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2003年4月20日(日)

◆甘い!甘いぞ!Moriwakiどん、昨年末に挙げた20作は只の代表選手であって、その後ろには何十冊、何百冊という恥かし本が控えているのじゃあ。
いくぜ、自爆テロ!こんな本も読んでないんだってば、
「鷲は舞い下りた」他ジャック・ヒギンズ全部。どっかーーん。
「女王陛下のユリシーズ号」他アリステア・マクリーン全部。どっかーーん。
「ベルリンの葬送」他レン・デイトン全部。どっかーーん。
「ドクター・ノー」他007全部。どっかーーん。
おフランスも弱いぞ!
「シンデレラの罠」他ジャブリゾ全部。どっかーーん。
「わらの女」以外アルレー全部。どっかーーん。
短篇だってこうだ!
「シャーロックホームズのライヴァルたち」殆ど全部。どっかーーーん。
まだまだああ、日本軍も負けるなああ!!
「海鰻荘奇譚」以外香山滋全部。あんぎゃあ〜(ゴジラらしい)
「十三角関係」「妖異金瓶梅」以外山風全部。あんぎゃあ〜
久生十蘭全部、大坪砂男全部、小栗虫太郎全部、大下宇陀児全部、
怪獣総進撃だああ、あんぎゃあ〜、ぎゃああす、きろきろきろきろ。
……書いてていやになってきた。
◆朝寝坊する。のそのそ起き出して、ニンジンとカボチャのミネストローネと卵入りポテトサラダを作る。紅茶を入れ、トーストを焼き、二度寝していた奥さんを起してブランチ。片づけが終わる頃には、正午だった。
◆一本、メールをしたため、3時からWOWOWの「オケピ!」をリアルタイムで視聴。さすがに人気のミュージカルだけあって楽しめるが、3時間半はいかにも長い。奥さんとワイン片手に見ていたら、お互い一瞬ずつ居眠りしてしまった。「世界ふしぎ発見」でしか見た事がなかった瀬戸カトリーヌが、ちゃんと歌って踊って芝居できる人だと云う事を知って二人で驚く。
◆あ、また「アトム」も「サンダーバード」も見忘れた。子供の頃にこれをやっていたら、人生真っ暗になるぐらい落ち込んだに違いない。でも、大人になったので、ちょっとへこむぐらいで済むんだい。えっへん。>どこが大人やねん。


◆「天使の傷痕」西村京太郎(講談社文庫)読了
それいけ「恥かし読書」。いわずとしれた作者の公式処女作にして江戸川乱歩賞受賞作。発掘された乱歩賞落選作「焦げた密室」あたりと比べると、作品の厚みの差に驚く。この世界、天使といえば三好徹だったりするのだが、どっこい、この話は真正面から「天使」に立ち向かい、最後に意表を突く社会性に富んだ解法を我々に示してくれた。ここ20年の水増しトラベルミステリとは志が違うのだ。こんな話。
日東新聞社会部記者・田島は久々の休日を恋人の山崎昌子と過ごすべく、聖蹟桜ヶ丘にピクニックにでかけた。三角山という「サラリーマン向けの山」に登った二人は、途中の雑木林で殺人事件に遭遇する。瀕死の被害者が残した最後の言葉は「テン」。警察の捜査が始まるや、被害者の久松がトップ屋稼業の裏で脅迫に手を染めていた事が明らかになる。そして浮かび上がる「天使」という言葉。エンゼルという名の踊り子、エンゼルという名の店の女、如何なる「天使」が牙を剥いたのか?警察の向うを張って事件を追う田島が北の風土に「天使」の真実を見たとき、ただ深い沈黙のみが彼に応える。
物理トリックに心理トリック、ダイイングメッセージに事件記者。そして、当時の社会問題を踏まえた告発。乱歩賞を狙うのであれば、こう書けと言わんばかりの完成度である。読後感は極めて重苦しいものであるが、前のめりになって進む主人公がかすかではあるがそこに希望の灯をともす。初々しい作品である。
お願いだから「新・天使の傷痕」なんて本は出さないでね、京太郎。
出させないでね、講談社。


2003年4月19日(土)

◆なおも花粉症爆発。朝からクスリを飲んだら、寝ては夢、醒めてはうつつの一日。そういえば図書館にいったような、食料品の買い出しにもいったような。「世界ふしぎ発見」をみたような。阪神も首位をキープしたような、NHKスペシャル「アメリカがおかしい」を見て、中村うさぎのようなアメリカ人にあきれていたような。頼むから、クルーザーをカードで買うなよな。しかしミニマムペイメントとかいうリボルビングなんか可愛く思えてしまう悪魔のシステムが、かの軍事大国の根を腐らせていたとは、剣呑、剣呑。あとは、ぐずる娘を寝かしつけたような。購入本は0冊だったような。

◆「Xと呼ばれる男」Rスタウト(光文社「EQ」所載)読了
ネロ・ウルフ登場の第11長編。原題は「And be a villain」で、ハムレットの第一幕第五場で、父の亡霊からその死の真相を知らされたハムレットが叔父を罵って口走る独り言

O villain, villain, smiling, damned villain!
My tables,--meet it is I set it down,
That one may smile, and smile, and be a villain;

から採られているらしい。多岐川恭的に「微笑する悪魔」あたりの邦題がぴったりくるかもしれない。ネロ・ウルフ・ワールドのモリアーティー教授アーノルド・ゼック(Arnold Zeck)が登場する最初の作品である。当時の「EQ」では、ネロ・ウルフ完全翻訳という遠大な計画を立てており、その第一弾としてこの作品が選ばれた。だが、この作品の訳出を最後に同誌が廃刊され、コンセプトを踏襲した筈の「ジャーロ」が国内作品7割の水増し雑誌となり、スタウト作品から遠ざかっているのは残念としか言い様がない。願わくば、スタウト翻訳の復活を、と祈るのは、ウルフ初心者の私だけではあるまい。
「所得税が払えない」いよいよ金欠に陥ったウルフは、アーチに尻を叩かれ、自ら「名探偵の押売り」を行う。全米で人気のラジオのパーソナリティー、ミス・マデリン・フレーザーの番組の本番中に、ゲストである競馬新聞の編集長オーチャードが毒殺された事件の真相を究明し、番組とスポンサーの面子を立ててみせるというのだ。殺人現場にいたのは、マデリンの亡き夫の妹でマネージャーのデボラ・コッペル、パートナーのビル・メドウズ、脚本家エレノア・ヴァンス、広告主審議会幹事のタリー・ストロング、広告代理店のネイザン・トロープ、もう1人のゲストだった数学者のサヴァリーズ教授、マデリンの熱烈な信奉者でファンクラブの創始者であるナンシーリー・ジョーンズ。番組の途中で、スポンサーの清涼飲料水ハイ・スポットを出演者全員が飲んで褒めるというお定まりの一幕を殺しの幕間劇に書き換えたのは果して誰だったのか?ウルフとアーチは様々な人の手を渡ってハイスポットが被害者の前に置かれた事を探り出すが、実はそこには更に番組の存在そのものを脅かす大秘密が隠されていたのだった。更に、被害者が経営していた競馬新聞に纏わる疑惑の蓋を開けた時、ウルフの許に一本の脅迫電話が舞い込む。それは犯罪王アーノルド・ゼックからの電話だった!多すぎる容疑者と組織的な暴力の影、果してウルフは冷酷非情な悪党の相貌を曝くことができるのか?
マクベインの「八千万の眼」にならえば「八百万の耳」とでもいうべき作品。50年代初頭、メディアの主役はラジオであり、パーソナリティーの一言が時代を動かしていた。スポンサーの「ハイ・スポット」は明らかにコカコーラであり、この「夢の飲み物」に対する美食家ウルフの辛辣な感想を見るだけでも、この作品を立ち読みする価値はあろう。ミステリとしては、よくあるパターンであり、犯人の意外性はあるものの、些かアンフェアとの謗りを免れまい。まあ、ネロ・ウルフものは展開を楽しむべき話であり、その意味では必要十分。更に、ゼック登場編(声だけだけど)としての意味もあり、スタウトの旺盛なサービス精神に拍手を送りたい。


2003年4月18日(金)

◆仕事が修羅場。花粉も爆発。購入本0冊。帰宅してからも鼻水が止まらず堪えきれずにクスリを飲む。当然の如くに爆睡。うへえ、最近1日が短いなあ。


◆「山陰路ツアー殺人事件」中町信(ケイブンシャノベルズ)読了
「え、みなさま、本日は、ナカマチ観光をご利用頂き、え、まことにありがとうございます。当ナカマチ観光では、叙述の殿堂から出発いたしまして、え、一路、推理と不倫の死出の旅へと皆様方をご案内いたします。本日、ガイドを勤めさせて頂きますのは、え、猟奇の鉄人のkashibaと申します。よろしくお願い申し上げます。
さて、万葉の歌人、中町之氏家の歌に
『湯煙に、地震台風、火事オヤジ 天災は殺しの夜にやってくる』
と詠われました通り、当ナカマチ観光がご案内いたします温泉郷では、各種天災、人災を取り揃えまして、え、皆様のお越しをお待ち申し上げております。さて、山陰路の名産品、今の季節なんと申しましても蟹でございます。どうかお腹一杯召し上がって頂きまして、日頃の憂さを晴らして頂きますように。え、晴らすのは、冤罪ですかそうですか。」
一年前、城崎温泉、夜半に起きた大地震は多くの人命を奪った。「作家・香住風彦を囲む会」の一行9名からも4人の死者が出た。だが、その中の一人、編集者・友成の死は胸に刺さったナイフがもたらしたものだった。一年後、氏家周一郎に推理作家への転進を薦めてくれた編集者・那須が交通事故で亡くなった。那須は一年前に友成殺しの容疑を掛けられていた。地震で妻を失った編集者・諸星の仲介で夫の無実を晴らして欲しいという那須の未亡人の依頼を受けた氏家は食い意地のはった妻・早苗とともに香住主催の「追悼旅行」に参加する。翻る証言、落ちてくる天井、縺れる不倫の構図、脅迫と転落、故人たちを忍ぶ追悼旅行は一転、血塗られた復讐行へとその様相を変える。
ああ、こんな長々と紹介するのも悔しい「中町推理パズル」。呪われた温泉旅行には正直なところ食傷気味である。設定のためにする設定、殺しを呼ぶ殺し、もうお腹一杯です。倒産会社の本の収集家が買って、中町信なら全部読むという人が読めばいい作品であろう。


2003年4月17日(木)

◆修羅場は続くよ、どこまでも。購入本0冊。
◆帰宅すると、菅浩江さんから、「寝かせグッズ」が到着していた。ありがとうございますありがとうございます。
日本が世界に誇る科学技術と大英帝国で長く愛されてきた童話との驚異のコラボレーション、愛の日英同盟! その正体とは、熊型胎内心音発生装置、「すやすや、プーさん」!!!おおお、科学の力で、赤ん坊の心を 落ち着かせるという機械らしい。
早速、わきゃわきゃと妖精さんとお話し中の娘に試してみる。
「どっくん、どっくん、どっくん」
「わきゃあ、ばお、きゃはあ」
「どっくん、どっくん、どっくん」
「わきゃきゃあ」
「どっくん、どっくん、どっくん」
「きゃあああ、きゃ、ぐああ」
「どっくん、どっくん、どっくん」
「きゃああ、きゃあ」
試す事15分、自動的に音が停まった瞬間
「ひ、ひ、ぶええええええええーーん」
と泣き出す娘。

ああ、日英同盟破れたり。
◆うちの奥さんが「ブラック・ジャックによろしく」に嵌まってしまったらしい。再読しては泣いていたらしい。特に3,4巻は新米ママさんにはズキンと来るものがあるよなあ。


◆「死の報酬」結城昌治(東京文芸社)読了
ちびだが腕のいいフリーランスの私立探偵・佐久と、小太りで気性はいいが徹底的に探偵稼業に向いていない中年探偵事務所長・久里十八が登場する第二長編にして最後の作品。今回は、久里事務所の紅一点にして唯一の所員、美貌のハイミス・タイピスト加山春江も夜の女に扮して潜入捜査するというチーム総出の事件となる。勿論、警察側には「ひげのある男」郷原部長も登場して、佐久との絡みで場を盛り上げてくれる。
ヤクザからクラブ経営者への鞍替えにまんまと成功した宮沢の口利きで、佐久のもとに持ち込まれた依頼は「女を捜せ」、元映画俳優・多久島優子(28歳)の捜索であった。依頼者は優子の父で多久島海運社長の多久島禎三。息子・信之は身を持ち崩し失踪、今また可愛がってきた愛娘の失踪に落ち込む禎三の姿を見て、佐久は依頼を引き受ける。だが、捜査を始めるや、優子の部屋の浴室から顔を焼かれた妙齢の女の死体が発見され、簡単な人探しは、酸鼻を極める連続殺人事件へと発展していく。続いて、優子が最後に付合っていた俳優崩れ・奥田も自宅で冷たい骸を晒し、そして消える。芸能プロに名を借りたコールガール組織、危険なナイトクラブの経営者とその心優しき用心棒、白い粉に踊らされる人々の悲哀、10年の沈黙を破りカーテンの向うで跳梁する伝説の麻薬王「ひげなしキング」、闇に隠れた傷痕を佐久の敏腕が暴き出す。脆きもの汝の名は女。報酬の名は死。
軽ハードボイルドというふれこみだが、どうして随分と重たい本格ハードボイルドではないか。敵方の用心棒であるボクサー崩れの伴野をめぐるエピソードなんぞ、真面目に泣かせてくれる。犯罪の質も陰湿で、救われようのない話であり、「軽ハードボイルド」への作者の迷いのようなものを感じた。プロットは、ブーメラン型で、遠くに投げた筈の探索がなぜか初めに帰るタイプの話で、こじんまりと破綻している感がある。とりあえず読んでいる間は楽しめる結城昌治の「草は緑ではない」であった。


2003年4月16日(水)

◆仕事が修羅場。購入本0冊。
◆就眠儀式に、昨日購入した「法律事務所SAGA」をぱらぱら読んでいて、今更ながら「SAGA」が「佐賀」であった事に気がつく。
なんでい、そうだったのかい。
てっきり、マルチシナリオ・ロールプレーイング系の話かと思ってしまったさ。

「天空の六法を極めるために、旅に出る若者。
どの町からでもスタートが可能です。

『どりゃああ、宇宙拳法第一条!!』

『ちょこざいな、所有剣・催告二重返し!!』

めえすんは不法占有者を倒した
<テュポーンの手形>を手にいれた

めえすんのレベルがあがった
抗弁の呪文を覚えた」

とかさあ。


◆「ピリオド」打海文三(幻冬舎)読了
読んだ事はないのだが、噂に聞くアンドリュー・ヴァックスの作品というのはこういうテイストなのではないかと感じた。
自らのルールに従って、家族を捨てた男が、都会という修羅場に帰ってくる。彼を引き戻したのは、かつて同じ探偵社に身を置いた友人の姪。数日前、彼を仕事に誘った友人が、何者かの手でよって車もろとも爆死させられたのだった。資本主義と法律の隙間で、会社の腐肉を漁るハイエナ稼業。娼婦に育てられ、娼婦を妻にした闇の紳士が、狂気を迸らせるとき、男はかつての仲間とともに、亡き友がその最後に見た夢の真相に迫る。
只今、旬のミステリ作家といえば、横山秀夫、伊坂幸太郎、そしてこの打海文三ではなかろうか?特にこの打海文三、何冊か読んではいるのだが、まだその実像に迫れずにいる。ハードボイルドな元探偵の登場シーンが、介護老人のおむつの取り替え、というだけで、この作者のしたたかさが窺い知れようというものである。魅力的なキャラクターを惜しげもなく使い捨て、「格好いい男女関係とはこういう事だ」「危険な関係とはこういう事だ」と削り出してみせる。この物語でも、実に印象鮮烈なキャラクターたちが命懸けのブラフを繰り出し、口に出すのも恥かしい「友情」に何かを託す。女たちは、不器用な男たちに呆れ、諦め、そして枯れた愛で彼等を包む。男のセンチメンタリズムを刺激する快作。女性が読むとどう感じるのかを聞いてみたいところである。「だから男って身勝手なのよ」と一蹴されるかも。


2003年4月15日(火)

◆大阪日帰り出張。
◆萬字屋の均一棚で1冊。
d「目黒の狂女」戸板康二(講談社)200円
若干シミ本なのでこの値段だったが、読めりゃいい人にはこれで充分であろう。それにしても、中村雅楽シリーズも纏まって日下本が出るという噂が流れてからかれこれ3年は経つ。まあ、このサイトの掲示板が出来た頃からあったことだけは確かだ。またどこかとかぶるような事は勘弁していただきたいものである。いっそ、国書から一巻本でどうよ。9800円ぐらいで。
大阪古書倶楽部で1冊。
「法律事務所SAGA」佐賀潜(平和新書)500円
佐賀潜に古書価格を出すのは、私ぐらいのものではなかろうかと思われる今日この頃。小説については、殆ど所持しているような気がしてきた。平和新書も蝸牛の歩みだけれど、何冊か集まってきた。「人形はなぜ殺される」のカバーがほしいんだよなあ。
◆復路の新幹線では、「ブラックジャックによろしく」の2巻から4巻までを買いこんで一気読み。どばどばどどどと感涙に咽ぶ。泣けるねえ、この話。プロットは単純で、手塚治虫ならば、20ページぐらいで語りきる話を200ページかけてじっくり書き込んである。特に3,4巻の新生児ERの話は、ここ1年の自分自身の日々の暮らしともオーバーラップして、嵌る嵌る。300万部突破もむべなるかな。
◆帰宅して「顔」は録画して、「CSI:2」と「プロジェクトX」をザッピングしながら視聴。「CSI:2」は米国での人気の程が窺い知れる小気味良い演出が嬉しいが、話は肩透かし系。シリーズが長くなるとこういうのもありか?。プロジェクトXはTRONの話。私の勤め先は、エース技術者を冷遇するヒデえ会社のようだ。


◆「人形はライブハウスで推理する」我孫子武丸(講談社ノベルズ)読了
新本格第一世代といえば、京大ミス研の綾辻・法月・我孫子、と歌野の4人が頭に浮かぶ。勿論、芦辺拓や二階堂黎人、有栖川有栖なんてところも第1世代なのであろうが、講談社ノベルズという器があってこそのブランドであったように感じるのである。で、第一世代4人衆の中で一番生彩を欠いていたのがこの我孫子武丸だった。はっきり言って赤川次郎の亜流ぐらいにしか思えなかったのだ。「殺戮にいたる病」で頂点を極め、ゲームで稼ぐだけ稼いだ後は、SFと呼ぶのもおこがましい出来損ないの話ばかりが新作の顔をして上梓されていた。だが、漫画とのコラボレーションがこの作家に再び命を吹き込んだ。そして改めて、この人は軽本格の脚本屋としては優秀である事を証明してみせるのだった。奥手同士の探偵カップル(トリオ?)に子宮で考える関西弁の先輩保母さんの掛け合いを見ているだけで幸せになれるのである。それにしても、この本が出た2年前には旬の話題の人だった「いっこく堂」(付録の対談に登場)が、既に過去の人のように感じてしまうのだから、芸能の世界は、ミステリ界の10倍も大変だなあと感じる次第。以下ミニコメ。
「人形はライブハウスで推理する」表題作。ライブハウスのトイレという二重密室から消失した犯人を追う鞠夫。トリックは姑息で、赤鰊もみえみえ。調子の悪いときのホックのような話だが、このあたりがこの作者の及第点。探偵カップルの帰還に免じて許す。
「ママは空に消える」消えたママが残した言葉から、見事なワンツーフィニッシュを決める鞠夫。このアイデアは、某アイドル歌手兼声優の名前から思いついたという事に5000ガバス掛けてもいいごま。
「ゲーム好きの死体」かまいたち作者らしい、ゲームネタのフーダニット。完璧。これは我孫子武丸だけが書くことを許された話ではなかろか?この作品集のベストと言い切ってしまおう。
「人形は楽屋で推理する」公民館の人形劇公演から消えた園児の行方を追う鞠夫。見えない人テーマの消失トリック。可もなし不可もなし。
「腹話術師志願」書下ろし作品。コンビニ強盗に仕組まれた殺しの罠。サブ・キャラクターといい、ツイストの効いたトリックといい、実にバランスのとれた快作。ただ惜しむらくは「探偵坊主21休さん」の第二話(実質第1エピソード)とプロットがかぶり過ぎており、手放しで評価できない。21休さんにアイデア提供したのかな?それともただの偶然?まさかパクリじゃないよね?
「夏の記憶」一発ネタの安楽椅子「日常の謎」探偵。0.1秒でネタが見えてしまった。詰まらん。


2003年4月14日(月)

◆掲示板の皆さん、そして政宗さん、土田さん、夫々の日記での拙サイトへの言及ありがとうございました。なんとか生きてます。今回の事ではっきりしたのは、本を読む時間だけはなんとか確保できるという事ですね。ただ原書を読む気力が失せているのが哀しいです。
◆いわいさんのページから「ふるほん文庫やさん」のレアもののページを覗きに言ってのけぞる。ソノラマ海外1冊に3万円つけてやんの。うへえ。創元でも「死んだギャレ氏」クラスに3万円。はああ、なんだこりゃ?戦前本の「ロアール館」でもその値段はつけんぞ。フランス初版ってわけじゃないんだしさあ。結構、意気に感じていたお店だけに、この値付けはむごい。…「売りたくない」ってことなんでしょうか?いずれにしても心情的には「さらば、ふるほん文庫やさん」である。
◆一駅途中下車して定点観測。安物買い。
「人形はライブハウスで推理する」我孫子武丸(講談社ノベルズ:帯)150円


◆「仮面と衣装」多岐川恭(東都書房)読了
昭和36年作の作者の第6長編。文庫落ちしておらず、長編としては入手困難作の一つ。講談社ノベルズがあるらしいが見た事もないなあ。で、一読、非常に驚かされた。一言で申し上げれば、これは「ハメット・スタイルのハードボイルド」なのである。ハメット・スタイルというのは、正統派も正統派、簡潔な文体で主人公の言動と行動のみを記し、物語を紡ぎ挙げていく手法である。チャンドラーの如き饒舌もロスマクの如き詮索もないままに、ただ淡々と卑しい街の出来事が綴られるのだ。
港湾の小都市・南浦市、サツまわりの新聞記者・番匠谷人志は、ほんの気紛れで、パチンコ店の住み込み女・戸田松子が胎児を遺棄した事件を追う。都会に出てきた田舎娘が辿るお定まりの転落コース。地元市議のドル箱を務めるパチンコ店経営者大里、その右腕の若者・小湊は、堕された子の父親に覚えはないという。だが、ほんの埋め草に使った記事は、葦原組とその若き幹部・山野を暴走させる。引き続き起きた、松子の縊死。果して自殺か?他殺か?卑しい街の卑小な欲望が縺れ、悶え、悲鳴を上げる。脅迫の連鎖、散らされた歌姫、誘う柔肌、颯爽たる老獪、誰もが仮面を被り、誰もが嘘をつく。
結末近くまで、絵に描いたような事件記者ものの通俗作品だと思っていた。ところがどっこい、そいつは、編集者をだまくらかす仮面に過ぎず、この作品の本質は、実に折り目正しいハードボイルドでありながら、鮮やかな逆転の発想に満ちたフーダニットだったのである。私は現代版捕物帖とでも呼ぶべき島田一男の事件記者のノリや通俗性も愛しく思うが、この作品は、そういった話とは志を異にしており、日本語による正統派ハードボイルドの実験作として高く評価されなければならないと感じた。うっかり油断して読んでいるとまんまと背負い投げを食らう事請け合い。本格読みの心の隙に鋭く付け入る一筋縄ではいかない読み物なのだ。復刊してもいい頃。


2003年4月13日(日)

◆日記での奥さんの憔悴ぶりを見かねた菅浩江さんが、なにやら「寝かせグッズ」をお送り頂いた模様。ああ、すみません、気を使って頂いて。何が届くか今からドキドキであります。
◆夫婦で交互に子守りを担当して統一地方選の投票を済ませる。ちなみに、私の入れた市会議員候補も県議会議員候補も最低得票数で落選。むはははは、落選を呼ぶ男Kashiba、私に入れてほしくない人は買収に応じます。(これは、選挙違反になるのかにゃ?)
◆うちの娘は、まもなく生まれて3ヶ月なのだが、まだ新生児用のおむつカバーを使っていたものだから、いかにもきつきつ。で、「パンツが小さい苦痛はお父ちゃんがよ〜く判るんだ」と新習志野の「あかちゃん本舗」にお使いに出かける。当然のように、広大な店内は、赤ちゃんだらけ。売っているのも、赤ちゃん&キッズ用グッズと若干のマタニティー用品のみ。BGMはみんなのうたの「あーいあい、あーいあい、お猿さあんだよー」を繰り返し流しており、徐々に洗脳されていく。「あーいあい、あーいあい」と知らぬ間に口ずさんでいる自分を発見して思わず「おさるさんだよ」と感じるのだ。
衣類をはじめありとあらゆるベビー用グッズで一番シェアを取っているのは、こどもがはじめてであうキャラクター「うさこちゃん」である。絵本だと背景のブルーナ・カラーと相俟って鮮烈なインパクトを与えるうさこちゃんだが、子供が初めて使う道具につく関係でパステル調のコーディネーションが施され更に愛しさが募る。うさこちゃんがついてるだけで値段が2倍、3倍異なり、さながら、ヴィトンやらエルメス並みの貫禄なのであった。えらいぞ、うさこちゃん。

ほら、うさこちゃんだよ。
わあい、わあい、あたしはぶらんどがだいすきよ。
うさこちゃんはおおよろこび。

これでこのにっきのねうちもあがるね(・x・)
それはどうかな?とふわふわさん(・*・)


◆「警官ギャング」DEウェストレイク(早川ノベルズ)読了
ドートマンダーの第2作「強盗プロフェッショナル」、スターク名義の「悪党パーカー/略奪軍団」、コウ名義の「刑事くずれ/最後の依頼人」などと同じ年(1972年)に上梓されたスタンドアローン作品。文庫落ちしておらず、ウエストレイクの翻訳作品の中では最入手困難作品の一つである。訳者後書きによれば、作者は70年にはシリアス路線への転換を宣言していたらしく、この作品も題名や、映画化の際のスチール写真から受けるお気楽なイメージで読み始めると、やや面食らうかもしれない。尤も、その後もざくさくとユーモアを基調としたクライム・ノヴェルを出し続けてくれているのは周知の通りで、シリアス宣言が、職人作家の「はしか」で終わった事に安堵の念を抱くのは私だけではあるまい。映画化は73年。アラム・アヴァキアンが監督を務め、クリフ・ゴーマン、ジョー・ボローニャが主演した(らしい)。
ジョージ・ルーミス32歳、トム・ガリティー34歳、二人の制服のパトロール警官は、家族ぐるみで付合う平凡な中年男。愛する妻と子供たちに囲まれ、庭付き一戸建てのローンに追われ、日々犯罪者を命懸けで追っかける、まずはごく普通の公務員であった。最初は冗談だった。だが、ルーミスが発作的に侵した強盗が余りもあっけなく成功してしまった事が、二人に人生を掛けた大勝負へと誘う。誰から何を盗むべきか?正義の観念と葛藤しながら、ゆっくり醸成されていく2百万ドルの強奪計画。そして、同僚警官の大怪我が彼等の心の引き金を引く。宇宙の勇士たちの凱旋パレードの最中、緻密にして大胆な計画はウォール街を舞台に始まる。大きくなったら何になる、いかけ屋、仕立て屋、兵隊、船員、金持ち、貧乏警官、大泥棒。
ファンタジックな犯罪計画とは対照的に、主人公二人がじっくりと書き込まれており、パトロール警官の日常や家族との交感ぶりにしんみりとさせられる。犯行の準備に昔の制服を着ているところを偶然妻にみつかるくだりなんぞは実に泣かせるものがある。一方、200万ドル強奪計画の方は、さすが犯罪のデパート、ウエストレイクの面目躍如たるものがあり、「スティング」を思わせる丁々発止のやり取りとツイストの応酬にニンマリする事請け合い。そして、絶体絶命のクライマックスを如何に二人が切り抜けるかに至っては、大爆笑。おいおい、これありかよ、と思わず唸ってしまう。なるほど、これは定価以上だしても惜しくない作品、っていうか、早川書房は何故文庫化しないんだ?!


2003年4月12日(土)

◆半日がかりで、12日間の日記をアップ。前日のROMの飲み会で、つい「明日はアップしますから」と口走ってしまったため、けじめをつける。既に、旧聞もいいところな話が並んでいるが、たまたまイラク戦争と阪神ネタがないので間の抜けた感じは免れているが、こんな賞味期限切れの日記で、愉しんでもらえるのだろうか?
◆天気が今ひとつだったので、買い物はおコメのみ。購入本0冊。「世界ふしぎ発見」でエジプト特集を視聴。ドハティーのエジプト神シリーズにも登場するハトシェプスト女王の治世は外国との交易により、長い平和が維持されたとか。第一作「太陽神の仮面」では、戦乱と戦乱の間に「殺人」が挟まるというプロットだったが、やはり殺人が事件として成立するためには、平和な時代こそがお似合いという事か?それにしては、ヒュー・コーベットもアセルスタンもフランスとの戦争が延々と続いているんだけどね。


◆「魚たちと眠れ」結城昌治(東京文芸社)読了
1972年作品。リアルタイムで買っていた作品なので、最近作というイメージがあったが、長い作家キャリアの中では初期に近い中期作という事になるらしい。昭和は遠くなりにけり。ユーモア本格からスタートして、ハードボイルドや刑事小説、スパイ小説、そして直木賞受賞作「軍旗はためく下に」といったシリアスな戦争文学をものにした作者が、クローズド・サークルの密室殺人というコテコテの本格推理小説に回帰した作品。化粧品メーカーが企画した洋上女子大学という賑々しい舞台で、78年には初期の頃の土曜ワイド劇場でも映像化されている(らしい)。なんと主演は桜田淳子だ!!(そうな)
ファニー化粧品の創業15周年記念企画「洋上大学」は、八泊九日でハワイに向うセントルイス号船上にて開催される。2500倍の狭き門を突破した幸運な独身女性100名を乗せた旅は、週刊誌記者・矢野の心を刺激した。だが、その航海は順風満帆とは程遠いものであった。美貌の女流ファッション・デザイナー、マスコミ受けする心理学教授、初老の推理作家、美容学校の女校長、売れっ子男優といった講師陣が不協和音を奏でる中、初日には、生徒の一人・折戸玲子の財布が盗まれ、二日目のカクテルパーティーの夜には、生徒の中でもピカイチの美貌を誇る水島陽子が失踪してしまう。矢野と記者仲間の黒木はプロムナード・デッキで血痕を発見するが、それが陽子のものとは判別できなかった。そして、自殺説、誘拐監禁説、事故説が錯綜する中、陽子の捜索に明け暮れた三日目の夜に、惨劇は起きた。なんと推理作家・砂川のキャビン内の浴室からデザイナー及川弥生の全裸死体が発見されたのだった!!しかも現場は内側からロックされた密室状態。女の園を、猜疑と不安が覆い、尚も跳梁する泥棒に集団ヒステリーは加速される。果して、失踪と殺人と盗難の真相や如何に?真犯人よ、魚たちと眠れ。
さながらクリスティーの如き舞台設定。カーの如き密室殺人。そして意外にもクイーンの如きロジック。これは72年の本格日照りの時代、干天の慈雨とも云える本格推理小説である。ただ、コストぎりぎりの洋上大学の裏舞台や、誰が探偵を務めるのか良く分からない展開といったなまじなリアリズムが、折角の贅沢感を殺いでしまっているのは残念。また、真犯人の動機に至っては、唖然愕然である。鮎川哲也か仁木悦子か西村京太郎か都筑道夫ぐらいしか期待すべき本格推理の書き手がいなかった時代に、あの直木賞作家が、直球ど真ん中の本格推理を書いてくれた事に限りない敬意と感謝の念を表しつつも、もっとゴージャスな絵空事に徹して欲しかったというのは贅沢な愚痴であろうか。


2003年4月11日(金)

◆<見捨てられ系更新されてませんInc.>「猟奇の鉄人」主宰者のkashibaです。
安田ママさん日記から久々に、それも連日リンクしてもらったので12日ぶりに浮上してみました。
一応一日1冊の読書と日々の日記は継続してますけど、感想が追いつかず、加えてHTML化してアップする時間がかせげず、沈黙の艦隊よろしく深く静かにずぶずぶと潜航してました。既にミステリ電網では、時代は「みすらぼ」だったり、「永世」だったりするわけで、一方では濃い味系でも様々な研究専門サイトが活況を呈しており、うちみたいな中途半端なサイトは既にその指名を終えているような気が致します。

「鉄人さん、鉄人さん、三番テーブルへ、」
「あら、社長さん、いらっしゃーい、お久しぶりね、嬉しいわ」

って指名じゃないだろ!!!

えー、使命を終えているような気が致します。
正直な話、もう止めてしまおうかと思ったりもするのですが、2年前、結婚を機に更新頻度下げ宣言をした際「スパッと閉鎖して伝説になるより、喘ぎながらも生き残れ」と小林文庫オーナーからかけて頂いた言葉を胸に、岩田鉄五郎しております。まあ、またお声が掛かれば時々浮上してみますので、忘れた頃に覗きに来てみてください。


◆今年一番の花粉症爆発。頭の中が痒いんだ。脳味噌は半値八掛け2割引状態で「洟をかむ合間を縫って仕事をする」というのが実感。それでも、就業後は「ROM編集会議」こと「原書をサカナに飲み食いする会」に参加するため、神保町の中華料理店へ。場所が場所なので、一店だけ定点観測で富士鷹屋書店を覗く。いつもながら、自分の本棚を眺めるが如きラインナップでココロが和む。応援の意味もこめて1冊だけ買ってみる。
「阿蘇惨劇道路」西東登(サンケイノベルズ)1200円
均一棚で拾うべきレベルの本なのだが、なぜか縁がなかった本。おそらくこれで西東登の長編はコンプリートかな?
店につくと、既に皆さんお揃い。加瀬代表・小林晋せんせーの二巨頭に、須川編集人、神保町勤務の塚本さん、藤原編集長、EQFCのナンバー2ことMoriwakiさん、そして、ROM次々々号のゲスト編集長に名乗りを上げた大鴎さん、あんど kashibaの計8名が参加。まずは恒例の本のやり取りがあって、名探偵チビーやらノーマン・ベロウが帰ってきたほか、Moriwakiさんに代理購入をお願いしていた本をゲット。ありがとうございます。
「乱歩の世界」(江戸川乱歩展実行委員会)1700円
豊島区が中心になって西武ギャラリーで開催されていた江戸川乱歩展の企画本。人気著名作家の乱歩エッセイに資料価値の高い写真、竹本健治の書下ろし短篇まで入った冊子。カラー写真もふんだんに使われており、まず「もとはとった」という風情。まだ、ブクロのリブロでは何冊か残っている由である。
あと、ROM最新号(117号)「大陸ミステリ特集2」を手渡しで頂く。
既に誌友には2週間前から配送済みで、私が最後の最後である。ROM史上最大の116頁。うちの掲示板が御縁で、フランス在住の坂本浩也さんがドカンと原稿を寄せて頂いた結果、久々に百頁越え。右肩下がりの景気どこ吹く風で、ROMの勢いは留まるところを知らない。それにしても、こんな特集を組めるのは同人誌・商業誌を問わずROMぐらいであろう。渋すぎ!編集実務担当の須川さんの弁によれば、「どれもこれもオモシロそうなんだけど、英語の本とは違って将来も絶対読めそうもないと思うと、だんだん虚しくなってくる」らしい。なるほどね。じっくり読ませて頂きます。読者欄で、私の編集した前号の評判もそこそこ良さげであり、まずはホッと胸をなで下ろす。
乾杯の後、軽くビールでのどを潤しながら、118号、119号、120号と3冊先までの編集会議。次号が真田啓介氏編集による「ユーモアミステリ特集」、なんとウッドハウスの未訳中編が掲載予定、わお。119号は須川さんの趣味でオールティン・フリーマン+α特集。おそらく21世紀最初で最後のフリーマン特集ではなかろうか?なお、フリーマンだけでは地味なので、+αを設ける予定らしい。で、その候補が「ジョン・バッカン」とか。更に地味。120号は、大鴎さん編集による「アメリカン・マイナー特集」。Amelia Reynolds Longを中心に、「森さんの事典に載っていない作家ばかりで組む」という意気込みが凄い。119号。120号では青縁眼鏡さんが既にオルグ済みである由。加瀬代表には「いずれ女性だけの手で1冊作って欲しい」という大望がある模様。へ?そんなにいらっしゃるんですか?と問うと「10名はいる」との事。ああ、びっくりしたああ。ここまで、手の内を曝け出しても、絶対他からパクレないところがROMである。パクれるものならパクってみなさいいいっ!!他にROMコンベンション(ゲスト候補に某人気推理作家の名が!!)の構想、120号の索引の扱い、ROM叢書など、夢のような話題で盛り上がる。

その他の話題を、思い出すままに記せば、
「フリーマンは、昔の推理小説と黄金期の推理小説を繋ぐ人ではなかろうか?」
「『天婦羅一家』はどうなりました?」
「『溺死人』つまんねえ」
「EQFCの女性会員というのは、エラリー登場作を繰り返し繰り返し読む」
「3回で少ないとかおっしゃる」
「でもレーン4部作は1回も読んでなかったりして」
「おお、昭和38年の創元推理コーナーに加瀬少年の投書が!!」
「うわあ、『フレンチ警視最初の事件』が来月の新刊だってさあ」
「創元推理コーナーの合本はどうなった」
「創元の企画って予告倒れがお約束だよね」
「『探偵小説全集』って何冊あったっけ?バークリーに、Pマクに」
「あの頃出たクロフツが全部その扱いだったから結構ありますよ。『スターベルの悲劇』もそうだもん。先日、帯付きを手に入れて漸く気がついた。」
「番町書房とかぶったんだよな〜」
「最近のバリンジャーとか鮎哲とか」
「あれは著作権者が調整しなきゃ」
「でも、クロフツは恵まれてるよねえ」
「ストラウスが全部復刊するまでは、英国でも読めなかったからねえ」
「クロフツ読みたきゃ、日本語習えって」
「編集長、隠し玉は?」
「スタージョンは快調ですけど。あと、カーかな。」
「え?」
「『妖術師の島』の方」
「おお、嘘カー」
「参考に一番売れたとかいう<人生で成功する法>みたいな本買いました」
「ナポレオン・ヒルみたいな?」
「ハーバート・ブリーンみたいな?」
「煙草を吸わないのに『あなたはタバコがやめられる』を買ってしまった。」
「まず、煙草を吸うところから始めましょう、ってか?」
「日影全集、買ってます?」
「悩んでます」
「引き合う値段だとは思いますけどねえ」
「目玉の品切れ長編が全然詰まらん」
「幻想の方の人が買ってくれるでしょ」
「そうそう。あの人たちは相場感覚が違う」
「2万円当り前」
「僕は1万円までだなあ」
「洋書は別ね」
「そうそう」
「250ドル、OKOKって感じ」
「まあ戦前本だしさあ。それでも日本の戦前本より遥かに安い」
「新刊だと三千円までかなあ」
「もう一声いきませんか?」
「うーむ」
「ドハティーはなぜでないのかなあ?」
「グエンダリン・バトラーはなぜでないのかなあ?」
「光文社文庫で、でないかなあ」
「カドフェルの復刊で消耗しちゃうだろうからなあ」
「あれって買うべき人は買っちゃってるからなあ」
「ちょっと間を空けて、飢餓感煽らなきゃねえ」
「カドフェルといえば色刷りのシュルーズベリの地図のオマケが珍しいとか」
「ああ、テレビ化の時の奴?探せばある筈」
「もってる」
「もってる」
「ふえーん」
「Aunt Aurora の1号って持ってないんですよね」
「わたしも」
「わたしも」
「うーん、あれは無許諾翻訳があるし、表紙もどこかにいっちゃたしなあ」
「ヒューストンのハズレのサンアントニオのミステリ専門店にいってきました」
「おお!」
「ブッシュとか結構並んでました!」
「おおお!」
「買いませんでしたけど」
「そうだろう、そうだろう」
「実は『完全殺人事件』を読んでません」
「そうだろう、そうだろう」
「あれは題名が上手いよね」
「でも、退屈」
「退屈といえば『ブルクリン家の惨事』」
「あれは確かに寝る」
「『百万長者の死』もな」
「え!あれは面白いでしょ!!」
「実は読んでない」
「わしも」
「わしも」
「読んでないといえば『月長石』ですが」
「あれは分厚い分、読んでない理由があるというか」
「最近、日記アップしませんよね」
「『もういいよ』ともいえないし」
「『がんばれ』ともいえないんだなあ」
「本の雑誌の連載、ネタぎれでしょ?」
「地口さえ思いつけば書けるですけど」
「ハンショーでないかなあ」
「あれは原書なら直ぐ手に入りますよ」
「ネロ・ウルフってどこが不動やねん?」
「読んでない奴が云う事ですな」
いやあ、あっと云う間の2時間半でした。楽しかったああ。んじゃ、次の編集会議は9月頃ですか?

◆帰宅すると、あれやこれや届いている。重なる時は重なるものですのう。
まずは講談社から例の企画本が到着。
「密室本」講談社ノベルズ編集部(講談社ノベルズ)もれなく頂き!
へえーー、カバーが掛かっている訳じゃないんだ。知らなんだあ。まあ、無料進呈の本だもんなあ。とりあえず、話のネタにはなる(のかなあ?)
本の雑誌社からは5月号を頂く。毎度ありがとうござります。今回の特集は「名セリフ大博覧会」。本格推理で名セリフといえば、うーん、帽子収集狂の「未解決」とか。ハードボイルドだと、厳密にはセリフじゃないけど「長いお別れ」のラスト。「警察官に、云々」が好き。森英俊氏のカルトクイズも「さすが」である。特に東北の古本屋で拾った本の正体が凄い。
その森さんからは、Murder by the Mailのカタログも到着していた。うへえ、どうしても欲しい本があるけど、今月はもう洋書を大量に買っちゃったからなあ。金欠の身の上には辛いなあ。少し悩もうっと。


◆「灰色の川」飛鳥高(雄山閣出版)読了
彩古さんから祝いに頂戴した稀覯本。たまには、珍しい作品でも読んで存在感を演出しようと、枕元から取り出して「今日の一冊」に。初出の単行本では「甦る疑惑」の題名だったが、雄山閣のY.Z.Mystery叢書に入った際に、この題名に改められた。一応、扉の題名には「灰色の川」とならんで「よみがえる疑惑」と副題がついている。雄山閣のY.Z.Mysteryといえば、鮎哲完集を夢見る人が多大な苦労をさせられる叢書だが、この本も見かけませんなあ。カタログなどでは既に5桁本だが、さていかがなものか。こんな話。
建設業を営む堀井は、仕事にも私生活にも充実した日々を送っていた。代議士の辺見に食い込み公共事業をモノにしつつ、妾に銀座のホステスだった好子を囲い、42歳の男盛りを過ごしていた。だが、堀井の運転手・原太吉は、好子と相思相愛に関係に陥り、堀井との対決を迫られる。穏便を望む好子の祈りも虚しく、罵倒に反撃し堀井を絞殺する太吉。だが、自首しようとする太吉を停めたのは、好子だった。貧しい共犯者たちの画策が始まった時、死体は消え、目撃者たちの記憶は歪む。偶然というには、余りにも出来すぎた幸運。そして辺見の家で用心棒役の青年・舟山が堀井の死体を発見した時、灰色の川に葬られた過去は甦る。陰謀者に死を。復讐の探索は、嵐の夜に果てる。
倒叙で幕を開けた殺人物語はウールリッチを思わせる意外な展開を見せ、現在の事件と過去の事件が交錯する中、読者を語りの迷宮に導く。単純なサスペンスで終わらせないための作者の企みは、意欲的なものであり、太吉と舟山という二人の青年の行動を短いカットで繋ぎ、騙し絵に陰影をつける。全くフェアではなく、登場人物たちの視点もふらつき、やや迷走気味のクライマックスに雪崩れ込む印象はあるが、その少し壊れたところも味であろうか。ちょっとビックリさせられた。まあ、5桁出す本ではないと思うけど、一読の値打ちはある。