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2003年3月20日(木)

◆昼から仕事でビッグサイトへ。コミケ以外のイベントでは殆ど行かない場所なのだが、コミケとは打って変っての閑散とした雰囲気に引いてしまう。行列などない。客などいない。「いた」と思ったら、居酒屋のチラシ配りだった。こりゃあ、ペイしないだろうなあ〜。
◆奥さんの実家で夕御飯。その前にブックオフを久しぶりにチェック。
「悪意の楽園」CGハート(ミステリアスプレス文庫)100円
「死人主催晩餐会」Jファーマー(ハヤカワミステリ文庫)100円
d「都筑道夫のミステリイ指南」都筑道夫(講談社文庫)100円
「悪霊がいっぱいで眠れない」小野不由美(講談社X文庫)100円
「悪霊はひとりぼっち」小野不由美(講談社X文庫)100円
「悪霊になりたくない!」小野不由美(講談社X文庫)100円
「悪霊と呼ばないで」小野不由美(講談社X文庫)100円
「悪霊だって平気(上)(下)」小野不由美(講談社X文庫)100円
小野不由美の悪霊シリーズを一気買い。さて、何冊ダブリだろうか?


◆「スーパートイズ」Bオールディス(竹書房文庫)読了
「スーパートイズ」少年アンドロイドの連作ドラマ。無垢の魂が迷い、悩み、そして成長しないところがなんとも痛い話である。鉄腕アトムで育った者としては「何を今更」感が強く、キューブリックやスピルバーグが惚れ込んだ理由が判らない。「何を今更」なところがいいのかもしれないが。
「遠地点、ふたたび」壮大なるもう一つの種族の創世記。男女関係の暗喩に満ちた展開を読むにつけ作者の非凡なるイマジネーションに脱帽せざるを得ない。結局何がいいたいのかは、今ひとつ判らないのではあるが、まあ、それはこの作品に限った話ではない。
「III」マクドナルドが世界を食べ尽すというプロパガンダなど、この短篇の皮肉に比べるとなんと直球である事か。これはNASAがどのように進化を遂げて行くかという講演録であり、飽くなき人々の営みとエゴをスルドク切り取った快作。オールディスらしからぬ判り易さが嬉しい。
「古い神話」石器時代に意識だけタイムトラベルした女優がみた、神話の原風景。父殺しの聖域とは、どこにでもあるホームドラマの舞台であった。神話に伏線は無用であろうが、それにしてもあんまりだ。
「頭がおかしくなりそうな事態」自己断頭をショーアップする未来社会、その過程をモンタージュした未来の断章。一体何のためなんだ?という答はないが、メディアの本質は捉えている。
「牛肉」種の絶滅を伝えるありうべき未来の話。狂牛病以前に書かれた話なのであろうが、人類の愚行のインフレを、押えた筆致で描いた掌編。
「休止ボタン」ハヤリ言葉でいえばバイオ・ナノ?何かを言う前には、心の中で十数えろ、という教訓をケミカルに操作する掌編。脳・モア・バイオレンス。
「草原の馬」劣化コピーされたもうひとつの地球で滅びのドラマが始まる。壮大さ、異形ぶり、訳のわかんなさが、私のイメージするオールディスである。
「暗黒の社会」ドロップアウトした男が、学びの舎に回帰したとき、神曲は高らかに奏でられる。煉獄は何処?地獄は何処?アカデミズムの亡霊が招く天国で男は叫ぶ「理解できない」。うん、俺もだ。
「銀河ゼッド」銀河の取扱説明書。あなたが弄んだ銀河は、個人として楽しむほかは爆発させてはいけません。
「完全な蝶になる」印度でおれも考えた。未知は路であり、満欠けは一つの容器に納まる。完全な蝶になるためには、変態しなければならないのである。いや、変態しなければいなくってよ。御分かりかしら、貴方?


2003年3月19日(水)

◆どりゃああ!と仕事を一本背負い。
◆自分に御褒美で定点観測。まずは安物買い。
「ピリオド」打海文三(幻冬舎:帯)100円
「スーパートイズ」Bオールディス(竹書房文庫)100円
「ロージー・ドーンの誘拐」Eライト(ハヤカワミステリ文庫)100円
へえ、オールディスの「スーパートイズ」って文庫落ちしてたんだ、と思って拾ったら、なんと、単行本と同時発売のアブリッジ版ではないかっ!!へえ〜、こりゃあ大胆なマーケティングだなあ。とても合理的かもしれない、と少し感心する。こりゃあ単行本版も買わねば。

で、ここから11冊がプチ血風報告。

d「花嫁人形」佐々木丸美(講談社:帯)100円
d「夢館」佐々木丸美(講談社:帯)100円
d「風花の里」佐々木丸美(講談社:帯)100円
d「舞姫」佐々木丸美(講談社:帯)100円
d「影の姉妹」佐々木丸美(講談社:帯)100円
d「新恋愛今昔物語」佐々木丸美(講談社:ビニルカバー・帯)100円
d「罪灯」佐々木丸美(講談社:帯)100円
d「罪・万華鏡」佐々木丸美(講談社:帯)100円
d「橡家の伝説」佐々木丸美(講談社:帯破れ)100円
d「ながれ星」佐々木丸美(講談社:帯)100円
d「榛家の伝説」佐々木丸美(講談社:帯)100円

おらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらああ!!!
久々の丸美狩り11冊、なんと未文庫化9作中8作までを一挙ゲットだぜ!!
ネットオークションで高騰してから、プロのセドリ屋さんのターゲットになってしまったのか、最近全然見かけなくなった佐々木丸美。ネットでみると勘違いした店が5桁つけてたりするけど、個人的にはそれほどの作家でもないと思うぞ。とりあえず、3月の古本運はこれで使い果たしたかな?個人的には「榛家の伝説」の帯をゲットできたので、これで、佐々木丸美の単行本を初版・帯付きで完全制覇。いえい!!


◆「ケラーの療法」Lブロック他(扶桑社文庫)読了
「切り裂き魔」(Pウィルソン)離婚して養育権も奪われた男が、つかの間の面会の日に娘を惨殺されてしまう。そんな彼に接近してきた捜査官は、絶対に手を出してはいけない切り裂き魔の正体を男に告げるのだった。このオチだと救い用がないなあ、と恐れていたオチだった。ウィルソンにこういうネタは期待していないんだってば。
「ケラーの療法」(Lブロック)殺し屋が精神分析医にかかる。だが、プロには僅かな私的時間の持ち合わせすら許されていなかった。「人を呪わば」タイプのツイストが効いた一編。痛快なラストにニヤリとさせられる一編。短篇ミステリはこうありたい。傑作。
「追いつめられらネズミ」(Rレンデル)農夫殺しと強盗団事件を抱えたウェクスフォードの名推理をじっくりと描いた完成度の高い作品。この短さで長編並みのプロットが仕込まれているのには感心する。
「クリスマスにベルが鳴る」(Mマロン)色褪せた日常の中で不正を見過ごしてきた大人のOLたち。だが、無垢な正義感が散らされた時、女たちの復讐は始まる。個人的には、この作品集のベスト。哀しく、そして痛快である。
「ダム・キャット」(Bコリンズ)天才猫の誘拐を企む詐欺師夫婦が繰り広げるドタバタ劇の顛末とは?冒頭からラストまで、逆転の妙で飽きさせないプロのお仕事。
「パリスの緑」(CNダグラス)かのシャーロック・ホームズを手玉にとった唯一の女アイリーン・バトラーを主人公にした新型「ホームズのライヴァル」譚。オスカー・ワイルドも登場して、独特の色使いをする画家の家で起きた密室毒殺の謎に挑む。こんなシリーズがあった事もしらなかったので興味深く読めた。キャラも立っておりトリックも凝っている。好感度大。もっと読んでみたいシリーズである。
「赤い服の男」(Jグレイプ)サンタクロースに母を轢き殺された少女。その事件を追うのは、植物人間となった夫を抱えた女刑事。典型的なクリスマス・ミステリー。悲劇を描きながら、希望の灯をともしてみせる作者の手際に乾杯。
「レジにてお並びください」(Sダンラップ)行列続きの死後の世界を描いた奇妙な味の怪作。饒舌な語りと意表を突く展開で読者を引きずり回し、尻切れ蜻蛉でありながら、それなりの満足感を与えるという異色作。これがアンソニー賞とマカヴェイティ賞の受賞作品というのが信じられない。断じてミステリじゃないと思うのだが。
「グッバイ、スー・エレン」(Gロバーツ)財産目当てでガム財閥の娘の結婚した美男子が目論む幾つもの完全殺人計画とその破綻を描いたユーモアミステリ。わろた、わろた。是非、主役・羽賀研二で映像化して頂きたい。
「ゴーストショー」(Dアリン)ものまねショーの合間で日銭を稼ぐまでに落ちぶれたかつてのスターが、伴に栄光の階段を駆け登った天才女性シンガーの完全なるコピーにであった時、死と再生のドラマは幕を開ける。なんとも骨太の話である。芸能界怪談も盛り込み、格好いい男女の姿を活写した名作。
「マッキンタイアのドナルド」(Jハンセン)ドナルドと名乗る若者は、老人の幻想なのか?それとも、只の泥棒なのか?息子を持てなかった老人の思いがどこまでも哀切な大人のクライム・ノベル。これは男にとって痛い話だね。
「ある晴れた日に」(Jラズボーン)女ホームズが、旧友の悪党のために一肌脱ごうとしたとき、空高く散るクルーザー。果して、食いしん坊の女ワトソンが辿り着いた詭計の裏側とは?CWA賞受賞の異色フーダニット。キャラクターを把握していない分、探偵の行動に納得が行かず、馴染めない話だった。受賞はシリーズの読者から、余程評価された結果なのであろう。


2003年3月18日(火)

◆仕事が修羅場。


◆「塙保己一推理帖」中津文彦(光文社カッパノベルズ)読了
江戸時代の盲目の大学者・塙保己一を主人公にした時代連作集。中編3作を収録。日本史教育を鎌倉時代までしか受けておらず、大学受験でも日本史を選択しなかった人間としては、この大学者の存在もこの本で初めて知ったような次第。御恥かしい。
盲目の探偵といえば、マックス・カラドスだの、ダンカン・マクレインだの火曜サスペンスの松永礼太郎だのといったところが思い浮かぶが、見えない事を補って余りある推理力・記憶力・残された四感の鋭さなどによって晴眼者を超える活躍をするというコンセプトはいずれも共通。このシリーズは更に「名探偵群像」的趣向で、作者の現代ものとは比べ物にならない魅力がある。
「観音参りの女」大店の御隠居が老いらくの恋で苦界から身受けした女。信心深く、遠慮深かったその女と生後間もない赤子が失火で焼死してしまう。美談の影に潜む、見てくれ通りではない業と性。シリーズ開幕編。メインプロットは救われ様のない話ではあるが、保己一と同郷にして恩人の河田屋善右衛門、弟子の和三郎にその父で気風の良い和泉屋和助など脇を固めるレギュラー陣もキャラが立っており、落語の事始めという蘊蓄も盛り込んで、笑わせどころも泣かせどころを心得た読み物に仕上がっている。
「五月雨の香り」保己一の弟子の命の恩人、川越藩士・刈谷左兵衛が姿を消す。左兵衛が必死に追い求める「五月雨」の香に秘められた悲劇とは?一種のダイイングメッセージもの。香道の蘊蓄や、幼かりし頃の保己一の想い出などサイドストーリーも充実しているが、推理趣味には乏しい武家残酷物語。
「亥ノ子の誘拐」相次ぐ幼児短期誘拐事件。だが、一人の子だけはいつまでも帰らなかった。母の有り様、父の有り様を問う一編。これも保己一が学問を志すまでの修業期間の描写に惹きつけられるが、本編は、大人の我侭が子供の未来を奪う話であり、爽やかな読後感というわけにはいかない。保己一は、推理はするが、運命の修理人からは程遠く、成る程、推理帖であって捕物帖でないのは、そういう事か、といった印象。


2003年3月17日(月)

◆本日未明、トップ頁のアクセスが35万に載りました。毎度ありがとうございます。丁度、2年前に結婚のためにサイトを休止していた際に15万アクセスに載ったので、1年10ヶ月で20万のお客さんに来て頂いた計算になります。毎度ありがとうございます。
◆グゾ残業。購入本0冊。振り返ってみれば、今月ここまで買った本は僅か4冊。そのうち古本はたったの1冊だ!!自分で自分が信じられない。「古本がやめられる」という看板に偽りはないし、懐も痛まないのだが、書いてて面白くない日記を読んでも面白くないだろうなあと思うとココロが痛む。ぶるぶるぶる。震えているのは禁断症状ですかそうですか。
◆週末に身動きがとれず、やっとこ黒白さんに送本。遅くなりました。
◆創元の近刊予告を見ていると、三番館シリーズの告知が出ていた。こちらも第一巻の目玉は「竜王氏の不吉な旅」のようである。一時期、長編化が構想された作品であるため、これまでの三番館シリーズには収録されず、単行本としては日本推理作家協会の年間アンソロジーでしか読めなかった作品。まあ、目玉扱いしたくなるのは、判らなくもないが、それにしてもなあ。<立風書房の「モーツアルトの子守唄」が品切れになるのを息を潜めてじっと待ちながら、企画を温めてきた編集者>というのを聞くと、まるで<恐るべき殺人計画を胸に秘めながら大富豪の死をじっと待ち続けている遺産相続人>というのを連想しちゃったよ。子守唄が消える。それが二重の殺人計画が交錯する、血を血で洗う惨劇の始まりであるとは神ならぬ身の知るよしもなかったのである。
◆ぐずる娘の寝かせ比べで、お義母さんに勝つ!ささやかなる達成感。


◆「謎の紅蝙蝠」横溝正史(徳間文庫)読了
ショート感想。お役者文七の第4長編。主題は「宝捜し」。17年前、三千両の御用金を強奪した紅蝙蝠一味。その隠し場所を示す4枚の地図を巡って、奸賊、女怪、美形役者、虚無僧、浪人、箱入り娘相乱れて繰り広げる争奪戦。隠し彫された赤い蝙蝠の姿が浮かぶ時、因縁の扉は開き、裏切りと復讐が闇の屋敷に死を招く。黄金色の夢を追ってお役者は大江戸の夜を駆ける。
最後の長編では、文七は脇に回った感があり、大伝奇の定法に則った波瀾万丈こそが主役な話である。善と悪との闘いという構成に加え、善が善の裏をかき、悪と悪が騙し逢うという脇筋の妙が、読者の興味を捉えて放さない。これぞプロの仕事というものであろう。悪の代表選手である、御守殿お美代の毒婦ぶりも異彩を放っており、まずは正史ワールドの毒婦コンテストでもトップクラスの迫力。超自然にまでは踏み込まず、いわばお約束の範囲内でまとめあげた話の中で、お美代の存在がこの作品を印象深いものにしている。
とにもかくにも古本で縁のなかった作品であり、こうして読めるだけでもありがたい。徳間文庫さん、ありがとう。


2003年3月16日(日)

◆「熱烈的中華飯店」最終回視聴。まあ、劣化コピーは劣化コピーなりに手堅く纏めたという感じ。エピローグの作り込みが、やっつけでイマイチ。これだけでも随分印象が変わるものを。
「最後の弁護人」第9話視聴。なんとも救われないエピソードだが、ラストで弔鐘の予兆が。よっ!待ってました!佐野史郎!!しかし、「知的で繊細でとてつもなく危険な男」役のオファーは佐野史郎のところにしか行かんのかね?


◆「新・本格推理02」二階堂黎人編(光文社文庫)読了
カッパONEの直前に出た新・本格推理の第二弾。収録された8作はいずれも中編級で読み応え十分。別冊宝石の新人何十五人集とかを彷彿としてしまうが、いずれもリーダビリティーの高さには驚かされる。新人発掘の好企画として、今後とも継続発展して欲しい。
「十年の密室・十分の消失」(東篤哉)題名通り、十年前の密室事件と現在に起きた<十分間での家屋消失>という贅沢な趣向を盛り込んだ正統派本格。探偵役の設定に手間取りすぎて、やや掴みが悪いが、事件自体の構成は、ハウダニット・フーダニット・ホワイダニットのバランスが絶妙で、感心させられた。やはりこの人は赤川次郎になれるかもしれない。
「恐怖時代の一事件」(後藤紀子)フランス革命中期の混沌の中で繰り広げられる袋小路のグラン・ギニョール。さぞや、カーが読んだら喜んだであろうと思われる血塗れの歴史不可能犯罪小説。著名人物総出演で、権謀と詭計を描いた痛快編。探偵役の屈折具合が好みの別れるところか。
「月の兎」(愛理修)ファンタジックな今時の本格。幾らなんでも伏線が見え見えで、長編ならば、更に奇矯なキャラを立てて不自然を埋没させる事も可能だったかもしれないが、碌な赤鰊なしに、これをやられては辛い。余り推理小説向きの才能ではないのかもしれない。
「湾岸道路のイリュージョン」(宇田俊吾・春永保)有料道路での自動車消失。このトリックには感心した。「まだ、こんな手があったのか!」と思わず膝を叩くアクロバットである。ホックの最上作に匹敵するといっても過言ではなかろう。文章もこなれており、即戦力の貫禄。
「ジグソー失踪パズル」(堀燐太郎)白雪姫のジグソーと小人とともに美女は消えた。塗装が剥げた小人が物語る真実とは果して。設定そのものに捻りを加えたダイイング・メッセージもの。人形の正体が意表を突いており、あっと言わされたが、事件そのものの印象や被害者像・犯人像が稀薄。これは日常の謎系でまとめた方がよかったかもしれない。
「時計台の恐怖」(天宮蠍人)学園を舞台にして軽やかな人物消失の顛末記。伏線の張り方や小道具の使い方が上手。学園である必然性があってよろしい。キャラの書き分けができていないところが些か「少女漫画」かもしれない。
「窮鼠の悲しみ」(鷹将純一郎)営利誘拐に仕組まれた完全犯罪のプロット。本格推理と社会派を両立させた貫井徳郎路線の意欲作。もう少し、年寄りが年寄り臭く書ければ完璧。
「『樽の木荘』の悲劇」(長谷川順子・田辺正幸)鮎川哲也に捧げるピロシキミステリ。足跡のない不可能犯罪とアリバイトリックの組合せだが、鮎哲の時刻表を使いたいためにプロットに無理を言わせてしまっているところが、頂けない。頭の天辺からシッポの先までまるっと御見通しである。丁寧だし、破綻もないし、「偏愛」も理解できるが、サプライズがない。


2003年3月15日(土)

◆育児!花粉症!終わりっ!!
◆ネットを巡回していると「MYSCONで逢いましょう!」というフレーズが溢れかえっていて、ちょっちい羨ましい感じ。

♪あなたを待てば 雨が降る
♪濡れ本せぬかと 気にかかる
♪ああ日本家屋ロックドルーム
♪朝まで徹夜うかれてる
♪マーダーケース
♪あなたとわたしの 合言葉
♪鳳明館で 逢いましょう

そうか、最後にMYSCONに参加したのは、一昨年かあ(しみじみ)。


◆「ピカデリーの殺人」Aバークリー(創元推理文庫)読了
藤原編集長が繰り出すバークリーコレクションを有り難く追いかけるだけでなく、もっと安価に20年前に戸川編集長がやっていた業績も評価すべきである、と思って、読みそびれていた本を手にとってみた。なんとバークリーの新訳が480円(当時)だ。出版について深く考える事のなかった時代、僕たちは創元推理文庫の値段が本格推理小説の値段だと思っていた。社会思想社の教養文庫はなんでこんなに高いんだとぼやいていた。贅沢なものである。
さて、この作品は、再評価著しいシェリンガムものではなくて、「毒チョコ」や「トライアル・アンド・エラー」で活躍する中年遊民にして犯罪研究家のアンブローズ・チタウィック氏を探偵役に起用したドタバタフーダニット。モーズビー警部も登場して、シェリンガム登場編とは些か異なった「お堅い能吏」の雰囲気を漂わせている。
物語は、一流とは言い難いホテルのラウンジで、時間を潰していたチタウィック氏が偶然にも毒殺現場を目撃してしまうところから始まる。その老婦人と話込んでいた赤毛の男の手が婦人のカップの上で踊る。ウエイトレスの勘違いで席を外したチタウィックが戻ってきた時には、既に老婦人は事切れていた。そこに漂うアーモンドの香り。殺人の第一発見者という類い稀な境遇に置かれたチタウィック氏は警察の切札証人となり、財産家で貴族趣味の伯母は複雑な羨望を示す、更に、甥が本当の貴族から招待されるに至って舌なめずりせんばかりの舞い上がりよう。だが、その招待には裏があった。伯母殺しの罪で逮捕された赤毛男シンクレアの妻ジュディスが、チタウィックの翻心を促がそうと幼い頃から付合ってきたミルボーン卿夫人とその弟マウスを動かしたのだった。猛女の身体をはった懇願に、事件の洗い直しに乗り出す羽目となるチタウィック。だが、開幕即終結だった筈の一見単純な事件には、犯罪研究家の心を弾ませる企みが隠されていたのだった。
切札証人が、被疑者の無実を証明する側に回るという皮肉な設定は、後年の「トライアル・アンド・エラー」にも繋がるシチュエーション・コメディ風プロット。ツイストの効いた展開と結末には、すれっからしの本格読みも眩惑されるであろう。歴史的傑作である「毒入りチョコレート事件」と「第二の銃声」の間に挟まれた作品だが、これはこれで充分に黄金期の香気を伝える佳編として評価されるべき作品である。なにより英国における遊民の序列が物語に膨らみを与え、伯母のご機嫌取りに汲汲するしているチタウィック氏の姿には同情を禁じ得ない。愉快な作品である。「バークリーは高い」と思っている若者は、まずこれから読んでおきましょう。
ちなみに、この本の小林晋解説がまた凄い。バークリー総捲り。「鑢」のPマク総捲りと合わせて、「翻訳推理の解説」の歴史を塗り変えたといわれる名解説。解説だけで480円を出す値打ちがあると断言できる。バークリーファン必読。


2003年3月14日(金)

◆大阪日帰り主張。会議が長引いたので、のぞみを奢る事にする。僅かな時間を縫ってホワイトデーの買い物で大阪の地下を走りまわる。それでも萬字屋の均一ワゴンをチェックする奴。何も買うものはございませんでした。
◆香山滋の本の略歴を見て40歳を過ぎてからの作家デビューである事を知る。へええ、あのイマジネーションはそんな年配になってからのものだったのか!?作家には年齢が関係ないのだな、と改めて感心する。それに引き換え、相撲の世界なんか、凄いぞ。20代が花で、30代になると引退して「年寄」だよ。更に年寄になれるのは一握りのエリートで、他は「廃業」だよ〜。
◆帰宅して娘に遊んでもらう。眠いと愚図りだす。必死に「私はまだ寝ないわよ」とばかりに瞼を開こうとするので、適当な歌を歌ってごまかす。
♪あたしは眠くなると、お話がしたくなる
(ママと一緒、ママと一緒)
♪あたしの今日一日を聞いてもらえる?
(おぎゃおぎゃ、おーぎゃおぎゃ)
♪今日は、ママのおっぱいいっぱい呑んだわ
(おぎゃおぎゃ、おーぎゃおぎゃ)
♪今日は、おむついっぱいウンチをしたわ
(おぎゃおぎゃ、おーぎゃおぎゃ)
♪でもそれだけじゃない
♪今日は、ようせいさんとおはなしたわ
(おぎゃおぎゃ、おーぎゃおぎゃ)
♪今日は、うちゅうじんをげきたいしたわ
(おぎゃおぎゃ、おーぎゃおぎゃ)
♪だって、わたし赤ちゃん
♪だって、わたし赤ちゃん
♪なんだってできる〜
♪なんにもできない
(おぎゃおぎゃ、おーぎゃおぎゃ)

あ、寝た。


◆「海鰻荘奇譚」香山滋(講談社大衆文学館)読了
「不老不死を伝えられる古書物界の泰斗・ヨースィッダ師父の『均一荘』を訪れし者は、その壮麗にして堅固なる書庫に感歎の念を禁じ得ない。ああ、天上のアルペジオを奏でつつ地上五階の吹き抜けを螺旋状に伸びる書画・墨跡・署名本・空想科学小説・猥本・端本・雑本のメールストロムの渦また渦。その何処に求めるべき書があるかは只ヨースイッダ師父の怜悧なる脳細胞のみに刻まれている。強化鋼を十重二十重に渡した床には、金剛石による印度獅子の象眼が施され、『新編・玖霊夢檸檬』の眠りを護る。ざわざわと壁を波打たせ横切るのは氷河期の剣虎ほどもある無翅昆虫亜綱ティサヌラ・ラトレイレ・ギガンテス、巨大なる紙魚!!今、まさに、ヨーシィッダ師父最愛の『香山滋』本に襲い掛からんとす!!」
出ました!恥かし読書決定版!!こいつはこんな本も読んでいなかったのである!自慢ではないが、この元版である桃源社の「大ロマンの復活」シリーズは一巻たりとも読んでない。三一書房の香山滋全集だって、5桁当り前の古書に手を出さずに済むようにと、買い揃えただけなのだ!!わっはっはっはっは。はあ。
閑話休題、感想であるが、いやあ、参った。これは、相性が悪い。この作品集が香山滋の精華だとすれば、私の所持する香山滋全集は、一度も頁を開かれることなく、古本屋に売られる羽目になるかもしれぬ。漢語・ラテン語の飛び交う古生物学的蘊蓄といい、破天荒に奇天烈を嵩ね強引な引きと驚天動地の肩透しを畳み掛けてくるプロットといい、辻褄や論理を吹き飛ばす豪快にして奔放な作劇法といい、もう駄目です。ついていけません。これほど読む進むのが辛かった日本語の小説は「黒死館」以来。「黒死館」のように投げ出さずにすんだのは、一重にこの本が短篇集だった事による。ああ辛かった。以下ミニコメ。
「オラン・ペンデグの逆襲」大香山の処女作とその後日談、前日談というオラン・ペンデグ3部作。いずれも文明の皮を被った野蛮への怒りと反骨に溢れる作品。表題作の意外なる真犯人像にさぞや、宝石の選者たちは面食らった事であろう。前日談は文明と未開の対比を同じスタンスで描いたものだが、後日談は秘境冒険小説にして海洋小説、更には文化人類学の素養を思わせるオチが心憎い。悲しいのは熱帯ではない。
「海鰻荘奇譚」分類学上はマッド・サイエンティストものなのであろうが、その耽美と博物学の出会いには息を呑むばかり。豪奢にして奇矯なる殺人舞台、父も母も異なる美しき姉弟の愛欲風景に、ファンは痺れるのであろう。後日談は、曲がりなりにも不可能犯罪を扱った本編とは趣を異にする妄念の幻想譚。廃虚に眠るその巨大なる悪夢の姿にただ戦慄を禁じ得ない。
「怪異馬霊教」邪教の像から出てきた、折りたたまれた祖父と父の骨。果して如何なる呪が親子四代に降り掛かったのか?宿縁とエロスが地底に縺れる大伝奇。陰陽は反転し、死者は泡沫の生を授かる。重厚なる邪教奇譚。このイマジネーションの前にはフェアプレイは無力である。
「白蛾」透明女賊、百面相の中国人、そして復活するシナントロプス。快男児、美少女、妖魁乱れる空想科学の「外套と短剣」。禁じ手なしの奇想が、歴史の襞を突き進む。少女の出生の秘密が、これまた過剰サービス。
「ソロモンの桃」極東の快男児が伝説の秘宝<ソロモンの桃>を求めて、ユーラシアの臍で繰り広げる大活劇。四千年の妄念、印度獅子の咆哮、女怪と乙女と怪老人、悲恋、邪恋、心を操り、恩讐を雲の彼方に吹き飛ばす。奇想驀進の長編小説。どう贔屓目に見ても先を考えて書いたとは思えない破格の異端小説。よくぞ、この連載を許したものである。
「蜥蜴の島」20世紀のサッフォーの島はガラパゴスだった。これは香山滋の<アヴェロンの野生児>。物語の重層構造が邪恋と異形に説得力を与える、小気味良い変態小説。
「エル・ドラドオ」黄金郷伝説に憑かれた男たち、変化する美女、DNAすら歪む秘境小説。ひばり文庫だね、こりゃあ。
「金鶏」鶏を夫とする妖夫人の騙り。ゴールデン・コックと訳せば、如何にも意味深長というか、そのまんまというか。
「月ぞ悪魔」天の二つの月が懸かる時、腹話術自慢の美女を妖婆が取り戻しに来る。悲恋を燃やせ、地球の炎。一体この妖婆は凄いのか、凄くないのか?とりあえず、作者は凄いぞ。やりたい放題だ。


2003年3月13日(木)

◆くそ残業。購入本0冊。
◆帰宅したら「本の雑誌 4月号」が届いていた。毎度ありがとうございます。
特集は「春だ桜だサスペンスだ!」。心臓がバクバクするようなサスペンスはどれか?という趣向だけど、本当に所謂サスペンスばかりがラインナップされているのが不満。個人的には「優れた本格推理小説も、心臓バクバクものなんだぞ!」という事を声を大にして言っておきたい。
クイーンの「Xの悲劇」「Yの悲劇」「エジプト十字架の謎」、クリスティの「ABC殺人事件」「そして誰もいなくなった」、横溝正史の「獄門島」、カーの「火刑法廷」「三つの棺」などなど、左脳と心臓を同時に鷲掴みにされるような、まさに神が舞い下りたとしか思えないような作品はあるのだ。優れた本格推理は人生の早い時機に読んでしまう事が多いので、忘れられがちだけれど、猫マークだけがサスペンス感で優れているとは思って欲しくないのである。
◆「ギデオン警視の危ない橋」を均一棚で拾えば、それは立派な血風です>よしださん
◆では、黒白さん、週末に送ります>私信


◆「死者におくる花束はない」結城昌治(朝日新聞社)読了
禿でしみったれの私立探偵事務所長・久里十八と、ちびで有能なフリーランスの探偵「わたし」こと佐久のコンビをフィーチャーした長編ユーモア推理。作者がA.A.フェアのクール&ラムをイメージして書いたというだけの事はある軽快なクライム・ノベル。初出は東都ミステリ、質の高さはそれだけで保証されているようなものである。
閑古鳥の鳴く九里探偵事務所に持ち込まれたのは、手堅く商売を伸ばしている志賀という時計商の素行調査。法外な報酬と胡散臭い依頼人・玉川に興味をもったわたし・佐久が尾行を始めるや、志賀はコールガールとよろしくやる傍ら、後妻に迎えた歳若い妻の伊佐子にも街で落ち合ってバッグを買ってやるというマメさをみせる。だが、その夕方、伊佐子は死体で発見される。急遽、調査を打ち切りを申し入れてきた玉川は行方不明となり、なおも捜査を続けるわたしには、暴力のプロからの脅迫が。コケティッシュなコールガール、ナイトクラブの暗がり、アメ横の荒事。失神3回、死者多数、少女の微笑に花束を。
これは素直に自分の不明をお詫びしよう。クール&ラムのノリを斯くも見事に写した作品が日本にもあったとは!!些か饒舌に過ぎる都筑道夫の諸作に対して、するっと普通の読者がついて行ける軽やかさが嬉しい。本歌の方でも、なぜか(中期以降特に)ラム君がモテモテになっていくのだが、この作品でもチビな「わたし」がそれなりに「もてる男」を演じているというところが頼もしい。トリックは、すれっからしにはお馴染みの内容であるが、話の組み立てが上手いのでつるつる読まされてしまう。ハラハラさせて、くすりと笑わせて、最後に涙をひと絞り、いやあ、うまいもんだね、粋だね。このシリーズも読まなきゃ。


2003年3月12日(水)

◆残業。へろへろになって帰宅したら、娘が丸一日グズり続けたらしく奥さんも沈没していた。飯も碌に食っていない模様。コンビニでおにぎりを買ってきてとりあえず夕食を済ませる。寝顔は天使のようなんだけどなあ。今日一日は妖怪「泣き赤子」だった模様。>わが娘。
◆amazonから「ご注文頂いた本は品切れにつきお届けできません」というメールが入ってくる。昨年末に、古書価格が既に50$に達している本をカタログに載せていたので、「ものは試し」と注文を入れてみたが、やっぱりね。在庫切れが判明するのに、3ヶ月。この辺は、昔、ビブロスやらイエナで洋書を取寄せていた頃の感覚と同じだよなあ。最後は、誰かが必死に倉庫を駆け回っていたのかなあ?


◆「白昼堂々」結城昌治(朝日新聞社)読了
これも恥かし読書のうちであろう。だが、この人ほど代表作を1作選べと言われて票が分かれる人もいないのではなかろうか?処女作にしてユーモアミステリの快作「ひげのある男たち」、日本ハードボイルドの草分け「暗い落日」、現代スパイ小説の黎明「ゴメスの名はゴメス」、堂々たる戦記文学「軍旗はためく下に」、そして痛快集団ピカレスクのこの作品。更に短篇でも日本人離れした、お洒落な初期作から私立探偵小説、エスピオナージュ、捕物帖にショート・ショートまでなんでもござれ。知り尽くした上ですかした捻りを見せる都筑道夫とは違い、自分の才能を信じて真っ向からあらゆる推理小説に闘いを挑んだ人、それが結城昌治という作家なのであろう。
閉山された炭鉱の唯一の稼ぎは「出稼ぎ」で、その仕事とは「スリ」だった。一度は足を洗った名人が、旧友の窮状を見兼ねて持ち掛けたのは、デパート相手の「集団万引き」。背に腹は代えられず、匠の矜持を捨てさって、ひとたび仕掛けてみたところ、これが滅法うまく行き、おまけにココロも痛まない。さあ、老若男女繰り出して、花の東京で盗み技、白昼堂々大胆不敵、その目でしかと御覧じろ。目指せ一人百万円!盗んで羽ばたけ大空へ!
かつての掏り名人夫婦に泥棒村の面々、現行犯逮捕に燃える捜査陣、その双方を手玉にとる悪徳弁護士と、多趣再々なキャラクターが繰り広げる、ユーモアピカレスク。若者は若者なりの、年寄りは年寄りなりの夢を抱えて盗みに励むのが面白く、そして切ない。最終的に作者は「犯罪は引き合わない」というカードを読者に示す。なるほど、そうかもしれない。しかし、この犯罪小説は引き合う。決して、時間泥棒な訳ではないのだ。


2003年3月11日(火)

◆朝一番のひかりで帰京。勿論車中では爆睡である。普段よりも読書ペースが落ちるんだから、たまったものではない。
◆会社の売店で、新刊購入。
「謎の紅蝙蝠」横溝正史(徳間文庫:帯)
お役者文七もので、唯一未入手だった作品。何故かこの話だけが、縁がなかった。エッセイは別にして横溝正史の未所持テキストが増えるのは随分と久しぶりだなあ。あれこれあった生誕百周年記念出版の中では、一番遅れてきた企画だけど、ここは「よくやった!徳間文庫」と褒めてあげたい。
◆本の雑誌のゲラチェック。2行分増やして戻す。
◆一年ぶりにSRのベスト5に投票してみる。新作は60冊弱しか読めていないが、それでも例年に比べれば読んだ方である。これも一重に図書館の効用である。これまでなら買っただけで安心してしまう新作だが、借りると二週間以内に読まなくっちゃいけないんだもんね。
それにしても、海外の私的読了本はクラシックが殆どで「これが21世紀のベストか?」と見まがうようなラインナップ。このような出版状況の中で<年間ベスト>を選ぶ意味はどこにあるのかなあ。とはいえ、俺はちゃんとドハティーの2002年新作まで読んだぞ!と豪語してみる罠。


◆「ラバー・バンド」Rスタウト(ポケミス)読了
ネロ・ウルフの第三作はこんな話。
19世紀末、ネヴァタの鉱山街で、1人の英国貴族が殺人の罪で吊るし首に逢うところをならず者の一群とインディアンに救われる。ならず者の頭領は、その跳ねっかえりぶりから「ゴムのコールマン」と呼ばれ、それゆえに彼の一党は「輪ゴム団(ラバー・バンド)」と称されていた。もしも生きて故国の地を踏めれば財産の半分を譲るとしたその英国貴族は、40年後の今、外交上の最重要人物として再び米国を訪れていた。過去の約定を守らせようとする、頭領を失った輪ゴム団の仲間とその子孫たち。だが、彼等がウルフの事務所を訪れた時、既に仲間の一人は何者かの凶弾によって帰らぬ人となっていた。ヒロインを陥れようとする三万$盗難事件の罠。電話口で轟く銃声。依頼人たちが、西35丁目に集う時、警官隊は捜査令状をもってウルフの扉をこじ開ける。
どうやら、この歳にして金鉱にぶち当たった思いである。漸くスタウトが面白くなってきた!蘭を愛で美食に耽る傲岸不遜の巨漢探偵の「毒」にやっと身体が慣れてきた、とでも申し上げるべきか。これまで、買ってあるだけだった翻訳長編全てと翻訳中編全てが一気に私的「これから(ホントに)読む本」リストに編入された。未訳作品についても、米国での人気を反映して原書での入手が容易で、いやあこれは当分楽しめそうだ。特にこの作品では、シャーロック・ホームズの長編作品の如く「過去の事件」が、現在の連続殺人を呼ぶという構成があからさまで、女冒険家を目指すヒロインの魅力と相俟って実に楽しい読み物に仕上がっている。謎の解法がストレートで、読み始めのとっちらかった印象が嘘のように、終盤に至り全てが納まるところに納まる快感は、よくできた推理小説にのみ許されたものである。サイドストーリーでは、ウルフが、運動不足解消と称して自らに課したトレーニングがこれまたケッサク。そりゃあ、痩せませんってば。ウルフ邸の内部構造も(警官の捜査とともに)紹介され、一つとして冗長さを感じさせない佳作であった。