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2003年1月20日(月)

◆というわけで、掲示板や御自身の日記でお祝辞を頂きました方々、本当にありがとうございます。更新停止&更新頻度下げ宣言や、結婚告知の際を越えるアクセス数にただただ驚くとともに、温かいお言葉に感謝の気持ちで一杯です。これほどの皆さんから注目されているとは、わが子は一切知らないわけで、なんだか不思議な気がします。いずれに致しましても、親子ともども慎んで御礼申し上げる次第です。
◆出先から直帰して、病院に向かい30分だけ奥さんから今日一日の出来事を聞く。授乳だの、緑便だの、なかなかに生々しくも新鮮な話題である。
◆なんでも、1月19日は、音楽では宇多田ヒカルやらユーミン、白井貴子に石川梨華@モー娘。、小説では森鴎外や柴田翔、漫画では紫門ふみ、ミステリではポーにハイスミス、モイーズに殊能将之といった方々の誕生日だそうで、ふた親とも「負けた!」と悔しがる事しきり。
◆帰宅すると、東京創元社から献呈文庫本が到着。ありがとうございますありがとうございます。
d「プリズム」貫井徳郎(創元推理文庫:帯)頂き!
d「赤ちゃんをさがせ」青井夏海(創元推理文庫:帯)頂き!
和製「毒チョコ」との評判の高い「プリズム」は実業之日本社から東京創元社に移っての文庫化。帯とカバー表紙に懐かしい「はてなおじさん」マークが輝いているところに、作者の自負と編集者の遊び心が見て取れる。実は、背表紙からは消えて久しい創元推理文庫のカテゴリー別マークだが、時々、帯に復活していたりするようである。先日、ふと気がついたのだが、「青銅ランプの呪」や「亡霊たちの真昼」などが一挙復刊された際の「カー復刊」帯には何故か「はてなおじさん」マークがあしらわれていたりするのだ。けけけ。とはいえ、背ではないにしてもカバー本体に「はてなおじさん」マークというのはやってくれるよなあ。まあ、それだけの値打ちは充分にあるのも確かなのだが。
「赤ちゃんをさがせ」はNHKテレビドラマ化対応。創元にしては異様に素早い文庫落ちである。まあ、しかし、この御時世である、全国区の無料宣伝に乗らない手はない。実はこの作品には、少し思い入れがある。うちの奥さんに胎教代わりに、毎日数十頁ずつ読み聞かせたお話なのだ。さくらさく、ですな。うんうん。
前者はすれっからしに、後者は老若男女に御勧めできる良い作品なので、まだ読んでおられない人はこの機会に是非どうぞ。
◆購入本0冊。
◆積録してあったガンダムSEEDを3話分まとめて消化。うわっ!これが小さなお友達もみているアニメの展開かい!というような描写があってのけぞる。一言でいえばベッドシーンなのだが、私怨を晴らすために主人公を篭絡しようとするお嬢さまの誘惑、という設定がなんともお子様向きではない。大きなお友達は盛り上がってるんだろうけどなあ。
番組連動のフレッツのCFは笑える。キラ・コンテンツって奴ですか。


◆「本の雑誌風雲録」目黒孝二(本の雑誌社)読了
もう1冊、人殺しとは無縁の本を読んでみる。奇特にも私如きを起用してくれている「本の雑誌」の開祖による創世記である。「だれが本を殺すのか?」にも、「脱教養主義の先駆者」としてインタビューが紹介されているが、その辺りの本質論や、本へのスタンスについては余り語らず、営業・配本を中心とした人物往来記というか回顧録がメイン。別視点で描かれた「怪しい探検隊」構成メンバーの日常であり、「本の雑誌」という<私編集>本の「私の履歴書」である。
椎名誠の「怪しい探検隊」がアウトドアのオフ空間を面白おかしく綴り、相当部分の脚色も施しつつ読み物にこだわったセミ・ドキュメンタリーであるのに対して、「風雲録」は古老がぽつりぽつりと時系列を混乱させつつ語る昔話の感がある。従って、その人間関係を熟知していないと、些か退屈な部分もある。繰り返しもある。もともと作者は、本を読む人であって、物語を書く人ではない。面白く書くというつもりなど最初からない。飽くまでも、同人誌そのものであった「本の雑誌」が如何に、本を愛する人々によって支えられ、鍛えられ、育てられていったかが、淡々と語られる。それでも、幕切れの結婚披露宴のシーンでは泣けてくる。そこにある感動は、素材そのものが備えた「感動」100%なのである。とりあえず、この雑誌に今自分が関われている事のしあわせを再認識させられる1冊である。本は読んでも、書いても、配っても楽しいのだ。


2003年1月19日(日)

◆朝起きると父親になっていた。
◆掲示板へのお祝辞ありがとうございます。今回は伏線も叙述トリックもありません。単に隠してました。 加えて、奥さんが9ヶ月の身重の体で、大雪の日にピアノの舞台に立つなどという掟破りをやってますので、非常にアンフェアです。
敢えて申せば「なぜこの夫婦は正月に夫の実家に帰らなかったのか?」というのが唯一のヒントらしいヒントかもしれませんが、まあ、「マスオさん」と理解されれば、それまでですし。
幾つか、ご心配頂いているようなので、ご報告と今の素直な思いを書きます。
「男の子?女の子?」まだ名前も決まってないので今日のところは内緒。
「経過は?」とりあえず母子ともに良好。
「蔵書はどうする?」今のところは現状のまま別宅置き。蔵書もろとも部屋を適価で借りてくれる人がいると嬉しいのですが。郭公亭さんあたりどうよ?
「サイトはどうなる?」いま考え中。

◆病院からの知らせを受け、まずは双方の実家に連絡。鞄にデジタルムービー一式を放り込み、生まれた日にはこんな番組をやっていたのだ、と後々見せるために「おじゃ魔女どれみ(最終回)」「笑っていいとも増刊号」「NHKニュース」「ちびまる子ちゃん」「武蔵」てなところを予約録画セット。駅の売店で新聞を買い揃え、病院へ向う。おっと、前夜、退屈しのぎにと奥さんから頼まれていた文庫本を忘れちゃいけない。林望のエッセイ+イギリスを題材にした読み物で私の御勧めが何かあれば、という事だったので、真剣に悩む。子供の生まれる日に人殺しの話というのは抵抗があったので、悩みに悩んだ挙句、この本にした。
「シャーロック・ホームズの冒険」Cドイル(新潮文庫)
こういう時に限って、創元もハヤカワもちくまも在庫がないんだもんなあ。まさか新刊書店でこの本を買う日が来るとは思わなかった。

後は、本ともコンテンツとも無縁の私事の連続だったのでパス。
ただ感謝あるのみ。ありがとうございます。


◆「だれが本を殺すのか?」佐野眞一(プレジデント社)読了
子供が産まれた日ぐらい人殺しの本を読むのはやめようと、本殺しのルポを読んでみた。出版当時ネットでも相当話題になっていた本である。作者は本に纏わる様々な人々へのインタビューを通じて、出版界が置かれている危機的な状況を炙り出しにしていく。大手出版社、取次ぎ、大型書店、リサイクル系古本屋、地方図書出版、町の書店主、図書館、電子図書出版、などなど、さすがに売れっ子ジャーナリストらしいそつのない現場報告を行っている。
この人のルポが面白いのは、トップに直接会って相当に失礼な質問も平気で行うところで、逆にこの人を面食らわせる凄い回答を返す人がいたら、これはもう化け物としかいいようがない(ブックオフの社長とか、アカデミー出版の社長とか、凄いぞお)。
ただ、良く出来たルポではあるが、それだけに「言いっぱなしの両論併記」の感は免れず、仮にこれを「本」を被害者に見立てたミステリのつもりで読めば、「雀だけがいないクック・ロビンの歌」のようなリドル・ストーリーかよ!と突っ込みたくなる。それでも、この大部のルポを最後まで読み通させるのは、作者自身の本への偏愛ともいえる思い入れに、この本を手に取るであろう本好きたちが共感を覚えるからであろう。人を批評する事は大好きだが、人から批評される事は大嫌いな頭でっかちなインテリを悪役に据えておけば、とりあえず物語は面白おかしく読めるし。巧いね。
題名が「だれが本を殺したのか?」という過去形でないところに作者の一縷の望みを感じる。網羅的に出版を鳥瞰した気になるには手頃な本であろう。


2003年1月18日(土)

◆「瑣末の研究」の「帯に短し」で疑問を呈しっぱなしであった「自負のアリバイ」の帯について、加賀美雅之氏からメールを頂く。実は1年前に「本の雑誌」のコラムでこの疑問が解消した事(「自負〜」にはチェックメイト78帯はない)をネタにしたのだが、サイトの方は手直ししていなかったのだ。
お手数掛けました。御教授ありがとうございます。
なんと申しますか、

「ええ人やっ!!」

いやホンマ。
◆本日の正午過ぎに33万アクセスを達成しました。小林晋さんに踏んで頂きました。久々に申告を頂き、光栄であります。
◆図書館に本を返却して、新たに何冊か借りてくる。そろそろ別宅に取りにいかないと「恥かし読書」が出来なくなってきた。でも「大誘拐」とか「生ける屍の死」とか、最初の版なんだよなあ。汚したくないんだよなあ。「大誘拐」なんて「カイガイ出版部」版だよ。って、なんだよ、この出版社?
◆定点観測。安物買い。
d「十月の旅人」Rブラッドベリ(大和書房)100円
d「人喰い猫」Bルーシェ(角川文庫)100円
「驚愕の曠野」筒井康隆(河出書房新社:帯)100円
「海鰻荘奇談」香山滋(講談社大衆文学館文庫)650円
「十月の旅人」は新潮文庫と同じ内容なのだろうが、元版が100円だと思わず拾ってしまう。
筒井本は出ていた事も知らなかった本。こういう本も文庫になっているんだろうなあ、んでもって文庫本の方が珍しかったりするんだろうなあ。まあ、初版帯だし。100円だし。
香山滋は三一の全集で読めるので厳密には「d」マークをつけなきゃいけないのだろうが、ここは「大衆文学館文庫」に敬意を表してd抜きでいきましょう。


◆「驚愕の曠野」筒井康隆(河出書房新社)読了
中編の入れ子細工SFを、一冊の本にして出した偉そうな作品。これがSFマガジンにでも載っていれば、「ホロコースト後の日本を思わせる階層宇宙でのモンストロスな生き物の営みを描いた物語の物語」ぐらいの解釈でつるっと読んでおしまい、「なんだが筒井康隆の真似をする椎名誠の真似をする筒井康隆みたいだねえ、あっはっは」で終わるところなのだが、「文藝」などというおハイソな文芸誌に載ると「高度な実験性を孕んだ野心作」であり「ポストモダン小説の創造的袋小路を演出できる作家は日本では筒井康隆しかいない」とか、「ここにコルタサルの『石蹴り遊び』のような断章による小説の構成という実験的な意図を読み取ることも可能」「外枠のある物語世界を思い浮かべることもできるだろう」とか、判ったような判らんような事を言わなければならないのである。てめえらの評論の方がよっぽどSFじゃあ!と仲間由紀恵風啖呵を切っておしまいにしたいところである。
尚、「文藝」扱いで生まれたこの作品だが、最近刊行されたこの作品を表題作とする自選小説集の括りは「ホラー編」であった。売れっ子SF作家のホラーを文藝だと強弁しなければならないところに、自負の罠に落ちて袋小路の果てで呻吟する文藝界の閉塞感がよく出ているように感じるのは評者だけではあるまい、みたいな。


2003年1月17日(金)

◆啓示板へのたれこみ(というか自供)によれば、あの原書SF読みの湯川光之さんとワタクシは、同じ会社に勤めていたようである。そうか!そうだったのか!!俺、なにかヤバイ事云ったり、書いたりしてなかったよなっ、なっ、なっ。オルガニストな山之口洋氏が以前務めていたりとか、トレッキーのBNFがいらっしゃるとかも聞くので、SF的には結構充実した会社なのかもしれんですのう。うちのフロアにも「まるペ」の現役が二人もいるし。それに引き換え、ミステリの方はもう一つ噂を聞かないんだよなあ。よしださんのお友達の冒険小説ファンはいらっしゃるんだけど、ミステリってSFと違ってファンである事が漏れにくい閉じた世界なんだろうかなあ。御同業には結構いらっしゃるんで、絶対社内にも棲息してると思うんだけど。まあ「同じ会社だからなんだ」というわけではないんだけど、「どうせ職場なんかにゃ、話の判る人間はいないよね」と思い込んでいたりするので、同好の士がいると盛り上がってしまうのである。
ゆかわさーーん、お互い今年も頑張りましょうねえ。まあ、ワタシらサイトの管理人は、一人ひとりが創業者みたいなもんでっさかいに>私信
◆八重洲古書センターを定点観測。「秘文字」の軽装版を生まれて初めてみる。知ってる人は知っている、中井英夫・日影丈吉・泡坂妻夫の暗号小説集である。小説そのものが暗号で書かれているという趣向本。「へえ、幾らつけてるんじゃろ」と値段をみたら、7000円だった。
おおおおおお、なんか、久しぶりに気合の入った古書価格をみてしまった。最近まともな古書店に行ってないもんで。軽装版で7000円だったら、函装の元版は一体幾らになるんじゃろか?でも、この本って、軽装版は平文が袋綴じでついているけど、元版はカードを出版社に送らないと平文を貰えないんだよね。このサイトを立ち上げた頃には、かろうじて平文冊子の在庫があったらしいんだけど、もはや出版社(社会思想社)そのものがなくなっちゃったもんなあ。元版を御買い求めの方はご注意を。購入本0冊。


◆「四人の申し分なき重罪人」GKチェスタトン(国書刊行会)読了
チェスタトンは「ブラウン神父」以外の作品には手をつけてこなかったのだが、昨年心を入れ替えて集中的に読んでみた。そして、改めてその凄さに驚いた。論理と逆説の曼荼羅、哲学と諧謔のアクロバット、この巨人の前では、あのなんでも学者アジモフの教養が薄っぺらに思えてしまう。実は昨年は個人的に「チェスタトン・イヤー」であり、読了本ベスト1もチェスタトンだった筈なのである。
閑話休題、チェスタトンはドイルとは違って、ある程度、教養を蓄えてから読んだ方が真価が分かる作家なのかもしれない。ブラウン神父も30年ぶりに再読してみれば、さぞ新たな発見があるんだろうなあ。なにせ、こういう「知る人ぞ知る」てな本でもこれだけ面白いんだから。という訳で、一昨年の話題作。出版は国書刊行会。叢書は曲玉揃いの「ミステリーの本棚」。翻訳はファンタジーノベル大賞受賞作家・西崎憲。申し分なきお膳立てである。収録作は4中編、これを「奇商クラブ」的サイドストーリーで挟み込む構成。それぞれの題名からしてが反語、形容矛盾の連続である。曰く「穏和な殺人者」「頼もしい藪医者」「不注意な泥棒」「忠義な反逆者」。その全てに作者一流の諧謔が秘められている。以下ミニコメ。
「穏和な殺人者」なぜ人当たりのよい家庭教師は人望家のポリビア総督を撃たなければならなかったのか?鳥瞰と洞察が狂奔を呼び、心優しき暗殺者は必中の弾丸を放つ。長まわしの人物関係とロケーションから、不可能を可能とする逆説が現われる。ポンド氏の「三人の騎士」系の謎解きが鮮やかな開幕編。
「頼もしい藪医者」一本の樹を囲うようにして家を造り守ってきた老詩人画家。不可侵の庭が侵された時、友人だった筈の医者は、大学者の診断をもって詩人の名誉を踏みにじる。洞が孕む秘密が暴かれる時、逆転の審判は樹上から降る。奇矯な好人物たちの営みが楽しい。「孔雀の樹」を思わせる<樹>譚であり、大掛かりな逆転の果てに捕らわれる真犯人像に驚く。
「不注意な泥棒」資本主義の権化である父に対して、息子たちは夫々の道を選ぶ。忘我の中で、智を愛する泥棒はその正体を現し、一族の名を貶める不法行為に我が身を投じる。ある愛の形を描いた快作。法廷での逆転が爽快であり、真犯人の論理と倫理に唸る。
「忠義な反逆者」軍人、銀行家、学者、詩人、一国の基盤を根底から覆す実力をもった4人の反逆者たち。秘密警察がとある忠義者の手引きで、4人の集う本拠に踏み込んだ時、そこには誰の姿もなかった。果して鮮やかな消失の真相とは?「真実の言葉は一」チェスタトン流の社会論が垣間見える短めの「木曜日の男」。捨てネタの<詩>の立派な事よ。
「新聞記者のプロローグ&エピローグ」ようこそ!チェスタトン・ワールドへ!


2003年1月16日(木)

◆「安田ママさんの勤務先では、なぜ国書刊行会の本が天井近くの棚に並べられているのか?」
その意外な真相は、啓示板にて。
◆シンクロニシティーというのはある。
偶然にも、今年1月9日、畸人郷代表の野村さんと私が「マルタの鷹」を読了していた。それも申し合わせたように同じ版(河出書房のハードボイルド・シリーズ)で。お互い甲羅に苔の生えたようなミステリ読みが、なんでまた?
さあ、みなさんもご一緒に「まるちーーーーず」

こんな邦題は厭だ「マルチーズの鷹」
「オレの名はファルコ。2歳半のマルチーズだ。密偵(イヌ)呼ばわりする奴あ、がぶっといくぜ。オレは、負け犬じゃあねえ。」みたいな〜

◆ミステリ・サイトの穴場
もし、貴方が欧米ミステリのファンでこれからサイトを立ち上げるのであれば、ネロ・ウルフ研究サイトをお勧めする。
「世界でも十本の指に入るほど有名な探偵であるが、日本では余り読まれてない」
「相当数が翻訳されてきたが、まだまだ未訳作も多く、翻訳されたものも絶版だったり、雑誌の訳されっぱなしだったりで入手困難な作品が多い。といっても、<絶望指数>はさほど高くない。」
「研究書は原書は豊富に存在するが、日本語では雑誌連載程度しかない」
てなバランスが研究の対象として絶妙だと思うのだ。
因みに、聖典については長編33作、短編41作、うち翻訳のある長編が20作、短編が37作だと思う。
要は、メジャー界のマイナー・チャンプなのである。
これが、メグレ・クラスになると、マイナーではあるが既にお洒落なサイトがあって書誌なども完備されている。
逆に、私が偏愛しているポール・ドハティーやジェニファー・ロウのサイトを立ち上げても一部の原書読み以外からはまずもって注目されない。グエンダリン・バトラーなんかもそうだろう。同じく、イネスやマーシュ、スチュアート・パーマーあたりは、日本語で紹介されてい作品が少なすぎる。
それに対してネロ・ウルフは、前述のように、作品数も少なすぎず多すぎず、知られているようで知られていない、読まれているようで読まれていない。
さらにキャラ萌え方面にも対応が可能なことも大きな特徴、いや、キャラ萌えこそがウルフの正しい読み方であるという指摘すらある。(実際に、ホームズ&EQのキャラ萌えからアーチに転んだ美女を一人知っている。)
加えて、料理コーナー(風読人さんに既にあるといえばあるのだが)と専用BBSを設ければ、女性客の確保も可能だ。
ウルフ本探しますというコーナーも、盛り上がるかもしれない。
映像化作品についても、古いものから最新のテレビシリーズもあったりして、いいかもね。
というわけで、どなかたか始めませんか?
今、始めれば、貴方が第一人者です。
読みながらサイトを育てる楽しみもありますし。
◆私的メモ:一時見失っていた、呉さんの原書購読頁の場所
◆社内の電子名簿で偶然「湯川光之」さんなる人物が同じ会社にいることを知る。あの原書SF読みの湯川光之さんなんだろうか?どきどきどきどき。場所(在阪)や年齢的には合わないこともないんだよなあ。たれこみ、ギボンヌ。
◆あ、また「妖奇」について書きこそねた。


◆「殺人はお好き?」DEウェストレイク(早川書房)読了
文庫落ちしていないウェストレイクの中編集。「警官ギャング」ほどではないが一応の入手困難作。二中編のうち長めの表題作「殺人はお好き?」はHMMに「トラヴェスティ」の題名で連載された怪作。一時期ウェストレイク(スターク)がHMMに連載・分載された時代があるのだ。こういうのは編集長の趣味なのであろう。で、この「殺人はお好き?」がなかなかの拾い物。
主人公は、映画評論と伯母の遺産で高等遊民を営んでいる「わたし」ことケリー・ソープ。そのわたしが、はずみでガールフレンドの人妻ローラを殺してしまう。それを、夫の依頼でローラの行状を調査していた私立探偵エドガースンに知られ、脅迫される。と、まあ、ここまでは非常にありがちの設定である。ところが、ここからがこの中編(というか連作短篇)の凄いところで、何故かわたしは、ローラ殺しの捜査官ステープルズと接するうちに、名探偵の素質ある事に目覚め、ステープルズが担当する難事件を、次々と解決していく羽目になるのである。ある時は、ハリウッド人種の集まる試写会でのフーダニットに挑み、またある時は、ゲイのコピーライターのダイイングメッセージを読み解き、またまたある時は、政情不安の小国の大使館で起きた完全密室殺人の謎を解明する。全編これミステリのコードをおちょくりながら、「犯人=名探偵」という裏と表のドラマを軽快に描いた作品。型を重んじる人からは好かれないかもしれないが、挿入される「本格推理」はどれも一定の水準に達しており、「書こうと思えば書けるんだぜ」というウェストレイクのほくそ笑みが見えるようで楽しい。皮肉なラストに至るまで、作者の職人芸とミステリへの愛を堪能されたい。これは全てのミステリファンに御勧め。
併載されている短めの「オードウ」は、いまや世界のセックス・シンボルとなった大女優と自分が若かりし頃に一時期結婚していた事を知った中年男の物語。これといった事件が起きる訳ではないが、人生の綾を感じさせるストレート・ノヴェル。「殺人はお好き?」がハリウッドの虚飾を内側から見ているのに対し、こちらは外から見たハリウッドの不思議を容赦なく暴き出す。渋い。ふと男の逃げ場としての「軍隊」についても考えさせられる。ハリウッドも軍隊もない日本人には書けない小説であり、ショーウインドの向うのアメリカを感じさせる作品であった。


2003年1月15日(水)

◆たっくんにも「こんな邦題は厭だ」に反応頂きました。ありがとうございます。
◆途中下車して安田ママさんの勤務先で新刊買い。
「四人の申し分なき重罪人」GKチェスタトン(国書刊行会:帯)2500円
「悪党どものお楽しみ」Pワイルド(国書刊行会:帯)2400円
「箱ちがい」スティーブンスン&オズボーン(国書刊行会:帯)2200円
「『妖奇』傑作選」ミステリー資料館編(光文社文庫:帯)781円
こちらの店に脚を運ばれたミステリファンは御存知だろうが、国書刊行会のミステリはこの店でも一番高い棚にある。これがとてもではないが普通には手に取れない高さなのだ。つまり、それだけ他の客に手に取られる事がない訳で、担当の安田ママさんしか触っていないであろうピカピカの美本である事が期待できる。反面、脚立を借りねばならず、一旦借りたからには「あれこれ迷って結局買わない」というウインド・ショッピングをやるには相当度胸が要る。
考えてみれば、この店で、脚立を借りるのは始めての経験だ。図書券コーナー側にいたショートカットの女性店員さんに「あのー、高い棚の本をとりたいんですが」と恐る恐る声を掛けると、「はい!」と元気のよい返事。てきぱきとレジの奥から脚立を取り出し、現場に向う。
んじゃと、脚立を借りようとするが、「いえ、私が取りますので」ときっぱりおっしゃる。ううむ、下手に落ちて怪我でもされたらいかんということなのか。これでは「自分で本棚から本を取り出す」という本買いの快感が味わえないよなあ、と思いながらも、自分の身長ぐらいある脚立にすたすた上がっていく店員さんのおみ足が眩しくてどぎまぎする。
「じゃ、じゃあ、右からの2冊目の『四人の申し分なき重罪人』を」と、とりあえず本日買うつもりの1冊を指定する。
「はい!他にはございませんか?」
う、うう、そう言われるとなあ、確かにこの叢書は買いそびれているんだけど…。折角、脚立に登ってもらったんだしなあと思うと、財布の中身も顧みず
「あ、じゃあ、その隣の『悪党どものお楽しみ』を」と口走る。
「はい!これで、宜しいですか?」
あ、そんな目で見ないでくれ、そんな風に迫られたら、おぢさんは、おぢさんはねえっ!!
「そ、その隣の『箱ちがい』もお願いします!」
あーあ、言ってしまった。
「はい、ありがとうございます」とずっしり三冊の「ミステリーの本棚」を手渡される頃には、息も絶え絶えである。この間、1分間。安田ママさんの勤務先で国書刊行会の本を買うのは斯くもスリリングなのである。安田ママさんの勤務時間であれば、ママさんが脚立に登ってくれます。みんなで国書刊行会の本を買いにいきましょう。
以上、報告します。田中さん(仮名)によろしく。>安田ママさん:私信
◆とか書いていたら、「妖奇」について触れる時間がなくなったので、これについてはまた明日。
◆駅のワゴンで一冊拾う。
「マスクのかげに」オッレ・ヘーグストランド(TBS出版会)200円
御存知北欧ミステリシリーズの1巻。これだけがハードカバーである。個人的には3冊の中で一番見掛ける本ではあるが、美本だったので所持本と入れ替えようなかと思い拾ってしまった。高い新刊を買ったので、安い本を買って平均購入価格を下げようという無意識の行動かもしれない。>ヲイヲイ


◆「D坂の殺人事件」江戸川乱歩(春陽文庫)読了
恥かし読書日本編。なぜこの作品を読んでいないのかは判らないのだが、乱歩の短篇には結構読み逃しがある。もともとNHKの「明智探偵事務所」放映に合わせて出版された春陽文庫の長編全20巻が乱歩初体験だったので、短篇集9巻となぜか1冊だけ別扱いされていた長編「三角館の恐怖」の方は後回しになり、そちらの10巻についてはこの「D坂」を始め「パノラマ島」やら「三角館」が未読だったりする。
で、カフェー白梅軒なるどこかで聞いた事のある店の向かいにある古本屋が舞台となった明智小五郎初登場作を齢44歳にして初めて読んでみた。
いい。実にいい。短い中に目撃者の錯誤と探偵合戦の趣向が盛り込まれ、更に動機が実に「乱歩」なのである。なんたるサービス精神。古本屋の美人女房が被害者というだけで基礎点が高いところに持ってきて、このクオリティーである。なんたる稚気、なんたる自信。海外の著名作を引き、心理学的実験を元に、純和風のフーダニットに仕立て挙げた手腕は、やはり頭一つ抜けているという印象を強く受けた。眼高手低などと知った風な事を云う勿れ。乱歩は眼が高すぎたのだ。
他の収録作はさすがに再読ばかりだが、「何者」の足跡の謎と動機の不可解性、「黒手組」の暗号趣味とほのぼのとした展開の妙、「恐ろしき錯誤」の妄執とその悲惨な結末、「一人二役」「算盤が恋を語る話」といったコントまでが逆転の妙に満ち溢れている。
そして個人的にはこれまで読んだ乱歩短篇のベストである「赤い部屋」!この意表を突く殺人アイデアの見本市はどうだ!しかも、二転三転するプロットで鮮やかに着地を決めて、そこに無駄の欠片も感じさせない。
なるほど、こうして人は乱歩に回帰していくのだな、と理解した。文句なしの傑作集である。


2003年1月14日(火)

◆定点観測。安物買い。
d「ササッサ谷の怪」コナン・ドイル(中公ノベルズ:帯)100円
d「真夜中の客」コナン・ドイル(中公ノベルズ:帯)100円
「殺意の構成」有馬頼義(角川小説新書)100円
ドイルの短篇集帯付きが100円は珍しい。三巻目がなかったのが心残りだけど贅沢を言ってはいけない。
有馬頼義は、叢書がちょいめずだったので拾う。この人の作品も買うだけ買って1冊も読んでいないんだよなあ。「4万人の目撃者」とか「36人の乗客」とか「遺書配達人」とか、「読んでないと恥かしいけど実は読んでいない」ベスト候補ではあるのだけれど、実際のところ「読んでないと恥かしい」と余り思えなかったりするわけで。
◆未読王さんの昨年買った古本ベスト12が凄い。一気に並べられると思わず嘆息せざるを得ない綺羅星の如きラインナップである。しかも値段が相場に比べて破壊的に安い。さすが、買う事だけで本を出せる人は違う。
私の場合、去年の古本ベストを選べば、その全てが原書になってしまいそうである。しかも第1位は大鴎さんから貰ったアフォードになりそうで、、
◆茗荷丸さんにも「こんな邦題は厭だ」企画に乗って頂く。
ううむ、今の邦題と同じというのは少し趣旨が違うような気も、、、私なら「ザ・ホット・ロック!」と逃げるところですか。


◆「さらば愛しき女よ」Rチャンドラー(ハヤカワミステリ文庫)読了
恥かし読書継続中。さすがにエバーグリーンな名作ばかりで、ここまでのところ、ハズレがなかったのだが、遂に力尽きた感がある。この話も今更梗概を紹介するまでもない超有名作。
マーロウはひょんな事から、8年ぶりに娑婆に出てきた大鹿マロイなる巨漢と知り合う。マロイは逮捕前に付合っていたヴェルマという名の赤毛の歌手を捜し求めていた。蝿を捻り潰すが如き殺し、喧燥の中に消える重戦車、探偵の本能のままにヴェルマを追うマーロウ。盗難宝石の買い戻しというお上品な役柄までが死に至る罠に変化する夜。暴力と麻薬、監禁と脱出、権力と腐敗、押し掛ける美人助手、しなだれかかる富豪の若妻、全ての糸が繋がる時、5発の銃声がマーロウの部屋に轟く。
御都合主義とオトコの思い込みに満ち溢れたファンタジー。この物語を愛する人には申し訳ないが、読んでいるこちらが気恥ずかしくなるほど、展開が甘い。物分かりのいい警察官、すべての調べを持ち込んでくれる元警察署長の娘、賭博船への手引きを行う元警察官、マーロウの捜査が行き詰まるたびに、よきサマリア人たちが、オリーヴの水引をかけて手掛りや突破口を持ち込んでくれるこの安易な展開は何なのであろうか?これを「リアリズム」というのは、黒死館を建売住宅というようなものではないか?マーロウに憧れるハードボイルド主義者は、少なくともエラリー・クイーンや、エルキュール・ポアロの立ち聞きを御都合主義と笑う資格はない!と断じてしまおう。
面白いか面白くないか?を問われると、確かに面白くなくはない。「大鹿マロイにオトコの純情を見るだろう?」「その通り」!だが、リュー・アーチャーやら沢崎を先に読んでしまった私も唸らせるオリジナルな凄みがあるかと云えば、残念ながら「No」である。そこが、本当のオリジナルであるハメットとの決定的な差である。江戸川乱歩がチャンドラーの解説をパスしたくなる理由が分かったような気がする。


2003年1月13日(月)

◆朝からテレビを点けっぱなしにしていたらWOWOWで「34丁目の奇跡」が始まってしまう。今更のクリスマス・ストーリーなのだが、爽やかな展開についつい見入ってしまう。老舗デパートの玩具売り場。前任者が酒乱で仕事をしくじったため、急遽雇われたサンタクロース役の老人。その正体は本物のサンタクロースでした〜、というお話。メディアを動員して世論を煽ったり、法廷での公聴会でサンタの存在について白黒つけるというのがいかにもアメリカ的。いやあ、感動しちゃったよ。早く、お正月がこないかなあ。>ヲイヲイ。
◆昼からは奥さんが同じくWOWOWの「病院坂の首縊りの家」に見入る横で、ノックスを読みながらうたたね。余り、いい夢はみられそうにない。
◆夕方定点観測。安物買い。
「ザリガニマン」北野勇作(徳間デュアル文庫)100円
「夜聖の少年」浅暮三文(徳間デュアル文庫)100円
ううむ、「かめくん」をまだ買ってないんだよなあ。


◆「サイロの死体」Rノックス(国書刊行会)読了
原書も含めて買うだけは買ってあるノックス。「陸橋殺人事件」に続いて2冊目の読書。一度、原書で挑戦しようとしたが、シッポを巻いて退散してしまった代物である。実は今回、日本語で読んでいても、何度か途中で投げ出したくなった。語彙が難しいというか、持って回った表現が読者を選ぶというか、なるほど、読み終わってみればノックスの代表作といわれるだけあって、大胆不敵な本格推理である事が判るのだが、どうも官民双方の探偵の動きがギクシャクしており、そこへ様々なノイズが混じる。このノイズを妙なる論理の音楽に聞き取れる左脳の持ち主向きの話なのではなかろうか、と思えてならない。こんな話。
保険会社の調査員ブリードンは妻のアンジェラとともに、実業家ハリフォードのホーム・パーティーに招かれる。そこで、国家的重要人物の不審死に遭遇し、様々な方面から探偵役を押し付けられてしまう。逗留客は他に青年小説家、ガレージの女経営者、野卑な成金夫婦、如何にも田舎出の善良な夫妻など。事件の夜に、ハリフォード夫人の提案した駆け落ちごっこは、一同のアリバイを錯綜させ、捜査陣を混乱させる。死体の発見現場であるサイロとその周辺に散りばめられては、消え失せる「証拠」は何を物語るのか?手掛りの頁を挙げて論証される事件の真相は、猿だけが知っていた。
絵に描いたような本格推理である。魅力のない人物がうろうろと動き回り、抜け抜けとした伏線を、偽の証拠とアリバイ吟味とレッドヘリングに埋没させ、どこまでもフェア・プレイの仮面を貫き通す仮説の化け物である。一本の補助線で全ての不可解を解決してみせる手際の鮮やかさは、さすがノックスの最高傑作である。ただ、その滋味深くも皮肉をきかせた語り口がどうにも性に合わない。私にとっては、褒めざるを得ないが、愛せない黄金期の本格推理小説であった。「本格推理が好き!」という方は是非一読して御感想を聞かせて欲しい。


2003年1月12日(日)

◆ちょっと定点観測。
「ヘッドライト」S・グルッサール(ハヤカワ文庫NV)50円
「メリンダ」G・セルヴィデオ(早川書房)50円
「禁じられたノート」A・デ・チェペテス(早川書房)50円
「E.G.コンバット3rd」秋山瑞人(電撃文庫)200円
早川ノベルズのソフトカバーを安くで拾える。ガイア・セルヴィデオなるイタリア女流作家の「メリンダ」という話がジャンルを越えたハチャメチャ小説らしい。ちょっと期待したりして。でも、読まないんだろうなあ。
◆「武蔵」は大河っぽくないエンタテーメント剥き出しの展開に御大層な演出がついていってない印象。ううむ、どこまで我慢できるか。
◆積録しておいた堤監督作品「溺れる魚」を視聴。冒頭のサイコな殺人現場の実験的映像から一転、二人のダメ刑事の外れっぷりをコミカルに描き、仲間由紀恵の啖呵でオープニング。ホンキートンクな企業脅迫事件を軸に、正邪、ノーマル・アブノーマル、オヤジ・ガキ、ヤクザ・警察、日本人・中国人、ガンマン・パンピー入り乱れるドタバタアクションを緩急自在に(ちゅうか、好き放題に)仕上げた趣味の一編。エンディングテーマは勿論、鬼束ちひろだ!
全編「こんなんありかい!」の連続に、最初のサイコな一家惨殺の解決はどこかへすっ飛んでしまう。これって原作もこうなの?いや、そんな筈はないよね。とりあえず窪塚洋介の壊れっぷりを堪能できます。脚が凄く綺麗なんです。うっふん。


◆「推定相続人」Hウエイド(国書刊行会)読了
私の記憶が確かならば、国書刊行会・世界探偵小説全集の第一期に予定されていながら、ひたすら翻訳が遅れ、「見えない兇器」の配本を繰り上げ第二期送りとなった留年生的な作品。これと「ソルト・マーシュの殺人」は後10年もすれば、どこぞのミステリ研のカルトクイズのネタになるであろう。
まず、加瀬解説の書き出しが泣かせる。加瀬氏は、もしヴァン・ダインが「グレイシー・アレン」と「ウインター」しか紹介されなかったとしたら、もしクイーンが「心地よく秘密めいた場所」と「最後の女」しか紹介されなかったとしたら、と、ヘンリー・ウエイドの「悲劇」を訴える。そうか!「リトモア少年誘拐」「死への落下」でウエイドを判断してはいけないのだ!この作品こそが、ウエイドの「グリーン家」であり「ギリシャ棺」なのである!!待たされに、待たされつづけた事もあって、この作品への期待はいやますばかり。飛ばし読みが常態の私にしては珍しく、一行一行真剣に読んでみた。
で、一読しての感想を一言で申し上げれば「うーん、なぜこの作品だったの?」という事。結局のところ、加瀬氏の喩えを借りればヴァン・ダインの「甲虫」、クイーンの「シャム双子」クラスの作品じゃないのかな?
中味は、一族の長老の爵位と遺産を相続すべく、一線を越えてしまった「遊び人」の殺意の顛末を皮肉たっぷりに描いた倒叙推理。どこを切っても、ど真ん中への豪速球ではないのである。とりえあず、いかにもイギリスらしい貴族制度と相続制度の綾と人当たりのいい殺人者の肖像を楽しむ小説であって、そこにマトモに盤面に向き合う騙りと知恵の真剣勝負を望むと肩透しに逢う。本格推理の文法に疲れてちょっと投げてみた変化球。ルールは守っており、ストライクはストライクだが、これを長編でやられると徒労感が残る。
結局、本格推理作家ウエイドの真価が日本の読者に広く知られるのには、「警察官よ、汝を守れ」の訳出まで、なお2年間を要したのであった。イギリスが好きな人はどうぞ。


2003年1月11日(土)

◆購入本0冊。
◆「こんな邦題は厭だ」に御反応頂きありがとうございます。なるほど、珍訳といえば「東京泰文社の手書き帯」でしたのう。>やよいさん
「医者はいらない」は伝説だよなあ。あとは「カミナリ舞踏会」とか「月の湖上船」とか>ねえよ。
んで、よしださんに倣って、もう少しやってみる。

「ライネマンの両替」(The Rhinemann Exchange)
ナノセカンドの判断ミスが破滅に繋がる金融市場。それは経済戦争という名の消耗戦。南米アルゼンチンをデリバティブと為替操作でデフォルトに追い込み、アメリカ経済を破壊しようとするマルクとYENの陰謀。それに立ち向かうユダヤ人銀行家ライネマンの活躍を描いた問題作。
「失われた12年」の真相はこれだ!あの9.11も予言した迫真の経済謀略小説!!植草一秀氏、推薦!

「コップは嫌いや!」(Cop Hater)
またコップがこわされてしもた。なんでコップばっかりこわすねん?ねーぽん屋のおばんちゃんとこやライスカレー屋のおっちゃんとこのコップだけをこわしていく怪人「コップ平太」。次はアイスクリン屋のねえちゃんとこか?
ああもう、大人は全然当てにならへん、誰が捕まえてくれんねん?
「ワイや」「わいや〜!」。そう!かれら「ハナのガキでか署」。

「四天王の印」(The Sign of Four)
持国・増長・広目・多聞、印度密教四天王が十九世紀末の魔都倫敦に降臨する。阿片と霊波を武器に<異教徒>を退廃と自滅に追い込む四天王の魔手。麻薬中毒者の治療に携わっていた青年魔法医師ワトソンは、バスカヴィルの魔犬の加護を得て敢然と邪教との闘いに乗り出す。
白魔術、陰陽道、魔人、淫婦入り乱れる世紀末大伝奇、オカルト作家ドイルの真骨頂!!友成純一訳でここに颯爽登場!!
「木火土金水?」「元素的なことですよ。ワトソンさん」


◆「黄色い犬」Gシムノン(創元推理文庫)読了
引き続き、創元推理文庫の合本の片割れを読んでみる。現代にも通じる劇場型犯罪とその歪な真犯人像を描いた「男の首」とは打って変わって、クローズドサークルでの毒殺や伝奇的な動機など、黄金期本格推理の道具立てを用いたお話。しかし、一筋縄ではいなかいところがメグレもののメグレものたる由縁である。こんな話。
ブルタニュー半島にある漁村コンカルノーで銃撃事件が起きる。被害者は地元の名望家。円満な人格で知られる彼に敵はなく、捜査陣は困惑する。だが、引き続き、第一の被害者のトランプ仲間3人がメグレの眼前で毒殺未遂事件に遭遇、時置かずして三人うちの一人であるコラムニストが血痕を残して失踪するに至り、村の人々の不安は一気に募る。果して港に出没する大柄な浮浪者と黄色い巨犬の正体とは?色を好み、利権にぶら下がる「名士」の虚妄。生活に埋没する純愛と悲恋。海風に立ち尽くす復讐の神。屋根からの眺めはメグレに何を教えたのか?檻の中、獣はそこに二匹いる。
銃撃事件、毒殺未遂事件、失踪、毒殺、逃亡と追跡など次々と勃発する事件を泰然として見守りつつ、短気な市長の追求を一蹴して、鮮やかな大岡裁きをやってのけるメグレに拍手喝采。冒頭述べた通り、道具立ては欧米の黄金期そのものなのだが、その料理法が心憎い。コードを前提としたうえで「裏メグレ」ともいえる復讐者を登場させ、すれっからしの意表を突くプロットを組み上げているのである。クライマックスに至っての正邪の逆転劇は痛快の一言であり、弱者への優しさが心に沁みる。これは翻案して遠山の金さんにでも使えそうであるが、実は、結構新しい「モンテ・クリスト伯」だったりするのである。