京堂書店でお約束のお買い物。
「ラピスラズリ」山尾悠子(国書刊行会:函・帯・署名)2800円
他にも、逢坂剛やら横山秀夫のサイン本がゴマンと並んでいた。ふむふむ。NYのMysterious Bookshop に行った時にも、サイン本が平積みになっていて感心したんだけど、こういうのって地道な営業努力ですわなあ。山尾悠子のサイン本はこれで3冊目。
後は古本屋で新潮文庫のシェイクスピアを2冊ばかり拾う。2冊で100円。
◆就業後、新橋駅前の古本市で落穂拾い。たっくんの昨日の日記を読んで、開催されていた事を知った次第。まあ、余りたいしたものはでない市だけど最寄り駅でやっていると、とりあえず覗いてみるのが人の道というものである。買ったのは、
「犯罪世界地図」Dホワイトヘッド(東京創元社)400円
「恐怖の第22次航海」Lウェア(学研 少年少女サスペンス推理(5):函)500円
「蜘蛛の巣の中で」戸川昌子(青谷舎:帯)300円
「死んでも治らない」若竹七海(光文社カッパNV:帯)200円
ホワイトヘッドの本は犯罪実話集。出版社(東京創元社)と訳者(田中小実昌)で買う。へえー、こんな本でてたんだ。愛読者カードが挟み込まれいてちょっちい得した気分。
ウェアの作品は船上ミステリ。1965年のMWAの青少年向け年間最優秀作品(だそうな)。これも半分、訳者(高橋泰邦)で買ったようなもの。
青谷舎の本は、突然出版され、忽ち本屋から消えてしまった叢書。ゾッキでしか見た事がないんだよなあ。後々泣きをみそうなので、とりあえず買っておく。若竹七海は安物買い。全然たいした本はないのだが、リサイクル系でない古本屋をじっくり覗いた気分に浸れて吉。
◆帰宅したら森さんから定期便。
「The Complete Curious Mr. Tarrant」C.D.King(Crippen & Landru)
タラント氏もの12短篇完全収録の決定版。出るべくして出た本。日本で「タラント氏の事件簿」が出版されてなければ嬉しさ3倍だったんだけど、まあそこはそれ。
なんだか、今日はいっぱい本を買ってしまったなあ。阪神も負けずに済んだし。いい日だったと日記には書いておこう。


◆「どんどん橋落ちた」綾辻行人(講談社)読了
ミステリとしては著者の最新作である。4年前の本である。フーダニットに淫した作者の金字塔!というよりは禁じ手、って感じの作品ばかり5編。どんどんメタになっていく作者の奇蹟を知る格好の1冊!というよりは、どんどんダメになっていく作者の軌跡を知るには格好の1冊。頭の天辺からシッポの先まで、ミス研の犯人当て小説の香ばしさがみっしり詰まった作品集である。
表題作と「ぼうぼう森、燃えた」の2作は、一種の対になった話で、どんどん橋がぼうぼう森の心理的ミスディレクションとして機能するところが心憎い。ポウだのクイーンだのエラリイだのロスだのといったマエストロたちの名前をもった連中が話を掻き回すあたりは、「十角館」を彷彿とさせ、作者のファンを喜ばせる。特に「ぼうぼう森」の方は、推理の展開に厚みがあって、この作者が本当はきちんとしたミステリも書けたんだという事を思い出させてくれる。
「フェラーリは見ていた」は、生真面目に本格推理を書く事に倦んだ印象が付き纏い、「なるほど、そう来たか」とは思いながらも、忸怩たる後味。
禁じ手の最たるものが「伊園家の崩壊」。既に、心ある人々からはボロクソにいわれているとは思うが、これはプロがやってはイカンと思うぞ。ミステリとしても5作の中では凡庸で、なにより「サザエさん」という国民的名作を汚す唾棄すべき小説である。こういうのは、こっそり200部ぐらいの同人誌でやるべき悪洒落であって、卑しくも何十万のファンを持つ新本格の盟主が、自らの著作でやるようなこっちゃなかろう。
「意外な犯人」はネタを知っていたので、びっくりはしなかったが、「これはあり」って感じ。予備知識なしで楽しみたかった。
全編をつなぐ御本人登場のシュミラクラな幻想小説(?)は、オチが判りません。さあ、きちがいになりなさい?
後書きは、言い訳三昧、己惚れ三昧。痛たたたたたた。お前はもう死んでいる。