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2003年2月9日(日)

◆一旦、家に戻って3日ほど受け取れなかった宅急便を受取り。ついでにAmazonで買った本まで到着してしまう。ありゃりゃ。
「The Last Templar」Michael Jecks(Headline)1350円
「A Moorland Hanging」Michael Jecks(Headline)1079円
「The Plague Lord」Paul Doherty(Headline)2123円
「The Mysterious Death of Tutankhamun Paul Doherty(Caroll & Graf)2818円
マイケル・ジェックスというのは、Amazonで「ドハティーを買っている人は、こんな本も買ってます」という御勧めに遇い、試し買いしてみた中世ミステリ。350頁級のペーパーバックなので、読切る自信がないぞお。後の2冊はドハティーの昨年末の新刊。「黒死卿」の方は、フビライ汗の法廷を舞台にした歴史推理。梗概をちらりと見ると、誰あろうマルコ・ポーロが探偵役を務める気配。おお、いいねえ、いいねえ。「ツタンカーメンの謎の死」の方は、ツタンカーメンの黄金の仮面からその死の謎に迫る学術的読み物らしい。ううむ、「邪馬台国の秘密」みたく小説仕立てにして欲しかったかも。
◆午後半日は、娘と過ごす。沐浴シーンをムービーにおさめたりして。


◆「三人のゴーストハンター」田中啓文・牧野修・我孫子武丸(集英社)読了
70年から3シーズン続いたTVミステリのシリーズに「ネイム・オブ・ザ・ゲーム」という作品がある。日本では映画枠で数本が紹介されただけなのだが、「バークのまかせろ!」のジーン・バーリーが時々出ていたので、放映があれば見入っていた。この作品、ハワード出版なる出版社の社長・記者・編集者をそれぞれに探偵に用いて独立したエピソードを組み立てるというところがユニークで、いずれの作品にもスーザン・セント・ジェイムズ扮する女性秘書が登場して、シリーズとしての統一感を出す。この作品で認められたスーザン・セント・ジェイムズはそのままNBCミステリ・ムービーの「署長マクミラン」で、マクミラン夫人として準主役を張る事になる。などという昔語りモードに入ってしまったのは、この三人のゴーストハンターがまさに「ネイム・オブ・ザ・ゲーム」と同じ構成を取っていたため。作者達とは同世代なので、誰かの頭の中に「ネイム・オブ・ザ・ゲーム」があったのではないかなあ、と思ったりした次第。
で、中味の方は、ゴーストハンターである。「事件記者コルチャック」のようなものである。豪放磊落な破戒僧・洞蛙坊、美形の幻視者・比嘉薫、冷徹な物理学者・山県匡彦の3主役がそれぞれの特徴を活かして、怪奇現象をその根源から片付けていく事件ファイルである。勿論、連作のお約束である3人を結び付けた事件を巡るマルチエンディングも書き下ろされ、製作チーフを務めた我孫子武丸の「かまいたちの夜」的成功体験がきちんと反映されている。
全体を通してみると、田中啓文のパートの力強さが他の二人を凌駕しており、エンディングも洞蛙坊パートが最も伏線を上手に消化して且つ更なるサプライズも演出していて吉。我孫子武丸パートも、不可能を真っ向から物理現象として解明していく手際が「怪奇大作戦」を思わせて心地よいのだが、全体のトーンと馴染まない分、損をしている。牧野修パートは、両者の間で、幻想味を醸そうとしながら中途半端な印象に終わってしまった。ベスト・エピソードは「常世の水槽」かな。


2003年2月8日(土)

◆朝はのんびり過ごして、昼一番で帰京。1日1冊をこなすのに、「天球の調べ」では重過ぎる(というか、車中で読切る自信がない)ので、軽目の作品を100均で拾っていこうとかっぱ横丁や萬字屋を覗くが、かなわず。仕方がないので、KIOSKで新刊を1冊。
「呪怨」大石圭(角川ホラー文庫)600円
ああ、こんなものに600円も出してしまった。半年もしないうちに100均送りは目に見えているというのに。まあ、たまにはこういう買い物も良しとしますか?
◆東京駅で外に出て定点観測。八重洲古書センターに、別冊宝石の世界探偵小説全集のおいしいところが並んでいた。ノックス&ホームズ集の1000円は適価として、イギリス女流3人集の300円はお買い得感あり。まあ、荷物が嵩張るので、別冊宝石は全てスルーして均一棚から2冊。
d「逃亡将校」桶谷繁雄(角川書店:函)300円
「朝の花」富田常雄(東方社:函)100円
前者は宝石に連載された連作。奥付けをみたら再版だったので逆にビックリ。へええ、ちゃんと版を重ねていたんだ。富田常雄は、よしだまさし効果で手にとるだけは手にとってみたところ、書き出しの文章に袈裟固めを食らう。曰く。


晴れた日は一足飛びに夏を思わせる暑さで、無帽で歩く佐々木浩二は神田の古本屋から古本屋へと渡り歩いているうちに額に汗がにじんだ。
「お前は古本がすきだなあ。」
と、同僚が顔をしかめて言う程、彼は本に執着を持って居た。


おおおお、佐々木君!佐々木浩二君!君は僕の心の友だ。というわけで、つい勢いで拾ってしまう。まあ、100円だし。東方社の函付きが100円なら買うわな(>普通買わんって)。ところでこれは明朗小説なのであろうか?恋愛小説なのであろうか?はたまた柔道古本小説なのであろうか?なんやねん、柔道古本小説って?

◆通い夫をして親子三人川の字で寝る。良く寝てくれたので、こちらも良く眠れる。いい子ちゃん!


◆「呪怨」大石圭(角川ホラー文庫)読了
映画化を契機にノヴェライズされたイマドキのスプラッタ・ホラー。黒く塗潰された目をした少年の顔写真がアップで迫る表紙が印象的。交通広告でもよくみかけたが、おもわず目を逸らそうとしても逸らさせない「気」を感じる。とりあえず、新幹線で爆睡しないうちにノルマを果たそうとしたのだが、これが、なんともスプラッターなうえにナスティーなお話。とても寝られません。
自分を表に出せない髪の長い女・伽椰子。懸命に育んだ片想いを封じ込め、それでも幸せを掴みかけていた彼女に、運命は残酷な刃を向ける。偶然の再会、暴走する暗鬼、切り裂く男、切り裂かれる人々、そして怨みは結晶する。呪怨の連鎖を停められる者は、誰もいない。
救いようのないノンストップホラー。ためにする設定が、どこまでも不快と恐怖を加速する。そういう表現が適当かどうかはともかく、いわば「倒叙系」ホラーなので、「リング」や「墓地を見下ろす家」のように謎がほどけていく過程を楽しめない。そして、手を変え品を変え、奏でられる殺戮のリフレインに、やがて飽きが来る。最後にツイストを加えようという努力はみられるものの、必然性に乏しく、狂った論理なりに辻褄を合わせようという姿勢に欠けている。まあ、これは映像作品を楽しむべき話であり、ノベライズで読むには、些かプロットが弱い話なのである。子供や黒猫の使い方も、雰囲気だけに留まっており、猫と子供だけで「ペットセメタリー」を書いたキングとは、余りにも差がありすぎるのだ。リーダビリティーは評価するが、それだけ。定価で買う必要はないでしょう。


2003年2月7日(金)

◆朝5時に出かけて朝夕に会議を二つ片付ける。移動の新幹線では例によって爆睡してしまい、読書できず。定点観測で千林大宮周辺をウロウロ。メースンの「モンブランの乙女」の戦後版2500円とか、ディッシュの「歌の翼に」2000円とか、「持ってなければ買い」ゾーンの本が転がっているが、ダブって押える余裕はない。拾ったのは二冊。
「乱花」佐賀潜(人物往来社)300円
「天球の調べ」Eレッドファーン(新潮社:帯)1200円
前者は出ていた事もしらなかった佐賀潜の歴史小説。とりあえず、値段も手頃だったので押えてみる。しかし絶対読まない本だな、こりゃあ。後者は、各所で評判の新刊。天文趣味もある暗号もある歴史サスペンスとなるとツボである。帯付きが半額以下なら「買い」でしょう。文庫落ちするまでに読めるかなあ。
◆実家に帰ると、父親が友人から貰ったとかいう富士通の最新鋭パソコンとエプソンの最新鋭プリンター&カシオの最軽量デジカメの繋ぎをやらされる。ううむ、これをマージャンゲームにしか使っていないというのは、勿体無いの一言。それにしても、最近のパソコンって、ありとあらゆるソフトがインストール済みなのには恐れ入った。ワード、エクセルはおろか、ホームページビルダーまで入ってんじゃん。ゲームも2、30は入っており、結局、夜遅くまで、ボーリングやらピンボールにうち興じてしまう。あほう。


◆「ボニーと砂に消えた男」Aアップフィールド(ハヤカワミステリ文庫)読了
ショート感想。名探偵ナポレオンの初期作。失踪した汚職警官の足取りを追うため、大牧場に潜入捜査するボニーの活躍を描いた作品。アボリジニ同士の部族闘争やら、牧場火事やら、派手なエピソードも加え、混血の捜査官ボニーのスーパーマンぶりを活写した遥かなる亜大陸捕物帖。
事件の真相は、それなりに込み入ってはいるものの文庫本で400頁を持たせる事のできる「魅力的な謎か?」と問われると残念ながらNOであり、本格推理小説のフェアプレイを期待するマニアにとっては退屈な読み物かと思われる。
が、「<名探偵>小説」と割切れば、これほどにユニークな作品も珍しい。白人には理解不能なアボリジニの符丁を現場写真から読み取り、荒くれ馬の調教をこなし、草笛の名手で、全豪一の追跡者、ナポレオン。時として、自分の内なる大地の血に揺さぶられ、捜査を忘れて闘いに興奮するといった野生味がなんとも魅力的である。「恐るべき空白」と称された亜大陸に最も似つかわしい探偵であり、自分でそれを自慢して恥じないところが微笑ましい。このエピソードの最後でその名声と真相とを秤に掛ける事を迫られたボニーの選んだ結論がまた(お約束ながら)清々しい。全ての探偵小説を騎士物語の延長線上で語る論があるが、この作品での混血探偵もまた、伝統に恥じない騎士ぶりを示しているのである。 あと、名探偵ナポレオン・シリーズの主立った作品を解説した訳者あとがきが植草解説を思わせて、なかなかのノスタルジーである。特に題名を勝手に邦訳してしまうところなんぞ、憎いね、この。


2003年2月6日(木)

◆急遽出張が飛び込んで来たので準備残業。通い夫もままならず、真っ直ぐ帰宅。購入本0冊。
◆積録の「最後の弁護人」第4話を視聴。密室殺人ネタだというので、多少は期待したものの、トリックは「なんだ、またあれかよ」である。まあ、脚本はまずまずなので、生まれて始めて密室ものに触れた人は感動するかもね。


◆「白雪姫、殺したのはあなた」(原書房)読了
ショート感想。 <ワンス・アポン・ア・クライム>という大部のグリム童話ネタ書下ろしミステリ集を二分冊で邦訳した片割れ。12編収録。
結論を言えば、非常に面白く読めた。童話を下敷きにするというのは、プロットに苦しむ短篇ライターにとっては、楽しくも美味しいお仕事といえるのではなかろうか?ここに収録された12編のいずれも、一定の安心感の元に読み進む事ができる。童話の流れを、如何に現代ミステリにアレンジするかが腕の見せ所であり、更にそのうえでツイストを加えてみせる事にプロとしての誇りを掛ける作家もいる。しかしながら、グリムの完成度に完全に乗っかってしまった作品の方が楽しめるのは、フォークロアの昔から語り継がれてきたプロットの地力故であろうか。なまじ、原典に捻りを加えたような話には、小賢しさやあざとさを感じてしまうのである。
個人的にベスト作品は「いさましいチビの衣装デザイナー」。ホモの衣装デザイナーがマフィアのボスから「伝説の殺し屋」に勘違いされて、、というプロットを爆笑のうちにエスカレートさせていく手際が絶品。現代において、王様に相当するのが、マフィアの大親分だというのが、これまた結構。
あと印象に残るのは原典のハッピーエンドを壊す「シンデレラ殺し」「ブレーメンのジャズカルテット」。前者は星新一の作風に通じるものがある。後者は、只管泣けるのだが、あざといんだよなあ。
デアンドリア夫人のハッダムの作品(「ランプツェルの檻」)はもう少し本格味の強い作風を期待していたので、サイコな展開に面食らった。
とりあえず、もう1冊「赤ずきんの手には拳銃」も読む気にさせる出来映えと褒めておきます。


2003年2月5日(水)

◆本当に久しぶりに神保町を定点観測。洋古書店の店先にEQMMのここ15年ぐらいの号がどかんとバラで出ていたが1冊300円と言われると二の足を踏んでしまう。
@ワンダーでは南洋一郎の偽ターザンを初めて見る。ふーん、こんな感じなのかあ。でも、予算が合わずにスルー。
ふと文庫・新書2万冊という張り紙に惹かれて、初めて2階に上がってみると、実用書にまじってカッパノベルズや「あなたはタバコがやめられる」の帯付きなんぞが、手頃な価格で並んでおり、見ていて飽きない。が、ここでも何も買わずじまい。
東京泰文社跡の湘南堂書店が閉店半額セール実施中。泰文社が店じまいしてから、これで既に2軒が代替わり。次は、どんな店が入るのであろうか?できればミステリの専門店に入って欲しいんだけどなあ。この場所はミステリ者にとっての「メッカ」みたいなもんだから。
勿論買うものはなく、「このままウインドショッピングもオツかも」と思っていたら、かんたんむ・すずらん通り店の<2冊で100円>棚で、一冊ちょいめずに遭遇してしまう。しかたがないので、相方をもう一冊探す。
d「不潔革命」村田基(シンコーミュージック:帯)50円
「四十七秒の恋物語」谷山浩子(広済堂:帯)50円
羊頭書房でダイジマン殿とばったり出会う。「あらまあ、こんなところで」というべきか、「まあ、当然」というべきか?ペーパーバックのアンソロジーと安手な造りのムックをドンと買っておられた。相変わらず良い買いっぷりである。「ハンドルを『kashibaパパ』に改名されないんですか?」と尋ねられ「うーん、kashibaパパのこしょだて日記かあ」と唸る。ダイジマン殿が待ち合わせがあるとかで、そそくさと立ち去った後で、店内をじっくりと見て回る。ポケミスの大量仕入れがあった模様で、百番台のカロリーの高いところを店長がデータ入力していた。いつもながら、しっかりした品揃えだが、特に買いものはなし。
ところが、ひやかしの仕上げに入った三省堂で探求書にぶちあたってしまい、思わぬ散財。
「アメリカミステリ傑作選2000」Sグラフトン編(DHC)2800円
「アメリカミステリ傑作選2001」Eマクベイン編(DHC:帯)2800円
電光石火で品切れになってしまった年間ミステリ傑作選が、何故か本屋に並んでいる。やられたあ。当り前に見掛けていた際には、この法外な値段に引いていたのだが、一旦品切れになると、納得の古書価格に見えてしまうから不思議だ。それにしても三省堂の品揃えってどうなってるの?いやまあ、年鑑をナマモノ扱いする出版社の方が問題なんだけどさ。
◆<通い夫>して娘を寝かしつけて帰宅。腕に残る温かさが心地よい。
◆英文メールに返信するにあたり二階堂黎人作品の題名を勝手に英訳してみる。
"Fear at Castle Werewolf"
"Mansion of Evil Spirit"
"St.Ursula Priory Murders"
"House of Vampire"
おお、格好いいかも! 読みたいかも!! >読んどるっちゅうの。


◆「悪党どものおたのしみ」Pワイルド(国書刊行会)読了
例えば、仮面ライダーはショッカーの改造人間である、とう!。例えば、フーディニは奇術師であるが故に反心霊主義者となってエセ心霊術師のトリックを暴いていった。「おめえ達のやっていることは、マルっとお見通しだあ!」なのである。そして、このユーモア連作の主人公、ウイリアム(ビル)・パームリーは、いかさまカードの達人から脚を洗い、いかさま師たちのトリックを暴く側に回る。事件を拗らせるために(というか、すっぱり賭博の世界から脚を洗った筈のビルを「戦場」にひっぱり出すために)作者は究極のカモ、トニー・クラグホーンをワトソン役に据える。これはもう勝利の方程式である。これだけで、半分勝ったも同じである。
シリーズの番外プロローグにあたる人情ドラマの「シンボル」はさておき、
ビルがいかさま師のトリックを逆手にとってトニーを助ける「カードの出方」、
人助けのために毟られる羽目となったトニーを救わんと犬を助手につける「ポーカー・ドッグ」、
ディーラーの思うがままに色を操れるルーレット盤の謎に手製の秘密兵器で挑む「赤と黒」、
いかさまが引き合わないカードゲームでカモられ続ける富豪の謎を追う「良心の問題」、
トニーがビルに扮して、ビルさえ一目おく「名手」にブラフを仕掛ける「ビギナーズ・ラック」、
浜辺で半裸の状態となっていかさまが可能かという挑戦に挑む「火の柱」、
名誉の問題から、畑違いのチェスで、いかさまを仕掛ける側に回る「アカニレの皮」
どの作品をとっても、読者はツイストの効いた心地よい「勧善懲悪」のドラマを楽しめる。最初は、単純にトリック対トリックの闘いであったプロットが、徐々に、物語自体に罠が張られて行く過程がなんとも頼もしい。この作者はパターンすらネタにつかうのだ。これが、1920年代に書かれていたのだ。アメリカ万歳。御勧め。ちなみにマイベストは「ビギナーズラック」かな。


2003年2月4日(火)

◆日記をサボっている間にも、メールを何通か頂く。
「貫井徳郎の『光と闇の誘惑』の意味がわかりません。教えてください」
「読み返したらなんとか判りました。おさわがせしました。」
「島田一男の『警察医』って面白いですよね。『女事件記者』も面白いですよ。」
「I apologise but I do not speak Japanese. Do you speak English?」
「ご無沙汰してます。実は昨年から春陽堂の社長をやってます。」などである。
最後のは漫画倶楽部の後輩からのメールなのだが、おああああ、びっくりしたあ。
「夜の疑惑」の復刊を希望します、社長!!
「裸女と拳銃」の復刊を希望します、社長!!
「ふしぎなふしぎな物語1〜4」の復刊を希望します、社長!! お願いします、社長!!!
◆久々の定点観測。5冊200円のお店。
「第四の脅迫」高木彬光(立風書房)40円
「幻のブルーフィルム」宮城賢秀(創現社出版:帯)40円
「若いアダム」フランシス・レンケル(戸山書房:帯・Vカバー)40円
「新・私を愛したスパイ」Cウッド(ハヤカワミステリ文庫)40円
「マザーグース4」谷川俊太郎・和田誠(講談社文庫)40円
「飛蝗の農場」Jドロンフィールド(創元推理文庫:帯)200円
高木彬光本は、背表紙に鮎川哲也の言葉が入っていたので拾ってみる。宮城賢秀は時代小説で既に一家を成している人、これが唯一のミステリらしい。聞いた事もない出版社から、聞いた事もないミステリが出ているとつい買いたくなってしまうのは性(さが)としか言い様がこざいません。「若いアダム」という作品はみるからにエロ小説なのだが、帯の揚句が凄い。
「ある殺人鬼の愛欲記!いちど殺人の味をおぼえてしまったら、もうやめられない……この強烈な刺激! 無上のエクスタシー! だからおれは女を殺す!」
解説も何もありゃしないが、なんとも殺伐たる物語のようである。でも、見ようによってはミステリといえなくもない、か? 後の2冊は無理矢理5冊にするために拾う。んでもって、このミス1位がお買い得だったので、いつ読めるかは判らんがとりあえず確保だけはしておく。ああ、これだけ買って400円だもんなあ。


◆「夜聖の少年」浅暮三文(徳間デュアル文庫)読了
ショート感想。傑作ノンセンス「ダブ(エ)ストン街道」の作者の手になるとは思えない、真っ当に過ぎるお子様向けビルトゥングス・ロマン。驚きのない話である。科学考証もキャラクター造型も既視感の固まり、手垢の付き捲った設定の中で、一発逆転の妙を狙ったのであろうが、大人は騙せない。「あなたの魂に安らぎあれ」が20年前にやった事を越えていない。「メルサスの少年」が12年前にやった事に届いていない。ディストピアをしつらえ、Boy Meets Girlを配し、血の恩讐を隠し味に使ったところで精一杯という趣の作品。題名の夜聖は「野生」「ナイトブリード(夜生)」の地口かな?という些細な疑問だけが印象に残った。本編よりも作者のあとがきの方が全然面白い。こりゃあ、子供だからって手加減しすぎだよ。


2003年2月3日(月)

◆風邪の気配だったので娘の顔を見て速攻で帰宅。購入本0冊。

◆「生ける屍の死」山口雅也(東京創元社)読了
このミス10年の中のベスト・オブ・ベスト作品。今となっては見果てぬ夢となった「鮎川哲也と13の椅子」の第11回配本である。作者の音楽的嗜好とミステリへの深い造詣が遺憾無く発揮された純粋パズラー。世界を丸ごと構築しては、その中の決まり事を巧みにレッドヘリングにあしらいながら、奇天烈なフェア・プレイを挑んでくる作者ならではの快作。これは、英訳されても充分に国際競争力のあるコンテンツである。
ニューイングランドの<墓の町>に君臨する葬儀社一族バーリーイコーン。おしりも町を連続美女殺人鬼が徘徊し、警察がてんやわんやの中、その長老であるスタンリーの<遺産>を巡って起きる連続殺人事件。真っ先に殺されたのは、探偵役であるスタンリーの孫にしてハーフジャパニーズのパンク野郎フランシス(通称グリン)。え?探偵が殺されてどうする?!ご心配なく。死者はよみがえる、のである。夜も昼も歩く、のである。棺は三つではきかない、のである。霊柩車は縞模様ではなくてピンク色なのである。さあ、生者と死者の繰り広げる推理と諧謔の物語をとくとご覧あれ、これぞ論理の力である。マイト・オブ・ザ・リビングデッド!
至るところに張り巡らされた伏線の見事さ、捨て石の巧みさ。細かいくすぐりから大仕掛けなファースまで、様々なサイズの笑いと悪意を「ホラー」の器にトッピングして、ただただ論理のために奉仕させる本格魂。これは天晴れな快作である。この1作で日本推理界に名を残す傑作である。「ミステリのエリート」という言葉がこれほどにピタリとくる作品も珍しい。読んでない人は絶対損してます。


2003年2月1日(土)・2日(日)

◆掲示板にも書きましたが、うちの第一子は「女の子」です。「宝石」に囲まれた「函入り娘。」に育てようと思います。
◆新米パパ特訓中。主な業務は、使用済みおむつの処理、だっこによる睡眠への誘導、撮影及びダビング編集、おしゃぶりの購入、奥さん用にワコールの産後下着のカタログを貰ってくる、その他これに付随する業務、である。
◆新米パパ稼業の合間を縫って「本の雑誌」の原稿をやっつける。毎度の事ながら綱渡りだよなあ。
◆ダンボール箱で原書が届く。ああ、やってしまった。
"Drawn Conclusion" William Barber 1200
"Nothing Can Rescue Me" Elizabeth Daly(Penguinn)300
"Evidence of Things Seen" Elizabeth Daly(Penguinn)300
"Hangman's Hat" Paul Ernst 800
"Footsteps That Stopped" A.Fielding(UK 1st)1000
"Spider Lily" Bruno Fischer 500
"Affair at the Grotto" Ester Haven Fonseca(US 1st)1000
"Magic Casket" Austin Freeman 800
"For the Defence Dr.Thorndyke" Austin Freeman 500
"Uttermost Farthing" Austin Freeman 1500
"Black Envelope" David Frome 300
"Spinster's Secret" Anthony Gilbert(UK 2nd:DW) 600
"Skull Mountain" Dean Hawkins(US 1st:DW) 3000
"African Poison Murder" Elspeth Huxley 500
"Valcour Manmmoth Mysteries" Rufus King 1000
(="Murder by Latitude"Volcour Meets murder""Lesser Antilles Case")
"Stolen Squadron" Charles L.Leonard 2000
"Blur Rajah Murder" Harrold MacGrath(UK1st:DW) 1000
"Alarum and Excurtion" Virginia Perdue(Uk 1st:Dw) 1600
"Shroud off Her Back" Stephen Ransom(UK 1st:DW) 1300
"Banker's Bones" Margaret Sherf 300
"Desert Lake Mystery" Kay Cleaver Strahan 600
"Willow Pattern" Robert van Gulik(UK 2nd:DW) 500
"Murder by Burial" Stanley Casson(Penguin)400
"Framed for Hanging" Guy Culingford(Penguin)300
"Who is Lewis Pinder?" L.P.Davis 400
"Crowing Hen Reginald" Davis(UK 1st:DW)1300
"Mysteries of Blair House" Roy Eastman(US 1st:DW)4000
"Wheel that Turned" Kathaleen Moore Knight 800
"Murder at Glen Athol" Norman Lippincott(US 1st)700

♪ちゃらりー、自宅で血風。
「停まった足音」の初版が1000円だぜ。ペンギンのおいしいところが300円だぜ。ルーファス・キングなんか3作入って1000円だもんね。"Skull Mountain"や"Mysteries of Blair House"もカバーが付いてこのお値段だ!どーよ、どーよ!!と、このサイトを見ている人の5人ぐらいに対して自慢してみる。


◆「大誘拐」天藤真(カイガイ出版部)読了
恥かしい読書継続中。第32回日本推理作家協会賞受賞作。自称「書下ろし長編小説」だそうである。岡本喜八監督で映画化もされた名作中の名作である。それでもこの初版の帯を見ると「大ベストセラー“シャドー81”を彷彿とさせる快作である」などという揚句がついており、そんな最近の話だったのか、と改めて唸る。今やどう考えても、「シャドー81」より「大誘拐」の方を知っている人の方が多いと思うのだが。今更ながらではあるが、こんな話。
紀州一の大富豪である柳川家の女主人、とし子刀自(82歳)が、三人の前科者に誘拐される。周到な計画と綿密な準備、そして大胆な手際。だが、三人の思惑はとし子刀自の飄々とした貫禄の前に修正に次ぐ修正を余儀なくされる。5千万円だった筈の要求額は百億円というギネスブック級の身代金へと釣り上げられ、メディアを巧みに用いた接触法は捜査陣を翻弄する。果して、札束にして1トンという空前の受け渡しは成功するのか?蒼穹の下、霊山の上、全世界が見守る史上最大の誘拐劇の顛末は、ただ母の御心のままに。
二転三転するプロット、予想を裏切る展開、人間味溢れるキャラクターたちが繰り広げるどこかとぼけた真剣勝負に手に汗握る雄編。なんたる頭の良さ!なんたる優しさ!目次の前に、こんな献辞がある。「母の母なる方々へ」。まさに、これこそがこの作品のテーマである。日本の心であった母系の伝統が、男の理屈にその慈愛と聡明さをもって牙を剥く。丁度「ミサゴの森」が父系・狩猟民族の森であったのに対し、ここに描かれる紀州の森は、母なる神の象徴であり、刀自はその御遣わしに他ならない。かつて天藤真を「寡作の赤川次郎」と評した人がいた。成る程と思った。しかし、こういう作品を読むと、そこにあるSomethig Wonderfulに感じ入らずにはいられない。甘さまでが美しい。こういう作品を傑作というのであろう。なるほど「長編小説」だ。


◆「象牙色の嘲笑」Rマクドナルト(ポケミス)読了
それいけ恥かし読書。リュー・アーチャーものの長編第4作。実は、アーチャーものも、傑作が続く中後期の作品しか読めていない。恥かしラインナップ的には「動く標的」と書いておけばよかったのかもしれない。題名のIvory Grinは、死体の顔が筋肉の硬直で引き攣って笑っているように見える状態を指す(という事が「生ける屍の死」を読んで判った)。
物語は、楽な人探しの依頼で幕を開ける。癖のある偉丈「婦」の依頼人ウナがアーチャーに持ち込んだ黒人娘ルーシーの追跡調査は、実にあっけなく終わる。だが、もう1人の探偵がアーチャーを真の謎へと誘う。ルーシーの殺害、とある富裕な青年の失踪、事件のそこかしこに顔を覗かせる宿命の美女の正体とは? 暗躍する三流探偵、狂った顔役、嫉妬に悶える医師、男達の思惑を笑うのは何者。
いわゆるファム・ファタル(運命の女)もの。この分野の頂点である「さむけ」を読んでしまっているだけに、里程標的な捉え方しかできないのが辛いが、ここに登場する「運命の女」もなかなかに頑張っている。この作品が上梓された時点ではロスマク版の「さらば愛しき女よ」だったのかもしれない。加えて題名が暗示するショッカー部分も、それなりにインパクトがある。暗い情熱を描く小道具としては成功していると言ってよい。これは、初期作品も読まなきゃいかんか。