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2003年6月20日(金)

◆華の金曜日。奥さんにお土産のケーキを買って帰るついでに、定点観測。
d「死がかよう小道」Dキャネル(社会思想社)100円
「インスマス年代記(上・下)」Sジョーンズ編(学研M文庫:帯)900円
カドフェル以外のミステリボックスは本当にみかけなくなってきたよなあ。とりあえず、キャネルの作品は本格の隠れた逸品につき拾っておく。クトゥルー本は、いつか買わなきゃなあと思っていた本。復路で本日の課題本を読み終わりそうだったので、活字切れへの備えとして買っておく。案の定、錦糸町に着く頃には歌野作品を読み終えたので、巻頭に再録されていたラブクラフトの「インスマスを覆う影」を久しぶりに再読する。なるほど、こりゃあ傑作だわ。宗家の血は強いなあ。
◆帰宅したら森さんのカタログが到着していた。なるほど、先日のギャレットとダールはこの先行オファーでしたか。「あ、いいなあ」と思うものには4桁後半の値がついていて、唸る。うーん、ボーナスが出るまで我慢かなあ。


◆「葉桜の季節に君を想うということ」歌野晶午(文藝春秋)読了
一部で大評判の歌野晶午の最新作。何度も言うようだが、新本格第一期生の中では京大ミス研の長老3人を押しのけて、今一番「予想を裏切り、期待に応えてくれる」優等生である。祥伝社の400円文庫は措くとして、実質的な前作「世界の終わり、そして始まり」は、読み物としての破格ぶりと面白さは評価できても、ミステリの企みとしては余り感心できなかった。しかし、今回は違う。見事にしてやられた。
物語は、自称「何でもやってやろう屋」の俺=成瀬将虎の一人称を基調として、探偵見習い時代のカットバックも交えつつ、ところどころに悪徳マルチ商法に絡めとられたとある老女の残酷な日常を三人称で挿入しながら綴られる。俺と俺の後輩の高校生・キヨシが、フィットネスクラブで知り合ったシロガネーゼの久高愛子の依頼を受け、高齢化社会の澱みに巣食う現代的な「悪」に闘いを挑む。ひょんな事から俺が命を救った女・麻宮さくらとの奇妙な恋の道行きは、俺が駆け出し時代に知り合い、そして喪った女たちの記憶を甦らせ、友情は幾つもの些細な嘘をつかせる。散るには早すぎる命。唾棄すべき邪悪。切り裂かれた死体。釣り下げられた死体。轢き殺された死体。我が赴くは死地、将虎、虎穴に入らずんば虎児を得ず。

クライマックスの一瞬、一体なにが起ったのかと唖然とした。
慌てて頁を繰り直し、その仕掛けの巧みさに唸り、なるほど、まだこんな手があったか!!、と感心した。しかも、この作品の優れているのは、読後感が極めて爽やかなところである。そして楽しく再読できる。元気の足りない人、びっくりしたい人、恋愛したい人、今年ここまでで一番の国産ミステリを読んでみたい人、何も言わずにこの書を読んでみて欲しい。
傑作である。御勧めである。


2003年6月19日(木)

◆昨日に続けて神保町タッチ&ゴー。一晩悩んだのだが、やはりブルーナ装丁のミステリが欲しくなっていそいそと三省堂へ向う。と、なんと「本日は五木寛之先生のトーク&サイン会でブルーナ展は16時半までとさせて頂きます」ですと。既に、会場の設営準備が進んでおり、ブルーナの本を載せた平台はどこかへと片付けられているではないか。一瞬、週末にでも出直すかと思って、ブルーナ展がいつまでかを確認すると、なんと明日20日の18時まで。しかし、明日はその時間までにここに辿り着ける見込みはない。
やばい!やばいですよ、これは。

ここで心の中の「入手困難」ランプに灯がともる。

こうなると、強い。いや「弱い」のかもしれんが、このサイトを読んで頂いている方の87%ぐらいは、そうだと思うのだが、この「入手困難」ランプが点くと、古本者は気合の入り方が違うのだ。「誰でもお金を出せば簡単に買える」では、燃えないのである。
しかも今回は、オランダのペーパーバックである。
ここで逃せば、ひょっとすると一生お目にかかれない可能性だって高い。
それに、よくよく考えてみれば「新刊書店で古本を買う」という類い稀な非日常体験ができるまたとない機会ではないかっ!

よし!店員さんに声を掛けるぞ!と思ったが、いやいや、まず何か1冊買い物をして「俺は客だぞ」という事をはっきりさせた方がいいかもしれない、と小心者の心が揺れる。ふと見ると、本日創刊の東京創元社「ミステリーズ!」が平積み状態。しかも、壁には刊行記念企画として北村薫&有栖川有栖のトーク&サイン会の案内が貼り出され、整理券配布中とある。「いずれは買う本だ」と、1冊とりあげ、カウンターへ。
「サイン会の整理券はありますか?」と尋ねると、120名中102番の券を付けてくれた。おお、残り少ないじゃないの、やったね。で、何時からなの?と確認すると、これが平日の13時から。

がああーーん。

幾ら私がスチャラカ社員でも、そりゃあ無理ってもんです。
ショックの余り、ふらふらと出口に向いかけて、はっと気がつく。
いやいや、今日はこれを買いに来たのではないのである!
ブルーナの古本だ!

めらめらめら、と古本者の炎を瞳の奥に躍らせながら、「ダメもと」モードで、決然とサービスカウンターに向う。そこで、涼やかな顔立ちの女店員さんを捕まえて
「あの〜ご相談で。ブルーナの本が欲しいのですが〜」と声を掛ける。
「あ、申し訳ございません。今日は、一旦終了しておりまして。なんという題名でございましょうか?6階の方から取寄せますが」と紙と鉛筆を構える。
うんうん、そうだよね、普通、子供用にみっふぃーを買いに来た客だと思うよね。
しかし、違うのですよ。
「いや、その実は、ブルーナのデザインしたミステリなんですけど」
「は?ブルーナのデザインしたミステリーでございますか?」
「それも、古本でして」
一体、この客は何を口走りだしたのか、と不安になったのか、
「係の者にあたりますので、しばらくお待ちください。」といいおいて、会場に向ったかと思うと、もう1人の女店員さんと、店内のあちこちを駆け回り始める。
どうやら、一階のちょっとした空きスペースのそちらに一台、あちらに一台と平台を分散させていたようなのである。大騒ぎである。
「あ、いや、その、古ペーパーバックの乗った台は入り口脇に置いてある奴であることは、確認済みなんですけど」と声を掛ける事もできないまま、美女二人のかけっこを見物してしまう。すみませんねえ。
待つことしばし、
「お待たせしました。どうぞこちらへ」
<このオヤヂ、手間かけさせやがって。これで、1冊も買わなきゃ許さねえぞ!>
と気合を入れて(想像)古ペーパーバックの前に案内される。
こちらも盛り上がってしまったので、1冊というわけにはいかず、2冊買ってしまう。

「DE SAINT IN SLAVERNIJ」Leslie Charteris(A.W.Bruna & Zoon)1000円
「STERKER DAN DE SAINT」Leslie Charteris(A.W.Bruna & Zoon)1000円

うーん、一体原作が如何なる題名なのか、見当もつきませんわい。
とりあえず、表紙がポップな物を選んでみた。出版社名を見てお分かりのように、ブルーナのお父さんが経営していた出版社の装丁を手がけていたらしい。うーん、角川春樹のようなものなのか?

古本につき、レジではレシートが発行できないという事で、珍しくも手書の領収書を頂いてしまう。
というわけで三省堂 神田本店の岡本さん、その節は、ありがとうございました。
御蔭様で「本の雑誌」のネタができました。
◆あと@ワンダーの外の棚から2冊だけ拾う。
「シナリオ 75年10月号」(シナリオ作家協会)300円
「シナリオ 79年12月号」(シナリオ作家協会)300円
ATGの「本陣殺人事件」と「配達されない三通の手紙」の脚本狙い。前者には横溝正史のエッセイも掲載されており、御得用。クイーンの「災厄の町」を翻案した後者は、名探偵を登場させなかっためにコアなクイーン・マニアからは評価されていないが、ストーリーは結構原作に忠実だったりする。


◆「査問」Dフランシス(ポケミス)読了
競馬シリーズ第8作。第6作の「血統」を<うっかり再読>してしまい、さて第7作の「罰金」はどうだったか自信がなかったので、安全を見て、一つ飛ばしでこちらを手にとってみた。例えば、あのスタートレックや木枯し紋次郎にも「法廷もの」があるように、特殊な世界のシリーズもので、裁きの場を舞台にするというのは、ひとつの知恵である。この物語では、普段我々が窺い知る事のできない、英国競馬界の自浄機関である「査問会」の表と裏が舞台となる。
油の乗りきった障害騎手ケリイ・ヒューズは、人気の本命馬でオックス・フォードのレースを落した。馬を知り尽くしたヒューズなればこそ、二着に入れたレースだった。だが、同じクランフィールド厩舎の馬が一着になった事から八百長レースの疑いを掛けられ、調教主クランフィールドとともに、査問会へと召喚される。同情的だった周囲の声に後押しされ、弁護士もつけず、査問会に臨んだヒューズとクランフィールドは、そこで最初から敵対的な態度を取る委員ガワリイ卿の峻烈な追求に遇う。次々と示される「八百長」の証拠。無視される申し開き。そして下された無期免許停止。消沈する心を奮い立て、自らの無実を立証しようと、証人たちに迫るヒューズ。やがて、炙り出される悪意の翳。その闇の向うから死の罠がヒューズに忍び寄る。
ストイックにして誇り高き主人公が、理不尽な仕打ちに立ち向かい、遂には冤罪を晴らし、不器用な恋もものにする。競馬シリーズの勝利の方程式そのものである。リーガル・サスペンスと呼ぶには、些か底は浅いが、英国紳士たちの裏面を垣間見る事が出来る異色作。マンネリを排するために、査問会という設定を持ち出したのであろうが、読者はそのマンネリを期待しているのである。面白うございました。


2003年6月18日(水)

◆霧雨の中、神保町タッチ&ゴウ。シナリオ専門店を覗いたら「あの」同人誌が委託販売されていたので、買ってみる。
「刑事コロンボ読本」町田暁男(私家版:改訂新版)2800円
コロンボ旧シリーズ45本に関する愛と蘊蓄の書。存在を知ったのは3ヶ月以上前だが、Moriwaki氏から連絡先を聞いていながら、ずるずると今日に至ってしまった。
なあんだ、こんなところで売っていたのね。まあ、縁のある本というのはこんなものであろう。製作者の町田氏は推理小説マニアというよりも、いわゆる映画通の方であり、従って中味の蘊蓄も俳優や監督などに関する部分が素晴らしく充実している。
刑事コロンボファンは、ごちゃごちゃ言わずに必携。
◆専門店では、さしたるものもなかったのだが、折角来たので無理矢理何冊か買う。
d「警(サツ)官」Eマクベイン(ポケミス:映画カバー)250円
「葉桜の季節に君を想うということ」歌野晶午(文藝春秋:帯)900円
「闇ドルの女王」Sラフォレスト(番町書房)1800円
「Die Grune Kapsel」J.D.Carr(Oullstein)300円
87分署は言わずと知れた映画カバー狙い。「棚の整理につき半額」という煽りに負けて買ってしまう。ポケミスのカバーも随分と揃ってきたよなあ。番町書房のPoint Booksは、思い切り以前にうちの掲示板だか、小林文庫さんのゲストブックだったかで話題になったシリーズ。少し高いような気もしたが、これが専門店価格というものであろう。歌野晶午の作品は、あまりの評判の良さに先週末、新刊書店で買ってやろうと思っていたら見あたらなかった本。ここで900円得した気分になって、ラフォレストの分を埋め合わせしてみる。あとは、ドイツ語版の「緑のカプセルの謎」。読んだ人なら判る納得の表紙絵だったりする。
◆三省堂でブルーナの版画展をやっていた。たかが版画の割りには結構なお値段になるのには驚く。まあ、絵が単純だから、よけいにそう思うのかもしれないが。で、そこで何故かブルーナがデザインしたオランダ語のメグレやセイントのペーパーバック(古本)までが販売されており、思わずそそられる。しかし、1冊1000円と聞いて、腰が引けてしまい、結局スルー。うーん、ここで逃したら一生巡り合えないかもしれんのだが。 うさこちゃんは、もうすこしなやむことにしました(・x・)
ついでにしんかんのアルテもスルーすることにしました
きょうはいっぱいごほんをかったからね
おやすみなさい(−x−)


◆「ブラック・マウンテン」レックス・スタウト(しゅえっと)読了
ネロ・ウルフの第17長編。作品自体も極めて異色作ながら、この訳書自体も異色である。静岡県清水市在住の西貝マリさんが、翻訳から出版までやってしまったというあっぱれ同人出版の鑑。風読人さんでその存在を知っても、本が届くまでは半信半疑であったが、無事立派な装丁の本が届き、それから4年後の今、ウルフやアーチのファンも納得のこなれた翻訳で楽しく読み終える事が出来た。まずは、西貝女史に敬礼。
かのポアロに「ビッグ4」があり、かのクイーンに「第八の日」があるように、何か作者としての思いゆえにその作家のシリーズ探偵が、似つかわしくない事件に遭遇させられる事がある。この物語もその最たるもので、なんとあの出不精の巨漢探偵ネロ・ウルフが、友人の料理人殺害と自分の養女殺しの落とし前をつけに鉄のカーテンの隙間を潜って、共産圏主義下の故郷モンテ・ネグロに向かい、そこで、海を越え、野を抜け、山を駆け、街に潜り、村を走り、敵を欺き、味方を騙し、諜報員顔負けの活躍をやってのけるのである。いつもはウルフの手足となって、報告にこれ務めるアーチが、言葉の壁ゆえに、この事件に限っては、専らウルフから報告を受ける側に回るという設定も異色である。
従って、通常のネロ・ウルフミステリを期待する向きからすれば、この話は規格外もいいところである。バークにまかせろ!の諜報員バージョン並みの違和感がある。しかしながら、そこで描かれた(ウルフの脂肪並みの)友情の分厚さや、作者の冷戦に向けた熱い批判精神は、スタウトのファンや、ウルフ・ファミリーの掛け合いを愛する者からは喝采をもって迎えられよう。この物語を楽しんで読めるか否かが、ウルフ・ファン度のリトマス試験紙になるような気がする。
ウルフとアーチが出てくればなんでもいいという人は、どうぞ。また、個人出版を意気に感ずる人は是非ご注文を。


2003年6月17日(火)

◆就業後、無性に専門店を覗きたくなり、発作的に自由ヶ丘は文生堂へ。しかし、こう何か燃えるものがない。2階の均一棚で2冊。
「スーパー・トイズ」ブライアン・オールディス(竹書房)200円
「尾張瀬戸殺人事件」碧春海(鳥影社)200円
オールディスは、先日読了した文庫版がアブリッジ版だったので、あらためて買い直し。もう一冊は、自費出版系。いかにもありそうな旅情ミステリ風題名。とはいえ「これじゃあ、電車賃にもならんのう」と肩を落して1階の棚を冷やかしていたら、童話棚で一冊チョイめずに遭遇。
d「ふしぎなマチルダばあや」Cブランド(学研)500円
おお、ソフトカバー版は所持していたのだが、こんな立派な元版があったのね。カバーもついて完本状態。なんとなく文生堂の裏をかいた気分になって、ちょっと幸せモードになる。単純な奴である。
◆阪神の逆転サヨナラ勝利に浮かれていたら、火曜サスペンス劇場の「刑事・鬼貫八郎(15)」を録り逃す。うへええ。今回は「宛先不明」が原作だった模様。
ぐ、ぐやじいいい。
更に、スポーツ番組のはしごをやっていたら、日曜日に阪神のサヨナラ勝ちに浮かれて録り損ねたNHK「文明の道」の第3集をまたしても録り逃す。うがあうがあ。まあ、NHKの方は、今年の看板番組なのでBSも含めてこれから幾らでも再放送はあるだろうけど、火サスの「鬼貫」は痛い。まず当分、再放送はなさそうだもんなあ。どなたか、録画された方はいらっしゃいませんかあ?とりあえず、やけくそで六甲おろしだ、このヤロウ!!


◆「沈黙の家」新章文子(新潮社)読了
巻末写真を見て「改めて美人だなあ」と感心する。おそらく江戸川乱歩賞受賞作家で美人コンテストを行えば、文句なしに新章文子がその栄誉に輝くものと確信する。しかも、晩年は、占いの分野でも鉱脈を掘り当て、世にその名を残したわけで、天は二物も三物も与えるものだとやや不公平感が募る。ただ、その推理作品についていえば、パズラーとは対極にあるサスペンス派で、部分的に倒叙を用いた手法は、曖昧模糊としたプロットと相俟って、不快とはいえないものの釈然としない読後感を読み手に与える。この作品もまさにそういう作品。
さて、この小説には副題があって、その名も「性倒錯殺人事件」。主人公は、京都から上京してきた姉弟、姉は新進少女小説家、弟は編集者にしてホモセクシュアルながら姉と同業の年上の女と肉体関係を持っている。その弟を慕って、上京する高校時代の恩師。姉は姉で隣に住む流行小説家に懸想するが、その流行小説家は、妻とは別居中で、愛人である詩人と同棲しながら、詩人の妹の若い肢体に溺れている。その詩人の妹には、更に未成年の恋人がいる。このくんずほぐれつの人間関係のバランスを、奔放な肉体に宿った小さな命が突き崩す。、悶々とした閉塞感の中で、突如湧き上がる殺意。無慈悲な親子殺しの容疑は無辜の魂を襲い、爛れた恋情は凍った精算を呼ぶ。
アリバイトリックと、毒殺トリックが用いられてはいるものの、一体お話がどこへ転がって行くのかと終始困惑し通しだった。思い切った省略技法に、意味があるのかと思わせておいて肩透かし、更に畳み掛けるように話を跳躍させておいて、そちらに罠を仕掛けておく。成る程こういうやり方もあるか、と思いはしたが、余り感心できたものではない。現代のボーイズ・ラブ作家ならば、この人間関係をどう処理したか、と夢想して楽しむのも一興か。


2003年6月16日(月)

◆朝3時に起き出して会社のお仕事。相変わらず日記も書けない状態が続く。出社しても、にゃんにゃこまいの一日。なんでこんなに忙しいんだ?
◆年俸通知を受ける。昨年よりは回復したものの、途中で会社の都合で変えることのできる年俸通知って全然信用ならないんだよな。
◆残業時間中に、ミステリ系のあらゆる掲示板にマルチポストされていた例の「質問」に回答してみる。最初は無視するつもりでいたのだが、結構、皆さん真面目に答えていたりするので、周回遅れでバスに乗ってみた。一体どこの誰が何の意図で聞いているのか判らないところが「謎」である。回答の内容ではなくて、回答の有無や姿勢を見る社会実験なのだろうか?ならば、成功している。
◆私の知る限りでは、日本一の「島田一男」研究家:いなばさがみ氏から先日BSで放映された「事件記者」を見たいというメールが入った。なんでも氏のお宅は隣家との関係でBSが受信できない環境にあるらしい。そこは研究者に甘い私の事、せっせと未整理テープの山から「事件記者」10本分をバラバラに録画したものを2時間がかりで発掘してお送りした。で、実は氏の本名の名前部分を思い出せなかったので、「K様方 いなばさがみ様」で発送したところ、氏の不在中、「当家には、そのような者はおりません」と、氏のご母堂から受け取り拒否にあった模様。まあ確かに、見知らぬ人物から、見知らぬ人物宛にビデオテープが送られて来れば、警戒されて当り前ですわな。「真昼の恐怖」ですわな。「狙われた三十代」ですわな。>誰が三十代やねん?


◆「猫丸先輩の推測」倉知淳(講談社ノベルズ)読了
一部で「書かずの倉知」呼ばわりされている作者だが、猫丸先輩の登場作も既にこの書で4冊になる(そうな)。
最後に過剰な着地をしてしまう処女連作集「日曜の夜は出たくない」
カーというよりは、スラデックな軽味の嬉しい長編オカルトミステリ「過ぎゆく風はみどり色」
猫でも着ぐるみでも珍獣でも松茸でもどんとこいな日常の謎「幻獣遁走曲」
おお結構、仕事しているではないか、先輩!
というわけで、メフィストにちょぼちょぼ書き継がれた猫丸サーガもようやく1冊分溜まったところで、講談社ノベルスに初お目見え。いずれも、ジル・チャーチルよろしく(浅羽莢子よろしく、というべきか?)名作の地口仕立てな題名が嬉し恥かし。颯爽と日常の謎に挑む猫丸先輩には、唐沢なをきのほにゃ〜とした挿し絵がよく似合う。これが版画だとハラハラなのだが。クリフ版画。あ、こりゃまた、お呼びでない。以下、ミニコメ。
「夜届く」寒い夜、一人暮らしの男のもとに次々と届けられる偽電報。一体誰が何のために?はっそーの転換が素晴らしい「見えない人」の末裔。日常の謎の起承転結がものの見事に嵌まった作品であり、国際競争力がある。
「桜の森の七分咲きの下」入社早々、花見の場所取りという「大任」を押し付けられた新入社員の性根を試すかのごとく、次々と現われる人々。ある者は、先輩社員を騙り、また或る者は粋人を気取る。果して一番怪しい猫丸の「推測」や、如何に?あの手この手を楽しめるセオリー通りの逸品。本格推理はこうありたい。
「失踪当時の肉球は?」ハードボイルドな探偵を翻弄する愛猫の行方とは?プロの手際が混沌を招き、謎を呼ぶ。ペット探偵の造型のアホらしさが堂にいっており笑える。謎の解法はやや苦しいく、この作品集では、一番落ちる。
「たわしと真夏とスパイ」商店街に仕掛けられる「北」の罠。夜店を襲う、悪意の数々。白濁する水槽、油漬けの弾丸、舞い上がる風船、北の工作員の妨害に立ちはだかるカラーヒヨコ売りの男・猫丸!題名も凄いが、話も凄い。めじめ正一の商店街ものを彷彿とさせる設定だが、錯誤の仕込み方が絶品。年間ベスト級の快作と言って過言ではなかろう。
「カラスの動物園」キャラクター作りに行き詰まったキャリアウーマンが動物園で遭遇した引ったくり。果して行き止まりの向うで何が起きたのか?象は忘れず、熊は見ていた。これは、無理目というか、論理の切れ味がない凡庸な作品。猫丸グッズは見てみたい気もするが。
「クリスマスの猫丸」同じ方向に向って全速力で駆けていくサンタクロース。それも3人。一体その先に何があったのか?猫はこたつで丸くなる。猫丸はごたくて熱くなる。聖夜の謎に挑む猫丸。アンフェアながらも、語り口で読ませるボーナストラック。
というわけで玉石混淆の一冊。頼むから初出は書いておいてくれ。


2003年6月15日(日)

◆散髪に行ったついでに新刊書店チェック。
「魔性の馬」Jテイ(小学館:帯)1800円
「怪奇探偵小説名作選7蘭郁二郎集<魔像>」日下三蔵編(ちくま書房:帯)1300円
「ジャーロ 12号」(光文社)1500円
<日下三蔵税>を笑顔で納税。3冊で5000円札が吹っ飛ぶ。それにしてもどこをどう叩いたら「Brat Farrar」の訳題が「魔性の馬」になるのであろうか?この題名が予告された際に、一体どのティの未訳作に該当するのか全く見当がつかなかった。吾妻ひでおに倣って「ぶらっとポニー」って事で如何でしょうか?>いや、如何でしょうかといわれても。
買わなかったのだが、光文社文庫の新刊でファルコものの続刊もさっくりと出ていて感心する。なぜか金属・神様路線を取りやめた模様。しかし「新たな旅立ち」とはねえ。
次は「さらばファルコ〜愛の密偵たち」?「ファルコよ、永遠に」?「完結編」ではなさそうだけど。
◆中古マンションのオープンハウスを冷やかしに行った足で、買い物をすませ、奥さんの実家で宴会。名目は「父の日」である。一応、わたしも「父」だそうな。阪神のサヨナラ勝ちを見届けてからさよなら。へべれけになっていたので、会社の宿題を積んだまま寝る。あ、「文明の道」第3集、録り損ねた。


◆「地図のない街」風間一輝(早川書房)読了
今は亡きイラストレータ兼ハードボイルド作家の描いた卑しい街を行く誇り高きアル中たちの物語。物語の進行とともに断酒プログラムを体験できるという実用小説でもあるが、余りこのマニュアルのお世話にはなりたくない。とりあえず、作中の蘊蓄によると、ビールで止めておけば、アル中にはならないそうなので、一安心。 それにしても、作者の第一作を読んだ時には嫉妬した。既にイラストで一家を成した人が、これほど心を震わせる作品を書けたということに、である。確かに酒場ネタのエッセイや犯人当てクイズには、ストーリーテラーとしての片鱗が見えてはいたものの、長編を支えるだけの構成力と持続力があるとはとても思えなかったのだ。いやあ、羨ましいやら、妬ましいやら。そんなミューズとバッカスに愛された作者の第二長編はこんな話。
チンピラにボーナスを奪われた事が切っ掛けとなって、牙の剥き方を思い出したサラリーマン・北岡は、飼い慣らされた日常と家族を捨て、自分の人生にフリーキックの笛を吹く。流れ着いたのは、地図になく、地図のない街・山谷。澱みの底の日常と友情、住めば都、酔えば極楽。だが、その酔いどれの園に、邪悪の翳が射す。相次ぐ早朝の行き倒れ事件に興味を持つ、北岡のアル中友達・初島。だが、山谷には近づきすぎてはいけない闇もある。初島のルポライター魂を逸らせようと、北岡は同じくアル中仲間で初島の兄貴格の桐沢と三人で、苛酷な断酒プログラムに挑む。だが、既に初島は闇の核心に迫りすぎていた。襲い掛かる譫妄と暴力。呑む自由、酔う自由、死ぬ自由。命の値段の安い街で、男の意地は青く燃える。
愛すべき酔いどれ群像がいい。男に目覚めてしまった北岡、出来もしない断酒を企画する初島、そして彼を守らんとして断酒計画に加わる好漢・桐沢。皆んな、実にオトコである。アル中である。山谷の描写も実にディープである。と同時に、作者の愛が伝わってくる。非道に逆襲する酔いどれ任侠小説とでも呼ぶべきなのか、ある意味、ドロップアウトの美学を描いた危険な書である。落ち零れ願望のある人はこの本を読むだけでとめておこう。酒はビールでとめておこう。


2003年6月14日(土)

◆奥さんが風邪を引いているので、早い便で帰京。一緒にゴロゴロして過ごす。
>役にたたねええっ!!
◆娘がついに平たい場所でも寝返りを打てるようになった。なったのはいいが、うつ伏せ状態になるとそこから身動きできず。数分すると突っ伏してしまう。おまけに少し母乳を戻すものだから、自分の小間物の上に顔を叩きつける状態になる。
ああ、酷い。酷いけど、なんかこれって、凄く懐かしいかも。
♪学生コンパはゲゲゲのゲエ、だよ、うん。
いや、笑い事ではなくて、目が離せなくて、大変は大変なんだよな。
◆深夜、NHK−BSで若山富三郎版の「事件」を再放映。
万歳!!これは見たかったんだよなあ。4回分を今週と来週で2回分ずつ放映予定。これに続けて未見の「続・事件」を期待したかったんだけど、放映されるのは「続々・事件〜月の景色」だそうな。それはそれで傑作なんだけど、うーん。まあ、今後に期待しーようっと。とりあえず来週も忘れずにエア・チェックだ!!


◆「殺人は広告する」Dセイヤーズ(創元推理文庫)読了
ピーター卿クロニクル第8長編。大作「ナインテイラーズ」が間に合わず、やむなくゴランツ社との契約を守るために書かれたギョーカイ内輪ネタ満載の異色編。というが、なかなかどうして愉快な物語である。思い人のいないところで独身貴族が、毒婦・強賊相手に斯くもお洒落にして命がけの冒険を繰り広げていたとは、ハリエットなんぞ糞喰らえな女性読者ならずとも嬉しくなってくるではないか?
業界に知られたピム広報社に、一人の新人コピーライターが雇われる。上品に贅を尽くした身なり、弾けるエスプリ、度外れた好奇心、彼の名は「デズ・ブリードン」。おお、それこそは、セイヤーズ女史の熱心な読者であれば、誰もが知っている、かの貴族探偵のミドルネームではないか!社長の依頼で、謎の転落死を遂げた前任コピーライターの謎を解くために同社に潜入したピーター卿は、大学出バリバリの気鋭や、キャリアウーマン、劣等感苛まれる叩き上げといった多彩な顔ぶれに混じり、慣れない文書修行に精を出しつつ、噂話と目撃談をつむぎ合わせていく。被害者の妹を巡る恋情の暴走は、操作を混乱させ、社交界の毒花は卿の奇矯に魅了される。資本主義の走狗たる広告最前線に、古典的な悪徳が忍び込む。それいけ、ウイムジイ。謎も世間もクリケットの玉も空の彼方へウイフッて、よいしょ、よいしょ、よいしょ。
転落トリックを見てビックリ。これはカーのとある晩年作で使われたアレではないか!なんとカーとも有ろうお方が、セイヤーズからトリックをぱくっていたとは知らなんだ。「いやいや、作中の年代ではカーの方が古い」などときいた風な弁護にならない弁護をすると偏狭なカーマニアといわれるので、いいませんとも。ええ。それはともかくとして、このお話が書かれた1933年当時から斯くも熾烈な宣伝競争が展開されていたというのが新鮮。勿論、その内容は、どこか牧歌的ですらあるのだが、例えば、ピム広報社のライヴァル会社がしかけた「飛行機」ネタのキャンペーンは、かのぺプシの「宇宙旅行」に通じるものがあり、いつの時代にも人の欲望を刺激する手法に大きな差はないような気にさせられた。おそらく当時としては流行の最先端の職場と、19世紀的退廃の香りを漂わす組織犯罪とのコンビネーションという対比の妙に唸る。
果たして、ここまでの事を企みながら、犯罪のバランスシートがつりあうのかはやや疑問であるがこれも、日夜、コピー一つに振り回されていた作者セイヤーズのささやかなる「復讐」と考えれば納得もいく。作者としても大いに楽しんで書けたんじゃないかなと思う「セイヤーズにしては軽めの作品」ではあるものの読みどころ満載。お勧めである。


2003年6月13日(金)

◆大阪出張。梅田古書倶楽部、カッパ横丁などをチェックするがこれといって何もなし。実家に向う一駅手前で下車するも、お目当ての古本屋は潰れており貸店舗のチラシが寂しく貼られていた。しくしくしく。実家近くのブックオフもフクさんの狩場なので、ぺんぺん草一本残っていない。しかたがないので、その斜向かいにある古本屋で新古本買い。<日下三蔵税>を脱税する。
「山田風太郎コレクション3:十三の階段」 山田風太郎(出版芸術社:帯)900円
「猫丸先輩の推測」倉知淳(カッパノベルズ:帯)400円
「佐渡・密室島の殺人」深谷忠記 (徳間ノベルズ:帯)450円


◆「剣の門」桐生祐狩(角川ホラー文庫)読了
「夏の滴」で異能ぶりを遺憾無く発揮した女流ホラー作家の第3作。女流ホラーといってもイマドキの坂東真砂子、岩井志麻子に代表されるジャパネスクな土俗ホラーとは決然と袂を別った大風呂敷ぶりが凄い。一種のワールド・レッカーと呼んでも過言ではあるまい。その世界の壊しっぷりは、前二作では心の中の禁忌の壁を蹂躪するというパターンだったものが、本作に至って更に物理的な派手さを加えていく。誤解を恐れずにいえば、そのスケールの壮大さと破天荒ぶりにおいて「スティーブン・キングの文体で描かれた香山滋」なのである。
物語は、とある素人劇団が難民キャンプの舞台で催したシェークスピア劇の幕開きとともに始まる。「真夏の夜の夢」。そう、それはまさに、夢のような出来事であった。恋の手管に長けた侍女役を演じる篠崎圭子は、僅か数ヶ月前の出来事を回想する。場所はニューヨーク、女優を目指していた自分の傍には渡米してきたばかりの妹の瑛がいた。誰をも傷つける事ができない、生まれながらの犠牲者である瑛、そして、犠牲者たちを生きながら切り分けていく連続殺人鬼<ケーキサーバー>、二つの赤い糸がビッグ・アップルで交錯する時、異界との扉は静かに開かれる。喧燥とハーモニカ、サイバー・オタクと泥棒家族、刑事の恋情、国家の無慈悲、振われる密室の鞭、消え失せた胸はイコン、ルネサンスの工房で描かれる永遠、それは神の試し、選ばれし者よ、今こそ剣を取れ。
最初は、海外で自分の可能性に挑戦する美人姉妹を主人公にしたシリアル・キラーものなのである。どこかすっ呆けた、いかにもアメリカンなキャラクターが続々と登場して運命の一瞬への加速をつけていたかと思うと、物語は突如Xファイルへと乱入、それも、のっけからモルダーとスカリーをなぶり殺すかの如き無慈悲ぶり。いやはや、このエスカレーションのメリハリには唖然とする。更に、クライマックスでの殺戮シーンの<静謐>に唸る。桐生祐狩のペンは、時空を玩具にし、歴史をせせら笑い、そして地球を切り刻む。気の弱い人は読まない方がいいです。ラストがまた泣けるんだ、これが。


2003年6月12日(木)

◆残業。購入本0冊と思ったら、いつもの本のご恵送。
「本の雑誌 2003年7月号」(本の雑誌社)頂き
毎度ありがとうございまする。特集は出版広告ベスト10と活字の熱闘甲子園の二本立て。
前者では「ガンダムエース」の分割広告に唖然。「ム」がコア・ファイター状態。アムロは無事換装できるのか?お、アムロの「ム」もコア・ファイターつながりかも。
後者は、やや参加が少ないところが、第1回大会って感じですか。

「只今より、猟鉄新聞社主催、全国高等学校古本大会の開会式を虚構致します!!」

♪蜘蛛は湧き
♪黄カビ溢れて
♪天高く 呪縛の束
♪今日ぞ 積む
♪まろうどよ いざ
♪長尻は閑居に堪(こた)え
♪いざり寄り 掘り出す希望
♪ああ、絶版は、君に輝く

輝かへん、輝かへん。

「負けて悔いなし、石井高校!!今、神保町の土を静かに詰めています」

せえへん、せえへん。


◆「サンタクロース殺人事件」Pヴェリー(晶文社)読了
バークリー・コレクション以前にも晶文社には優れた本格長編推理小説があった。そのフランス製隠し玉がこの作品。
フランス東部の玩具産業の町モルトフォン。12月6日。主任司祭のフェックス師を襲った謎の男は教会の二階に駆け上がり、広間からその姿を掻き消した。開いた窓の外、ぬかるんだ地面には足跡一つなし。果して賊が狙ったのは、教会の宝である聖ニコラの聖遺物箱に埋められたダイヤモンドだったのか?そして、パリの弁護士プロスペール・ルビックに聖職者からの依頼が舞い込んだのはその1週間後のことだった。だが、ルビックにも雪のクリスマス・イブの惨劇を食い止めることは出来なかった。衆人環視の聖遺物箱からはダイヤモンドが消え失せ、殺されたサンタクロースの扮装の下からは、散切り頭の見知らぬ男が現われ、街にはド・サンタ・クロース侯爵を名乗る怪しい人物が闊歩する。食い違う証言、いつまでもこない警察、さあ、奇蹟を起すのは誰?
まず書かれた年代が凄いぞ!1934年である。堂々の黄金期ではないか。立派にレギュラー名探偵も登場する。舞台はファンタジックな田舎町、殺人あり、宝捜しあり、アッと驚く錯誤トリックあり、ついでに変装もあり、と全編これサービス精神の固まりである。仮にフランス製本格推理小説を10作選べといわれれば、必ず、ランクインしてくる名作であろう。「今更、クリスマスにサンタクロースが殺されるようなベタな話は結構」と斜に構えてないで、まずはご一読あれ。これぞ、原点である。


2003年6月11日(水)

◆掲示板のMoriwakiさんの指摘で「歌うダイヤモンド」の書名を修正。
すんまへん。
◆国書刊行会のサイトがリニューアルされて、そこで案内のあった未来の文学全5巻のラインナップが凄い。ううむ、ワセミス色の世界探偵小説全集に対して、東大SF研色が強いのか?名のみ知られたSFの訳出ではラファティーの「地球礁」だの、バンクーボンの「デイヴィー」てなところがあったけれども、ここへきて、(レム・コレクションと併せて)真打ち登場の感がある。探偵小説の古典ブームが漸くSF畑にも根付いたという事であろうか。「ブームが根付く」などというと日本語が乱れとる!と言われそうだけど、「どうせ一過性のものでしょ?」という不安なファン心理からすれば、嵌まる表現なんだよな。あれだけ競うように泰西古典推理市場に名乗りをあげた新樹社や原書房の沈黙ぶりをみるにつけ、しみじみとそう思う。幸い、ミステリの場合は創元と早川という斯界の二大メジャーが動いたので、まだ当分楽しませて貰えそうだけど。SFはどうなるんでしょうね?

「早川文庫SFに、名のみ知られたあの名作が登場!!
ローダン外伝 《アトラン》シリーズ 遂に隔月刊行決定!!」

いらんいらん。

◆残業。NHKニュースのスポーツ情報に間に合うようには帰りたかったんだけどなあ。購入本0冊。
◆よしださんから振られたサイト主宰者の年齢の件。なるほど私も最長老格らしい。<森英俊・喜国雅彦・芦辺拓>世代と書くと「古本者」「フェティスト」「懐古主義者」という風に取られるかもしれんが、<東野圭吾・牧野修>世代でもあるわけで。うーん、共通するのは「毒」ですか?
匿名性の高いネットでの世代論にどれほどの意味があるか分からないけれども、推理小説歴については世代論、というか同時代感覚というのはあって、「本格推理に対する飢餓感」「<いわゆる社会派>に対する忌避感」がことのほか強いのが我々の世代なんだと思う。それが本を作る側に回って、昨今の復古ブームがもたらされている。丁度、ウルトラマンや仮面ライダーを子供の頃に熱狂して見ていた世代が作り手側に回って、自分たちのウルトラマンや自分たちのライダーを作るようなもので、「ティガ」と「クウガ」のレベルの高さは想いの強さをそのまま反映している。
一方では「こんないい時代がいつまでも続く訳がない」と心の隅に不安を囲っているのもこの世代、それは、いまだに「あの言葉は口にしたらあかんで、わかっとるやろな」という暗黙知で繋がっている阪神ファンのようなものなのである。


◆「超・殺人事件」東野圭吾(新潮社)読了
時々、毒の入ったお笑い作品を放つ東野圭吾の業界自爆ギャグ・メタ小説集。 既に世間的に評判も上々で、そもそも「読んで笑えばそれで充分」な話ばかりであり、これに何かコメントを付けること自体が野暮というものである。
突然売れっ子になった作家の年度末の狂騒を描いた「超税金対策殺人事件」、この作品は「世にも奇妙な物語」で西村雅彦主演で実写化された
「名探偵ガリレオ」を理科系読者からくさされた腹いせに書いたとしか思えないサイエンス・ハラスメント「超理科系殺人事件」
収録作の中では、最も真面目に犯人当て推理小説にして、最も題名が正鵠を射ている一編「超犯人当て小説殺人事件(問題編・解決編)」
非常に今日的なテーマを題材にした近未来のフーダニット、そして誰も死ななかった「超高齢化社会殺人事件」
自分の書いた連載小説の通りに殺人が起きる、という設定がありきたり。手堅いが目新しさはない「超予告小説殺人事件」
昨今の小説の重厚長大化をテーマにした怪作。文章を引き伸ばす罪と罰を描いて読者も作者も笑殺する「超長編小説殺人事件」
ゼロ時間へまっしぐらな本格推理小説家。この謎に挑む勇者を求む「魔風館殺人事件(超最終回・ラスト五枚)」
本作品集の白眉。ネット書評家必読。あまりにもに痛い、痛すぎる。すべての「書評家になりたい人」「推理作家になりたい人」を滅殺する最終破壊兵器「超読書機械殺人事件」
いやあ、オモロイ!!この勢いで「超図書館殺人事件」「超百円均一殺人事件」「超3冊200円殺人事件」などを書いて頂きたいものである。