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2002年11月10日(日)

◆早朝、日記を書きかけたままで二度寝。目覚めて「さあ、続きを書くぞお」とパソコンに向うと何故か電源が落ちており、立ち上げてみてもデータがない。聞けば、奥さんが、暖房機2に、乾燥機1、電子レンジ1を作動させてブレーカーをすっ飛ばしたらしい。トホホ。二日続きのトラブルだよう。午前中は復旧に努めるのに精一杯。なんとなくアップする気力を失う。
人はこうしてサイトを畳んでいくのかもしれないと思ってみたりする。日記をアップしようとするたびに、何かトラブルが起きて上げることができない。焦ったあまりに、逆に過去ログを消してしまったり、パスワードを忘れたりする。常連さんから掲示板に「一体どうしたの?」と書込んでもらってもレスできない。ああ、果して、サイトの運命や如何に!?

「ホームページ&アウェイ」

とかさあ。>結局ネタかい!
◆12時を挟んで、大型ラックの組み立てに精を出す。棚の高さ調整に手間取り、3時間がかりで漸く組み上げ。
◆昼食後は、只管原書を読む。なんとか読了。なんと3週間ぶりの原書。ADSLへの切替えでバタバタしていたり、まとまった時間で大作に挑戦したり積録ビデオの整理にあてたりしていたので、延び延びになってしまった。ROMの編集が終わったので、なんとなく気が抜けていたというのもある。別にROMとは無関係に進めていた原書講読なのに、少々アタマが休みを欲しがった模様。また、読んでいたのがベロウでやや用語法に癖がある(難しい形容詞やら、Hを抜かす訛りやら)ため、手こずっていた。やれやれ。一日一冊の傍らで1年50冊の原書講読は難しくなってきたなあ。
◆夜は、またしても奥さんの実家で、牡蛎三昧の続き。本日はフライヤーで揚げたての牡蠣フライ。これがまた笑っちゃうぐらい美味。ごちそうさまでござりました。
◆掲示板で通りすがりの人から、先週木曜日に読んだ「刻Y卵」の作者・東海洋士氏が既にお亡くなりとの情報を頂く。そうですか、「一発屋」という意味で、<「次」がなさそう>と書いてしまったが、こういう形で的中してしまうと痛いっすね。
「東海洋士」でネット検索を掛けてみると映画「なんとなくクリスタル」の製作者の一角でヒット、更に、あの新井素子を世に送った「奇想天外第1回新人賞」の候補者だった事が判る。応募作「遠雷」は翌年改題されて奇想天外79年3月号に掲載された由。人に歴史あり。訃報のウラは取れなかったが、ここは書込みを素直に信じて、異能の人のご冥福をお祈りする事としよう。その目で、かの処女長編にして遺作を見直すと、文字通り「作者の人生をぶちまけた」小説と言えよう。平成の奇書伝説に自らの夭逝をもって点睛を施した鬼才に合掌。
◆購入本0冊。


◆「The Bishop's Sword」Norman Berrow(Wardlock)Finished
大鴎さんから借りた本。本年36冊目の原書講読。既に「森事典」で相当に詳細な梗概が紹介されており、加えて近日発行のROM116号や来年2月に大鴎さんがサイトを立ち上げる際の目玉レビューになる予定なので、あっさりめの紹介にしておく。とか書いているうちに、この本をなかなか読み終われなかったのは「俺がレビューしないで誰がレビューする!」という使命感の欠如が最大の要因のような気がしてきた。結局「俺って凄い」((C)吉野仁)がサイト更新、無理矢理原書講読の原動力なんだよな。
閑話休題。1948年作品にしてランスロット・カーロス・スミス警部ものの第2作。第1作の「The Three Tiers of Fantasy」に引き続き、この作品も贅沢なまでに消失事件がてんこ盛り。物語の舞台は、丘の上のペンドルビー屋敷。屋敷に住むのは女主人のペンドルビー夫人とその息子エリック、オカルト好きの夫人の妹エミー・フォーブスに使用人たち。女主人の新たなお相手役としてアントニア・メリデューが赴任するところからお話しは始まる。呪いの伝承ごと屋敷に伝わる豪奢な宝剣「主教の剣」がアントニアや、屋敷の近所に弟子たちと越してきたチベット帰りの神秘主義者ストレンジに対して披露される。そして、警備装置に護られた屋敷に怪しい影が忍び寄る。夜半、侵入しては密室から消え失せる謎の人物の正体とは?更に、ある夜、勃発したペンドルビー夫人の真珠盗難事件は、庭師の殺害事件へと発展する。警察はある物証を決め手としてストレンジを逮捕するが、なんと彼は公判の場で、裁判長に対し、自分の幽体が夜中に貴方を訪ねると宣言する。厳重な警戒を嘲笑うように繰り返し実現される幽体の訪問。予言された「主教の剣」の消失。そして衆人環視の中、洞に消える男。謎また謎の展開にスミス警部の悲鳴があがる。「ウィッチンガム警察のスローガンは『私は判りません』か!?」
次々と起きる不可能犯罪にはただ息を呑むばかり。残り50頁をきっても、尚かつ大仕掛けな消失トリックを配するサービス精神には敬服する。というか、この期に及んでこんな事やって、ちゃんと解決できるのかと不安になる。それでも、きちんと合理的な解決をつけたところは称賛に値する。トリックの一つ一つは小ぶりだがコンビネーションの妙で読ませる。ただ、キャラクターの使い方には疑問が残るところ。クリスティーであれば、ストーリーの中心に置き続けるであろうアントニアを、前半3分の1のサスペンスの盛り上げで使い捨て、後は専ら、捜査陣 vs.謎の神秘主義者に焦点を絞るという構成はアントニアに感情移入してきて読んできた読者を困惑させる。更に、真珠の出所で少々凝った修辞を弄するものだから、英語が不自由な筆者なんぞは「一体、自分はどこを読み飛ばしたのか」と不安に駆られ、二度ばかり読み返してしまった。このあたりが不可能犯罪の書き手としては一流でありながら、推理作家としては一部のカルトなマニア以外から忘れ去られている作者の作者たる由縁であろう。不可能犯罪がお好きな人には御勧め。


2002年11月9日(土)

◆夜中に起き出してネットに繋ごうとすると全く繋がる気配がない。ダイヤルアップの頃は我流ながらもそれなりにトラブルシュートのノウハウを積み重ねてきたつもりだったが、ADSLでは何をどうしてよいのやらさっぱり見当がつかない。頭を抱えてながら、「まさかね」と一応確認してみると、なんと電話線そのものが切れていた。携帯からNTTに電話するが、さすがに明方の4時には留守電になっている。しかたがないので日記を書くだけ書いて二度寝。
◆9時にNTTに電話して、11時には修理の人が来てくれる。リレー部分のヒューズが飛んでいたらしい。よく一発で故障個所が判るもんだと感心したら、正直にも「これ問題部品なんで、営業用の専用線には使ってないんですよ」と教えてくれた。うへえ。んなもん、使うな!!
◆金曜日分のアップが遅れたのは以上の理由による。修理の人が来るというので、おお慌てでリビングの片づけを行った結果、午後からは非常にすっきりとした中で読書が出来る。快適、快適、何かしら人が来てくれると家が片付きますのう。
◆夜はイタリア旅行帰りの奥さんのご両親が、わたくしめの誕生祝いも兼ねて生ハムとワインを振る舞ってくれるというので、奥さんとともにケーキを下げていそいそとお呼ばれに預かる。
ワインはバルバレスコとキャンティ、お料理はパルマ産生ハムのメロン添え、豆のサラダ、ポークチャップのトマト・バジルソース、と、まあ、ここまでは所謂想像の範囲内のイタリア料理だったのだが、同じツアーにいた仙台の人が牡蛎を送ってくれたとかで、これをさっと湯がいたものに、素揚げしたナスを合せ、バジルペーストでまとめたお義母さんオリジナル・イタリア料理が絶品。結局、もう一品準備してあったイカ墨パスタに辿りつく前に全員満腹。いやあ、大変美味しゅうございました。ありがとうございますありがとうございます。
◆畸人郷代表の野村氏作成の中町信作品リストを眺めていて、先日買ったケイブンシャ文庫の「悪魔のような女」という長編が見当たらない事に気づく。新発見かしらと、改めて本をひっくり返すと青樹社の「殺人病棟の女」の改題である事が判明する。
なあんだ、そうだったんだ。って、もしかして俺、元版で持ってるかも。トホホ。
◆購入本0冊。


◆「ファウンデーションと混沌」Gベア(早川海外SFシリーズ)読了
3BによるAの補完計画、第2章。ベンフォードの新・銀河帝国興亡史第1エピソードから30年以上が経過した頃の物語。聖典のブリッジエピソード「心理歴史学者」を下敷きに、ファウンデーション建設に向けたハリ・セルダンとその孫娘たちの闘い、新皇帝とチェン公安委員長とシンター顧問官の政争、ロボット狩りと精神感応者狩り、そして人類の来し方と行く末を操る影の暗躍といったエピソードで膨らませた快作。
ベンフォードの「ファウンデーションの危機」が瑣末主義の水脹れ大作であったのに対し、ベアの本作は、実にスリリング。草葉の陰のアジモフが嫉妬しそうな程に、アジモフのエンタテイメント性を再現する事に成功している。なるほど、もしアジモフが、<ロボットと帝国>の設定の中で「心理歴史学者」をリライトすればこうなったであろう、という気がしてくる。
長くアジモフの読者であった人間の涙を誘うロボット絡みの名場面もあり、土壇場で自らが築き上げてきた体系に行き詰まり煩悶するセルダンの姿や、時の旅人でありつづけるRの描かれ方に聖典への限りない尊敬と愛を見るのである。一応は、ベンフォードが起した新設定のシナリオに載せてはいるものの、この面白さは別格。この作品を読むために、我慢してベンフォードの第1作を斜め読みしておく値打ちはある。御勧め。
あと、どうでもいい事なのだが、孤独な女エスパーの逃避行のくだりは、猛烈に「超人ロック」のイメージが被ってしまった。その目でみると色々なキャラクターが聖悠紀の絵柄に見えてくるから不思議である。


2002年11月8日(金)

◆神保町タッチ&ゴウ。なんとなく青空古本市の余韻が残っていていきつけの店の棚も動いているが、とりたててみるべきものはなし。雲行きが怪しかったので各店とも均一棚を片付けており残念な思いをする。@ワンダーで買いそびれていた同人誌を1冊購入。
「Pegana Lost 8号」(西方猫耳教会)1000円
云わずと知れた日本一のロード・ダンセイニ研究誌。昨年末に出たこの号では戯曲を特集。やるなあ。ぱらぱら眺めていると「復刊ドットコムに投票を!」という呼びかけがあった。へえ、ダンセイニの本ってここまで絶滅種だったんだ。出ていて当り前のように思っていたのはとんでもない誤解らしい。まあ、いわれてみればハヤカワFT文庫にちくま文庫だもんなあ。切れてて何の不思議もないわなあ。
◆夜は残業。寄り道なしで帰る。風邪気味だったので早く寝る。
◆朝日新聞夕刊の新刊書評で吉野仁氏が推している「天球の調べ」が無性に気になる。先日、一旦は手にとってはみたのだが、手応えがありすぎそうで棚に戻したんだよなあ。歴史もので、星絡みで、娼婦もののミステリ。ツボなんだよなあ。でも「ジョン・ランプリエールの辞書」とか新刊で買っておきながら未だに積読なんだよなあ。読みたい本を読まずに1日で読めそうな本ばかりを読む、というチョイスは、明らかに本末転倒ですわな。


◆「ロマンス」Eマクベイン(ポケミス)読了
87分署シリーズ47作目。「最後のディナー」ばりに単行本として94年に出版された短篇「87分署のクリスマス」が、後になってシリーズの公式認定を受けてしまったことから、従来46作目にあたっていたこの作品が順送りでシリーズ第47作になってしまった。おまけにポケミス初版の表4の梗概では「警察小説のトップを走る87分署シリーズ、堂々の45作」と誤記されており、一体何がどうなっておるのやら。一巻本として出版されたがために、中短篇が長編扱いされるというのは、クイーンの「神の灯」などでもあった話だが、リアルタイムで「歴史の改編」を拝めるとは思わなかった。人間長生きはするものである。
さて、この話のメイン刑事はバート・クリング。シリーズ開始時から恋に生きるヤサ男の役目を振当てられたクリングは、ある時は死神に彼女を奪われ、またある時は大人の別れを押し付けられる。そんな彼氏が本能の赴くままに惚れた相手は黒人の女医。おお、波乱の予感。こんな話。
新作ミステリ劇「ロマンス」!スーザン・グレンジャー劇場で近日上演決定!その主演女優ミッシェルが、劇の役柄そのままに何者かに襲われ負傷する。自信過剰の脚本家以外の全ての舞台関係者が大コケを予感していた「ロマンス」は一躍マスコミの注目を集める事となる。勿論87分署の優秀な刑事たちは、幸いにも軽傷で済んだミッシェルがにおわす謎のストーカーを追う一方で、「やらせ」の線も抜かりなく追求する。だが、二度目の襲撃は、ミッシェルを確実に聖人のもとへと送り込んだ。22回も刺せば、どんな大根役者でも自分が殺された事に気づこうというものだ。斯くして、肉体関係のあったマネージャー、代役の女優、演出家、脚本家、大当たりの予感にほくそえむ出資者たち、多すぎる容疑者たちに対して、本物の刑事たちのミステリ劇は幕を開ける。主演刑事の「ロマンス」を交えながら。
<女優を主役にしたミステリ劇>の主演女優が殺される、という匣構造の趣向に人種偏見に苛まれる恋人たちの葛藤を絡めて送る円熟作。題名が象徴するように捜査の幕間で様々なカップルの姿が描かれる。刑事たち、被害者たち、そして犯人たち。ミステリとしての構成は、自己パロディの域を出ないが、それをつるつると読ませてしまうところがマクベインの力である。50作目、51作目と主役級の活躍をする(らしい)88分署の一級刑事<でぶのオリー>も中盤以降で顔を出し、刑事役の俳優に稽古をつけたりする一幕も楽しい。黒人対白人という対立軸を、エピソードのそこかしこに配置して、少し社会派にも配慮してみせるが、「寡婦」でキャレラ家を襲った悲劇に比べれば、なあに、ちょっとした箸休めである。あと、欲を申せば、劇中劇のプロットだけでも判るようなサービスが欲しかったところ。まあ、シリーズの水準をクリアした作品であろう。


2002年11月7日(木)

◆真面目に働く。購入本0冊。この二つに特段の因果関係はない。
◆それにしてもソウヤーの作品って、どうしてそのまんまのカタカナ題名なんだろう。そこいらじゅうで評判の新刊も「イリーガル・エイリアン」だしなあ。
たとえばアシモフの「鋼鉄都市」の邦題が「ケイブズ・オブ・スティール」だったり、「裸の太陽」の邦題が「ネイキッド・サン」だったりしたら相当に感じは変わるよなあ。「スティール警部」とか「ずるむけ息子」と思われてしまいませんかそうですか。とにかく昔はきちんと題名を翻訳したものだ。そこに日本人翻訳者の意地ってものがあったんじゃなかろうか。「銀河帝国の興亡」も「ファウンデーション」というと大矢博子さんのように化粧品と勘違いする人だって出てしまうではないか。「ファウンデーションの危機」で危殆に瀕したガビガビお肌は、新サーガ第2作「ファウンデーションと混沌」で更に肌荒れが加速し表面に皹が入り色素も沈着してきてもう大変なんです奥さまてなことになってくる。だが!天才科学者の開発した歴史的新成分配合によってついに第3作で「ファウンデーションの勝利」がもらたされる、てな話に思われてもしょうがない。しょうがなくないですかそうですか。
閑話休題。「イリーガル・エイリアン」をどう翻訳するかだが、田中啓文なら、あっさり「ちょっとふりむいてみただけの違法人」とやっちゃうんだろうなあ、とか、佐々木丸美だったら、これはもう間違いなく私が悪いんですそうなんですでもあなたたちとは違うのです私はおかしくないのです:「罪(つみほしびと)星人」みたいな事になるんだろうなあ、とか、まあいろいろ考えるわけです。
◆おお、青縁眼鏡さんと同じ誕生日だったんだ、俺ってば。


◆「刻Y卵」東海洋士(講談社ノベルス)読了
殆ど情報が与えられていないに等しい作者紹介と尖がった言葉の羅列である梗概。読み方すら判らない題名に、思わせぶりの装画。出版された時点から不思議な本だなあ、と思っていたが、実は読み終わってみてもその感想は深まるばかり。奇書である。竹本健治の詳細な(文字通りの)解説がついていなければ、まさに物語の混沌の中に抛っぽり出されたままで終わった事であろう。とりあえず、作者は、竹本健治と高校時代同窓で、あの早熟の天才をして「敵わない」と思わせた詩人であったらしい。その後、映画に耽溺し、映画界・テレビ界を転々とし、今も昔も滅亡的酒飲みであるのだそうな。なるほど。
物語は過去と現在が交互に描かれる。読者は江戸初期の島原の乱の成り立ちからその滅びに至る過程を詳細に学び、同時に天草四郎が残したといわれるオーパーツ<刻卵>の謎を解こうとする癖のある(作者の分身である)中年男たちの探索に付合わされる。韜晦な修辞、氾濫する蘊蓄、交錯する虚実、強靭なる清楚、死に至る信心、友情の果てに見た蒼天。そして時間は動き出す。
とりあえず推理小説でない事だけは、はっきりしている。一応、コンゲーム風のくだりもあって、ミステリの読者もそれなりに楽しむ事は出来るし、その他にも歴史趣味、残虐趣味、怪奇趣味を満たす展開があるものの、根っこのところで、この作品は読者を選ぶ「ふしぎ文学」である。はじめから「奇書」を狙った奇書とでもいうのか。それでもあざとさを感じさせないのは、私小説的な赤裸々さの功績か。「次」がない事を予見させる怪作。変な小説が好きな人はどうぞ。


2002年11月6日(水)

◆誕生日なので、とっとと帰る。奥さんから誕生日のプレゼントに、見てくれがよくて丈夫そうな手提げ鞄を貰う。休日のお出かけの際にいつも適当な紙袋を持って出ていたのを見かねての選択らしい。ちょっと嬉しかったりして。
◆昨日買った「ミサゴの森」を検索してみると、どうやらまだ文庫落ちはしていない模様。少し胸をなで下ろす。べた褒めの山岸真解説に翻訳状況が紹介されていて、サンリオSF文庫2冊、新潮文庫で「エメラルド・フォレスト」のノヴェライズが1冊、更に創元から出ていたアクション伝奇シリーズの「ナイトハンター」全6巻もこの人の作品とか。へええ、多彩なもんだ。それにしても「ミサゴの森」という題名をどこでみかけたのかな?と思ってネット検索してみると、どうやらマクドナルドの「黎明の王 白昼の女王」の解説であるような気がしてきた。「森」を舞台にしたファンタジーを語る際に避けて通れない作品みたいですな。こりゃあじっくり腰を据えて読んでみようかな。
◆「天才柳沢教授の生活」リアルタイム視聴。今回は教授の愛書家ぶりが心に沁みる一編。ええ話やなあ。本好きにはコタえられない名セリフも炸裂。貴方は、何度も読み返した自分の一番大事な本を、喜んで人に譲る事ができますか?私は凡人なので、とても教授のようには出来まへん。まだ煩悩の固まりだす。
◆牧人さんのサイトが一ヶ月の事実上の空白の後、一時更新停止宣言。まあ、今は人生の上でも大事な時期でしょうから、ここは一番悔いのないよう実生活に全力投球してください。
世の中には、雨が降ろうと槍が降ろうとパソコンがハードクラッシュしようと毎日更新を欠かさず、夫やら親との角逐を乗り越えイベントに参加しては、詳細なレポートを上げ、果ては入院している時にまでパソコンをこっそり持ち込んで闘病記を綴る安田ママさんのような「PC母神」もいらっしゃいますが、そういう人は稀です。というか私の知ってる限りではママさんぐらいです(祝60万アクセス!)。
どうぞ、サイトの名称のような「楽天的日常」が戻ってきたら、再臨してくだされ。


◆「鬼の探偵小説」田中啓文(講談社ノベルス)読了
メフィストに連載された3編にボーナストラック1編を収録したユニークな猟奇探偵譚。我が国では乱歩の時代より、探偵小説マニアの事を「鬼」と呼ぶ習わしがあるが、この作品ではなんと本物の「鬼」が探偵役を務める。まあ、恐竜が探偵を務める昨今、誰が探偵をやっても驚きはしないが、「これが本当の<鬼刑事>!」と開き直られると、ははあ、と恐れ入るしかない。また、作者のデビューが鮎川哲也編「本格推理」であったという笑劇の、もとい衝撃の事実にも驚かされた。で、中味の方は、鬼刑事とアメリカ帰りの陰陽師上司というトンデモコンビに、行きつけの店「スナック女郎蜘蛛」のママとバーテンと老客というレギュラー陣を配し、尋常ならざる事件にそれぞれ表の解決と裏の解決をつけてみせるというもの。シリーズ第1作が、動機に工夫があるとはいえ単純な猟奇殺人事件だったので、先行き不安を感じたが、2作目以降は、それぞれに不可能趣味を織り込み、推理小説ファンも満足させる出来映えに仕上がっている。鮎川哲也先生にゴメンナサイしなくてすみそうかな?以下、ミニコメ。
「鬼と呼ばれた男」シリーズ開幕編。次々と目玉を刳り貫かれ左右逆に入れ替えられた死体たち。ミッシングリンクを求めて刑事・鬼丸は夜に舞う。惨殺に纏わるホワイダニットがいかにもこの作者らしいが、本格推理ではない。香山滋へのオマージュかもしれない。だとしたら、香山先生ゴメンナサイ。
「女神が殺した」空を飛ぶ死体。内蔵を持ち去る黒いバン。新興宗教の教祖に仕立て上げられた女子高生。降霊の儀式に仕組まれた欺瞞と密室で刺殺された潜入記者の謎に挑む若者と鬼と陰陽師。猟奇性と合理性が見事に組み合わさった快作。カルトの手口をまんまと密室トリックに応用し、成功している。また解決の二重底も高得点。これは年間ベスト級の本格推理。
「蜘蛛の絨毯」蜘蛛屋敷の四女の死。脅迫の果ての引きこもりと、蜘蛛の巣が封じる密室。現場に残された蜘蛛の二文字が語る真実とは?神話を下敷きに、密室やらアリバイやらダイイングメッセージやらミステリのコードてんこ盛りの一編。奇矯な一族の歪んだ欲望に戦慄する。脱力系の地口炸裂という点ではいかにも「汝の正体みたり」である。京極夏彦へのオマージュかもしれない。だとしたら、京極先生ゴメンナサイ。
「犬の首」土中から首だけを出した犬を惨殺する影。一夜にして即身仏と成り果てた因業住職は、その夜何をみたのか?謎の連続盗難事件も絡めながら、短めながらも、シャープな印象を残す書下ろし作品。謎の解法が過不足なく、更に「裏解決」の裁きも御見事。


2002年11月5日(火)

◆特別休日。朝から日記をのんびりと書いて、ビデオの整理をして過ごす。
◆昼から定点観測。
「お前が悪い!」火浦功(角川文庫)100円
「歪んだ朝」西村京太郎(角川文庫)100円
「イミューン」青木和(徳間デュアル文庫)100円
「厄落し」瀬川ことび(角川ホラー文庫)100円
「悪魔のような女」中町信(ケイブンシャ文庫)100円
「ダイナマイト・パーティーへの招待」Pラヴゼイ(ハヤカワミステリ文庫)100円
「パンプルムース氏のおすすめ料理」Mボンド(創元推理文庫)100円
「ミサゴの森」Rホールドストック(角川書店:帯)1250円
「鬼の探偵小説」田中啓文(講談社ノベルズ)280円
「殺しのコスト」Mジェボンズ+長尾史郎(ハーベスト社:帯・署名)400円
d「剣と魔法の物語」R・E・ハワード(ソノラマ海外文庫:帯)60円
d「魔法王国」C・A・スミス(ソノラマ海外文庫:帯)60円
ブックオフで読むための本を拾っていたら、ホールドストックの「ミサゴの森」に半額コーナーで出くわす。どこかで聞いたような題名、世界幻想文学大賞、英国SF協会賞、英国作家大賞受賞作。ううむ、どうも文庫化されているような気がしなくもなかったが、帯もついていたので「清水の舞台から飛び降りた」気になって拾ってみる。なんとも低い清水の舞台である。もう一軒、定点観測したところ、みた事もない出版社から出ている聞いた事もない作者のミステリに遭遇。なんでも「経済学殺人事件」の作者の本らしい。へえ。しかも日本人の共著者のサインが入っていた。為書き付きなので、市場価値は低そう。今日のプチ血風は、いわずとしれたソノラマ海外の2冊。ややヨレ気味だけど、帯付きでこの値段は嬉しいっすね。ダブリだけど。
ああ、本を買った日は日記が楽だ。


◆「厄落とし」瀬川ことび(角川ホラー文庫)読了
爽やか青春ホラー作家の第二作品集。この新鮮な持ち味は、一見誰にでも真似が出来そうで、その実、やってみると意外に続かないという「星新一」的境地なのかもしれない。一般的に恐怖と笑いは背中合わせになった感情といわれるが、この作者のふんわりした笑いはどこから来るのだろうか?
表題作だって、怖く描こうとすれば「リング」のクライマックス並みにおぞましい御茶漬海苔的情景がこの作者の手にかかると、パステル調のアニメ絵の世界になってしまうのである。
「戦慄の湯煙慕情」も、もし高橋克彦の手にかかれば「雪どまり」のような背筋も凍る惨劇の世界に突入するところ、Hanako的ゴーゴー秘湯めぐりのノリで最後まで突っ走ってしまう。
「テディMYラブ」ではサイコホラーな<虐殺シーン>を盛り上げたかと思えば、それをあっさり夫婦の日常に封じ込め、ほのぼのさせてみせる。
この中で、意外に正統派怪談なのは、最もホラー的な要素が少ない「形見分け」だったりする。因縁と諦念がもたらす「家」の呪縛をさらりとした筆致で描き出す腕前は、この作者の真の力量を思わせて吉。いつも冗談ばかり言って回りを盛り上げている道化役が、ふっと真面目な顔をしてみせた、そんな作品だ。
残る一編「初心者のための能楽鑑賞」は読んで字の通りの作品。能楽の初歩がとても判りやすく書かれていて勉強になる。これも「取り込まれ」がテーマなのだが、少女漫画的御都合主義がとても爽やかな作品である。
リーダビリティーの高さはいうまでもなく、日頃本を読まない学生には、先ずこの辺りから薦めてみてはどうだろう?


2002年11月4日(月)

◆ADSLへの道3:Muddler on the Outlook Express
(前回でやめるつもりだったんだけど、よしださんに受けたので続けてみましょう。)

ADSLの開通により、これまで見にいくたびにフリーズさせられていた未読王購書日記もサクサクと読めるようになる。さながら星ふる腕輪をつけた拳法家のように、アジリティーは上がりっぱなし。
「わっはっは快調、快調。これでADSLはマスターしたぞお」と増長していたところ、思わぬ陥穽が!
ネットサーフにも飽きて、メールでも確認しておきましょうと、Outlook Express を起動させたところ、何故かダイヤルアップ接続しようとしては失敗する。うへえ、なんだよう、これ?
「もう、お前はLAN接続なんだよ。なんでダイヤルアップしようとするの?およし、およしってば、ああ、もう、この子は聞き分けのない。きいいいっ!」
ひ弱な心は、たちまち最悪のケースを頭の中でシミュレーションする。
このまま、メールを受け取れず、差し出せずの状態が続く。
まあ、最近はウィルスメールにダイレクトメールが殆どだから影響ないか?
あ、やべえ、本の雑誌の校正とかどうすんだ?
ファックスで送ろうにも、うちのパソコンって、プリンターとも接続されていないんだもんなあ、
フロッピーにいれて会社に持っていってこっそり印字したりするのだろうか?
ああ、困った、困った、どうしよう、
というわけで、おっかなびっくりでメーラーの設定を弄くりだす。
ううむ、ここに認証アドレスをいれるのか?ちがいますかそうですか。
そもそもダイヤル接続という設定をなんとかしなきゃいけないんだよなあ?
こっちか?ちがいますかそうですか。
「ちがいますかそうですか」を繰り返す事、半時間。なんとかメーラーの設定をLANに替える事に成功する。とんでもない勢いで溜まったメールを読み込んでいく「アウトルック急行」。
「ふっふっふ、これでADSLマスターだぜ。」
小さくガッツポーズを作るワタクシ。

だが、その過程で小さな疑惑が頭をもたげていた。
「ニフティとの接続はどうなるんじゃあ?」
次回「ADSLへの道 IV:複数ISPの罠」にセットアッパー!!(大嘘。でも、ちょっと本当)

◆昨日、別宅に寄った際に回収したSRマンスリーとQUEENDOMの最新号を斜め読み。
◆SRマンスリー324号は「緊急追悼特集、鮎川哲也氏逝く」。
こう云っては失礼かもしれないがSRマンスリーらしからぬ時宜を得た企画。やはり、SRの会員にとって鮎川哲也という探偵作家は超別格であるという証左だろうか。プロ、アマ問わずSRの重鎮達の追悼文もそれぞれに思いのこもったものであり、充実した内容の1冊。しかし、竹下会長の際もそうだったが、追悼号が他の特集に比べて抜きんでた号になるというのは、なんですな、会の有り様を象徴しているかのようで、、、怪の会の解散がカウントダウンに入っている今、SRは果してどのように続くのであろうか?
◆QUEENDOM66号は「第八の日」特集の3回目。毎度の事ではあるが、よくもあのつまらん作品で130頁超の同人誌の特集を支えられるものである。斉藤代表の馬力というべきか。
その他にも天城一の「神の灯」論やら山沢晴雄の「国名シリーズ」論(連載第1回)だけでも、凡百の同人誌10冊分の読み応えと申し上げても過言ではない。また、クイーンの定員でシムノンの「13の罪人」(「猶太人ジリウク」ですな)を特集しているのも、シムノンファンとしては嬉しいところ。あと京大ミステリ研の薗田クンの「Zの悲劇」論も、切り口がユニークで一読の価値あり。やはり、全体的には傑出した同人誌と云ってよかろう。また、今年に入ってサイトの更新がとまっている「Queen's Palace」のY.K氏が本名で翻訳を担当されていたりする。御元気ですかあ?
尚、来年は「中途の家」を一年かけて特集する由。久々にまともなパズラーが特集に来た気がするのは私だけか?此の辺の作品も、中坊の頃の初読以来一度も読んでいないので再読するともの凄く面白く感じちゃうんだろうなあ。
◆昼は読書三昧。夜は「ホーム&アウェー」を第4話にして初めて視聴してみる。まずは軽快なコメディー。可もなし不可もなしかなあ。引き続き「ナイトホスピタル」の第4話を見る。今回は、如何に減量しても痩せない少女漫画家の話。毎回よくもこんな奇病ばかり探してくるもんだ。減量の辛さは身に沁みて分かっているのでデブの叫びに共感する事しきり。まあ、オチは見え見えだったけどさあ。


◆「ファウンデーションの危機」Gベンフォード(早川海外SFシリーズ)読了
アイザック・アジモフ亡き後、ベンフォード、ベア、ブリンという現代ハードSF界を代表する新たなる「3B」が書き継いだ「新・銀河帝国興亡史」。果して「新・銀河帝国の弘法大師も筆の誤り」になってやしないか?Bを幾つ並べようとも所詮Aには敵わないのではなかろうか?と思い、これまで手に取って来なかった。まあ、そもそも二段組のハードカバーで3巻1400頁の大河小説を「一日一冊男」が読めよう筈もない。が、たまたま連休の頭に図書館で3巻揃って並んでいたので、発作的に借りてみた。
ベンフォードといえば、「夜の大海の中で」「もしも星が神ならば」といった虚空の広がりを感じさせる無機質なハードSFのイメージと「タイム・スケープ」のこせこせとした人間ドラマのイメージがどうも頭の中で一致しない作家なのであるが、この600頁の本歌取りも、聖典への思い入れや、アシモフへの挑戦という気負いばかりが先に立ってしまい、非常にノリの悪い作品に仕上がっている。
時代的には「ファンデーションの誕生」の第1章と第2章の間に位置し、人類社会を見守る影の目論見通り、皇帝の勘違いとも云える決断によって首相就任を目前に控えた天才数学者ハリ・セルダンが主人公を務める。セルダンが主人公を務めるのは、新サーガ3作共通だが、この作品は、新サーガに通底する新たなる謎の仕込みを行うために最も若い時代のセルダンを描き、なぜ天才とはいえ数学バカであった彼が、エンサイクロペディア・ギャラクティカで神格化されるほどの政治的手腕を発揮できたか、という謎に対する答を補強している。
ハリ・セルダンは時の人であった。皇帝クレオン1世により首相に推薦された男はただ銀河帝国衰退に歯止めを掛ける心理歴史学の完成を急いでいた。だが、首相の座を狙う腐敗政治家から命を狙われ、弟子や最愛のパートナーまでが、暴力や陰謀の楯にされてしまう。一方、辺境惑星サークの遺跡から発掘された二体の模造人格ヴォルテールとジャンヌ・ダルクは「人為技術工産協会」の手によって目覚めの時を迎えていた。<からくり>の心の在処を巡り対立する<恩寵派>と<懐疑派>の公開討論の道具としてチューンナップされていく過程で、覚醒を担当した男女技術者の葛藤を補完され、増殖していく二人。そして運命の日に、カップルたちの逃亡は始まる。生の獣愛に融合する心。銀河を駆ける刺客。電網に潜み、鍛えあう心。渦巻く影。銀河帝国を不穏が包み、巨大なサイバースペースに1万年の怨念が巣食う。果してRの決断は?セルダンの未来予知は?権謀が術数を招き、暗殺は虐殺を加速する。いまだ、ファウンデーション誕生前夜、恐怖はそこにあった。
ベンフォードの作品にしてはもの凄く面白い。が、銀河帝国興亡史としては恐ろしく冗長で退屈な大長編。新シリーズのリーダーとして自負が、作者をして最新科学による聖典の補完に走らせ、瑣末への気配りが空回りしてしまっている。特に二つの模造人格の書き込みは尋常ではない。これだけで通常のハードSFが一本書けてしまう入れ込みよう。「それは判ったから早くメインプロットを転がしてくれえ」と、どれだけイライラした事か。また、パニュコピアという原始惑星での交感シーンも不必要に長い。成る程、読み終わってみると、それなりに複雑にして千手観音の如きセルダン伝説の形成に1つの答を与えるものにはなっているのだが、ここまでの書込みは、はっきり言って物語りの妨げ以外の何物でもない。重厚長大主義が生んだ脆弱な巨大児。草葉の陰でアシモフが赤鉛筆もって苦笑いしてそうである。ベンフォードが好きで、ファンデーションをもっと読みたい人はどうぞ。


2002年11月3日(日)

◆「ADSLへの道」(承前)
一晩悶々とした結果、どうやらパソコンがカードを認識してくれないのは、このパソコンのカードスロットがCard Busモードとやらに対応していないからではなかろうか?という推論に達する。取扱説明書一式は、別宅においたままなので、Panasonic のサイトでカタログをこじ開ける。定格を見ていくと、
あっれー、ちゃんとCard Bus対応とか書いてあるではないか。
ぐはあ。またしても袋小路に入ってしまった。
これはもう昨日買ってしまったカードは諦めて、ハードメーカーの方からカードをご推奨してもらうべえと、朝の9時過ぎにPanasonic のトラブルシューティングが開くなり電話してみる。日曜日の朝早くから女性が出てきて驚くが、症状を説明すると直ぐに「まず、パソコンカードの設定をCard Busモードに切り替えてみて頂けませんか?」と答えが返ってくる。
へ?このCard Busモードって切り替えなきゃいけないの?うへえ。とまれ、昨晩からの試行錯誤の中では、最も核心っぽい助言のような気がしたので一安心。
というわけで、お出かけのついでに別宅へ行って、取扱説明書を発掘する。早速、指定されたページを読んでみると、ちゃんと手順が書いてある!!(>当り前。でもこの当り前が、無為な試行錯誤9時間の後だと、とても嬉しいのである)。よっしゃあ、後はこの手順でやれば、いいわけね、と喜んだのもつかの間、
「あらかじめ作成した『ユーティリティーディスク3』をフロッピーディスクドライブにいれ」
というくだりでつまづく。
「あらかじめ作成した『ユーティリティーディスク3』」??なんやねん、それ??
アタマから取扱説明書を熟読していくと、どうやら、4年前に今のパソコンを買ってすぐコピーしたフロッピーの事らしい。斯くして、今度は家捜しが始まる。数十分格闘し、ディスクを掘り出す。
ああ、これが伝説の「ユーティリティーディスク3」か!!後は、4年の間にイカレてないかを祈るばかりである。その前に、本宅の方でFDDをどこにしまってあるかが問題だったりして。
なんだか、探索の終章で、旅立ちの街に戻され、自宅の隠れ地下室で最後の鍵を発見したパーティーのような気がしてきた。とりあえず、復活の呪文をとっておこう。
「くめこけさば すふれをぱの ぶずねけめぢ ぱおばんしね へもぜぺ」
特に意味はないので、解読したりしないように。
◆取扱説明書だの、ディスク一式だのを鞄につめこみ、本日のメインイベントである高校の同窓会に向う。前回の東京開催以来15年ぶりとのこと。はっきりいって同窓生とは仕事の愚痴にしかならないであろう事が予想されたので、今ひとつ気乗りがしなかったのだが、今回を外すと恩師の元気な姿を見損なう可能性が高く、泣く泣く大枚120ブックオフを払って出席する。ああ、これだけあれば、あんな本や、あんな本や、あんな本も買えるのに、しくしく。
中味は、まあ、いわゆる同窓会。みんな、良く言えば「社会を実際に動かしている働き盛り層」、一言でいえば「只のオヤジ」になってます、はい。昔から「オヤジ」といわれていた人間ほど若く見えるのが可笑しい。
風の噂に自分達の学年が創った「推理小説同好会」が潰れているとは聞いていたが、実際に顧問をやって頂いた恩師から話を伺って少し寂しい思いをする。
◆二次会には参加せず、とっとと帰宅して、最後のアイテム・フロッピーディスクドライブを発掘する。積録してあった先々週の「ガンダムSEED」を流しながら、PCの設定。おっかなびっくりであったが、ここからは実にサクサクと進む。Card Busモードに切り替えた途端、パソコンがカードを認識し、昨晩記憶する程に読み込んだ手順が次々と進んでいく。ガンダムSEED一話分で、無事設定完了。
「いきまーす!」というガンダム・パイロットの掛け声とともに、接続してみれば、ああ、そこにはADSLの世界が!!
「は、速い!!」

というわけで、まだ、このサイトは続くようです。


◆「笑ってジグソー、殺してパズル」平石貴樹(創元推理文庫)読了
<こんなものも読んでいなかったのか?>シリーズ。それこそ、初刊当時にちゃんと単行本を新刊書店で買ってあった筈なのだが、着々と20年ものの積読と化しつつあった作品。当時から評判もそこそこに良かったのだが、個人的に最もミステリから離れていた時期だったので、読み時を失っていた。その後も「東大の先生でもある純文学作家の手すさび」という予断が邪魔していたのだが、今回、初読してその純粋パズラーぶりに驚いた。なんだよ、日本にもこんな筋のいいパズラーの書き手がいたんじゃないかあ。ここは素直に自分の不明を反省する次第。
美少女名探偵・更科ニッキ初登場。弱冠21歳にしてアメリカ帰りの法務省特別捜査官が挑むのは、企業コンツェルン「興津グループ」の創業者一族の連続殺人。国際ジグソーパズル連盟日本支部長も務めるグループの女総帥・興津華子が、邸宅の自室で刃物を突き立てられた死体となって発見される。異業種進出に野心を燃やす入り婿の夫、血の繋がらぬ三姉妹とコンツェルンを支える夫たち、俗物の役員、とぼけた骨董商、癖のある使用人たち。容疑者たちの分刻みのアリバイが検証される中、「動機ばかり探してちゃだめですよ」とばかりに、独自の推論を組み立てるニッキ。だが、現場にも、邸宅内にも有り余るピースの中で、真相に至るピースはまだ不足していた。やがて起きる第二、第三の惨劇。しかも、三人目の被害者は完全な密室の中で息絶えていたのであった!立ちはだかる国旗の不在証明。散在するジグソー。封印された疑心。読者よ、全てのピースは与えられた!
邸宅や事件現場の見取り図、複雑な女系一族の系図などを挿入しながら、関係者のアリバイを丁寧に追い、密室殺人までオマケにつける。黄金期を思わせる歪な遺言状に社会派的産業犯罪という動機の演出。更に全編を彩るジグソーパズルがレッドヘリングにもトリックにも心理分析のツールにもなるという念の入りよう。そして、いかにも軽快で少女漫画的造型の名探偵に「読者への挑戦」。良質のパズラーとはこういう作品を言うのである。余分な修飾を削ぎ落とした文体も心地よいが、余りの読みやすさに物語の余韻がややあっさりしたものになってしまったのは残念。しかし解決編の分厚さは質・量ともに、黄金期の諸作に決してひけを取る物ではない。これは日本のミステリを100作選ぶ際には、必ずカウントすべき作品であるように思う。とっとと、他の作品も読んでみなくっちゃ。


2002年11月2日(土)

◆近所の図書館に行って、また山ほど本を借りてくる。
◆ADSLの設定準備で、インターネット・エクスプローラーの5.5をダウンロード。1時間かかる。続いて、本日買い求めたLANカードのセットアップしようとするが、何をやってもコンピューターがカードを認識しない。この間、約7時間。完全にぶちきれる。既に、NTT側でADSLの工事は終わっており、ダイヤルアップ接続が可能な日取りも残り僅か。サイト更新が不可能になる日も近い。パソコンなんて所詮素人が云々できる電気製品じゃないって事を改めて思いしらされた。もう厭だ。


◆「見なれぬ顔」日影丈吉(国書刊行会)読了
「日影丈吉全集1」の最大の売り物。この作品欲しさに万札を切った人も多かろう。初出は「探偵倶楽部」昭和32年2月〜9月号。その後、著者初めての単行本として和同出版社から出版され、その2年後に小説刊行社から出されたらしい。が、以降、現在に至るまで再刊されなかった「幻の作品」。私の如きぬるい渉猟ではかすりもせず、古書展でもカタログでもまさしく「見なれぬ書」。というわけで、期待半分と不安半分で読み進んでみた。結果、はっきり申し上げて、見られたものではない通俗探偵小説である事がよくわかった。
日本が漸く戦争の傷から癒え始めた頃、失職中の元公務員・加東志麻夫を乗せた列車は東へと向っていた。たまたま隣に座った会社役員の不自然な死、そして彼の残した一通の紹介状が、加東の運命を大きく変える。偽造した紹介状を元に、映画会社の部長に納まった加東は、奇しくも戦前彼が爛れた関係を持っていた女性・紅子と再会し、寄りを戻す事になる。だが、裸のビーナスには危険の香が立ち込めていた。縺れ合う色欲と物欲。赤い情熱と清冽な雪。毒薬と銃声。果して、アプレな愛の行き先に待つものは?見なれぬ顔は見なれぬが故に忘られぬ。
冒頭から偶然と御都合主義が炸裂し、アプレゲールな官能が爆走する。登場人物たちの行動は誰も彼も行き当たりばったりで、殺人に纏わる推理も、あて推量の域を出るものではない。杉警部という探偵役も登場して、最後には意外な犯人を指摘してみせるのではあるが、動機は支離滅裂、犯行は大胆不敵、これを論理的に指摘せよという方が無理である。「内部の真実」と同じ作者の手になるとはとても信じられない通俗の嵐。なるほど、これは長らく絶版だったのもむべなるかな。日影丈吉完全読破を目指す人だけが読めばいい作品であろう。


2002年11月1日(金)

◆午前中大阪にて会議。午後、1時間だけ大阪駅前第3ビルとカッパ横丁を流して帰京。1冊だけ拾う。
「SFX−CM大図鑑」(講談社X文庫)300円
縁のなかった本。まあ、読み物的な面白さがあるわけではないのだが。この値段であれば「買い」でしょう。
◆新幹線の中では爆睡。絶好の読書タイムでありながら、どうしても座ると眠ってしまう。といって3時間立って読むのもなあ。
◆帰宅すると、須川さんからROM116号の版下コピーが到着していた。うーん、いい感じ。相変わらずMK氏のショートレビュー20連発は凄いですのう。


◆「逃げる」Eマクベイン(ポケミス)読了
巨匠であるが故にまとめられた拾遺集。更に、既に「ジャングル・キッド」「歩道に血を流して」に収録されている4編を除いたものだから、今時珍しい170頁の薄いポケミスになってしまった。それでも1000円するんだもんなあ。「犬嫌い」と合わせて1500円で出してくれと云いたくもなる。中味は、純然たる犯罪の香りのするものは巻頭の「インタビュー」と巻末の「逃げる」ぐらいで、後はSFショートショートが2編と普通小説が3編。しかも内3編は未発表作、つまり出来の悪い没原稿。うーん、ポケミスは揃えているだけに、とりあえず買いはするけれど、思わずその決意を曇らせる志の低い出版物である。
大家と呼ばれる映画監督へのインタビューのみで、一石二鳥の犯罪計画を匂わせる「インタビュー」
天候不順で足止めを食った空港で出会ってしまった因縁の男と女。過去の疵と笑うには余りにも居心地の悪い状況で、明かされる真実の「すれちがい」
折々の人種偏見の葛藤を、タクシーという閉空間にシャープに切り取った「あいのり」
やや倦怠気味の夫婦の聞いた熱愛の囁きとその正体「隣室のふたり」
貞淑で従順な妻が、夫の裏切りを目撃した時、若いメイドの不運に自己を投影する「被害者」
我々は孤独ではない。SETIに答えた隣人の正体「知ッテイル」
マフィアのボスに喧嘩を売ってしまった男がフランス人の未亡人との逃避行で燃え上がり、そして燃え尽きる「逃げる」
さすがに巻頭と巻末の二編は読ませるが、全体的にはミステリを読んだという満足感は得られない。実は、個人的には没になった「被害者」が一番面白かったりするものだから、余計始末に悪い。まあ、ポケミス完集を目指す人が買って、エドマク完全読破を目指す人が読めばいい本であろう。