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2003年10月10日(金)

◆神保町タッチ&ゴー。@ワンダーのカウンターに、イアン・フレミングの極美原書の山。初版だったら、欧米でもとんでもない値段がつきそうなものだけど。それにしても、007って原書はハードカバーなんだよなあ。どうしても文庫や新書のイメージなんだけど。古書センター前にも、小宮山書店脇にも均一棚が出ておらず、少し残念な思い。更に、かんたんむの2階がエロ専になっておりショックを受ける。数少ないミステリのチェックポイントだったのに。しくしく。羊頭書房は、「2時まで骨休み」とかで半シャッター状態だったし、久しぶりの神保町詣では空振りに終わる。とりあえず、新刊を1冊安物買い。
「飛奴」泡坂妻夫(徳間書店:帯)800円
永年書き続けられてきた夢裡庵先生捕物帖もこれで最終話かと思うと感慨深いものがある。なんとなく、これだけはライフワークになるのでは、と思っていたのだが。
◆帰宅すると「本の雑誌」の11月号が届いていた。びるとぅんぐすろまーんの特集らしい。あ、よしださんが書いてるじゃん。しかし成長小説の紹介に「悪魔の種」を持ってくるかな。「元気むくむく」と言われれば確かにそうだけどさあ。
引き続きパラパラと捲っていくと、「誰がアクロイドを訳そうと知ったこっちゃない」という未読王様の文章もあった。ふむふむ。<シンプロン急行>のくだりは思わず「へえ〜っ」ボタン連打。戦前の翻訳ものに殆ど興味がないワタクシ的には学ぶところの多い一文であった。


◆「パノラマ島奇談」江戸川乱歩(講談社乱歩文庫)読了
「こんなものも読んでいなかったのか?」シリーズ。春陽文庫がNHKの「明智探偵事務所」放映に合わせて長編20作の刊行を始めたのが、乱歩を読む切っ掛けだったので、それから外れる中短篇集9冊+「三角館」には、相当読み残しがあるのである。実は「三角館の恐怖」も未読だったりする。更に申せば「エンジェル家の殺人」も未読だったりする。一体、どちらから読んでいいものか、ここ数十年、にらみ合いが続いているのであった。で「パノラマ島奇談」は、今更ながら、こんな話。
瓜二つの学友。一人は地方の大富豪、今一人は現実逃避型の文筆崩れ、予め敷かれた人生の軌道は、富豪の夭逝によって、交叉し縺れ絢爛たる破滅へと人々を導く。自らを抹殺し、墓を暴き、甦った死者となる男。理想郷建築へと蕩尽されていく財産。美しい妻の疑惑は暗鬼を加速し、狂った遠近法の中で死の罠は点景となる。君知るや、廃虚の中に血塗られた夢のありし事。
「パノラマ島奇談」といえば、「蜃気楼島の情熱」やら「海鰻荘奇談」やら「家畜人ヤプー」やらに影響を与えたであろう、日本幻想推理史上の里程標的作品だけあって、さすがに面白い。ただ後に作者自身がこの幻想を更に発展させた(であろう)「大暗室」を読んでしまっているだけに、やや小味という印象は免れなかった。むしろ、こんなに真っ当な倒叙推理だったのか、という驚きの方が先に立ち、「北見小五郎は、何故、明智小五郎ではないのか?」などという瑣末な疑問にもマニア心をくすぐられたりと、最も幻想味の濃い変格推理に逆に推理趣味を刺激されることとなってしまった。ああ、ゆがんでいる。
併載の「一寸法師」は、再読。しかし、全く内容を忘れており、最後までハラハラしながら読んでしまったことを白状しておく。明智小五郎登場作だと云う事すら忘れていたのだから、あとはいわずもがな。基本的なネタは「何者」なのであろうが、それをまあ、よくぞここまでおぞましくもグロテスクな長編に仕立て上げたものである。なにより感心したのが、これが新聞連載であるにも関わらず全くそれを感じさせなかったところ。ブチ切れ感横溢の甲賀三郎のそれとはモノが違うとしか言いようがない。乱歩、偉大なり!それにしても、この頃の明智はホント金田一耕助ですのう。


2003年10月9日(木)

◆思いついたので書いておく。
「二階堂黎人賞」表彰式は21時から。

レイトショーだから。
◆掲示板で蕗屋さんから「顔」についての指摘をあれこれ頂いたので感想文を手直し。ご指摘感謝。そうですか、おとなしい初版帯があったんですか。気がついた時にはこのミス帯だったもので。いかにコマメに新刊書店に行ってないかですな。
◆「夜のお仕事」が一次会で無事に終わったので、一軒だけ定点観測。二次会はブックオフで。
d「二銭銅貨」江戸川乱歩(講談社江戸川乱歩推理文庫)100円
d「屋根裏の散歩者」江戸川乱歩(講談社江戸川乱歩推理文庫)100円
d「湖畔亭事件」江戸川乱歩(講談社江戸川乱歩推理文庫)100円
d「パノラマ島奇談」江戸川乱歩(講談社江戸川乱歩推理文庫)100円
d「蜘蛛男」江戸川乱歩(講談社江戸川乱歩推理文庫)100円
「グレイヴディッガー」高野和明(講談社:帯)100円
「ハリウッドをカバンにつめて」サミー・デイヴィスJr.(早川書房:帯)100円
時代は光文社乱歩文庫なのだが、講談社版を100円でみかけてしまうと脊椎反射で拾ってしまう。横溝正史は角川文庫、江戸川乱歩は講談社乱歩文庫、というのが「決定版」に思えてしまうのは数の多さ故か?はたまた古書価がつく故か?


◆「青い館の崩壊」倉阪鬼一郎(講談社ノベルズ)読了
二年に一度の吸血鬼古本屋探偵長編推理シリーズ、と思ったら、主人公<ゴーストハンター>は将来値上がりしそうな本を新刊で買って値上がりを待つ事の迂遠と愚を悟り、古本屋に見切りをつけて、5万枚の長編ミステリに挑むこととなる。名付けて「『大菩薩峠』殺人事件〜名探偵・机竜之介の活殺推理」である。おお、なんとなく名探偵っぽい名前だねえ(2行分、大嘘)。
それはあなたには見えてしまうかもしれませんが、どろどろに顔が溶けた怨霊の棲むマンションなのです。青い薔薇はこの世にありません。だからマンションの名は青い薔薇なのです。幻想推理と童話がキキメになります。幻想推理は氷の国の女王が衆人環視の7階から消失してしまう話です。童話は7色の変人が出てくる話です。赤・橙・黄・緑・青・藍・紫。誰が被害者で、誰が犯人なのか、黒猫のみーこちゃんに聞いてみましょう。それはね、赤外線と紫外線が犯人なの。そうかそうだったのか。見えない人だなあ。これは意外だなあ。伏線もばっちりだ。謎が解けちゃうなあ。身体も溶けちゃうなあ。
作者の<空回りする思弁>芸は、既に達人の域であり、何度となく電車の中で笑いを噛み殺す羽目になった。だが、この言葉の魔術師がお約束の文字に淫した「暗号ネタ」をやりだすと途端に興醒めになる。作中作の人を食った消失バカトリックには「ひょええ」と度肝を抜かれるが、本筋の凝りに凝った趣向にはゲップが出てしまう。なんとも困った人である。なんとも困った作品である。


2003年10月8日(水)

◆二日酔のまま朝5時半出で大阪日帰り出張。車中で爆睡するだけなのだが、一週間に2往復は辛い。そのせいなのかどうなのか、
会議の場所を間違える。
事前配布されている筈の資料が配布されていなかった。
パソコンを起動したら、キーボードの「t」が死んでおり使い物にならない。
プレゼンテーションの操作を誤る、など三隣亡な一日。
「弱り目にたたり目、泣き面に蜂、藁打ちゃ手打つ、便所いったら人がはいっとおる」という奴ですな。
◆それでも死力を振り絞って駅前第3ビルの三冊百円均一棚で安物買い。
d「メグレの退職旅行」Gシムノン(角川文庫:帯)
「殺意のフェイド・アウト」Hヘイズ&Tチャスティン(新潮文庫)
「カメラ」JPトゥーサン(集英社文庫)
メグレの短篇集が欲しかっただけで、あとの2冊は帳尻合わせ。「カメラ」はブンガクらしい。
驚いたのが「殺意のフェイド・アウト」。なんと女優ヘレン・ヘイズの語りを元にトマス・チャスティンがハリウッドを舞台にしたミステリーを書き下ろすという趣向らしい。うーむ、トマス・チャスティンがこんな仕事をしていたとは、全然知らなんだ。ヘレン・ヘイズというのは「カリブ海殺人事件」「魔術の殺人」でミス・マープル役を演じた事もある国民的老女優(らしい)。ミス・マープル役者自身の事件という縁起がメタっぽくっていいですのう。それにしても、チャスティンってのは、きちんとした警察小説を書く割りには「懸賞フーダニット本」やら「新ペリー・メイスン」やら、何でもやるやっちゃなあ。


◆「らせん階段」エセル・リナ・ホワイト(ポケミス)読了
メアリ・ロバーツ・ラインハート、船山馨、邦光史郎、に続くミステリ界4段目の「螺旋階段」。しかし、その歴史は古く、ラインハートには及ばないものの、作品の初出はいわゆる黄金期・真っ最中の1933年。さらに、1946年の映画化が、この作品を世間的に最も有名な「らせん階段」へと押し上げた。個人的には「ポケミス名画座」のラインナップの中で一番楽しみにしていたタイトル。ポケミス50年の歴史で初の「同題異作」となった作品は、こんな話。
イングランドとウェールズの境、人里離れた屋敷<サミット邸>に、一人のメイドがやってくる。彼女の名はヘレン。屋敷の主は、男やもめのウォレン教授。教授の継母レディ・ウォレンは、寝たきりの女暴君で、教授の妹ミス・ウォレンをこき使う。教授の息子ニュートンは、美人妻シモーンの多情ぶりに嫉妬の炎を燃やし、教授の弟子スティーヴンはシモーヌの過剰な秋波を疎んじている。使用人のオーツ夫婦と新たに派遣された女丈夫の看護婦バーカー、ヘレンを含め9人の屋敷の住人は、一人また一人と舞台から消えていく。街から村へとその狩場を広げてきた連続美女殺人鬼。木が動く時、メイドは縊られ、連れ込まれたシェパードが「牝犬」に油を注ぐ。睡眠薬は暗鬼に踊り、狂気は最後に牙を剥く。らせん階段の闇から、裁きの銃口は誰を狙う?
ゆったりと緊張感を高めていく語り口は、サスペンスの王道であり、古くはあっても古臭くはない、といった印象。更に、中盤以降、有り余るキャラクターを「シナリオ」通りに退場させていく運びが巧みで、ポケミスにして300頁弱という長さを忘れさせてくれる。そして、驚愕の「真犯人」と衝撃のラスト。幻想紛いの伏線がここに来て効いてくる。やるではないか、エセル・リナ・ホワイト!これは、乱歩が読んでいれば、ポケミスの100番台で紹介されていた話なんじゃないのかな?いやあ、思った以上に楽しめた。小山正解説も痒いところに手が届く出来映えで、まずはケチのつけようのない一冊。映画版が見たくなったぞお。


2003年10月7日(火)

◆朝一番ののぞみで帰京。会社にタッチ&ゴーで幕張メッセへ。真面目にCEATEC見学。AIBOの新型が可愛い。メモリースティック関連製品だとは知らなかった。東芝のブースで、マイクのトラブルがあって司会のアンチャンが赤っ恥をかいていた。民生用電子機器のショーでマイクがトラブルとイメージダウンに著しいものがあります。
再び会社に帰ったら急遽「夜のお仕事」を命じられ、日が変る直前に帰宅。もうだめぽ。購入本0冊。


◆「障害」Dフランシス(ハヤカワミステリ文庫)読了
競馬シリーズ第16作は、久々に騎手が主人公。といっても、フルタイムのジョッキーではなくて、日頃は会計事務所を共同で切盛りしている日曜ジョッキーというところがミソ。まず、そのようなアルバイトが出来るという事に驚き、イギリス競馬の裾野の広さに感心する事しきり。実際にそのような騎手が存在するかどうかはともかくとして、競馬の隅々まで知り尽くしたフランシスの事、全くの絵空事というわけでもあるまい。厳しい節制とトレーニングを考えれば、趣味や道楽の域を超えた「極道」の域である。で、また格好いいんだ、この男が。
私、ローランド・ブリトンは、16歳の頃からアマチュア騎手として競馬に関わってきた会計士。その年の三月十七日の木曜日、私は一日のうちにサスペンスとスリル、歓喜とショックを味わう事となる。本業の会計士として引き際の悪い顧客に粘られ、アマチュア騎手としての最高の栄誉とも言えるゴールドカップでの騎乗に遅刻すれすれに駆けつける。そして三マイル半の障害レースは、先行馬同士の接触事故で、落馬・転倒が相次ぎ、気がつけばなんと、私の騎乗したタペストリは差し脚よろしく一着に飛び込んだ。興奮と絶頂、そして歓喜。だが祝賀の最中、ロッカールームから誘い出された私は何者かに誘拐され、洋上の一室に監禁されてしまったのだ。会計士の義務として社会的に制裁を加えた汚職官吏たちの逆恨みなのか?それとも、競馬界に巣食う八百長賭博の罠なのか?船酔いに苦しみながら克己と智謀のみを武器に洋上の牢獄からの脱出を図る私。しかし、それは巨大な陰謀との戦いの序幕に過ぎなかったのだ!
次々と襲い掛かる言われなき暴力に一歩も引かず闘う男と彼を支える女丈夫。これぞ勝利の方程式。フランシスがグリシャムをやるとこうなる、という見本。今回の華はなんといっても、オールドミスの中学校校長、ヒラリイ。決して美人ではなく、中年を過ぎても処女を守ってきた彼女とローランドの出会いと再会のドラマがなんとも心憎いのである。この大人のロマンスを読むだけでもこの話を読む値打ちがある。素敵だ。


2003年10月6日(月)

◆会社にタッチ&ゴーで大阪出張。発券トラブルに巻き込まれ多いに気を揉む。実家傍のブックオフで安物買い。
「コナン・ドイル殺人事件」Rギャリック・スティール(南雲堂)100円
「過(あやまち)」水月佐和(河出書房新社)100円
「ロミオとジュリエット」シェイクスピア(新潮文庫)100円
「ヴェニスの商人」シェイクスピア(新潮文庫)100円
「コナン・ドイル殺人事件」は島田荘司監修との鳴り物入りで1年前に出たばかりのキワモノ。コナン・ドイルの「バスカビル家の犬」は盗作で、しかもドイルがその元本の作者を死に追いやった、という疑惑を綴った書。うーん、「御手洗パロ・サイ事件」が剽窃で、その元本の作者たち全員を島田荘司が死に追いやったというような話の方が売れるに違いない。
「過」は女性の元監察医を主人公にした誘拐殺人ものらしい。こんな本が出ていたとも知らなかった。河出のこのシリーズって作者の選定そのものが「奇妙な味」ですのう。
シェイクスピアの2冊は、実は盗作で、その元本の作者をシェイクスピアが死に追いやったという話だったら面白かろうが、そういうわけではない。普通の戯曲である。
◆「ロミオとジュリエット」の解説を読んでいて、<シェイクスピアの時代には女優は存在しなかった>という事実を知る。思わず「へえ〜っ」ボタンを連打。つまりなんですか、歌舞伎みたいなもんですか?ジュリエットもマクベス夫人もクレオパトラもみんな男が演じていたかと思うと、非常に妖しい感覚に襲われる。


◆「毒の庭」Kハーパー(早川ミステリアスプレス文庫)読了
「名探偵エリザベス女王」といえば、「バッキンガム宮殿の殺人」などのC.C.ベニスンを思い起こすが、あちらはエリザベス2世。折りからの歴史推理ブームは、当然のように、かのエリザベス1世にも名探偵役を割り振るのであった。エリザベス1世といえば、映画「エリザベス」でのケイト・ブランシェットのメイクが有名な肖像画そのままで息を呑んだ。もはや、私の脳内では「ロード・オブ・ザ・リング」のガラドリエル女王とエリザベス1世は等号で結ばれている。閑話休題、アメリカ人女流作家のミステリ第1作はこんな話。
1588年、まだエリザベス女王が王女だった頃、イングランドの玉座には異母姉メアリーが居た。一瞬の気の緩みが死に直結する憎悪の王宮。からくもロンドン塔での幽閉は解かれたもののロンドンから北へ30キロの離宮ハットフォード・ハウスに半ば捕われの身となっていたエリザベスのもとに「幽霊」からの密書が届く。それは、亡くなったと思われていた伯母メアリー・ブリーンからの手紙だった。ブリーン一族を根絶やしにする陰謀の影は、既にエリザベスの従兄ヘンリーにも及んでいた。必殺の矢に、日々の食事の中に、仕込まれる毒また毒。伯母との再会はエリザベスをヴェールに包まれた毒使いとの戦いへと導く。闇を駆ける男装の麗人、ウエールズの歓呼、替え玉の気風、チュダーの王宮に、蜂は唸り、猜疑は踊る。
毒に塗れた血生臭い陰謀の連続、どちらかと言えば腺病質なイメージのあったエリザベス王女は、この物語の中では、奔馬の如き激しさと威風を備えたお転婆娘として描かれている。16世紀の風俗を巧みに織り込みながら、死と隣り合わせのエリザベスの日常をスリリングに綴った少女冒険小説。本格推理の要素は一切ないが、クライマックスシーンの派手さや、脇役陣の手堅さなど、これがミステリ第一作とは思えない出来映え。歴史小説がお好きな人はどうぞ。


2003年10月5日(日)

◆何もやる気が起らない1日。なんとか昨日の日記を打ち込むが、感想を書こうとすると、手が止まってしまう。シェイクスピア関連の本を拾い読んだ結果、自分の物知らずぶりに嫌気がさした、という事もある。一つ見えてきたのは「天正マクベス」のシェイクスピアに纏わる部分は「お手軽」である、という事。数百年に亘る「沙翁探し」の歴史に触れてしまうと、「天正マクベス」の荒唐無稽さが<不謹慎>に映るのである。参ったなあ、こりゃあ。購入本0冊。

◆「虹の家のアリス」加納朋子(文藝春秋)読了
「転進退職者支援制度」を使って念願の私立探偵の看板を上げた壮年男性・仁木順平。妻は売れっ子シナリオ・ライターで生活に不安はない彼の事務所に転がり込んできた娘・安梨沙。MCシスターズから飛び出してきたような美少女が、駆け出し探偵の日常を不思議の国に染め上げていく。書下ろし長編推理のラッシュかと思われた文藝春秋の「ミステリマスターズ」第二回配本は、なんとシリーズ連作であった。「日常の謎」系だが、ミステリのツボも押えた男の子向け「アリス」。
「虹の家のアリス」二児の母の会に向けられた小さな「悪意」のエスカレーションの顛末。仁木という名の探偵に相応しい事件。小味だが、必要十分なフーダニット。
「牢の家のアリス」電話セールスで一撃必中。馴染みの産院で起きた嬰児誘拐事件は衆人環視の病院からの人間消失という不可能犯罪でもあった。あまりにも無防備な犯人像がイマ風といえばイマ風だが、作者の狙いは別のところある。
「猫の家のアリス」特定分にゃの定番サイト<にゃんパラ>の掲示板で報じられるABC殺猫事件にゃ。DからKまでの愛猫を抱えた猫娘の依頼を受けた仁木と安梨沙が暴くマーキングの罠にゃ。モナミャ、この真犯人は怖いのにゃ。
「幻の家のアリス」家政婦は何を見た。アリスの変化に潜む翳、盗作の疑惑と癒す犬。仁木は最も苦手な調査に挑む。心理小説とみせかけておいて、さくっと科学のメスを入れてみせた手際が見事。小粒ながらシリーズとしては重要な作品。
「鏡の家のアリス」息子の依頼を受けて、女ストーカーから未来のヨメを護る仁木。困惑のダブル・イメージの果て、私の声が聞こえますか?すれっからしほど嵌まるという世評通りの作品。なるほど、そうきましたか。やや無理目だが、題名からして、作者の意気込みを買うべきなのかな。
「夢の家のアリス」花泥棒を追う仁木と安梨沙。高い塀の向うで濃密な香りが覆う夢の跡。アリスを巡るもうひとつの依頼と合わせ技一本。短篇でモジュラー小説をやるんじゃない。これは凡作。
「解説」<手紙>というキーワードで加納世界を読み解こうとするいかにも探小研な論文。まあ、キーワードのマスターベーションだけど、かき抜いた処は立派。普通なら「母」という切り口で語らんか?


2003年10月4日(土)

◆古本屋と図書館へ。安物買いと高い本の借用。
「人面領域」岬兄悟(学研)100円
「ミステリアスなカクテル」馬場啓一(扶桑社:帯)100円
「毒の庭」Kハーパー(ハヤワカミステリアスプレス文庫)100円
「魔術師の物語」Dハント(新潮文庫:帯)50円
「死の宣告」Pゴズリング(ハヤカワミステリ文庫:帯)50円
「顔」横山秀夫(徳間書店:帯)650円
うーん、学研のホラーノベルズって、版型を大判にしてからも通し番号があったのかあ。ああ、呪わしや。カクテル蘊蓄本は、カラー写真も入った趣味の本。同い趣向でタバコ本を作る人はいないものであろうか?料理や酒も結構だけど煙草も探偵の性格を物語るうえで重要なアイテムだったと思うんだけどなあ。「魔女狩り」的嫌煙活動が盛んな今こそ、失われいく「文化」としての煙草を誰か保存してくれないものか?
ミステリアスプレス文庫は、エリザベス1世を探偵役にした歴史推理。梗概を読む限りでは、作者のイギリスおたくのアメリカ人ぶりがよく出ていそうな感じ。
ゴズリングは文庫オリジナルというので、慌てて拾ってはみたものの、ダブリかもしれないなあ。
「顔」はテレビ帯でない初版が、半額以下だったので買ってみた。あと2年もすれば、横山秀夫も100円棚に大量に落ちてきそうではあるのだが。
◆図書館では、「天正マクベス」以来マイブームなシェイクスピアの追っかけ。ところが開架だけで棚一つを沙翁が丸々占拠しているのを見て、思わず溜め息。「シェイクスピアが誰か?」という作者探し関係で10冊近くある。はあ、こりゃあ、邪馬台国っちゅうか、切り裂きジャックっちゅうか。折角なので4、5冊借りてくる。他にもミステリを2冊ばかり。ううう、えらく重いぞ、こりゃ。
◆奥さんにお付き合いで土曜ワイド劇場「温泉若おかみの殺人推理」をリアルタイムで視聴。うちの奥さんは何故かこのシリーズの大ファンなのだ。知っている人は知っているだろうけど、このシリーズ、岡田茉莉子がおかみさん役、東ちづるが若おかみ役という部分が固定で、あとは毎回、舞台となる温泉を替え、若旦那役もころころ役柄も役者も変るという並行宇宙的融通無碍なところが非常に珍しい「シリーズ」なのである(というか、こういうものを「シリーズ」と呼んでいいのだろうか?)
今回は恐竜の化石発掘を巡る過去の殺人と現在の殺人が交錯する、てな話だったのだが、岡田茉莉子の亡夫が考古学者で、東ちづるの夫が駄目刑事っちゅうというのは、幾らなんでもけったいな温泉旅館ですのう。中身はオリジナル脚本でありながら、強烈に「山村美紗サスペンス」を思わせるノリ。加えて仲居頭役で山村紅葉が、警部役で若林豪が登場して、山村指数を上げる。バタバタ人が死ぬ(2時間で4人)ところといい、温泉温浴シーンといい、水辺の謎解き・告白タイムといい、実に2時間サスペンスの「王道」。既に伝統芸能の域かもしれない。


◆「顔」横山秀夫(徳間書店)読了
旬の作家の連作集。「偽りの『初手柄』故にトラウマを纏い、広報部門でリハビリ中の似顔絵婦警」という一筋縄ではいなかい主人公の設定が、いかにも横山秀夫である。今年の4月にテレビ化、TRICK女優の仲間由紀恵がまるっと主演を演じたが、原作では別の人物のエピソードとして紹介される「過去」を背負わされて、暗さが倍、といった雰囲気。一方では、人間の心の闇を突く原作の鋭さを丸めてしまった改変もあったりで、やはり、テレビを見ただけで読んだつもりになっていてはいかんな、と反省した。この本、テレビ化が決定するや、仲間由紀恵・帯にすげ替えられたが、情けないのがそれ以前の帯。

「このミステリーがすごい」国内編第
位作家 横山秀夫の傑作警察小説。

「第1位」の「1」がとてつもなくデカいのだ。日本科学技術大学の上田次郎教授の本ぐらいデカいのだ。便乗商法ここに極まれり。なんとも「東スポ」感覚だよなあ。
「魔女狩り」特種を連発するJ新聞。署内のどこかに潜むニュース・ソースを追う「傷心の元・似顔絵婦警」平野瑞穂。サツ回り記者の<不可能犯罪>を描いた登場編。作者自身の経験に裏打ちされた「心理的密室」の妙に拍手。
「決別の春」<なんでも相談テレホン>に掛かってきた「心の悲鳴」。多発する放火事件と「復讐」に怯える娘の記憶。誰が騙し、何を偽る、決別の春。人間の性(さが)から、過去と現在との紅蓮を結ぶ瑞穂の推理。こじんまりとまとまった人情譚。
「疑惑のデッサン」38℃の気温が招いた行きずりの殺人。瑞穂の後釜が描いた余りにも似すぎた似顔絵は奇蹟のなせる業?それとも?「似顔絵」を挟んで対峙する女の戦いが魅せる。サイドストーリーでも絵画にこだわり、「顔」という連作のテーマが最も際立った一編。
「共犯者」ガチンコの防犯訓練が軌道に乗った瞬間、市の反対側で本物の強盗事件が勃発する。訓練の情報を漏らしたのは誰?ピアスの女を追った瑞穂が見た真実とは。被害者とその動機が鮮烈な印象を残す。幕切れには救いがあって吉。
「心の銃口」女だてらに署でトップクラスの射撃の名手が、拳銃を奪われる。女である事の軋轢、女である事の真実、男社会の中で彼女たちの叫びは誰に届くのか?危険な警官マニアとの戦いの果て、瑞穂の銃口は誰を狙う?二編で一話分の構成はテレビ版と同じだが、挟雑物のない分、原作はハード。やや書き急いだ感はあるが、長編ネタになりうるプロットではなかろうか。


2003年10月3日(金)

◆ちょこっと定点観測。1冊だけイラスト本を拾ってみる。
「アンデルセンドリーム」ひらいたかこ(世界文化社)600円
初めて、ひらいたかこの本を買ってみた。すっかり日本を代表する西洋ミステリ・イラストレーターとしての地位を確立した感のある作者の昭和63年作品。アンデルセン童話に着想を得た大胆な構図と透明感ある色彩が光る。よろしいのではないでしょうか?
◆またまた舞い込んで参りました。お笑いダイレクトメール。今度は講演会のご案内。

「著者になる法、教えます」
[こんな方にご参加いただきたいです]
● 「自分の本が出せたらいいな」という希望をお持ちの方
● ビジネスマン向けの分野や自己啓発の分野で「書いてみたい」ことがある方
● 自費出版や協力出版(執筆者と出版社が費用を折半する出版)では満足できない方
● 社外でも通用するように、自分の付加価値を高めたい方
● すでに途中まで原稿を書いているものの、なかなか自信が持てない方
● これまで原稿を書いてみたものの、出版社に採用されなかった方
● チャレンジ精神旺盛な方

ズバリ「著者になる法」である。
「書きたいものがあるんだ!
「本になるアテがなくても書きたいんだ!
「お、俺の心の深いところで、創作魂が沸き立ち、詩神が舞い降りてくるんだあああ!」
とかいうのではなくて「著者になる法」である。
特に「自費出版や協力出版(執筆者と出版社が費用を折半する出版)では満足できない方」ってのがふるっている。ここまで割り切るといっそ清清しい、というべきですかあ?

◆「マクベス」読了。
こりゃ、面白いっ!全編血まみれのニューロイックな弑逆と放伐劇。オカルトてんこ盛り。名セリフてんこ盛り。簒奪者が予言に裏切られるツイストがまたなんとも。これは、実際の演劇を見たくなってしまう。刑事コロンボの「ロンドンの傘」ぐらいでしか知らんもんね。
ところで「きれいは穢ない、穢ないはきれい」(福田恒存訳)の原文って、「Fair is foul, and foul is fair」って言うんですってね。野球ミステリに使えそうな気がせんでもないですな。


◆「追込」Dフランシス(早川ミステリ文庫)読了
競馬シリーズ第15弾。1976年作品。ディック・フランシスはこの作品から単行本→ミステリ文庫という流れになり、ファンの間からは「実質上の値上げ」にブーイングが起きた。とりあえず、文庫で満足な当方とすれば、出版社が移らなくてよかった、と申し上げておこう。今回の主人公は、馬を描く事を得意とする画家。更に競馬そのものからは遠ざかった印象を受ける。
私、チャールズ・トッドが従兄のドナルド宅で週末を過ごすべくシュロプシャに辿りついた時、惨劇は起きていた。ドナルドが所蔵する美術収集品からワインまで、根こそぎ強奪し、更にたまたま早めに帰宅した若妻リジャイナを殺害。その剥き出しの暴力は、自信に満ちた実業家だったドナルドのすべてを破壊した。保険金目当ての「狂言」を匂わせる警察に業を煮やした私は、偶々競馬場で知り合った未亡人が、自宅全焼の憂き目にあい、しかもドナルドと同様、豪州でマニングスの描いた馬の絵を購入したばかりだった事を知る。ただの偶然か、それとも?細い線を辿り、画家仲間を頼り渡豪した私がそこにみた組織犯罪の構図とは?
マンネリの勝利。だが、新鮮味には欠け、諸国漫遊記の様相を呈してきている。オーストラリアの印象は「煙幕」の南アフリカのそれとだぶり、大掛かりな犯罪と黒幕の設定が「暴走」とオーバーラップする。更には、主人公と従兄の関係に「転倒」の兄弟が二重映しになる。ウイットに富んだ台詞回しや、主人公の不撓不屈ぶりは、ファンを喜ばせるに充分であるが、仮にこの作品からフランシスを読み始めた人は、この犯罪の荒唐無稽さに呆れてしまうのではなかろうか。


2003年10月2日(木)

◆「あらし」読了。
シェイクスピア最後の戯曲なんだそうな。そう思って読むと、プロスペロの最後の台詞が効いてくる。物語自体は、悲劇の設定で喜劇をやったような中途半端な印象。「集大成」とみるのか、「つぎはぎ」とみるのか?
王位を追われた「魔術師」が演出する「復讐劇」、道化に妖精、化け物に美女、忠臣に簒奪者、泡沫の眠りと酔いどれたちの幕間劇が騙る僭称の愚、開放と封印の果ての物語の終わり。
◆「うたかたの楽園」の読了を以って、菅浩江作品で本にまとまったものは全て読んだ事になった。菅作品を読み始めたのが、99年からなので、過去日記には一応感想が全て揃っている筈。んじゃ、一箇所にまとめて「菅浩江賛応援サブ・サイト」でも立ち上げてみようか、と思い、昔の感想を読み返してみる。



どっひゃーーーーーーーーっ。



うーん、俺ってば、相当に失礼な事、書いてるよなあ。これではちっとも応援サイトにならんではないか。特に初期の頃のは、再読の上、全面書き直しだな、こりゃ。

◆定点観測。安物買い。
「原子力潜水艦、北へ」Jボール(早川NV文庫:帯)各100円
「総会屋謀殺」桜田忍(弘済出版社こだまブックス)100円
「越後路殺人行」中町信(勁文社ノベルズ)100円
へえ、ジョン・ボールって潜水艦ものなんか書いてたんだ。これは勉強不足でしたわい。とりあえず、押えておこう。
桜田忍の本は「こだまブックス」だという理由だけで拾ってみたところが、ふと各章の題名を見て、ぶっとんだ。
「第一章 悪徳の街」「第二章 カーテンの彼方に」と来て、そのまま「第十五章 最後の審判」まで著名翻訳長編ミステリの題名が並んでいるである(「第五章 殺された男」と「第六章 疑惑」ってのがわかんないんだけどさ)。「予告殺人」だの「中途の家」だのが「総会屋謀殺」なるC級経済サスペンス(当社予測)の章題に使われているというミスマッチが、ゲテモノ心をくすぐる。これはカルトクイズのネタになるね。
それにしても「殺された男」ってのは何かな?「殺す男」はあっても「殺された男」は聞いた事ないよなあ。マンハントあたりの一挙掲載なんでしょうかね?


◆「被害者のV」ローレンス・トリート(ポケミス)読了
「すべての警察小説はここから始まった!」(帯の挙句)のだそうな。確かに1945年に上梓されたというのは、87分署やプロクターの諸作に比べても相当に早い。
んじゃ、クロフツの諸作はどうなるんじゃ?とか、メグレは如何に評価すべきか?などという突っ込みを想定して、新保解説では、メグレは「孤高の天才」であって、警察小説とは呼べないとする。しかしながら、じゃあ、足の探偵を、しかも時には二人以上の捜査官を用いたクロフツを、どう評価するのか?となると明確な答を避けている。ちょっとそこに座って反省しなさい、と小一時間。
そもそもモジュラータイプの警察小説とは何なのか?複数の捜査官を主人公に用いて、幾つかの事件を並行して描くタイプの警察小説、という事になるのか?87分署の「画期的」だったところは、幾つかの事件が、現実そのままに決して交錯する事なく終わるところではなかったか?その意味で、最後にすべての出来事が一本の線に合流するこの作品を、モジュラータイプの始祖とするのにはいささか抵抗がある。87分署管内の猫殺しは、本筋とはバラバラのブラウン運動なのだが、この物語の猫殺しは立派にメインストリームなのである。

というような、無粋は言いっこなし、もしやHMM流しになるかもしれないところをポケミスにしてくれたハヤカワさんに文句は申しません。そのぐらい、面白かったのだ。
功名心に逸る三級刑事ミッチ・テイラーが遭遇したのは、轢き逃げ事件。目撃者を探すうちに、付近のマンションで、事件の「直前」に悲鳴を上げた女性がいた事を発見する。錯乱した彼女は、なぜか火のないところで火傷を負い、彼女の飼い猫は外傷のない死を遂げていた。更に、ラジオ歌手の彼女が付合っていた保険屋が何者かに殺害されるに至り、事件は混沌としてくる。鑑識を当てにせず、勘と自白に頼る上司たちとは別に、若手鑑識官ジャブ・フリーマンとともにミッチが辿り着いた欲望の清算とは?
色情狂あり、不可能犯罪ありのオモシロ警察小説。巷間「主人公」と伝えられるミッチ・テイラーよりも、叩き上げで少しオタクのはいった鑑識官ジャブ・フリーマンの方がキャラが立っており吉。実際にこのシリーズ長編に共通して登場するのはジャブの方らしい。1940年代に、これほど迄に科学捜査が軽視されていた事に驚くとともに、「これがCSIの元祖だ!」という売りはありかな?とも思った。ただ、87分署との決定的な差は人種的なバランスが40年代というところ。イタリア系、ユダヤ系、アイルランド系、黒人といった人種を巧みに織り込み、実際の警察書類を挟み込み、「リアリズム」を演出した職人マクベインに対し、随分ときちんとした推理小説と「探偵」を書こうとしたのがトリートであったのではなかろうか?ややとっつきは悪いが一読して損はない。御勧め。


2003年10月1日(水)

◆会社の宴会後、しこしこと「本の雑誌」の原稿をやっつける。今回でとりあえず打ち止め。よくぞ、二年間も使って頂きました。少し早目の「ありがとうございます」。この連載、本文の方は、拙サイトでのネタの使いまわしもあったりで、書き始めてしまえばなんという事もなかった。問題は、毎月毎月、ホームズ譚の地口で副題を考えなきゃいかんということ。24回中2回は聖典そのままの題名だっだが、一回で2つの地口を使った月もあるので、結局26の題名いぢりをした事になる。聖典60編に対して4割強。今年に入ってからは、歳時記とも合わせるという「縛り」までつけて、まさに自縄自縛なのであった。中身を書いてしまってから、必死で題名を捻り出すパターンやら、題名先にありきで中身をでっち上げるパターンやら、こうやって並べてみると「ひいひい」言っていた記憶が甦ってきて感慨深いものがある。というわけで予告も含めて、「おさらい」をしてみよう!

「ポケミスの醜聞」←「ボヘミアの醜聞」
「三冊が全部」←「三人カリデブ」
「まだらの帯」←「まだらの紐」
「だいぶん抄訳文書」「To Abridge」←「海軍条約文書」「Tor Bridge」
「ああ、熊の足」←「悪魔の足」
「六つのナポレオン・ソロ」←「六つのナポレオン像」
「最後の事件」=「最後の事件」
「バーバーブラウン家の犬」←「バスカヴィル家の犬」
「黄色い顔」=「黄色い顔」
「四つの書影」←「四つの署名」
「銀背合事件」←「銀星号事件」
「仮面の戯作人」←「仮面の下宿人」

「あやしい自転車操業」←「あやしい自転車乗り」
「あれ?創元」←「アベイ荘園」
「三茶俯瞰」「三Bの楽聖」←「三破風館」「三人の学生」
「ボール函」←「ボール箱」
「青い宝石」←「青い宝玉」
「ふらつくピーター」←「ブラック・ピーター」
「ホシは似たり」←「犯人は二人」
「赤背連盟」←「赤毛連盟」
「踊るお人形」←「踊る人形」
「近視の探偵」←「瀕死の探偵」
「書き込むぞう」←「ショスコム荘」
「最後の一冊」←「最後の挨拶」

文中でつかったのが
「ヒーローの研究」←「緋色の研究」
「五つの俺んちの棚」←「五つのオレンジの種」
てなところかな?

私的ベストは「だいぶん抄訳文書」と「ふらつくピーター」。お疲れ様でした。

◆積録してあった「ガンダムSEED」最終回視聴。終わってよかった。よくも悪くも、一つ手前の回の方が盛り上がってましたのう。


◆「うたかたの楽園」菅浩江(角川スニーカー文庫)読了
センチメンタル・センシティブ・シリーズ第2作(にして、今のところ最後の作品)。褐色の弾丸娘:瀬田ナツノとアルビノの歩く女性フェロモン:亜美・デ・ラ・メア、能力者センターのプラチナクラスとシルバークラスコンビの活躍を描いたスガヒロエ版「ダーティー・ペア」。この第2作は、音楽と生物にこだわったファーストコンタクトな第1作に比べ、陰謀とアクションとエンタテイメントに徹した作品で、前作以上にダッペ指数が高い。こんな話。
南海の楽園ロータス・イーター島、テロリストの破壊工作を未然に防いだナツノと亜美は、つかのまの休息を取っていた。だが、偶然にも再会を果たした、センターの恩師ベルガー教授は、何者かに拉致されてしまう。僅かな思念を追って恩師の救出に向う二人と陽気な記者マックス。豊かな自然と細やかな人為によって現世に止揚された楽園、緩やかな時間がたゆたう向う側で、銀色の蛇はうねり甘い水は誘う。能力を生み育む悪意の結晶。時を越えた怨念が偽りの導きを招来し、美貌の翳で女豹は笑う。組織化された復讐を払いのけるか、センシティブ?
このままダーティ・ペアの一編として使う事もできれば、超人ロックの番外編としても適用可能。陰謀者の冷酷と無垢を操る歪みへの裁きなど実は相当にハードボイルドだったり、派手な外見にも関わらず主人公二人の超能力が癒し系だったりと、ちょっとしたツイストが、いわば既視感の強い「規定演技」に独特の風合いを加え、まずは及第点。個人的には癖のある第1作よりも、こちらの方が楽しめた。