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2003年4月10日(木)

◆さあ、日記でも書くか、と5時起きすると、またしても我が娘が一晩寝なかった模様。奥さんはふらふら。元気一杯の娘を預り、1時間ばかり遊んで寝かしつけに成功。引き続き、朝食の支度にとりかかる。納豆と豆腐とコーンビーフとコンビニに買いに行き、味噌汁とジャーマンポテトに挑戦。ジャーマンポテトは、根気強く鍋を振ったので、外はカラっと、中はほっくりと理想的な仕上がり。
ご飯がなんぼでも食べられます。ぱくぱく。
日記はちっとも書けません。とほほほ。
◆がああん。日記をアップしないでいると「おやじに捧げる葬送曲」の感想に書いた講談社ノベルズの「乱歩賞作家シリーズ」ネタが政宗九さんの日記(4月9日)とモロかぶってしまった。マジかよ。今更こんなもの話題にする人がいるのかよ。くうう、なんかお間抜けな文章になってしまった。「クリスティーに『そして誰もいなくなった』を出されてしまったエラリー・クイーンのようなものである」って、誰がエラリー・クイーンやねん。
◆夜は大宴会。したたか飲む。記憶がところどころ飛ぶ。飲み放題は怖いなあ。


◆「女が多すぎる」Rスタウト(光文社EQ所載)読了
ネロ・ウルフの第10長編。EQに3分載されてそれきりの作品。そもそも隔月刊行の雑誌に3分載となると、半年がかりになる勘定。もとは2分載のつもりだったのだろうが、少し長すぎたのか?待っている方は辛かったでしょうな。まあ、高橋克彦の「フェイク」に比べれば、なんでも許せますか。
もう一箇所、ビブリオに噛付いておくと、前編のルーブリックに「ウルフものには”Too Many”と題する作品が三つあって、長編『料理長が多すぎる』、短篇『探偵が多すぎる』と合わせてこれでトリオが出揃った」とあるのは長編「Too Many Clients」を忘れたチョンボな記述。「カルテットのうち3つまでが訳出された事となる」と言って頂きたいものである。
事件は二ヶ月前の交通事故死に溯る。ネイル・カー社の文書校閲係で、女性社員からモテモテの色男ウィルモット・ムーアが何者かに轢き逃げにあったのだ。だが、既に警察でも数ある未解決の轢き逃げ事故として処理したその事件が謀殺であるという噂が社内に流れる。噂の根拠はとある社内文書。それを記したのは創業者の息子で冷遇されている在庫管理部長カー・ネイラー。創業者の娘婿で現社長のジャスパー・パインは、ウルフに事件の沈静化を依頼する。アーチはトルーエットなる仮名で人事職員に扮し、噂の真偽を探るべく、ムーアの婚約者へスターを手始めにムーアの人となりに迫る。だが、迫られるのはアーチの方だった。コケティッシュな人妻ローザ、アーチの調査ファイルを密かに覗くスペルの苦手な美女グウィン。そして大金と貫禄で誘惑するパインの妻にしてカーの妹シシリー。更に、ローザの崇拝者、ローザの別居中の夫までが、アーチに暴力で迫ってくる。逢うたびに証言を覆すカー・ネイラーが、自らの策に溺れた時、もう一つの死が訪れ、女が多すぎる事件から一人の男が退場する。果して、アーチはデートの合間に真相に辿り着けるのか?
種明かしされると、実に単純な事件なのだが、スタウトの話を膨らませる技術の確かさには感心する。良く考えてみるとミステリとしては破綻してるかもしれないのだが、読んでいる間は、次が楽しみでページを繰らされる。今回も4者4様の美女の競演がお見事で、ハリウッド映画の原作に向きそうなゴージャスさが嬉しい。それぞれにお気に入りの女優を当てはめて読む楽しみがある。その美女たちを向こうに廻して渡り合うアーチの色男ぶりも堂に入っており、これまで読んだウルフものの中でも一際アーチの活躍が目立つ作品であろう。また、ウルフの常連メンバーを「ファミリー」と呼ぶのもこのあたりからだろうか?この次の長編「Xと呼ばれた男」で悪のライバルたるゼックが登場するところをみても、大いなるマンネリへの一里塚的作品なのかもしれない。映像化希望。


2003年4月9日(木)

◆仕事で立食パーティー。それで帰れるかと思いきや、再び事務所に戻って仕事。ううう、心が滅ぶ。購入本0冊。
◆久々にネットサーフしてみると、おお、よしださんが、タツミムックの「危険な過去への旅」を買っておられるではないかっ!!(私の4月2日の日記ご参照)原書を持ってたんで、新刊書店に並んでた時代はスルーしていたんだよな。うらやましいぜ。考えてみれば、原書の方は台本起しだろうけど、日本版はどうやって作ったのだろうか?日本版「宇宙大作戦」の台本から起したのだろうか?それともバンタムの原書を翻訳したのであろうか?誰か比べたトレッキーな人はいらっしゃいませんか??


◆「キリオンスレイの生活と推理」都筑道夫(角川文庫)読了(再読)
先日拾った角川文庫版。就眠儀式に一つだけと読み始めたら、面白さの余り通勤の友にして再読してしまった。キリオン・スレイは最後に読んだ長編がいまひとつだったので、余り凄いという印象が残っていなかったが、さすがに油の乗った頃に書かれた初期短編は格が違う。こちらが内容を殆ど覚えていないせいもあって、実に面白く読めた。浴びるように本格推理を読んでいた初読時にはさしたる感銘もうけなかったが、メフィスト賞も許容範囲という寛大な大人あたまで読むと、そのキャラ設定やプロットの妙に唸る。以下ミニコメ。
「なぜ自殺にみせかけられる犯罪を他殺にしたのか」
キリオン・スレイ登場編。猥雑な地下クラブで、頭を吹き飛ばされた女。逃げ出す黒人兵。だが、キリオンは可能を不可能に証明してしまう。果して兇器はどこに消えたのか?トリックは綱渡りで、動機も唐突なのだが、論理と伏線がタフなのには感心させられる。これぞ純粋推理。
「なぜ悪魔のいない日本で黒弥撤を行うのか」
次々と悪魔崇拝の魔宴に誘われる美女たち。だが、キリオンの慧眼は、謎と何故の向うに、滅びの匂いをかぐ。同じ発端で、怪奇小説にもSFにもミステリにも共用できる作品。またしても動機は後付けだが、リッパーものの亜種にも名探偵が通用する事を証明した作品であろう。
「なぜ完璧のアリバイを容疑者は否定したのか」
その女は寿司屋で掟破りの食通ぶりを披露した揚句、忘れてくれと頼みに来る。アリバイ工作は何のため?そして否定は何のため。冒頭の謎が強烈であり、更に、アリバイを巡る二重否定が論理の化け物。それでも、なるほどと思わせてしまうところが作者の力であり、センスである。
「なぜ殺人現場が死体もとろも消失したのか」
強盗殺人を犯してしまった男が、現場に戻った時、そこに死体はなく、一家団欒が待っていた。一体、裸女の死体はどこへ消えたのか?犯人は誰だか分かっているが、動機が分からない、という一点集中型の話。ありきたりの設定ながら、ホワイダットとしての完成度は高い。ちょっと被害者が可哀相すぎるけどね。
「なぜ密室から兇器だけが消えたのか」
窓飽き密室の中で、犯人は自供する。だが、兇器はどこにもなかった。明けっぴろげのユダの窓から、兇器を消した手口とは?そして密室殺人の真相とは?物理トリックには納得性があるものの、謎を拗らせた関係者の行動が、アンフェアなレベルに脚を突っ込んでいる。カー・マニアには、色々な作品の影が見えて楽しいかもしれないが。
「なぜ幽霊は朝めしを食ったのか」
百物語のトリ、という趣向の昔語り。密室状態の土蔵の中で生き絶えた令嬢は、死の二時間後に朝飯を食べていた。科学捜査の入らない状況で話を展開させるためには、こういう技巧を使う、という見本。なんでも作家・都筑道夫の面目躍如たるものがある作品。なるほどね。


2003年4月8日(火)

◆不安定な天気。日が射してきたので、うっかり傘を持たずに外出したところ、出先で大雨にあい、コンビニ傘を買う羽目になる。あああ、5ブックオフがあ。
乗り換えの間に@ワンダーのみタッチ&ゴー。何週間ぶりかだったので、随分棚の様子が変わっていた。「探偵倶楽部」の状態の悪いのが手頃な値段で並んでいたがチェックリストを忘れてきたのでスルー。それでも、古本の匂いをかぐだけで満足してしまうところが、「もと古本者」の「もと古本者」たる由縁である。
◆これまで録画するだけ録画して一度も見たことのなかった「レリック・ハンター」を初めてリアルタイムで視聴。非常に安手な造りにめげる。外国製TV映画が面白いものばかりではない事を改めて思い知らされる。とほほ。


◆「お茶とプール」多岐川恭(創元推理文庫)読了
個人的には、今回の創元推理文庫の多岐川復刊で最も期待した作品。といっても作品の内容云々ではなくて、これまでの古本人生で全く巡り合わなかった作品であるというのがその理由。いやまあ、巡り合ってはいたのであろうが、こちらにその目がなかっただけの話だとは思うのだが、なにせ多岐川恭を精力的に買い始めたのは、ここ数年のことなので、少なくともその間には遭遇しなかった。角川新書は、買うとはなしに拾っている叢書なので、今後元版で遭遇すれば、それはそれで買ってしまうにちがいない。
男の名は輝岡亨。週刊レディ社の経理社員。妹・協子の友人で同僚の星加卯女史の家を訪ねる。おりしも星加家ではホームパーティーの真っ最中。不動産会社を経営する卯女子の父・太一郎、その妻・てい、長男が病弱なため父母の期待を背負った次男・要、そして要の婚約者・永井百々子。だが親の薦める政略結婚に逆らう要は、恋人の小倉まゆりをその場に招いていた。冷たい緊張感が流れ、気まずさが漂うパーティーは、やがてプールサイドに移り、紅茶には異物が仕込まれ、かなづちは水底に誘われる。場を逆撫でする女・百々子が、毒味役たる亨の手を経たココアを飲んだ時、殺意は牙を剥き無辜の命を屠る。一体誰が、鬱陶しい女に裁きを下したのか?水面に映る愛憎、天秤の恋心、三幕の悲劇はまだ終わらない。
可憐な乙女と心を通わせながら、美貌の女社長の愛人もこなす主人公に「こん畜生」と羨望の眼差しを送っているうちに、フーダニットはどうでもよくなってしまう。それでいて、ラストにはちゃっかりと、大どんでん返しを仕掛けてくるのだから、この作者も相当に人が悪い。キャラクターの配置が、「濡れた心」同様のエロゲー・モードなので、似通った印象があるが、動機の構造は野卑。しかし、それでいて格調を失わないのが、多岐川恭の多岐川恭たる所以か。ミステリとしてはちょっとずるしている。


2003年4月7日(月)

◆大阪日帰り出張。今回は飛行機でとんぼ返り。古本屋を覗く事すらできない。購入本0冊。
◆新社会人が通い始め、学校が始まった月曜日という悪条件のため、朝の電車が掟破りの込みよう。なるほど「Xの悲劇」の殺人方法は実現可能かもしれないと思える瞬間。殺意も湧いたりして。羽田・伊丹便も満席。とはいえ、立ち席があるわけでなし、「大空の死」のトリックは大胆に過ぎると思う。いやまあ、短い時間でも爆睡しちゃったので、えらそうな事はいえんが。
◆昨日届いた洋書の代金を払い込み。本の雑誌の校正戻し。はあ、もう6月号の原稿だよ。
◆義弟どの@九州より、最近日記がアップされないので、実家や「姪」の様子が判らんではないか、というお電話。すみませんねえ。これが日記をサボっている件に対する唯一の反応である。


◆「的の男」多岐川恭(創元推理文庫)読了
週刊小説に連載された技巧作。なんと連載時にちらっと読んだ覚えがある。しかし、まだ青臭い本格推理至上主義者だった私には、不純な大人の読み物としか思えなかったようで、一回でパスした模様。ああ、あの頃僕は若かった、と中年太りの太鼓腹を撫ぜる今日この頃。
一代で築かれた身代の土台には、数多の人の涙が眠る。辣腕は無慈悲の報酬、政略結婚当り前、乗っ取りお手の物、一介のセールスから地方の名望家にまで成り上がった実業家・鰐淵丈夫は還暦を迎えて尚もお盛ん。そんな鰐淵の周りに渦巻く真っ当な恨みと逆恨み。そう、彼こそは殺しの「的の男」であった。第一の刺客は、かつて一人娘・不二子の恋人だった医師・菜村。日課である水泳中の事故に見せ掛けようと、投網を手作りする医師。そして、決行の夜が来る。次々と仕掛けられる詭計・奸計、罠また罠。開かれた窓から、地中から、狙われる的の男。颯爽たる倣岸、恐るべき慧眼、生物としてのしぶとさを証明するのは果して誰か?
舞台を英国に置き換えれば、そのままフランシス・アイルズの未発表作として通りそうなプロットである。極悪非道の実業家、その血を引く美しい娘、貧乏医師、漸く日が当たり始めた画家、零落した一族の末裔、お飾りの娘婿、倒叙の連鎖の中に「名探偵」を忍ばせ、逆転と諧謔に満ちた殺しのレパートリーは、やがて一つの大陰謀へと収斂していく。お見事。ストンと落すような、幕切れも鮮やか。そこに幸あれと祈りたくなる。何も、高い金出してバークリーの原書を追う前に読んでおくべき本は日本にもあるぞ、っと。>「お前が云うな」ですかそうですか。


2003年4月6日(日)

◆どこよりも珍しい原書が安いカタログでお買い物。
"Murder on the Nose" George Bagby(Crime Club)2000円
"Opera House Murders" Dan Billany(Faber)1300円
"Crocodile Club" Adam Broome(Geoffrey Bles)2200円
"Wrong Way Down" Elizabeth Daily(Bantam)400円
"Death Conduct a Tour" Ruth Darby(Crime Club)1300円
"The Mystery of the Open Window" Anthony Gilbert(Dodd Mead)1400円
"Lobster Pick Murder" M.V.Heberden(Crime Club)800円
"Riddle of the Florentine Folio" E.S.liddon(Crime Club)800円
"Death in Soundings" Thomas Muir(Hutchinson)1500円
"Alias for Death" Barbara Leonard Reynolds(Coward McCann)2300円
"Case of Little Green Men" Mack Reynolds(Phoenix)2500円
"Sun is a Witness" Aaron Mark Stein(Crime Club)1000円
"October House" Kay Strahan(Gollanz)800円
はいはい、二日続けて血風、血風。
ジョージ・バクビーって後期のペーパーバックしか持ってないんだよなあ。これは放送局での殺人を扱った話らしい。ビラニーは囚人探偵もの、ブルームはアフリカものらしい。ダービイのは題名通りの観光団殺人事件、他にもクライムクラブの厚手本がこのお値段は嬉しい。今回、一番欲しかったのは、マック・レナルズの火星人もの。へえ〜、こんな本があるんですねえ。妖しいですねえ。そのうちにROMで、SF作家のミステリ特集なんてのはどうでしょうかね?いや、別に面白いものではないんでしょうが、、
◆朝食を担当。昼過ぎに近所の公園へ、奥さんと娘と三人連れで初めてのお出かけ。桜は昨日の風雨に耐えてなんとか残っていた。偉いぞ。それにしても家族連れの多い事。うちの姫は、外光が眩しいのか、はたまた風が強かったせいか、目を瞑っているうちに寝入ってしまった。それでも無理矢理、桜をバックにデジカメで母娘のツーショットを何枚か収める。小市民である。実家に向う妻子と別行動で外食。昨日買えなかった紙おむつを買って一旦帰宅。
◆体制を立て直して別宅へ本の搬入。またしても、探している本は見つからないのに、予期せぬダブりがあれこれと発見される。とほほほほほ。まあ、今日判ったダブりは全部百円均一だからいいようなものの>よくねえよ。


◆「ワンダーランド in 大青山」倉阪鬼一郎(集英社)読了
田舎の偏狭と見栄が青山を蝕み、不運は失敗を拗らせる。幽玄の中を逝く旅人が甦り、神に祭り上げられたもののけが一肌脱ぐや、日の本のお化け屋敷で禍は輻輳し、大破滅へと螺旋を描く。地獄の閉塞を救うのはカンダタの伝承か。おきなよ集え、非在の森に。
参った。これは傑作だ。作者の一連の「田舎もの」のオモシロ愚かしい世界の頂点に君臨する作品。大青山の村人のダメさ加減もさることながら、齢数千年の大妖怪の企みがこれまた情けなく、善意と意地が事態の悪化を加速していく過程はもう抱腹絶倒。話変わっての地獄の退屈ぶりもふるっており、一見無縁なエピソードが終盤怒涛のカタストロフに収束していく様は気の利いた交響曲を聞く思い。そしてなにより「2001年宇宙の旅」を思わせる混沌と静謐の中の誕生の物語がイイのだ。七五調の韻律が刻まれる中、どこまでも静かなものたちに囲まれまがら、愛しいつながりが成就され、この不思議物語は完成する。さながら人形の首をもぎるようにしてメインキャラクターたちの命を弄んできた話が、斯くも嫋嫋たるコーダの中でエンディングを迎えようとは、想像だにしなかった。倉阪ワールドに慣れた人も、「活字狂想曲」しか読んでいない人にもオススメできる、親しみやすく、奥の深い作品である。


2003年4月5日(土)

◆朝から読書。娘に遊んでもらってから、日記書き。朝昼兼用御飯を作って食べて、感想書き。昼寝。図書館に本を返して、新しい本を借りてくる。途中でスーパーに寄って食料品の買い出し。うわあ、大荷物だ。雨も降っていたので、嵩張る紙おむつは諦める。帰ってくると、彩古さんからの交換本が到着していた。万歳。
「日本語版アメージングストーリーズ4」(誠文堂新光社)交換!
「日本語版アメージングストーリーズ5」(誠文堂新光社)交換!
「灰色の川」飛鳥高(雄山閣:T蔵書)頂き!
こういう本が枕元に「ふと」置いてある家って凄いでしょうか?
日本語版アメスト2冊は渡辺啓助「江戸の影法師」(帯付き)との1対2トレード。「江戸の影法師」はダブっていたわけではないのだが、連載を押えているので、テキスト的には大変得した気分。日本版アメストは全くといっていいほど縁のない本で、これでやっと3冊目。最初の一冊も彩古さんのオークション本だったんだよなあ。 飛鳥高はうちの子の誕生祝い。T蔵書とはいえ「読めりゃいいや」派のワタクシ的には文句なしの血風である。これで、飛鳥高の長編はテキストが揃った!!「読めりゃいい」派的コンプリート宣言である。彩古さん、本当にありがとうございますありがとうございます。
◆夜はお好み焼きを突つきながら、「世界ふしぎ発見」とWOWOWで放映されていた「ブリジット・ジョーンズの日記」を視聴。奥さんがヒュー・グラントのファンなので無理矢理つきあわされたのだが、これは大ケツ作。 30代独身、出版社宣伝部勤務、友人多数(独身女性とホモ)、彼氏なし歴:聞くな!、酒:飲む、煙草:吸う、体重:企業秘密、胸には自信あり、勝負パンティー:黒と豹、なヒロインの繰り広げる恋愛ドラマ。笑える笑える。全編これ「あるある」の連続。久々にWOWOWで「もとをとった」と思えた。30代独身男女必見!!主人公の母親が永年連れ添った夫を捨てて通販番組のパーソナリティーの元へ走るというサイドストーリーもナイス。なるほど、スマッシュヒットになったのもむべなるかな。
◆ビクトリア・ホルトの「孔雀の誇り」「愛の回り道」を翻訳して自費出版された岸田正昭さんから直メールを頂く。既に版元でも僅少だったり、切れていたりするのだが、まだ、お手元に何冊かお持ちだそうで「お探しであればお譲りしますが」とわざわざご案内頂いた次第。幸い、2冊とも買えているので、その旨をお返事する。いい人やっ!!


◆「ロボットの夜」井上雅彦編(光文社文庫)読了
アトムと鉄人に感動を教わり、ジャイアントロボとエイトマンで哀愁を学び、マジンガーとライディーンに声援を送り、数々の合体ロボットと青春賛歌をともにして、ガンダムで生き延び、エヴァンゲリオンで気持ち悪くなる。我がロボット人生に悔いなあし!!というわけで、鉄腕アトムの誕生日を目前に控え、異形コレクション改装オープン第2弾を読んでみる。
「サージャリ・マシン」医者ロボットの不養生。なんて殺生な。Rブラックジャックによろしく。
「卵男」最凶のシリアルキラー<卵男>の伝説は夜作られる。死刑囚の独房にクラリスは来ない。
「自立する者たち」匠の記憶が固定される時、機械の神は仮想の王国を築く。偏重二人羽織は電気御輿の夢をみるか?
「保が還ってきた」頭を洗った極道の帰還。最悪の災厄は悔恨と陳謝とともに訪れる。捻れば痛い、人間だから。
「夜のロボット」切り取られた名場面たち。カタカタと動く静物たちに愛を。
「小壷ちゃん」父へのプレゼントはレンタルママ。でも奥さまはマゾだったのです。泣笑い。
「夜警」夜警は君だ、主人はおれだ。お、おれだ、おれだってば!!必要の友は発明の母。人間が一番怖い。
「METAL KINGDOM」Be Silent.我はロボット白波の〜
「サバントとボク」誰に仕える?誰が使える?懐かしい未来の淵で、少年は捜し求める。
「背赤後家蜘蛛の夜」フェルマーの大定理が導く滅亡の風景。家電三原則の時代は終わり、ヘンリーは笑わない。傑作。
「LE389の任務」戦争と融和。相容れない筈の敵が理解者となり、生命は感動とともに明日へと拓く。
「KAIGOの夜」再読。レゾンデトール故に世界は創世される。臨床の輪唱を聞け。誰か答えてくれ。
「2999年2月29日」0.1グラムの反逆罪。命のプログラムはどこへ運ばれるのか?ディストピアに花が咲く。
「錠前屋」血塗られた歴史の襞を逝く影の錠前屋。夢想は、ありえたかもしれない未知への鍵を開ける。傑作。
「ケルビーノ」哀しい童話。ケルビーノ、ケルビーノ、あなたはなぜケルビーノなの?嘘吐き姫の鼻が伸びるというオチをギボンヌ。
「木偶人」おおお!押川春浪登場譚!!それだけでもの凄く得をした気分になってしまう。明治のピグマリオに乾杯だ!盃をあけたまへ!
「人造令嬢」この世のものならぬ令嬢の秘密を知った時、吸血鬼は引き継がれる。フランケンシュタインと吸血鬼のコラボがお見事。
「上海人形」浅草でクダを巻いちゃいけないよ、お嬢さん、でないとホラ、魅入られる。完璧な短篇小説。
「蔵の中のあいつ」ホームレスが成り上がり蔵の中。とんでとんでとんでとんで、天衣無縫のスプラッタ。どこがロボットやねん?
「缶詰28号」缶詰から出てきたのは金田正太郎だった!って、この作者に「ガオー!!」だ。面白かったんだけどさ。
「真夜中の庭で」意思の力が世界を変える。変化球の幻想譚。まあ私の趣味ではない。
「虹の彼方に」総合病院の翳に蠢く悪意の姿。歪んだ天才は炎の中に滅ぶ。長編の貫禄。完成度高し。
「カクテル」裏ボッコちゃん。最後を幻想に逃げずに正々堂々と勝負して欲しかった。
「角出しのガブ」ジャパネスク・オートマータの悪夢。典型的な怪談だが、のほほんとしてキャラが吉。


2003年4月4日(金)

◆大阪日帰り出張。大阪駅前第3ビルの古本屋街で安物買い。
「墓地に建つ館」シェリダン・レ・ファニュ(河出書房新社:帯)2000円
なにせ、原価が4900円の本である。これで3000円節約したと考えるべきか、はたまた2000円無駄遣いしたと考えるべきか?
◆車中では花粉爆発につき、読書欲起きず。帰途で「美味しんぼ 83巻」「ブラックジャックによろしく 第1巻」なんぞを買い求め、読み終わってからも爆睡。
それにしても、いまさらながら<ブラックジャックによろしく>っていう題名は凄いなあ。ミステリだと「フィリップ・マーロウより孤独」「コロンボという犬」とかが思い浮かぶけど、漫画のキャラクターが別の漫画の題名に使われるという例というのは、他にあるのだろうか?パロディーでも、パスティーシュでもない「リスペクト」って奴でしょうか?つまりは「医者」の代名詞なんだろうけど。ベン・ケーシーやら、赤ひげは歴史の彼方、ってわけだ。
◆「紅の豚」を初めて見た。宮崎アニメで何故かこれだけ見る気になれなかったのだ。で、なるほど、これはトコトン子供向きではない。加藤登紀子を使いたいために作られたアニメですな。丁寧なんだけど、完全燃焼できませんでした。はい。


◆「おやじに捧げる葬送曲」多岐川恭(創元推理文庫)読了
講談社ノベルズがまだ普通のノベルズだった頃、乱歩賞作家の書下ろしシリーズという非常に意欲的な企画があった。高橋克彦の「倫敦暗殺塔」、井沢元彦の「ダビデの星の暗号」、戸川昌子の「炎の接吻」、更に推理作家協会賞受賞作である岡嶋二人の「チョコレートゲーム」あたりがこのシリーズだったように記憶する。森村誠一が「螺旋状の垂訓」、斎藤栄が「新・殺人の棋譜」あたりだったかな?とにかく、昨今の「密室本」のような奇を衒った企画ではなくて、真っ向から作家の実力を問う企画であり、作家側からも自分を世に出してくれた賞への恩返しの意味もあってノベルズにしては破格にして粒ぞろいの力作が揃った感があった。そこで新旧乱歩賞作家が揃い踏みする中、多岐川恭が世に問うたのがこの作品。当初は「俺の中の泥棒の血」という題名だったようだが、個人的には今の題名の方が好み(と、少しは付け入る隙のない川出解説にない蘊蓄も書いておく)。前ぶりが長くなったが、要は作者の技巧の限りを尽した渾身の快作である。
物語の語り手「おれ」白須健一は、泥棒の家系に生まれた外れ者。ひょんな事で知り合った元刑事にして今は寝たきり状態の「おやじ」を見舞っては、「おれ」が巻き込まれた、悪徳実業家・赤山殺しの顛末を語り聞かせる。詐欺紛いの書画・骨董・宝石商売で悪どく稼いできた赤山も、三度の殺人未遂事件と脅迫電話には怖じ気づき、探偵社勤めの「おれ」を用心棒に雇い入れる。だが、庭のパッティングコースで赤山は何者かに刺し殺されてしまう。強欲な妻、性的嗜虐の餌食となった女中、放埓な娘、穀潰しの弟夫婦、更には、過去に赤山が泣かせてきた被害者たちと容疑者に事欠かない事件が迷走する中、寝たきりの「おやじ」は「おれ」の話を元に、真相へと迫る。交錯する二つの家系、仕組まれた10億円の宝石泥棒、果して赤い薔薇が告げる愛憎の真実とは?
天藤真の「遠きに目ありて」の障害者探偵と、都筑道夫の退職刑事を足して二で割ったような、<寝たきり探偵>という設定が斬新。さらに、ワトソン役の語りだけで、全編を書き上げきる地力は、さすが小説巧者・多岐川恭。些か、偶然にすぎる要素を配したプロットも、この流れで語らえると突っ込みの入れ所に困る。一章毎に時間の経過を挟みながら二転三転するプロットも小気味よく、嫋嫋たる余韻を残す最終頁まで、巻をおくあたわざる快作である。一筋罠ではいかない作品であると同時に背筋の伸びたミステリでもある。新劇調の因果の応酬には、些か鼻白むが、この主人公たちには「頑張れよ」と声を掛けたくなってしまう。誰もが真似できるわけではない名人芸の世界であろう。


2003年4月3日(木)

◆「さあ、更新でもすべえ」と5時起きしたら、またしても娘と奥さんが徹夜状態。2時間ばかり預かって、寝かしつけようとするが、結局失敗。途中おむつ替え2回。タイムアップで、落ちるように寝ていた奥さんを起して授乳モードへ。後ろ髪を引かれるようにして出社する。
◆しっかり残業モード。本屋も閉まっており購入本0冊。実は、今日は往路で「今日の一冊」を読切ってしまったのである。どこかで調達するつもりが、昼休みも監視付きで身動きとれず、復路で読む本がない、という悲惨な状態に陥る。仕方がないので、メモ帳にペリー・メイスン・シリーズの題名を思い出せるだけ書いてみるという暇つぶしに耽る。ホントに読むものがなくて、どうしようもなくなった時に、やる技なのだが、毎度82長編中、10作ぐらいの題名がでてこずに悶々とする。が、今回は割と調子良く、78編まで思い出せた。ちなみに思い出せなかったのは「ためらう女」「とりすました被告」「無軌道な人形」「重婚した夫」。メイスンの邦題に複数回使われている名詞では「女」「娘」「夫」「モデル」などがあるのだが、今回もそこで躓いたか。ううむ。 ついでにあれこれ、メイスンの題名っぽいものを考えてみる。
「引きこもった息子」The Case of the Cocooning Son
「すわり込んだ茶髪」The Case of the Flopping Brown
「高いヒールのウサギ」The Case of the High-heeled Bunny
「おしゃべりな女編集者」The Case of the Talkative Editoress
「青い眼鏡の通訳」The Case of the Blue-spectacled Interpreter
「太った紙魚」The Case of the Fat Bookworm
うっ、それはイヤかも


◆「北京原人の日」鯨統一郎(講談社)読了
数年前にオオコケした日本の正月映画を題材にしたダメダメ日本映画史、ではない。伴野朗の「五十万年の死角」と松本清張の「日本の黒い霧」を足してお笑いで割ったトンデモ第二次世界大戦秘話が、21世紀に甦る。
銀座のど真ん中に突如落ちてきた軍服姿の老人と骨。その現場に居合わせたイケ面の駆け出し写真家・山本達也。骨の正体が戦後50年以上に渡って行方不明とされていた北京原人のものである事が判明するや、米国ロックフォード財団は、残りの骨の発見に2億円の懸賞金を出すと宣言する。偶然にも、持ち物の中に紛れ込んでしまった老人の手帖を唯一の手がかりとして、先輩記者・天堂さゆりとともに、老人の死の謎と北京原人の行方を追う達也。探索の先で出会った老人の戦友に共通する、とてつもない「腕力」は何を物語るのか?そして、日本軍の正史から抹消された九九九部隊の正体とは?灼熱の太陽の下、北京原人の眠る地で、太平洋戦争の全ては覆る。
探偵コンビの底の浅さが、日本の黒い霧を鼻息で吹き飛ばす。幾つもの戦中・戦後の「何故?」を巧みに組み合わせて、ともあれ一編の長編推理に仕立て上げた手際には敬意を表しておく。惜しむらくは、作者の持ち味である軽妙なタッチや、キャラクター造型が、テーマの重厚さを殺してしまっており、ねっからの法螺話にしか見えないのは残念。歴史部分の大胆な新釈ぶりに対して、現代の殺人事件のチープさも興醒め。それでもリーダビリティーの高さは、普段推理小説を読まない人にもオススメでき、これはこれでいいのかもしれない。


2003年4月2日(水)

◆早朝に起きると、娘が一晩中眠らず、奥さんがふらふら。1時間ほど相手をしてなんとか寝かしつけに成功する。
◆花粉症爆発。我慢しきれず鼻水止めを飲んだら、一日中眠気に苛まれる。
◆昨日買ったジャーロ最新刊を眺める。カドフェルの復刊が大きく扱われており、若竹七海らの新解説を再録していたりする。いやあ、とりあえず、ここは光文社の英断に心からの敬意を表しておきます。今更ながらにドクターてつお@酔胡王殿がその魅力に目覚めたように、最初の3、4巻はホントに面白い。後は「大いなるマンネリ」かなとは思うけど、それはそれで面白い。とにかく英国に歴史推理小説というジャンルのカンブリア爆発をもたらしたというだけでも値打ちのあるシリーズ。社会思想社で買いそびれた人はこの機会に是非、再発見してくだされ。まあ、このサイトに来てくれている人は、「既にミステリボックスで揃えてある」人、もしくは「これからミステリボックス版を100均縛りで揃える事に喜びを感じる」人なのかもしれんけど。
◆ついでに考えてみたのが、「10年後にミステリボックスで何が一番古書価格が上がっているか?」。今回の光文社の英断によって、大本命のカドフェル20作が古書価レースからは脱落してしまった訳で、これは予想し甲斐がある。なにせ、本当に傑作だと、創元や早川が復刊するかもしれないからである。イネスの「ある詩人への挽歌」あたりは、創元が真っ先に手をつけそうだ。ブルースの「ジャックを絞首台へ!」も「死の扉」復刊とセットで復刊されると賑々しいぞ。ディバインの4作はハヤカワミステリ文庫あたりでどうよ?勢いで未訳作も紹介してくれると嬉しいぞ。「ウエィンズ氏の切札」はEQに載った関係もあるので光文社が順当かな。などと考えた結果、当「猟奇の鉄人」と致しましては「10年後に一番古書価のつくミステリボックス」レースとして、以下の通り、予想するものであります。

本命「シャーロキアン殺人事件」アントニー・バウチャー

対抗「キャンティとコカコーラ」シャルル・エクスブライヤ

穴「不吉な休暇」ジェニファー・ロウ

大穴「修道士カドフェルの出現」エリス・ピーターズ

大穴は、この短篇集だけ光文社文庫で復刊されなかったりすると高値になるだろうな、と。
いや、勿論、全部復刊されて、こんな予想、外れてくれるのが一番なんだけどね。


◆「『クロック城』殺人事件」北山猛邦(講談社ノベルズ)読了
24回メフィスト賞受賞作。
世界は終末に向っていた。SEEMの銃声。ゲシュタルトの欠片は探偵の周りに在り、窮鳥は真夜中の鍵を時間の城へといざなう。過去・現在・未来、人面樹の森深く眠る時間の城、そしてヒュプノスの一族。壁に浮かぶ無数の顔、顔、顔。弔鐘が響く中、眠れる森の美女を観守る二体の死体。果たして切り離された首の意味とは?そして、この世界の意味とは?ほら、<スキップマン>がやってくる。
ごめん。表紙をみただけでトリックが判ってしまった。<処女作にして袋綴じ>というのは、島田荘司の「占星術殺人事件」の顰に倣うという事なのだろうか?しかしながら、この「えすえふ漫画」的な設定に、「ぶんがく」的に壊れた探偵を持ち込んだ作品で袋綴じされても、的外れの趣向としか思えない。生首の意味は、類別トリック集的には前代未聞かもしれないが、この荒唐無稽さの中でしか機能しない筋なので、説得性に欠ける。本来、推理小説という形式はすべての謎を説明仕切る証明の美学を求める筈だが、この作者の天衣無縫は、館だの首無し死体だの奇矯な一族だのといったコードをテンコ盛りにしながら、事象の地平線で怪しげな論理を転がしてみせる。ひとりよがりはこっそりやって頂きたい。ミステリとしては、いざ知らず、SFとして駄目なのだ。


2003年4月1日(火)

◆年度替り。部門のスローガンは「実行」である。

「実行」が入ったミステリをあげなさい。


「不言実行殺人事件」!! 作者は赤川次郎!!

と、とりあえずいってみる罠。


あ、ホントにあるじゃん。
折角のエイプリル・フールなのに。

◆新刊買い。
「ミステリマガジン 2003年6月号」(ハヤカワ書房)840円
「SFマガジン 2003年6月号」(早川書房)890円
「シャーロ11号」(光文社)1500円
「文藝別冊 江戸川乱歩」(河出書房新社)1143円
「渡辺啓助集」日下三蔵編(ちくま文庫:帯)1300円
「橘外男集」日下三蔵編(ちくま文庫:帯)1300円
ミステリマガジンが英国のコンテンポラリー・ミステリ・シーン特集。シャーロは数ヶ月遅れでオーストラリアミステリを追いかけていた。ポケミスの題名を使って、一つの小説を作るという荒業に挑戦しているのは、原寮(「りょう」の字が出ないんだこれが)。これは楽しい。
SFMはスタトレ特集が眺め応えあり。ノベライズのリストがずらりとならんでおり、圧巻。でも、BANTAMから出ていた「光るめだま」や「危険な過去への旅」のフォトノヴェルはノベライズ扱いしてもらっていないのか、リスト外の模様。ふーん。


◆「SFバカ本 天然パラダイス編」岬兄悟・大原まり子編(メデイァファクトリー)読了
「家庭内重力」(岬兄悟)家族の中で一人だけ歪な重量を感じる私。やがて妻からも子供たちからも疎んじられ、ゴキブリ道へ落ちていく。そして最後に待っていた大逆転とは?お得意のエスカレーションもの。というか、この人の話しはこればっかりだな。オチにもう一捻り欲しいところ。
「地獄八景獣人戯」(田中啓文)水戸黄門地獄旅。その手は桑名の焼く蛤問屋の御隠居でしょうか?この作者にしてはありきたりの展開かと思いきや、最後の地口にのけぞる。ははーっ、恐れ入りました。
「ハッピーエッグ」(島村洋子)美男子愛好家の私が持ち掛けられた驚異のアルバイト。匂いは記憶の襞に分け入り、幼い愛を甦らせる。突き放した自分語りでオンナをうまく著した自然体のトンデモ話。
「ある芸人の記録」(牧野修)大宇宙のお笑い勝負。尾羽打ち枯らした天才漫才師の命を賭けた芸の華。笑いは宇宙を征するか?今、エーテル体に鬼の詩が響く。スケールの大きなバカ話。それでいてなんとも哀切である。ええなあ。
「動かぬ証拠」(松本侑子)夫の不倫の証拠を押えようとする妻の狂騒。調停員の前に示された「証拠」は、確かに動かなかった。SFバカ本のコンセプトからは遠い、夫と妻に捧げる犯罪。こんなのを載せてしまうところがこのSFアンソロジーの懐の深いところというか、いい加減なところというか。
「呪殺者の肖像」(森岡浩之)誰もが夢見る呪殺の極楽。語り手の力が見えてくるに従って、その欲望の正直さに戦慄する。なるほど、こう書けばSFになるのか。
「超限探偵Σ」(小林泰三)ルーフォック・オルメス調のメタ探偵もの。推理小説の素養もあるのだなと思わせるが、それにしても。<本当の難事件>とやらを読んでみたくなるのが人情というものである。怒らないから書いて下さい。