戻る


2002年12月10日(火)

◆年間ベスト三重誌「このミス」「本ミス」「Jミス」、あとはウルダケヤン。
◆朝、奥さんからの頼まれものを調べていたらパソコンがトラブル。修復しているうちにタイムアップで、日記更新出来ずじまい。とほほ。
◆大矢ひろ子さんやら、姫川みかげさんの探究本を探しに、一駅途中下車して定点観測するが、完全敗北。うーん、ここまでフルホン勘が鈍っているとは。
よく楽器をやる人が、毎日何時間も練習していないと勘が鈍るというけれど、古本も似たようなもんですか。日々これ修業、常在戦場!購入本0冊。


◆「スラム・ダンク・マーダー その他」平石貴樹(東京創元社)読了
とりあえず、ショート感想。
サラシナ・ニッキの今のところの最新連作集(といってももう5年前の作品だけど)。
それぞれに「エラリー・クイーンの冒険」並みのシャープなフーダニットが味わえ、通読すると後期クイーン的テーマが浮かび上がってくるという優れもの。ホントにこの人を作品を読まずして、日本の本格推理シーンを語ってきたかと思うと背筋が寒くなる。講談社ノベルズ印の新本格の登場以前にも、日本の本格回帰のマグマはどっくんどっくんと脈打っていたという証左である。軽妙な語り口や、オタクな蘊蓄、オヤジな地口に眩惑されていると、巧みに撒き散らされた伏線やら、堂々とさらけ出されている証拠を見逃してしまう事請け合い。短篇フーダニットとしては、海渡英佑の吉田警部補シリーズに勝るとも劣らない完成度。そして探偵の魅力は百倍上。もっと、サラシナ・ニッキを読ませてくれええ。


2002年12月9日(月)

◆12月にしては珍しい雪化粧の中、大阪日帰り出張。新幹線で下阪中、熱海を過ぎた辺りのトンネル内で停電し、30分間停車する。非常灯だけがぼうっと灯る中、本も読めず、iモードも圏外で、手持ち無沙汰なまま悶々と復旧を待つ。その間、自動扉が開かないのはともかくとして、(センサー駆動につき)便所の水が流れなかったり、水道の水がでてこなかったりするのは、なかなかの非日常感覚。年がら年中トリックの案出に追われている推理作家ならば、二つ、三つネタを作るかもしれないなあとか思ったりして。とりあえず、アリバイつくりには使えねえ!って感じだけどね(オヨヨ大統領の短編に似たようなシチュエーションがあったけね?)。それにしても、30分程度の停電では、乗客が誰一人おたつかないのには感心した。凡庸なシナリオライターだと、停車するなり「なんだ!」とか「どうしたんだ!」てな台詞を言わせたくなるのでは?みんな平然と寝てるんだもんなあ。こちらも、ある意味での、非日常感覚。

ひかりを眠らせ ひかりの屋根に雪ふりつむ
こだまを眠らせ こだまの屋根に雪ふりつむ

◆課題図書を読み切りそうだったので、保険に新刊1冊購入。
「このミステリーがすごい 2003年版」(JICC出版)667円
「アイルランドの薔薇」はもう少し上位が狙えると思ったんだけどなあ。個人的には小山正氏の原書コレクションがツボである。こういうニッチな話は大好きです。愛してます。うっふん。


◆「亡国のイージス」福井晴敏(講談社)読了
日本推理作家協会長・日本冒険小説協会賞・大藪賞(そんな賞もあったんだ)受賞の作者の第2作。面白い。涙が止まらない。くそう。こんな「ザ・ロック」と「沈黙の艦隊」の設定を頂いたお話しで泣かされるとは。おーい、おいおい。通読して「ほーーっ」と長い溜息をついた後に、もう一度ここぞという、場面を読み返しては涙ぐんでしまう。おーい、おいおい。くくう、泣ける、泣けるなあ、この話。小説でこんなに泣かされたのは久しぶりの事である。これから「泣ける話」と言われたらこの話を上げることにしよう。こんな話。

(永井一郎の声で読んでね)
日本人が増え過ぎた矛盾に目を瞑る事を覚えて既に半世紀が過ぎた。
世俗を巡る肥大した拝金主義は日本人の第二の本性となり、
人々はその欲望のままに、子を産み、育て、そして死んでいった。
西暦20XX年、本州より最も遠い在日米軍基地を消滅させた元凶を奪取した
北鮮工作員ホン・ヨンファは、仲間とともに都内のビルに篭り、
北鮮政府に対し人民武力省リン・ミンギ局長の派遣を要求してきた。
交渉は決裂し、ミンギ局長は物言わぬ生首となって送り返された。
人々は、ヨンファのその行為に恐怖した。

篭城は膠着状態に入り、既に8ヶ月が過ぎていた。

(鈴置洋孝の声で読んでね)
「イージス、わだつみに立つ」

(三石琴乃の声で読んでね)
漆黒の海に向う影。すれ違う男たちの心。
闘いの底にあるのは覚醒への警鐘。それとも復讐心?
父を葬った息子、息子を奪われた父。
巨大な歯車の中で、向き合う牙と楯。
物言わぬ破壊神が死をもたらす時、慟哭の果てで陰謀者の掌は覆る。
全てを燃やし尽す炎を、その絵筆で払え、イージス。

というわけで、ガンダム大好き乱歩賞作家が送る、カッコ良さとキメ台詞に溢れまくった痛快軍事冒険小説。しかも、随所に仕掛けられた逆転の構図に本格推理小説マニアも随喜の涙を流す事必至。こんな面白い小説があっていいのかっ!!と大声をあげながら近所を走りまわった揚句、救急車とパトカーが出動する騒ぎになるほどに面白いっ!!静かな序盤の仕込みから、人の心を揺さ振る仕掛が満載。中盤からクライマックスにかけては、もう涙腺緩みっぱなし。滂沱の涙である。号泣である。なるほど、ラストが甘すぎるという声があるのにも頷けるが、いいじゃん、小説なんだから。とにかく、密室だの、アリバイだの、交換殺人だの、こちゃこちゃしたミステリの仕掛けの全てを無効化するこの力技を見よ!文句なしのスーパードレッドノート級エンタテイメント!三島由紀夫に読ませたかったぜ。


2002年12月8日(日)

◆トラトラトラ。お、またWOWOWで「パール・ハーバー」やっとりますな。この日本の描写が、なんとも、いやはや。
◆朝日新聞の書評欄で見て無性に読みたくなる。私にしては珍しい事にジャンル外の新刊買い。
「あなたはコンピュータを理解してますか?」梅津信幸(技術評論社:帯)1780円
まだ、90頁だけど「猿にも判るような本づくり」の参考にはなるって感じ。
◆ついでに「このミス」を立ち読み。海外の1位は予想通り(読んでないけど)。国内1位も驚きはない(読んでないけど)。とりあえず表紙の柳沢教授が嬉しい。
「幸弘くん、何故、投票締切間際に出版された本がランクインしているのでしょうか?それもこのように分厚い本が、、」
「いやだな〜お義父さん、出版者が投票者にプルーフ本、送ってるからに決まってるじゃないですか。」
「いや、しかし、それでは投票の趣旨から言って不正に当たるのではないでしょうか?」
「このミスの投票結果って、売り上げにモロ響いてきますからねえ。どこも、それぐらいの事、やってるみたいですよ。だいたい、このミスが出た途端に『このミス何位!』って帯が付くじゃないですか。みーんな、経済原則、って事なんじゃないっすか?」
「幸弘くん、君との会話は私にとって驚きの連続です。またしても研究材料が増えました。」
「奈津子〜、また、お義父さんに褒められちゃったよ〜」


◆「蘆屋家の崩壊」津原泰水(集英社)読了
「猿渡と伯爵」シリーズの短篇7作収録。書下ろしアンソロジー収録の2編は既読だが、その他は初見。そうか「小説すばる」が、ホームグラウンドであったか。少女小説から大人向けの小説に転じた作家としては、桐野夏生や岩井志麻子や矢崎存美などの女流陣が目立ち、津原やすみは黒一点。でも岩井志麻子の方がどす黒いような気がしなくもない。この作品集は、連作と呼ぶには、理に落ちない話も多く、いってみれば毎回「奇絶、怪絶、また壮絶」をホラーでやってるようなものである。
綺麗な考えオチの「反曲隧道」、
狐伝説で味付けしたベタなパロディである表題作、
猿渡ものである必然性に欠ける女ストーカーもの「猫背の女」、
異形の蟹づくしの果てに伯爵がメイ探偵に扮する「カルキノス」、
双子の見た地獄編「ケルベロス」、
食虫ホラーの怪作「埋葬虫」、
男の友情溢れる幻想料理譚「水牛群」
いずれも「流麗」と呼ぶに相応しい文体に支えられた切れ味の良いホラーが並ぶ。作中の猿渡と伯爵の交わす会話は、メインプロットの恐怖とは裏腹に、どこかネジの外れた笑いを醸し、黒い味にスパイスを効かせる。三つ選べば、怖さで「猫背の女」、シャープさで「反曲隧道」、友情で「水牛群」かな。


2002年12月7日(土)

◆そうかあ、過去感想やら過去日記を読んで下さる方もいらっしゃったのか。ありがとうございます。
◆一生の間に読切れる保証のない数の本を買ってしまった人間が、昨今の「<本格ミステリに教養は必要か?>論争」について思う事は、そんな論争を書き込んでいる暇があったら、もう1冊本(例えば古典ミステリ)が読めるんじゃねえかって事である。
◆朝の4時に起きて、感想文を4つ仕上げてアップ。お義母さんの誕生日宴会をやるのだ、と掃除に片付け、買い物とバタバタする。夜はたらふくすき焼き食って、したたか酒をちゃんぽんで飲んで、ぐだーっと寝る!購入本0冊。


◆「ミサゴの森」ロバート・ホールドストック(角川書店)読了
世界幻想文学大賞、英国SF協会賞、英国作家協会賞を総ナメにした作品。これは傑作である。参った。今の私には、この作品を語れるだけの教養も語彙も備わっていない。最初に敗北宣言しておく。この作品を愛してやまない人は、以下の駄文を無視するか、「ああ、頭の悪い文章だなあ」と大らかな気持ちで読み飛ばして欲しい。

実際に読んでみるまで、題名のミサゴとは野鳥のミサゴの事だと思っていた。しかし、調べてみるとミサゴは「鶚」という漢字が示す通り猛禽の一種なのだが、浜辺の鳥らしく森には住んでいない。
違うのだ。ミサゴとは「myth(神話)」+「mago(成像)」の合成語であり、「森」が何者かの意識から生み出した存在を意味していたのである。
時は第二次世界大戦後まもない1947年8月。戦地からイングランドの実家・樫の木荘に戻ったスティーヴンは、陽気で壮健だった兄クリスチャンが、新婚生活を匂わせた手紙とは裏腹に、見る影もなく憔悴しているのを見て驚く。それは、丁度、「森」の研究に人生を捧げた揚句、母を病死させ自らも業病に倒れた父の相貌を思わせた。生家には、土の匂いが立ち込め、荒れた生活を忍ばせる。なんと、クリスチャンは父の研究を継ぎ、父が追い求めた伝説の乙女グネヴィスと出逢ったのだと云う。森とグネヴィスに憑かれ、禁断の森の中へと消えていく兄。父と兄の残した記録を調べるうちに、スティーブンもまた、時間を歪め、歴史の襞から無意識を吸い上げ伝説の人々を創り出す森の神秘に惹かれていく。空撮さえ拒もうとする周囲6マイルの森。その浸蝕が匂い立つ美の妖精となってスティーブンの前に現われた時、新たな神話の幕は上がる。歓喜と絶望。死地からの追跡。咆哮するウルスカマグ。ステイツクルブルックの遡行。木と火と土と金と水の相克の中で<語り部>たちは新たなミサゴを 生む。それは外人の記憶。樫が護る狩人の森話(しんわ)。

ここに描かれた「森」は、言ってみれば「ソラリスの海」のようなものであって、そのアイデア自体にSFとしての新規性があるわけではない。しかし、時代設定の妙(丁度、京極作品のように、自然と文明がアナログ的にせめぎ合う第二次世界大戦直後)と、「森」に対する西洋的解釈(畏怖と豊穣の象徴)、それにイングランドの神話と伝承が重層的に絡まって、父と兄と弟が一人の乙女を巡って争うというプロットを支える。
ゴシック小説風の幕開けから、秘境小説の如き交感シーン、そして略奪者の追跡行という英国冒険小説的展開と神話的クライマックス。メタ伝承で幕を閉じるこの作品には様々な「物語」の要素が詰め込まれている。読む人のレベルに応じて、様々な楽しみ方が出来る作品であろう。恐れ入りました。なんと贅沢な物語。文句なしの傑作。読者は選ぶが、タフなメタ小説がお好きな人には絶対おすすめ。


2002年12月6日(金)

◆なんとなく契約を継続してきた@ニフティを、12月13日付けで解約することにする。もともとフォーラムへの参加が目的だったのに、閉鎖されたりネット化が進んだりで、ニフティにいる理由がなくなってしまったのである。ニフティに置いていた「猟奇蔵」はジオ・シティにでも移設することにする。ううむ、しかし12Mのスペースが無料で借りられるのかあ。このサイトごと移しちまいたいなあ。そもそも、過去日記なんて読む人いるのかな?いっそ小林文庫の黒猫荘に寄宿してこのサイトを畳んでしまうという手もありじゃない?どうよ、どうよ。などとあれこれ考える秋の夜長なのであった。
◆国内SFファン度調査。300作品中98作品。うーむ、100に届かず。まあ、海外よりはマシだけど、日本の方が聞いた事のない作家や作品があるんだよなあ。いずれにしても、ここは「SF」系の更新リンクに引っ掛からない「ミステリサイト」だから、いいけどね。
◆ボーナスも一応出たので、買いそびれの月刊誌を購入。
「ミステリマガジン 2003年1月号」(早川書房)840円
「SFマガジン 2003年1月号」(早川書房)890円
HMMは、ローレンス・ブロック特集。すっかり大家扱いである。アリンガムの中編も無事分載終了。これは本にならないんじゃないかなあ?須川さんは今月号からHMMの購入を止めたそうだけど、やっぱり今月号までは買っておかれた方が宜しいのでは?それに引き換えSFMは酷い。なんじゃあ?この中途半端な「シナリオ版ユービック」の紹介は?そりゃあ、HMMの長編分載や一挙掲載即単行本化も全く褒められたものではないが「この続きは単行本でどうぞ」はないだろう?SFJapanやら幻想Mが同じような事をやったからって、SFMまでが「倣えよわが中味、と編集長は逝った」「プライドがねえ博士」「ゾッキ・ボン」「あなうめつくります」しなくていいと思うぞ。「怒りの読者様は神様でございます」になっちゃうんだもんね。


◆「タイムスリップ森鴎外」鯨統一郎(講談社ノベルズ)読了
森鴎外を探偵にフィーチャーした推理作品といえば、言わずと知れた海渡英佑の乱歩賞受賞作「伯林−一八八八年」であるが、今年の鯨統一郎の新作は、なんとその森鴎外を現代の渋谷にタイムスリップさせてしまう「東京−二〇〇二年」なのである。まあSF者からみれば「門外漢がまたやっとる」ぐらいのオボコい時間転移ものではあるが、これがなかなか作者の芸風に嵌まっている。丁度、「九つの殺人メルヘン」で昭和サブカルチャーを引き写してきたように、この作品では、「いまどきの若いもんとその風俗」を描こうと頑張っているのである。こんな話。
大正11年、何者かに命を奪われかけた森鴎外は、80年後の渋谷の街に「跳んだ」。そこで文豪の見た、驚異と退廃の21世紀。オヤジ狩りの洗礼を受け、ジョシコーセーたちに助けられた鴎外は、この世界に身を落ち着け、文明の利器を使いこなし、現代風俗に染まっていく。だが、そこで彼等は大正・昭和の文豪たちに共通する疑惑に行き当たる。忍び寄る魔手。消えていく名作。ポップでラップでタイム・スリップ、死を忘れるな、メメント森。
作者一流の奔放な遊び心に溢れた快作。「タイムトラベラー」の域を出ないSF部分の幼稚さに目をつぶれば、現代風俗に戸惑いながらも、しっかりそれに馴染んでいく鴎外の開明主義者ぶりが微笑ましい。またブンガク的なガジェットはいつもながらの鯨節、更にメイン・プロットの「意外な犯人」のインパクトがこれまた強烈なのだ。やってくれるではないか、鯨統一郎。もしも貴方が心の広い娯楽小説ファンであるなら、一度お試しあれ。


2002年12月5日(木)

◆朝、いぎたなく寝くたれ、またしても日記をさぼる。
◆すべての泰西古典出版計画を影から操る秘密結社の会合に潜入、というのは大嘘で、ROMの編集会議、その実態は「単なる年末お食事会」に参加。場所は、文庫川村の近辺の中華料理屋。ROM氏に須川編集長、小林晋氏、Moriwakiさんに、鎌倉の御前、塚本英司氏、初参加の風見詩織氏にワタクシというメンバー。刷り立てほやほやの116号を頂戴し、乾杯を済ませると、料理に手も付けず早速に117号以降の打ち合わせに突入。真面目である。お腹へったよう。
次号はROM氏+小林氏で非英米系の大陸ミステリ特集の第二弾になる予定。あははは、こりゃあ、逆立ちしても参加できませんな。118号のユーモア・ミステリ特集も既に大枠が見えており、ROM氏は左団扇状態である。30分たって最初の料理が冷め切った頃から漸く宴会モードに入る。というか、お腹がへったので、私が料理を食べ始めただけだ、という噂もある。話題は、
「鮎川哲也師の奥さまから喪中の葉書を頂いた」に始まって
「鮎哲のビデオライブラリーで何が欲しいかって、そりゃあ手書のタイトル部分」「この悪魔!」とか
「古典の翻訳出版多すぎ」とか
「小学館文庫のミステリ、見かけなくなったねえ」とか
「ROM叢書の悪辣な売り方」とか
「アボット出すなら、どれから出す」とか
「同人誌の印刷法」とか
「実は私は『かむ・つー・ぱでんとん・ふぇあ』をダブらせているのだあ」とか
「おお、これが山梨美術館の木々・清張本ですかあ。1500円とは安い」とか
「お前たちの書きそうな事はまるっとお見通しだあ」とか
「クロフツに時刻表推理ってあったっけ?」とか
「ドイツで時刻表を買ってみた。プロ仕様の3巻本で大陸の電車運行がだいたい判る」「戦前と内容が同じだったりして」「うん、国名以外は昔のままとか(爆)」とか、
「アセルスタンは絶対、萌えのファンが付きますぜ。コミケでサークルが3つは出る。もう本のイメージが脳裏に浮かぶんだ」「自分で作れや」とか、
話題が尽きない。もう楽しくて何を喋ったのか覚えておりません。例によって、本の貸し借りも済ませ、私は小林氏にチビーを3冊、風見氏に同人誌推理漫画2冊を貸して、須川氏からアフォードを回収。
んでもって小林氏から1冊頂戴する。
「Broken Boy」John Blackburn(Secker &Warburg)頂き!
ありがとうございますありがとうございます。また来年もよろしくです。ああ、楽しかった。


◆「悪魔のような女」中町信(ケイブンシャ文庫)読了
中町クロニクルの中では比較的初期作品。畸人郷の野村さんの労作である中町信著作リストによれば第12作にあたる青樹社の「殺人病棟の女」の改題作品。勁文社の倒産で、この辺りの本も市場から消えていくわけである。
さて、中町信といえば、趣向を凝らしたプロローグであるが、なんとこの作品は「絡新婦の理」はだし、のっけから犯人と探偵の対決シーンが実名入りで描かれる。思わず「をいをい」である。こんな話。
気まぐれな伯父の遺した10億円の遺産を巡り、彦坂家の三兄弟とその家族との間で繰り広げられる殺しの連鎖。まずは病院を経営する長男・軍一郎が、自室で撲殺され、容疑は入院中の次男・荘次郎の嫁・可奈子に向けられる。状況証拠から、捜査陣が可奈子に迫った時、もう一つの死と「宣告」が彼女の容疑を晴らす。しかし、ひとたび廻り始めた殺人の歯車は、誰にも停める事は出来なかった。花に託された想い。交錯する不倫の構図。血の審判。動機の拡散。果して、遺産相続ゲームの最後に笑うものは誰?
なるほど、初期の中町信は面白い。小説としての厚みには欠けるが、だまし絵のように二転三転するプロットは、お見事。なにせ5人も殺しながら、尚且つフーダニットとホワイダニットの興味を最後まで引っ張るのである。これで、もう少し人物や設定にケレン味があれば、中町マニア以外からも評価が得られたように思うのだが、余りにもあっさりし過ぎなんだよなあ。あと、このベタな改題は何とかして欲しい。土曜ワイド劇場でも、これはないと思うよ。まあ「<白い巨塔>殺人事件〜北からもたらされた巨額の遺産を巡り病院で起きる連続殺人。短歌に託された秘密と哀しい女の性。逆転に次ぐ逆転の推理ドラマ。」ぐらいの事はやるかもしれんが。


2002年12月4日(水)

◆朝から体調不良で、時間ギリギリまで寝る。昨日の日記更新不能。
◆雨の中、明日の会合に向け別宅にタッチ&ゴウ。貸し出し用の本を確保する。ここに来ると「買いたい虫」が治まるんだなあ、これが。


◆「ハリウッド・サーティフィケイト」島田荘司(角川書店)読了
KADOKAWAミステリに1年半連載された力作長編。「龍臥亭」が石岡くんの事件であるように、こちらはレオナ・マツザキさんの事件。一応、御手洗潔も電話で登場して「MITARAI SAGA」に属する作品である事を証明するが、この作品だけを読んだ人(そんな人間はいないと思うが)にとっては、「誰?あのチョイ役」であろう。まあ、富田常雄作品の姿三四郎のようなものですか?
物語は、レオナの同業にして友人のハリウッド女優パティ・クローガーの凌辱スナッフビデオから幕を開ける。自らも標的となる不安を払いながら、全ての尊厳と女性の証を奪われ無惨な死を遂げた友人の敵討ちに乗り出すレオナ。そんなレオナの元に身を寄せる、卵巣と子宮と記憶を失った女ジョアン。ジョアンの過去探しの旅と、レオナの犯人探しの戦いの旅はやがて一人のイギリス人男性イアンへと収束していく。甦る「ケルトの娘」伝説、原人と妖精の醜聞、ポルノと虚飾、闇に蠢く中国人医師、凌辱の連環、埋められた拳銃、切り取られた下腹部、蹂躪される人形、有り得ざるDNA、ここは聖林、夢の都、一つの夢のために数千の夢が朽ち果てていく都、さあ、あなたの証明書(サーティフィケイト)をこちらへ。
終盤ぎりぎりまで、なんとアメリカ風の暴力とセックスとクック・ロビン的陰謀に淫した作品かと、うんざりしながら読み飛ばしていた。メイン・プロットは島田作品を読みなれた者にとってはミエミエであったし、某著名作家を巡るスキャンダルも「常識」の範囲内、まあ連載ものだった御蔭か「アトポス」やら「水晶のミラミッド」のようにサイド・ストーリーに嵌まった揚句、暴走して結局消化不良に終わるという弊はないものの、「早く終わらないかなあ」と思って読んでいた。が、最後の小ネタで島田荘司らしさが爆発。ビックリさせてもらえたので許す。許します。やっぱり「あんたが大将」です。あと、裁判までを書くこだわりが「成る程、最近の島荘らしいや」と思ったら、最後の一文の「引き」にビックリ。ああ早く次のレオナ自身の事件が読んでみたい。


2002年12月3日(火)

◆大阪日帰り。購入本0冊。
◆朝日新聞夕刊で今秋改編のドラマがいずれも苦戦しているという記事を見る。低迷の理由を、拉致問題などで事実の方がドラマよりも強烈なインパクトを与えた事によるなどと分析していたのには笑った。もっともらしい事を思いつく奴はいるものだ。へええ、普段は、作り物にも及ばないつまらない事実を報道されていたんですね、放送局って。
フーダニット翻訳倶楽部に今年度のベストを投稿する。それにしても40冊選ぶというのは力技だよなあ。コメントをつけるのに足掛け一週間掛かってしまった。まあ、あの集まりの中では浮きまくったセレクトになるに違いない。趣味が合うのは、青縁眼鏡さんぐらいでございましょう。


◆「ささらさや」加納朋子(幻冬舎)読了
「ささやさら」ではありません。「ささらさや」です。
「どうぞ、さらでお読みください」とささやかなご忠告。

新刊とばかり思っていたら、もう1年以上前の本であった。どうか私の事を忘れないで、そんな胸キュンが一杯詰まった日常の謎系幽霊推理連作集。

新婚の妻サヤと生まれたばかりの息子ユウスケを遺して交通事故死してしまった歳若いパパ。その親族たちは、今や忘れ形見となってしまった一粒種の親権を狙ってサヤに迫る。サヤは、ユウ坊を抱え、佐々良の亡くなった伯母の家に身を寄せる。その街でサヤが出会った素敵な人々と少しずつの謎。消える遺骨、消える老婆スパイ、消える幽霊、消える届物の中味、消える子供、消える子供、消える子供、そして溢れる言葉。
優しくなければ生きている資格がない。タフでなければ生き返る資格がない。ここには、ちょっとだけ無理をして懸命に生きている人々がいる。みんなが少しずつ素直になれない分、そこに軋みが生じる。それが、ささらさや、という音に浄化されていく。少しずつでいい、私に元気を下さい。こんな私たちを見ていてください。

泣かせる話である。これは新婚さんとしては、極めて痛い話である。作者ご自身の経験談であろうか?だったら慟哭ものである。とまれ、極めてユニークな設定である。日常の謎系の話でありながら、斯くも探偵の登場シーンにワクワクする話があったであろうか?皆が基本的に善人なので、読後感も爽やか。赤ちゃんの出てくる話はこうじゃなくっちゃね。え?怖くないのか、って?まあ、あの可憐なサヤさんが、50年もすれば作中の三婆のようになっていくかと思うと、それはそれで怖いですけど。


2002年12月2日(月)

◆人呼んで「陰のオークショニア」kashibaです。陽のオークショニアは掌を上に向けて煽り、陰のオークショニアは掌を下に向け適正価格に押え込む。ふーーん、いわれみればそんな気もしますな。そして「淫のオークショニア」は客たちの精気を吸い取る!「古本忍法<懐枯らし>」?
◆購入本0冊。


◆「続・垂里冴子のお見合い推理」山口雅也(講談社)読了
名探偵が何故、幾つもの難事件に遭遇するかといえば、探偵の看板を上げていたり、警官であったりするからである。それが職業的な探偵を離れると徐々に不自然さが募る。仕方がないので親族に警察関係者を持ってきたりする。一方、作家としては、奇抜な設定の名探偵を創造する事でオリジナリティーを発揮しようとするため、これまでにも偉人からイルカに至るまで様々な人々や動物が名探偵役を務めてきた。まあ、それが探偵一人に事件が一つであるうちはいいものの、事件が度重なると、むくむくと不自然さが募ってくる。この作品の名探偵もまさに、そのパターン。ごく普通の、やや適齢期を過ぎたお嬢さまが、なぜかお見合いをするたびに殺人事件に巻き込まれるというのは、不自然以外の何物でもない。「そこはそれ」でやり抜いてしまうところが、虚構の魔術師・山口雅也の山口雅也たる所以であろうか。この作品集に収録された4短篇でも、冴子の見合いが契機となって事件が引き起こされる。ああ、不自然な。ああ、面白い。
温泉宿の若旦那とのお見合いを仕組まれた先で、露天風呂に出没する女幽霊の謎を追う「湯煙のごとき事件」
若返りと称して顧客の精気を吸い取るエステサロンの芳香と冴子の妹の危機を描いた「薫は香に似て」
次々と盗まれていく七福神、その動機は受験祈願?それとも?女心の機微と七福神の縁起に迫る「動く七福神」
靴職人がつぶやいた「…コロシだ」という台詞の謎と、悲恋に秘められた符丁に挑む冴子「靴男と象の靴」
いずれもミステリの仕掛けは小味なものだが、とことんフェアプレーに徹した「湯煙」事件とロック・ミュージックを題材にとった「象の靴」が「らしさ」を出している。山口雅也ファンでない人にも御勧めのパンピー向けミステリ。


2002年12月1日(日)

◆師走に突入。そろそろ年間ベストの時期ですのう。皆さん、今年の読了本1位はお決まりですか?
個人的には今年は原書講読に目覚めた1年だったので、さて、そこのところをどう盛り込むかですな。「俺様は原書で読んだんだ」効果でどうしても評点が高くなっちゃうんだよなあ。


◆「ウィッチフォード毒殺事件」Aバークリー(晶文社)読了
今年3冊目のバークリーの新刊。我が国で1年の間にバークリーが3冊も出版されるというのは、おそらく今後ともないのではかなろうか。しかもその全てが初訳なのだから恐れ入る。1971年に創元推理文庫が、それまで全集ものでしか読めなかった「殺意」や「毒チョコ」(あ、新潮文庫はあったんだっけ?)或いはポケミスで絶版状態にあった「試行錯誤」を一挙文庫化した壮挙を遥かに凌駕する大事件である。まあ来年は既に2冊の出版が約束されているようなものなので、もう1作後期の「パニック・パーティー」あたりを訳出してくれれば、今年に並ぶのも夢ではないが、それは出来過ぎというものであろう。創元あたりから短篇集「シェリンガムの事件簿」を編んでしまうというのは一番現実味があったりするけど、どうよ?
最初<「レイトンコートの謎」の作者>による作品として、なおも匿名で上梓されたバークリーの第2長編は、出版時点から30年前に起きた実話を下敷きにした推理譚。「白昼の死角」やら「悪魔が来たりて笛を吹く」あたりを別にすると、余り実話を元にした推理小説には面白いものがない。どうしても週刊誌の実話犯罪録の域をでない印象があるのだが、そこはさすがにバークリー、実に楽しくも饒舌な作品に仕上げている。
年の離れた実業家の夫を砒素で毒殺したとして逮捕・訴追されたフランス人の不倫妻。だが、シェリンガムは、ほんのきまぐれから、かの毒婦の無実を証明しようとする。被害者に砒素を盛る機会があったのは、事業を相続する二人の弟、身持ちの悪い小間使い、隣家の未亡人、妻の不倫相手とその連れ合い。シェリンガムが、レントンコート以来のワトソン役アレックと新たに探偵チームに加わったアレックの従姉の娘シーラとともに捜査に乗り出すや、事件の関係者すべてに機会があり、夫々に動機を抱えていた事が判明する。果して、ドタバタの探索行の果てに探偵チームが辿り着いた驚愕の結末とは?
身の危険を顧みず恋愛をちらつかせて未亡人から話しを引き出したり、被害者の弟たちにアポなしインタビューをかましたり、偽名を使って容疑者の不倫相手に接近したりと、精力的に事件をかぎまわるシェリンガムのお節介ぶりが楽しい。しかも、結末に至るまで容疑者その人には会う事なく終わるというのが、良いではないか。事件の真相は、二枚腰で意外なもの。砒素という毒の特徴を知悉しているつもりの今の読者も思わず虚を衝かれるのではなかろうか。中には、読後、本を壁に叩き付けた人がいるかもしれないが、まあ、この年(1926年)の話題は「アクロイド」に攫われてたからなあ。わたくし的には許容範囲。充分楽しませて頂きました。ごちそうさま。